"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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薬と便秘|抗ヒスタミン薬の機序や分類・鎮静性、便秘の頻度の深掘りまで

便秘

ヒスタミン機序分類鎮静性、便秘の頻度深掘りまで~

 

<目次>

 

 

 春の訪れを感じる小春日和の中、スギ花粉が猛威を振るう季節になりました。そして桜の開花の訪れとともに次はヒノキ花粉でしょうか。

 3月に入ってから花粉症(アレルギー性鼻炎のために薬を飲んでいるのですが、飲んでいる薬によってはお通じが…(便秘気味)、なんてことがあることにふと意識が向きました。副作用・有害事象がない訳はないですが、ヒスタミン服薬をきっかけにちょっと調べてみようというような記事になります。

(注)服用中の薬のトラブルにつきましてはかかりつけ医等を受診またはご相談ください。

 

 

1. 便秘副作用にある

 ヒスタミン便秘の原因になりうるということでしたが、薬には様々な副作用があります。横切りの視点で便秘をもたらしうる薬を調べてみました。

 

 便秘の原因は多因子であり、薬物有害事象としてもよく見られる。便秘の発症に関与する一般的な薬剤は次の通りであった。

便秘と関連のある薬(薬の副作用)
  • オピオイド誘発性便秘は最も一般的で持続性のある副作用で、オピオイド投与患者の40-81%で認めると推定される。
  • 年齢、女性、AISスコア、催眠薬の使用が便秘と有意に関連していた。

(出典)J UOEH. 2019;41(2):145-151. doi: 10.7888/juoeh.41.145.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 案外、多いですね。入院中の便秘下剤も話題になることがありますが、身近さを感じます。便秘の発症原因になりうる薬剤として、オピオイドで最も頻度が高いものであったとしても、他の薬が原因のものも十分に多そうです。

 オピオイド、非ステロイド性抗炎症薬、三環系抗うつ薬、抗パーキンソン薬、抗精神病薬、抗痙攣薬、抗ヒスタミン薬、抗痙攣薬、催眠薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬、中枢性降圧薬、抗不整脈薬、βアドレナリン受容体拮抗薬、胆汁酸分泌抑制薬、アルミニウムまたはカルシウム含有制酸剤、鉄サプリメント、カルシウム補助食品、次硝酸ビスマス、リチウム、ビンカアルカロイド、アルキル化剤、交感神経刺激薬、モノアミン酸化酵素阻害剤、ビスフォスフォネート、5-ヒドロキシトリプタミン3受容体拮抗薬(5-HT3受容体拮抗薬)と多岐に渡るようで、それぞれの薬が便秘とどのように関連しているのかが気になります。

 

 

 

2. 便秘分類・機序

 便秘の機序を復習してみることで、先ほどの薬(特に抗ヒスタミン薬)と便秘がどのように関連しているのかを調べてみたいと思います。機序的な部分への理解を深めるために、急性・慢性のような分類方法もあると思いますが、機序に基づいたような分類方法を探してみたいと思います。

 

  • 便秘の病態生理学は多因子性であり、患者によって異なる。原発性便秘(一次性便秘)の原因は、排便障害、通過遅延、通過時間正常の3つのいずれかに分類される。
  • 原発性便秘を診断する前に、まず続発性便秘(二次性便秘)を除外すべきである。薬歴から、オピオイドや抗コリン役のような便秘を生じうる薬を特定できることがある。また、続発性便秘は、糖尿病、慢性腎疾患、脱水、パーキンソン病、エーラス・ダンロス症候群、その他の結合組織障害の結果であることもある。

(出典)Aliment Pharmacol Ther. 2021 Jun;53(12):1250-1267. doi: 10.1111/apt.16369.

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

 出典では、原発性便秘大きな3つの分類として、排便障害と、腸管の通過時間で2種類の計3種類について触れられていました。腸管の通過時間では、正常のものと遅延のものに分けられます。

 今回はヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)ということで続発性便秘になりますが、理解のために原発性便秘の分類を使わせてもらえば、おそらく「通過遅延」に近いタイプであると考えられます。通過遅延にはどのようなメカニズムでなるのかも答え合わせをしながら深掘りしてみたいと思います。

 

 

 

3. 抗ヒスタミンによる通過遅延

 私の身近にあるアレルギー性鼻炎(鼻水)向けのOTC薬をチェックしてみました。クロルフェニラミンマレイン酸が主成分のものや、フェキソフェナジン塩酸塩が主成分のもの、セチリジン塩酸塩が主成分のものなどがありました。これらが抗ヒスタミン作用をきたす主成分で、主にヒスタミンH1受容体拮抗薬として作用するものです。

 ヒスタミンH1受容体分布機能などを調べてみたいと思います。

 

  • ヒスタミンH1受容体は全身に広く分布しており、中枢神経系(CNS)、平滑筋、知覚神経、心臓、副腎髄質、免疫細胞、内皮細胞、上皮細胞などで発現していることがよく知られている。
  • H1受容体の膜貫通ドメイン3および5との結合を介して、ヒスタミンは呼吸器や消化管の平滑筋収縮を刺激し、知覚神経を刺激してそう痒やくしゃみを引き起こし、血管透過性を亢進させて(プロスタサイクリン、血小板活性化因子、vWF、一酸化窒素を介して)浮腫を引き起こす。
  • H1受容体は中枢神経系におけるヒスタミンシナプス後作用のほとんどを媒介する。また、多様な分布と様々なエフェクター活性を持つH1受容体は、アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、結膜炎、蕁麻疹の発症に関与している。
  • ヒスタミンを介したH1およびH2受容体の同時活性化は、血圧低下、頻脈、潮紅、頭痛などのアナフィラキシーの臨床症状を引き起こす。

(出典)Mandola, A., Nozawa, A., & Eiwegger, T. (2019). Histamine, histamine receptors, and anti-histamines in the context of allergic responses. LymphoSign Journal, 6(2), 35-51.

http://dx.doi.org/10.14785/lymphosign-2018-0016

 

 上記の中でも、ヒスタミンH1受容体への刺激による消化管平滑筋の収縮抑制されることで蠕動運動が抑制され、便秘もしくは便秘とまではいわなくても、お通じが悪くなるということがあると考えると、ヒスタミン便秘の関係も綺麗につながります。「抗コリン作用」というような表現もみたことがあるのですが、上記のようなことを示しているのだと思います。

 脳にもヒスタミンH1受容体がありますね。眠気に関連する、世代の新しい抗ヒスタミン薬で眠気が生じにくいというな話がありましたので、整理してみたいと思います。

 

 

 

4. 抗ヒスタミン分類

 さらに、今回のきっかけとなった抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)における第1世代第2世代の違いとして次のようなことも言われています。

 

 ヒスタミンH1受容体拮抗薬は、さらに第一世代と第二世代に分類される。第一世代のヒスタミンH1受容体拮抗薬は血液脳関門を通過して中枢神経系(CNS)に移行しやすいが、第二世代のヒスタミンH1受容体拮抗薬は血液脳関門を通過しない。第一世代の抗ヒスタミン薬は中枢と末梢の両方のヒスタミンH1受容体に結合するのに対し、第二世代の抗ヒスタミン薬は末梢のヒスタミンH1受容体に選択的に結合する。このため、治療と副作用のプロファイルが異なる。

(出典)Farzam K, Sabir S, O'Rourke MC. Antihistamines. 2023 Jul 10. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan–. PMID: 30844215.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 血液脳関門通過性が副作用としての眠気の程度に影響してくる部分でしょうか。出典では血液脳関門を「通過しない」という表現でしたが、実際には第2世代では一般的に通過しにくいというべきだと思います。

 

 さて、第2世代抗ヒスタミン薬でも鎮静性を気にすることがあると思います。眠気の原因となる鎮静性のあるものと非鎮静性のものがあるため、第2世代抗ヒスタミン薬でも鎮静性の有無という視点もありますが、第1世代と第2世代に分けて考えることが多いという事を文献から感じました。

 

 

 

5. 抗ヒスタミン鎮静性

 先ほどの第1世代、第2世代のところで鎮静性というキーワードが出てきたため、そこを少し深掘りしてみたいと思います。

 小児診療や自動車の運転を考える際には抗ヒスタミン薬の鎮静性を気にすることがあると思います。眠気はあくまでも主観的な側面もありますが、鎮静作用と関連してくる部分でしょう。

 先ほどの抗ヒスタミン薬の世代だけでなく、鎮静性の有無・程度もチェックしておこうと思います。

 

 第2世代抗ヒスタミン薬の一部は脳内に移行してH1受容体を占拠する場合もある.必ずしも第2世代であるからといって非鎮静性であるわけではない.第1世代抗ヒスタミン薬(鎮静性)が50%以上の脳内H1受容体を遮断するのに対して,第2世代は大方30%以下である5).ただし,“第2世代”と称していても必ずしもゼロではなく,第1世代との違いは中枢移行性の相対的な差である.

 抗ヒスタミン薬のうち、脳内ヒスタミンH1受容体占拠率が20%以下のものを非鎮静性、20-50%のものを軽度鎮静性、50%以上のものを鎮静性として分類した場合に下記のようになった。

*第1世代抗ヒスタミン

(出典)日耳鼻112: 99-103, 2009

www.jstage.jst.go.jp

 

 また、日経メディカルに鎮静性の指標として脳内ヒスタミンH1受容体占有率を分かりやすい図で説明されています。よろしければ、下記URLもご確認ください。

medical.nikkeibp.co.jp

 

 先ほどの例で挙げた抗ヒスタミン薬の主成分であるフェキソフェナジン非鎮静性クロルフェニラミン鎮静性に分類されています。このような薬の鎮静性の違いにも注目しつつ、両者の便秘などの違いが気になりました。せっかくなので先述の文献の中でもっとも鎮静性が高いd-クロルフェニラミンと最も鎮静性が低い(非鎮静性であった)フェキソフェナジンの便秘等の頻度の違いがあるのかが気になりました。

 

 

 

6. 抗ヒスタミンによる便秘程度

 便秘の機序や抗ヒスタミン薬の作用する機序・分類に対しても理解が深まったところで、便秘頻度程度について気になったので、深掘りしてみることにしました。

 

 PubMedで「これだ!」というようなものは見つけられませんでした。便秘がそこまで重要な比べるほどの副作用ではないのかもしれません。

 前章までの経緯から、d-クロルフェニラミンが主成分の第1世代ヒスタミン薬とフェキソフェナジンが主成分の第2世代ヒスタミン薬の違いにも着目してみたいと思います。特にどの商品がどうであるという意味ではなく、成分による比較として、PMDAでチェックしてみたいと思います。

 

d-クロルフェニラミンのその他の副作用として便秘を認める割合は5%以上または頻度不明であった。

(出典)添付文章: d-クロルフェニラミンマレイン酸塩錠2mg「NIG」, 2023年 11月改訂 ( 第1版 )

 

フェキソフェナジンのその他の副作用として便秘を認める割合は0.1%未満であった。

(出典)添付文書: フェキソフェナジン塩酸塩OD錠60mg「YD」,2023年 10月改訂 ( 第1版 )

 

 第1世代抗ヒスタミン薬で最も鎮静性の高かったd-クロルフェニラミンの方が便秘の頻度も高い、もしくは頻度不明という結果になりました。最も鎮静性の低い(非鎮静性であった)フェキソフェナジンは頻度が0.1%未満という結果でした。

 抗ヒスタミン薬の世代による違いなのか、鎮静性の程度の違いによるものなのかは分かりませんでした。そのため、他にも2番目に鎮静性高い第2世代ヒスタミン薬であるケトチフェチンや、第1世代ヒスタミン薬の中では最も鎮静性低いクロルフェニラミン(それでも鎮静性に分類)も調べてみることにしました。

 

 ケトチフェンのその他の副作用として便秘を認める割合は0.1%未満であった。

(出典)添付文章: ケトチフェンカプセル1mg「日医工」, 2023年12月改訂(第1版)

 

 クロルフェニラミンの副作用における便秘の記載なし。

(出典)添付文書: クロルフェニラミンマレイン酸塩散1%「日医工」, 2023年 5月改訂(第1版)

 

 クロルフェニラミンマレイン酸塩注射液のその他の副作用として便秘を認め、頻度は不明である。

(出典)2mgクロダミン注 5mgクロダミン注, 2023年 1月改訂(第1版)

 

 

 決して便秘の頻度は多くなさそうですが、あくまで一例であり用法容量等によっても異なってきます。あくまで推測として鎮静性の高い薬や第一世代用量の多い場合や投与方法の吸収率の高そうなものの方が便秘も生じそうですが、はっきりとは分からないというような感じとなってしまいました。個人の相性はもちろんのこと、薬次第といった印象です。

 具体的にお使いのお薬・身近なお薬の副作用などが気になる場合は下記の医薬品医療機器総合機構(PMDA)ホームページの添付文書等検索より、お薬を検索してみてください。

www.pmda.go.jp

 

 

 

7. 最後に

 本記事における特に後半は好奇心によるものではっきりとしたことまでは示すことはできませんでした。しかし、前半にあるように多彩な薬が便秘と関連しうること、ヒスタミンH1受容体腸管平滑筋の収縮・運動の関係、抗ヒスタミン薬の種類や分類・鎮静性といった何か参考になるものがあれば幸いです。

 また、病棟・外来等で接する機会が少なくない便秘下剤薬の副作用について調べるきっかけにもなれば幸いです。

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

 

【関連記事】

 漫然と「Do処方」され続けていることもあるプロトンポンプ阻害薬の副作用(有害事象)について過去に調べたこともあります。興味のある方はよろしければ、ご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 薬の副作用なのか、疾患なのか。薬の副作用も多く、それを診るロジックについての本になります。興味のある方はよろしければ、チェックしてみてください。

 

FP2級 合格体験記|独学 おススメの参考書や勉強方法・受験への悩みetc (医師に不要!?

FP2級 合格体験記|独学

  • おススメ参考書勉強方法受験への悩みなど
  • 医療者/医師には不要?

