"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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"頭以外"の片頭痛 !? ~腹部片頭痛まで~

"頭以外"片頭痛 !? ~腹部片頭痛まで

 

<目次>

 

 

 先日、MKSAPで片頭痛の問題に触れることがありました。治療薬の機序をはじめ、興味深いところが多いですね。今回は頭以外の片頭痛ということで、興味深い・奥深い片頭痛の中でも、頭以外にフォーカスして読んでくださった方がちょっと調べるきっかけになればというような記事にしたいと思います。

 

 

1.片頭痛の分類

 片頭痛(migraine)と言えば、その名の通り「頭が痛い」だと思います。今回は片頭痛スペクトラム(migraine spectrum)の中で「頭」に関連がなさそうなものを取り上げて行きたいと思います。まずは定番の教科書をチェックということで、ハリソン内科学をチェックしてみます。片頭痛について国際頭痛分類第3版(ICHD-3)で分類されていました。

 

国際頭痛分類第3版(ICHD-3)

(出典)ハリソン内科学

 

 国際頭痛分類第3版(ICHD-3)による片頭痛の分類になります。頭以外の片頭痛がテーマなので、下位の亜分類を一部省略しています。脳幹症状・片麻痺の伴うもの、発作重積・痙攣発作を伴うもの、視覚障害を伴うものもあります。他にも1.6 片頭痛に関連する周期性症候群まで多岐に渡ります。

 今回、注目したいのは1.6 片頭痛に関連する周期性症候群です。再発性消化管障害(周期性嘔吐症候群、腹部片頭痛良性発作性めまい、良性発作性斜頸片頭痛の分類には到底思えません。これらがどのような疾患で、どこが片頭痛スペクトラムであるのかが気になるので調べていきたいと思います。



 

2.片頭痛に関連する周期性症候群などを深掘り

 まずは、片頭痛に関連する周期症候群(Episodic syndromes that may be associated with migraine)再発性消化管障害その下位分類、良性発作性めまい良性発作性斜頸がどのようなものなのかを調べてみたいと思います。ハリソンでは分類までしか記述はないので、国際頭痛分類そのものをチェックしてみたいと思います。

 

1.6 片頭痛に関連する周期性症候群

  • この疾患群は「前兆のない片頭痛」または「前兆のある片頭痛」を併せもつ患者、あるいはこれらの片頭痛を発症する可能性の高い患者に起こる。かつては小児期に起こるとされていたが、成人でも起こる場合もある。
  • これらの患者では、乗り物酔いや夢遊、寝言、夜驚症、歯ぎしりなどの周期性睡眠障害の症状を合併する場合もある。

 

1.6.1 再発性消化管障害

  • 腹痛、不快感・悪心または嘔吐のいずれか1つ以上の症状を繰り返す発作である。たまに起こる場合も、慢性的に起こる場合も、予測可能な一定間隔で起こる場合もあり、片頭痛と関連している可能性がある。

 

1.6.1.1 周期性嘔吐症候群

  • 激しい悪心と嘔吐を繰り返す発作で、通常、個々の患者では症状が安定化しており、発作のタイミングは予想できる。発作時に顔面蒼白と嗜眠傾向を伴うことがある。発作間欠期には、症状は完全消失する。
  • 小児期に起こる反復性疾患であり、典型的には自然寛解する。発作間欠期は全く正常である。周期性が特徴であり、周期は予測可能である。

 

1.6.1.2 腹部片頭痛

  • 主として小児に認められ、中等度~重度の腹部正中の痛みを繰り返す原因不明の疾患である。腹痛は血管運動症状、悪心および嘔吐を伴い、2~72時間持続し、発作間欠期には正常である。これらの発作中に頭痛は起こらない。
  • 腹部片頭痛の痛みは正常な日常生活を妨げる重度な痛みである。年少児では頭痛の存在はしばしば見落とされる。
  • 小児は食欲不振と悪心の区別ができないこともある。顔面蒼白には眼の下の隈を伴うことが多い。少数の患者では顔面紅潮が主たる血管運動現象として出現する。
  • 頭部片頭痛を有する小児の大多数は、後年になって片頭痛を発症する。

 

1.6.2 良性発作性めまい

  • 繰り返し起こる短時間の回転性めまい発作が特徴の疾患で、発作は前触れなしに起こり自然に軽減する。それ以外には、健康上問題がない小児に起こる。

 

1.6.3 良性発作性斜頸

  • 反復発作性に頭部が片側に傾き、若干回旋している場合もある。症状は自然寛解する。この疾患は幼児および乳児にみられ、生後1年以内に発症する。

(出典)国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版 > 第1部:一次性頭痛 > 片頭痛

https://www.jhsnet.net/kokusai_2019/1-1.pdf

 

 片頭痛に関連する周期症候群概要はいかがでしょうか。発作性・周期性・良性・自然寛解という部分が原則的にはいわゆる片頭痛との共通点でしょうか。

 以前の分類では小児の疾患として扱われてきたものが多くあります。そして、今でも小児に多いもの・小児の疾患としての趣きがあります。診断基準や以前に使用された用語(旧疾患名)に関しては出典に詳しく書かれていますので、気になる方はチェックしてみてください。

 良性発作性めまいは「めまい」ということで頭とリンクしやすいイメージですが、良性発作性斜頸はちょっと首で頭に近いという程度にしかイメージできません。さらには再発性消化管障害の周期性嘔吐症候群(cyclical vomitting syndrome)や腹部片頭痛"頭"から離れている印象を強く受けます。

 周期性嘔吐症候群に関しては過去に少し学んだ記憶があります。一方で恥ずかしながら、腹部片頭痛(abdominal migraine)に関しては特につっこんで学んだ記憶なく、血管運動症状やら興味深そうな記述があることや、腹痛ということで他の疾患も想起することが多そうな症状もあると感じます。私の独断と偏見で、ここでは腹部片頭痛深掘りしてみたいと思います。

 

 

2-1. 腹部片頭痛をさらに深掘り

 腹部片頭痛(abdominal migraine)に関して、定番のハリソン内科学には特に記述もなく、朝倉内科学はそもそも片頭痛の記述も少なく興味深い機序・薬の話や頭痛分類すらない状態でした。そこでReveiw等を探してみました。

 

How common is abdominal migraine?

 有病率は、客観的な診断マーカーがないため、定義、認知度、条件に左右される。イギリスの2つの小児研究では、1986年の定義を用いた場合、腹部片頭痛の人口有病率は4.1%と2.4%であった。ローマIII基準を用いた949人の子供の母親を対象とした米国のアンケート調査では、有病率は9.2%であった。英国の学童を対象とした調査では、有病率は6〜12歳でピークに達し、12歳で9%と最も高く、14歳で1%に減少し、女性:男性の比率は1.6:1であった。

 

What other conditions is abdominal migraine associated with?

 人口調査から、腹部片頭痛患者の70%が、前兆のある、または前兆のない片頭痛を現在または過去に経験していることがわかった。腹部片頭痛の患者は、他の同時または過去の片頭痛に関連する周期症候群(84人中60%、1134人中30.6%)、特に周期性嘔吐(66〜76%)と片頭痛性四肢痛を有することが多い。その他、良性発作性めまい、良性発作性斜頸、乳児疝痛レイノー病、運動機能亢進症などとの関連も考えられている。

(出典)BMJ. 2018 Feb 19;360:k179. doi: 10.1136/bmj.k179.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29459383/

 

 先ほどの延長的な部分を中心に取り上げてみました。有病率といった疫学的なことや、腹部片頭痛の腹痛以外の症状についてもより具体的に分かりました。診断されているかはさておき、年齢的にも小学生のときに意外と多くみられる疾患とも言えそうです。一方で、14歳での有病率の低下(14歳時の有病率1%)からは、予後の良い疾患と考えられそうです。そして、関連・随伴する症状定量的な頻度も含め疾患像がより掴めたような気がします。

 他にも、腹部頭痛の概念、診断や治療の概論だけでなく、トリガー寛解因子、メンタルヘルスとの関連、治療介入ごとのエビデンスレベル予後まで詳しく書かれています。Free Articleなので気になる方は是非アクセスしてみてください。また、片頭痛そのものの奥深さに関してもハリソン内科学レベルでも発見がある人もいると思いますので、良い教科書も手に取ってみてください。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。



P.S.

 お読みくださる方は、検索などで当ブログまで情報を探してくる積極的な方だと感じることが増えました。そして、中途半端に羅列するぐらいであれば、ここではきっかけを提供できればと感じることが増えたことによる試みをさらに取り入れた記事です。

今回取り上げた腹部片頭痛Review

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

医学書ログ: 医療AI入門書 ~4冊比較特集~

医学書ログ(書籍紹介)

医療AI 入門  ~4冊比較特集~

 

<目次>

 

 

 先日、読書Log&Linkということで、従来からの読書ログに加えて過去に読んだ書籍ともつなげていくという記事をやってみました。そこで、成田悠輔さんの『22世紀の民主主義』という書籍を中心に、そこから医療AIの話までゆるっとさせていただきました。

 そこで、医療AIの本について検索すれば見つかるというお話を最後にしたのですが、具体的な入門書(概論)について聞かれました。これをきっかけに、医学書コーナーにある医療AIの入門書ということで簡単な医学書紹介としつつ、前回の新たな試みの読書Linkの「つなぐ」という部分に注目して複数の本を紹介するということを融合して簡単な医学書ログにしようという試みです。



1.【こんな人におすすめ】

  • 医療AIの具体的な活路について興味がある人
  • 画像解析や身近なサービスに興味がある人
  • AIの理論やプログラムの概念を知りたい人

 

 医学書コーナーの中で医療AIとタイトルに書いてある入門用の概要を説明する書籍には、医療AIの導入例や検討例、今後のAIの応用や、今後の社会とAIについての構想のような話が載っています。また、昨今の第3次医療AIブームとして画像解析(AI画像診断)についてある程度の概要が書かれている本が基本でした。書籍ごとに、少しずつ焦点を当てている部分(取り扱っている内容や深さ)が異なってきます。そのうち、おススメしやすそうな写真の2冊(①『医療AIの知識と技術がわかる本』、②『これだけでわかる! 医療AI』)を中心に取り扱いたいと思います。

 

医療AIの入門書

 

 

2.医療AI入門書: 4冊の比較

 医療AIに関する入門書4冊について具体的にレビューしていきたいと思います。いずれも医療AIの導入例や検討例、今後のAIの応用、今後の社会とAIについての構想のような話や、第3次医療AIブームとして画像解析(AI画像診断)について触れられています。

 特におススメしやすい①『医療AIの知識と技術がわかる本②『これだけでわかる! 医療AIを中心に、それぞれの書籍の特徴について触れたいと思います。

 

①『医療AIの知識と技術がわかる本』 小西 功記, 清水 祐一郎 ら (著)

