"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

医学の趣味人"Med-Hobbyist"のブログへようこそ。医学に関連する「なぜ」・「なに」といった好奇心を大切にする場所として、体験・読書をシェアする場所として、過去の失敗談やヒヤリを棚卸する場所として、傷を舐め合う場所ではなく何かヒントを得られるような場所にしたいと思います。少しでもお役に立てば幸いです。

いつ取る!? 血液培養|悪寒戦慄、発熱の程度、Shapiroのルール、qSOFA等

いつ取る!? 血液培養

悪寒戦慄、発熱の程度、Shapiroのルール、qSOFA等~

 

<目次>

 

 病棟での発熱報告、救急外来での発熱患者等、発熱患者対応する機会のない方はほとんどいないと思います。一方で、特に深夜の病棟などの状況によって血液培養を取るべきか悩むことはありませんか。

 今回は血液培養を取るかの判断の際のヒント探しをしてみたいと思います。

 

 

1. Shapiroルール

 まずは、血液培養をどのような時に取るべきかを探った臨床予測ルールのようなものがあります。Shapiroらによって書かれた論文のため、「Shapiroのルール」と呼ばせて頂きます。

 それでは中身をチェックしていきます。

 

血液培養採取のための臨床予測ルール

  • 大学附属の3次救急病院の救急外来に来た成人男性の前向き観察研究
  • 対象:受診または入院後3時間以内に血液培養を採取した患者3901名

血液培養 Shapiroのルール

大基準1つ以上または小基準2つ以上を満たす場合に血液培養を採取

  • 大基準:体温 > 39.5℃、血管カテーテル留置、心内膜炎疑い(臨床上)
  • 小基準:体温38.3℃~39.4℃、年齢 > 65歳、悪寒、嘔吐、血圧低下(収縮期血圧 < 90 mmHg)、好中球割合 > 80%、白血球数 > 18000/µL、桿状核球割合 > 5%、血小板数 < 15万/µL、クレアチニン > 2.0 mg/dL

上記基準を満たさない場合は低リスクとし、低リスク患者では血液培養陽性者は4名(0.6%)であり、感度は96%(95% CI, 94-100%)であった。

 

  • 各項目の尤度比は次の通りであった。

血液培養 病歴・所見等のオッズ比

(出典)J Emerg Med. 2008 Oct;35(3):255-64. doi: 10.1016/j.jemermed.2008.04.001. Epub 2008 May 16.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 各項目の陽性尤度比心内膜炎疑い(OR 6.5)、体温>39.4℃(OR 4.8)、血管カテーテル(OR 3.4)、悪寒(OR 2.3)、Cr > 2.0 mg/dL(OR 2.2)、好中球割合 > 80%(OR 2.0)と続くものの、それ以外の項目〔体温>38.3℃、血圧低下(sBP < 90 mmHg)、嘔吐、白血球数>18,000個/mm3、桿状核球>5%、血小板数<15万/mm3)の陽性尤度比は2未満であり、多くの所見はあくまで組合せで、そこまでひとつの所見での特異性はなさそうです。

 ただし、菌血症・敗血症を引っかけることを目的とすれば、やはり感度の方をある程度優先して考えることになると思います。

 それぞれの項目に注目してみると、「嘔吐」という項目に関しては、腎盂腎炎・敗血症性アシドーシス、さらに考えていって急性腎障害による尿毒症、敗血症の原因が消化管の場合等には分かりますが、何にでもオールマイティに使えるとも限らない項目もあります。そういう意味では組合せといったところでしょうか。

 

 ただし、このShapiroのルールの項目だけでなく、悪寒と比べて悪寒戦慄の方が菌血症に対する尤度比が高いというような論文や、体温(発熱の程度)と血液培養の陽性率に有意差がないとするような論文もあり、それらも紹介したいと思います。

 

 

 

2. 発熱・悪寒程度血液培養等

 先ほどは、Shapiroらによる臨床予測ルールのようなものについて触れてみました。他にもJAMA総説等もあります。やはり血液培養を取るタイミングについて悩むことが多いのでしょうか。

 発熱が高ければ高いほど、血液培養が陽性になりそうというイメージとは異なる結果も紹介されています。

 

発熱や悪寒と血液培養陽性

発熱や悪寒の程度と血液培養陽性
  • 血液培養が陽性(菌血症)であるための陽性尤度比は、悪寒(発熱患者) 2.2 (1.4-3.3)、悪寒(発熱の有無によらず) 1.6 (1.3-1.8)、主観的な発熱の訴え(subjective fever) 1.0 (0.96-1.1)、悪寒戦慄 4.7 (3.0-7.2) 、体温40℃以上 0.3 (0.13-1.0)、体温39℃以上 1.1 (0.79-1.6)、体温 38.5℃以上 1.4 (1.1-2.0)、体温 38.3℃以上 1.2、体温 38.0℃以上 1.9 (1.4-2.4)、体温 37.8℃以上 1.5 (1.2-1.9) であった。

感染部位と血液培養陽性率

  • 低リスク群:蜂窩織炎 2%、救急外来患者 2%、市中肺炎 7%、市中発症で入院となった発熱患者 13%
  • 中リスク群:腎盂腎炎 13%
  • 高リスク群:重症敗血症 38%、急性細菌性髄膜炎 53%、敗血症性ショック 69%。

SIRSと血液培養陽性

  • SIRSの際には、感度0.80 (0.64-0.90)・特異度0.47 (0.41-0.53)・陽性尤度比1.8 (1.6-2.0)とする報告や、感度0.96 (0.74-1.00)・特異度0.27 (0.19-0.23)、陽性尤度比1.1 (0.89-1.4)とする報告がある。

(出典)JAMA. 2012 Aug 1;308(5):502-11. doi: 10.1001/jama.2012.8262.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 発熱の程度ごとの陽性尤度比を見ていると、先ほどのShapiroのルールとはまた異なる点が見えてきます。今回の論文で最も気になる部分は「悪寒」の程度(戦慄の有無)による陽性尤度比の差だと思います。戦慄まである場合は比較的尤度比が高いですが、それ以外はそこまでで微妙ですね。過去にも詳しく取り上げていますので、詳しくは下記記事をご覧ください。

 

 あとは発熱の程度も39℃を越えてきたあたりから、逆に菌血症(血流感染)らしくなくなるというのは少し意外に感じました。

 

 SIRS(Systemic Inflammatory Response Syndrom)も、① 体温< 36℃または>38℃、②脈拍 90回以上、③呼吸数>20回/分またはPaCO2<32 mmHg、④白血球数<4,000/µLまたは12,000/µLまたは幼若好中球>10%の4項目うち、2項目以上満たす場合ですが、感度が高いと思っていたのですが、感度80%という報告もあるので、ぼちぼちといったところでしょうか。

 

 もう一つの視点として、どこの感染症かによって菌血症(血液培養陽性)となる確率が異なってきます。例えば、典型的な蜂窩織炎(低リスク群の感染症)と判断できるのであれば、血液培養は取らなくても良いだろうとか、感染症ごとの血流感染症のリスクの高低も考える一助にはなると思います。

 

 総説をみていると、様々なものがある程度幅のある結果ですが、いろいろと組み合わせるしかないのかなといったところに感じます。感度も特異度のどちらかだけでも頼りにするというのも少し厳しそうです。前回の記事の肺炎の診断に似ているようにも感じました。

 

 

 

3. qSOFAプロカルシトニン

 SIRSと来たら、次はquick SOFA(qSOFA)についても触れておきたいと思います。過去の記事でプロカルシトニンと一緒に触れているので、こちらでは簡単に触れておきます。

 

qSOFA

  • 菌血症(血液培養陽性)となる陽性尤度比は、qSOFA≧2点で2.46(95% CI, 0.76-9.05)、頻呼吸(呼吸数≧22/分)で4.06(95% CI, 1.92-9.58)であった。

プロカルシトニン/CRP

  • 最も鑑別に優秀なバイオマーカーはプロカルシトニンでAUC 0.80(95% CI, 0.72-0.88)であり、プレセプシン(P-SEP)がAUC 0.69(95% CI, 0.60-0.79)、CRPがAUC 0.60(95% CI, 0.49-0.70)と続いた。
  • プロカルシトニンのカットオフを0.377 ng/mLとすると、菌血症である感度74.1%、特異度73.7%であり、陽性尤度比は2.82であった。

(出典)Sci Rep. 2022 Jul 1;12(1):11121. doi: 10.1038/s41598-022-15408-y.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 qSOFAは、①呼吸数 ≧ 22/分、②収縮期血圧 ≦ 100 mmHg、③意識障害(GCS<15)の3項目のうち2つ以上満たす場合に陽性となります。この中でも呼吸数(頻呼吸)陽性尤度比高いようです。敗血症によるアシデミアでの代償(呼吸性アルカローシス)でしょうか。

