"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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急性単関節炎|①鑑別疾患と原因ごとの頻度

急性単関節炎

~①鑑別疾患原因ごとの頻度

 

 

<目次>

 

 今回も興味本位のテーマです。例えば、感染性心内膜炎(IE)のようなときに「発熱+関節痛」に遭遇したら、「化膿性関節炎?それとも結晶性関節炎(偽痛風痛風)?」のような悩みが生じたことはないでしょうか。

 もちろん教科書やガイドライン、二次文献でチェックして欲しいのですが、化膿性関節炎と痛風の所見にはこんな尤度比スコアリングがあるということを紹介する好奇心優先の記事になります。今回は痛風と化膿性関節炎に注目するまでの部分が中心となります。

(注)申し訳ございませんが、今回は導入部分になります。時間の都合で2回に分けての配信になります。

 

 

 

1.急性単関節炎鑑別

 関節痛をみたら、発熱+関節痛のように症状を組合わせたり、関節か⇆関節以外かの部位の特定をしたり、さらには関節炎でも急性⇆慢性単関節炎⇆多関節炎(多発性関節炎)で分類したりして少しずつ候補を絞っていくと思います。

 急性単関節炎の原因が痛風と化膿性関節炎だけということはありませんが、早期閉鎖・忘れ防止のために、まずは急性単関節炎鑑別疾患についておさらいしておきたいと思います。

 

鑑別診断

  • 単一の関節炎で最も頻度の高い鑑別診断は痛風や偽痛風などの結晶性関節炎である。

急性単関節炎の鑑別診断

(出典)青木眞, レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版, 医学書院, 2020, 951-952.

 

 急性単関節炎の原因の中でも、梅毒(Charcot関節)ライム病のような一部の感染症ハイドロキシアパタイトミルウォーキー肩症候群)のような一部の結晶関連、凝固障害色素性柔毛結節性滑膜炎のような関節血症、腫瘍のあたりは想起できなかった人もいるのではないでしょうか。

 膠原病関連の関節リウマチ、SLE、脊椎関節症では慢性関節炎初期の段階を見ている可能性もあります。そうであれば、様々な症状や所見が経過とともに揃ったり、慢性多関節炎になったりする可能性もあるでしょう。

 今回は関節炎を主軸に進めていますが、関節炎ではなかったとしたら蜂窩織炎のようなものも鑑別に入れる必要が出てくるでしょう。

 さらに細菌性であれば、成人で最も多い黄色ブドウ球菌、その次に多いレンサ球菌というようなことを考えたり、淋菌性などの様々な起炎菌を考えることにもなるでしょう。詳しくは、『レジデントのための感染症診療マニュアル』でも、他の感染症の本でも、二次文献でも、手に取りやすいものでぜひ全体像をチェックしてみてください。

 

 

 

2.急性単関節炎原因ごとの割合

 さらに急性単関節炎の原因ごとの割合(頻度)も気になります。定量なものも具体的に調べて探してみました。

 

 単関節炎の原因は、多くの患者で不明であった(16%〜36%)。最も多かった診断は痛風(15%〜27%)と敗血症性関節炎(8%〜27%)で、次いで変形性関節症(5%〜17%)、関節リウマチ(11%〜16%)であった(下記の表)。研究間の原因のばらつきは、使用した診断基準や研究した集団の違いに関連している。

 

表. 急性単関節炎の原因と割合

(出典)CMAJ. 2009 Jan 6;180(1):59-65. doi: 10.1503/cmaj.080183.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 敗血症性関節炎は、敗血症から血行性に細菌が侵入したとして化膿性関節炎(感染性関節炎)のひとつとカウントしてよいでしょう。

 意外な結果(割合)であった疾患もあったのではないでしょうか。個人的には痛風が少ないと感じました。Parkerらの研究では近医のGeneral Practitioner(GP)から紹介された患者129名、Freedらの研究では大学病院の救急外来の患者59名、Shmerlingらの研究では少なくとも1つの関節の腫脹と疼痛のある連続する患者100名、Jengらの研究では敗血症性関節炎が疑われた患者59名というように、条件・状況異なります。いろいろと自身の環境によって事前確率は異なってくるでしょう。

 原因不明の割合も16%-36%とそれなりにありますが、痛風、結晶誘発性、敗血症性、変形性関節症、関節リウマチ、外傷、反応性関節炎、Reiter症候群、SLE、その他、乾癬、軟部組織の問題、偽痛風、特発性関節血症、結核、無菌性壊死、骨膜性軟骨腫症ということで、先ほどの鑑別疾患よりは候補が絞られています。

 

 乾癬性関節炎のようにそれぞれの鑑別診断(原因)の特徴がありますので気になる方はそれぞれの鑑別診断について調べてみてください。

 

 やはり、ここでは頻度多いとされる痛風(尿酸ナトリウム)や偽痛風ピロリン酸ナトリウム沈着症、CPPD症)と、内科エマージェンシーでもある化膿性関節炎(感染性関節炎)の鑑別について深掘りしてみたいと思います。

 

 

 

3.化膿性関節炎結晶性関節炎

 化膿性関節炎を考える時に「もしかして…、嫌だな」と感じるのは、膝関節のような大関節の時でしょうか。すると、偽痛風の方が鑑別に挙がりやすいのでしょうか。痛風なら母趾MTP関節のような末端部分が典型的と考える人も多いでしょう。

 しかし、以前の痛風についての記事を書いた際に、UpToDateでは痛風は下肢に多く、最も多いのは第1中足趾節関節または膝関節である」という主旨の記載もあり、大関節も無視できないでしょう。興味のある方は詳しくは下記をご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 痛風や偽痛風のような疾患ごとの特徴は、教科書等で確認しやすそうです。

 そのため、特に2章目の総説で頻度的にも多くて気になった痛風と化膿性関節炎について、調べていました。そこで偶然見つけた興味深いもの深掘りしてみたいと思います。痛風化膿性関節炎についての患者背景・症候・所見などの尤度比などについて深掘りしてみたいと思います。

 

 急性単関節炎や化膿性関節炎(感染性関節炎)の基本的・全体的なことをはじめ、様々なことを確認してみたい等の興味がありましたら、青木眞先生の名著『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』や、途中で引用したものをはじめとする総説、UpToDate等の二次文献もぜひ目を通してみてください。

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

 
 続編の痛風化膿性関節炎についての深掘りはこちらになります。

医学書Log: 画像診断 Vol.43 No.13|これであなたも名探偵! 転移の画像所見から原発巣を当てる(2023年11月号)

医学書Log(<書籍紹介)

『画像診断 Vol.43 No.13 2023』(11月号)

  • 特集: これであなたも名探偵! 転移画像所見から原発を当てる

 

<目次>

 

 今回の医学書ログは月刊誌『画像診断』2023年11月号です。他にも良かった本もあったのですが、イムリーさ類書が思い浮かばない特集という視点からも今月の書籍(医学雑誌)にしたいと思います。

 

https://m.media-amazon.com/images/I/71yJkvH6akL._SY425_.jpg

 

 

【こんな人におススメ】

  • 特集テーマに興味がある
  • 医学知識の横切りの視点に興味がある

 

 何といっても、特集のテーマが「これであなたも名探偵! 転移の画像所見から原発巣を当てる」ということで興味深いテーマです。最初に、または偶然、見つけたものが悪性腫瘍の転移だったというようなことはないでしょうか。〇〇腫瘍の時にはこういう画像所見が見られるという縦切りの視点に加えて、このような局在・画像所見のときには〇〇が考えられるという鑑別をしていく横切りのような視点が、類書が思い浮かばない興味深いテーマでおススメに感じました。

 

 

1. 本の感想/概要

 特集は大きく、頭部病変、頭頚部病変、胸部病変、上腹部病変、下腹部病変、骨軟部病変、リンパ節病変から予測する原発巣に分かれています。

 

 例えば、頭部病変として脳転移を考えてみましょう。巷でも、大学生のときの講義ぐらいでも、脳転移のお話で「肺がんや乳癌からの転移性脳腫瘍が多い。肺がんが約3~4割、…」ぐらいの総論の疫学的なことを耳にすることはあるかもしれません。

 しかし、局在各論で脈絡叢/脳室内の時や軟髄膜の時をはじめとする、各部位で疫学的に多い原発巣(頻度)というような深掘りした知識も登場します。

 他にも、CT吸収値(高吸収⇆低吸収)、MRI信号(高信号⇆低信号)、石灰化、出血などの画像所見・性状による鑑別知識も手に入ります。個人的には1番濃い章にも感じましたが、頭部の章から医学知識でお腹いっぱいで嬉しい感じの内容です。画像所見も1対1対応と言い切れるものはほとんどないにしても、組み合わせで原発巣の推定とその先の方針に役立つと思います。

 

 他の章では、症例ごとに鑑別のポイント経過知っておきたい知識というような構成をベースにしていているページが多く読みやすく、知識として注目すべき部分との整理もしやすかったです。

 もちろん、悪性腫瘍の既往歴をはじめとする画像以外の診療情報も大きなヒントとなるため大切ですが、特徴的画像所見局在と疫学的な情報の組み合わせで、さらに精度高く可能性の高い原発巣を考えて進めていくことができるのではないでしょうか。

 

 

 

2. あとがき

 この画像診断のひと月前(2023年10月号, Vol.43 No.12)の特集は腸炎・腹膜炎を読み解く―病態と画像所見の対比」というテーマでした。解剖や基礎に触れて『マイヤース腹部放射線診断学』を彷彿させるようなページがあったり、鑑別に役立つような内容があったりして、こちらも興味深いものでした。また、マイヤースもなかなか好き者にはおススメなような気もします(笑)。実は、これらも医学書ログにしようか悩んだもののひとつでした。

 また、来月号(2023年12月号, Vol.43 No.14)の特集も「全身の血栓症・塞栓症を考える」ということで楽しみにしています。

 

 特集の内容をはじめ、気になる方は目次などをチェックしてみてください。また、今回紹介した11月号は表紙に書かれている目次だけでは分かりにくい部分もあります。目次詳細も合わせてご覧ください。

本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

 
 
【関連記事】

腸疾患・腸炎の病変部位と原因|好発部位から考える鑑別疾患

腸疾患・腸炎病変部位原因

好発部位から考える鑑別疾患

 

<目次>

 

 

 例えば、「腸結核であれば回盲部が好発」というようなことが、ふと思い浮かぶことはありませんか。教科書等でもそれらがまとめられているようなページがあったか記憶が曖昧である一方、腸疾患腸炎病変部位から鑑別疾患を考える際にヒントとして役立つかもしれないと感じました。久しぶりの想起も兼ねて記事にしてみることにしました。

 

 

1. 細菌性腸炎寄生虫

 まずは、腸疾患や感染性腸炎の中でも細菌性腸炎寄生虫のときの好発部位をチェックしていて見つけました。例えば、腸結核であれば回盲部に好発するというようなことを耳にすることがありますが、実際にはどうなのでしょうか。

 

 画像診断では画像所見のみではなく、部位も診断には重要な要素であるため、好発部位を把握しておくことは重要である。

細菌性腸炎寄生虫症の好発部位

(出典)大川清孝, et al. "4. 感染症; 細菌, 寄生虫." 日本内科学会雑誌 100.1 (2011): 71-77.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/1/100_71/_pdf

 

 病変の好発部位が1つというわけにはいかないようですが、上記のようになるようです。

 終末回腸~右側結腸が好発部位である病原微生物として、エルシニア、サルモネラ腸炎ビブリオチフス、パラチフス結核菌と挙げられています。腸結核の場合、回盲部が好発というよく耳にする部位も含まれています。

 全大腸の場合は、カンピロバクター、細菌性赤痢菌、サルモネラ(直腸病変なし)であり、右側結腸の場合は、腸管出血性大腸菌盲腸・直腸の場合は、赤痢アメーバ、さらに盲腸の場合は、鞭虫、蟯虫と続きます。胃・小腸が好発部位のアニサキスは知っている人も多いと思いますが、十二指腸~上部小腸ランブル鞭毛虫、糞線虫、クリプトスポリジウム、イソスポーラ、サイクロスポーラ)、上部小腸コレラ横川吸虫、広節裂頭条虫、鉤虫、有鉤条虫、無鉤条虫)、小腸(回虫、旋尾線虫)となると、感染症に興味がある人やその辺りの感染症に触れている人でないと、普段から意識するほど身近には感じられないかもしれませんね。

 もちろん、感染性腸炎として症候病歴などからも鑑別を絞っていくことも大切ですが、病変部位でも可能性が変わりうる、原因特定のヒントになりうるという視点も持ってもらえたら幸いです。

 

 この出典では、X線造影、腹部エコー・腹部CTにおける画像所見にも触れています。例えば、エルシニア腸炎における回腸末端の著明な壁肥厚や回盲部周囲の著明なリンパ節腫大といった、それぞれの病原微生物ごとの画像的な特徴などが気になる方はチェックしてみると良いと思います。

 

 

 

2. 炎症性腸疾患(広義)

 先述のような感染症だけでなくて、虚血性腸炎であれば脾弯曲部や下行結腸(左側結腸)というような好発部位を覚えている人も多いと思います。虚血性腸炎だけでなく、様々な疾患における好発部位をチェックしてみます。

 

 内視鏡観察により得られる情報は病変部位、分布様式、および所見であり、疾患によって異なるパターンを示す。

腸疾患・腸炎〔炎症性腸疾患(広義)〕の病変部位

(出典)清水誠治, et al. "炎症性腸疾患の鑑別診断." 日本消化器内視鏡学会雑誌 56.1 (2014): 3-14.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/56/1/56_3/_pdf