 

<目次>

 

 今回はFP2級(2級ファイナンシャル・プランナー技能士の試験の合格体験記です。日本FP協会の試験を独学で受験しました。FP3級の合格体験記の続編のような位置づけで受験理由から合格まで、勉強法・参考書等に触れながら記事にしてみたいと思います。

 全く畑違いの医療職の人間が受験する理由を考え、独学で勉強して合格しました。このことから、お読みいただいた方の何かヒントになることがあれば幸いです。

(注)受験に際して抱いた「FP2級以上が必要か」という悩み「受験のあとがき」に詳しく書きたいと思います。

 

 

1. FP2級とは

 FP2級は、正式には2級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP技能士)という国家資格です。ライフプランニングと資金計画年金保険リスク管理金融資産運用タックスプランニング(税金)不動産相続のようなことを学びます。

 FP(ファイナンシャルプランナー)は簡単な方から順にFP3級、2級、1級とあります。FP2級はFP3級合格後、もしくは認定講習を修了、もしくは2年以上実務経験をした人となり、FP3級の次の中等度の難易度(内容の深さ)といった感じです。

FP2級 合格体験記(独学)

 

 

2. なぜ受験するのか

 FP2級をどうして(なぜ)受験するのでしょうか。個人的にはFP3級延長で、節税や節税を謳う勧誘対策、資産設計・貯蓄、相続対策といった個人のお金のことにおける制度上での知識を学ぶためです。普段から使っている知識の客観視という視点もあります。

 具体的にこうすると節税になるとは書いてありませんが、例えば、話題のNISAにしても制度として学ぶことでできます。FP3級は入口という感じがして、さらに学びを深めようという事で受験することにしました。

 基本的に何が学べるか、なぜ受験するかというような辺りについて詳しくはFP3級の記事をご覧ください。

 mk-med.hatenablog.com

 

 

 私は医療者のため、ファイナンシャル・プランナーという資格は直接的には関係ありません。また、FPは業務独占資格(例: 医師)や設置義務資格(例: 宅建士)でもないため、資格ビジネス的な側面も勉強利用させてもらい技能証明という程度に考えています。中には会社で取得するように言われている人や、資格取得によって手当の付くような人もいるでしょう。また、民間資格のAFPやCFPの取得、FP1級を目指す入口にもなるでしょう。

 2級を含むFP技能士は国家資格で生涯有効であり、維持費もかかりません。一方、民間資格AFPCFPは入会費・年会費のような形で資格の維持費がかかるため、業務等で本当に必要な人だけで良いと判断しました。

 FP2級以上を受験するかを悩んでいる方は「受験のあとがき」も、よろしければご覧ください。

 

 

 

3. 受験申込

試験2団体から

 FP2級の試験(2級FP技能検定)は試験を行う団体実技試験の内容によって大きく2つに分けられます。

  1. 日本FP協会: 資産設計提案業務
  2. きんざい(金財): 個人資産相談業務、生保顧客資産相談業務、損保顧客資産相談業務、または中小事業主資産相談業務

 

 実技試験の内容ですが、日本FP協会の資産設計提案業務と、きんざいの個人資産相談業務はいずれも似ています。試験全体として、金融資産、不動産、贈与・相続、ライフプランニング、年金、税金、生命保険のようなものを扱います。

 多くの場合、受験が手軽な日本FP協会の試験を選択すると思います。私も日本FP協会の試験を受験しました。以下、日本FP協会のFP2級を軸にお話していきたいと思います。

 

 学科試験四肢択一形式の選択肢問題でマークシートへの記入です。実技試験は選択肢・正誤問題、計算結果の数字の記入または選択です。

<試験科目・日程>

  • 学科試験(午前): 120分 60問
  • 実技試験(午後): 90分 40問

 基本的には同一日の午前と午後で学科試験と実技試験をセットで受けます。年3回(1月、5月、9月)に試験が実施されています。

受験料11,700円(学科試験5,700円+実技試験6,000円)になります。

(注)2025年度以降、CBT形式による実施を検討しているようです。

 

 

受験資格

 FPは好きな級から受けられるわけではありません。FP2級の受験資格は下記の条件のいずれかを満たす人になります。

  • FP3級の合格者
  • AFP認定研修の修了者
  • FP業務に関し2年以上の実務経験者

 

 私の場合はFP2級のことが頭の片隅に浮かんだときからFP3級を受験しました。FP3級は持っていないけれども、業務経験はないけれども、必要なので早く取得したいというような際には認定研修という選択肢もあるでしょう。私はそのような目的はなく、よほど興味のあるもの以外においては、時間効率の観点からも講義あまり好きではありません。無駄な時間・出費は減らしつつ学ぶことに焦点を当てています。

 

 

試験申込

 インターネットからクレジットカード決済で申し込みが可能で、写真も不要で便利でした。受験申込みを済ませれば、あとは試験勉強をするモチベーションが湧いてくるのではないでしょうか。

 FP2級の試験は年3回(1月、5月、9月)に試験が実施されていますが、その試験日の約2カ月前が申込時期になります。申込時に住所のある各都道府県での受験となります。

 試験申し込みや試験範囲など、最新のものは詳しくはこちらをご確認ください。受験要項も必ずチェックされることをおススメ致します。

www.jafp.or.jp

 

 

 

4. 試験傾向チェック

 受験すると決めた段階、もしくは受験申込みをした段階(約2カ月前)で早めにチェックしておくことで、その後の勉強の見通し立ちやすくなると思います。

 チェックすべき項目は合格基準出題範囲過去問(サンプル問題)の大きく3つに分けられます。

 

合格基準

 学科試験と実技試験のそれぞれ60%以上得点率で合格となります。合格に得点率こそFP3級と変わりませんが、合格率はFP3級では70%程度であったものが、FP2級では40%程度まで低くなっています。一般的には学科試験より実技試験の方が合格率の低い傾向にあるようです。

 とりあえず、少しは余裕が欲しいということで目標得点率は70%にしました。皆様も目標を設定してみてください。

 

出題範囲

 学科試験の出題範囲は、ライフプランニングと資金計画、リスク管理、金融資産運用、タックスプランニング、不動産、相続・事業継承です。ライフプランニングの中に年金の話が含まれていたり、リスク管理の中に保険の話が含まれていたりします。

 実技試験は、資産設計提案業務として、関連業法との関係及び職業上の倫理を踏まえたファイナンシャル・プランニング、ファイナンシャル・プランニングのプロセス、顧客のファイナンス状況の分析と評価、プランの検討・作成と提示を扱います。学科試験の知識が実際に近い形で使えるか、お金の計算過程で用いられるかというようなものにシフトしている感じです。

 

 

過去問チェック

 やはり、試験合格するとなれば、最初のうちに過去問をチェックするべきであると考えています。CBT試験になればサンプル問題も大変参考になることでしょう。計算などの長い問題が、紙面ではなくパソコンでの画面に合わせた問題になる可能性もあります。

 特定の回の試験の過去問をひと通り解いてみて、合格基準と照らし合わせて、必要とされる知識範囲・深さ、処理能力を確認します。得点率も含めて、自分自身の持ち合わせている知識・処理能力と試験で必要とされる知識・処理能力の乖離も把握します。

例えば、次のようなことをチェックします。

  • 各分野の求められている内容実力乖離
  • 試験時間への余裕
  • 実技試験の問題形式配点
  • 実技試験を含む計算問題の注意点

 

 人によって、相続税の話は知識、計算問題含めて問題ないけれども、不動産の分野の知識が曖昧、税金の控除の計算をする際に所得控除と税額控除の2種類をミスしやすい/先に引くのか後で引くのかミスしやすい、試験時間には余裕がある、というような人それぞれの得意な点と苦手な点を把握するのにも役立ちます。

 学科試験は、選択肢4つから1つを選ぶ問題(四肢択一)で、基本的には選択肢の文章を読む問題です。「最も不適切なもの」を選ぶ問題が多い印象でした。計算問題というほどの計算問題もありません。「最も適切もの」を選ぶ問題もありますが、「最も不適切なもの」を選ぶ方が曖昧な知識があると説きにくく、少し難易度は高くなっていると感じました。学科試験はどの問いも同じ配点でしたので、配点については特に気にする必要はないと思います。

 実技試験は、計算問題で各空欄に対して適切な数値などを記入、もしくは選択肢から選ばせる問題が実技らしい反面、多少は普通の選択肢問題のようなものも含まれている印象です。計算問題でそのまま計算結果を書かせるような問題は一部といった感じで、実技と言っても選択肢問題で取り切れれば合格できると思います。

 意外とチェックする際の抜け目であったのが、実技試験配点と出題形式です。ひとつの問いの中に複数の回答箇所(小問)があるような問題では1つあたり1点、ひとつの問いに対して1つの解答欄のみというようなものが2点という配点傾向でしょうか。合格を効率よく狙うとなると、配点の傾斜も気にする必要があると思いますし、本番で初めて知るとビックリしてしまうと思います。計算問題に時間がかかるために試験時間が足りない人であれば、計算問題は後回しというような戦略も考えることがあるかもしれません。

 

 このようなことを把握することで、新たに学ぶ必要があることを把握しつつ、自分自身の必要な部分のメリハリをつけて勉強することができると考えています。過去問は下記からも確認できます。よろしければ、1回分解いてみるのはいかがでしょうか。

www.jafp.or.jp

 

 

 

5. 教材選び

 先ほどの試験傾向のチェックはいかがでしたでしょうか。私は、過去問チェックにおいて、学科試験、実技試験の得点率は50%弱といった感じでした。学科試験は40分ほど、実技試験は60分ほどで解けたので試験時間には余裕があると判断して、知識中心に増強することにしました。

 FP3級を以前に合格していることもあり、全体像は把握できています。そのため、より深い知識肉付けしていくような感覚で勉強していく方針として教材を選びました。また、動画教材を必要とするような状況ではなく、早く学ぶことができる文字媒体のものを中心に学習していくことにしました。

 

 

参考書選び

 先ほどのことを踏まえたうえで教材を探しました。初学者でもないため、動画コンテンツは時間がかかることもあり、下記の点を重要視して文字媒体より教材を選びました。

  • デザインがスッキリ要点分かりやすい
  • 問題解きながら学べる

 

 案外、カラフル過ぎて重要事項が霞んでしまう参考書が多くありました。テキストを読むだけでは、内容が頭に入ってきにくいという個人的な理由もありますが、FP3級取得者にとって「テキストだけでそこまで必要か」と疑問を感じるものが多くありました。そのような中、下記の2つの参考書が候補に挙がりました。実際には、前者『史上最強のFP2級AFP問題集』使用しました。

(注)執筆時の最新版を紹介しています。

 

  • 史上最強のFP2級AFP問題集 23-24年版, 高山 一恵 (監修), オフィス海 (著)

 デザインはスッキリ、2色刷ベースで重要事項見やすいシリーズです。赤下敷きも使用可能で問題の正解を隠しながら、進めることができます。

 大きな引き出しのようなものはFP3級の時からあるので、テキストは不要と判断しました。出題率の高さに基づいたまとめ冊子も付いているのでこれひとつで完結です。まとめ冊子は薄くて持ち運びに便利ですが、問題集は分厚くて持ち運びには少し不便に感じます。そのため、まとめ冊子を持ち運び用にして状況に分けて使いました。

 何より、分野ごと一問一答形式のような正誤問題にして網羅的に集めた問題集というのが、単なる過去問にはない良さです。問題を解いて間違えながら覚えていくというのが、自分のできない部分をアウトプットで把握しながら学べて効率が良いと感じます。問題の回答の部分に学科試験の問題を解きながら、「覚えよう」というまとまった表が解説に入っているのも整理になって良かったです。

 

  • スッキリわかる FP技能士2級・AFP 2023-2024年 (TAC出版), 白鳥 光良 (著)

 見開き4ページ前後で1つの節として学べて、1節あたり演習問題も4問程度あります。「テキスト+問題集」としてちょうど良いバランスだと感じました。2色刷りがベースで要点も分かりやすく、デザインもスッキリしています。

 また、各節のはじめに30秒レクチャーでポイントを示してくれたり、試験出題率の低い部分は+αの知識として「さらっと一読!」としてくれたり、メリハリもつけやすく感じました。

 

  • スッキリとける 過去+予想問題 FP技能士2級・AFP 2023-2024年 (TAC出版), TAC FP講座 (著)

 前述の「テキスト+問題集」と同じシリーズです。デザインでシンプルで見やすいものです。「テキスト+問題集」を終えてセットで考えるもよし、過去問演習はネットでよし、という選択肢もあるでしょう。

 

 

ネット教材/過去問

 分野別の知識の整理が終わった後にランダムでの過去問演習も兼ねて、ネット上での過去問が解けるものを探しました。「FP2級ドットコム」というサイトです。過去問(学科、実技)と一問一答形式での問題が無料で利用することができ、解説も充実しています。

fp2-siken.com

 

 

 

6. 受験に際して

受験まで/勉強時間

 試験申込みを終えてから試験まで2カ月ほどあります。入念な準備をしたかったのですが、忙しかったこともあり、参考書を買う行動を起こしたのが2週間前の日曜日でした。2週間前を切ってから勉強を始めるということも相まって、1冊で終えたいという気持ちから『史上最強のFP2級AFP問題集』を選んだのかもしれません。

 また、テキストは不要という判断をした理由とも被りますが、個人的には普段から節税、金融、不動産の内容のようなことには触れる機会があります。そのため、試験チェックの際に各自の学習すべき項目や深さなどに気がつくとは思いますが、前提が異なる人もいらっしゃると思います。

 

<結果としての勉強時間>

  • 参考書 11~12時間
  • ネットの問題演習 1~2時間

 

 基本的な勉強方針としては、①参考書を軸に勉強しながら、手元に参考書のない隙間時間にネットで問題を解く②(参考書をひと通り終えたら)ネットでランダムに問題を解く/間違えた問題を復習する、というように計画しました。家に帰る日は必ず1日30分以上勉強をするようにしました。

 結果としては次のような勉強の進行具合で試験を終えました。試験前日の土曜日の緊急の予定により、計画より6~7時間も勉強時間が減ってしまいました。参考書はひと通りも終えることはできませんでした。参考書の学科試験の部分はひと通り終えていたところでしたので、実技試験は途中で計画修正して方針転換し、苦手な部分を中心的に半分程度も解く時間がないぐらいで終えました。そして、土曜日(試験前日)の夜から当日の試験開始までは、参考書を全部解くことよりも過去に間違えた問題の復習ネットの問題演習に力を入れました。

 最後に過去問で得点率を調節するかのようなソフトランディングではなく、ギリギリ駆け込みとなってしまいました。当日も地下鉄の遅延で遅れて試験会場に入ることになりました。これこそ、ギリギリまで勉強できた要素でもあったかもしれませんが、試験会場に到着するまで(午前の試験の前まで)に学科試験の範囲を復習しつつ、学科試験を早期退出して午後の実技試験の勉強をするというような流れになりました。寝不足で、学科試験は終えた後に退出せずに冷暖房の効いた椅子・机でひと眠りするというような心理的な余裕はありませんでした。

 このような反省から、いつ仕事に呼ばれるか分からないような場合も含め、勉強スケジュールには余裕をもっておくことをおススメ致します。

 

 試験当日は受験票に加えて、運転免許証のような身分証明書や電卓も忘れないように準備しておきましょう。

 CBT試験になれば、試験時間の縛りがなくなり午後の休憩時間や時間調節がなくなることも考えられますし、受験票や筆記具すら持参不要になって、試験会場もターミナル駅オフィスビルのパソコンセンターみたいな場所で、お買い物ついでに受験しやすくなるようになるかもしれませんね。過去にすら忘れて受験会場に向かい、近くのコンビニで鉛筆を買った試験もありましたので、必要なものが減ることは嬉しい限りですね。

 

 

試験終えて

 学科試験は35分程度で解き、見直しもして45分程度で終わりました。実技試験は60分ぐらいで解き終わりました。電卓は打ちやすい大きさのものにすると、もう少し早くなると思います。得点率70%弱でした。

 少し目標に届きませんでしたが、概ね合格できたので良いと考えることにしました。1カ月後ぐらいに合格の証として証書が届きます。それ以上に、次回以降に向けた資格勉強・対策に対しての反省点(予定の組み方)も洗い出しできたのが、良かったと思います。

 

 受験後に自己採点をしながら勉強の過程を簡単に振り返ることで、合格はもちろんのこと、次につながる何かをも得られるとよいですね。また、勉強時間も短ければ短いだけ良いという訳ではなく、勉強になっていることが大切であると考えています。スタート地点も異なれば、必要な勉強時間も異なって当たり前ということで、各自の成長になるものがあれば成功だと思います。

 勉強時間が長くても、今まで意識していなかったお金に関する知識が多く、学びが多ければ、それもまた大きな成果だと思います。他人との勉強時間のような比較ではなく、得られるもの注目して、その中で効率的に時間を費やしてみてください。

 

 

 

7. 受験あとがき FP2級以上必要か!?