 SOFAqSOFA臓器障害をチェックするのを基本的な目的で作られているので、菌血症・敗血症だけを主眼においているわけでもありません。そう考えると、この程度の陽性尤度比でしょうか。

 2025年にJAMAでSOFA-2スコアが話題になりました。SOFA-2スコアと菌血症の関係についての直接的な論文が出てくることに期待しつつも、主眼はあくまで臓器障害であり菌血症とは異なるのでどれほど有用なのかも気になるところです。

 

 プロカルシトニンは使えないこともないかもしれませんが、プロカルシトニンの結果が出てから、血液培養を取るかを判断するのも遅い、手順としても他の採血もするときに1セットだけでも取っておきたいと思うので、やはり微妙だと思います。

 CRPであれば、前医(開業医の先生)からの診療情報提供書等で知ることができることも多いと思いますが、さすがにプロカルシトニンまでその場で測れる開業医は「本当に開業医かな?」と感じます。

 

 こちらの2項目は過去記事で詳しく取り上げています。よろしければ、下記の記事をご覧ください。

 

 

 

4. 血液培養取る際に

 それでは、実際に血液培養を採取するとなったら、しっかりと”あるべきもの”は陽性にして結果を参考にしたいと思いませんか。「しっかりと陽性のときには陽性にする」ためにはどうしたらよいかという視点を追加したいと思います。

 

4-1. 血培何セット?

 今さらかもしれません。「血液培養は2セット」と言われる所以について紹介しておきたいと思います。

 

入院24時間以内に採取された血液培養

  • 3回以上の血液培養が実施された単一菌種のエピソード629例のうち、460例(73.1%)は最初の血液培養で検出され、 564例(89.7%)は最初の2回の血液培養で検出され、618例(98.2%)は最初の3回の血液培養で検出され、628例(99.8%)は最初の4回の血液培養で検出された。
  • 24時間以内に4回以上の血液培養が実施された単一菌種感染エピソード351例のうち、 257例(73.2%)は最初の血液培養で検出され、308例(93.9%)は最初の2回の血液培養で検出され、340例(96.9%)は最初の3回の血液培養で検出され、350例(99.7%)は最初の4回の血液培養で検出された。
  • 本研究の結果は、24時間以内に2回の血液培養を行うことで、成人の血流感染症の約90%を検出できることを示している。検出率を99%以上に高めるには、最大4回の血液培養が必要となる可能性がある。

(出典)J Clin Microbiol. 2007 Sep 19;45(11):3546–3548. doi: 10.1128/JCM.01555-07.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 過去にも血液培養の感度に関するいろいろな報告(2-3セットで十分等)がある中、2004年頃から3セットでも感度がすごい高いわけでもなさそうという報告(F. R. Cockerill et al., Clin. Infect. Dis. 38:1724-1730, 2004)があり、それを受けたものです。

 エピソードによりばらつきはあるものの、血液培養1セットの感度は70-75%程度2セット90%程度3セット90%後半4セット100%近いということが想定できそうです。

 1セットでは明らかに感度低いことや、コンタミとの区別がつきにくいことも踏まえると、「血液培養は2セット以上」が基本と言えると思います。また、不明熱等で血流感染の有無をチェックしているようなときであれば、4セット取ることも考えてもよいと考えられます。

 

 

4-2. 採血量は?

 次に、血液培養を取る際に、何となく過去に周りから言われて20mLのシリンジで取ってくる、というようなことが染みついている人もいると思います。採血量と感度についてもチェックしておきます。

 

血液培養の各ボトルの採血量

  • 血液量が4mL以下、4.5~6mL、6.5mL~8mLのボトル(3群)の間での検出率に有意差はなかった(血液培養陰性率88.7-90.4%)。
  • 3群の間においてコンタミネーション率にも有意差はなかった(2.5-5.6%)。

*****

  • 血液培養ボトル1 本(主に6.5-8mL)ではなく 2 本(主に13-16mL)を使用することで、臨床的に重要な微生物を含む血液培養陽性率が全体として平均 17 % 増加した。つまり、培養された血液 1 ミリリットルごとに、検出率が平均 2.3 % 増加した。検出率の向上は、エンテロバクター属およびグラム陽性球菌において同様の結果(16~17%)が認められた。嫌気性菌の平均追加検出率は43%(5株)であった。追加検出率において、大腸菌(16%)および肺炎球菌(12%)と比較して、黄色ブドウ球菌(26%)は高くなる傾向が見られたが、有意差は認められなかった

(出典)Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 1989 Sep;8(9):838-42. doi: 10.1007/BF02185857.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 各ボトルの採血量では有意差がないという報告です。しかし、採血量全体(ボトル数も増加)では検出率が上がるという報告です。また、次のような報告もあります。

 

敗血症が疑われる患者への血液培養

・血液培養において、20 ml(2セット)および30 ml(3セット)の血液を用いた血液培養における検出率は、10 ml(1セット)の血液を用いた場合よりもそれぞれ38%および62%高かった。

(出典)Diagn Microbiol Infect Dis. 1983 Jun;1(2):107-10. doi: 10.1016/0732-8893(83)90039-1.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 確かにこれは検体の血液量が多いと感度が上がるという古典的な報告ですが、採血量が増えるごとに血液培養のセット数も増えています。そういう意味では1つのボトル当たりの採血量はそこまで気にしなくても良い反面、多少でも採血量が多いと検出率は良さそうと個人的には考えています(笑)。

 採血量を増やすという意味でも2セットで合計30mL以上ぐらいは取っておきたいかなと思ったりします。また、頑張っても血が引けないというようなことがなければ、血液培養で1カ所(1セットあたり)あたり10mLではなく15mLは取っておきたいかな、と個人的には思ったりします。

 採血量はあくまで血液培養のセット数(ボトル数)と比例して増えるということに近いようにも感じました。

 

 

 

5. まとめ

 少し長くなったので、最後にまとめておきたいと思います。

 病院であれば、個人的には血液培養の閾値は高くすることなく、敗血症・菌血症を疑った際はもちろん、血流感染症の確率の低い感染症以外で抗菌薬を投与する前に取っておけばよいと思います。

 今回チェックしたことを活かして、発熱に加えて尤度比の高い悪寒戦慄があったり、頻呼吸(背景を考えれば、血液ガス検査で乳酸値上昇やアシデミア)があったりする場合、qSOFAやSIRSのような指標を満たす場合には血液培養を取ればよいと思います。また、発熱患者でShapiroのルールの小基準のようなものを複数満たしてくる場合や、高齢者等で「何か怪しい」と感じたときも血液培養を取っておけば、陰性でも陰性の確認になる側面もあると思います。

 

 前回の肺炎の診断の記事と同じく、「これ!」といった病歴・所見等だけではないように感じました。病歴・所見等を組み合わせながら、「こんなときも血液培養を取ろう」と思ってもらえれば幸いです。

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 ChatGPTのDeep Search等の生成AIを使う機会や、生成AIでのサブblog(?)での記事が増え、こちらの更新頻度が減っておりますが、今後ともよろしくお願い申し上げます。

 

【生成AI de 臨床疑問】

mk-med-ai.hatenablog.jp

肺炎 診断と臨床予測ルール|病歴や聴診・身体所見、胸部X線は?

肺炎 診断臨床予測ルール

特異的な病歴聴診・身体所見、胸部レントゲンは?~

 

<目次>

 

 冬になると「また肺炎も増えるかな」と思うことがあります。そんな肺炎ですが、肺炎診断にも臨床予測ルールが複数あるのをご存じでしょうか。決して感度や特異度が高いものではありませんが、肺炎を積極的に疑って画像をオーダーするか、悩むこともあると思います。

 当たり前に感じがちな肺炎の診断について、肺炎らしいのか、急性上気道炎らしいのか、を考える際の手がかりとしても深掘りしてみたいと思います。

 

 

 

1. 肺炎診断臨床予測ルール

 肺炎の臨床予測ルール(Clinical Prediction Rule; CPR)というと、A-DROPやCURB-65のような重症度・予後に関するものを思い浮かべる人が多いと思います。しかし、肺炎の診断のための臨床予測ルールも複数存在します。主なものは下記が挙げられると思います。

 

  • Diehrルール
  • Heckerlingルール
  • Gennisルール
  • AFRI(Acute Febrile Respiratory Illness ) ルール
  • PAFRIルール(小児用)

 

 それぞれで感度や特異度はもちろん異なり、使用する状況(研究対象)が異なったり、チェック項目の特徴があったりもします。

 

 結論から申し上げると、どの診断ルールも特異度が充分という訳ではなく、あくまで診断の補助になります。そのため、重症度スコアの際に用いるA-DROPやCURB-65のように有名ではないのかもしれません。しかし、診断の過程において肺炎らしいと考えるヒントとして、これらを順にチェックしていきたいと思います。