 概念的な説明で数式や数字はあるにはあるものの、画像処理編での具体例におけるオマケ程度の数式です。数字による例や数式で理解は深まりやすいと感じますが、そもそも数字が苦手な人のためにも図なども用いており、実質的には数式抜きで分かりやすく理解できる内容となっています。画像診断における画像処理の話が多い印象はありますが、具体的な画像解析の手法の概念(例:機械学習による画像分類、セグメンテーションなど)も記述されています。

 画像解析以外にも再生医療電子カルテ・医療文章、リハビリ、データ解析などのAIの話もあります。自然言語処理のような系列データ編では機械学習について、データ解析ではアノテーションについてなどいろいろと書かれており、興味のある人には楽しめる書籍です。この4冊の中では一番盛りだくさんの印象です。さらに、本文中のキーワード等に太字・下線を引いてあり、文章量の割に読みやすくなるような工夫もされていておススメです。



②『これだけでわかる! 医療AI』 井川 房夫, 藤田 広志 (編集)

 本全体を通して特に数式はなく概念的な説明であり、画像解析等の第3次AIブームにも合わせて画像解析にも触れつつ、医療での他の具体的な導入例の話もされている印象でした。まずは医療AIの情勢を知るという意味で、数式や具体的な画像処理の方法概念の話まではなく、肩肘貼らずに読みやすい書籍だと思います。もちろん、図などで分かりやすくなっています。

 画像解析の例として、画像診断や病理診断、ゲノム・エピゲノム解析日本医師会の取り組みというような具体的な医療AIでの取り組みの話があり、身近に感じやすい内容に感じます。特に、内視鏡マンモグラフィーの画像といった身近に感じやすい実画像を用いた画像解析AIの概念的な説明があります。4冊の中で最も臨床からちょっとAIへというような医療者でも読みやすいというような親しみやすさがあり、おススメです。



<その他>

③『臨床医のための 医療AI概論』 山田 朋英, 谷田部 卓 (著)

 医療AI概論は、概念的なところが基本でした。数式は特になく、統計もそこまででした。人工知能についてや自然言語処理についての概念的な部分の説明が多く、他の本のように画像診断の話などの具体的な医療AIでの機械学習ディープラーニングの話は触れる程度で詳しくなく、第3次AIブーム(画像解析)であるにもかかわらず、画像解析のお話も少なく、特におススメする前述の2冊と比べて少し内容としては物足りない印象を受けました。



④『ドクターがやさしく教える! 医療AI入門』 山下 康行 (著)

 医療AI入門は、機械学習、レイズの定理の診断への応用、ディープラーニングニューラルネットワークについて触れられています。ベイズの定理の診断への応用をはじめ、分かりやすく具体的な数字を用いた例で説明されています。もちろん、数式なしで理解できる書き方ですが、データサイエンス(数式)寄りに感じました。おそらく数式まで行かなくとも具体的な数字による解説が苦手な人が多いと思います。個人的には好きですが、万人向けというよりもデータサイエンスの入門書が好きそうな人おススメです。



 

3.さらにその先へ

 医療AI入門書で概要を掴んだら、その先が広がります。データ解析の際のアノテーションで専門性を活かせそうとか、思うことがあるかもしれません。もっと具体的に言えば、医用画像を解析する際に専門家が腫瘍領域を囲んでAIのトレーニングデータとする際やデータ理解の際に、医療の専門知識を用いるというようなことが挙げられます。

 他にも素地としてデータサイエンスについて学ぶ、Pythonなどのプログラミング言語で簡単な機械学習についてプログラムを作り動かしてみる、医用画像ディープラーニングやAI画像診断についてもっと専門書で深めてみるなど、様々でしょう。これらのキーワードをGoogleで検索してみたり、アマゾンで検索して本を探してみたり、書店(医用画像以外は情報工学系のコーナー)で探して眺めてたりするといいでしょう。

 データサイエンスについても、概念を数式なし(数学抜き)で学ぶものから、データサイエンスのための数学を扱う書籍などの教材まであります。Python(「パイソン」: プログラミング言語のひとつ)に関して言えば、最近流行りのプログラム言語のため日経BPのようなムック本まで出ています。医療に限定しないデータサイエンスやプログラム言語に関しては特に教材も豊富にあります。

 まずは医療AIの入門書を読んでみて、さらに興味を持った先に進んでみるのはいかがでしょうか。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍のうち、特におすすめしやすい2冊(①、②)です。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

 

 

【関連記事】

 医療AIの入門書について触れるきっかけとなった読書Log&Linkになります。成田悠輔さんの『22世紀の民主主義』のお話よりブレインストーミングのように話を広げて、医療AIや過去に読んだ本とつなげてみた記事です。

mk-med.hatenablog.com

好酸球増加症の程度(mild-moderate-severe)と原因 ~鑑別に活用~

好酸球増加症程度(mild-moderate-severe)原因

鑑別にも活用

<目次>

 

 

 以前、好酸球増加症(好酸球増多症)について総ざらいしつつ、好酸球増加症みられない寄生虫感染症があるという話をしました。

 今回は、前回抜け落ちていた視点(原因臓器ごとの好酸球増加症の有無)や、好酸球増加症の原因により好酸球増加の程度(mild-moderate-severe)が異なることを深掘りしつつ、以前の記事を補完しようという企画です。

 

1.好酸球増加症とは

 以前のときには、末梢血中の分画割合ではなく、好酸球を出してみることが大切であるという話をしました。好酸球増加症(好酸球増多症)の定義を確認しておきます。

 

好酸球増加症(eosinophilia)とは、末梢血好酸球数(absolute eosinophil count; AEC*)≧500/μLである。

*AEC = 白血球数(/μL) × 好酸球の血球分画(%)

(出典)UpToDate > Approach to the patinet with unexplained eosinohilia, last updated: Aug 13, 2020

 

 好酸球数(絶対値)を計算して500/µL以上であることをチェックすることで、分画割合はそこまで多くない・異常がないようにみえても、ちゃんと拾い上げられるということになります。文献によっては、500/uLではなく、450/uL以上、550/uL以上とするようなものもありますが、概ね500/uL以上という認識で良いと思います。



 

2.臓器・原因ごとの好酸球増加の有無

 それでは、好酸球増加症の定義を確認したところで、好酸球増加症の原因となりうる臓器・原因ごとに、好酸球増加との関係を見ていこうと思います。

 好酸球増加症の原因には、感染症(主に寄生虫感染症)やアレルギーだけでなく、自己免疫疾患、悪性腫瘍など多彩です。具体的には好酸球性食道炎、好酸球性肺炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)などの想起しやすいものだけでなく、多数の原因があります。以前の記事では、好酸球増加症をきたす鑑別疾患でざっと総ざらいしましたが、今回は、感染症、呼吸器疾患というような大きな原因ごと好酸球増加症をどの程度きたすのかということについてチェックしてみました。

 

様々な臓器・原因と好酸球増加の有無

 世界では寄生虫感染症が最も一般的な好酸球増加症の原因であり、先進国ではアトピー性疾患が最も一般的な原因である。

(出典)N Engl J Med. 1998 May 28;338(22):1592-600. doi: 10.1056/NEJM199805283382206.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 感染症(主に寄生虫感染症)、医原性疾患全身性疾患であれば、基本的に好酸球増加症が見られます。一方、ここで注目すべきは、呼吸器疾患好酸球性肺炎、喘息など)、消化器疾患(炎症性腸疾患、好酸球性胃腸炎など)、アレルギー性疾患アレルギー性鼻炎・結膜炎、皮膚炎)、悪性腫瘍(リンパ腫、大腸癌など)では好酸球増加症がみられないこともあるということでしょう。

 「末梢血中の好酸球増加症がみられないのでアレルギー性疾患や好酸球性〇〇炎のようなものはない」とはいえない点には注意が必要でしょう。そういうものは、組織での好酸球増加認められるので、疾患によって組織を取りに行くことを考慮しても良いと思います。

 それでは、末梢血中では好酸球増加がみられない場合もあることを意識しつつ、原因ごとに好酸球の増加の程度(mild-moderate-severe)をチェックしていきたいと思います。


 

3.好酸球増加症の程度の定義と原因

3-1. 好酸球増加症の程度(mild-moderate-severe)の定義

 まずは、好酸球増加症の程度(軽度mild-中等度moderate-重度severe)について定義を確認していきたいと思います。

 

好酸球増加症は、軽度 mild(351~1,500/uL)、中等度 moderate(1,501~5,000/uL)、重度 severe(5,001/uL~)と任意に分類される。

(出典)N Engl J Med. 1998 May 28;338(22):1592-600. doi: 10.1056/NEJM199805283382206.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9603798/

 

 これも好酸球増加症の定義と同じく、文献によってある程度のがあります。NEJMの上記のReviewでは末梢血中の好酸球数350/uLを好酸球増加症の閾値にしていて、他の文献よりも低いとも言えます。他の文献も探してみました。

 

末梢性の好酸球増加症は、血中の好酸球数が500 cell/μLを超えることと定義される。そして、軽度(500-1500 cell/μL)、中等度(1500-5000 cell/μL)、重度(>5000 cell/μL)に分類される。

(出典)Curr Pediatr Rev. 2020;16(2):81-88. doi: 10.2174/1573396315666191114150438.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 好酸球増加症はAEC>500/μLと定義している点がNEJMのReviewとは異なりますが、1,500/μL5,000/μL閾値軽度、中等度、重度を分けている点は同じです。次で紹介する鑑別疾患チェック用のReviewにおいても、mild eosinophilia(軽度の好酸球増加症)は1,500/μL未満とされています。閾値をどちらに入れる(等号をどちらにつける)かは分かれるところですが、概ね一致しています。好酸球増加症の原因をチェックしたReviewにはmoderate, severeの定義は書かれていませんでしたが、概ね次の範囲と考えられます。

 

好酸球増加症>

  • 軽度(mild): AEC < 1,500/μL
  • 中等度(moderate): 1,500/μL < AEC < 5,000/μL
  • 重度(severe): 5,000/μL < AEC

 

 これをもとに、末梢血中の好酸球増加症の程度(mild-moderate-severe)と原因(鑑別疾患)について深掘りしていきたいと思います。



3-2. 好酸球増加症の程度と原因(鑑別疾患)

 お待たせ致しました。末梢血中における好酸球増加症(好酸球増多症)の原因を、好酸球増加症の軽度・中等度・重度(mild-moderate-severe)といった程度に関する情報と共に列挙していきたいと思います。



好酸球増加症の程度(mild-moderate-severe)と原因

  • 軽度の好酸増加症(mild eosinophilia)は、アレルギー性疾患の患者によく認められる。
  • 組織内へ侵入した蠕虫は、軽度から中等度の好酸球増加症をよく呈する。