 あくまで受験してみて納得した部分もありますが、FP2級以上を誰にでもお勧めできるわけではありません。そのことについて長文・駄文ではございますが、あとがきとして書き留めておこうと思います。

  まずは結論として、FP3級と比べて細かな内容まで増えることに対してとりあえず学んでおこうと思う人や、資格の必要性がある人がFP2級受験に向いていると思います。

 FP2級以上を受験するか悩んでいない人はこの章はさらっと流してもらえれば幸いです。

 

このような人おすすめ
  • マネジメントに有効な人
  • FP2級が業務上必要な人
  • 副業/起業を考えている人

 いわゆる一般的な医師のキャリア(?)である勤務医をしていく場合、2級まではあまり必要性を感じませんでした。MBAのようにマネジメントに関わるとなると、具体的に様々な人のお金のことも考えることになると思うのである程度は役立つと思いますが、そうでもなければ、FP3級程度まででも良いと思います。

 FP2級が仕事で必要な人というのは、一般的には金融・保険・不動産業界のあたり、その中でも顧客への対応に従事している人でしょう。医療系では、手当がつく、または資格を求められることは基本的にないと思います。

 

 

FP資格弱さ

 他にも、FP2級を持っていると良いかもしれない人は、副業起業を考えている人です。法人でも個人事業主でも構いませんが、ぼんやり何かを近いうちに始めてみたいと考えている人でしょう。すでに何かをやっている場合は、それに特化した内容を学ぶことを優先したほうが良い場合もあります。例えば、不動産賃貸業を営んでいるような場合では、宅建士等のもっと業務に直結しそうな他の内容を学ぶというのも考えられます。他にも、証券会社・金融機関であれば、証券外務員の資格を学ぶというのもあります。

 

 FP2級で求められることが、資産形成の相談などで顧客相手に業務をするような時やちょっと個人のお金のことを、副業・起業などで具体的に考え始める時に役立つイメージです。全般的に広く浅く学ぶ傾向にあるため、ピンポイントでやることが決まっている場合には、あくまでFPは広い視野に対応するための学びだと思います。一方で、あるひとつの分野のこととしては深さが足りないと感じます。

 

 例えば、投資ということで株や投資信託をはじめとした運用をするには、FPで学ぶような専門用語や制度の知識だけではなく、実際にはその先が必要になります。FPはあくまで投資の時に関わる制度を学ぶといったコンセプトです。FP3級では浅く、全般的に知っていた方がよいレベルですが、2級となるとちょっと具体的なものの、窓口ですらすらと対応するわけでもないので、制度について詳しく覚えていなくても、自分自身で調べていくための概念があればよいとも言えます。

 また証券会社などで金融商品を扱うのであれば、金融商品を扱う営業で必須の証券外務員の資格を取るでしょう。業務独占や設置義務でもない資格であるFPの弱さを感じます。

 

 他の例として、不動産(賃貸業)を考えていても、FP2級の知識では知識としても微妙で、実際の運用方法についてはまったくFPの先のことが必要です。不動産を副業に考えていても、ある程度以上の規模での関与を考えていくのであれば、宅建などを考えたほうが良いでしょう。

 具体的には、海外の人が家主の物件を借りる場合の源泉徴収のことは書かれていません。海外家主物件では海外家主は源泉徴収をされていないため、自宅用以外で借りていて家主倒産等で逃げられた場合には、その源泉徴収されていない分の税金を借りている側が支払うことになるリスクがあります。制度の問題でもありますが、一個人として税務署相手なので強制力があり、相手にしないわけにはいきません。やはり、いろいろとやっている部分ではFP2級の知識では足りないという場面にも遭遇します。

 また、こちらでもFPはあくまで名称独占(しかも狭義でファイナンシャルプランナー技能士という表現に留まる)ですが、業務独占ではなく、設置義務のあるものでもありません。一方、宅建士は不動産業を営もうと思った場合に必須の資格になります(有資格者を雇う場合を除く)。

 

 

ここまで暗記必要!?

 試験に合格するとなれば、学科試験を含めた試験で求められる知識の暗記も必要になってきます。FP2級の勉強をしていて、ここまで覚えなくてよいと感じた一例を紹介したいと思います。学科試験の過去問の問題文の一部抜粋と、そこで必要となる知識についてです。

 

(問題)「ねんきん定期便」に記載されている年金額は、送付対象者の年齢…

  • 日本年金機構から毎年誕生月に送付されるねんきん定期便には、50歳未満の人には加入実績(年金加入期間や保険料納付額)に応じた年金額、50歳以上の人には60歳まで加入した倍の年金見込み額が記載されています。

(問題)契約者が法人、被保険者が特定の役員、死亡保険金受取人が法人である定期保険特約付終身保険について、終身保険の保険料は資産に計上し、…

  • 法人を保険金受取人とする定期保険特約付終身保険の場合、終身部分の保険料は保険料積立金として資産計上し、定期部分の保険料は損金算入します。2019年7月8日以降の契約の場合、定期保険で保険料全額損金算入できるのは、保険期間3年未満または最高解約返戻率50%以下のものに限られています。

(問題)日経225オプションおよびTOPIXオプションは、…

  • 日経225オプションやTOPIXオプションは、満期日に限り権利行使可能なヨーロピアンタイプです。

アメリカンタイプ(取引開始日から取引最終日までの間のいつでも権利行使可能)とヨーロピアンタイプがあることは知識として理解しつつも、ここまで具体的な知識が必要かという疑問。

(問題)消費税の簡易課税制度は、事業者の事業を5つに区分し、…

  • 消費税簡易課税制・・・消費税額を算出する際、実際に仕入れ等で支払った消費税額を計算しないで、一定のみなし仕入率を用いて計算する制度。預かった消費税に一定率(みなし仕入率)を乗じて算出した額を支払った消費税とみなして納税額を計算します。
  • みなし仕入率・・・事業者の業種を6つに区分した仕入れ率で、税額計算を簡便にするために用いる。

 

 もちろん、上記のようなものばかりではなく次のような知識の組み合わせで解ける問題もありました。

(問題)日本銀行が実施する売りオペレーションは、他国通貨に対して…

  • 売りオペは、日本の市場金利を上昇させます(金融引締め)。日本国内の金利の上昇は、日本で今後、高金利が見込まれることになるので、円高要因となります。

 

 いかがでしょうか。知識の組み合わせでもなく、単体の知識としてここまで覚えておく必要に関して個人的に疑問を感じるものが増えてきたと感じました。業務であれば、ある程度覚えておく必要性もあるでしょう。しかし、そのような職業をしていないのであれば、概念程度に理解しておき、いつでも調べられる程度にしておくことでよいと感じました。

 

 

医師必要資格!?

 まずは、ファイナンシャル・プランナー技能士(FP)資格として弱さを感じます。それこそ、医師の身近な部分に例えると総合内科や総合診療のようなジェネラルな資格は、資格としては弱く感じるのと似ているのではないでしょうか。

 すべてかなりの高みまでもっていければ、ジェネラル(ここでいうFPだけ)でも評価されると思います。しかし、中途半端なもの強みにはなりにくいと考えています。FPでも、有料相談として成り立つような場合は前者ですが、相談と称して保険等の金融商品を売ることのリターンでやっているような場合が後者(中途半端)に当たる可能性が高いでしょう。

 医療でも、総合診療(というよりも家庭医療も含む)という専門医資格で、患者アウトカムを改善しない「患者中心の医療」のような診療の補助的道具を自らの専門性と主張しつつ、何となく幅広く診ていて排他的な強みとは言い難いと考えています。すべての診療科の分野にかなり精通しているような「資格の有無」の領域を超えたごく一部の人を除いて、ジェネラルな「資格の有無」だけでは特に厳しい状況であるのと似ているように感じます。また、外からは同じ集団としても認識されがちです。

 そのように考えると、総合診療はベース(マインド)にしつつ専門家(スペシャリストになり、その強みもジェネラルマインドでさらに活きてくる、総合力が上がるというような気がします。岩田健太郎先生の提唱されている、この「ジェネシャリスト」のジェネラリストと似たようなものをFPでも感じます。FPではなく、他の業務独占・排他的な強み等の専門性や優位性のある資格を軸に持ち、裾野を広げるためにFPも取得するといった感じになって、やっと活きてくる人が多いといった感じでしょうか。

 

 また、FP3級は、「節税勧誘対策にも」、「資産設計・貯蓄にも」、「相続対策にも」というベースラインとして有用であると感じたのに対して、多くの医師(一般的な勤務医)の場合、2級へステップアップをすることへの費用対効果低いと感じます。多くの場合は業務ではないので、2級のために細かいことまで暗記する必要はなく、概念をもとに調べながらでも良いと感じます。

 

 

 

8. 最後

 とりあえずFP2級受験・取得してみて、色々な面から「今は、これ以上は不要」と個人的には納得しました。受験してみたからこその納得感かもしれません。ファイナンシャル・プランナー技能士(FP)をAFPやCFP、FP1級へとステップアップしていくよりも、もっと他のこと先に進めたいと思います。例えば、資格関係であれば、不動産・賃貸もあるので宅建士の先の知識のほうが学びたい、興味として基本情報技術者試験の勉強の先をしたい(取得済み)などと思う次第です。

 

 FP2級を受験しようと悩んでいる方お役にも立つ部分もあれば、幸いです。また受験すると決めた方参考になる部分もあれば、幸いです。

 受験の際には試験要項をはじめ、下記より最新のものをチェックしてみてください。本日もお読みくださいまして、ありがとうございました。

www.jafp.or.jp

 

 

 

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 FP取得しようと思い始めた理由FP3級の受験を検討中の方は、よろしければこちらをご覧ください。

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画像診断・読影入門|初学者(医学生・初期研修医)におススメの本

画像診断・読影入門

  • 初学者医学生・初期研修医)おススメ

 

<目次>

 

 

 気がつけば3月になりました。春もすぐそこですね。4月から初期研修医になる皆さまはじめ、新生活の準備をしている方もいらっしゃると思います。

 今回は胸部X線胸部CT腹部CTをはじめ、医学生初期研修医の中でも初学者の皆様に画像診断読影をちゃんと分かりやすく学べるおススメの医学書を、個人的な趣味で紹介していきたいと思います。各章ごと2~3冊程度におススメを絞りました。基本的には、第1章、第2章、…の順番で学んでいってもらえればという意図で書いています。少しでも参考になるものがあれば、幸いです。

(注)紹介する書籍を列挙する際の著者名等は敬称略とさせていただきます。予めご了承ください。

 

 

1. はじめ1冊

 やはり、最初放射線画像をこのような手順読影していく」というのが、網羅的・体系的分かりやすい本が良いと考えています。「疾患AではXという画像所見を認める」というような知識や視点だけでも、その異常所見に偶然気がつくことができることもあると思います。しかし、今後のことを考えると微妙に感じる人もいるはずです。

 国試では「画像は異常があるもの」という認識ぐらいで良いと思います。しかし、現場では疑わしき症例において「異常があるのかを判断するため」に画像検査を行い、読影の上で判断する必要に迫られます。どの先生の放射線画像の読影の仕方が一番という訳ではないと思いますが、どれかひとつぐらい画像診断方法読影方法を学んで使ってみても良いと思います。

 

 頭部画像や骨軟部画像よりも、まずは胸部画像腹部画像において系統的読影をはじめとして参考書が必要になる人が多いと思います。胸部画像と腹部画像の系統的読影を含め、初学者に役立ちそうな「まずはこの1冊」というような画像診断の本から紹介したいと思います。

 

 

1-1. 胸部画像

 画像の読影というと胸部X線(レントゲン)写真を思い浮かべる人も多いと思います。胸部X線胸部CTは病棟のみならず救急外来でも接する機会が多いと思います。

 

  • レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室 [ベストティーチャーに教わる胸部X線の読み方考え方] 改訂第2版, 長尾 大志 (著) 

 長尾大先生の胸部画像は、書籍だけでなくCareNetの動画講座などもあるため、ご存じの方も多いと思います。有名な理由は納得の書籍です。はじめの一冊におすすめする理由が、大きく3つあります。

 1つ目は、読影基礎知識方法がわかる点です。第1章「読影を始める前に知っておくべきこと」で、X線の原理や肺区域、撮影条件というような基礎知識から分かることです。さらに第2章「胸部X線写真のどこを見るか」において、どこを見ていくかという系統的読影の基礎が分かる点です。

 2つ目は分かりやすく読みやすいことです。イラストはもちろんのこと、X線と胸部CTとの比較画像、色使いから、書籍であっても動画に近いような分かりやすさになっていると思います。

 3つ目は病態が分かりやすいことです。イラストのおかげもあって、病態と画像のつながりが分かりやすく、応用の効きやすい理解ができます。例えば、すりガラス陰影やエアブロンゴグラム、胸部CTとカーリーのA線・B線・C線(Kerley's A/B/C line)などに対して丸暗記ではなく、理解が深まります。

 本の目次からでもどのような内容を扱うのかもよければチェックしてみてください。また、同シリーズには症例編もあります。

 

 

  • 誰も教えてくれなかった胸部画像の見かた・考えかた, 小林 弘明 (著)

 胸部画像の参考書は種類も豊富なため、他の医学書も紹介しておきます。先述の長尾先生の『レジデントのためのやさしイイ胸部画像教室』と比べると教科書的な記述でまとまっている本です。基本事項的なものをB5判の半分ぐらいのサイズにしたカードの「お役立ちシート」が入っています。

 

 

1-2. 腹部画像

 腹部画像(特に腹部CTは、救急外来を中心にお世話になることが多かったと記憶しています。胸部画像と同じく、腹部画像もはじめの一冊に入れさせていただきました。

 