 

 

1-1. Diehrルール

 Diehrルールと言えば、古典的な診断のための臨床予測ルールといった印象でしょうか。1984年の論文ということで、やはり古典といった感じでしょうか。どのようなルールなのか、チェックしてみます。

 

Diehr ルール

(肺炎診断のための臨床予測ルール)Diehrルール
  • 1カ月未満の咳嗽によりウォークインで救急外来(単施設)を初回受診し、病歴、身体診察、胸部X線検査を受けた成人・非妊娠の患者483人の後ろ向き研究
  • 胸部レントゲン写真にて肺炎像が認められたのはわずか48人(2.6%)であった。
  • 肺炎患者と非肺炎患者における病歴・身体所見のうち、32項目は肺炎の有意な予測因子であった。例えば、喀痰、喫煙者、悪寒、寝汗、発熱、脈拍>100回/分、呼吸数>25回、体温≧37.8℃、打診における局所的dullness、ラ音、非対称性呼吸、胸膜摩擦音、ヤギ音、悪液質、ロンカイが挙げられる。
  • それらのうち、7項目(鼻汁なし、咽頭痛なし、寝汗、筋肉痛、1日中の喀痰、呼吸数>25回/分、体温≧37.8℃)を点数化し、-2点をカットオフとすると、感度91%、特異度40%であり、-1点をカットオフとすると感度74%、特異度70%で肺炎患者を特定する診断ルールとなった。

(出典)J Chronic Dis. 1984;37(3):215-25. doi: 10.1016/0021-9681(84)90149-8.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 上記のような結果でした。正直なところ、感度特異度いまひとつです。レントゲンで肺炎を認める人が少ない点は、昔のレントゲン写真の解像度等についての疑問は残ります。しかし、鼻汁咽頭痛があれば、肺炎らしくない(急性上気道炎らいい)という点は参考になると思います。

 

 対象患者の年齢層も13歳から29歳ぐらいまでが半分程度を占めており、高齢者は少ない母集団となります。ただし、1984年の論文であることも踏まえると、当時の60歳代は今の80歳代のように考えて扱わないといけないかもしれませんが、救急外来をウォークインで受診する様々な年齢の人に当てはめやすい母集団であると感じました。また、救外ウォークインなので普段の外来にも当てはめやすいでしょう。

 

 肺炎患者と非肺炎患者にて有意差のあった病歴や身体所見上の項目に関しては、胸部レントゲンにて肺炎像が認められた場合とそうでない場合と2パターンあります。項目ごとに尤度比も頻度も異なります。また、母集団の年齢層等も含めて、詳しくは出典をご覧ください。

 

 

 

1-2. Heckerlingルール

 こちらもやや古典的で有名どころの、肺炎の診断のための臨床予測ルールでしょうか。こちらも深掘りしていきたいと思います。

 

Heckerlingルール

(肺炎診断のための臨床予測ルール)Heckerlingルール
  • 3施設の救急外来での前向き研究;シカゴのthe University of Illinois Hospital (derivation set) 1134名、オマハのthe University of Nebraska 150名 (validation set)、リッチモンドのDeMedical College of Virginia (validation set) 152名
  • 37.8℃を超える発熱、100拍/分を超える脈拍、ラ音の聴取、聴診における呼吸音減弱、喘息がないことが、X線検査で肺炎と診断された患者における有意な予測因子(p<0.0001)であった。
  • 導出用の訓練データセット(the University of Illinois Hospitalの1134名)では、AUC 0.82 (95% CI, 0.78 - 0.86)であった。また、他の検証データとのAUCの有意差はなかった。
  • 肺炎の予測可能性が5%未満の患者を「肺炎でない」とした場合、予測ルールの感度は91%、特異度は47%であった。

(出典)Ann Intern Med. 1990 Nov 1;113(9):664-70. doi: 10.7326/0003-4819-113-9-664.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 こちらは1990年に発表された論文です。今ほど新しいわけではなくてやはり古典側の臨床予測ルールかなと感じます。一方で、対象患者が救急外来全体であり、ウォークインに限定されていない辺りが、Diehrルールと比べるとやや救急外来向けのスコアリングかなと感じます。

 決して感度特異度高くはありません。先ほどのDiehr ルールと比べると、各項目がいずれも1点という分かりやすい設定です。

 一方、ラ音(crackle)の聴取と呼吸音減弱という聴診所見が2つ入っています。個人的には騒がしい救急外来での聴診所見にどこまで信頼がおけるのか、という点でも多少の疑問を感じます。後ほど、肺炎における聴診の診断特性についても深掘りしてみたいと思います。

 

 いずれにしても、病歴や身体診察までのヒントが詰まっているというイメージの臨床予測ルールのひとつでした。

 

 

 

1-3. Gennisルール

 続いて、救急外来でバイタルサインだけで肺炎の可能性を考えた診断予測ルールです。ルールというには単純で、ややマイナーなイメージがあります。Paul Gennisらの報告によるものなので、これは「Gennisルール」と呼んでおきます。

 

Gennisルール

  • バイタルサインにおける、体温>37.8℃、脈拍>100/分、または呼吸数>20回の肺炎診断における感度は97%であった。

(出典)J Emerg Med. 1989 May-Jun;7(3):263-8. doi: 10.1016/0736-4679(89)90358-2.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 使い方としてはバイタルサイン体温脈拍(心拍)呼吸数のいずれでもひっかからなければ、感度97%として、肺炎の可能性がとても低いことが言える診断補助ルールです。救急外来を含む様々な場面で、バイタルサインの異常がないことが、問題ないことの証明につながると感じます。一方で当たり前ですが、特異度は低いと感じます。

 肺炎を疑った患者で発熱なし、呼吸数増加なし、頻脈なしであれば、大丈夫の可能性が高いという当たり前のことを振り返れる有難い結果だと思います。

 

 一方、このルールに則って、発熱、呼吸数増加、頻脈のいずれかがあれば、胸部レントゲンを撮るというのは、結局のところ多くの急性上気道炎でも胸部レントゲンを撮影することになると考えています。肺炎の否定ではなく、絞り込んでいくという実用性は低いようにも感じます。

 

 バイタルサインに関しては 入江先生、宮城先生のバイタルサインの本で学んだことを思い出しました。バイタルサインに興味がある方はよろしければどうぞ。

  • 『バイタルサインからの臨床診断 改訂版〜豊富な症例演習で、病態を見抜く力がつく!』, 入江聰五郎 (著), 宮城征四郎 (監修)

 

 

 

1-4. AFRIルール

 比較的新しい診断予測ルールです。従来からの古典的なものに比べて診断特性はよくなっていると耳にするものです。AFRIとはAcute Febrile Respiratory Illnessの略で、論文のタイトル「Clinical prediction rule to predict pneumonia in adult presented with acute febrile respiratory illness」にもAFRIが入っております。

 

 

AFRIルール

  • 救急外来を受診した18歳以上、24時間以上の38℃以上の発熱、10日内の呼吸器症状で受診した成人患者537名の前向き多施設研究。
  • SpO2≦94%や酸素投与を受けていた患者は除外
  • 肺炎に有意であった病歴や身体所見は、年齢65歳以上、救急車で来院、肺炎の既往、慢性肺疾患の既往、最高体温(発熱)40℃以上、発熱期間3日以上、呼吸困難感、咽頭痛なし、鼻汁・鼻閉なし、7日以内の抗菌薬投与、SpO2≦96%(RA)、ラ音 or 呼吸音の減弱 or 気管支呼吸音、Wheeze、呼吸音の異常であった(P値<0.05)。

(肺炎診断のための臨床予測ルール)AFRIルール
  • 肺炎に有意であった病歴や身体所見のうち、年齢≧65歳()(+1点)、最高体温≧40℃(+2点)、発熱期間≧3日(+2点)、咽頭痛(-2点)、呼吸音の異常(+1点)、肺炎の既往(+1点)、SpO2≦96% (+1点)の7項目を重み付けしてスコアリングしたものをAFRIルールとした。
  • AFRIルールはDiehrおよびHeckerlingルールよりも正確であることが判明した(ROC曲線下面積はそれぞれ0.816、0.721、および0.566、p < 0.001)。AFRI≥0のカットオフでは、AFRIルールの感度は95%、陰性の予測値は97.2%であった。

(出典)Am J Emerg Med. 2019 Aug;37(8):1433-1438. doi: 10.1016/j.ajem.2018.10.039. Epub 2018 Oct 20.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 AFRIルールはこれまでのDiehrルールやHeckerlingルールとの比較においてAUCが大きく、正確であると考えられます。一方、重み付け(項目ごとに点数が異なる)があるというのは個人的にはややこしさを感じます。簡便さを欠いているように感じると言えばよいのでしょうか。