 

 今回は画像診断ではなく、内視鏡関連の文献からです。検索のキーワード等のせいか、英語で良いものが見つからず、またもや日本語検索で日本語の文献からになりました。

 先ほどの感染性腸炎(細菌性腸炎寄生虫症)の場合も込みで広義の炎症性腸疾患ということでまとめられていました。腸結核のように、多少病変部位に関する記載にズレもありますが、概ね一致しているものもあります。

 

 直腸では、潰瘍性大腸炎、急性出血性直腸潰瘍、宿便性潰瘍、NSAIDs座薬起因性直腸潰瘍、直腸粘膜脱症候群、アメーバ性大腸炎、偽膜性大腸炎(CD腸炎)、アフタ様大腸炎放射線性大腸炎、虚血性直腸炎、cap polyposis、クラミジア腸炎、直腸梅毒、サイトメガロウィルス腸炎などが挙げられるようです。潰瘍性大腸炎の名前を見ると、炎症性腸疾患もお出ましといったところでしょうか。細菌性でもクラミジアや梅毒(梅毒性直腸炎)が候補に挙がっており、こちらは性感染症でしょう。それもあってか、他の部位に比べて、ピットフォールになりやすい鑑別疾患も含まれていると感じました。

 右側結腸ではクローン病回盲部ではクローン病、腸管ベーチェット病のあたりの腸疾患も挙げられています。先述の細菌性腸炎もありますが、腸結核クローン病が並んでいます。

 小腸では、クローン病NSAID 起因性腸炎、腸結核、非特異性多発性小腸潰瘍症、好酸球性胃腸炎、IgA血管炎(Schönlein-Henoch 紫斑病)、SLE、ブドウ球菌感染症腸炎ビブリオノロウィルス感染症、旋尾線虫タイプX 幼虫移行症、アニサキス症、放射線性小腸炎、アミロイドーシスなどと挙げられています。クローン病と腸結核だけでなく、IgA血管炎やSLEも加わって鑑別疾患が多くあります。やはり、ここでも結核クローン病の両者があり、両者の鑑別ポイントが気になる鑑別疾患の候補でした。

 

 あと、全体を通じて興味深いのはクローン病のような炎症性腸疾患だけでなく、薬剤性(NSAIDs起因性腸炎)も目立つところでしょうか。抗生物質起因性出血性大腸炎のような抗菌薬によるものもあり、薬剤性は忘れられませんね。

 

 

【補足】 腸疾患の分布様式

 感染性腸炎や腸疾患の好発の病変部位をチェックすることで鑑別に役立ちうるという視点で見てきましたが、病変部位のついでに同じ文献で分布様式も見つけました。例えば、「潰瘍性大腸炎が連続性、クローン病が非連続性」のような鑑別の仕方は、病変部位での鑑別に近いと思いますので、補足しておきたいともいます。

 

 内視鏡観察により得られる情報は病変部位、分布様式、および所見であり、疾患によって異なるパターンを示す。

腸疾患・腸炎〔炎症性腸疾患(広義)〕の分布様式

(出典)清水誠治, et al. "炎症性腸疾患の鑑別診断." 日本消化器内視鏡学会雑誌 56.1 (2014): 3-14.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/56/1/56_3/_pdf

 

 先ほどの出典の分布様式に今度は着目します。連続性区域性限局性ないし単発性多発性・連続性に分けられています。テーマの補足なので軽く流したいと思いますが、ここでも分布様式が多発性・非連続性の中にクローン病結核が挙げられており、両者の鑑別が気になるところです。

 

 他にも内視鏡における所見の一覧の表も鑑別に役立つので気になる方は出典を見てみてください。その中でも、狭窄、浮腫やびまん性炎症、隆起、潰瘍というような項目は画像での鑑別の際にもヒントになりそうです。

 

 

 

3. 最後に

 腸疾患腸炎病変部位(好発部位)による鑑別はいかがでしたでしょうか。画像診断でも、内視鏡でも役立つときがあると思います。

 個人的には、クローン病結核の病変部位が小腸、回盲部、右側結腸と重なっており、分布様式も多発性・非連続ということで、鑑別ポイントが気になりました。もちろん、あくまで好発というわけでこれ以外の形で現れることもあるでしょう。

 

 腸管壁異常に対するCT画像診断の総説に目を通していた時に見つけた言葉で締めたいと思います。

  • 補足的な腸管壁の形態学的因子や局所的因子は、特定の診断に追加的な、あるいは場合によってはより優れた洞察を提供する。
  • 最終診断には信頼できる臨床情報が常に加味されなければならない。

(出典)Radiographics. 2002 Sep-Oct;22(5):1093-107; discussion 1107-9. doi: 10.1148/radiographics.22.5.g02se201093.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 今回の病変部位もひとつの因子と考えれば、上記の通りだと思います。絶対的ではないものの、症状や身体所見、検査結果などの他の診療情報も合わせたうえで鑑別ヒントになれば幸いです。

 

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

ITパスポート試験 合格体験記|多くの医師・医療者にも不要の資格!? 取得理由は?

ITパスポート試験 合格体験記

~多くの医師・医療者にも不要の資格!? それでも取った理由とは?~



<目次>

 

 今回は、ITパスポート試験という資格試験を独学にて受けた際の合格体験記になります。案外、以前公開したFP(ファイナンシャル・プランナー)3級の記事へのアクセスが地味に継続していることもあり、過去の資格試験の受験記録を掘り起こしていくことにしました。

 ちなみに、ITパスポートは皆さまに一概にお勧めできる試験ではありませんが、受験する方はもちろんのこと、受験するか悩んでいる方興味のある方にも参考になれば幸いです。



1. ITパスポート試験とは

 ITに関する基礎知識・技術(テクノロジ)に加えて、経営全般(ストラテジ)システム開発等のIT管理(マネジメント)の知識を問う国家資格です。ちょっと聞くと難しそうですが、ファイナンシャルプランナー(FP)3級のような広く浅い共通的基礎知識を問うものになります。

 実際には、IT資格(情報処理技術者試験)の中では初級・入門編になります。情報処理技術者試験という枠組みの中でいうと、簡単な方から順に、ITパスポート、情報セキュリティマネジメント試験、基本情報技術者試験応用情報技術者試験、高度(複数あり)となります。いずれも国家資格です。ITパスポートと情報セキュリティマネジメントはITを利活用する者という枠組みに入れられています。ITパスポート試験の対象はあくまでも利用したり、活用したりする側であり、本当のスタートは基本的な知識や技能を問う基本情報技術者試験からだと個人的には考えています。

https://www.ipa.go.jp/shiken/kubun/pkin3a0000007x81-img/pkin3a0000007xdp.png

(出典)行政独立法人 情報処理推進機構ホームページ

 

 ITパスポートも国家資格ですが、業務独占資格ではありません。医師免許はもちろんのこと、宅地建物取引士(宅建士)のような独占業務はありません。

 内容の深さとしてもITパスポートの程度であれば、興味があれば普通の時事本で自然と学べそうな内容です。就活に使えるという主旨の発言をする雑誌等も見かけますが、正直言って分かりません

 私の認識では、資格としてITパスポートは特に役立たない(勝手に本などで好きに学べばよい/自然と学んでいる)、基本情報技術者(以下、基本情報)は新卒業界未経験なら取っておいても良い、応用情報技術者(以下、応用情報)は転職スキルアップのため取っておいてもよい、高度情報処理技術者すごいといった印象です。もちろん、応用情報を資格として持っていなくてもバリバリに仕事をしている人が多数いる印象です。




試験内容

 試験内容(学ぶ内容)について少し補足します。試験分野は大きく3つに分かれています。テクノロ(ITに関する基礎知識)ストラテジ(経営戦略等の経営全般)マネジメントシステム開発等のIT管理)に分かれています。出題問題数としては、テクノロジが45%、ストラテジが35%、マネジメントが20%となります。

ITパスポート試験 出題範囲のイメージ

 あくまでも、下記の概念や用語について学ぶのがメインです。

  • テクノロ;基礎理論、プログラムとアルゴリズム、コンピューターシステム(構成要素、ハードウェア、ソフトウェア等)、技術要素(情報デザイン、データベース、ネットワーク、セキュリティ等)
  • ストラテジ;企業活動、法務、経営戦略(経営戦略マネジメント、技術戦略マネジメント、ビジネスインダストリ)、システム戦略等
  • マネジメント;開発技術、プロジェクトマネジメント、サービスマネジメント、システム監査

 

 これだけみてもピンと来ない方もいらっしゃるかもしれません。当たり前に感じる人もいらっしゃると思いますが、具体例を紹介します。知らないような概念単語・略語があるか、という指標として流し読みしてもらえればと思います。

 

 テクノロのハードウェアでは、RAMやROMの違いのようなことを学んだり、ソフトウェアでは、表計算(関数応用)でIF関数を概念的に学んだりします。ネットワークではHTTP、SMTP、POP、NTPというような単語を学んだり、セキュリティでは、様々な種類のマルウェア暗号化技術(公開鍵、秘密鍵等)を学んだり、データベースではデータの正規化の概念を学んだりします。

 ストラテジでは、財務諸表についてさらっと軽く学んだり、サイバーセキュリティ基本法のようなセキュリティ関連法規を学んだりします。さらには、コーポレートガバナンスコンプライアンスのような話、マーケティングや技術戦略の概念(例:RFM分析、MOT)を概念的に学んだりします。経営管理システムとしてCRM、SCM、ERMというような概念や、クラウドコンピューティングとして、IaaS、PaaS、SaaSというような概念についても学びます(何でも略語にしないでとか感じ始めますが…)

 マネジメントでは、システム開発プロセスの概念を学んだり、その中で要件定義プロセスの概念を学んだり、さらにその中でRFIRFPというような単語を学んだりします。他にもソフトウェア開発手法として、ウォータフォールモデルアジャイル開発というような概念を学びます。他にも、工程管理としてアローダイアグラムガントチャートを学んだり、アローダイアグラムの中で最早開始日や最遅開始日、クリティカルパスというような概念を学びます。

 

 最新の出題範囲は最新シラバスにてご確認ください。






2. なぜ受験するのか?

 どうしてITパスポート試験を受験してみようと考えたのでしょうか。「会社で取るように言われている」というような状況であったり、手当てがつくような状況であれば、学びたいという興味とは別に取得するインセンティブがあるでしょう。取るように言われていて、何も自分自身にインセンティブも興味もなければ、やる気は起きないかもしれません。

 医療の例で言うと、勤務時間外に緩和ケア講習会に出席するようにお願いされて、緩和ケア診療加算が取れるというような状況に似ています(インセンティブの受け取り手が取得者本人とは違いますが…)。

 

 正直なところ、ITパスポート試験を受験するかは悩みました。ITパスポート自体が資格として有用だと感じたことはありません。興味本位で学んでいる際に、もう少しベースライン整えておいた方がスムーズに学べるかもしれないと感じたことがあります。そこでIT系の基本的なことを学び、その質を一定は担保したいと考えて、基本情報技術者試験以上の資格を取りたいと考えがありました。ITに興味があるのは、医療AIやデータサイエンス等の個人的な興味から来ています。一部、過去の読書ログでもそのようなテーマに触れています。

 

 最初はITパスポート試験を受験することは考えていなかったものの、様々な状況が重なった結果、ITパスポート試験から受験をしました。受験した理由は大きく4つです。

 

 

 現在(2023年4月以降)であれば、基本情報技術者試験から受験したと考えています。基本情報であっても、ITパスポートであっても、問題演習試験を受けることがアウトプットにもつながると考えています(学びのためのアウトプットと言っても、ブログだけでなはいです)

 私がITパスポートを受験しようと考えたときには、基本情報技術者試験はCBT方式ではあっても、試験日程は大きく2回で、決められた1カ月半程度の中から選ぶ程度でした。試験日程に合わせて受験をする必要がありました。

 一方で、ITパスポート試験はその当時からCBT方式の試験でいつでも受験することができました。しかも、試験会場都道府県内で10か所程度以上の候補があり、大きな駅の近くの会場もあり、何かのついでにもどこでも受験しやすい環境でした。地方の場合は会場の数・アクセス等もチェックしたほうが良いと思います。

 さらに、BOOKOFFに行った際に、ITパスポートの本(栢木先生のITパスポート教室)を200円コーナーで見つけて、「これは読みやすいな~」と買ったことも影響しています。すでに安く本を手に入れたことがサンクコストにもなりました(笑)。

 このような状況の中で、ITパスポートを次のステップへの踏み台にしようと考えました。当時、基本情報技術者試験は日程の制約もあるので極力1回で受かりたいこと、さらには、偶然手に入れた本をめくっていくと、私の好きではない略語・単語の概念を学ぶという部分や問題が多いこともあって、途中でステップがあっても良いかもしれないと考えるに至りました。特にマネジメント分野においての単語学習の必要性を感じました。他にも例えば、テクノロ分野において、データベース上で行う関係演算の中で出てくる「選択」(指定した行を抽出する)、「射影」(指定した列を抽出する)、「結合」(複数の表を一つの表にする)というような、一般的な会話でも使いそうで混同しそうな言葉の定義もしっかり確認できる機会になると考えました。

 