(出典)Prim Care. 2016 Dec;43(4):607-617. doi: 10.1016/j.pop.2016.07.010. Epub 2016 Oct 14.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 いかがだったでしょうか。もちろん、好酸球数(AEC)だけで鑑別することはなく、病歴ROS(Review of System)身体所見をはじめ様々なことを組合せて考えていく必要はありますが、好酸球増加の程度に関する部分をピックアップしてきました。

 アレルギーに関しては、先ほどのNEJMでも記載があったように今では最も一般的な原因です。この文献では、好中球増加症全体で考えた場合の原因ごとの疫学的なことはあまり触れられていませんでしたが、ここでも一番メジャーなような書き方をされていました。

 特に軽度の好酸球増加症(mild eosinophilia)でよくみられる原因(often)のアレルギー性鼻炎アトピー性皮膚炎、喘息といった罹患率を考えれば納得です。そして、薬剤アレルギーも忘れてはならないとReview読んでいて感じました。そして薬剤性は一般的に軽度の増加が多く、先ほどのアレルギー疾患含め軽度上昇が多いことも特徴でしょう。薬剤アレルギーも身近であるはずですが、やや盲点になっていました。いずれにしても先進国はじめ、やはり寄生虫感染症よりもアレルギーの類が方が身近になっているということですね。

 

 感染症と言えば、まっ先に寄生虫をイメージしますが、それだけではない点も要注意でしょう。寄生虫以外にも感染症による好酸球増加の原因があります。原因となる真菌症では暴露や免疫状態、3種類の原虫 (Isospora belli, Dientamoeba fragilis, Sacocystis)では東南アジア等への渡航歴、HTLV-1感染症では出身地や両親の出身地といった問診をはじめ、他にもチェックすることが出てくるでしょう。

 寄生虫感染症を原因とする場合に関しては以前の記事にて詳しく触れたため、完結的に記述しております。寄生虫(蠕虫)の定義を曖昧にしていると、原虫も寄生虫が原則上がると勘違いしてしまいそうです。具体的な寄生虫(条虫、線虫、吸虫)については以前の記事をご覧ください。

 

 自己免疫疾患に関しては、好酸球増加の程度に関してはっきりと言えるほどのエビデンスがあまりないというようなことも書かれています。そのため、多くの自己免疫疾患がどの程度でもある(variable)というような記述になりがちです。一方で、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)に関しては好酸球数が著明になる傾向にあるようです。これは先ほどの、好酸球性肺炎のうち好酸球数が高いものがEGPAに進展する可能性が上がるというようなところともリンクしてきます。正直なところ、RAでも、SLEでも、というように何でも好酸球が上がるのでEGPAを疑うような状況を除いて、好酸球数は出番は少ないかもしれません。

 むしろ、「好酸球は上がっていないからIgG4関連疾患ではなさそう」というような、好酸球の上昇から自己免疫疾患の可能性を勝手に否定してしまうような変な勘違いをしないようにすることが大切だと思います。

 

 原発では、肥満細胞症、好酸球増加症候群、Gleich症候群(好酸球性血管浮腫)といったようなどこかで聞いたことがある程度の原因が挙げられています。やはり、分類を忘れて想起し忘れるのが怖いと感じました。これこそ、以前の記事の好酸球増加症の原因を調べたときのような大枠を意識しておきたいと思います。

 悪性腫瘍も、好酸球白血病のような血液腫瘍だけでなく、多くの種類の固形がんでも好酸球増加症生じうるということで、好酸球が上がっている際に先ほどの自己免疫疾患と同じく勝手な思い込みで否定しないようにすることが大切ですね。

 免疫不全の原因として、Job症候群(高IgE症候群)、Wiskott-Aldrich症候群、アデノシンデアミナーゼ欠損症(ADA欠損症, DADA)、Omenn症候群がありました。馴染みがなく、これも想起をすることを忘れないようにすることを意識したいというような原因に感じました。

 その他は、移植の拒絶関連、服腎不全、コレステロール塞栓と想起しやすいものもありました。服腎不全では、ステロイドの使用によって好酸球数が減るということを逆説的に想起しました。ステロイドを使用している場合は好酸球数が上がりにくいということも忘れないようにしたいと思います。

 もちろん、これらの原因だけでなく、寄生虫組織内への侵入かor管腔内か、先述の臓器・原因ごとの特徴(好酸球増加症がみられないパターンも普通に存在しうる)というようなことも留意しつつ、チェックしてもらえれば幸いです。



 いかがだったでしょうか。好酸球増加もゼロイチではなくグラデーションとして、軽度・中等度・重度(mild-moderate-severe)も意識して好酸球数(AEC)をみると、検査値について奥行きをもって接してみようと感じるかもしれません。参考文献には、原因となる疾患についてもっと詳しく記載されていたり、スライドのような図式化する段階で削がれた情報もありますので、よろしければご確認ください。

 

 スライド作りに時間がかかり更新が遅くなってしまい申し訳ございませんでした。本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

【関連記事】

 好酸球増加症の原因についてもっと簡単に確認してみたい、寄生虫感染症好酸球増加について具体的に・詳しく微生物名等までチェックしたい方は、よろしければチェックしてみてください(当記事作成を活かして一部変更を予定中)

mk-med.hatenablog.com

読書Log&Link『22世紀の民主主義』 ~医療に当てはめてみたら医療AI?~

読書Log&読書Link

22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる

成田悠輔(著)

 

<目次>

 

 今回は、イエール大学のAssistant Professorもされ、様々なところで思い込みにとらわれない本質的なコメントをされている成田悠輔さんの書籍の読書ログ(読書Log)です。先日のアクセス数達成から、今までとは違い、読書リンク読書Link)ということでこの本をきっかけに昔読んで想起した本とブレインストーミングのように考える余地を残しつつ、新たに組み合わせていく試みにしました。

 

https://m.media-amazon.com/images/I/51nuytT+YvL.jpg

 

1.【こんな人におススメ】

  • データサイエンスに興味がある人
  • 人工知能(AI)による将来に興味がある人
  • 新しい発想に興味のある人
  • 今の政治/選挙に満足していない人

 

 シルバーデモクラシー(高齢者民主主義)ともいわれる現状にふれつつ、政治・政治家・選挙の在り方を提案する書籍です。普段の会話等を含めてデータを取得・検証し、選挙はアルゴリズム選びにするという夢の詰まったお話です。データサイエンスのお話としては、決して過激な話ではないように感じます。お話の内容やお話のされ方からも、膨らませていくを含んでる書籍であるようにも感じます。

 身近なコロナの話に焦点を当ててみます。米国でのコロナ助成金はコロナ診療にほとんど効果がなく、病院のお財布を潤しただけというデータ研究のお話をおっしゃっていました。米国は明文化された基準によって助成金が配られており、もらえなかった病院と比較しやすかった一方で、日本はそもそも助成金基準が曖昧で、結果を検証できる公開データもなかったという成田悠輔さんの話がありました。例を挙げればきりがないですが、地域振興もデータの取りやすいさやデータの利用しやすさの問題はあるものの、効果検証をされているのか分からないものもあります。そのようにもっと効果検証までされれば、「こういうバラマキは意味がない」と判断して次の政策に活かせるわけです。他にも、選挙は様々な人々の日常からの意見をデータ化して組み合わせて、それを今の選挙の代わりとなるシステムや政策に向けて、アルゴリズム化しようというものです。そして、アルゴリズムを公開し、チェックし修正していく政治家と、政治は詳しくないものの今回の参院選の元女性アイドルのようなマスコットとしての政治家を分けて考えています。

 またデータサイエンスということでインタビューのような印象的なものではなく、全体の分布、1人当たり平均値や中央値といったようなデータを使うというような点も政治であればなおさら「ただ声が大きな人」やポピュリズムと異なって実態に即していそうな気がします。

 この話を拡張させて「医療(特に医師)にも当てはめてみたらどうだろうか」ということで過去に読んだ本も含めてつなげるということも含めて、読書リンクとしたいと思います。



 

2.医療に当てはめられないか?

 『22世紀の民主主義』のような考え方を医療(特に医師)に当てはめて考えてみることはできないかと、ふと個人的に思いました。人工知能(AI)人工知能まで行かなくとも機械学習も含めてデータサイエンスの考えを用いたら(データやプログラムを作ったら/使ったら)、どのように医療がなるのかを考えてみたいと思います。

 データという視点に着目すると、皆保険制度という広く行き渡った一律の制度があるのにあまり使えるデータがないというのは、もったいないと感じます。実際に病名登録をしていて感じるのですが、「病名登録、これは〇〇でお願いします。」というようなのが月に何件かやってきます。もちろん、これは査定を通すための病名登録で、実態と病名登録では少し異なる部分もあります。日本の病名登録がどの程度使えるかは疑問です。他にも電子カルテにおいて統一規格はなく、データを集める際には大変であると考えられます。使いやすく、ある程度ベースの部分で統一されていて拡張性や共通性の高い電子カルテを日本で期待をしたい気持ちもあります。もちろん、システム・企業ごとの統一となればGAFAMのようなテック企業が幅を利かせていくでしょう。

 病名登録や電子カルテが簡単にデータとして使いにくいことからでも、データとして何をどのように取得し、解析し、検証していくかを考える必要があります。Apple Watchのようなデバイスはデータを取得する統一された規格という視点からも次への展開を感じます。

 話は逸れますが、輸送用のコンテナの規格を統一することで輸送を効率化できたという物流イノベーションの話があります。『コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だったという本で読みました。このようにしっかりとした規格を考え、ある程度規格を統一することで効率化するというのは、コンテナに限らず様々なところである話ではないでしょうか。他にも、日本国内のトラックによる物流では積載率が平均40%台であることや荷下ろしのための待機時間という非効率な部分もあり、それらを共通データベースやAIで効率化し、輸送コストだけでなく長時間労働や労働環境の改善を図るというような夢もあるそうです。同じような考えを医療にも流用すればよいと思います。

 データを取るにしても、全範囲から手をつけていくには大変です。そういう意味では、まずは手をつけやすい一分野や検査結果と範囲を絞り、そこから拡大していくことになると思います。そして、医師が「マスコットとしての政治家」となる方向ではなく、専門性を発揮する方向では、そのデータやアルゴリズムを選択・作成・助言をすることが仕事となってくるかもしれません。それが完成すれば、煩雑な業務からの時間を開放できる夢も広がります。今でも、心電図検査では「〇〇の疑い」というような粗いアシストのようなものもついている機械があります。分かりやすく言えば、その延長です。変数を選び、各変数の重要性を検証していくことになります。小児の白血病ドナー選び(探し)をすることを過去にしたことがあるのですが、機械学習されたプログラムである程度絞り込むだけでも事務作業を減らすことができると思います。しかも、データとしても定量的に扱いやすいと思います。

 驚くことに、AI機器による触診で人工地震や電気特性を使って、人による触診と同じ情報を得るというような技術も考えられています。もちろん、ちゃんと手当をしてこそ医療というような意識もあるかもしれませんが、言語化の難しかった領域の教育だけでなく利用促進にもつながる期待もあります。