  • レジデントのための腹部画像教室, 山﨑 道夫 (編)

 腹部画像接する機会が多い中、意外にも貴重な読影の初学者向けの参考書だと思います。はじめての一冊におすすめする理由は大きく2つあります。

 

 1つ目は、第3章「画像所見別 鑑別診断のポイント」です。ただ、所見を丸暗記して鑑別しているのではなく、所見の意義・病態理解しつつ鑑別も考えながら、画像所見のポイントを学べることです。

 疾患別の教科書における「この疾患ではこのような画像所見を認める」というような切り口とは異なります。画像上で液体貯留があるとすれば、その所見からX線吸収値、貯留範囲、ガスの有無、というようなチェックすべき項目を学べます。

 また、消化管拡張の系統的読影のように閉塞起点を探す手順のようなものまでしっかりと載っている点も、疾患の時と同じく「偶然見つけたからこれだ」というのとは異なり、はじめの一冊に良いと思います。

 2つ目は胸部画像と同じく、イラストや色使い含めて、読みやすく、理解しやすいと思います。セットでいかがでしょうか。

 

 

 

2. 他部位(頭部・骨軟部など

 特に理由がなければ、まずは先述の章の胸部画像・腹部画像からだと思うのですが、それだけでは足らないと思います。他にも頭部、頭頚部、骨軟骨部などがあります。

 頭部画像に関しては、初期研修のうちは案外それだけで一冊というのは優先順位低いように感じました。そこまで体系的に学ぶ必要性を感じないかもしれません。くも膜下出血脳梗塞のような限られた疾患等がメインであると思います。

 一方で、初期研修医の場合、救急外来で転倒などの外傷患者を診察することも多いと思います。単純X線写真では「なかなか骨折線を見つけるのが難しい!?」、「そもそも捻挫の画像はどのようなものがあるの?」というようなことはないでしょうか。そう考えると骨軟部の画像診断が必要になります。

 そのような視点でおススメを紹介したいと思います。

 

 

  • 骨折ハンター レントゲン×非整形外科医, 増井 伸高 (著)

 画像診断のみに焦点を当てた本というより、骨折脱臼、捻挫等が疑われる外傷の非整形外科における初期対応についてまとまった参考書になります。しかし、症例ごとにレントゲン写真もあって、それだけでも練習になると思って挙げさせてもらいました。

 骨折などの症例の痒いところに手が届く内容というような本です。『心電図ハンター』と同じく話題となったシリーズの本になります。

 今回は画像診断に焦点を当てていますが、下記のように以前の医学書ログで紹介した非整形外科医向けの外傷の本は、非専門医にとっての隙間を埋めてくれる感じで役に立つことが多く感じます。

mk-med.hatenablog.com

 

 

  • 画像診断を学ぼう 単純X線からCT・MRI・超音波まで 第2版, 江原 茂 (監訳), 菅原 俊祐 (訳)

 これ一冊頭部から、頭頚部、胸部、腹部、骨軟部までの画像診断が学べる本です。洋書の翻訳版で内容の記述は教科書的で食いつきにくい人もいると思いますが、読みにくいわけではありません。エルゼビアの電子版が無料でついている点が高評価です。

 一冊でとりあえず網羅的に賄いたいという人におススメのオーソドックスな本で、隠れた名著的な存在だと思います。

 

 

 

3. 画像診断コツ学ぶ

 画像診断(読影をしていて、どのような点診断鑑別、経過フォローの際のコツであるのかという視点からチェックしてみたいと感じることがあると思います。そのような視点で役立つ本を紹介します。

 

  • CT診断一問一答 研修医が最初の1か月で知るべき基礎知識, 村上 卓道, 神田 知紀 (編)

 読影の際に気になる鑑別重要な疾患定義判断基準というような役に立つ知識手軽に手に入る点がおすすめの本です。基本的に画像も付いて見開き1ページスキマ時間にも読みやすく、おススメしやすい本です。さすがに、副題のように「研修医が最初の一カ月で」は、当時の私には無理であったと思います笑。初期研修ではなく後期研修の最初の一カ月を想定しているのでしょうか。

 例えば、くも膜下出血の画像診断における経過観察、脾臓は何を評価するかをはじめ、Tipsのような感じです。興味深いテーマを扱っていますので、ぜひ目次でどのようなテーマを扱っているのかもチェックしてみてください。

 

 

  • ユキティのER画像 Teaching File, 熊坂 由紀子 (編)

 見逃せない疾患をみつけるコツが第2章「症状から」に記載されています。症例を見ながら、読影のエッセンスポイント等のコツが学べます。

 コツだけとは言いにくいですが、読影の症例まとめとコツを学ぶ中間のような内容で、コツを学ぶのに役立ちます。少し古い本なのでごく一部でガイドラインに触れる部分等はアップデートが必要かもしれませんが、救急外来での画像診断で役立つ本です。どのような症候や疾患を扱っているのかも、ぜひ目次に目を通してみてください。

 

 

 

  • 画像診断に絶対強くなるワンポイントレッスン 〜病態を見抜き、サインに気づく読影のコツ, 堀田 昌利 (著), 土井下 怜 (著), 扇 和之 (編)

 この本はこの章に入れようか、前章「他の部位」に入れようかと、この本の立ち位置悩んだ参考書(羊土社のシリーズ本)です。会話形式分かりすい解説です。タイトル通り、学ぶテーマが各巻で増えていくTipの感じの「ワンポイントレッスン」ですが、基本的な読影の分かりやすい補完的な参考書の感じでもあります。

 基本的な読影が分かりやすいとは言いつつも、チップス的なので1冊で体系的・網羅的とも言いにくく「胸部画像はまずこの1冊」というような使い方はしにくく感じました。しかし、1巻目・3巻目「頭部画像」の部分や2巻目・3巻目「全身・その他」のような部分は頭部画像やその他の本を買うまでもないと判断している間に補完的にも使えると考えています。例えば、頭部画像に関して第1巻では脳の血管支配域、超急性期脳梗塞(例: early CT sign)、クモ膜下出血とpseudo-SAHのような役に立つテーマを扱っています。(注)2022年発売の第3巻は読んでいません。

 どのような内容を扱っているのか、もしくは補完的に使えそうか、会話形式が好みに合うかもチェックしてみてください。

 

 

 

4. 読影練習兼ねて

 学んだ読影方法や知識を症例帖のようなもので使ってみたいと思ったり、深めてみたいと思ったりした際の書籍になります。

 

  • クイズで学ぶ画像診断「1手詰」 読影のキホンが身につく必修手筋101, 木口 貴雄 (著),  山路 大輔 (編)

 画像診断における基本的な診断手筋詰将棋に例えた書籍です。大きく、頭部、頸部、胸部、腹部、骨軟部に分かれています。現病歴が1-2行程度に加え、バイタルや既往歴、検査結果などが1行程度書いてあることもあります。そして画像が載っていて、クイズ形式で診断するというものです。

 診断への一手(この手筋を覚えよう)という部分が参考になります。あとは診断した疾患についての画像所見はもちろん、ちょっとした臨床像や鑑別疾患が載っています。

 2ページ(裏表1枚分)で完結するレイアウトでちょっとした時間にも、1日数症例ずつでもいかがでしょうか。

 

 

  • 救急画像診断のロジック【電子版付き】, 長谷 智也 (著)

 何といってもこの本の魅力は救急外来を想定した状況でのリアルさが魅力的な画像診断の本です。ちょっとした病歴、身体所見、検査結果などが記載してあり、画像になります。テーマが外傷・ショック、熱源検索、頭痛・頸部痛・意識障害、胸痛・呼吸苦、腹痛…と分かれている点も演習用に良いと思います。

 リアルな画像診断だと感じるのは、書籍のQRコードを読み込むと、CT画像画面でスクロールしているかのような動画を見ることができます。これが、リアルさを感じる大きな魅力だと思います。昔にはなかったこのような試みが、医学生や初期研修医スタートしたばかりの人には有難いのではないでしょうか。

 もちろん、読影ポイントや診断とその疾患の解説のようなものも書かれています。2024年2月にアマゾンレビュー(評価)が4.9点(12件の評価)という驚異的な評価のため、購入してみた本です。アマゾンの評価も気になる方はチェックしてみてください。

 

 

 

5. アドバンス

 ここまでくると、はじめの一冊でもなければ、初学者でもないと思います。また、自分に必要なものは自分で見つけて判断していると思います。

 念のため、シリーズにもなりやすいものを軽く紹介しておきたいと思います。シリーズのうち1冊を紹介します。

 

  • 頭部 画像診断の勘ドコロNEO, 田岡 俊昭 (編)

 「画像診断の勘ドコロ」シリーズメジカルビュー社)からです。頭部編として、正常構造からモダリティ編、疾患編と続きます。テキストに、ポップアップのように読影の勘どころ等が加えられているような書籍のレイアウトです。個人的にはコツを掴みつつ読みやすいと感じました。

 すべてを持っている訳ではないですが、他にも頭頚部、胸部、消化器、泌尿器、産婦人科、小児、心臓・大血管、骨軟部などがあります。改訂された時期が新しいものは「画像診断の勘ドコロ NEO(ネオ)」ですが、最近にまだ改訂されていないものは「新 画像診断の勘ドコロ」や「画像診断の勘ドコロ」もあります。

 分野によって構成は異なりますが、各論(疾患)の画像診断を中心として、技術学、正常解剖、総論、各論(疾患)のようなものを網羅的に扱います。気になる分野のサンプル等をチェックしてみてください。

 

 

  • すぐ役立つ救急のCT・MRI 改訂第2版, 井田 正博, 高木 亮, 藤田 安彦 (編著)

 画像診断別冊KEY BOOKシリーズ学研メディカル秀潤社)からです。救急編ということですが、基本的には各論(疾患別)の構成です。読影方法を身に着けてからもっと疾患ごとの知識を増やしたいという時に、研修医でも役に立ちやすい救急という切り口ではないでしょうか。

 救急以外にも、MRI胸部乳房などもあります。「画像診断の勘ドコロ」シリーズほど分野が網羅的ではないですが、タイトルからは分野まるごとというよりも痒い所に手が届くものを作りたいというような意志を感じます。また、月刊医学誌『画像診断』も下記のように興味深い特集があるので、気になる方はチェックしてみてください。

mk-med.hatenablog.com

 

 

  • CT読影レポート、この画像どう書く?〜解剖・所見の基礎知識と、よくみる疾患のレポート記載例, 小黒 草太 (著)

 放射線画像の読影そのものと関係はないですが、読影ができるようになってくると、どのようにカルテに記載するかが気になりだす人もいるかもしれません。そのような悩みの参考になる類書少ない本です。症例のレポート記載例から、使えそうな表現等を学べると思います。

 もちろん、レポート記載例の症例を通じて、その疾患や解剖等の画像診断の解説から理解も深まります。先述の「画像診断のコツを学ぶ」との中間のような内容ともいえるかもしれません。

 

 

 

6. 最後に

 上記のような画像診断・読影医学書はじめの一冊あたりから進めていくことで、徐々に自分にとってもっと必要な部分や必要ない部分も分かってくると思います。そうすれば、ここに挙げた画像診断の本以外でも、自分自身に必要なもの、合うものが見つかってくると思います。最後の最後は、先述の「アドバンス」のような書籍よりも分厚い『脳MRI』, 細矢 貴亮, 興梠 征典, 三木 幸雄, 山田 恵 (編), メディカル・サイエンス・インターナショナルの「スタンダードテキスト」と呼ばれるシリーズのようなものに至るのかもしれません。

 

 また、第4章読影の練習までやってくると、ちょっとしたアトラス的な画像診断の本を買いたいと思うようになるもしれません。

  • レジデントのための画像診断アトラス: 必ず理解しておくべき全身200疾患, 新本 弘 (著), 君塚 善文 (編)

 どちらかというと、リファレンス的(辞書的)に使うことを想定した本という印象です。今回のブログで紹介したい「読影の仕方」の類のものではありません

 前章の「アドバンス」で紹介した「画像診断勘ドコロ」シリーズのようなものが手元にあれば、それで補完できます。しかし、シリーズを買うほどではないと判断した方やアドバンスに行く前に気になる方などは、しかるべきときに買うとよいと思います。

 

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 ここで紹介したものはあくまで参考程度かもしれませんが、画像診断・読影学び始めるきっかけをはじめ、少しでもお役に立てば幸いです。また、今日が学び始める日になれば、幸いです。

 本日もお読みくださいまして、ありがとうございました。

 

 

 

 

【関連記事】

 ブログで取り上げたいと思った医学書の感想医学書ログ)は画像診断以外も含めて複数あります。分野・対象などは様々ですが、よろしければご覧ください。

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 また、今回の記事に興味を持ちそうな医学生初期研修医の先生にお役に立てそうな記事が他にもあります。臨床推論(診断学医学論文医学生向けとして初期研修先探し(マッチング)に対する記事もよろしければご覧ください。

<共通>

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医学生のみ>

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読書Log: 経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて, 山崎元 (著)|やさしい無責任が溢れる昨今に貴重なメッセージ

読書Log(<書籍紹介

経済評論家から息子への手紙 お金人生幸せについて山崎 元(著)

やさしい無責任溢れる昨今に貴重なメッセージ

 

<目次>

 

 

 今回は、経済評論家として信頼していた山崎元さんの書籍です。食道癌が再発し、今年1月1日にお亡くなりになってしまいました。とても残念な気持ちですが、その闘病中にどうしても伝えたいことを書きました」という主旨の本です。経済評論家としての内容だけでなく、父からのメッセージというような内容になっています。

経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生の幸せについて,山崎元 (著)

 

【こんな人おすすめ】

  • ホンネの投資についてのお話に触れたい
  • やさしい無責任」ではないアドバイスを聞きたい
  • 山崎元さんの人生観/価値観に興味がある

 

 上記のような理由でおススメできる理由を具体的に本の感想として綴りたいと思います。

 

 

 

感想特徴

 長い間、経済評論家としてはもちろんのこと、「ホンネの投資教室」という投資運用の知識や正しい情報を広める活動をされてきました。一部の経済評論家と異なり、歯に衣を着せぬ物言い信頼できるお方でした。

 

経済評論家としてのメッセージ

 第1章「働き方・稼ぎ方」第2章「お金の増やし方や資本主義経済の仕組み」という章で、その経済評論家としての忖度のないお話に触れることができます。もちろん、具体的に詳しい内容は、それぞれの内容ごとの本(例: 投資信託)に譲る部分もありますが、率直に触れられています。

 

 第1章では「株式で稼ぐ働き方」ということで株式運用だけでなく、株式に連動する形で報酬を得て稼げ、というようにしっかりと具体的に書かれています。それは起業でも、ストックオプションでもよく、さらには出資を頼まれても初期の出資時に株を取得することでもよいと挙げられています。