 資格ビジネスという言葉があるように、業務上で特に必須でもないのに資格を取らせることで単なるお金儲けのビジネスになっていたり、天下り先となっているようなものも多数あります。中学生のときの英検にはじまり、大人になってもこのITパスポートやFPなど、医療者になっても心電図検定など、資格ビジネスかなと感じる様々なものがあります。まだ、国家資格なだけマシかもしれませんが…。

 この資格に7,500円という受験料を払うのかという葛藤の末、受験料で勉強時間のモチベーションを買うことができて、時間有意義に使うことができ、初級レベルで知識の大きな「引き出し」をつくる(簡単な全体像を作る)ことができ、具体的なステップが踏めるならということで、後述の試験内容を軽く確認の上、受験することにしました。

 比較対象としては難ですが、デキる風に見せかけた意識高い異業種交流会、科学的根拠に乏しい自己啓発セミナーのような、本当の遊びにも、後々に役立つ繋がりにもならないパーティに出て、何となく群れるのに時間とお金をかけるぐらいぐらいなら、ITパスポート試験でも学びとしては役に立つかもしれません。自分自身を磨いて「売れる」ものがないのに、「売る」ものを持っているすごい人と釣りあうわけがないとも考えています。もちろん、試験抜きで学ぶだけでもいいかもしれませんし、ITパスポート試験だけでは足りませんが、まずは「売る」ものを学ぶ一歩としてと弱い自分の対処法として利用する言えばいいんですかね。

 ITパスポート試験を受験する明確な理由見つからない場合は、受験することをおススメしにくいと考えています。受験する明確な理由をチェックしてみましょう。



 

3. 受験申込に向けて

 具体的にITパスポート試験についてチェックしてみましょう。受験すると決めたら、早いうちに申込みをして、悩んでどうしようもない時間減らして、勉強意欲を駆り立てるために使うことをおススメします。

 

試験の詳細

 まずは試験の概要合格基準を確認しましょう。

 

<試験概要>

  • 試験時間: 120分
  • 問題数: 100問
  • 出題分野: ストラテジ系(経営全般): 35問程度、マネジメント系(IT管理): 20問程度、テクノロジ系(IT技術): 45問程度
  • 合格基準: 総合評価点600点/1000点以上、かつ分野別評価点もそれぞれ300点/1000点以上であること
  • IRTによる評価点計算、CBT形式

www3.jitec.ipa.go.jp

 

 出題範囲シラバスも含めて、詳しくは上記ホームページをご確認ください。医学生や一部の医師であれば、CBT方式については臨床実習の前に受験しているので、CBT(PCで問題のストックからランダムに出題)、IRT(難易度によって正解した際の得点が異なる場合の評価)という部分に抵抗はないかもしれません。



受験申込

 ITパスポート試験のホームページにて受験申込みを行います。利用者登録をしてから申込に進みます。

www3.jitec.ipa.go.jp

 

 受験料は7,500円です。受験要項をはじめ、最新受験までの流れを必ずご確認ください。

 

 都道府県にもよって異なりますが、私が受験した際には試験会場10か所以上(試験会場A, B, C,..のようなものも含む)ありました。大きな駅近くのテナントビルのようなところが多くあり、各試験会場ごとに土日がメインながら、平日もやっているなどあります。時間帯も午前、午後、夕方のように3つの時間帯で実施している所が多く、都合の良い場所、日程を選んで受験できると思います。

 クレジットカード等があれば、自宅で受験申込みが完結します。3日前までなら、空席がある試験日程・場所への変更もできます。

 

 私は約3週間後の試験で受験申込みをして、予定変更でさらに1週間後の試験日程に変更しました。CBT(いつでも受験可能)ゆえの、変更ができるのは有難いシステムです。



 

4. 試験傾向チェック

 試験傾向・対策を考えるとなれば、まずは過去問をチェックに限ります。当たり前ながらCBT形式の使用中のプール問題は公開されていませんが、過去問が存在します。もちろん、書籍等の過去問題集をチェックしてもよいでしょう。

www3.jitec.ipa.go.jp

 

 試験時間については特に意識する必要はないと感じました。10問あたり7-8分程度でした。各自のペースをチェックして、試験当日までに回答スピードを上げる必要性があるかもチェックしておきましょう。

 人によって受ける印象学ばないといけない部分は様々であると思います。私自身は次のような部分を重点的に学ぶ必要性を感じました。

  • 単語概念略語
  • マネジメント

 単語概念略語は3分野(テクノロジ、ストラテジ、マネジメント)ともに言えることですが、とりわけ、ストラテジマネジメントで多く感じました。他にも、マネジメント分野での正答率が3割弱であり、悲惨でした。しかし、読めば何となく正解が推測できる問題もあり、全体の正答率が55%程度でした。マネジメント分野では分野毎の最低点300点/1000点も確保できないという事で重点を置くことにしました。

 

 過去問はストラテジ系(35%)、マネジメント系(20%)、テクノロジ系(45%)に分かれています。各難易度を知る意味でも3分野に目を通して、勉強が必要な難易度かを各自確認することをおすすめします。

 



5. 教材選び

 段階や状況ごとに学習に適した教材を探してみたいと思います。

 

書籍選び

 今回のITパスポート受験のきっかけにもなったからチェックしてみたいと思います。結果的には本を安く手に入れたこともありましたが、動画やアプリのコンテンツも見たうえで、いずれにしても全体像を学ぶための教材としてを使うことが私自身には合っていると判断しました。

 その際に、問題集を含めて他の書籍もチェックしました。個人的な感想ですので、参考程度にお願いします。



  • ITパスポート 合格教本 - 岡嶋 裕史 (著)

 読者特典としてスマホ過去問アプリ付きというのが魅力に感じました。教科書として10ページ台ぐらいの各内容ごとに試験問題を解いてみようというコーナーで、確認問題が数問あります。あくまでテキストベースです。

 赤下敷きによるキーワード程度を隠すような使い方にも対応しています。



  • ITパスポート 試験によくでる問題集 - 岩代 正晴, 新妻 拓巳 (著)

 同シリーズのこちらは、よく出る問題集といいつつ、問題を左側に、右側に要点整理と解説があり、問題を軸に要点整理されたような問題集です。

 例の教科書を買っていない、かつ全体像が掴めている分野であれば、いつもの勉強の仕方として有力な候補になりそうです。FPの時に似ています。赤下敷きには非対応です。



  • いちばんやさしい ITパスポート 絶対合格の教科書+出る順問題集 - 高橋 京介 (著)

 各テーマごとの確認問題多めの教科書といった感じでしょうか。出る順の問題という点も良いと思います。赤下敷きにも対応しています。紙で1冊でバランス型で終えたい人に向いていると思います。



  • ITパスポート パーフェクトラーニング過去問題集 - 五十嵐 聡 (著)

 とにかく問題解きたい人向けです。紙面の6回分に加えて、PDF21回分もあります。ダウンロード特典としてスマホ対応の要点整理bookもあるようです。

 私は、さすがにここまではいらないというのが正直なところです。過去問でもテーマ等を整理した形で学びたいので一瞬パスかなと思いましたが、すでに例の教科書を手に入れている手前、候補として残しました。

 

  • ニュースペックテキスト ITパスポート [オールカラー図解 これ一冊でインプット&アウトプット] -TAC情報処理講座 (著) 

 構成は教科書ベースで内容ごとに確認問題があります。問題数は教科書としてはやや多い方です。この本の特徴は何よりオールカラーです。赤下敷きには非対応ですが、ばりばりのカラーが印象的で本屋で手に取った記憶が残っています。



イラスト図解が多めの教科書

  • 栢木先生のITパスポート教室 - 栢木 厚 (著)

 各内容ごとに過去問を利用した確認問題がついているという教科書です。見開き数ページごと数問確認問題という区切って使いやすい文量ごとの構成です。教科書ベースとしては有難いことに確認問題はやや多めでしょうか。

 非IT系でも大丈夫というキャッチコピーもあり、図解が分かりやすいです。猫のイラストが好きですが、個人の好みの問題です。この本が安く手に入ったことが何よりのきっかけです(笑)。 赤下敷きは非対応です。



  • かんたん合格 ITパスポート教科書&必須問題(電子版付き)

 こちらも教科書ベースで内容ごとの最後に確認問題があるような感じです。教科書ベースで言えば、問題数はやや多め、問題集単体と比べると少なめでの教科書ベースです。イラスト図解は例の本と同じく好みでした。赤下敷き電子版付きがメリットかと思います。

 一冊だけで済ませるなら、候補の一つです。



 過去問がテキストで必要か動画を用いるのかも含めて自分好みの1冊を見つけてみてください。また、学習環境に応じてKindle版も含めた電子書籍またはの書籍の検討もしてみてもよいでしょう。例えば、帰宅後か就寝までの間に家で学習するのであれば、紙の方がいいかもしれませんが、出先での電車での移動中に学習するのであれば、電子版の身軽さのようなメリットもあるでしょう。



動画・アプリ選び

 簡単にITパスポートの試験内容について動画にしているコンテンツもあります。アプリ上での学習コンテンツもあります。類似のコンテンツを覗いてみて判断すればよいと思います。紙の本よりもスキマ時間に使いやすそうなものや、問題集ぽちぽちと解きやすいものなど、紙にはないメリットもあります。

 具体的には「ITパスポート」というキーワードとともに探してチェックしていました。その際に見つけたもののうち、実際に利用してみたものの一部を紹介します。

 

YouTube

www.youtube.com

 

 書籍でも見たシリーズのものになります。もちろん、他のチャンネルもあります。頻出単語についての動画を車を運転している時にPodcastのように流したこともあります。

 個人的には、耳から学ぶことよりも目から学ぶことの方が得意であることに加え、この類の動画時間当たりの情報量が少ないこともあり、文字から学ぶことが向いていると感じました。他にも、車の運転中のような視覚が占有されている状況が多いわけでもないため、視覚情報をメインにした学習にしました。

 

<アプリ>

app.it-pass.jp

 

 先ほどのYouTube動画を見つけたときに見つけました。過去問の演習オンラインでできます。Apple Storeで同じもののiPhone用のアプリを見つけて利用していました。ITパスポートと検索すると、類似のアプリもありました。

 このアプリ・サイトでは無料で過去問演習をすることができます。広告表示も実用性の問題にはなりません。年度別、分野別、絞り込みで出題、ランダムに出題といった設定があります。とても有難いアプリです。これを見つけたことで、問題集の購入はなしの方針になりました。



 

6. 試験までに

 家に帰った日には少なくとも30分程度勉強することを目標にして、到達目標として問題の正答率70%程度としました。全体像を掴むということも目標なので、まずは『栢木先生のITパスポート試験教室』を一巡しました。テキストを一巡するのに7-8時間程度かかりました。数ページごとに過去問による確認問題も数問ずつあって、問題も解きながら学びやすいと感じました。

 その後は、アプリによる問題演習を軸にしました。学習前の正答率は55%ほどでしたが、テキスト一巡後の60%前半でした。正答率の上昇こそ微妙でしたが、学ぶ前と比べて土台がしっかりして、これは分かる、これは忘れたという境界もはっきりしました。

 その後も、やはり単語の概念を覚えたり、略語を覚えたりするのは苦手なので、テキストもメリハリをつけて二巡目をして補完したり、問題演習でマネジメント分野を指定した演習も組み入れたりしながら、学習しました。

 最終目標を、ランダム出題の問題演習で70%と決めました。合計で、テキストに費やした時間が10時間程度、問題演習(主にランダム出題)に費やした時間が7-8時間程度でした。

 まとめると…

  • 最低1日30分は勉強(帰宅した日)
  • 目標は正答率70%
  • 結果として17~18時間学習

 

 試験日まで受験時の注意等確認しておきましょう。試験日には、受験票(確認表)を印刷していくと便利です。印刷できない場合は、受験番号等を控えていきましょう。最後の最後でアナログですね(笑)。スマホが試験室に持ち込めないので受験番号等は紙に書き写す必要があります。5類になって対応が変わったかもしれませんが、このご時世からか、マスクの裏に書き込みがないかも確認されました(笑)。



 

7. 試験を終えて

 会場による差はあるかもしれませんが、試験室はPCの並ぶ部屋で快適な環境でした。表示画面の文字の白黒反転等も個人的には好みでした。PCでマウスを用いて選択肢をクリックしていく形です。後で振返るためのチェックをつける機能があったり、メモ用紙・筆記具は会場側が用意したものを使用するので、筆記具も持っていく必要もなく便利でした。

 試験の問題内容については守秘義務があるのでお伝えできませんが、試験時間は十分でした。試験時間は120分ですが、見直し込み90分程度で終わりました。解き終わると早期退出もできました。

 

 最後に「試験終了」ボタンを押すと試験終了です。そこで自動で採点されて得点が分かります。総合得点と分野ごとの得点が分かります。そこで、合格か不合格かが分かることになります(注意書きに最終判定は機構側がするという主旨のことが書いてあったので、そこから不合格に転じる人がいるのか不明です)。自己採点よりも明らかにです。

 あとは、合格証書が届くのを待ちましょう。過去問ランダム演習の際の正答率の通りで1,000点中700点程度でした。



 ITパスポートをはじめ、資格試験の受験を迷った際判断に使ったり、資格試験も有効活用しながら学んだり合格したりという一助になれば幸いです。非IT系でも尻込みすることなく取得することができる資格です。また、長期間積み重ねていくものとは別に、時には「初心者になるようなこと」をやってみるのも良いものですね。

 