 

 煩雑な業務からの開放が、公共の医療守ることができるかもしれません。このまま皆保険で公共の医療を維持していくとすれば、労働人口の減少高齢化で綻び始めているこの制度や医療の持続可能性にも注目して、人材不足や長時間労働を減らす方向に舵を切れば良いと思います。これも、広い視野で思いやりであるとも感じます。例えば、目の前で子供がまたおもちゃを欲しいと泣きわめく際に買うことだけが将来のための思いやりではないでしょう。我慢をできるようにすることや「なぜ欲しいのか」という理由から考えるクセを作ることも思いやりでしょう。

 もちろん、人材不足や長時間労働を減らす方向に医療AIを用いるということだけでなく、付加価値を上げるサービス業のような方向での医療AIの活用やAIによって浮いた部分を付加価値を高める方向に用いるという考えもありそうです。医療AIで浮いた時間やリソースをもっと、人と人との対話を増やす時間に充てる、それをプレミアムなものにするというような考えです。しかし、現状の医療制度では差額ベッド代のような医療のコアではない部分でしか、付加価値は上がりません。また、社会保険や労働環境の現状から考えるに、公共の医療(日本の皆保険制度)では、人材不足や長時間労働を改善する事の方が優先な気もします。いずれにしても、煩雑な業務からの開放というのは祝福すべきでしょう。

 例えば、日本病理学会では病理診断AIプログラムを開発・研究しています。背景には400床以上で病理医がいない病院が約3分の1あり、1人しか勤務していない病院が約44%もあるという人的資源不足があります。AIと人とのダブルチェックして、フェールセーフとして働くことを期待されていると思います。画像であるため集約化や施設間共有もできますが、逆手に取れば、2人で長時間労働するなら、1人ずつに加えAI支援というような可能性も考えられそうです。

 

 さらには、東大入試(偏差値約70)に挑戦する人工知能の話で、偏差値65ぐらい(MARCH)ぐらいが限界という話を聞いたこともあります。もちろん、そのような限界はないという話もありますが、人工知能は少なくとも偏差値65ぐらいは達成できるという希望でもあります。これは、アルゴリズムによって動く医療AIが偏差値65ぐらいであり、医療AI(もしくはそのアルゴリズムによるを支援システム付き医師)の方が、噂に聞く化石のような医者よりもよい医療を提供する可能性も秘めています。

 

 病名登録のような部分を超えて、他にも効果検証をするためのデータ収集促進となることにも期待しています。抗がん剤などの薬のRCTというような論文でよく見る内容だけでなく、統合医学(補完医学)、さらにはナラティブメディスンやスピリチュアル患者中心の医療というような部分まで現場を含めた全体で、定量的で客観的な評価によって効果が可視化できるようになれば、効果に基づいて医療が考えやすくなるのではないでしょうか。これらに関しては、医療そのものなのか、医師の専門性と言えるのか、対人スキルのようなものなのか線引きは難しいものもありますが、患者さんにどの程度の効果があるのか、そして費用対効果がどうなのかという部分の客観的なデータが増えると嬉しいと思います。

 

エビデンス例: AIによる慢性疼痛に対する認知行動療法

 画像・波形解析に関連すること以外でもあくまで一例ですが、実際に論文になっているものもあります。慢性疼痛に対する認知行動療法(Cognitive behavioral therapy for chronic pain: CBT-CP)において、基本的にAIによる治療を受けた群(AI-CBT-CP群)と、セラピスト(療法士)による45分間の電話での治療を受けた群(CBT-CT群)での無作為比較試験が行われた論文を見つけました。

 

慢性疼痛に対するAIを用いた認知行動療法(AI-CBT-CP群)は、セラピストによる電話を用いた認知行動療法(CBT-CP群)に劣らず、セラピストによる治療時間が大幅に短縮されることが示された。

(出典)JAMA Intern Med. 2022 Sep 1;182(9):975-983. doi: 10.1001/jamainternmed.2022.3178.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 もちろん、AI-CBT-CP群ではオプションとして15分のセラピストとの電話や、問題が生じたときの45分の電話が用意されていましたが、それを入れても人による治療時間の大幅な短縮となりました。論文は日本とは引継ぎ等の労働環境が異なる米国でより多くの患者を診ることができる点に焦点が当てられていましたが、いずれにしても生産性が高くなると考えれば良いでしょう。そして、AIだけで解決するとも思わないので、想定されたようなAIの使い方であると思います。

 あくまで、3カ月や6カ月での非劣性を示すことができた研究で、AIが実験導入しやすい緊急性の低い治療であったように、limitationもあります。しかし、もっと長期間追跡したものや他のものでもいずれ、研究やそれに基づくエビデンスが増えていくと思います。AIは今後も進歩していくことを考えれば、スタートラインに立ってきたという印象でしょうか。論文のタイトルの患者中心の("patient-centered")疼痛ケアという表現の部分も含め、今後に期待したいと思います。



 

3.他の本と繋ぐ『10年後の仕事図鑑』

 『22世紀の民主主義』を読んで、ふと思いついた書籍がありました。過去に読んだ書籍を振り返ってつなげてみたいと思います。

 『10年後の仕事図鑑』ということで、AIの登場による新たな時代の仕事に対する考え方、働き方、お金や幸福といった全般的な話から、会社や会社員の未来、もっと具体的な職業ごとの変化(なくなる・減る仕事)といった話まであります。似たカバーをしている『2030年の世界地図帳』と同じく、読みやすくて見やすい構成となっています。そこで、医者や介護職も取り上げられていました。また、遠すぎない10年後というのが、逆算して想像や行動しやすいと思う点も素敵だと思います。

 

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医師は治療・手術に専念できる

 医師がAIに代替されることはないにせよ、役割は大きく変わってくるだろう。

 数万通りもある診断パターンから、そのつど100%適切な対処を下すのは、人間である以上不可能だ。しかし、AIならできる可能性がある。AIに「病気かどうか」の診断基準を学ばせれば、ある程度スーパードクターが誕生する。すると、医師は「診断を下す人」ではなくなる。煩雑な業務をする必要もなくなり、患者と直接かかわってケアをしたり、手術したりすることに専念できるようになるだろう。

OCHIAI’S NOTE: あとはより少ないモデルの獲得をすることだろう。

(出典)10年後の仕事図鑑, 落合陽一・堀江貴文, SBクリエイティブ, 2018

 

 ここでも、やはり煩雑な業務をする必要がなくなるという部分が鍵であると思います。これこそ、2024年問題の働き方改革のヒントにもなりそうです。

 2018年(出版時)から見た10年後ということなので、これぐらいの内容なのでしょうか。第3次AIブームのAI画像診断あたりに焦点になっているような印象です。確かにこの分野は、パターン認識に基づく部分が多いため、早期AIで代替できる部分は多いと考えられます。

 例えば、胸部画像ではCAD (Computer Aided Diagnosis) が行われており、AIとも親和性が高いと考えられます。既にノイズ除去や画像の位置合わせといった技術も進められており、健診時の画像のような状況下で最初にAIを導入しやすいところとも言えます。また、CADの中でも特にコンピュータ検出支援(CADe: Computer Aided Ditection)も用いることで、初期病変に気がつかないことへのフェールセーフとして安全性を高めることも可能です。とりわけ、AIには長時間労働や当直・夜勤明けのような過労がないというのもメリットだと感じます。コンピュータ診断支援(CADx)では、特に作業を減らす効果も期待できそうです。医療以外で想像しやすいものを挙げると、契約書チェッカーとなるような便利なソフトもあり、契約書のPDFから注意喚起をしたり、急ぎの際にもミスを減らせるという、似たようなCADと似たようなメリットがあります。

 治療方針の決定は、患者の社会・経済的な背景の考慮等が必要であり、まだ先の話になると思います。一方で、可能性のある選択肢を提示する治療支援システムぐらいはできそうな気もします。そこまででなくても、UpToDateのようなものが自ら検索しなくても必要なページが画面横にアイコンのように表示されるだけでも、手間が減ります。

 

 落合陽一さんの最後のNOTEの部分は示唆にも富んでいます。例えば、診断支援AIで陽性的中率を考えた場合に、稀な疾患では偽陽性が増えてしまいます。総合診療の診断難症例のようなプログラムを別にするというのもひとつでしょう。想定外ハズレ値稀な疾患・稀な治療を意識する必要があり、統計の知識も活かせるでしょう。稀な疾患や治療に加え、既存の疾患・治療では何か説明できないような新たな疾患概念・治療法といった部分も従来からの考えでも専門家として残されていく部分とも言えそうです。アルゴリズムを考える・選ぶことを含め、ルーチン作業の部分ではなく、医学的な判断思考の部分を仕事としてくことができそうです。

 今の若手・中堅ぐらいの年齢の人とっては、これより先の未来に起こりそうな変化頭の片隅に置いておいてもよいかもしれません。いつ、どの程度携わるかは人次第ですが、新たなことを吸収して周りが変化してく中で、新しいことを取り入れることはもちろん、現状を維持していくことも判断した結果と考えるとよいでしょう。現状維持は単なる惰性だけではなく、しっかりとしたところでは比較検討した結果のはずです。

 いつか、その選択肢が現実味を帯びてくるという意味では、成田悠輔さんのデータサイエンスを医師に当てはめれば、20年・30年先のゴールのひとつなのかもしれません。いずれにしても、工業化したときのように煩雑な部分の手間が省けるという期待ができます。また、今まで熟練してきた年配の医師の技術を取り込んでいく視点でも協力があれば、有難いでしょう。




4.抵抗とどう向き合っていくか

 医師が、医療におけるアルゴリズム選び・作成というようなデータサイエンスに関わるとなると、抵抗が予想されます。まず、50歳程度より上の人は今のままで逃げ切りができそうな年齢層でもあり、長年そのような環境で上に登ってきた人なのでその気持ちも分かります。他にも、自分の生活を守るために既得権のようなものにすがりついているというような事情がある人の抵抗も想定されれば、プログラム医療機器として広めるために業許可だけでなく、実質的に保険収載というハードルもあります。日本社会に蔓延っているとも考えられる失敗への恐怖がある人(挑戦して失敗すると後ろ指をさされる社会の流れ)もいるかもしれません。今タネを撒いておかなければ、さらに手遅れになる可能性は高いものの、現状では変えていくほどの余力がないと感じる人もいると思います。そして、今回取り上げた書籍を見て、選んだ私自身に対して否定的な反応を示す人もいるでしょう。これこそ、成田悠輔さんが日本以外にも基盤を持っている(一か所に依存していない)ことや『22世紀の民主主義』のシルバーデモクラシーに対するお話のようなマインドも新たなことをやっていく際のヒントになるかもしれません。