 重み付けはさておき、AFRIルールにおいて個人的に関心している項目は、「発熱期間が3日以上」「40℃以上の発熱」という部分です。他のスコアリングでは見かけなかった項目です。また、「発熱期間が3日以上」のオッズ比が3.9 (1.47-10.36)、「40℃以上の発熱」のオッズ比が4.17 (2.21-7.87)と、他の有用な項目よりもオッズ比も高い傾向でした。これらの項目が病歴で当てはまると、「風邪としたくない」という気持ちが働きます。

 また、SpO2≦94%や酸素投与を受けている患者さんを除外してくれているので、胸部写真を撮るか悩みがちな症例の方が対象という点も、AFRIルールの研究の有難いところかもしれません。

 他のスコアリングと似たような項目も含めて、参考にしてみてください。

 

 

1-5. PAFRIルール

 こちらは先ほどのAFRIルール(成人)に対して、小児用に考えられたものです。PediatricのPをつけて、PAFRIルールとなっています。

 

PAFRIルール

  • 急性の呼吸器症状と発熱のある6歳未満の小児における3施設の救急外来での前向き研究
  • 967名のうち530名で胸部X線検査が行われ、91名で肺炎像を認めた。
  • PAFRIルール:発熱期間 3日未満(0点)/3~4日(+1点)/5~6日(4点)/7日以上(+5点)、悪寒(+2点)、鼻症状(-2点)、胸部異常所見(+3点)、SpO2 96%以下or頻呼吸(+3点)
  • ROC曲線下(AUC)は0.733であり、0点以下をカットオフとした際の感度は91.7%、陰性的中率は97.7%であった。

(出典)Am J Emerg Med. 2020 Dec;38(12):2557-2563. doi: 10.1016/j.ajem.2019.12.041. Epub 2020 Jan 3.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 小児向けということで、ARFIルールとは項目から異なります。個人的には発熱期間が長くなるにつれて肺炎を疑う可能性が高くなるあたりには、成人のAFRIルールの際にもでしたが、参考になる病歴だと思います。

 他と同じく鼻汁や鼻閉といったような鼻症状は肺炎らしくないというのも、成人と同じような傾向でしょう。

 一方、AFRIルール以上にスコアリング大変な印象も受けました。項目ぐらいは何となく覚えられても、最後の点数付けまでは覚えられなさそうな印象を受けました。

 

*****

 個人的にはバイタルサインを軸としたGennisルールを除いて、聴診所見が入っていました。日常診療において聴診所見はどれほど役に立つのか疑問に感じることも多いのが、個人的な現状です。

 肺炎診断補助のための臨床予測ルールは以上にして、チェック項目に挙がっていた聴診所見について、深掘りしてみたいと思います。

 

 

 

2. 聴診診断特性

 先ほどの臨床予測ルールの中には、ラ音(crackle)呼吸音の減弱等が評価項目に入っているものがありました。聴診器を使っていて、coarse crackle(水疱音)のような聴診所見も明らかなものであれば良いものの、人によって、状況によって、「肺音clear」はどの程度当てになるのか疑問に感じることがあります。

 身体診察ということで、マクギーのフィジカル診断学をチェックしてみたいと思います。

 

肺炎と身体所見

肺炎診断と身体所見
  • 大葉性浸潤影による古典的な身体所見の多く(胸壁運動の減弱、濁音、呼吸音の減弱、気管支呼吸音、ヤギ音)は、陽性の時に肺炎を示す兆候となる。ただし、肺炎だと分かっている患者でも、このような所見を呈するのは少数のみであり、所見がなくても疾患がある可能性は低くならない。
  • 肺の身体所見として、陽性尤度比(LR+)は、非対称な胸郭拡張 44.1、胸壁の圧痛 NS、打診上の濁音 3.0、呼吸音の減弱 2.2、気管支呼吸音 3.3、ヤギ音 4.1、クラックル(ラ音) 2.3、Wheeze 0.8であった。

(出典)Steven McGee, マクギーのフィジカル診断学 原著第4版, 226-229, 2019, 診断と治療社.

 

 やはり、「肺炎の身体所見」とされるものでも、ヤギ音こそ多少、陽性尤度比も高めですが、他の取りやすい身体所見の陽性尤度比はそこまで高くなく、身体所見上は認めなくても陰性尤度比は有意差なしのものが多くみられるといった印象です。

 先程までの診断補助のための臨床予測ルールの際も、身体所見だけで陽性尤度比が高いという訳でもなかったので、その通りであったと思います。身体所見の中ではもちろんのこと、病歴や検査等もあわせて合わせ技ですかね。

 

 身体所見と診断といえば、診断特性までしっかりと書いている「マクギー」かなということで参考にさせてもらいました。最近、第5版になりましたが、第4版では付属していた電子版が紙の本についていないので、医書.jpやm3.comから電子版が出るまでは見送っています。それはさておき、身体診察と診断について、「身体所見がある・なし」だけではないグラデーションに興味のある方はチェックしてみるとよいと思います。

  • マクギーのフィジカル診断学 原著第5版

 

 

 

3. 胸部レントゲン感度

 次に、やはり胸部CTと比べて胸部Xpの肺炎像をとらえる感度は落ちるような気がします。もちろん、CTまでして小さな必ず肺炎像を捕まえる必要がない状況や、Heckerlingスコアのように胸部レントゲンで浸潤影を認めた場合を肺炎と定義しているものもありますが、どの程度か把握しておきたいと思います。

 

 

3-1.  胸部CTとの比較

救急外来における肺陰影検出における胸部X線の評価(胸部CTと比較)

  • 米国の多施設の救急外来における3423名のコホート研究
  • 呼吸困難、胸痛、咳嗽が最も多い症状であり、対象者のうち96.1%が呼吸困難、胸痛、咳嗽の少なくとも1つの症状を訴えていた。
  • 放射線科医による読影で浸潤影、肺炎像、気管支肺炎像等の肺陰影の報告の有無に関して、CTを基準として比較した。
  • 肺陰影検出における胸部X線検査の特性は、感度43.5%(95% CI, 36.4%~50.8%)、特異度93.0%(95% CI, 92.1%~93.9%)、陽性的中率26.9%(95% CI, 22.1%~32.2%)、陰性的中率96.5%(95% CI, 95.8%~97.1%)であった。

(出典)Am J Emerg Med. 2013 Feb;31(2):401-5. doi: 10.1016/j.ajem.2012.08.041. Epub 2012 Oct 18.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 施設等によるとは思いますが、肺炎を疑って/入院や今後のフォロー目的で必要な検査として、胸部レントゲンと胸部CTを同時にオーダーした際の両者の所見の有無の解離(胸部レントゲンでは陰影を認めないものの、胸部CTでは陰影を認めるケース)が半分程度かな、という参考になります。

 個人的には、胸部Xpの感度が予想よりも若干低く感じました。もう少し胸部レントゲンの感度は高いような気もしましたが、半分弱だというような報告でした。

 

 胸部レントゲンで陰影がないからと言って、胸部CTを全例で撮って陰影を何が何でも捕まえるわけでもないですし、他の病歴や所見との合わせ技で判断して、肺炎と判断して治療を行ってもよいと思います。

 

 

 

3-2. 超音波検査との比較

 続いて、胸部Xpと比べて感度が高い、簡便と話題の超音波検査(肺エコー)とも比較してみたいと思います。

 

成人市中肺炎の診断おける肺エコーと胸部Xpの比較

  • 観察研究を含むメタ解析、システマティックレビュー
  • CTを基準として用いた研究8件も含む。
  • 超音波検査(肺エコー)は感度 90.0%(95% CI, 81.3 - 96.2%)、特異度 90.8%(95% CI, 79.9 – 97.7%)、陽性尤度比 9.45(95% CI, 3.73 – 23.94)、陰性尤度比 0.12(95% CI, 0.06 – 0.24)、診断オッズ比 79.74 であった。
  • 胸部単純X線検査は感度 72.6%(95% CI, 61.7 – 82.4%)、特異度 82.0%(95% CI, 65.5 – 93.9%)、陽性尤度比 3.98(95% CI, 1.87-8.49)、陰性尤度比 0.36(95% CI, 0.23 – 0.54)、診断オッズ比 11.17 であった。

(出典)Respir Med Res. 2025 Nov:88:101200. doi: 10.1016/j.resmer.2025.101200. Epub 2025 Aug 24.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 やっぱり、胸部レントゲンより肺エコーの方が、感度はもちろんのこと、診断特性は高そうですね。これを見ると、診断のときにはエコーだけでもよいかもしれません。しかし、その後のフォローのしやすさ、所見の客観的な比較のしやすさを考えると、レントゲンもなくすことは難しいんじゃないかなと感じます。

 在宅医療や救急外来等でのエコーの活躍には期待したいと感じる結果でした。聴診器のようにエコーを使うというような話も来たことがあるので、XpやCTとは異なるメリットという意味でもエコーこそ、聴診器のかわりによいかもしれません。

 

 

 

4. まとめ

 いろいろと肺炎の診断の補助になる臨床予測ルールや、身体所見・聴診、胸部レントゲンや肺エコーと深掘りさせて頂きました。

 結局、肺炎の診断は胸部レントゲンぐらいまでだと「これ」という所見等がないと感じたかもしれません。

 

 肺炎の診断は問診、診察所見、血液検査所見、胸部X線所見より総合的に判断する。問診と診察所見から肺炎を疑った場合は、血液検査、胸部X線検査を行い、診断を確定する。

(出典)成人肺炎診療ガイドライン2024, 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会(編).