 最後の初期の出資時に株を取得することはベンチャー投資に近いですが、某診療科界隈で合宿をするからと出資をお願いされたことがあります。正直な話、出資というより単なる寄付という形で、意味があるのか分からない自己啓発セミナーをしたい人にお金をあげているだけでした。教育学会のようなものと聞いていましたが、もはや医療と関係あるか、プラスの効果があるかさえ疑問のセミナーでした(その界隈の2023年5月名古屋の学会の雰囲気と似ているかもしれませんが…)。出資ということの意味もちゃんと考えさせられ、彼らの言葉の綾に対する反省となりました。

 他にも、不動産投資も稼ぎ方にあるものの不動産業者が客を探して売っている話、単純な借金は危険であるという話のように、キレイごとだけではなく、聞きたくないかもしれない負の側面も説明することで、最近見かけるやさしい無責任」とは異なる「息子への手紙」の要素を感じました。まえがきにもあるように「甘やかす必要はない」という言葉の通りだと思います。

 

 第2章になると、「お金の増やし方や資本主義経済の仕組み」ということで具体的にインデックスファンドの話もでてきます。長期、分散、低コスト、手数料、アクティブファンドの運用成績が振るわないこと、株価形成、保険というような山崎元さんの経済評論家(プロ)の本業としての歯に衣を着せぬ、忖度のないお話が続きます。新NISAなどについては、キーワード+α程度がメインですので、気になる方は『ほったらかし投資術』のような他の書籍をご覧ください。2月22日に円安もあって30年ぶりに最高値更新をした日経平均ですが、いずれにしても日経平均TOPIXの違いのようなキーワードや、リスクプレミアムの話、「リスクを取りたくない労働者が安い賃金で我慢する」というような真摯な言葉が続きます。

 保険において「事前」と「事後」の分からない人は多くの分野で「カモ」になるということも書かれています。耳が痛いかもしれません。前書きにも書かれている、甘やかさずに時に口調が乱暴になる一方で実用的で役に立つことを第一にしていることが伝わってきます。今年の1月2日の羽田空港の飛行機炎上の事故を見ていても、飛行機に乗る前には確率的に安全な乗り物として乗っているのであって、事故後にどうこう言うのは「事前」と「事後」で異なるということでしょう。もちろん、当事者が大変な思いをしたことは分かりますが、搭乗していない私たちとしてはこの先も事前確率で考えるでしょう。

 これこそ、山崎元さんが食道癌の治療も標準治療を行っているという主旨のニュースを見た記憶があります。医療者としては、標準治療以外にも藁にも縋る想いの患者さんの気持ちは理解できますが、効果不十分の高価な「治療のようにみえるもの」を施す側には嫌悪を感じます。そのような中で合理性を謳っていた人が「治療のようにみえるもの」に手を伸ばしている姿を見るに堪えないこともありました。そのような中で山崎元さんは、経済・お金のことも合理的に考え、医療を含めたご自身のことも合理的に考えるご立派な方であったと感じずにはいられませんでした。

 

 

人生へのメッセージ

 第3章、第4章は山崎元さんの人生観生き方のようなものを反映した内容になります。経済のような著者の専門分野や科学的な内容というわけではないですが、経済評論家や父などの背景のもとで書かれているものです。

 参考になる部分や自分と異なる部分も含め、参考になる内容取り入れてみたい内容試してみたい内容をチェックしてみたいと感じました。私が特に印象に残った内容は、次の通りです。

 自分の人材価値への意識、若い時のワークライフバランス「ほどほど」にというような考えが伝わってきます。最近では、本人のためであっても厳しいことを言えないやさしい無責任というような状況です。「やさしい無責任」というのは、野球のイチロー選手関係のお話で見かけた言葉ですが、野球の指導で合理性のあることでもためになることでも厳しいことは言うことができず、生徒の自主性に任せざるを得ないというようなお話でした。

 ワークライフバランスも大切ですが、人生の段階で異なってきて仕事を優先的に伸ばす必要がある時期もあるということも厳しく息子を想うように書かれています。もちろん、科学的なことだけではないので個人的な意見として受け止める必要がありますが、最近の履き違えた心理的安全性(≠本当の心理的安全性)の世の中では、受け止める以前にそのような言葉を発してくれる人が少なくなりつつあると感じます。

 医療で言えば、「やさしい無責任」とは、思いやり医療といって患者さんの社会的背景の問題まで対症療法的に外来で話を聞くと言い出すような考えの人に近いでしょうか。臨床医のコアとなる仕事を離れてエビデンスもなく自分たちのエゴための我流の「まちづくり」を謳っているような一部の層に感じに近いでしょうか。医療で介入することでアウトカムすら悪くなる可能性も指摘されています。詳しくは以前のブログ記事をご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 この本の中で今の状況の私の心に響いたのはサンクコストにこだわるなです。投資では当たり前のように自動的に行っている損切りですが、自分のキャリアや生活のこととなると実行できていないことを思いやられました。詳しくは、良くまとまっている下記のブログをお読みいただきたいのですが、「そこ」では「患者中心の医療」のような技法や人文学・哲学的なことが診療科の専門性と考える節があったり、自己啓発のような意識高いフリ(意識高い系)をしていたり、学会内部が混沌としていたり、資格としてサブスぺへの制約(内視鏡、透析などが不可)など、さらには過去の個人的なことや将来性も含めて、「そこ」に近づいたことでトータルでマイナスなのに何で他に行けないのでしょうか。

note.com

 

 改めて言葉にしてみることですっきりした部分もあります。岩田健太郎先生の提唱する「ジェネシャリスト」自治医大の先生方を見ていると、本質な臨床に関わる部分に関しては「そこ」の診療科である必要性には疑問が湧くわけです。「そこ」でしか学べなかったかはさておき、学んだこと感謝しつつ、次に行ければと思う次第です。

 学会が変わることを望むようなことではなく、これから自分で変えることのできる将来にのみ注意を集中するようにしていきたいと思います。

 「そこ」とはある程度距離を置いていたはずが、今週のあることをきっかけに再度「そこ」の話題に触れてしまう日々でした。そのようなタイミングでこの本(2月27日出版)と出会えたことに感謝致します。また、自分で自分の将来に向けてできることに集中して、投資だけでなくこれまでの人生(時間)の損切りもしていきたいと思います。

 

 

最後に

 このようなタイミングでの突発的な記事にもかかわらず、お読みいただき、ありがとうございました。通常モードの記事もお楽しみいただければ幸いです。

 私における「そこ」とのこれまでの人生の損切りをはじめ、いろいろと後押ししてくれるものでした。このようなタイミングでの貴重な機会をありがとうございました。山崎元さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。

 

 

 

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【関連記事】

mk-med.hatenablog.com

 上記は私のブログ内の記事ですが、よろしければお読みください。つみたてNISAでも、新NISAつみたて投資枠も、基本的には同じ考え方で投資することになると思いますので、2024年以降もご活用いただけると考えています。

 今回の内容にちなんで山崎元さんの書かれた書籍等の中で新NISAによる積立投資(投資信託・インデックスファンド)のお話といえば、下記のような「ほったらかし投資」の本が有名かと思います。

 

頭部外傷 成人編|①カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)の深掘り&ニューオリンズ基準との比較

頭部外傷 (成人編)

  • カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)の深掘り
  • ニューオリンズ基準との比較

 

<目次>

 

 

 頭部外傷について外傷の専門家でもないけど、専門外だからこそ(?)、気になる臨床予測ルールを深掘りしてみようという内容です。今回は、頭部CT検査適応の判断にも用いるカナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)を好奇心で深掘りしてみようと思います。

(注)さっそく臨床予測ルールを読みたいという方は第2章からお読みください。

 

 

1. 頭部外傷!?

 外傷を専門に扱っていない病院でも「少し頭をぶつけたぐらいなので診てほしい」というようなことで、診察・救急車の応需をお願いされることもあると思います。

 専門外でも診てあげたい反面、悩むことがあると思います。昨今の医療訴訟と司法の判断(例: 外傷性健忘)、断らない救急「断れない救急」、脳外科等や病棟のバックアップ体制、画像検査へのアクセシビリティ、病院の立地(例: 地方で唯一の病院)、転院搬送のリスクなど、考えることもたくさんあるでしょう。

 

 頭部外傷鑑別として、硬膜下血腫硬膜外血腫外傷性くも膜下出血、さらには頭以外の頸椎損傷をはじめとする疾患があります。「少し頭をぶつけた」だけと言われても、その可能性があります。

 また、そもそも頭部外傷は他の病気結果ということもあるでしょう。例えば、心筋梗塞や大動脈解離等の心血管系が原因のような場合もあります。無痛性大動脈解離の患者で失神が多かったという話も以前のブログで書いたことがあります。目撃者こそいれば有難いですが、頭部を派手にぶつけたことの記憶がないだけなのかもしれません。

 

 今回は、とりあえず頭部外傷という部分に目を向けて、「少し頭をぶつけた」というような軽傷minor injuryのときに、バックアップ体制のないぐらいの病院でも役立ちそうな内容を考えてみました。そこで頭部CTの撮影をするかを判断する際の臨床予測ルールをふと思い浮かびました。成人向けのカナダ頭部CTルール、小児向けのPECARNなどがあります。そのうち、今回はカナダ頭部CTルールを中心に深掘りしてみたいと思います。

 

 

 

2. カナダ頭部CTルール

 今回のメインテーマです。軽症頭部外傷の際に頭部CTの適応の判断の臨床予測ルールのひとつであるカナダ頭部CTルールCanadian CT Head Ruleの話をしたいと思います。

 

2-1. 概要深掘り

 まずは、カナダ頭部CTルールについて全体像を把握しつつ、深掘りしてみたいと思います。臨床予測ルールを見かけた際には診断特性はもちろんのこと、研究への組入れ条件除外項目、患者の特徴状況などが気になります。

 

カナダの総合病院10施設の救急外来における前向きコホート研究

カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)
  • 1996年から1999年における軽症頭部外傷患者でGCSスコア13~15点、受傷から24時間以内であった3,121名。
  • 以下の患者を除外した: 16歳未満、軽微の頭部外傷(意識消失なし、健忘なし、または見当識障害なし)、明らかな外傷歴が不明(例: 痙攣または失神)、明らかな頭蓋骨の穿通性損傷または陥没骨折、急性の局所神経学的所見の異常、major injuryによるバイタルサイン不安定、受診前の痙攣、止血障害または経口抗凝固薬の使用、頭部外傷の再評価による再来院、妊婦。

 

患者3,121名の特徴

  • 年齢: 平均38.7歳(範囲: 16~99歳)
  • 救急車で受診の割合: 73%
  • 受診時のGCSスコア: 15点 2,489名(80%)、14点 522名(17%)、13点 110名(4%)
  • 受傷機転: 転落 963名(31%)、自動車事故805名(26%)、暴行 334名(11%)、スポーツ 307名(10%)、バイク 207名(7%)、歩行者の交通事故 187名(6%)、頭部打撲 105名(4%)、その他 31名(1%)

① 受傷2時間後 GCSスコア<15、② 解放骨折または陥没骨折疑い、③ 頭蓋底骨折を疑う徴候、④ 嘔吐2回以上、⑤ 年齢 65歳以上、⑥ 受傷時から30分以上前まで遡る逆行性健忘、⑦ 危険な受傷機転のうち、いずれかひとつでも認めた場合に頭部CTを撮影したとすると、感度は98.4%(95% CI, 96-99%)、特異度は49.6%であった。また、頭部CT検査のうち、検査が必要であった場合は54%であった。

(出典)Lancet. 2001 May 5;357(9266):1391-6. doi: 10.1016/s0140-6736(00)04561-x.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 この臨床予測ルールが提唱された研究での患者像状況はある程度把握できたでしょうか。平均年齢が思ったより若くて38.7歳というような驚きがあったかもしれません。また、受傷機転の内訳など、自身の環境での事前確率の差異を考えるヒントになると思います。

 そして、患者3,121名の組入基準除外基準が気になりました。組入基準を見ていると、Glasgow Coma Scale(GCS)スコア15点から13点まで組入れされています。除外基準として意識障害見当識障害がない場合や健忘がない場合も挙げられています。

 また、「少し頭をぶつけただけ」という場合には、軽症(minor injury)ではなく、軽微な頭部外傷(minimal injury)に分類されることがあることも容易に想像できます。抗凝固薬の服薬など、除外項目にひっかかる患者さんも多いといった印象です。この研究の前提となるような状況と患者背景や状況も異なれば、事前確率も異なります。自身の環境にどこまで当てはめられるか、という難しいものを感じました。

 

 さらに、カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)も、チェック項目①~⑤高リスク項目(受傷2時間後 GCSスコア<15、解放骨折または陥没骨折疑い、頭蓋底骨折を疑う徴候、嘔吐2回以上、年齢 65歳以上)、⑥と⑦中リスク項目(受傷時から30分以上前まで遡る逆行性健忘、危険な受傷機転)と分けられていいます。高リスク項目の場合は神経学的介入の感度が100%というような別の指標も出されています。今回は、何らかの脳の障害のある症例を、頭部CTひっかけることを部分に注目して、その部分を中心に扱いました。

 実際に外傷性脳損傷があった群と外傷性脳損傷のなかった群の比較や、研究対象患者の詳しい特徴なども含めて、気になる方は論文も是非見て深めてみてください。

 

 

 

2-2. 頭部CT減らせるか!?