 親世代が息子に価値観や常識を押し付けるのが違うと感じるように、これまでの慣習や伝統から「普通は・常識として〇〇すべき」と強制していくのは違うと思います。世代によって大切にしているものごとも異なってきます。普通や常識もバイアスがかかったものです。選択自由です。むしろ、失敗しながらも立ち直り挑戦し続けられる環境があればいいと持っています。

 一方で、常識だとか慣習だとか言っている人は、その人たちの作り上げた現状の世界の中でピラミッドを維持していけばよいと思います。そうすれば、プライドもその中では維持されるでしょう。他にも、いったん従来のピラミッドを登るとそれがサンクコストになってしまい、既得権側のようになることもあります。始めるよりやめる方が決断が難しいとはこのことです。

 そして、成田悠輔さんの書籍から伝わってくる決意のようなものがあります。新たなものを作り上げていく人「既成のものはどうでもいい」と突き進んで行ってほしいというような期待が湧きました。次の世界は、これまでのようなピラミッドの形をしていないかもしれません。もちろん、新しい敵の足を引っ張り合ってやるとは考えずに、もしくはいずれくる時代の波だと考えて、熟練の技を「言語化」するのに手を貸して頂き、リターンなり、仕事の効率化なりの利益享受をし、尊重し合う関係となってお互いwin-winとなれば嬉しいと感じます。

 挑戦者は新しい考えやものにより、これまでのシステムで昇り詰めてきた人からの抵抗を受けるかもしれません。しかし、従来からの多くの人の中で一般的だとされる価値観の延長で世間体評価気にしすぎる真面目な人なりすぎず、大きな勘違いのような、人に後ろ指をさされてよいというような、鈍感さとでもいえばよいようなものを兼ね備えて進んでいって欲しいと感じます。特に、代案のない揚げ足を取るだけの批判は無視していけばよいと思います。そんなオーラというのか、心持ちのヒントが成田悠輔さんの動画や『22世紀の民主主義』の書籍にある気がします。

 人工知能(AI)で医師−患者間の人対人との直接のコミュニケーションが減り、寂しくなるという意見もあるでしょう。もちろん、臨床意志決定支援AIも考えられています。それだけでなく、入院患者の世代変化も後押しとなると思います。

 現在の80~90歳代では高齢者向け用携帯電話ですらやっとの人も多いです。しかし、あと20年もすると、多くの人がスマホを使う世代になります。病院側も環境を整える必要はありますが、昨今の面会制限に関係なくテレビ電話やオンラインのビデオ通話サービスも自ら使うことができ、家族との会話もできるはずです。選択肢を増やす方向でのオンラインの医療へのさらなる活用のみならず、寂しさを紛らわせるという部分での医療者との会話を望む部分は減るのでないでしょうか。他にも生身の医療職という枠を超えて、AIも含めて相談相手のような役を考えてもいいかもしれません。

 工業化のときのようにはじめは抵抗があることは承知ですが、職人による製品の方が今では付加価値の高いものが多く、手頃な工業製品がなかったとしたら困る人も多いでしょう。利点だけではなく、工業化によって大量消費というような問題点も生じました。その視点で言えば、人工知能と人が同じ方向で競うと賃金の低下というのは考えられるでしょう。そのため、データを取ったり、アルゴリズムを選んだり・作成したり、チェックしたりと、管理する側になるというのを考えて、共生していこうと考えています。

 

 また、日本の医療費は年間42兆200億円(2020年度)です。コロナのような大きな変化がない限り、毎年1兆円近く増えています。医療規模でも世界最大規模です。データサイエンスには必須のデータに関しての素地はあります。これらをビッグデータとして、有効活用しない手はないと思います。『10年後の仕事図鑑』で共著されているホリエモンで思い出したのですが、既得権を過度に維持/バレたらまずいことにフタをするために、ライブドア事件のような成長を妨げる規制見せしめを日本がせずに、環境整備法整備がされることを期待したいと思います。

 

 

5.最後に with『アイデアのつくり方』

 読書リンクの初回なので、それにふさわしい書籍もつなげてみたいと思います。

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 『アイデアのつくり方』ジェームス・W. ヤング(著)という本があります。今回のように新しそうなアイデアも、既存のアイデアの組合せであるということを解く書籍です。既存のアイデアの組合せと考えることができたなら、新しいもので不安だからという理由で抵抗を示す人には、もっと受け入れやすくなるかもしれないですね。先ほどのデータ取得・検証と統一規格で効率化の話での輸送用コンテナの例も、既存のアイデア(規格統一)を輸送コンテナに当てはめたとも言えます。

  他にも、DX化もまったく新しいことではないと考えています。最近では、DX化という言葉が独り歩きするように流行っています。もともとパソコンなどもありました。バズワードや商機のような面がある一方、マズい状況を話題にするきっかけとしやすい面があります。そして、デジタルトランスフォーメーション(DX)社会の在り方であり、ただ各病院や企業に合わせたオリジナルなマイナーなシステムでデジタル化するのではなく、それなりに最適化されて統一化されてパッケージ化されたシステムを入れることだと考えています。実際には過去のビジネストランスフォーメーションによる効率化のデジタル化版がDXであり、その延長でデータサイエンスやアルゴリズム選び・作成にかかわると考えれば、根底にある考えは過去と同じではないでしょうか。

 今では斬新にも聞こえる、以前の日本の考えのひとつを紹介します。経済企画庁長官でもあった堺屋太一さんの経済白書(平成12年)では、この100年間の日本が経済成長をした理由は、その都度臨機応変に制度を変更してきたことと、人的資源であると言っています。そもそも終身雇用・年功序列は新しい制度であることも明らかです。物理的な資源のない国なので人的資源に目を向けたと考えられますが、使い捨ての職場では言わずもがなであり、人的資源を昔は大切にしていたようです。

 日本の現状からすれば斬新なことのようにも聞こえます。本人には新しく見えることでも、実際にはすでに考えている・考えていた人が多数いるとも言えます。英語で検索すれば、より顕著でしょう。

 今回の医療AIの話も数年前ほどからそれなりの大きさの書店には本が並ぶようになりました。本がSF小説を読んでいる人にはもっと壮大な世界観というのか、未来のイメージがあるかもしれません。技術の延長ではなく、SF小説の世界から必要な技術を考えていくというのも夢があると感じることがあります。

 そして小説小さな文学作品には、大手メディアではコンプライアンスや炎上対策で憚られるような汚い業と本音のような言論の自由も残されていたり、参考になる部分もあるかもしれないと感じます。介護とか尊厳死についての小説でタイトルは忘れましたが、次のような比喩を読んだ記憶があります。とか「優しさに見えるその介護も、おぼつかない足取りでうろつく老人に転倒されて仕事の邪魔や責任追及されないため」とか、「手を差し伸べずに見守る介護は手を差し伸べる介護以上に消耗する、介護度3を5にする介護」とか、「本気で死にたがっている介護者を見極め、足の筋肉という第二の心臓を奪うことは考えられていない」というような、キレイごとだけでは済まされない、何かを考える際見ないままではいけない・無視できないような視点も含まれていたりします。

 文学作品も含めて、既知のもの取り入れたり組合せたりすることで多くの「新しい」ものが考えられそうです。

 

 最後に、今回の本のタイトルに立ち戻ると、民主主義ということで、今のような余命・関連性等に関係ない1人1票の目に見えやすい平等(公平とは限らない)な投票では、若い人の方が数が少ない現状における単なる多数決では勝ち目がないと考えています。テクノロジー思想ビジネス(大きなものだけではなくシェアハウスや地域コミュニティの集いカフェのような新たなものも含む)のようなもので変えていく活路を見いだせればと考えています。

 あとは、どのように行動していくか、取り入れていくかが重要であると思います。現実を見る部分(例えば、ミニマムの生活は運用含めて〇〇で確保)と、夢を見る部分を分けるというのもあるでしょう。人工知能機械学習を作る・考えるにしても、利用するにしても、あなたの行動が何かをもたらしうるという希望と共に読書ログを終わりにしたいと思います。

 

 『22世紀の民主主義』を読んで、さらに興味を持った場合、「データサイエンス」や「医療AI」というような分野・タイトルの本を探して学んで深めていくのも興味深いと思います。過去に読んだ書籍で『これだけでわかる!医療AI』というような、数式なしで全体像を掴むのに役に立つ様々な書籍もありました。

 ブレインストーミングのようなお話にお付き合いくださり、ありがとうございました。

 

PS. 医療AI入門書(概論)について、聞かれたことをきっかけ医療AIの入門書についての医学書ログを記事にしました。よろしければ、ご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

 

 

 

 規格をある程度統一することで効率化するというような、役に立ちそうな既存のアイデアのひとつとして輸送用コンテナイノベーションの話です。

 

 

読書ログ一覧

鉄欠乏性貧血③ 原因 ~成人男性/閉経後女性と悪性腫瘍~

鉄欠乏性貧血③ ICD原因

成人男性/閉経後女性の原因と悪性腫瘍まで~

 

<目次>

 

 前回まで、鉄欠乏性貧血の鉄欠乏の病態の進展や特徴的な検査結果(1回目)、さらに慢性炎症に伴う貧血(ACD)の合併、ビタミンB12欠乏・葉酸欠乏による巨赤芽球性貧血の合併をした際(2回目)について深掘りしてきました。

 前回までは検査結果を中心とした鉄欠乏に気がつくためのヒントを探してきましたが、今回は鉄欠乏性貧血の原因をチェックすることで鉄欠乏に気がつくヒントになればと思い、原因について調べてみたいと思います。

 

 

4.鉄欠乏性貧血の原因

4-1. ICDの原因: 需要と供給の視点から網羅的

 鉄欠乏性貧血(ICD)または鉄欠乏の原因を調べてみたいと思います。原因には、需要の亢進(例:出血、溶血、妊娠など)や供給の減少(例:PPIのような薬剤性、消化管異常・術後)のような分類があります。まずは、網羅的に探してみたいと思います。

 

鉄欠乏性貧血の原因

(出典)Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2019 Dec 6;2019(1):315-322.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 鉄欠乏性貧血が生じる原因を考える際に、実際に利用できる鉄が不足する状況として”availability”という表現を用いているのが上手ですね。鉄自体を摂取していたとしても、吸収や利用障害が生じる際も説明可能な上手な表現に感じます。

 また、アベイラビリティの低下の中でも、Sequestrationという分類があります。”sequestration”という単語が、「仮差押え、押収、没収」というような名詞や、「(金属イオンの)封鎖」というような名詞として用いられる事からもイメージがつかめるでしょうか。他にもsequestrationの例を挙げると、”splenic sequestration”という表現があります。脾臓で血球や血小板が貯留されてしまい血球減少や血小板減少が生じる際に”splenic sequestration”という表現が使われます。イメージはつかめましたでしょうか。