 

 ガイドラインでもこのように書かれています。結局は合わせ技でしょう。合わせ技といっても、高齢、呼吸数増加や発熱といったバイタル異常、ラ音といった聴診所見のような想起しやすいものだけでなく、「鼻症状なし・咽頭痛なし3日以上続く発熱」ヤギ音は陽性尤度比が高い」というような項目についてももっと意識するきっかけになりました。

 

 また、ガイドラインは次のように書かれています。肺炎と診断したら、ぜひ次(治療)にもつなげていきたいものです。

 肺炎の診療においては原因菌の推定、同定がきわめて重要であり、喀痰が得られる場合には喀痰のグラム染色・培養検査を行い、必要な場合には血液培養2セットも提出する。また、迅速診断法として尿中抗原検査(肺炎球菌、レジオネラ・ニューモフィラ)、喀痰抗原検査(肺炎球菌)、咽頭ぬぐい液抗原検査(肺炎マイコプラズマ)も有用である。

(出典)成人肺炎診療ガイドライン2024, 日本呼吸器学会成人肺炎診療ガイドライン2024作成委員会(編).

 

 過去に肺炎の際にどの程度、血液培養が陽性にあるのかということも深掘りしたことがありました。決して高くないので、必要に応じてで良いと思いますが、興味がある方はよろしければ、ご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 また、「これは"風邪"だ」といって肺炎を見逃さないというような視点から、役に立ちそうなヒントがある診断のための臨床予測ルールであったとも思います。肺炎に限らず、「風邪だね」と言ってしまいそうな疾患があります。何気なく使いがちな「風邪」って何なんでしょうか。風邪のようにみえて見逃してはいけない疾患とその手掛かりは難でしょうか。気になる方は下記の本でもチェックしてみてください。

  • 『誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた 感染症診療12の戦略 第2版』岸田 直樹 (著)

 

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

 

 

【関連記事】

 臨床予測ルールに興味がある方はよろしければ、こちらをご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

mk-med.hatenablog.com

 

Incidentaloma(偶発腫瘍)|主な偶発腫瘍(各論)と画像撮像範囲ごとの腫瘍

Incidentaloma(偶発腫瘍)

主な偶発腫瘍(各論)と画像撮像範囲ごとの腫瘍~

 

<目次>

 

 

 今回は、おそらくどの診療科でも遭遇するincidentaloma偶発腫瘍についてアイデアボット的にブログにしてみたいと思います。主に、画像検査によって偶発的に見つかるものを想定して書きました。

 

1. Incidetaloma(偶発腫瘍)とは

 Incidentaloma(偶発腫瘍)とは、エコー、CT検査等の画像検査で偶発的に発見された結節・腫瘍(mass)のことです。CT検査などを違う目的で行った際に見つかるもので、これまでに遭遇したことがない人はいないと思います。

 

 主な偶発腫瘍に何があるのかをチェックしてみたいと思います。

 

主な偶発腫瘍(incidentaloma)

主な偶発腫瘍(有病率、悪性率)
  • 無症候性患者において偶発腫瘍が認められる頻度の高い臓器として、甲状腺(50%)、腎臓(40%)、肺(35%)、下垂体(22%)は報告されている。一方、肝臓(15%)、膵臓(13%)、卵巣(7%)、副腎(4%)における偶発腫瘍は比較的稀である。
  • 膵臓偶発腫瘍(PI)は比較的稀ではあるが、他の臓器部位と比較して潜在的な悪性度が高い傾向(悪性腫瘍率17%)にある

(出典)J Intern Med. 2021 Nov;290(5):969-979. doi: 10.1111/joim.13359.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34237168/

 

 下垂体、甲状腺、肺、肝臓、副腎、腎臓、膵臓、卵巣・付属器が主な偶発腫瘍のようです。検索をしていても、だいたいこのあたりに収まります。

 それぞれの偶発腫瘍の定義については、大きさ等で統一されていない面もありますが、概ね無症候性で違う目的で撮影された検査で見つかった腫瘤ということで良いと思います。

 それでは、これらの主な偶発症について個々に深掘りしてみたいと思います。

 

 

 

2. 主な偶発腫瘍(各論)

 主なものをTop to Bottomのように上から下に順にチェックして行きたいと思います。

 

2-1. 下垂体

 頭部CTで案外見つかるような気もする下垂体偶発腫瘍についてチェックしてみました。

 

  • 剖検による研究では、偶発性下垂体腺腫の発生率が最も高いことが示されている。19,000例以上の剖検を含む33研究の調査では、合計2,084の病変が発見され、平均有病率は10.7%(range, 1.5~31.1%)であった。
  • 対照的に、画像診断で検出される偶発性下垂体腺腫に限定すると、macroadenomaのみとなる(表1)。ただし、報告される発生率は大きく異なる。

(出典)Nat Rev Endocrinol. 2025 Oct;21(10):638-655. doi: 10.1038/s41574-025-01134-8. Epub 2025 Jun 24.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 ちょうどよいものが見つかりました。疫学的に、有病率(画像所見を認める割合)に、ばらつきがあります。

 臨床で気になるのは、無症候性で下垂体腫瘍の精査を意図しない画像検査で見つかるものだと思います。内分泌による症状があれば、もしくは腫瘍による圧排による症状があれば、それは偶発腫瘍ではなく、普通に画像検査として見つけられると思います。

 無症候性のmicroadenomaは、さすがに偶然撮影された頭部CTでひっかけることは難しい面もあると思います。非機能性腺腫であれば、やはりmacroadenoma(直径10mm以上)がメインとなってくると思います。

 鑑別や精査等については出典をご覧いただき、詳しくブログで書く必要はないかなと思います。

 

 症例に基づいて学んでみたいという方は下記のCMAJのようなものも良いと思います。頭部外傷で撮られた頭部CTから見つかるというあたりも、「さもありなん」と感じます。

 

 偶然下垂体病変が発見された68歳男性の症例

(参考)CMAJ. 2017 Apr 24;189(16):E605–E607. doi: 10.1503/cmaj.151556.

 

 

2-2. 甲状腺

 次に思い浮かぶのは甲状腺偶発腫瘤でしょうか。頸部CTを撮影しなくても、胸部CTの上の方(頭側の端)のスライスで入り込んだりと、偶発的に見つかる可能性もある腫瘍ではないでしょうか。

 

  • 甲状腺結節はよくみられ、触知可能な結節は女性の5.3%、男性の0.8%に生じると報告されている。
  • 剖検による調査では、最大60%の患者に臨床的に疑われない結節が認められることが示されている。結果として、甲状腺結節は画像検査で検出される可能性が高く、画像技術の向上と画像診断法の普及に伴い、偶発性甲状腺結節の発見頻度は増加している。
  • 1cm以上の結節では精査を受けるべきである。1cm未満の結節に関しては議論の的となってきた。超音波検査で異常所見を示した偶発性甲状腺結節を有する40例において、組織学的に確認された悪性率は12%であったと報告している。22 特に重要な所見は、44%に甲状腺外浸潤が認められ、69%に所属リンパ節転移が認められ、39%の癌が多発性であったことである。PapiniらおよびLeenhardtらの他の研究では、小さな無症候性甲状腺結節において予想以上に高い悪性率が報告されている³⁷,³⁸。

(出典)Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2012 Feb;26(1):83-96. doi: 10.1016/j.beem.2011.06.004.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 恥ずかしい話ではありますが、本来であれば甲状腺の触診でも見つかりうるということでしょう。ただし、触診では大きさの変化は明らかなもの以外は分かりにくいかもしれません。

 甲状腺結節を画像で見つけた場合、大きさの大きさの客観的な把握にも役立ちそうです。さらに、前回の画像と比較して大きくなっているか、大きくなっていないか、初めてか、大きさや石灰化等までわかるため、対応にも役立つと考えられます。

 ただし、甲状腺結節が腫瘍であるかも分かりません。そういう意味でも、とりあえず、どこかでフォローされているとかでなければ、1cm未満であってもいったん超音波検査には持ち込みたいものです。

 

 

2-3. 肺(肺結節)

 肺結節(incidental pulmonary nodule)に関しては、もはやUpToDateはじめ様々な文献等であります。UpToDateにも” Diagnostic evaluation of the incidental pulmonary nodule”というページがあります。ここで個別で取り扱う必要もないと思います。既成のものをご覧ください。

 

(参考)Dtsch Arztebl Int. 2024 Dec 13;121(25):853-860. doi: 10.3238/arztebl.m2024.0177.