 カナダ頭部CTルールを使うことで、頭部CT検査を減らすことができるのでしょうか。不要な検査はない方がよいでしょう。

 

後ろ向きクラスターランダム化比較試験

  • カナダにおいて救急外来(12施設)を受診した軽症頭部外傷4531例
  • カナダ頭部CTルールの使用を必須とした病院(介入群)と非介入群(対照群)における頭部CTをうけた患者の割合を、受診時(”before”)と12カ月後まで(”after”)で比較

 介入群における頭部CTを受けた患者の割合は、受診時に62.8%であったものが12カ月後までに76.2%へ増加した(差異+13.3%, 95% CI 9.7-17.0%)。対照群における頭部CTを受けた患者の割合は、受診時に67.5%であったものが12カ月後までに74.1%へ増加した(差異+6.7%, 95% CI 2.6-10.8%)。受診時と12カ月までの頭部CT撮影率の変化は、介入群と対照群で有意差はなかった(p = 0.16)。

 カナダ頭部CTルールは、軽症頭部外傷患者の臨床的に重要な脳損傷を同定する感度が高いことは本研究からも確認できた(感度100%, 95% CI 96-100%)。 しかし、この臨床予測ルールが救急外来での頭部CT検査の減少につながることは示されなかった。

(出典)CMAJ. 2010 Oct 5;182(14):1527-32. doi: 10.1503/cmaj.091974. Epub 2010 Aug 23.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 無作為割り付けまでされているという点が特に良いと思った研究です。有意差こそありませんが、カナダ頭部CTルールによって「最初は頭部CTを減らせたように見えても、最終的には減らせない」ということでしょうか。これは誤差のようなものだと思いますが、最終的(12カ月後まで)には、カナダ頭部CTルールの使用を必須にしていない群(対照群)の方が、撮影率がほんの少し低い(74.7%)というのは少し意外でした。有意差はないにしても、カナダ頭部CTルールで介入した群の方がトータルで撮影率の低下傾向っぽい数字かと思っていましたが、この研究のときはそうでもなかったようです。

 

 それにしても、結局は軽症頭部外傷の症例の4分の3程度頭部CTを撮影しているということも分かります。カナダ頭部CTルールの感度が高いことはありがたいですが、万能でもなさそうです。

 

 他の研究もチェックしてみたいと思います。

 

カナダ頭部CTルールによる介入前の患者233名(介入前群)、介入後の患者241名(介入後群)の両群における比較研究(後ろ向き)

  • 頭部CT検査は、介入前群では134件(57.0%)、介入後群では90件(37.3%)であり(p<0.01)、頭部CT検査の総数は20%減少した。
  • 診断率は、介入前群では3.7%であり、介入後群では5.6%であり、有意差はなかった(p = 0.52)。
  • 内科的管理では両群で差は認められず、いずれの群でも神経外科的介入を受けた患者はいなかった。

(出典)BMC Geriatr. 2022 Jul 21;22(1):607. doi: 10.1186/s12877-022-03284-0.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 この研究をみると、カナダ頭部CTルールを用いることで頭部CT検査20%減らせるというのは驚きです。しかし、両群を無作為割り付けされていない後ろ向き研究です。カナダ頭部CTルールを適応する症例ほど、そこに至るまでに簡単に判断できた症例ではなく、ふるいに掛けられているような注意点を感じます。

 頭部CTによる診断率も有意差こそありませんが、カナダ頭部CTルールの適応までいった症例だからこそ、頭部CTでやっと診断がつくものが多そうな気もします。また、結果も特に有意差はないようで、これこそ内科的管理のようなアウトカムには特に有意差がなく、「頭部CTを避けたい」というモチベーションが小児ほどには湧きにくい際には、ちょっと考えさせられる結果とも感じるかもしれません。

 カナダ頭部CTルールの項目に「危険な受傷機転」という項目がありますが、この出典では「1mもしくは階段5段以上の転落」となっていて、もともとの「3フィート(約0.91m)もしくは階段5段以上の転落」とは少し異なる点もあります。このような差異や、介入前群と介入後群の詳細・「BHH CT Brain in Trauma Pathway」(診療手順)のようなものも、よろしければ出典を参照してみてください。

 

 上記の2つの論文などをチェックしてみて、受診時には頭部CTを減らせる可能性がそれなりにありそうですが、その後も含めたトータルでは減らせないかもしれないというぐらいかなと思いました。仮に、頭部CTのトータルでの撮影回数が減らなくても、箸にも棒にも掛からない症例の頭部CTの撮影が減り、必要な症例での撮影が増えるだけでも有意義だと思います。また、最終的には撮影するとしても、夜に技師さんを起こしてまで撮影するような場面を翌朝の撮影にできるだけでも嬉しいでしょう。

 

 

 

2-3. 75歳以上ではダメ!?

 カナダ頭部CTルールの5つ目の大リスク項目に「65歳以上」というチェック項目があります。正直なところ、病院にいると65歳は若く、年齢で頭部CTの検査適応の判断とする閾値になりにくいと感じることが何度もあります。そこで、このチェック項目における年齢を上げるようなことをしたらどうなるかという視点で調べてみました。

 

レベル1の外傷センター救急外来を受診した後ろ向きコホート研究

  • 臨床的に重要な脳損傷があった症例104例
  • カナダ頭部CTルールにおける頭部CT適応基準「65歳以上」を変更した場合の感度、特異度

 感度および特異度(95% CI)は、70歳以上の場合では100%(89.1~100)および4.2%(0.9~11.7)、75歳以上の場合では100%(89.1~100)および13.9%(6.9~24.1)、80歳以上の場合では90.6%(75.0~98.0)および23.6%(14.4~35.1)であった。

 年齢基準を75歳以上にすると、65~74歳では最大で頭部CT撮影が25%(n=10/41)減らせた。

(出典)Emerg Med J. 2019 Oct;36(10):617-619. doi: 10.1136/emermed-2018-208153. Epub 2019 Jul 20.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 このような"修正版"カナダ頭部CTルールを提案するような動きもあるようです。もちろん、この研究では前向き研究を期待するという締めくくりになっています。

 確かに、昨今の高齢化には目を見張るものがあり、カナダ頭部CTルールの登場した2000年代初頭と比べれば、この研究段階でも少なくとも10年以上は時が経過しています。あくまで比喩ですが、「2000年頃の65歳は2020年頃の75歳」とでも考えられそうです。それを臨床予測ルールにも反映させていこうということでしょうか。

 確かに、臨床予測ルールをそのまま適応するのではなく、リスクがなさそうなら75歳ぐらいでもいいかもしれないというように、グラデーションをかけながら自身の環境の個々の症例に当てはめていくことになるでしょう。

 

 

 

 

 

3. ニューオリンズ基準との比較

 今回のメインテーマはカナダ頭部CTルールですが、他にもニューオリンズ基準(New Orleans Criteria)という軽症頭部外傷時の頭部CT適応の判断の補助になる臨床予測ルールもあります。

 

3-1. ニューオリンズ基準とは

 ニューオリンズ基準について比較用に簡単にチェックしてみます。

 

ニューオリンズ基準(New Orleans Criteria)

(出典)N Engl J Med. 2000 Jul 13;343(2):100-5. doi: 10.1056/NEJM200007133430204.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 ニューオリンズ基準は上記の7項目(短期記憶の障害、アルコールまたは薬物による中毒状態、鎖骨より頭側の視認可能な外傷、年齢: 60歳超え、痙攣、頭痛、嘔吐)のいずれかを満たす場合に、頭部CTを推奨するものです。カナダ頭部CTルールと似ているような項目もありますが、特に注意すべき点はGCSスコアが15点の人のみを対象としている点でしょう。この方が「少し頭をぶつけた」だけという状況に近いかもしれません。

 個人的にはアルコール(飲酒)がチェック項目にあることで、泥酔具合にもよりますが「飲酒後転倒」というよくありがちな症例で頭部CT適応になりうるようです。ちょっと、繁華街に近い病院ではふるいに掛ける目的では使いにくいかもしれません。

 症例数が500名程度と少ないことが、感度100%という数字をたたき出した一因かもしれません。そういう視点でも95%信頼区間を記載しておきましたが、いずれにしても感度は高いと言えます。出典では患者情報だけでなく、上記の7項目①から順に適応した場合の感度や特異度の変化も追うことができます。詳しくは出典をご覧ください。

 

 

 

3-2. 感度・特異度・オッズ比比較

 それでは、カナダ頭部CTルール(CCHR)ニューオリンズ基準(NOCの比較をしてみたいと思います。やはり、先ほどの比較でGCSスコアの差異が気になりました。GCSスコア15点のみで比較できるものを探してみました。

 

軽症頭部外傷かつGCSスコア15点の成人1822名の前向きコホート研究

・脳外科的介入の必要性の予測に関して、カナダ頭部CTルールとニューオリンズ基準の感度はともに100%であったが、カナダ頭部CTルールの方が特異的であった(76.3% vs 12.1%, P<.001)。

・臨床的に重要な脳損傷について、カナダ頭部CTルールとニューオリンズ基準の感度は棟じであったが(100% vs 100%;95%信頼区間[CI]、96%~100%)、カナダ頭部CTルールの方が特異的であり(50.6% vs 12.7%、P<.001)、頭部CT検査率は低くなった(52.1% vs 88.0%, P<.001)。

(出典)JAMA. 2005 Sep 28;294(12):1511-8. doi: 10.1001/jama.294.12.1511.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 上記の比較からすると、ニューオリンズ基準とカナダ頭部CTルールの感度は同程度なものの、カナダ頭部CTルールの方が特異度が高く、ムダな頭部CTを撮る必要性が少ない可能性があるということでしょうか。ただし、先ほどの「2-2. 頭部CTは減らせるか」のことを踏まえると、医師のスキルとカナダ頭部CTルールが同程度の頭部CT検査率であり、ニューオリンズ基準に従うと、一般的な医師のスキルで判断した場合よりも頭部CT検査は多くなりうる可能性も感じました。

 また、いずれもGCS 15点のみの比較のため、どちらかというと「少し頭をぶつけた」という状況に近いことが多いと思います。過去の訴訟判例のように、外傷性健忘とか言われ始めたらGCSをちゃんと取れたのか、一見よさそうでも不安のような脳裏をよぎるものがあります。そういう視点でもニューオリンズ基準程度で頭部CT検査をしておけば、安心しやすいということなのでしょうか。

 

 他にもメタ分析のものもチェックしてみます。

 

メタ分析による14研究(21140例)の解析

カナダ頭部CTルール

  • 頭部CT所見が陽性となる感度は89.8% (95% CI: 79.6 to 95.2)、特異度は38.3% (95% CI: 34.0 to 42.8)であり、オッズ比は5.5 (95% CI: 2.3 to 13.1)であった。
  • 臨床的に重要な外傷性脳損傷である感度は92.5% (95% CI: 79.5 to 97.5)、特異度は40.1% (95% CI: 34.8 to 45.6)であり、オッズ比は8.3 (95% CI: 2.4 to 29.2)であった。

ニューオリンズ基準

  • 頭部CT所見が陽性となる感度は97.2% (95% CI: 89.7 to 99.2)、特異度は12.3% (95% CI: 7.4 to 19.8)であり、オッズ比は4.8 (95% CI: 1.2 to 18.3)であった。
  • 臨床的に重要な外傷性脳損傷である感度は98.3% (95% CI: 93.8 to 99.6)、8.5% (95% CI: 4.8 to 14.5)であり、5.4 (95% CI: 1.5 to 20.0)であった。

 カナダ頭部CTルールとニューオリンズ基準ともに、頭部CT所見陽性や臨床的に重要な外傷性脳損傷の有無を予測する良好なスコアであることが示された。両スコアとも特性が似ていることから、これらの臨床予測スコアを互換的に利用することができる。

(出典)Arch Acad Emerg Med. 2020 Sep 8;8(1):e79. eCollection 2020.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 個人的にはこの結果を見ると、GCSスコアの範囲(組み入れ条件)もそれぞれのもともとの臨床予測ルールに従った場合、「カナダ頭部CTルールの方がやや感度は低め、特異度は高め」、「ニューオリンズ基準の方が感度はやや高め、特異度は低め」といった印象を受けますが、あくまでも印象程度でしょうか。先程の研究(GCS15点のみ)と比較して、カナダ頭部CTルールの感度は低くなっています。

 いずれにしても、両方臨床予測ルールを知っておくことで、組み入れ条件や除外項目も意識しつつ、両方とも自身の状況に適応しながら使うことができるというのがメリットでしょうか。

 

 

 

 

4.最後に

 今回は頭部CTを撮るべきか悩むような状況についての個人的な好奇心任せでの深掘りでした。念のため、JATECでは、次のように書かれています。

 

軽症(GCS合計点14, 15点)では,帰宅までに,あるいは入院中に一度は頭部CT検査を行うようにする。特に軽症であっても表*に記載した危険因子が存在すれば,頭部CT検査を実施する。

*表の内容: 頭痛、嘔吐、60歳以上の年齢、薬物またはアルコール中毒前向性健忘の持続(短期間の記憶の欠損)、鎖骨より上の明らかな外傷、痙攣

(出典)改訂第6版 外傷初期診療ガイドライン JATEC (2021), 137-139, へるす出版.

 

 ここで挙げられている危険因子は「60歳以上」か、「60歳超え」かというような小さな違いこそありますが、ニューオリンズ基準実質的に同じです。もちろん、JATECでは、「切迫するD」(このときのGCSは8点未満もしくは2点以上の低下)、中等症(GCS 8~13点)といったGCSスコア悪いときにもA・B・Cが安定していれば、必ず頭部CTを行うことを推奨していることも忘れてはならないでしょう。

 頭部CT検査のタイミング等についても書かれています。昔いた病院でJATECのプロトコールによるPrimary surveyからのSecondary surveyなど懐かしいものがありますが、やはり、軽症(minor injury)とも言い難い軽微な場合(minimal injury)にどうするかが判断としての悩みどころでしょう。

 

 カナダ頭部CTルールはいかがでしたでしょうか。案外、組入基準除外項目があったと感じ、「少し頭をぶつけた」という症例にそのまま使えないかもしれないと感じたかもしれません。また、ニューオリンズ基準と比較も含めて、自身の状況適応しながら補助的参考として少しでも使えそうなところがあれば、幸いです。

 いずれにしても、どちらのどの項目も頭部CTを想起する際のきっかけにはなるかもしれません。年齢に関しては65歳以上にしても、60歳超えにしても、昨今の高齢化では素直に当てはめてよいものかは考える必要もあると思います。

 

 よろしければ、外傷診療についてJATECをはじめとしたガイドライン二次文献等も確認してみてください。アップデートするきっかけにもなれば幸いです。アップデートすることは訴訟回避のような直接的な自分自身のメリットだけでなく、患者さんのためや、病院で訴訟のリスクの低い医者として雇用主の期待に沿えることにもなると考えています。開業であれば、診察において雇用主のようなメリットも享受できます。その分のリターンがあればさらに良いですが、あくまで雇われの身としても市場価値は意識しておいてもいいと思うことがあります。

 

 今回は頭部外傷成人編でした。好奇心のまま長くなってしまい、申し訳ございませんでした。機会があれば、次は小児編としてPECARNのような臨床予測ルールについても深掘りしてみたいと思います。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 

 

急性単関節炎|②痛風・敗血症性関節炎の鑑別 危険因子・予測ルールなど

急性単関節炎②

痛風敗血症性関節炎鑑別の深掘り~

 

<目次>

 

 前回は急性単関節炎の鑑別疾患やその頻度について調べました。今回は、急性単関節炎の原因の中でも頻度が多い痛風と、頻度もそれなりに多くて内科エマージェンシーでもある敗血症性関節炎(感染性関節炎/化膿性関節炎)の鑑別を中心に、定量した指標を交えつつ、好奇心で深掘りしていきたいと思います。

 

 

1. 危険因子(リスクファクター)

 まずは、痛風らしさや、敗血症性関節炎らしさでもある指標として、リスクファクター(危険因子)や臨床所見等の相対リスクや尤度比をチェックしてみたいと思います。

 

痛風と敗血症性関節炎の危険因子

痛風と敗血症性関節炎の危険因子
  • 敗血症性関節炎のいくつかの危険因子は急性単関節炎の初期臨床評価の一部であるべきである。

(出典)CMAJ. 2009 Jan 6;180(1):59-65. doi: 10.1503/cmaj.080183.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 痛風相対リスク(Relative Risk; RR)、敗血症性関節炎尤度比(Likelihood Ratio; LR)ともにいかがでしょうか。予想に近いものでしたか。