 慢性心不全(CHF)による消化管浮腫による吸収不良をはじめとする病態や、慢性腎臓病(CKD)によるEPO低下による赤血球産生低下による貯蔵鉄過剰(フェリチン増加)によるヘプシジンの増加やフェロポーチン1(FP1)の抑制が生じることによる鉄利用制限といった病態も想起しやすくなると思います。慢性炎症に伴う貧血(ACD)とは似ている面もありつつも貯蔵鉄過剰か起源というメカニズムも理解しやすくなります。

 IntakeやAbsorbtionの個別の原因をみていくと、制酸薬PPI、さらにはピロリ菌感染による萎縮性胃炎のような状況は、胃酸による鉄の還元やそれによる消化吸収の話と結びつきます。

 

 さらに鉄需要が増加する場合としても、大きくは生理的なものと、失血や出血があります。生理的な原因ではそれなりに運動をしていそうな人を診たら「スポーツ貧血」も忘れないようにすることも意識が必要そうです。失血や出血という括りを想起すれば、原因として消化性潰瘍血管異常といった原因も想起しやすくなると思います。訳して作ったスライドなので少し微妙なところはありますが、このように分類して考えれば、抜けなく原因となる鑑別を挙げやすくなると思います。

 

 これらを意識しつつ、どのような原因が多いかという疫学や、高齢者の悪性腫瘍のことも含めて探してみたいと思います。



4-2. ICDの原因: 疫学的な視点から

 需要と供給の視点から鉄欠乏性貧血(ICD)の原因を網羅的に挙げてきました。次は、やや実践的に疫学を意識した原因について深堀していきたいと思います。

 

鉄欠乏性貧血の原因

(出典)Am Fam Physician. 2013 Jan 15;87(2):98-104.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

  最も多かった原因から順に、不正出血(20-30%)、アスピリンなどのNSAIDsの長期使用(10-15%)、大腸癌(5-10%)、血管形成異常(5%)、献血(5%)、胃癌(5%)、消化性潰瘍(5%)、セリアック病(4-6%)、胃切除術(<5%)、ピロリ菌感染(<5%)、食道炎(2-4%)、食道癌(1-2%)、胃前庭部毛細血管拡張症(1-2%)、小腸腫瘍(1-2%)、血尿(1%)が、1%以上の原因でした。いくら、1%といえども罹患率や有病率が高い疾患の原因ため絶対数も多くなります。

 この中でも、不正出血(不正性器出血)NSAIDsの使用はとても多く感じました。不正出血からは女性が多いことは納得ですが、性器出血でそもそも鉄欠乏になりやすいことや、疼痛等でNSAIDsを使用している人でも多いということも忘れないようにする必要があると思います。

 セリアック病の有病率は西欧に比べて日本では少ないため、外国人診療や海外で診療する際に忘れないように意識したいと思います。胃癌だけでなく、胃癌にもつながるピロリ菌感染(H. pylori)はいずれも背景に萎縮性胃炎による胃酸の低下もありそうです。それにしても、不正出血以外では、胃をはじめとする消化管由来の原因の多さには着目すべきであると感じました。あとは、貧血の原因として献血5%という高さは盲点でした。他にも、出血失血の原因として毛細血管拡張症もあることから、出血の原因の奥深さ出血源チェックの大切さを感じます。

 

 ここでも、大腸癌(10%)、胃癌(5%)、食道癌(1-2%)、小腸腫瘍(1-2%)、膵臓の乳頭部癌(1%未満)と合計で15~20%程度の原因を悪性腫瘍が占めています。原因が悪性腫瘍となれば、高齢者のことが気になるので高齢者や悪性腫瘍と鉄欠乏性貧血について調べてみたいと思います。

 


【補足】鉄欠乏性貧血の疫学(日本)

鉄欠乏性貧血は世界で最も頻度の高い貧血であり、日本人女性で約8~10%の罹患率とされる。年齢を20~49歳に限ると20~26%とも報告されている。

(出典)内科学 第11版, 朝倉書店, 2017.

 女性での罹患率はとても高く絶対数も多いことから、Commonな疾患のUncommonなプレゼンテーションのように、Commonな病態(鉄欠乏)のUncommonな原因それなりにあるということになります。男性の罹患率も数パーセントであったような気がするのですが、信用できる信用元を探すことができませんでしたが、成人男性と閉経後の女性の年齢では本来は一般的な理由(性器出血など生理的な原因)の罹患率が下がり、悪性腫瘍出血源のチェックを意識することになると思いますので、調べてみます。

 

 

4-3. 成人男性/閉経後の女性とICD

 鉄欠乏性貧血が生理的に生じやすい月経に伴う貧血(女性)や、成長に伴う貧血(小児)は、原因として疑いやすいものがありますが、そうでない場合は原因が特に気になるところです。実際にどのようなことに気をつければよいのでしょうか。

 

男性および閉経後の女性では、消化器系の出血を除外すべきである。上部および下部内視鏡検査が推奨されているが、どちらの検査を先に行うべきか、また、最初の検査で出血源が見つかった場合、2番目の検査が必要であるかについては、明確なガイドラインがない。上部および下部管に同時に発生する病変はまれで、同時にみられるのは患者の1~9%でしかない。 しかし、ある研究では、セリアック病と鉄欠乏性貧血と診断された患者の12.2%に2次的な貧血源があり、その中には3例の大腸癌も含まれた。プライマリーケア領域において原因不明の鉄欠乏性貧血であった患者では、11%が新たに消化器がん(GI cancer)と診断された報告がある。さらに、50歳以上の患者の6%、65歳以上の患者の9%が、鉄欠乏性貧血の診断から2年以内に消化器系の悪性腫瘍と診断されたとするコホート研究がある。

(出典)Am Fam Physician. 2013 Jan 15;87(2):98-104.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 悪性腫瘍だけでなく、食道・胃静脈瘤や胃潰瘍などに伴う消化管出血も忘れてはいけないと再確認でした。徐々に慢性的に出血であれば貧血ですが、胃潰瘍でも例えばDieulafoy(デュラフォイ)潰瘍による動脈性出血のような急性出血にも気をつけたいものです。前回、慢性炎症(ACD)を調べたこともあり、悪性腫瘍に意識を持っていかれすぎていました。肝硬変の患者で静脈瘤、NSAIDsをよく飲んでいる患者で胃潰瘍というように想起して、気をつけるべきことがたくさんありそうです。

 もちろん、プライマリケア領域で原因不明のICDの患者のうち11%が消化器癌であったというのも、前述の疫学を含めて悪性腫瘍(特に消化器)にも、気をつけて内視鏡も意識したいところです。また、2年以内に消化器系の悪性腫瘍と診断されている報告があることからも精査やフォローアップも考えることになると思います。

 

 原因も様々ですが、やはり成人男性や閉経後の女性における悪性腫瘍が気になります。文献によりまちまちではありますが、消化管悪性腫瘍の割合が10%を超える文献もあります。慢性疾患による貧血(ACD)とオーバーラップしてくる面もありますが、鉄欠乏性貧血を見つけた際にしっかり消化管等の出血だけでなく悪性腫瘍除外することを意識したいものです。
 慢性炎症とオーバーラップしている場合は、内視鏡をして異常がなくても消化管の悪性腫瘍以外も含めて他の炎症を生じる腫瘍などの原因を考える必要も出てくると思います。

 

 

5.最後に ~治療法にも発見あり~

 3回に渡る鉄欠乏性貧血シリーズをお読みくださり、ありがとうございました。鉄欠乏性貧血やその原因をみつけるヒントとなれば幸いです。診断がつけば、後は治療になると思います。根本的な原因へも可能な範囲で治療介入しつつ、鉄剤を使用するようなことになります。鉄剤も様々な種類クエン酸第一鉄ナトリウム、硫酸鉄など)や投与方法(経口、静注)があります。

 鉄欠乏の治療においても、様々な知見も存在します。毎日サプリを飲んでいるような人からすれば、治療の場合も毎日鉄剤を使用したほうが良いと感じるかもしれません。しかし、そうではないような初見では意外と感じるエビデンスも存在します。

 

 鉄欠乏の若い女性への硫酸鉄の経口摂取における研究です。

  • 鉄の絶対吸収量は増加した (P< .001)ものの、吸収率は鉄投与量の増加とともに減少した (P< .001)。投与量は 6 倍 (40 から 240 mg) に増加したが、吸収される鉄の絶対量は約 3 倍 (6.7mg vs. 18.1 mg)しか増加しなかった。
  • 鉄剤を24時間以内に80、160、および 240 mg の用量で投与すると吸収が阻害され、投与量40 mgがもっとも吸収効率が良いことを示唆している。
  • 用量が 60 mg 以上の経口鉄剤は、投与が 48 時間間隔である場合に吸収率が高くなることを示唆している。

(出典)Blood. 2015 Oct 22;126(17):1981-9.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 ヘプシジンやフェリチン飽和度、PHep濃度といった指標やグラフも用いて、詳しく解説されています。硫酸鉄の経口鉄剤である点や若い女性である点もありますが、投与量によっては、毎日コンスタントに飲むことが必ずしも良いとは限らない、2日に1回の方が吸収効率が良いかもしれないという意味でも様々な投与方法(治療方法)を考えたり、エビデンスをチェックしたりするきっかけになるかもしれません。そして、新たなエビデンスに興味を持つのではないでしょうか。

 

 身近な疾患ながら、なかなか奥の深い鉄欠乏性貧血でした。本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 

 

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鉄欠乏性貧血②

慢性炎症ビタミンB12葉酸欠乏との合併と貧血へのアプローチ

 

<目次>

 

 前回は、鉄欠乏性貧血① 鉄欠乏の進展と臨床検査ということで、鉄欠乏性貧血に至る病態検査結果について深掘りしてきました。今回は、鉄欠乏性貧血と合併しやすかったり、診断を難しくしたりする慢性疾患による貧血(ACD)巨赤芽球性貧血ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏)がオーバーラップした際のことについてチェックしていきたいと思います。

 

 

3.慢性炎症ビタミンB12葉酸欠乏との合併

 それでは、鉄欠乏(鉄欠乏性貧血)と慢性炎症、ビタミンB12欠乏や葉酸欠乏が合併した際にどのように検査結果が変化するのか、どのようなことに気をつければいいのか等を調べてみたいと思います。

 まずは、鉄欠乏性貧血と慢性炎症に伴う貧血(慢性疾患による貧血 Anemia of Chronic Disease: ACD)ビタミンB12欠乏葉酸欠乏による貧血(巨赤芽球性貧血)を基本事項から比較してみたいと思います。

 

鉄欠乏性貧血, 慢性疾患による貧血, 巨赤芽球性貧血の比較

 

 鉄欠乏性貧血、慢性炎症に伴う貧血、巨赤芽球性貧血(ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏)を国試レベルでざっと比較してみました。慢性炎症による貧血と巨赤芽球性貧血によって比較する項目が大きく異なります貧血では一般的に「血球減少している系統数のチェック、LDHと網状赤血球数をみて、…」とも言いますが、国試的な範囲から異なります。