 今回は基本情報技術者試験への序章として書かせていただきました。時間ができて、気が向いた時に書きたいと思います。力尽きた際にはご了承ください。

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

 

 現在のところ、FP2級をはじめ様々な資格試験の合格体験記の公開も検討しています。とりあえず、読者層からしてもFP3級だけはまだ需要あるかもしれないという判断ですが、今後のアクセス・要望等に基づいて検討していきたいと思いますので、よろしくお願い申し上げます。

mk-med.hatenablog.com

サルコイドーシスの名称がつけられている画像所見|Sarcoid Galaxy Signなど8サイン

サルコイドーシス名称がつけられている画像所見

Sarcoid Galaxy Signなどの8つサイン

 

<目次>

 

 先月号の『画像診断』の特集が「わかる!びまん性肺疾患」ということで興味深い特集でした。そこからふと思い出して、過去の同誌で記憶に残っている特集を今さらながら読んでみました。2019年8月号「全身性疾患に対するエキスパート達の千思万考」という特集から、サルコイドーシスなどの画像所見を確認してみようという内容です。ちょっとだけ1章で肺の画像所見でも確認を済ませたら、2章からは好奇心任せで深掘りしたいと思います。

(注)興味重視のためしっかり学ぼうという方は教科書や2次文献などをご覧ください。

 

 

1. 肺画像所見

 まずは、肺サルコイドーシス(肺病変)画像所見についてざっとチェックしてみます。胸部X線、HRCTよりも前段階の前提知識です。これが、次章のメインディッシュのサルコイドーシスの様々な部位の特徴的な画像所見につながる部分があると考えています。

 

両側肺門縦隔のリンパ節腫大と上中肺野有意に肺に形成される肉芽腫(大きさは2mm程度まで)による陰影が基本である。

(出典)ジェネラリストを目指す人のための画像診断パワフルガイド 第2版,山下康行,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2022

 

 サルコイドーシスが非乾酪性肉芽腫ということで、それがとなって所見を形成していると考えればよいのでしょうか。肺サルコイドーシスでsarcoid galaxy signなんかも、そんな粒の集簇のように見えます。

 さらに、今回のきっかけとなったものまで詳しく見ていきます。

サルコイドーシスの肺野病変は、広義間質に沿った小結節や粒状影、気管支血管周囲間質の平滑あるいは結節状の肥厚が認められることが多い。粒状影は肉芽腫の集簇に対応しているが、組織学的に肉芽腫周辺の組織反応が乏しいことを反映して、HRCTで個々の粒状影が境界明瞭な粒として認識される。肉芽の融合や線維化が進行すれば、肺構造の歪みが認められ、間質性肺炎に類似した所見を呈する。また、非典型例として、結節影、空洞影、浸潤影、すりガラス影を呈することもある。

(出典)木口貴雄,画像診断, Vol.39 No.9 2019, 962-971.

 

 肺病変の場合、やはり画像所見は「粒」が基本のようです。非典型例とされる浸潤影や結節影ですが、それによって塊状となったものが、pseudo-alveolar sarcodosisと呼ばれる所見でしょう。

 

 

 

2. 名称がつけられている画像所見

 今回の山場に入っていきたいと思います。サルコイドーシスを考える上で、罹患臓器によっては特徴的な画像所見を呈することがあるようです。

 

このような病変の性格は、その他の全身病変でもある程度維持される。肺や中枢神経でみられることのある“つぶつぶ感”は、サルコイドーシスを考える大きな根拠となる。また、罹患臓器によっては特徴的な画像を呈することもあり、数多くの所見名(サイン)が報告されている。

サルコイドーシスの名称がつけられてる画像所見

(出典)木口貴雄,画像診断,Vol.39 No.9 2019,962-971.

 

 「このような病変」というのは、先述のサルコイドーシスの肺野病変についての話を示しています。それにしても、肺のsarcoidosis galaxy sign, 筋のdark star sign, three stripes sign, 頭頚部のpanda sign, リンパ節のpotato-like lymphadenopathy, Garland triad, lambda sign, 骨のlacy lytic lesion, 中枢神経のappearance of tongues of fireと画像所見(サイン)が8つもあります。調べていた際に別名を見つけたものは加筆してあります。 

 一度は画像見てみたくなるのではないでしょうか。肺における“つぶつぶ感”をはじめとする画像を見てみたいものです。また、それ以外の筋、リンパ節、骨における画像も見てみたいものです。この出典にはすべての画像が掲載されているわけではないので、検索していきたいと思います。

 

 

2-1. Sarcoid Galaxy Sign(肺, CT)

 まずは、肺病変sarcoid garaxy signです。日本から提唱された画像所見(サイン)であるということで、その経緯から見てみたいと思います。

  • 2002年に中津らによってgalaxy signとして提唱された。59名の患者のうち16名(29%)で組織学的にサルコイドーシスであると証明されたgalaxy signを認めた。
  • Galaxy signの定義は、①比較的境界明瞭な小結節からなる辺縁不整の結節を認め、②結節内に低吸収領域を認める。

(出典)AJR Am J Roentgenol. 2002 Jun;178(6):1389-93. doi: 10.2214/ajr.178.6.1781389.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12034602/

 

 Galaxy signは、これこそやや高吸収の境界不整な結節内に、さらに高吸収で境界明瞭な小結節を認めるといったところでしょうか。さらに、深掘りすると次のような日本における単施設でのコホート研究が見つかりました。

  • サルコイドーシスの患者では23.1%(n=15)でgalaxy signを認め、肺結核患者(1.9%, n=2)と比べ有意に多かった。
  • Galaxy Signの肺サルコイドーシスの診断に対する感度、特異度はそれぞれ23.1%、98.1%であった。

(出典)Sarcoidosis Vasc Diffuse Lung Dis. 2016 Oct 7;33(3):247-252.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27758990/

 

 サルコイドーシスをもとに命名された画像所見ですが、この結果から言うと結核でも認められるようです。ただし、有意差はもちろんのこと、肺結核では稀な所見になります。

 肺サルコイドーシスでも決して多く認められる画像所見ではなく、感度は23.1%と控えめです。 特異度が高いという点だけでも、サルコイドーシスを疑っている際に見つけることができれば、診断に役に立ちそうな所見とも言えそうです。

 実際のCT画像出典でチェックしてみてください。

 

 

2-2. Dark Star Sign & Three Stripe Sign(筋, MRI

 続いて、dark star signとthree stripe signです。筋病変ということで筋サルコイドーシスのときに、MRIで認められる可能性がある所見です。

 

Three stripe signは、結節型筋サルコイドーシスに特異的な徴候であり、(1) 横断面(軸位断面)像では“dark star” signという信号強度が低下した星形の中心構造、(2) 冠状面像または矢状面像では信号強度が低下した内側の縞(線維組織)と信号強度が上昇した外側の縞(上皮細胞を含む活動性の炎症性肉芽腫)が特徴である。

(出典)BMJ Case Rep. 2014 Jun 10;2014:bcr2014204691. doi: 10.1136/bcr-2014-204691.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24916984/

 

 こちらも画像出典を参照願います。脂肪抑制T2強調画像で撮影されています。

 筋サルコイドーシスに伴う線維組織が低信号となってdark star signとしてみられ、上皮細胞を含む活動性の炎症性肉芽腫が高信号となってthree stripe signとしてみられるようです。

 

サルコイドーシスにおける縦隔リンパ節、肺、筋肉の病変の頻度は、それぞれ85%、20%、20-75%である。しかし、疼痛、結節性腫脹、筋力低下などの症候性筋病変の頻度は0.5%未満である。

(出典)BMJ Case Rep. 2014 Jun 10;2014:bcr2014204691. doi: 10.1136/bcr-2014-204691.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24916984/

 

 このようにも書かれていて、サルコイドーシスの中でも症候性の筋病変を認める頻度が稀であることから、さらに結節型といったような分類まで考えると、これらの画像所見は稀だと考えられます。ぜひとも、見てみたいものです。

 

 

2-3. Panda Sign(頭頚部, Gaシンチ)

 名前からは動物のパンダをイメージするのですが、実際にはどのようにみえるのでしょうか。気になるパンダサイン(panda signをチェックしてみたいと思います。

 

耳下腺と涙腺の同時浸潤は、Gaシンチグラフィでこれらの腺に両側性に集積し、正常な鼻咽頭への集積と合わせて、この所見はパンダ徴候と呼ばれる。

(出典)Radiographics. 2004 Jan-Feb;24(1):87-104. doi: 10.1148/rg.241035076.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14730039/

 

 Gaシンチを見ると、パンダの顔と似ていると言えば似ていますが、まあそんなものかというような感じです。この出典にはGaシンチだけでなく、その耳下腺や涙腺のMRI T2WIまで載っていて分かりやすかったです。出典Figure 19を是非、チェックしてみてください。載っていないものもありますが、panda sign以外にも総説として様々な画像が挙げられていますので、おススメです。

 

 

2-4. Potato-like Lymphadenopathy(縦隔, CT)

 ここからはリンパ節の画像所見を深掘りしていきます。1つ目はpotato-like lymphadenopathyです。ポテト様ということはあのジャガイモのポテトでしょうか。調べてみたもののそこまで検索でヒットしませんでしたが、比較的新しいものからチェックしておきたいと思います。

 

サルコイドーシスの縦隔・肺門リンパ節腫大の特徴としては中縦隔・肺門(右気管傍、大動脈傍、気管分岐下、両側肺門)に多いが前縦隔リンパ節腫大は稀とされる。CTでは腫大リンパ節は境界明瞭、辺縁平滑で “potato-like”と称される累々とした腫大で一般的に造影後期では淡く均一に造営されることが多い。

(出典)山口医学 第64巻 第3号 205頁~211頁,2015年

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ymj/64/3/64_205/_pdf

 

 あくまでもリンパ節腫大における個々リンパ節CT上での特徴ということでしょうか。新しい文献も少なく、1950年代から1970-80年代までの文献が多く、新しいものはそこまでありません。あまり使われていない表現かもしれないと感じました。

 次のGarland Triadを調べている時に見つけました。

 

サルコイドーシスでは、重度の肺門リンパ節腫脹がしばしば観察される。リンパ節の形は不規則で、大きな塊状のジャガイモに似ている。したがって、この画像所見の名前はpotato nodeである。この徴候は、1947年に書かれたGarlandの論文で言及されている。

(出典)Yudin, A. (2023). Potato Nodes, Sarcoid-Type Adenopathy, 1-2-3 Pattern, Pawnbroker’s Sign, and Cluster of Black Pearls Sign. In: Metaphorical Signs in Computed Tomography of Chest and Abdomen. Springer, Cham.

https://doi.org/10.1007/978-3-031-24494-0_26

 

 Potato-like lymphadenopathyだけではなく、potato node(nodes)という表現もあるようです。しかし、potato+sarcoidosisと検索すればよいと気がつきました。しかし、それでもPubMedで検索ヒットはなく、よく分からない結果となりました。

 

 とりあえず、境界明瞭で辺縁平滑な腫大リンパ節が、じゃがいものような画像所見だという視点で見てみると、イメージが湧きやすいかもしれません。よろしければ、いずれも出典画像も確認してみてください。

 

 

2-5. Garland Triad(胸部Xp)

 続けてリンパ節の所見であるGarland Triad (1-2-3 Sign, Pawnbroker’s Sign) を見ていきたいと思います。先程と同じ文献ですが、調べていてこのような文章を見つけました。

 

古典的なサルコイド型リンパ節腫脹(1-2-3 sign または Garland's triad)も1947年のGarlandの論文に記載されており、これは右傍気管リンパ節、右肺門リンパ節、左肺門リンパ節の腫大の組み合わせである。この組み合わせはpawnbroker’s sign (質屋サイン) とも呼ばれている。バーから吊り下げられた3つの球体は、ルネサンス期のフィレンツェで有力な商人であったメディチ家のシンボルに由来する高利貸しのシンボルである。

(出典)Yudin, A. (2023). Potato Nodes, Sarcoid-Type Adenopathy, 1-2-3 Pattern, Pawnbroker’s Sign, and Cluster of Black Pearls Sign. In: Metaphorical Signs in Computed Tomography of Chest and Abdomen. Springer, Cham.

https://doi.org/10.1007/978-3-031-24494-0_26

 

 胸部レントゲンでリンパ節腫大が3つでTriadとなるというのはイメージできます。両側肺門部で左右方向の辺を作って、右傍気管リンパ節(右下部気管傍リンパ節(4R)であればキレイに三角形になりそう?)を頂点として完成です。

 しかし、pawnbroker’s signというのが想像できません。これこそ、その地域や時代の背景知識の欠如でしょう。質屋(高利貸し)のシンボルとは不名誉なような気もしますが、それだけ身近だったのでしょうか。そこでネットで検索をしたら、質屋のpawnbroker symbolを見つけました(下記リンクの図)。胸部レントゲン写真も掲載されています。よければ、画像下記のRadiopaediaも見てみてください。今回のブログのような切り口ではないですが、興味深いページです。

radiopaedia.org

 

 

2-6. Lambda Sign(Gaシンチ, PET)

 リンパ節の画像所見としてはラストのlambda signです。ラムダ(λ)サインという名前の由来も気になります。

 

サルコイドーシスでは、Gaシンチグラフィおいて傍気管ならびに両側肺門部における特徴的な取り込みパターンが "lambda sign"として報告されている。

(出典)AJR Am J Roentgenol. 2008 Mar;190(3 Suppl):S1-6. doi: 10.2214/AJR.07.7001.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18287458/

 

 結局のところは先ほどのGarland Trial (1-2-3 sign)似ていますね。Garland Triadはリンパ節腫大でしたが、lambda sign(ラムダサイン)は同じような場所のガリウム(Ga)集積です。総説なのでタイトルの通りで、画像所見についていろいろと書いてあります。

 

 他にもFDG PETやPET/CTでのlambda signの報告もあります。下記のPET/CTの方がカラフルに見えるのですが、Gaシンチの方が形は見やすいと感じる人もいるかもしれません。

(参考)Clin Case Rep. 2019 Jan; 7(1): 236–237. doi: 10.1002/ccr3.1937

 

 考えれば当たり前なのですが、lambda signサルコイドーシス以外でも認めることがあるようです。下記は結核の症例報告からの引用ですが、シンチにしても、PETにしても、集積しているだけであり、原因は非特異的です。偶然でもλの形になればいいわけです。このような結核をはじめとする感染症だけでなく、悪性リンパ腫をはじめとする悪性腫瘍とサルコイドーシスも鑑別を要す時もあってしかるべきですね。

 メッセージとして敢えて訳さずにそのままですが、このメッセージの主旨は大切かなと感じました。

The current gold standard for the diagnosis of sarcoidosis remains tissue histological examination. However, other methods can aid the diagnostic process, such as gallium 67 (67Ga) scintigraphy. The characteristic panda and lambda signs may be indicative of the disease, although rarely they can be found in different clinical situations.