 

 痛風は、患者背景として男性(RR = 7.6)、併存疾患として糖尿病(RR = 1.1)、高血圧(RR = 3.9)、肥満(RR = 3.8)、心血管疾患(RR = 1.8)、慢性腎臓病(RR = 5.0)、食事や薬として利尿薬(RR = 1.8)、プリン体の多い食事>肉(RR = 1.4)、プリン体の多い食事>魚介類(RR = 1.5)、アルコール(10g/日増加あたり)(RR = 1.2)が痛風の危険因子ということで「痛風らしさ」という結果でした。

 高血圧や心血管疾患までリスクファクターとして関連するというのは驚きました。どちらかというと痛風のイメージはお酒や酒のつまみにおいしそうなものを食べている中年男性というイメージでした。人種による多少の差異はあるかもしれませんが、そのイメージの中でも男性という相対リスク高さ(RR = 7.6)には目を見張るものを感じました。一方で、プリン体の多い食事の相対リスクはそこまで高くないという印象です。ウニ・イクラ丼のようなおいしそうなものは痛風まっしぐらだと思ったのですが(笑)。一方で、アルコールの相対リスクはアルコール10g増加ごとなので、350mLのビールで14g(度数5%で計算)ということで、何本も飲む人はそれなりの相対リスクになるので、納得の数値でした。

 

 敗血症性関節炎は、患者背景として年齢80歳超え(LR = 3.5)、併存疾患として糖尿病(LR = 2.7)、関節リウマチ(LR = 2.5)、最近の関節手術(LR = 6.9)、人工股関節または人工膝関節(LR = 3.1)、皮膚感染症(LR = 2.8)、皮膚感染症を伴う人工関節(LR = 15.0)が敗血症性関節炎の危険因子ということで「敗血症性関節炎らしさ」という結果でした。

 関節リウマチ、最近の関節手術人工関節皮膚感染症あたりはきっかけや感染源としても納得の感じでした。皮膚感染症からの黄色ブドウ球菌というのもつながります。

 糖尿病は易感染性を考えれば、リスクファクターとして納得でもある一方、痛風の相対リスクでもあるという重なりを意識することにもなりました。年齢も痛風でこそ中年も好発でしょうが、高齢者でも痛風でもRR>1の可能性もあるかもしれません。項目ごとに独立していないことも考えたりしないといけませんが、参考になるのではないでしょうか。

 痛風の尿酸ナトリウム結晶(尿酸結晶)についての尤度比をはじめ気になるものもあるので、痛風の相対リスクの参考文献を孫引きしてみたいと思います。

 

 

 

2. 痛風らしさの深掘り

 先ほどの引用元を孫引きして、痛風らしさを深掘りしていきたいと思います。

 

診断に向けた診断特性(エビデンス):感度、特異度、尤度比

痛風における検査・所見の診断特性(エビデンス
  • 尿酸塩結晶の同定は症状や観察者の技量によって異なるが、症候性痛風では陽性となる可能性が非常に高い(LR=567(95%信頼区間(CI), 35.5~9053)。
  • 古典的な足部痛風(podagra)と痛風結節(tophi)は、痛風の臨床的診断価値が最も高い(それぞれLR = 30.64(95% CI, 20.51~45.77), LR = 39.95(95% CI, 21.06~75.79)) 。

(出典)Ann Rheum Dis. 2006 Oct;65(10):1301-11. doi: 10.1136/ard.2006.055251.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 まずは尿酸ナトリウム結晶痛風結晶)の存在が圧倒的で、急性痛風に対する尤度比566.6という驚異的な数字を出しています。そして、発赤,圧痛および腫脹を伴う第1中足趾節関節の急性疼痛である足部痛風(podagra)痛風結節(tophi)は尤度比が30以上ということでそれなりに高いという印象でした。もちろん、敗血症性関節炎(化膿性関節炎)と鑑別したくなる時には、部位的にも足部痛風痛風結節が役に立ちにくそうとなると、最後は関節液を引いて尿酸結晶を見つけるというところでしょうか。

 意外に感じる部分があったのが、血清尿酸値(高尿酸血症です。血清尿酸値(SUA)が高いと痛風の原因になると言われるとおり、男性でSUA > 6 mg/dL、女性で SUA > 7 mg/dLでも尤度比が7.61です。特異度は0.92とそれなりに高いですが、感度に至っては0.57と低くなっています。高尿酸血症(<mean+2SD)になって、感度0.92、特異度0.91ですが、今度は尤度比9.61と上がり切っていないような印象を受けました。

 画像診断においては、非対称性の腫脹がLR=4.13と意外と高いと感じました。化膿性関節炎でも、偽痛風でもなりうる結果に感じるからです。だからこそ、感度0.42、特異度0.90なのでしょうか。皮質下嚢胞(びらんなし)はLR=6.39で、それぐらいなのかといった感じでした。

 事前の予想やイメージと比較して、皆様はいかがでしたでしょうか。

 

 

 

3. 結晶性なら敗血症性関節炎否定的!?

 前章で、尿酸ナトリウム結晶痛風結晶)の尤度比が566.6でした。おそらく、たいていの場合は痛風という診断を下すことになると思います。痛風という診断は良いのですが、結晶性関節炎であると診断がつけば、敗血症性関節炎(化膿性関節炎、細菌性関節炎)併発している可能性はないのでしょうか。具体的に調べてみたいと思います。

 

 

Does the presence of crystal arthritis rule out septic arthritis?

  • 結晶を含む関節液(n=265)のうち、n=183(69.0%)に痛風結晶を、n=81(30.6%)に偽痛風結晶を、n=1(0.4%)に両方を認めた。
  • 関節液(n=265)のうち、n=4(1.5%, 95% CI; 0.0-3.0%)で関節液培養陽性であった。
  • 尿酸ナトリウム結晶(痛風結晶)を認めたもの(n=183)のうち、n=1(0.5%)で関節液培養が陽性であった。

(出典)J Emerg Med. 2007 Jan;32(1):23-6. doi: 10.1016/j.jemermed.2006.07.019.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 タイトルからもぴったりな内容が見つかりました。結晶性関節炎(n=265)のうち、1.5%(n=4)で敗血症性関節炎(細菌性関節炎)が併存していたという結果です。決して多い訳ではないですが、敗血症性関節炎見逃すと怖い疾患なので注意でしょう。

 単施設での後ろ向き研究で条件等による差異は考えられます。また、やや偽痛風に多い傾向かもしれませんが、敗血症性関節炎との併存症例の数が多い訳ではなく、ある程度の目安の指標といった感じでしょうか。

 いずれにしても、関節液から痛風や偽痛風を含む結晶性関節炎であると分かっても敗血症性関節炎疑われるときには、関節液グラム染色・培養敗血症性関節炎に対する治療もお忘れなくという戒めになると思います。診断バイアスの1つである診断の早期閉鎖への戒めとなる論文でした。

 患者背景や検査結果、痛風・偽痛風の差異など、気になる方はチェックしてみてください。関節液採取(関節穿刺)で分かる情報でした。

 

 

 

4. 臨床予測ルール

 前述の章では、関節液が採取できる際の戒めでした。次に関節液の採取が現実的ではない、もしくは難しい環境で関節穿刺をしない場合での痛風と敗血症性関節炎の鑑別について調べてみたいと思います。

 

4-1. 痛風 臨床予測ルール(診断スコア)

 ご存じの方も多いと思いますが、痛風臨床予測スコア(診断ルール)を紹介します。開業医のようなプライマリケアをはじめ、関節液採取が現実的ではない環境もあります。そのような関節液検査をしない(関節穿刺をしない)際に痛風の診断精度を高める目的で作られたスコアです。

 

 

痛風 臨床予測スコア(診断ルール)
  • 敗血症性関節炎が疑われない限り、痛風の診断は、白血球数増加や発熱などの全身症状を伴う、関節の熱感、疼痛、発赤、圧痛、腫脹の急性発症に基づいて臨床的に行われる。
  • 関節液または痛風結節における尿酸ナトリウム結晶を偏光顕微鏡によって証明することは痛風の確定検査であるが、診断が不確かな場合(すなわち、急性痛風 臨床予測ルールで中リスク)または敗血症性関節が疑われる場合にのみ推奨される。
  • 敗血症性関節炎が疑われる場合は、血液培養と滑液分析(グラム染色と培養)を伴う関節穿刺を行うべきである。

(出典)Am Fam Physician. 2020 Nov 1;102(9):533-538.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 まずは診断の全体像を米国の家庭医療系の総説からです。関節液採取をしないときの「痛風の診断ルール」(次の文献)として誕生したものです。次の文献と少し表現が異なる部分(diagnostic rule → clinical prediction rule, joint redness → joint erythema)や血清尿酸値の閾値(5.88 mg/dL → 5.8 mg/dL)のような微妙な違いはありますが、検査値の有効値や実用性としては同じでしょう。

 改めて書くことで意識されるのですが、敗血症性関節炎(化膿性関節炎)が疑われる場合には関節液培養やグラム染色はもちろんのこと、血液培養忘れないようにしたいものです。また、この診断ルール背景には、関節穿刺の患者さんの負担やプライマリケア領域での検査の現実性のようなものがあると、背景にも意識のいく臨床予測ルール(診断ルール)であると感じました。

 

 さらに、この関節液採取を行わないときの痛風臨床予測ルール(診断ルール)の特徴について深掘りしておきたいと思います。

 

プライマリケアにおける関節液検査をしない状況における急性痛風の診断ルール

  • 臨床予測ルールの3つの点数域(8点以上、4.5〜7.5点、4点以下)における痛風の有病率(結晶あり)はそれぞれ、80.4%(245人中197人)、27.0%(63人中17人)、2.8%(72人中2人)であった。
  • この診断ルールのモデルのROC曲線のAUC(曲線下面積)は0.85(95% CI, 0.81-0.90)であった。

(出典)Arch Intern Med. 2010 Jul 12;170(13):1120-6.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 もともとは回帰係数でつくられたROC曲線のAUCが0.87(95% CI, 0.83-0.91)でしたが、統計的に最適なモデル(AUC = 0.87)とスコアリングによって分かりやすくしたもの(AUC = 0.85)がほぼ同じということで先述のようなスコアリングになっています。ROC曲線をあくまで視覚的に見ると、最初のグラフの立ち上がりこそスコアリングによって分かりやすくしたROC曲線のほうが劣りますが、かなり僅差なものになっています。ROC曲線や条件をはじめ、詳しくは出典をチェックしてみてください。

 

 

【補足】痛風以外原因(敗血症性関節炎など

 先ほどの痛風の臨床予測ルール(診断ルール)の続きです。この論文の評価項目(メイン)は臨床予測ルールの臨床項目をあぶり出して、スコアリングによる精度を求めることですが、付属的な部分にも目を向けてみたいと思います。

 家庭医が関節穿刺なし(関節液検査なし)に「痛風」であると臨床的に判断したものの振り分けをチェックしていきます。

 

家庭医を単関節炎の徴候または症状で受診した381例

家庭医が「痛風でない」と判断した症例(n=53)

  • うち、7例が痛風(結晶あり)、18例が原因不明、28例がその他の原因であった。
  • 28例のうち、1例が化膿性関節炎(細菌性関節炎)であった。

 

家庭医が「痛風である」と判断した症例(n=328)

  • うち、209例で痛風結晶が見つかり、119例で痛風結晶は見つからなかった。
  • 119例のうち、63例は原因不明、56例はその他の原因であった。56例のうち、2例が化膿性関節炎(細菌性関節炎)であった。

(出典)Arch Intern Med. 2010 Jul 12;170(13):1120-6.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 「痛風でない」と家庭医が判断した症例(n=53)のうち、1例(1.9%)が化膿性関節炎でした。一方、「痛風である」と判断した症例(n=328)のうち、2例(0.6%)でした。偶然の誤差なのかは分かりませんが、痛風でなさそうなときのほうが化膿性関節炎(敗血症性関節炎、細菌性関節炎)の可能性は高いかもしれません。いずれにしても、関節液採取ができないときも、やはり怖いものです。

 

 その他の原因には化膿性関節炎以外にも様々な原因があります。関節リウマチ乾癬性関節炎痛風溶連菌感染後反応性関節炎連鎖球菌感染後反応性関節炎炎症性腸疾患による関節炎、ライム病変形性関節症等が原因でした。事前確率(頻度)に関しては以前の記事で調べた救急外来とは異なる面もありました。詳しくは出典のfigure 1のところで数も含め、ご確認ください。

 また、急性単関節炎の鑑別については以前の記事も合わせてご確認ください。

 

 

4-2. 化膿性関節炎 予測アルゴリズム

 化膿性関節炎(bacterial arthritis)の診断ルール的なものを、痛風との比較も兼ねて探していました。すると化膿性関節炎である可能性を予測するためのアルゴリズム(診断チャートのようなもの)を見つけました。化膿性関節炎とそれ以外(non-bacterial arthritis)を分けるものです。

 

化膿性関節炎の臨床予測ルール

  • 単施設(国内大学病院分院)での後ろ向き研究にて関節穿刺を行った症例の患者背景、併存疾患、症状、バイタルサイン、血液検査を化膿性関節炎(bacterial arthritis)であった症例とそうでなかった症例で比較した。
  • 白血球数(p = 0.01)、好中球割合(p = 0.01)、BUN値(p < 0.01)、血糖値(p < 0.01)、HbA1c値 (p<0.01)、CRP値 (p < 0.001) は、化膿性関節炎患者の方が化膿性関節炎以外の患者よりも有意に高かった。
  • 逆に、アルブミン値(p = 0.04)は、化膿性関節炎患者では化膿性関節炎以外の患者よりも有意に低かった。
  • すべての予測項目候補にCHAID decision tree analysisを行ったところ、化膿性関節炎の予測アルゴリズムは次のようになった。

化膿性関節炎の予測アルゴリズム
  • 最初にCRP値 21.90 mg/dL を境界値とし分類し、次に血小板数27.7万/µLと30.7万/µLを境界値として分類し、最後に好中球割合 73.3%を境界値として分類した。
  • 化膿性関節炎の診断の可能性(有病率)が低リスク群は5%以下、中リスク群は5%超え20%以下、高リスク群は20%と定義した。

(出典)SAGE Open Med. 2023 Mar 22:11:20503121231160962. doi: 10.1177/20503121231160962. eCollection 2023.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 前述の敗血症性関節炎の尤度比のような項目以外にも予後を予測するために白血球数や腎機能などを評価したものもありますが、診断に向けたものは珍しいと感じました。この研究では化膿性関節炎それ以外における、患者背景併存疾患症状バイタルサイン血液検査結果における合計30項目以上の比較をして、有意差の有無を確かめ、その後にCHAIDという手法で予測アルゴリズムが考え出されています。

 私にはCHAIDという手法はよくわかりませんが、「可能性としてこういうものもある」というような参考になりました。決して、個々の検査結果の有意差があった項目が、決して単体では使いやすい項目ではなく、それを振り分けに使える形で分かりやすく努力した結果が上記のアルゴリズムということでしょう。

 アルゴリズムでの判別に用いているCRP血小板数好中球割合にも少し注意を払ってもいいかもしれないとは感じました。一方で、決して特異的な検査ではないのはもちろんのこと、他の臨床予測ルールと同じく信頼しきるには足りないとも感じました。また、痛風と異なり検査結果だけが有意(診断ルールに残る)という結果であったのは、少し残念でした。

 他の30以上ある項目の両者の比較や予測アルゴリズムROC曲線のAUCや診断特性(特異度、感度)を含め、気になる方はチェックしてみてください。

 

 

 

5. 最後に

 臨床予測スコア的な使い方はもちろんのこと、痛風と敗血症性関節炎をはじめとする鑑別について簡単に/はっきりと白黒つくものではないというのを改めて感じる次第です。

 あと個人的には、敗血症性関節炎(septic arthritis)や化膿性関節炎、細菌性関節炎(bacterial arthritis)の表現が、同じ文献の中でも、全般としても、使われ方が気になって引っ掛かる部分のあるものとなりました。また、好奇心でいろいろと散らかるように調べていたら、書くことが増えて記事2回に分割になり、お待たせしました。

 

 Common diseaseである痛風内科エマージェンシー敗血症性関節炎化膿性関節炎)を軸にしてpivot and clusterや鑑別カードのように鑑別疾患を想起して考えたり、急性単関節炎の鑑別等にも触れてみたりするようなきっかけとなれば幸いです。また、少しでも興味を持ったり、参考になったり、該当する教科書やUpToDate・DynaMedなどの二次文献などを調べるきっかけとなったりする部分があれば、幸いです。

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

 

mk-med.hatenablog.com

読書Log: 『知ってるつもり 無知の科学』|なぜ自分の知識を過大評価するのか?