 巨赤芽球性貧血では、そもそも大球性正色素性貧血となります。鉄欠乏と同じく栄養素の不足による貧血であり、DNA合成障害による貧血です。LDHも上がりますが、MCVやMCH、MCHCの動きが慢性炎症による貧血とは異なり、赤血球指数(MCV)で貧血の分類をしていく中で分かります。

 慢性炎症による貧血では、小球性貧血となる点は鉄欠乏性貧血と同じです。そのため、血清フェリチン値、TIBC、UIBCといった指標で判断していくことになります。

 いずれにしても、栄養に偏りがある人では鉄欠乏とビタミンB12欠乏・葉酸欠乏は合併しやすく、鉄欠乏と慢性炎症は判断に困ったり、大腸がんのような状況で合併したりということで、区別をどうすればよいのかというのを具体的に深掘りしていきたいと思います。



【補足】貧血へのアプローチ(鑑別)

 巨赤芽球性貧血と鉄欠乏性貧血の合併の場合、そもそもいずれも小球性貧血を呈するものではないので、その手前の部分で鑑別しつつ、一般的に貧血へアプローチする際に両者の合併に気がつくヒントがないのかという部分に着目してみたいと思います。MCV(平均赤血球容積)によって分類する方法だけでなく、網状赤血球やLDH、産生障害や出血・溶血の有無で分類する方法もあります。そのため、貧血の鑑別について一例を挙げて振り返ってみます。

 

貧血へのアプローチ(鑑別)

(出典)Pocket medicine: the Massachusetts General Hospital handbook of internal medicine, 2017 (6th edition).

 

 Pocket Medicineでは、最初に網状赤血球指数(reticulocyte index: RI)〔網赤血球産生指数(reticulocyte production index: RPI)と同義〕によって大きく分けています。

 RIは網状赤血球(網赤血球)をパラメータにもつ指標で、赤血球の産生、すなわち赤血球が減少したことに対する骨髄の反応性を見ています。骨髄での反応性があるか(赤血球が貧血を補うように産生されているか)で分類し、赤血球産生低下による貧血の中で、さらにMCV小球性貧血、正球性貧血、大球性貧血に分類しています。

 一方で、赤血球の破壊亢進または失血による場合は赤血球の産生低下はなく、骨髄としては赤血球を補おうとしている状況であり、貧血になった原因をLDHやBil(溶血により上昇)、ハプトグロビン(溶血により低下)といった結果や出血の有無から、溶血と急性の出血と区別しています。消化管出血の場合は、尿素窒素(BUN)やCre/BUN比も役立つことがあると思います。

 

 鉄欠乏性貧血における鉄不足によるヘモグロビン合成にしても、巨赤芽球性貧血におけるビタミンB12欠乏・葉酸欠乏によるDNA合成障害しても、赤血球産生低下を招くということから、RI<2%の方に分類されています。網状赤血球をもとにした指標であるRIでは、国試のMCVでの鑑別の手前までしか絞り切れませんでした(もちろん、出血や溶血を鑑別することも大切)。そしてLDHでは鑑別できるわけではなく、MCVやさらにその先のフェリチンや鉄なども鑑別になるという程度でした。特に、新たな発見はありませんでした。

 しかし、こうやって整理してみると貧血も学ぶことが多く、MCV以外による鑑別含め、他の貧血にも興味を持ってもらえるきっかけとなれば幸いです。



3-1. 巨赤芽球性貧血との合併: RDWに着目!?

 気を取り直して、鉄欠乏性貧血とビタミンB12欠乏や葉酸欠乏が合併した際の特徴を探していきたいと思います。まずは、すぐに考えられるのは、鉄欠乏性貧血だけの場合に比べてMCVが上がる(小球性よりも正球性寄り)ということでしょうか。ヒントがこれだけなのかを調べてみたいと思います。

 

2つ以上の障害が存在する場合、MCVは赤血球の異なる集団の平均値となり、正常値となることがある。しかし、混合障害では赤血球分布幅(red cell distributuion width: RDW)が増加する。

(出典)セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版

 

 なるほど!MCVが80-100 fL(正球性)であったとしても、MCV<80 fLであったとしても、MCV<70 fLほどではないとき〔前回記事①のMCVによる診断特性(尤度比)を参照〕でも、RDWが大きいと感じたときには疑うヒントになりそうですね。こうやって、言われれば納得でも、自分からは想起しにくいものを見つけられるというのは収穫だと感じました。

 

 もう少しRDWについて深掘りしてみたいと思います。直接、鉄欠乏とビタミンB12欠乏または葉酸欠乏が合併した際のRDWについて具体的に示唆するものを見つけられませんでした。そこで、「大球性を呈しない巨赤芽球性貧血の診断の手掛かり」というタイトルの論文を見つけました。

 

貧血の患者が Hb <10 g/dl かつ、MCV 80-99 fLである場合、RDW >16%、RI <2%であれば、ビタミンB12/葉酸の測定を考慮すべきである。

(出典)Int J Lab Hematol. 2007 Jun;29(3):163-71. doi: 10.1111/j.1751-553X.2007.00911.x.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 これは鵜呑みにはできず、あくまでビタミンB12欠乏や葉酸欠乏が隠れている可能性を大球性貧血以外の場合で想起するヒントになる指標です。272名の巨赤芽球性貧血の患者のうち20名がMCV≦99 fLであり、その患者をもとに考えられたものです。しかも、MCV≦99 fLの患者20名のうち、11名がサラセミア、3名がサラセミア+鉄欠乏、4名が鉄欠乏、2名が慢性疾患となっています。RDW16%以上というのは、あくまで鉄欠乏性貧血に何かが合併したのとは異なるということも参考程度でしょう。

 

 RDWに注目して、鉄欠乏性貧血のときのRDWについて調べてみたいと思います。

 

20-40歳の低色素性貧血の患者におけるRDW

(出典)Am J Hematol. 2002 Jan;69(1):31-3. doi: 10.1002/ajh.10011.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 1年間の低色素性貧血の症例の検査結果の後ろ向き研究ですが、20歳から40歳と成人のRDWのデータをもとにしたものを見つけました。RDWが小児におけるサラセミアと鉄欠乏性貧血の鑑別に役立つということを示唆する論文が多く、成人例をやっとみつけることができました。

 鉄欠乏性貧血では、RDW(%)=18.00±1.94ということで正常時よりも上昇しています。しかし、サラセミアでもRDWが上昇しています。αβ複合型サラセミアとβサラセミアによるRDWの違いもありますが、鉄欠乏性貧血(IDA)、サラセミアいずれにしても、RDWが増加するという程度のヒントかもしれません。それにしても、鉄欠乏性貧血でRDWが上昇するというのは、普段のルーチン検査で項目に入っているRDWをもっと興味をもってチェックするきっかけになるという意味でも発見かもしれません。

 

 ここで鉄欠乏性貧血にビタミンB12欠乏や葉酸欠乏が加わったとしても、ここまでくるとカットオフを設けることも難しく、過去のデータとの比較等に頼ることになる場面が多いと感じます。できれば、セイントとチョプラの内科診断ガイドの裏付けや具体的なエビデンスが欲しかったのですが、諦めることにします。

 さらに、小球性貧血であれば、鉄欠乏性貧血を鑑別に想起して行くことになると思うので、正球性貧血の際にもRI(赤血球産生低下)やRDWもチェックしつつ、鉄欠乏性貧血も忘れないというようなところにしたいと思います。



 

3-2. 慢性炎症に伴う貧血(ACD)との合併

 次に、慢性炎症に伴う貧血(慢性疾患による貧血、 anemia of chronic disease: ACD)と鉄欠乏性貧血(IDA)がオーバーラップした際のヒントを探してみたいと思います。

 

鉄欠乏性貧血と慢性疾患による貧血の検査結果

慢性疾患による貧血(ACD)のみと比較して、ACDに鉄欠乏性貧血を合併した場合では、小球性がより顕著になり、貧血が重症化する傾向がある。

(出典)N Engl J Med. 2005 Mar 10;352(10):1011-23. doi: 10.1056/NEJMra041809.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 鉄欠乏性貧血(ICD)ICDとACDが合併している場合の差を比較していきたいと思います。血清鉄、トランスフェリン、トランスフェリン飽和度(=血清鉄/TIBC)、フェリチン(F)、可溶性トランスフェリン受容体(sTfR)、sTfR/F比(血清可溶性トランスフェリン受容体値/Log血清フェリチン値)、サイトカインを比較しています。ACDが合併することによる特徴は、トランスフェリン低下、サイトカイン(炎症性マーカー)上昇、フェリチンやsTfRが正常値のこともありうるというところでしょうか。鉄欠乏性貧血についての他のNEJMのReview(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/25946282/)にも、機能性IDA(負の鉄平衡や鉄欠乏性赤血球産生の状態)を含めた包括的なものもありましたので、よろしければそちらもご覧ください。

 

フェリチンは急性期反応物質でもあり、慢性炎症または感染症の患者において上昇することがある。慢性炎症のある患者では、フェリチン値が50ng/mL未満であれば、鉄欠乏性貧血の可能性があります。フェリチン値が100ng/mL以上であれば、一般に鉄欠乏性貧血は除外されます。

(出典)Am Fam Physician. 2013 Jan 15;87(2):98-104.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 炎症性マーカーとしてCRPESR(赤沈)も参考になると思いますが、前回①でも取り上げたようにフェリチンも急性・慢性炎症によって上がるということも留意が必要だと思います。そして、それによって鉄欠乏によって低下するはずのフェリチンもやや上昇する可能性があると解釈できます。

 慢性炎症による貧血の際に鉄欠乏性貧血を見逃さないようなヒントをさらに探してみたいと思います。

 

慢性心不全、慢性腎臓病もしくは炎症性腸疾患といった慢性疾患が背景にある患者において、次の条件を貧血を伴わない鉄欠乏として推奨している。

  • 血清フェリチン < 100 ng/mL または、フェリチン飽和度(TSAT) < 20%
  • 血清フェリチン値が100-300 ng/mLの場合はTSATが診断に必要。

(出典)Am J Hematol. 2017 Oct;92(10):1068-1078. doi: 10.1002/ajh.24820. Epub 2017 Jul 7.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 慢性炎症(慢性疾患)があると鉄欠乏を否定しにくいということを感じました。あくまで、鉄欠乏性貧血ではなく鉄欠乏ではありますが、様々なガイドラインで上記のようなカットオフ値が使われているようです。貧血はcommonな病態でありながら、調べていくととても奥深く興味深いですね。

 また、慢性心不全(CHF)による鉄欠乏の原因として、食欲低下や倦怠感、消化管浮腫による吸収低下、薬剤との兼ね合いというようなものまで挙げられていて興味深い文献でした。検査結果を中心に調べてきましたが、鉄欠乏性貧血を疑うきっかけとして原因も考えてみたいと思います。