(出典)Monaldi Arch Chest Dis. 2020 Apr 27;90(2). doi: 10.4081/monaldi.2020.1247.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32340431/

 

 

2-7. Lacy Lytic Lesion(骨)

 次は骨サルコイドーシス(骨病変)でみられる画像所見です。Lacy lytic lesonということで直訳すればレース状(lacy)の溶解(lytic)病変ということです。「lacy lytic lesion」という固有名詞というほどでもないかもしれません。骨病変ということでチェックしてみます。

 

骨サルコイドーシスの古典的な病像は、1903年にKreibichによって初めて報告されたもので、手の指骨に生じるレース状の溶解像(lacy lytic appearance)である。

(出典)Curr Rheumatol Rep. 2019 Feb 14;21(3):7. doi: 10.1007/s11926-019-0806-0.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30762131/

 

 命名というのか、特徴を表現しただけなのか、表現に困りますが、100年以上前に命名されているんですね。骨サルコイドーシスのなかでもlarge bone sarcoidosisとsmall bone sarcoidosisがあり、手指の骨はsmall bone sarcoidosisになります。

 骨サルコイドーシスは比較的まれであり、その中でもlarge bone sarcoidosisの方が一般的のようです。診断の手がかりにはなりにくいかもしれません。軽く触れておきますが、総説なので気になる方は是非読んでみてください。バーキットリンパ腫の病理組織を彷彿させるようなMRIでの“starry sky”appearanceをはじめ、画像も多数あります。

 

骨サルコイドーシスは比較的まれな病型であり、0.5~34%のサルコイドーシス患者にみられる。このような大きなばらつきは、無症候性の病徴や、単純X線写真やCT検査でも病変が検出されないことに起因している。一般に、骨病変は疾患の後期に発症するが、ごくまれに骨サルコイドーシスが疾患の初発症状となることがあり、その場合の診断は非常に困難である。

 

<Small Bone Sarcoidosis>

  • 手足のsmall bone sarcoidosisは患者の約5~7%にみられ、主に片側性または両側性で、第2指と第3指の指節骨に非対称的にみられる。サルコイドーシスによる指炎(sarcoido dactylitis)ならびに骨病変は非常に特徴的で、Perthes-Jüngling病として知られている。
  • 古典的な嚢胞状、レース状(lacy)、蜂の巣状の骨溶解のパターンは、皮質破壊および皮質外膨張を伴うことがあり、その結果、軟部組織の浮腫およびソーセージ指を生じる。
  • MRIによる追加検査は必要ないが、サルコイド病変はT1強調画像では低信号、T2強調画像では中程度から高信号であり、ガドリニウムでの造影剤投与後の増強は様々である。皮質外病変は、骨膜反応に類似した皮質に平行な細い垂直線を可視化できるMRIで最もよく示される。

 

<Large Bone Sarcoidosis>

・骨盤と脊椎を中心とする多巣性の軸骨格病変は、骨サルコイドーシスで最も一般的である。これらの病変の50%は無症状である。

X線写真では、large bone sarcoidosisは潜伏性か、限局性の溶解像であることが多い。硬化性病変や混合病変はまれである。Small boneの病変とは異なり、通常、皮質破壊や皮質外への膨張はみられない。

(出典)Curr Rheumatol Rep. 2019 Feb 14;21(3):7. doi: 10.1007/s11926-019-0806-0.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30762131/

 

 

2-8. Appearance of Tongues of Fire(中枢神経, MRI

 最後の画像所見です。中枢神経系の画像所見ということですが、appearance of tongues of fire (tongues of fire sign) という名称からは想像がつきません。まさか、舌のイラストにでも似ていて、そこから火でも吹くのでしょうか。

 論文では検索してもこれといって見つけられず、Radiopaediaというホームページからになりました。

かなり顕著な変化は他の撮影シーケンスではわからないことがあるため、主なシークエンスは造影剤を用いたT1強調画像である。特に脳底部とWillis輪の周囲に限局性または汎発性の軟髄膜増強効果(leptomeningeal enhancement)を認めることがある。貫通血管に沿って(血管周囲腔を経由して)脳内に達することがあり、これをtongues of fire signと呼ぶこともある。

(出典)https://radiopaedia.org/articles/neurosarcoidosis

 

 このページのtongues of fire signの出典を確認すると、「Kornienko VN, Pronin IN. Diagnostic Neuroradiology. Springer Verlag. (2008) ISBN:3540756523.」でした。購入して全編を読めたわけではないのでそこまではっきりとしたことは言えませんが、Google Booksでtongues of fireと検索すると、その単語が存在することは確認できました。

 

On MRI without contrast enhancement, one mayonly suspent thickening of basal meninges and detect areas of signal change in surrounding brain tissue as hyperintense areas on T2-weighted and FLAIR images. After intravenous administration of contrast medium, prominent and homogenous enhancement of basel meninges is seen, which may involve sellar and suprasellar regions, and optic chiasms. CE may expand deeply into the adjacent brain tissue, having an appearance of tongues of fire, which is explained by dis-…

(出典)Kornienko VN, Pronin IN. Diagnostic Neuroradiology. Springer Verlag. (2008) ISBN:3540756523.

 

 検索結果はこの1件のみでした。969ページからです。検索ヒットした単語のある文章全てを見ることはできませんでしたが、文章の流れからは、コントラスト増強法(contrast enhancement: CE)によって軟髄膜だけでなく脳組織近傍まで深く拡大して増強されると、それが “tongues of fire”のような画像になるということでしょうか。

 

 先程のRadiopaediaの記述と合わせると、増強効果が脳を貫通する血管周囲から脳内に広がり、軟髄膜周囲だけでないというように考えられます。この状況をもとに画像を手探りで探してみたいと思います。

Figure 18 造影MRI T1強調画像(体軸断面)で、脳室周囲と貫通動脈に沿ってガドリニウム投与後の非典型的多巣性の増強を示す。

(出典)Semin Respir Crit Care Med. 2007 Feb;28(1):102-20. doi: 10.1055/s-2007-970336.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17330195/

 

 サルコイドーシス全般の画像を取り扱う総説で見つけたもので、図説を引用しました。貫通する動脈だけでなく、もう少し脳内に増強効果があると分かりやすいのかもしれませんが、脳室を舌のようにとらえて、貫通動脈の増強が火のようであるということなんでしょうか。分からずなので、そうなのかもしれないと考えておくことにしました。よろしければ、画像は出典のFigure 18をご覧ください。

 

 神経サルコイドーシスMRIにおける画像所見の総説も見つけました。Appearance of tongues of fireではなく、軟髄膜の増強効果のような一般的な画像所見をはじめ、いろいろと気になる人は下記のfree articleの総説も含めてチェックしてみてください。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

(参考)J Clin Imaging Sci. 2011;1:15. doi: 10.4103/2156-7514.76693. Epub 2011 Feb 11.

 

 

 

3. 最後に

 趣味にお付き合いいただき、ありがとうございました。サルコイドーシスの診断基準としては組織診断群だけでなく臨床診断群もあります。やはり、“tissue is issue”という言葉もあり、先述の結核の症例の通りゴールドスタンダードは組織だと感じます。一方で、臨床診断群の特徴的所見に含まれる画像所見も含めて、サルコイドーシスの想起のきっかけ診断の一助にでもなれば幸いです。

 

 今回も興味の赴くままの内容ですが、画像所見はもちろんのこと、clinical presentations などについて教科書や二次文献をはじめ様々なものに目を通してもらえたらと思います。また、今回のきっかけとなった月刊誌 画像診断のように興味深いものもあります。そちらもよろしければ、気になるタイトルのときにでも手に取ってみてください。

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

 びまん性肺疾患ということでテーマから惹かれました。間質性肺炎、特発性肺線維症だけでなく、びまん性肺疾患の鑑別疾患(感染症、非感染症)も扱っています。

 

 「全身性疾患に対するエキスパート達の千思万考」ということで全身性疾患を特集しています。サルコイドーシスをはじめとする肉芽腫性疾患、痛風アミロイドーシスをはじめとする沈着病抗酸菌梅毒をはじめとする全身性の感染症悪性リンパ腫などを扱っています。表紙からも取り扱う内容をチェックできます。

 いずれも気になる方はよろしければチェックしてみてください。

社会的処方の現状・感想|Dr.西智弘の本をはじめ ~大好きな人にも、大嫌いな人にも~

読書+医学書Log&Link

社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法

西智弘(編著),学芸出版社

大好きな人はもちろん、大嫌いな人にもおススメの本+論文~

 

<目次>

 

 SDH診療実践アプローチのひとつでもある社会的処方。医療現場に持ち込まれる問題の上流にある社会的孤立等の問題を解決しようと試みる方法のひとつです。医療機関に持ち込まれた社会的問題・課題(例: 孤立、貧困)を、社会的問題を扱うところ(例: 社会福祉協議会→様々な市民活動)につなぐ橋渡しをすることです。

 今回は西智弘先生の著書『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』を軸にしつつ、社会的処方の現状感想・考えなどを綴りたいと思います。

 本書では、イギリスのgeneral practitioner(GP)の話でも出てくる社会的処方の概要から、日本も含めた具体的な話について書かれています。今回は、社会的処方の先にある社会的問題を扱う活動に個人的にボランティアで参加させてもらったことをきっかけに、それに先立って読み直しました。

 この本はあくまで医学書なので、この本の読書ログと、その感想に合わせて他の医学書コーナーにある医学書2冊論文もリンクして交えつつ、感想考えなどを紹介したいと思います。

(注)SDH: Social Determinants of Health(健康の社会的決定要因)

 

 

https://m.media-amazon.com/images/I/51ueRudtzzL._SY291_BO1,204,203,200_QL40_ML2_.jpg

 

【こんな人におススメ】

  • 社会的処方等の社会的介入大嫌いな医療者
  • 社会的処方等の社会的介入大好きな医療者
  • 社会的処方について理解したい人
  • リンクワーカーとは何か知りたい人

 

 社会的処方大好きな医療者はもちろんのこと、社会的処方が大嫌いな医療者にも読んでもらいたいというような本です。特に臨床において医療者の仕事を通り越して「医者が医者が」と大好きな人は、社会的処方の医療として適切な関連・介入度合いを知るきっかけにもなると思います。そして、そのような「医者が医者が」というような人を見て、社会的処方にマイナスイメージを感じた人にも、医療者はそうあるべきではなくて適切な範囲(下図のリンクワーカー程度まで)でお手伝いすれば、理にかなった解決策のひとつになりうるということも感じてもらえると思います。

 

社会的処方の個人的なイメージ図

 社会的処方についての個人的なイメージ図です。よろしければご参考までにお使いください。これから感想だけでなく、この辺りのことに対してモヤモヤ感じていること・期待していることを含めて色々と感じていることを述べていきたいと思います。よろしければ、お付き合いください。

 

 

1. 西智弘先生の特徴

 まず、導入部分で社会的処方について掴みやすいようにイラスト付きのページからは始まります。「医療機関にもちこまれる問題の2~3割は社会的な問題といわれています」というような分かりやすいメッセージからイメージを掴みます。

 そしてイギリス社会的処方のできた背景から仕組み、期待されるアウトカムなどを紹介しています。その社会的処方とは、医療機関にもちこまれた社会的な問題に対するセーフティーネットのようなものです。その社会的な問題を解決していく際に社会とのつながりをつくるためのカナメとなるリンクワーカーについても紹介されています。

 

 日本での事例も多数紹介しています。社会的処方の活動に関する解像度を上げてみたり、活動してみたいと感じる人にはとても興味深い部分ではないでしょうか。そして、この本の臨場感の高さもここにあると思います。

 例えば、仕事絡みで不眠という場合には、根っこの部分には「雇用」という社会的な課題があることなども説明されています。他にも、孤立(≠自ら望む孤独)が「健康」に悪い影響をもたらすとされ、それを改善するために社会的つながり大切と言われています。