 

 

2-4. 肝臓

 こちらもメジャーどころでしょうか。肺結節程ではないかもしれませんが、やはり肝臓にmassがあるとなると肝細胞癌とそれ以外の鑑別が気になるところです。

 UpToDateにも” Approach to the adult patient with an incidental solid liver lesion”というページがあります。下記の総説はじめ、ぜひ既成のものをご覧ください。

 

(参考)Aliment Pharmacol Ther. 2008 Oct 15;28(8):953-65. doi: 10.1111/j.1365-2036.2008.03805.x. Epub 2008 Jul 16.

 

 

2-5. 副腎

 副腎偶発腫瘍は有名なもののひとつだと思います。もちろん、発見した際にはフォローは必要でしょうが、有名なわりに疫学的には悪性腫瘍機能性腺腫は決して多くないということも留意点でしょうか。

 

 多くの患者では問題になっていないが、画像診断、内分泌学的評価、臨床症状および身体所見に基づく個別化されたアプローチが全例で必要となる。副腎皮質癌は依然として懸念事項ではあるものの、全症例の2%未満に限られる。機能性副腎偶発腫瘍はより頻度が高いが、それでも全体の10%未満と考えられている。中でも最大の課題は、自律性コルチゾール分泌(autonomous cortisol secretion)の診断および最適な管理にある。

(出典)Endocr Rev. 2020 Dec 1;41(6):775-820. doi: 10.1210/endrev/bnaa008.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 この副腎偶発腫瘍もUpToDateでも” Evaluation and management of the adrenal incidentaloma”というページがあったり、他にも下記のようにNEJMからも総説が出ている分野です。よろしければ、手の届きやすいものに目を通してみてください。

 

(参考)N Engl J Med. 2021 Apr 22;384(16):1542-1551. doi: 10.1056/NEJMcp2031112.

 

 

2-6. 腎臓(腎腫瘤)

 続いて、腎臓です。腹部CTで腎腫瘤を偶発的に見つけることがあると思います。腎細胞癌(RCCは鑑別のひとつに挙げられるかと思いますが、そのような時にどのようにしたらよいのでしょうか。

 

  • 小さな腎腫瘤が偶発的に検出されることはますます一般的になっており、治療管理を導くためには画像による正確な特徴付けが必要である。
  • 嚢胞性もしくは固形をはじめとする、画像診断による特徴づけにかかっている。ほとんどの病変はCT検査によって外科的治療を要するか非外科的治療を要するかに分類できる。CT検査の基準では診断が確定できない場合でも、MRIまたは造影超音波検査によって確定診断に至ることが多い。

(出典)Int J Surg. 2016 Dec;36(Pt C):504-512. doi: 10.1016/j.ijsu.2016.06.005.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 画像での鑑別により、外科的処置・治療が必要か、必要でないかが分かることが多い分野とのことです。確かに画像診断から入ることは多いので必ず役に立つ内容だと思います。

 UpToDateでは” Evaluation of the incidental kidney lesion”というページがあります。そちらをご覧になれる方はそちらをご覧いただいてもよいでしょう。

 また、腎嚢胞に関してはBosniak分類(嚢胞性腎腫瘤における悪性腫瘍リスクの画像評価)にも目を通してみても良いでしょう。

 

Bosniak分類(2019年)

(参考)Radiology. 2019 Aug;292(2):475-488. doi: 10.1148/radiol.2019182646. Epub 2019 Jun 18.

 

 一方、最後までのガイドラインや総説のような紹介しやすいものをPubMedで見つけることはできませんでした。そのため、ChatGPTに調べてもらいました。興味がある方は下記もご覧ください。

mk-med-ai.hatenablog.jp

 

 

2-7. 膵臓

 続いて、膵偶発腫瘍です。そもそも膵臓は「沈黙の臓器」と呼ばれがちです。そんな膵臓についてチェックしていきます。(膵偶発腫瘍をチェックしていて、偶然にも冒頭の偶発腫瘍の発見率や悪性腫瘍率のスライドも作成しました。)

 

  • 甲状腺、腎臓、肺、下垂体の偶発腫瘍が無症候患者の最大で20-50%で見つかるものの、膵臓偶発腫(PI)は13%とやや少ない。しかし、他の臓器部位と比較した場合、悪性腫瘍の割合が高く17%という報告がある。
  • 偶発腫瘍は形態学的に嚢胞性病変、固形病変、主膵管の異常拡張の3つに分類される。嚢胞性病変は診断により異なる。固形病変は慢性膵炎等と鑑別が難しい場合がある。主膵管拡張が5mmを超える場合は慎重に評価する必要がある。

(出典)J Intern Med. 2021 Nov;290(5):969-979. doi: 10.1111/joim.13359.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 嚢胞性病変であれば、膵漿液性嚢胞腫瘍(SCN)は基本的に良性病変であり、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や膵粘液性嚢胞腫瘍(MCN)は悪性化のリスクがあるという辺りのことが想起されます。画像等による鑑別はもちろん大切になってくるでしょう。

 詳しくは上記総説をご覧ください。また、画像所見などもチェックしてみても良いと思います。

 

Extra: 膵癌の早期発見と画像診断

 膵偶発腫瘍について考えると、どれだけ早く「膵癌疑い」としてひっかけられるかということが個人的には気になります。腹部CT等における膵癌早期診断についてチェックしてみました。

 

  • 膵癌の予後改善のためには早期での検出が重要である。
  • 腫瘤およびそれに伴う二次性変化(膵管/胆管拡張、脈管浸潤など)、転移巣による診断ではすでに進行がんであることが多く、腫瘤に頼る診断には限界がある
  • PanINを含む小型膵癌において、膵実質の限局性萎縮や脂肪浸潤、ごく軽度の膵管拡張、小嚢胞がみられることが報告され、早期診断の糸口として注目されている。
  • 膵癌診断時の1~2年前のCTでは約65%、2~3年前のCTでも約49%の症例で、膵に限局性の萎縮や淡い造影効果などを認めるという報告があり、数年早く診断できる可能性がある。経過で進行する場合には膵癌の可能性を疑うべきである。

(出典)井上大ら, 早期膵癌のCTの特徴, 画像診断, 2022; 42(3): 261-265.

 

 膵癌の早期発見に関しては、読影した医師によるわずかな所見に対する主観的な判断に近いような要素も入るでしょう。また、病歴や状況によっても変わってくる面も強いと思います。

 しかし、膵実質の限局性萎縮や脂肪浸潤、ごく軽度の膵管拡張、小嚢胞、淡い造影効果といった所見を見つけた際には、所見の組合せや、過去画像との比較/フォローしていくという意識もあっても良いと思います。

 

 

2-8. 卵巣(婦人科 付属器)

 各論の最後として、卵巣偶発腫瘍(婦人科系偶発腫瘍)に触れておきたいと思います。腹部CTでは、卵巣や卵管の同定から個人的には一番苦手意識があるようにも感じます。

 UpToDateでも”Adnexal mass”(付属器腫瘤)ということで、鑑別疾患やアプローチ方法、超音波など、様々なページがあります。逆に言うと、簡単にはまとめにくい分野とも言えそうです。

 

  • 偶発的に見つかる付属器腫瘤は、閉経後女性において比較的高頻度に認められ、無症状患者での有病率は3.3~18%と報告されている。
  • 経腟超音波検査で認められる異常所見の大部分は、単房性で良性を示唆する卵巣嚢胞であり、その約80%は数か月以内に自然消退する。嚢胞が持続しても形態変化がなく、最大径が10 cm未満で、かつCA-125値が正常範囲内である場合には、浸潤性悪性腫瘍の可能性は十分に低く、経過観察が選択肢となる。

(出典)Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2012 Feb;26(1):105-16. doi: 10.1016/j.beem.2011.07.002.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