 

4.鉄欠乏性貧血の原因

 鉄欠乏性貧血の原因を鉄の需要と供給の視点から網羅的に挙げてみたり、疫学を意識したり、悪性腫瘍についても、次回以降に調べてみたいと思います。

【続編】

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 お待たせ致しました。続編(③)が完成致しました。続編もよろしくお願い致します。本日もお読みくださりありがとございました。

 

 

 

【関連記事】前編①

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貧血の手がかり: 症状や身体所見

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鉄欠乏性貧血① 鉄欠乏の進展と臨床検査

鉄欠乏性貧血① 

鉄欠乏進展臨床検査

 

<目次>

 

 今回は、身近な鉄欠乏性貧血についてです。小児や女性では罹患率も高く身近な疾患です。また、高齢者で見つけた際には原因精査も考えたくなるものです。国試でも学ぶ一見すると単純なようにも見える病態ですが、やはり国試で学んだような典型的な検査結果だけではないと感じます。鉄欠乏性貧血に至る前段階や、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、慢性炎症等の合併によって典型的な検査結果になるとは限らないという奥深さを感じたため、復習ならびに深掘りしていきたいと思います。



1.鉄欠乏性貧血 ~鉄欠乏の進展~

 鉄欠乏性貧血と言えば、国試レベルでは次のようなイメージでしょうか。

 

小球性低色素性貧血

  • Hb低下(男性 <13 g/dL, 女性 <12 g/dL)
  • MCV低下(<80)、MCH低下、MCHC低下

小球性貧血の中でも血清鉄低下、フェリチン低下、UIBC増加、TIBC増加でしょうか。

 

 ここまで鉄欠乏性貧血の典型のような状況に至るとも限らず、前段階もあります。その辺りから調べてみたいと思います。

 

鉄欠乏の段階

  • 鉄欠乏の段階は3つの段階(負の鉄平衡、鉄欠乏赤血球産生、鉄欠乏性貧血)に分けられる。

  • 骨髄貯蔵鉄、血清フェリチン、総鉄結合能(TIBC)の計測は、早期の鉄枯渇に対して敏感である。鉄欠乏赤血球産生はさらに、血清鉄、トランスフェリン飽和度、骨髄鉄芽球パターン、赤血球プロトポルフィリン値の異常によっても認識される。鉄欠乏性貧血の患者では、上記すべての異常に加え、小球性低色素性貧血を呈する。

(出典)ハリソン内科学 第5版

(注)トランスフェリン飽和度(TSAT)=Fe÷TIBC×100(%)

 

 鉄欠乏性貧血に至る前の段階の分類はいかがでしょうか。教科書でも朝倉にはこのような記載はなく、さすがはハリソンだと感じます。鉄欠乏性貧血に至る段階、すなわち負の鉄平衡鉄欠乏赤血球産生の段階で鉄欠乏を見つけたいと思ったときの検査結果のヒントとしても興味深いと感じます。表では表現しきれない部分もありますが、進展していく病態をグラデーションとしてとらえて、鉄欠乏の進展と病態・検査結果の推移(鉄補充後の戻り方)としても興味深いです。

 負の鉄平衡では、血清フェリチン低下総鉄結合能(TIBC)上昇といったあたりから変化が生じてくるようです。鉄欠乏赤血球産生になると、血清鉄の低下トランスフェリン飽和度(血清鉄/TIBC)の低下、さらには骨髄鉄芽球の低下、血球プロトポルフィリンの上昇も生じてくるようです。

 

 もちろん、鉄欠乏性貧血のヒントとして検査結果以外にも症状や身体所見もあります。症状では、貧血の症状として疲労感、運動能力の低下息切れ(程度次第)といったもの、鉄欠乏による症状として異食症(例:ずっと氷を食べる)、レストレッグス症候群のようなものが生じることもあります。さらに貧血の原因が失血があればそれに伴う症状や所見(消化管出血であれば血便)が見られる場合もあります。高齢者であれば悪性腫瘍の可能性も否定したくなるかもしれません。

 また、鉄欠乏身体所見として、匙状爪口角炎舌炎、さらには貧血の身体所見として皮膚・顔面蒼白眼瞼結膜蒼白が見られる場合もヒントになると思います。

 

【参考】貧血の症候・身体所見の過去記事

  

 

 

2.貧血の検査所見の深掘り

 先ほどの負の鉄平衡や鉄欠乏赤血球産生の場合、さらには鉄欠乏性貧血(IDA)の際に、どこまで教科書通りの検査結果になるのか、さらには他にも鉄欠乏を示唆する検査所見等がないのかを深掘りしてみたいと思います。

 

2-1. 血清フェリチン値は必要?

 何をどこまで検査すればいいのかと疑問に感じるかもしれません。鉄欠乏を早く見つける(鉄欠乏性貧血)の手前で見つけるという意味では、早めにフェリチンを測定したくなるかもしれません。実際に調べてみたいと思います。

 

貧血でMCV 95 fL未満の患者には、血清フェリチン値を測定する必要がある。血清フェリチン値15 ng/ mL未満の場合、鉄欠乏性貧血と診断されるが、30 ng/ mLをカットオフ値とすると、感度は25%から92%に上がり、特異度は 98%と高く維持される。

フェリチンは急性期反応物質でもあり、慢性炎症または感染症の患者において上昇することがある。慢性炎症のある患者では、フェリチン値が50 ng/mL未満であれば、鉄欠乏性貧血の可能性があります。フェリチン値が100 ng/mL以上であれば、一般に鉄欠乏性貧血は除外されます。

(出典)Am Fam Physician. 2013 Jan 15;87(2):98-104.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 貧血であれば、血清フェリチン値は検査として頼りになりそうです。慢性炎症のような状況の合併はさておき、特にフェリチン値 30 ng/dLカットオフにすると感度(92%)特異度(98%)も高そうです。一方で、検査料としての保険診療点数が105点ということやMCV 80 gal 未満ではなく、MCV 80-95 fLの際(小球性貧血ではない時)に査定がどうなるかも悩みどころです。もちろん、「鉄欠乏性貧血疑い」と病名登録するとは思いますが、患者負担増加や保険が下りずに持ち出しのリスクがあっても疑ったらフェリチンを測定したいということで、もっと確率を上げられるかをまずは検査値で調べてみたいと思います。



2-2. 各検査結果と尤度比

 先ほどの血清フェリチン値や貧血の鑑別に使えそうな検査結果鉄欠乏性貧血らしさについて調べてみました。成人と65歳以上の比較もあります。

 

鉄欠乏の診断と各検査値(尤度比)

(出典)Am Fam Physician. 2007 Mar 1;75(5):671-8.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 成人と65歳以上でも概ね同じ傾向でした。やや検査値の範囲が異なることもありますが、トランスフェリン飽和度は65歳以上の方が鉄欠乏性貧血らしさは高そうです。

 MCVについてもチェックしてみます。尤度比でもMCB 75-79 fLで尤度比が1.0というところだけでなく、正球性(MCV 85-89 fL)でも尤度比(LR)が0.76とそこまで鉄欠乏らしくない訳でもないところが前述の病態(負の鉄平衡、鉄欠乏赤血球産生)反映していると感じました。一方で、成人でMCV<70 fLのときにLR=12.5高齢者でMCV <75 fLのときにLR=8.82であり、とても鉄欠乏性貧血らしいというのも見どころです。

 フェリチン成人で15 ng/mLを下回るとき、高齢者で19 ng/mLを下回るときの尤度比(LR)はいずれもとても高くなっています。そうでない場合もフェリチン値 45 ng/mL以下では尤度比は1を上回っていて、こちらも前述の病態を反映していて捨てきれないという印象を受けました。やはり、負の鉄平衡や鉄欠乏赤血球産生のように検査値が典型的な鉄欠乏性貧血へ進行していくように組合せも意識する必要があると感じます。

 トランスフェリン飽和度に関しても似たような傾向があります。トランスフェリン飽和度が5%を切ると成人の場合でも高齢者の場合でも尤度比(LR)高くなります。

 

 他にも、検索途中で高齢者の鉄欠乏性貧血で各検査値からROC曲線を作成している古い文献もありました。鉄欠乏性貧血という一般的なテーマだからでしょうか。気になる方は Diagnosis of iron-deficiency anemia in the elderly(PMID: 2178409)をご覧ください。

 

2-3. 鉄欠乏と血小板数

 鉄欠乏性貧血である可能性を上げる検査値について、先述以外に何かヒントがないのか調べてみたところ、鉄欠乏と血小板数に関する報告もありました。

 

鉄欠乏・鉄欠乏性貧血と血小板の変化

  • 血小板増加症(血小板数>40万/μL)は慢性的な鉄欠乏症の典型的な臨床所見であり、"反応性 "血小板増加症の1つの病態である。
  • 絶対的鉄欠乏(すなわち、炎症に関連する鉄欠乏症を除く)のみでは、”反応性” 血小板増加症は次のような頻度で観察される。Kukuらによる615人の研究では13%、Kadikoyluらによる86人の女性では28%、Songらによる大規模な36,327人のIDA患者では約33%であった。

(出典)Am J Hematol. 2021 Aug 1;96(8):1008-1016. doi: 10.1002/ajh.26189.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 慢性的な鉄欠乏では、血小板増加症もみられることがある(16%~33%)ようです。チューブリンのダウンレギュレーションが根底にあるようですが、いずれにしても血算で一緒にチェックするとヒントになりそうです。決して、血小板増加が見られることは多くはないですが、血小板増加がある際には慢性炎症といった他の合併も視野に入れつつ、少し血小板減少っぽくてフェリチンも見てみたいなというようなところでしょうか。

 

 先ほど(2-1)でも、慢性炎症のある患者ではフェリチン値が50 ng/mL未満あれば、鉄欠乏性貧血の可能性があり、一方で100 ng/mL以上であれば一般的に除外できるということでした。やはり、鉄欠乏性貧血(鉄欠乏症)と他の貧血(ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏、慢性炎症)の合併について調べてみたいと思います。

 

 

3.慢性炎症、ビタミンB12葉酸欠乏との合併

 鉄欠乏(鉄欠乏性貧血)慢性炎症ビタミンB12欠乏葉酸欠乏が合併した際にどのように検査結果が変化するのか、どのようなことに気をつければいいのか等を次回以降に調べてみたいと思います。

【続編】

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 お待たせ致しました。続編が完成致しました。続編もよろしくお願い致します。

 本日もお読みくださりありがとございました。

 

 

 

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鉄欠乏性貧血 後編③

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 今回の鉄欠乏性貧血の病態の進展をはじめ、いつ読んでも発見のあることが多いハリソン内科学だと感じます。読者レビューをはじめ気になる方はチェックしてみてください。