 そして、医療に持ち込まれた社会的な課題を解決するリンクワーカーによる紹介先の活動のようなものが、具体的に詳しく多数紹介されています。そのような活動の多くにおいて、活動者は医療者の方が少ない、活動内容は医療者の専門性との関係性が薄いことも分かるかと思います。読みやすい文章で事例紹介をされていて、「医療者もやれ!」や、その逆のような、いずれの方向でも偏っている人を制止するようなフラットな方向でのメッセージ性もあり、参考文献も挙げられている部分も良かったと感じる本です。

 

 

2. 現状感想など

 社会的処方について誤解している人には、まずは賛成するにも、反対するにも、把握からという意味で重要な本のひとつだと思います。社会的処方、さらには地域診断や社会的バイタルサインという言葉における「処方」、「診断」、「バイタルサイン」というような言葉が誤解を与えがちなのか、医療化」しすぎなのかと感じることがあります。例えば、自然に触れることや人とつながることの意義は承知していますが、元からある医療とは言い難いものに対して「処方する」などと言うような医療的な押しつけがましい言い方には疑問を感じることがあります。

 このような言い方の問題はさておき、社会的処方は医療専門職以外も多数含めた多職種のおける社会連携のようなものだと捉えると良いと感じました。盲目的に医者がやるべきと信じているような人へ釘を刺すようなバランスもあり、社会的処方が、ひとつの視点だけからの、絵に描かれた餅のような理想ではないことも伝わってきます。

 患者Well-Being健康増進だけでなく、医療に持ち込まれる患者の社会的問題による医療者の負担軽減医療費軽減も目的とされていて、その目的に必要性や合理性も感じました。断らない救急で働いたら、同じ夜に複数回救急要請をして、複数回受診、さらに翌朝の一般外来は受診なし、というようなことも何度も経験しているので、なおさら納得です。これは極端な例にしても、その社会背景を考えると、中途半端に医療者が首を突っ込めるようなことではないと感じるのではないでしょうか。そして、医療者が思いつく社会的な課題を扱うためのことの大半は、すでに存在している、もしくはすでにアイデアとしてあるはずです。

 やはり、医療者社会的問題を直接的に扱うのではなく、地域包括支援センター社会福祉協議会のような「つなげて」くれる場所と連携し、社会的課題を扱う社会資源を提供する場所へのお願いが大切だと感じます。そして連携できるように、そのような情報まとめておいたり、協力依頼できる関係にしておくこと、すなわちリンクワーカーの役目こそ、大切だと感じました。なぜかというと、医療者が扱っても費用対効果はもとより、アウトカム心配もあります。

 ただし、日本には制度としてのリンクワーカーが存在しないため、医療機関で割ける資源になおさら限界があるでしょう。そこまででなくても、社会的孤立が誘因によるものに対しても、薬の処方等だけでなく、根本的な原因の改善に向けた提案ぐらいはしたいものですが(価値観の押し付けには気をつけつつ、短い時間で効果はあるものか…)

 

 この本の中では、地域で「屋台を引く医師」をしている守本陽一先生のお話も書かれています。屋台や本屋のようなレベルまでやるのが医療者全体にとっての理想やコアではなく、賛同するのであれば、個人的にできる範囲で良いということこそ、メッセージなような気がします。賛同できるなら医師・医療者としての仕事ではなくコミュニティ活動として、ちょっと参加者として個人で顔を出してみるところからで良いと思います。本書の中にもあるような、「医療者の〇〇さんではなく、〇〇さんは話していたら医療者であった」という感覚で良いと思います。そして、その屋台を引く人は医師でなくても良いという事も感じました。

 また、医療機関に持ち込まれた社会的問題に対するリンクワーカーの役目より先の活動そのものは、ボランティア中毒のような状況に気をつけつつ、各個人のボランティアのような感じで良いと感じます。趣味やボランティアとして介入する分には、ダメな部分も含めて自分が関わりやすい部分に関わるというようなこともしやすいでしょう。一方で、職業とし介入せざるを得ないとなれば、なおさら回避できない困難なケースに遭遇すると思います。

 

 「こういう医療者・医師になりたい」という各個人の夢のようなものもあるかもしれません。しかし、この屋台のような社会的つながりを作る活動と、医療(特に保険診療医療機関)の活動を一般論としてある程度分けて考える必要性も感じました。

 例えば、保険診療のクリニックに来て先生と話をすることが、人と話す貴重な機会になっている孤立した患者さんを例に考えてみます。表面的なSDH診療のみ*の視点から言えば、そこで「寄り添う」ことで毎回15分や20分といった長い時間話すことも良いかもしれません。

 しかし、通常の診療所であれば、経営の話も入ってきます。例えば、医師1人とその他の医療者や事務員から構成される内科系の診療所における損益分岐点を考えてみます。1日の診療人数の損益分岐点は約40-50名ぐらいです。すると、損益分岐点は約6名/時間です(これでもまだマシな方で整形外科では倍近い人数になります)

 多少の経営努力による患者1人あたりの診察時間増加は見込めても、医師が1人の患者さんにかけられる時間は、基本的に10分未満になるでしょう。信頼関係を築くための会話ももちろん大切ですが、直接的に病気に関することも聞かなければいけませんし、病気と関連する治療や生活上の目標のような話もしないといけません(運よく意図しない雑談で医学に関連することが聞けることもあるかもしれず白黒はつきにくいですが、そうはいっても主軸ではないはずです…)。さらには処置やカルテ記載等もしないといけません。他にも、初診患者対応のような普通の再診以上に時間のかかる診察もあるので、普段から10分以上話すことはもっと厳しいでしょう。他の患者さんを待たせてしまうことにもつながります。

 この患者さんに対して「話が長い」というレッテルを張るようなスティグマは良くない面があります。一方で、医療機関で話を聞くことで解決しても対処療法的です。本当の意味で寄り添うのであれば、この本で紹介されている社会的な活動をしているところへ紹介した方が良いと感じます。また、このようなことをして経営上の問題で継続性があるとすれば、従業員も迷惑でしょう。後で賃金が払えないというようなことになった場合に、大義名分を言い訳にするのはどうかと思います。さらに、その地域から診療所や病院がなくなってしまうことになる可能性もあります。

 損益分岐点が6名/時間というのは分かりやすい数字なので使用しましたが、決して変な数字ではないと考えています。損益分岐点は、診療報酬、人件費、テナント料、患者1人当たりの診療報酬、宣伝費、機器のリース代、光熱費等で変わってきます。都心部であればテナント料による圧迫、僻地であれば医師確保による人件費等での圧迫など、様々なことも考えなければいけないでしょう。このようなことは、例えば、『診療所経営の教科書』のようなものにも簡単に触れられています。

 

 また、「こういう医療者・医師になりたい」という想いが偏りすぎているのか/強すぎるのか、現状把握が甘いのか、一部の家庭医等で「長い時間、医師が患者さんと話せばよい」というような解決策を考える人がいます。1つの視点だけからの絵に描いた餅のような単なる善のようなもの理想だけでは、実現が難しいということも考えさせられるでしょう。そもそも、「こういう医療者・医師」という夢の中に医療・医師以外のこと持ち込みすぎているのかもしれません。

 さらに、他で稼いできて赤字を補填するという方法も考えられますが、全体論としてそれを一般的な医療(保険診療)として普及させるべきでもないでしょう。医療者・医師以外のことの多くは、人としてコミュニティ活動なり、友人関係なり、様々なところで達成すればいいでしょう。

 また、個人レベルでまず行動を起こせる診療所経営のようなミクロで現実的な視点を抜きにして、政治家も使いそうな「向き合う」、「思いやる」、「寄り添う」というようなふわっとした抽象的な耳障りの良い言葉だけで締めくくることは難しいと考えています。

 個人レベル改善できるミクロな視点に加えて、さらにマクロな視点に目を向ければ、これを実現するための診療報酬の在り方をはじめ、医療経済などの考える点は複数あるでしょう。そして、医療政策や政治の視点もあるでしょう。他にも、町営診療所であれば、診療所自体は赤字で補填されるかもしれませんが、将来の世代へのお金の使い方とのバランスも含めた町のお金の使い道として、医療資源の配置として適切かを、なおさら考えないといけないでしょう。医療者も限られた医療資源(身体的、精神的リソース等)です。

 すごい理想があったとしても、まずは個人レベルも含めてできるステップからだと思います。「こういう医療者・医師になりたい」といっても足元からでしょうか。そして、再現性のない自己啓発のように理想を固定しすぎず、ベストだけを追い求めず、ベターを意識して修正しつつ、「オプションB(次善の選択肢*」のようなものを意識しておくと進めやすいように感じます。

(注)『OPTION B(オプションB) 逆境、レジリエンス、そして喜び』,日本経済新聞出版,シェリル・サンドバーグ (著), アダム・グラント (著), 櫻井祐子 (翻訳)



社会的処方のエビデンス

 社会的処方に関するエビデンスについても少し触れておきたいと思います。社会的処方が考えられた意図は素晴らしいと思います。ボランティアであれば、費用対効果まで考える必要性はなかったり、アウトカムもマイナスにならずにちょっとプラス程度であれば良いかもしれません。しかし、医療(公共性の高い保険診療として介入するとなれば、それに見合うかどうかのエビデンスも気になるところです。BMJ OpenのSystematic Reviewを簡単に紹介したいと思います。

社会的処方に関する8つの研究(n=6,500)

  • 4つの研究では、健康に関連するQOLに対して影響がなかった。
  • メンタルヘルスに関して4つの研究のうち、3つの研究では影響がなかった。
  • 米国の2つの研究では、多疾患合併患者において、質の高いケアに対する評価が改善し、入院が減少したことが示された。
  • 費用対効果に関する分析は確認されなかった。
  • バイアス等により、エビデンスの確実性はとても低い、または低かった。

社会的処方のリンクワーカーに関するの効果を示すエビデンスは十分ではない。政策立案者はこのことに留意し、流布する前に現在のプログラムの効果の有無や程度を評価していくべきである。

(出典)BMJ Open. 2022 Oct 17;12(10):e062951. doi: 10.1136/bmjopen-2022-062951.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 これを見ると、社会的処方によって良い結果出せていないものも半分以上あります。日本ではリンクワーカー(医療に持ち込まれた社会的課題を、社会的課題を扱う部署へとつなげる非医療職)こそありませんが、費用対効果まで考えると医療者リンクワーカーのような部分も担いつつ働くべきか、公共的なこととしてどこまで介入すべきか、社会的処方を扱うべきかについては、悩ましいのが現状です。余力があればやってもいいでしょうが、医療全体として介入・導入するには、高いエビデンスレベル良い結果もう少し欲しいと感じてしまいます。

 

 ちなみに先ほどの論文は2022年のものですが、2017年のSystematic Reviewの論文でもエビデンスは不十分な状況でした。

社会的処方に関する15のプログラム(2000-2016年)

  • ほとんどが小規模で、デザインや報告が不十分であった。
  • すべてバイアスのリスクが高いと評価された。
  • 一般的なデザイン上の問題点としては、比較対照の欠如、追跡期間の短さ、標準化され検証された測定ツールの欠如、データの欠落、潜在的交絡因子の考慮漏れなどがあった。
  • 方法論的な欠点は明らかであったが、ほとんどの評価で肯定的な結論が示された。

社会的処方は広く提唱され、実施されているが、現在のエビデンスでは、成功や費用対効果を判断するのに十分な詳細が示されていない。社会的処方の潜在性を評価されるには、将来的な評価は比較可能でなければならず、いつ、誰が、誰のために、どの程度、どの程度の費用で行うかを検討しなければならない。

(出典)BMJ Open. 2017 Apr 7;7(4):e013384. doi: 10.1136/bmjopen-2016-013384.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 2017年の論文では、「方法論的な欠点は明らかであったが、ほとんどの評価で肯定的な結果」というバイアスの強い結果でポジティブであったという部分は、社会的処方に対する期待の現れだと個人的には考えています(笑)。そして上手くいけば、今後に活かせるエビデンスづくりにもなったでしょうし、やったことをちゃんと評価することまで含めた最初の試みというのは評価できます(エビデンスが微妙な状態で「これは良いことだ」と謳い、やったままにしておくのとは異なります)。

 しかし、5年を経て先述の論文ぐらいまでは進捗していますが、やはり限界のようなものを感じます。もともと個別性の高い内容でもありますが、フレイルやサルコペニアへの医療介入によって筋力回復等の医学的な効果がなかったように、期待した効果がない可能性もあります。

 もっと評価が進んでどうなるのか見守りたいと感じる面もありますが、社会的処方を政策のような形で全体で前進させようと決断するのは、今でも時期早々、もしくは期待しにくいでしょう。もちろん、公金を含めて利害関係の絡むような業界づくりや講演事業・支援事業にしたいような人たちもいるでしょうし、立場(ポジション)という色眼鏡は意識しておいたほうがよいかもしれません。社会的処方エビデンスについての厳しい現実でした。

 感情に訴えかけやすい個人的なストーリーに心を動かされ説得されがちですが、専門家であればなおさら、そのリスクも意識しつつエビデンスチェックしてそれで判断しないといけないと感じました。昨今では政治・政策でもevidence based policy-makingと言われています。医療においても、EBM(Evidence-Based Medicine)の略がEmotional-Based Medicineになってしまっては残念ですから、日々更新です。また新たなエビデンス等に基づいて考え方も変えていくしかないと考えています。

 

 