  • 付属器腫瘤は、機能性黄体嚢胞から卵巣癌、腸管膿瘍まで、婦人科領域および婦人科領域以外の多様な原因を有する。1年未満の期間に、月12回を超えて腹部または骨盤痛、腹部膨満・腹囲増大、摂食困難、早期満腹感を認める女性では、卵巣癌の評価を行うべきである。
  • 内診は付属器腫瘤検出において感度が低く、症状を有する患者では内診が陰性であっても精査すべきである。妊娠可能年齢の女性では、異所性妊娠の除外が必須である。CA 125測定は症例を選んでリスク評価の補助として用いられるが、非悪性疾患でも上昇し、閉経前後で値が変動するため、CA125単独で良悪性鑑別を行うことは推奨されない。
  • 画像診断の第一選択は経腟超音波検査である。悪性を示唆する所見として、腫瘤径の増大、構造の複雑性、突出(projection)、隔壁形成、不整な辺縁、両側性病変が挙げられる。卵巣外病変が疑われる場合にはCTを施行し、卵巣内の悪性所見の評価にはMRIが有用である。経時的な超音波検査およびCA 125の定期的測定は、良性と潜在的悪性腫瘤の鑑別に有用となる場合がある。超音波検査で6 cmを超える腫瘤、または12週間を超えて持続する腫瘤が認められた場合には、婦人科専門医への紹介が推奨される。
  • 付属器の圧痛または腫瘤の鑑別疾患として、子宮外妊娠、子宮内膜症、機能性卵巣嚢胞、平滑筋腫、卵巣捻転、骨盤内炎症性疾患(PID)、卵管卵巣膿瘍、多嚢胞性卵巣症候群等が挙げられる。

(出典)Am Fam Physician. 2016 Apr 15;93(8):676-81.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 婦人科領域の腫瘤はどうしても難しいイメージが付きまといます。付属器の圧痛または腫瘤の鑑別疾患として、子宮外妊娠、子宮内膜症、機能性卵巣嚢胞、平滑筋腫、卵巣捻転、骨盤内炎症性疾患(PID)、卵管卵巣膿瘍、多嚢胞性卵巣症候群などがあるようですが、卵巣癌はもちろんのこと、これらの鑑別も必要となってくるとお手上げというような状況も多いかともいます。

 あまり最新の総説がなく上記のような感じでしたが、まずは良性疾患の可能性が高いこと、CA125は補助的で経腟エコーを含めて日本の場合では婦人科に紹介してフォローしていただくというような流れでしょうか。

 CA125高値となる病態も結核をはじめ、腫瘍以外にも多数あります。その辺りも出典に書かれていますので、合わせて確認してみても良いでしょう。

 

 

 

 

3. 撮像範囲ごと

 先ほどまで代表的な偶発腫瘍について扱いました。最後に、先ほどの代表的な偶発腫瘍を解剖的にイメージしながら、どの撮像範囲(撮影範囲)の画像の際に偶然入り込みやすいかも意識してみたいと思います。

 

主な偶発腫瘍と撮像範囲

 あくまでも主な偶発腫瘍として各論で扱ったものを中心にスライドにしました。スライドに列挙していないものを挙げればきりがないですが、腰椎CTで直腸癌を疑うような所見があるようなこともあると思います。

 

 個人的には偶発腫瘍を見逃さないために気をつけるべき点は大きく2つあると考えています。

 1つ目は、目的の撮影範囲の両端や周囲〔例:胸部CTでの上腹部(肝臓など)や頸部(甲状腺)、腰椎CTでの腹部〕といった部分、2つ目は撮像範囲に多数の領域の臓器等がある画像(例;腹部CT)でしょうか。

 特に、目的の画像所見や原因を見つけた後には見逃しやすいと考えています。そういう意味でも系統的にもチェックする習慣をつけておきたいものです。例えば、腹部であれば、「肝→胆→膵→腎→副腎→脾→上部消化管→下部消化管→尿管→膀胱→生殖器→リンパ節→椎体→血管→筋骨格系(椎体以外)」というように、決めておいても良いかもしれません。

 

 偶発腫瘍に限らず画像を撮影した際に、目的以外の所見が映り込む可能性があると気をつけておきたいところです。

 

 ちなみに目的以外の所見が見つかる割合・臓器等を調べたメタ解析・システマティックレビューの論文もありました。

 

成人の腰椎MRIにおける偶発的な脊椎外所見

  • 全体として19.93% (95% CI, 11.05-30.65)で脊椎外所見を認め、臨床的に重要な所見は5.35% (3.15–8.08)で認めた。
  • 臓器・分野別では、消化器2.04% (0.29-5.22)、泌尿生殖器 8.74%(4.73-13.81)、婦人科領域 24.03%(9.44-42.70)、血管 1.41%(0.73-2.30)、筋骨格系 0.28%(0.13-1.14)、転移0.28%(0.01-0.77)、その他0.05% (0.00-0.13)であった。

(出典)AJNR Am J Neuroradiol. 2023 Dec 29;45(1):113-118.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 腰椎MRIの結果として、上記のような結果でした。多少、数が少ないサブグループもあるのですが、40歳未満と40歳以上で比べると40歳以上の方が脊椎外所見が見つかる割合も多い傾向があるかもしれません。また、泌尿生殖器系では男性の方が所見を認める割合は高そうです。詳しくは出典をご覧ください。

 

 腰椎MRIを撮影した場合の約5件に1件は目的としている脊椎以外に所見を認めるというのは、予想していたより少し高い割合でした。他に写る範囲の多くない腰椎であっても、他の写り込むの臓器・領域の所見があると考えて読影しなければならないことを、改めて感じる次第です。

 

 偶発腫瘍含め、普段から画像読影する際には気を引き締めていきたい次第です。

 

 今回、各論的な部分は既存の文献等にも代替できる部分もあり、中途半端な形となってしまいました。また、ChatGPTのような生成AIの進歩も感じました。ぜひ皆様のアクセス可能な文献等でチェックしていただければ幸いです。

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

 

【関連記事】

mk-med.hatenablog.com

mk-med.hatenablog.com

精神症状の臨床推論でおススメの3冊 |精神症状における鑑別を学ぶ

精神症状臨床推論おススメ3冊

~精神症状における鑑別を学ぶ~

 

<目次>

 


 今回は、臨床推論(診断推論)にて触れられることが少ない精神症状の鑑別(精神症候学)についてをテーマにした書籍の紹介をしていきたいと思います。このようなテーマにしてみようと思ったのも、ChatGPTに臨床疑問を聞くことでどのような答えを出してくれるのかという、試行錯誤を始めたことで、今回は棲み分けを意識してみました。

 


1. 臨床推論(症候学)

 一般的には、初歩ではそれぞれの症候ごとの見逃したくない鑑別疾患やコモンな鑑別疾患等を学びます。さらに、「〇〇な××」のようなSemantic Qualifierを意識したようなフレーズで鑑別を絞り込んだり、精度を挙げたりしていきます。臨床推論の自主学習や調べものに役立つ本に関しては下記をご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 一方で、精神症状に関しては初期研修の時に精神科の初歩的な書籍では、症候学的なことは何だかモヤッとしたのを覚えています。そのような中、最近改めてこの分野の本を読んでみました。それをきっかけに今回の記事にしたいと思います。

 

 


2. 精神症状鑑別

 それでは本題に入ろうと思います。おススメとして紹介させていただくのは次の3冊になります。

精神症状の鑑別 おすすめの3冊

 これら3冊を順に紹介させて頂きます。

 

2-1. 精神症状へのアプローチ
  • レジデントのための精神症状鑑別のリアルなアプローチ, 小川朝生(著)

 

 精神症状の鑑別に焦点を当てた珍しい本です知っている人には当たり前なのかもしれませんが、精神症状の評価は階層構造を持っているという基本的なことから説明してもらえる本です。

 総論的な部分(Part I)として、精神症状の階層構造(順番)として、意識の障害>認知機能の障害・特性>気分の障害>近く・思考の障害>不安その他の症状、という視点があるようです。例えば、一見すると気分の障害に見えても、意識障害から順に見ていくということです。

 さらにPart IIで、興奮、怒り、幻覚などの病態の鑑別の仕方などをケースを通じて解説してくれており、理解が深まります。

 ぜひ、目次等でどのような病態について扱っているかも確認してみてください。

 

 

2-2. 非精神症状との鑑別
  • 精神症状から身体疾患を見抜く, 尾久守侑 (著), 内田裕之 (監修), 國松淳和 (監修)

 

 こちらの本は臨床推論(診断推論)に興味のある方であれば、監修者や著者つながりでご存じの方も多いと思います。

 内容は精神症状から身体疾患を見抜くだけでなく、精神症状(精神疾患)と勘違いしやすい非精神症状についても扱っています。精神症状としてうつ状態、躁状態、幻覚妄想状態、肩と似あ、身体不定愁訴を扱っています。さらに、「精神科に紹介されやすい非精神症状」として意識障害、健忘と作話、脱抑制、失語、病態失認、不随意運動、てんかん関連の諸症状も扱っています。自己免疫脳炎やてんかん発作に関連した精神症状も扱っています。身体因性のものを鑑別するという視点で親しみやすいかもしれません。また、押さえておきたいトピックとして精神症状を生じるような内分泌疾患や感染症なども扱っています。