読書ログ(<書籍紹介

知ってるつもり 無知の科学』

ティーブン・スローマン&フィリップ・ファーンバック(著)

 

<目次>

 

 明けましておめでとうございます。新年早々、地震に航空機炎上と大変ですが、過去の『News Diet』の読書ログの時の感想のように、私は私で自分に出来ることしての寄付等に加え、このブログも含め日常をしっかりと地道に回していきたいと改めて感じる次第です。

 今回は、新年のスタートに今年も気をつけていきたいという自分自身の戒めにもなり、メッセージ性もある本です。医療情報説明することのある身として合理的な説明だけでは通じないことを理解する上でも、学情報やデマに騙されている人に合理的に説明しても正しいことを理解してもらうことが難しいことを理解する上でも、参考になりました。その良かった本を読書ログとして紹介したいと思います。

 

https://m.media-amazon.com/images/I/41+947uh+LL._SY445_SX342_.jpg

 

 

1.【こんな人おすすめ】

  • 何でも知っていると思っている人
  • 自分の無知・知らないことを認識できない人
  • 因果的説明をすれば他人を説得できると思っている人

 

 自分では何でも知っていると思っていても案外説明できないというようなことはありませんか。もっと極端な例を挙げれば、身近な例としては、社会や街、経済や貧困のことなど大して知っている訳でもないのに、「医療以外でも何でも健康につながっているから介入する」と言いたがるような医療者はいませんか。

 初心者によるダニング・クルーガー効果をはじめ、自分の範囲を明らかに超えて何でもできると錯覚している人に対して、なぜ自分自身の知識過大評価しがちなのかを説明してくれます。

 

 他にも、因果的説明をしても合理的な判断できない人の自己の過大評価の背景にあるものの話から、どのように対策していくのかを読み解くこともできると本だと考えています。例えば、医療に関してもエビデンスを用いたり、合理的な説明をすれば、相手に納得して選んでもらえるとは限らないということへの納得や、どのようにアプローチしたよいかのヒントにもなると思います。

 

 

 

2. 感想印象残った部分など

 身近な例ホットな話題などに当てはめつつ、本の感想印象に残った部分を紹介していきたいと思います。

 

 第一章の『「知っている」のウソ』から興味を惹きつけて、「なぜ思考するのか」「どう思考するのか」「なぜ間違った考えを抱くのか」というようなテーマで次章へと移っていきます。

 

 第三章の中の「前向き推論後ろ向き推論」という節では、両者の違いを説明していました。前向き推論というのは原因がどのような結果をもたらすか後ろ向き推論というのは結果から原因を推測することです。後ろ向き推論の方が時間がかかり、難しいとされるようです。

 これが臨床推論(診断推論)にも当てはまりそうです。前向き推論(予測推論)では、Aという病気があるから頭痛や発熱があるだろうとなり、後ろ向き推論(診断推論)では頭痛や発熱があるから、A、B、…、Zという病気が考えられるとなります。やっと診断がついたときに「後医は名医」と言われることがありますが、後になって病歴や検査等の情報がそろっているだけではなくて、診断から前向き推論ができるからゆえに診断から症状等について自信をもって説明ができるからなのではないかとも感じました。

 

 第八章の「科学について考える」という部分も興味深いと感じました。235-236頁の科学的リテラシーを測る質問における正答率の意外なほどの低さ、ワクチン接種反対派の話というような興味深い話を通じて、次のようなことが書かれていました。

科学に対する意識は、エビデンスに対する合理的評価に基づくものではない。このため客観的情報を提供しても意識は変わらない。科学に対する意識を決定づけるのは、むしろさまざまな社会的・文化的要因であり、だからこそ変化しにくい。

 科学だけでなく、信念コミュニティとかかわっており、特定の信念を捨てることはアイデンティティと深くかかわり、それを揺るがすことになる、というような興味深い記述へと続きます。偽医学やデマなどを信じる人が減らない理由なんかも腑に落ちます。

 

 第九章「政治について考える」も興味深く、選挙や政策は因果的分析に基づく未来の結果ではなく、理解度がなくても価値観で決まることが多く、強い道徳的反応にも理由は必要でないということが書かれています。もちろん、政治に対して極端な意見を持つほど政策の中身を理解していないというような調査結果もありました。ポピュリズムのような印象も強く、新たな新党も躍進した2022年の参議院選や2023年の地方統一選挙についても腑に落ちるような内容でした。政治でなくても、お正月の初詣や実家に帰るべきというような意見が、合理性や結果ではなく価値観だと分かりやすいかもしれませんが、同じようなことが政治でも言えるということのようです。

 

 また、極端な考えを持つ人についても触れられています。内容に対する理解度が低くすでに持っている意見支持するような論拠を補強する傾向にあるようです。そこでは議論ではなく、因果的説明の要求によって理解度の低さから認識してもらうことが解決の糸口になりそうな場合もあるようですが、そうでもない場合も相当あるようです…。

 政治ではないですが、昨日(2024年1月2日)の羽田空港での航空機炎上でペットのことが話題になっていますが、「貨物室のペットが出せないなら死んでも一緒に機内の残る」というような極論を言う人はどうなんでしょうか…。大変な思いをした当事者の言葉でもありません。

 また、「ペットを連れて行くな」という極論を言う人もどうでしょうか。大切なペットを失った人に対する感情は理解できないのでしょうか。航空機事故より自動車による交通事故による人の死亡数は多いわけで、ペットも似たような状況になると考えれば、そのような極論を言う人はペットを車にも乗せないのでしょうか。

 

 そもそも、リスクベネフィットトレードオフでもあり、絶対的な正解や正義はない価値観に近いはずです。返信であれば、わざわざ反対の価値観をそこに書く意味もわかりません。

 

 さらに、ただお気持ち表明のように「ペットも機内に乗せて」とお気持ち(価値観?)だけで訴えるのではなく、ペットも機内OKにしてペットも脱出可能なサイズや重さ等のゲージの規格を考える/ペットの機内持ち込み運賃やルールを作るというようなことも考えられるでしょう。犬も飼っていましたが、吠える声、犬の毛・臭いなど、客室に連れて行くなら連れて行くで迷惑になる可能性も容易に想像つきます。大型犬ほど言う事を聞かなかったら、時間勝負の避難の際に足手まといになる可能性も上がります。犬のしつけ度合も、ビビリ具合も含め様々です。また、犬でも恐怖を感じる人もいますし、蛇のような爬虫類を機内に持ち込んだら恐怖を感じる人がもっといるでしょう。さらに視野を広げれば、便ごとのペットの客室への搭乗の可否、プライベートジェットのような様々な選択肢もあるでしょう。また、ペットの飛行機移動はペットに負担でも、貨物室でのお預かりも含め引っ越しのようなどうしても必要となる場合もあり、一律に「乗せるやつが悪い」と言うわけにもいかず、複雑なものです。

 

 また、海上保安庁の飛行機に搭乗していた5名の命も失っています。あってほしくない状況です。まだ全貌の詳細も分かっていません。マスコミの責任追及やSNSを含む世論形成、警察の刑事捜査によって解明を遠ざけるのではなく、事故調査によって再発防止を考える、というようなことも含めて未来の結果に向けての合理的な方向での働きかけ対策など様々なことができるはずです。

 再発防止に向けては航空関連の知識に加え、ヒューマンエラーに対するスイスチーズモデルをはじめ、様々な専門的な知識が必要になりますが。さらに、ペットが飛行機に乗ることは身近に話しやすいですが、再発防止の方が重要性が高いはずです。そう考えると、パーキンソンの凡俗法則(自転車置き場の屋根の色理論)のように、航空機事故の再発防止に比べれば重要性の低いことでも、皆が身近に感じるペットのことのほうに重点を置きがち/時間を消費しがちであると言えるのではないでしょうか。パーキンソンの凡俗法則についても本書に書かれていますので、興味のある方は読んでみてください。

 

 本書 第九章の政治の内容に戻ると、政治でも未来の結果ではなく、政策に現れた価値観で判断してしまいがちであると書かれていました。政治だけでなく上記のように似たような場面でも使えそうです。

 これこそ、行政が能登半島への往来自粛をお願いしているにも関わらず、一部のYouTuber政治家(政党党首まで…)イデオロギーの表明に留まらず能登半島に行き、見せかけ「ヒーロー」を演じて人気稼ぎや収益稼ぎをしています。中には行政のお願いを無視して能登半島に行っておきながら、能登半島への往来を自粛すべき等の行政がすでに要請していたことを自分の手取りのように言い始めるような、どうしようもない人までいます。

 注目は集めにくいかもしれませんが、邪魔にならないように数週間後(?)のようなボランティア含め受け入れ可能になってから行って欲しいものです。政治家としての見せかけのパフォーマンスではなく、これを機に過疎化・高齢化(少子化)の進んだ地域の震災復興に伴う今後の在り方(例: コンパクトシティー化、山奥の限界集落の移住)を考えておいたり、このタイミングを逃さずにこの問題に長期的に関わっていって欲しいものです。

 さらに、未来の結果(不要な渋滞減少→救助の速達・効率化等)ではなく、イデオロギー思想価値観感情に偏って、そのようなYouTuberや政治家を支持する一部の大衆がいます。その時の感情はまったく分からない訳でもないですが、結果が悪くなる方が胸が詰まる思いです。政治家もSNSで広報することで収益化できる問題等もありますが、一部の政治家・政党国民双方向的な問題と感じずにはいられませんでした。(前段落ならびに当段落は1月8日追記)

 

 

 能登半島地震の話にしても、羽田での航空機事故の話にしても、松本人志さんの週刊誌でのリーク(嘘か本当かも不明)にしても、『News Diet』読書Logで扱った内容を彷彿とさせます。短いニュース(マスコミ)SNSが、解決に向けた思考でなくアテンションエコノミーであることが多いという問題点とも重なってきますね。

 読売新聞に至っては「石川県穴水市の避難所の自販機破壊・金銭盗む→避難所パニック」というのニュースを流してそっと消しましたね。不安を煽ったり、誰かを吊るしあげてたり、炎上させている一部のマスコミやSNSこそ、皆でそっと画面を閉じて干してしまいましょうと思うことがあるぐらいです(笑)(当段落前半は1月8日追記)

 

 そして何より、本書の提案の部分として

  • 優れたリーダーは、人々に自分は愚かだと感じさせずに、無知を自覚する手助けをする必要がある。
  • リーダーのもう一つの任務は、自らの無知を自覚し、他の人々の知識や能力を効果的に活用することである。

という部分は、戒めでもあり、上手な表現だと思いました。プラグマティズムの「内なる光を灯す」という思想にも似ていて、大衆は知識を与えられることよりも力を与えられる(動機づけされる)ことを好む、というようなものにも感じました(ここはあくまでも自然科学ではなく人文学的な話に近く、科学的な再現性ではなく使えたら運がよいという参考程度に考えています)

 

 以前、読書ログで以前に触れた総合診療家庭医療界隈学会の話題と、そこから社会的処方について触れたことがありました。これこそまさしく、この本の内容が当てはめられるかもしれないと反省しました。もちろん、そのような一部の人には時々触れに行く程度に適度な距離を取ることで2023年の後半は快適でしたが、何かもっと良いアプローチはあったかもしれません。

 

mk-med.hatenablog.com

 

 上記のような場面だけではなく、SNS上でのワクチンをはじめとするやり取りを見ていれば、科学より信念・所属する集団の考え(科学的な部分を認めずに信念・所属する集団の考えだけで選ぶ)というのが、良い例でしょう。科学には再現性や反証可能性があり、信念などの非科学とは異なることにも触れてます。また反証によって過去の正しかったことが科学的に覆されても、人々に浸透するまでに時間がかかってしまうことへの理解や戒めにもなりました。

 専門家であれば、なおさらその分野の自然科学を知り、早くアップデートしていく必要性があるでしょうし、専門家でアップデートしていない人/知らない人には、エビデンスやデータ等の現実を提示していくことになるのでしょうか。そして知らない専門家も追いつく努力が必要な点は、本書の一般の人向けとは少し異なるように感じます。

 

 そして、第十章以降で「賢さ」について定義し、育て方や判断の仕方を考えていくという結びになります。集団知能やコミュニティ、情報量、行動科学(ナッジ)といった今後役立つ視点があるかもしれません。

 

 

 

3. 最後に

 今までも「何?」、「なぜ?」というようなことを発端としてブログを書いてきましたが、新年はブログでこの本でも書かれていた次のことをもっと意識してみたいと思います。

 自分自身への戒めとしてもこのブログで因果的説明(≠今の意見を支持する理由)をすることを意識しつつ、知識があるという錯覚に陥らずに「無知の無知」にならないように意識してみたいと思います。ブログを書く際に自分自身の知識の抜けを意識するような場所として活用することで更新を維持していきたいと思います。

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。本年もよろしくお願いいたします。