SDH診療の視点と医師の専門性

 SDH(健康の社会的決定要因: Social Determinants of Health)という概念があります。経済的状況社会的状況個人や集団の健康状態に影響を及ぼすというものです。そこで、それらに配慮した診察をしようというのがSDH診療です。

 先ほどの、「表面的なSDH診療のみ*」の視点から言えば、医療機関で社会的な課題に医師が長い時間を費やしてもよいかもしれないと錯覚しうるということを述べました。しかし、医療者による社会的課題への介入気をつけるべきともいえる、次のようなことも言われています。

 

  • SDHの問題に取り組むためには、医学や医療の専門性を越境した活動が必要であり、医療専門職だけで完結できるものではない。無理に自分たちだけで対応しようとすると、手痛い失敗をする可能性がある。
  • 「条件がそろっているのであれば、餅は餅屋に任せるべき」だろう。つまり、社会福祉士地域包括支援センター、福祉事務所、社会福祉協議会、生活困窮者支援のNPOといった、人々の社会的課題を扱う専門職や専門機関に任せた方が良いことが多いだろう。

(出典)実践 SDH診療,日本プライマリ・ケア連合学会 監修 / 近藤尚己 編著 / 西村真紀 編,中外医学社,2023

 さらに、次のようなことも言われています。

 そういった生活支援や福祉の専門家と連携するためにプライマリ・ケアに関わる専門医療職が知っておくべきは、活動する地域コミュニティにどのような専門職や組織、頼りになる一般の人々がいて、それぞれがどのような役割を担えるのかといった情報である。関連する制度や社会資源についての知識も一定程度把握しておくべきだろう。そして、そういった地域の社会資源を把握している担当者(医療ソーシャルワーカーや地域連携室)との密な連携体制を作っておくことが大切だ。

(出典)実践 SDH診療,日本プライマリ・ケア連合学会 監修 / 近藤尚己 編著 / 西村真紀 編,中外医学社,2023

 

 SDH(健康の社会的決定要因: Social Determinants of Health)へのアプローチの考え方で、このように述べられています。社会的処方もSDH診療へのアプローチのひとつですので、社会的処方に関しても同様のことが言えるのではないでしょうか。もちろん、条件がそろっていなければ、医療でも介入する、介入せざるを得ない可能性はありますが、あくまで原則が大切だと考えています。介入せざるを得ない場合では相当な覚悟がいるのではないでしょうか。また、社会的処方が必要な困難症例こそ、社会的な部分まで医者が診るのが美徳でもないでしょう。一部の家庭医療界隈やポートフォリオで喜ばれるかもしれませんが、そういう集団で疲弊している医者・医療者もいるのではないでしょうか。

 

 一部の総合診療医・家庭医地域医療を謳う医師でみられそうな、リンクワーカーや医療の範疇を超えたまち(地域)での活動まで臨床の「医者が、医者が」(さらには医療系の「学会で、学会で」?)というわけでないと感じます。総合診療医・家庭医という名前から何でも医者ができるようにも錯覚しやすかったり、専門性などの問題から「仕事」を作らないといけないのかもしれないと思ったり、BPSモデルのような話から拡大解釈しやすいのかもしれないと感じます。また、低学年を中心とする医学生にも手の届きやすい内容なのかもしれません。しかし、自分のできること/できないこと把握連携の大切さも意識する必要があるでしょう。

 BPSモデルのように心理、社会的なこと抜きに患者さんは存在しませんが、バランスや多職種による包括的なケアがあってこそです。医師は全体を見るというようなこともありますが、医師の多くの場合の専門性生物医学的な部分なのではないでしょうか。

 

 患者さん医師何を求めているかという調査もあります。

大病院の入院患者またはクリニックの患者計445名への調査

  • 患者が最も医師(physician)に望んだものは、専門的な知識(50%)、忍耐強さ(38%)、情報提供(36%)、気配り(30%)、患者の利益の代表(29%)、誠実さ(28%)、最新情報(28%)であった。
  • 患者が最も医師に望まなかったものは、教育(1%)、親しみやすさ(3%)、研究(4%)、共感(4%)であった。

(出典)BMC Health Serv Res. 2004 Sep 12;4(1):26. doi: 10.1186/1472-6963-4-26.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 国などの背景や環境が異なりますが、いかがでしょうか。医師に専門性を望む患者さんが圧倒的に多い(50%)という結果です。あるに越したことはないですが、共感親しみやすさ(フレンドリーさ)は大して求められていないようです。Physicianとfamily physicianでどれほど異なるのでしょうか。

 医療者の視点(医療的に正しいこと)はもちろんのこと、患者さんからの視点も入れて、あまりにも独りよがりにならないようにニーズを確認するということの大切さも感じました。入院患者の割合、診療科ごとの人数等は詳しくは論文をご覧ください。

 

 医療者の中でも、医師には医師の専門性が他の多職種にはそれぞれの職種ごと専門性があります。例えば、医療の中であっても社会的な部分はMSW、心理的な部分は臨床心理士もいます。さらに外に目を向ければ、社会的処方の先の社会的な課題を扱う部署もあります。社会的処方やSDH診療などを知って、特に臨床において何でも医療でやると考えているような医師は、全知全能の神のようなスーパーマンなのか、意識高い脳内お花畑なのか、ダニングクルーガー効果による初心者の自信過剰なのかなどと疑問に感じる時があります。

 例えば、「つながり」「まちづくり」「地球環境」等と言い、根本的なその人にとってのコア(例: 臨床医→臨床医学)のアップデートを怠っているのであれば、脳内お花畑(優しいやぶ医者?)かもしれないと感じます。そういう人に限って、言葉の定義すら曖昧で、表面的なところのみで活動してしまいそうな人がいそうですが…。そして、医療者の中でも煙たがられそうですが…。

 

 医師をはじめとする医療者が医療(例: HPVワクチン)のことを、一般の人にも分かりやすいように直接はもちろんのこと、SNS啓発活動をすることは専門活かしたことですが、「つながり」「まちづくり」のようなこととなると、そこまで公衆衛生以外の医者の専門であるかは疑問に感じます。医療と切っても切り離せないものであっても、宗教が担っていたような機能やコミュニティが担っていたような生活の中でのことを医療者が担うことによる合理性費用対効果、エビデンスレベル、保険診療のような介入の根拠や合理性が認められる範囲か、そうでないかも考える必要があるでしょう。例えば、「免疫力アップ」を謳うような飲料までが医療であるかといえば、否定的な人が多いと思いますし、禅がストレスに良いといっても医療として医療機関でやることには微妙でしょう。

 

 下手に街で医療と関係ない所で「医者が、医者が」とすると、専門でもないことを出しゃばってして、周りにめんどくさがられて/萎縮されて、さらにはアウトカム悪くなっては元も子もないと思います。それこそ、「地獄への道は善意で舗装されていた」という格言があるように、悪意の有無にかかわらず、結果が劣ってしまうリスクがあります。日本ではリンクワーカーという制度はないので、医療に持ち込まれた社会的課題に対して、医療者がリンクワーカー的な部分までは担うことになる面もあると思います。そういう医療の延長として納得できる部分と、地域ボランティアをしてみたいというような個人的な活動(医師が前面の内容とは限らない)との境界は意識しておいてもよいと感じました。

 もちろん、孤独を愛する人やお節介・噂話に花が咲く狭いコミュニティにはうんざりというような人もいるので、価値観押し付けをしないようにしないといけません。そもそも病院・診療所に来る患者さんにしても、まちで出会う人にしても、話がしたいとも限りません。相手次第です。

 医療として介入せざるを得ない場合を除いて各個人範囲としつつ、医療系の学会等で街での本来個人の活動を前面に推すこと(「医者が、医者が」)こそ、多様性の履き違えなのかと感じます。個人的に活動したり、楽しんだりする分には良いと思います。そして、日常のどこかでちょっと意識して取り入れてみてもよいと感じました。ちゃんと把握することによって、受け手への押し付けでなければ、個人的に私もしてみたい/してみてもよいというような部分が生じる人もいるのではないでしょうか。

 それこそ、自分のダメな部分も含めて趣味や思想等の延長でコミュニティ活動をしたり、ちょっとした後押しとなる募金・寄付等をしたほうが良いと感じました。もちろん、個人的にコミュニティ活動に関わっているのも、素敵だと感じます。しかし、それほどの興味や時間等はないが、社会的に良いというように賛同できるのであれば、募金や寄付という手段も活きてくると思います。社会に良さそうなことSNS等で主張している人でも、活動はおろか、もっと手軽な寄付・募金等もしたことない人が意外にいて驚くことがあります。このような人のアドボケイトの原点は肥大した承認欲求なのでしょうか。

 コミュニティ活動に限らず社会的課題を扱う大きなところであれば、クレジットカードで楽に毎月の継続寄付ができるようなところもあります。ハードルを上げるような口先で表面的に良いことを言うだけよりも、各個人に合わせて簡単にやれることは複数あると思います。

 

 この本は、公衆衛生、社会疫学的な視点、詳しいデータも含めて丁寧に書かれています。気持ちよくなるぐらい弱者の代弁(アドボケート)をしています。実践と謳われていますが、医療現場SDHへの介入としてできることそこまで多くないことも把握できる良書だと感じます(本当の著者等の意図は分かりません)。ミクロな視点で医療現場でできそうなこととして、治療負担に目を向けて、医療費(薬や治療の選択、残薬に合わせた処方等)、受診しやすい時間・曜日・回数というようなことがあります。多くはSDH診療というフレームで意識しなくても、普段から意識する程度のことに感じます。

 

 他にも、書籍まで買わなくてもSDH診療へのアプローチに興味がある人は下記のような論文(Free article)も良いでしょう。全体像を把握しやすいFigure1もおススメです。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

(文献)Pinto AD, Bloch G. Framework for building primary care capacity to address the social determinants of health. Can Fam Physician. 2017 Nov;63(11):e476-e482. PMID: 29138172; PMCID: PMC5685463.


 

自分のためのエゴ?

 医療に持ち込まれた社会的な課題に対して、社会的なつながりを処方することが「社会的処方」ですが、医学部や医師の世界で自分自身生きにくいこと街・地域(医療の外)に出れないことを穴埋めするためにアドボケート(弱者の代弁)をしながら、見たいところだけを見る(触れたいところだけに触れる)というような形で曲解して使われている可能性を感じました。共依存や、どのような人も来る可能性がある患者との距離感の近さによってはいずれ精神的な負担を感じる人も出てくるかもしれないというようなリスクを感じました。

 他にも、「こういう"医療者"になりたい」という想いに医療以外も含みすぎて、思想正義強すぎたり偏ったり、他職種のために何かすることがアイデンティティとなったり、満たされないものを満たしている可能性も感じました。他人にあまりにも耳障りの良い職業観や美徳のような価値観まで強要するのはいかがなものかと思いますし、医療者という職業に無理矢理こじつけすぎているような想いまでありませんか。まずは医療において、価値観や思想よりも機能をしっかりと果たすことで信頼されるのではないでしょうか。

 医療の範囲を超えて、専門外の素人としてではなく、医師(特に公衆衛生以外の臨床医)が社会的課題の専門職として口出しをしているとしたら、プロフェッショナルとして残念に感じました。結果として、穴埋めになることはあるでしょうし、切り分けにくい問題として少しぐらいは動機になることもあるでしょう。しかし、それを隠すためキレイごとで包んでしまうと、さらに厄介になると感じています。また、アドボケート(弱者の代弁)も大切ですが、口先だけでは、いつも耳障りの良いキレイごとを言っているが、ちょっとした思いやりのある行動ボランティア募金・寄付等しないのと似ているのではないでしょうか。

 そして、ナラティブアプローチのようなコミュニケーション技術に加えて、医師という職業や医療を使って自分自身の個人的なコミュニケーション不足・人と話したい欲求承認欲求・自己顕示欲満たすために、まちでコミュニケーションを取ることが目的だとすれば、恐ろしいエゴのように感じます。むしろ、その弊害があるのではないかと感じたこともあります。医学・医療を介さないとコミュニケーション等が取れないのでしょうか。そもそも普段の関係性の中でも、すべてではないにしても建前やキレイごと抜きでも気楽に話せるような人がいないのでしょうか。コミュニケーション技術をプライベートでも有効活用することも良いと思いますが、医学・医療や医療系学会とは切り離してやればよいと思います。カウンターのお店でも、フェスでも、コミュニケーションがあって充実した時間を過ごせるところがあります。

 例えば、まちの人と話してみたいとして医療でお膳立てした企画・場所を開いても、どれだけの人と自然な会話ができるでしょうか。医療機関や医療学生団体などにより医療でお膳立てしないと街・地域(医療の外)に出れないのでしょうか。広義に何かを提供するのではなく、家庭医療のアイデンティティのようなお話をされたら、医療者以上に街の人はどう思うのでしょうか。過去の経験から、医療絡みの会に来るのは医療に興味がある一部の人だけという可能性が高いでしょうし、医療への不満など、医師・医学生に遠慮して言いにくいこともあると思います。そういう配慮によって、形式的に都合良く気持ちよくコミュニケーションはできるかもしれません。それこそ、そういうコミュニケーションであれば、男性であればキャバクラやスナックへ、女性であればホストへでも行けばいいかもしれません。

 しかし、社会的処方の根本にあるような社会的なつながりであれば、最初から医療関係にお膳立てすることなく、自分のダメなところ込みで、人としてコミュニティ活動も含めて普通個人として街に出ればいいと思います。その人の人となりで自然と評価され、仲間が見つかっていくでしょう。

 「多様性」を言い訳に医師・医療系の中でするより、そもそも別でその枠の外で普通に行えば良い気がします。ボランティアまでしなくても、簡単なところで言えば、観光地化していない銭湯とか、カウンターのあるお店とか、個人のお店とかに行けば、自然コミュニケーションが生まれるものだと思っています。飾らずに普通に話していればいいのです。話の流れで仕事のことを聞かれて、「医療者だった」でよいでしょう。

 また、社会的処方を必要としているような人に対する社会的つながりを提供することが主な目的なのか(結果として様々な世代や人が集まることも)、普通の人には普段使いしにくい、ちょっと“おしゃれ”で自分にとって居心地のよい人向けの居場所やイベントを作りたいということが主な目的なのかも、意識したほうが良いと思います。後者であれば、社会的に必要で、医療(保険診療)・福祉として公共で介入する部分かも吟味する必要があると考えています。それ以上に、個人的にやってみたいことや楽しいことをするために高等な理由(医療、地域のため等)が必ずしも必要でしょうか。結果として他の人に役立つことはあるでしょう。特に大義名分のような理由なんてなくてもよいので、個人で楽しめばいいと思います(そして口に出さずに心の中なら、どんなことを感じてもいいでしょう)

 他にも身近な所では、主に高齢者の交流を図ることを目的でゲートボールをやっているところがあります。地域の交流が主の目的の定期的な企画ですら、点数で勝敗のつくチーム競技で勝敗に本気の人がいてチーム編成すら悩むこともあります…。一筋縄にはいきません。リアルでは時間的場所的制約もあって、なおさら若年・中年の人には、そういう会に参加するのは苦労するかもしれません。

 そもそも、社会的処方にしても、医療機関が接点になりやすそうな高齢者だけが対象ではなく、中年男性のような孤立した人もいいます。中年層より若い人であれば、チャットAIによる対話もある考えられるでしょう。リアルの趣味・ボランティア等のコミュニティだけでなく、手軽なオンラインサロンや、趣味のオンラインコミュニティといったところからでも良いでしょう。ただし、短期間に「何者かになりたい」欲や「簡単に稼ぎたい」欲のようなものを対象にした情報ビジネス集団やマルチ集団や、行き過ぎた自分探し・陰謀論等の怪しい思想等のグループには気をつけてください。まともな人が自分の周りから減って、そういう人間関係だけになっていき、そこから抜け出せなくなり、結果として孤立してしまう可能性があります。

 地方の狭いコミュニティのような場所で神童で「いい子」として育ってきて、殻があったり、狭いコミュニティで医者だとバレていて先入観のあるような場合であれば、持続性は抜きにして旅先や、ちょっと隣町や職場の近くのような場所やオンラインも使えるでしょう。仕事以外でも「医者はこうあるべき」というような古い概念に囚われている、囚われざるを得ない環境にいるのでしょうか。

 やはり、これらは社会的処方でも必要とされる社会的つながりであり、多くは医療の外で主に解決されるような内容でしょう。医師が「社会的処方」について知らずに、しかも医療者側の社会的つながりの欠如や勉強不足のようなものを自ら医療に持ち込んでどうするのでしょうか。共依存でしょうか。他職種に連携できる環境であっても、他職種の仕事までして働くことによって支持者ができることでアイデンティティや外発的動機が満たされるのでしょうか。まずは、社会的処方について把握して欲しいと思います。

 

 それでも、医者・医療者が専門職としてリンクワーカー以上に社会的課題に介入すべきだと考えるなら、「医師・医療者による社会的課題への積極的/直接的介入」というように新たに命名して行えばよいでしょう。医学教育の分野でも、再現性が高いのか分からない、個人の道徳観や価値観のような、似たようなことを一部で感じることもあります。医療者による直接的な社会的な課題への介入に対して研究で効果を測る等によって科学的根拠や高いエビデンスレベルを示したり、公共性の高い保険診療であれば費用対効果などを示したり、優位性合理性を示したりすることができれば、再現性のない個人的な趣味価値観の延長ではなく医療として広がっていくひとつの手がかりになると思います。




3. 最後に

 いろいろと本の内容から広げた感想を述べてしまいましたが、まずは大好きな人も、大嫌いな人も、社会的処方について把握してみてほしいと感じて、この本を紹介しました。なんでも「医師が/医療で」と出しゃばらなければ、またボランティア等の個人的な活動であれば、合理的な目的等を期待して考えられた素敵な活動だと思います。

 

 元々は、下記読書ログ医療への類推・感想での出来事から色々と考えました。再度この本を読んで、もう少し社会的処方の先の活動を見ておこうとなりました。そして先日、東北某所にて社会的処方をした先の社会的問題を扱う活動を個人的に非医療者を通じて開催者側のお手伝いとして参加させてもらい、色々と整理するきっかけになりました。その節はありがとうございました。

 医療者以外の社会的課題を扱う活動へあくまで人力程度に実施側として参加して、「医療者がどうこう言える問題ではない」、「その道の専門家の方が良い」と肌で感じたのも、この本の内容への理解深めることにつながりました。

mk-med.hatenablog.com

 

 改めて、医師としての軸となる専門性についても考えたり、社会的な課題に対して医療(臨床)で何でも「医者が、医者が」のような理解に苦しむ一部の人達とは適度に距離を置いておくことを自分自身に納得させる材料のひとつになりました。また、新たな出来事やエビデンスによって変化していくと思いますが、とりあえず筆をおきたいと思います。ありがとうございました。 



 

 読者レビューや目次、内容の概要をはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

 

 また、2024年2月29日に下記の書籍『みんなの社会的処方 人のつながりで元気になれる地域をつくる』が出版されました。改訂のかわりにあたるものであると思われます。




医学書ログ・読書ログ一覧】

読書Log:『白い巨塔が真っ黒だった件』 大塚篤司(著)|アカデミアや医学部教授になりたい人に

読書ログ(<書籍紹介

白い巨塔が真っ黒だった件』

大塚篤司(著),幻冬舎

アカデミア医学部教授になりたい人に~

 

<目次>

 

 Twitter@otsukaman)でも情報発信をされているのでご存じの方も多いと思います。大塚篤司先生の著書白い巨塔が真っ黒だった件』の読書ログです。

 タイトルの白い巨塔ですが、ドラマで話題となったように象牙の塔(ivory tower)とも言われ、学者の現実(俗世)離れした世界のことも意味します。その白い巨塔真っ黒だったということです。どのように真っ黒であったのか気になる作品です。帯には「“ほぼほぼ実話!?” 教授選奮闘物語」とも書かれている、タイトルや帯からも大変興味深い書籍です。

 

https://m.media-amazon.com/images/I/5115FxvHpDL._SY291_BO1,204,203,200_QL40_ML2_.jpg

 

1.【こんな人におすすめ】

  • アカデミアを考えている人
  • 医学部教授になりたい人
  • 風通しの良い医局を作りたい人
  • 大学院(博士課程)を考えている人

 

 ひとことで言えば、「アカデミア」ですが、医局への入局とセットで大学院での研究も必要なようなところもあったり、研究より医学部教授に興味があったり、医学部教授には興味がないものの研究に興味があったりというような人もいると思いますので、このように分けてみました。また、結果として風通しの良い医局を作りたいと考えている人も、教授になるというような手段の達成という視点からもおススメです。

 

 

 

2. 感想など

 何より、ペンネームではなく実名でこの本を世に出してくださった大塚先生には頭が上がらない思いです。そして、風通しの良い医局が増えることに希望を与えたり、教授選の不条理と戦い、風通しの良い医局を作ろうとしている人に勇気を与えるような本でした。

(注)著書内の教授選のときのように実名発信はリスクになりうる医療業界です。あくまでフィクションということですが、ご経歴や書籍の中の描写を考えれば、大学院・教授選といった内容は京都大学(京大病院)時代のことをもとにしている内容だと推測しています(あくまでも私個人の感想です)。

 

 内容として、まずは大学院での話から始まります。研究室でパワハラを受ける話、教授の愛人の話、国際学会の話、そして教授選の話と続きます。はじめは、大学院時代の話で、教授の愛人が秘書さんという設定でした。私が変なのかもしれませんが、「今回は学生さんや女医さんのパターンではなかったのか」とか、そのように感じるレベルでした。ハラスメントや学生相手の男女関係の問題など、現代の常識からすれば無くなってほしい良くないことではありますが、導入部分から内容的にも違和感を感じず、そのまま作品に引き込まれていきました。世間一般からすれば、医療・医局界隈の裏話かもしれません。

 色々と乗り越えて、話は教授選の話に移ります。教授選が3回もあり、ここが山場です。教授選が業績だけではない不条理な側面もストーリーで具体的に触れられていたり、敵か味方か分からない本音の言えない政治の駆け引きのような場面が描かれていたり、怪文書の話が描かれていたりします。教授選1回目、2回目と変化して少しずつ対策もされていく部分も参考になると思います。どのような展開になるのか、詳しくは手に取って読んでもらえればと思います。

 また、ストーリーの中で登場する谷口先生のような恩師にもなりうるような先生の存在の大切さも感じました。それこそ、研究に対する姿勢や組織としての見本になると思います。

 

 

 作品として表現場面展開にも注目してみたいと思います。例えば、次のような表現もあります。

  • (研究室の)ぼくの机の上に墓石が立った
  • 「私に逆らったら、この県では医者を続けられないからね」
  • 「ええ、アカデミアの世界にはマフィアが住んでいます」

 いかがでしょうか。驚きましたか。むしろ言われていることに違和感を感じず、上手な比喩表現だと感じる私は、またしても変なのかもしれません。親しみやすく、連想しやすい比喩表現をはじめ、全体を通して読みやすく感じました。

 表現だけでなく作品の方向性メッセージ素敵でした。大学院や教授選での悲しい出来事もちゃんと表現されつつも、全体としては希望が持てるような流れの作品になっています。風通しの良い医局ができることを期待させてくれることや、大変な大学院や教授選を通じて、派閥だけでなく嫉妬や妬みに邪魔されたとしても前向き次こそ良いもの実現させていこうという意気込みを感じました。

 

 このような内容や作品性から、アカデミアを考えている人、医学部教授になりたいと思ってる人に参考になる、希望が持てる貴重な書籍だと思います。フィクションであっても先人の失敗談から学ぶことができることや、リアルに感じて臨場感が湧くことも大きな利点だと思います。ぜひ、本を手に取って、ストーリーの内容・展開や表現をはじめ、好奇心とともに読んでみてほしいと感じます。

 若手の進路を考える際の参考になるという視点でみると、アカデミアについて解像度上げて想像しやすかったり、後を追う若手として教授選や医局員としての危険回避するために参考になる部分があるというのは貴重なものだと感じます。もちろん、この本では特に触れられていないお金結婚・家庭の話等もお忘れなきようにお願いします。

 比較として、『レジデントノート』2023年6月号「若手医師の進路選択」を挙げてみます。以前からお話を伺っていたこともあって拝見しましたが、志望動機、診療科の良い点・悪い点、休日の過ごし方というような「よくできた」会社説明会資料のような内容に感じました。それとは異なった解像度作品性こそ、アカデミアを考えている人に刺さるものがあると思います。

 著書のストーリー上で教授に就任されたC大学(近畿大学と推測)のような、風通しのよい医局をつくってみたいという若手の夢後押ししてくれるのではないでしょうか。そして、ついていきたいと考える人もいるのではないでしょうか。私であれば、途中で医局を辞めて他の都道府県に逃げて開業しているかもしれないとすら想像される場面でも、アカデミアを諦めずに前向きに進む勇気をもらえます。

 

ChatGPTによる感想まとめ

 せっかくなので今回の感想等をまとめて、200文字程度でChatGPTに本の紹介文を作ってもらいました。

 大塚篤司先生の『白い巨塔が真っ黒だった件』は、アカデミアの暗部をリアルに描き、風通しの良い医局を目指す若手研究者や入局志望者に希望と勇気を与える一作。教授選の厳しさや政治の駆け引きをリアルに描写し、先人の失敗談から学ぶこともできる。フィクションだが、リアルな臨場感があり、アカデミアや医学部教授になりたいと考える人に貴重な一冊。

 私には書けない文体で書いてくれるのが、チャットAIの魅力です。ポップアップ広告やキャッチコピーのようなものも考えてくれるでしょう。(2023年8月2日追記)

 

 

 

3. 最後に

 アカデミアを考えている人が、「私も理想の医局を作る」というような勇気をもらえる本だと思います。そして、大塚先生の掲げるような風通しの良い医局・医療現場がさらに増えればと思います。

 ぜひ、皆さんも前向きになれる勇気前進するための知恵をもらえるような作品を手に取ってお楽しみください。

 

 

明日があるさ(夕暮れとともに)

 京都の街を彷彿させる描写もありました。それとは関係ないですが、明日も頑張ろうと思える夕暮れの街並みの写真とともに今回の読書ログを締めたいと思います。

 

 

【関連記事】

mk-med.hatenablog.com

 

 また、過去の読書LogでSDGsに関する本を取り上げた際に、持続可能な働き方・医療について感想を述べたことがありました。その際に、部活動指導による過酷な労働環境の中学校教員医師の働き方の類推をしました。そこで取り上げた『ブラック部活』という部活指導を発端とする教員のブラック職場と今後に向けて書かれた本にも似ていると感じました(下記)。今回はそのような本のアカデミア版とでも言えばいいのでしょうか。

mk-med.hatenablog.com