 ぜひ、目次や、どのような視点で精神疾患による症状と鑑別していくか、というポイントもチェックもしてみてください。

 

 

2-3. 精神症候学の名著

精神症候学, 濱田 秀伯 (著)

 

 濱田秀伯先生による名著のひとつのようです。精神科では大御所の先生のひとりだそうです。

 この書籍の魅力は何といっても、精神症状がどのようなものか、とても上手に言語化されていることに驚きが隠せない本です。これまでの2冊のような症候から鑑別の流れや特徴を学ぶための本というよりは、精神症状に関わる単語・用語についてチェックする際に使える本です。

 ひとつ例を紹介してみます。

恐怖症 phobia (popos:恐れ)(E),Phobie (D),phobie (F)は、恐れる理由がないと分っていながら,特定の対象や予測できる状況を不釣り合いに強く恐れ,これを避けようとすること.日常生活を侵害しない程度のものは小恐怖minor fears (E)という.恐怖症の対象にはあらゆるものが含まれ,学術用部になっているだけでも200を超えるという.Marks, IM.[1987]は回避状況,対象の限定度,恐慌発作の有無、主観的体験の種類に応じて広場恐怖症候群,社交恐怖,特定恐怖,疾病恐怖の四群に整理している.
(出典)濱田秀伯, 精神症候学, 弘文堂, 1994.

 上手に精神症状等が記述されているように感じます。何となく、「恐怖」という単語を知っていても、実際にしっかり理解して使えているかは、また別の問題と感じます。

 このような記述がたくさん詰まっている本です。深みや興味の対象としていかがでしょうか。

 

 

3. 最後に

 やはり、システマチックに学ぶという視点やとっつきやすさ等も考えると、『レジデントのための精神症状鑑別のリアルなアプローチ』(2-1) や『精神症状から身体疾患を見抜く』(2-2) から読んでみてはいかがでしょうか。

 それでもっと興味があるというようであれば、『精神症候学』のような本もあっても良いと思います。

 

 ぜひ、本屋でネット書店で、電子書籍のお試しでチェックしてみてください。本日もお読みくださいましてありがとうございました。

肺癌と副腎転移|副腎腫大や副腎不全の原因になりにくい

肺癌副腎転移

副腎腫大副腎不全の原因になりにくい

 

<目次>

 

 

 今回はちょっとした疑問からの内容です。肺癌の患者において副腎の両側腫大があり、これが副腎転移→副腎不全による「元気のなさ」なのか、肺癌そのものなのか、どの程度寄与しているのかというようなことをちょっと深掘りしてみました、という記事です。

 

 

1. 肺癌転移先

 まずは肺癌がどの程度、副腎転移するかということをチェックしてみたいと思います。

 

  • 肺がんの28~42%が副腎に転移する。

(出典)Heliyon. 2019 May 29;5(5):e01783. doi: 10.1016/j.heliyon.2019.e01783.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 まずは肺癌の中での副腎への転移する割合です。肺癌転移先としてはメジャーで、思ったより多いような予想通りのような割合に個人的には感じました。さらに次のような参考文献もありました。

 

様々な腫瘍性疾患の患者において、副腎への転移が一般的に認められる。副腎は最も一般的な転移部位と考えられている。大規模な剖検研究によると、副腎に転移する癌の割合は、肺癌で約42%、乳癌で約58%、胃癌で約16%、食道癌で約10.3%、大腸癌で約14%、悪性黒色腫で約50%であることが示されている。また、腎細胞癌、肝細胞癌、膀胱癌、リンパ腫、精巣精上皮腫、骨肉腫でも副腎への転移が報告されている。

(出典)Anticancer Res. 2019 Jun;39(6):2699-2710. doi: 10.21873/anticanres.13395.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 様々な悪性腫瘍が副腎に転移することが分かります。そして、決して少なくはないようです。血流が豊富と考えれば、特に違和感はありません。

 

 

 

2. 副腎腫大 癌の転移?原発性腫瘍?

 肺癌における副腎転移は決して稀ではないことが分かりました。肺癌の転移先としてはむしろ多い方であることも分かります。

 一方、CTで副腎腫大を見つけたとしても、それが肺癌に関係なく元からの副腎腫大(良性腺腫など)なのかという疑問が残ります。そこで、本当に転移であった割合も調べてみました。

 

  • 94人の肺癌患者で113個の副腎腫瘤(片側性73名、両側性19名、大きさ0.8cm-4.7cm)を評価
  • 113個の副腎腫瘤のうち、71個の副腎腫瘤でPET-CTが陽性であった。PET-CTにおける副腎腫瘤の悪性検出の感度93%、特異度90%であり、偽陽性の主な原因は褐色細胞腫ならびに良性腺腫であった。
  • 組織病理学的/臨床的に追跡された結果、副腎腫瘤113個のうち72個が悪性と判断された。
  • 最終的に67個が肺癌転移と判断された。

(出典)J Nucl Med. 2004 Dec;45(12):2058-62.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 この研究はCTまたはMRIで副腎腫瘤が見つかった際に、PET-CTがどれだけ正確に肺癌の転移であるかを当てられるかの正確性を調べたものです。

 この研究では、CTやMRIで見つかった副腎腫瘤113個のうち67個(59%)でしか、肺癌の転移でなかったということになります。ということは、CT画像上で肺癌と副腎腫大(腫瘤)があっても、服腎転移の確率は半分強といったところでしょうか。

 

 

 

3. 副腎転移→服腎不全?

 前章で、どの程度、肺癌で副腎腫瘤を認めた際に副腎転移があるのかを調べました。さらに、副腎転移がある際に服腎不全が生じるのはどの程度なのかもチェックしてみたいと思います。

 

 

肺癌患者における副腎機能不全の症例報告

  • 60歳男性、7カ月前から非小細胞肺癌(NSCLC)ステージIVと診断され、対側肺と両側副腎への転移あり。
  • 数週間にわたる衰弱、無気力、進行性の歩行能力低下を生じ、入院前の数日間寝たきりになり、脱水症状を呈していた。
  • 入院時現症・所見:血圧77/45mmHg, その他の身体所見は特記事項なし。検査値は、Hb 12.8 g/dL、Na 117mmol/L、K 6.2mmol/L、Cre 3.09mg/dL、BUN 123mg/dL、CRP 5.16mg/dL。動脈血液ガス分析(RA)は、pH 7.437、PCO2 19mmHg、PO2 98mmHg、HCO 3- 12.6mmol/L。
  • 血清コルチゾール3.48μg/mL(正常範囲4.3 - 22.4)、血清ACTH 181.8pg/mL(正常範囲4.7 - 48.8)、血清アルドステロン<1ng/dL(正常範囲1 - 16)、血漿レニン活性31.76μg/mL/h(正常範囲0.37 - 3.84)、24時間尿中コルチゾール6.16μg(正常範囲28.5 - 213.7)。
  • 転移性原発性副腎機能不全の診断が確定し、ヒドロコルチゾン 5 mg を 1 日 3 回、フルドロコルチゾン 0.05 mg を 1 日 1 回投与するホルモン補充療法により、数日で臨床症状は急速に改善した。
  • 癌患者では副腎転移はよく見られるものの、副腎機能不全は稀である。

(出典)World J Oncol. 2015 Jun 12;6(3):375–377. doi: 10.14740/wjon890w.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 続けて、肺癌のみではありませんが、悪性腫瘍の両側副腎転移における服腎不全の有病率を見つけることができました。

 

Adrenal insufficiency due to bilateral adrenal metastases - A systematic review and meta-analysis

  • 悪性腫瘍の両側副腎転移における服腎不全の有病率は2.7-8%であった。

(出典)Heliyon. 2019 May 29;5(5):e01783. doi: 10.1016/j.heliyon.2019.e01783.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 システマチックレビューではあるものの、もととなった研究の質が決して高いとは言えず、診断基準の一部記載がないものやACTH刺激試験における反応がいまひとつなものがあります。これらを除外したり/含めたりすると、悪性腫瘍の両側副腎転移における服腎不全は2.7%~8.0%の間に収まるようです。

 いずれにしても、有病率は分からないものの少ないといったところでしょう。もう少し多いのではないかと思い込んでいました。個人的な認知のゆがみの修正になりました。

 

 

 

4. 最後に

 これまでのことを合わせると、肺癌患者で副腎腫大(副腎腫瘤)が見つかったとしても、副腎転移の可能性は多くはなく、さらには副腎転移があったとしても服腎不全である可能性は少ないと考えられるという結果でした。

 このブログ記事を簡単にまとめるとこんな感じのイメージになりました。もちろん、細かい所は表現しきれていませんが、生成AIでの画像生成で臓器のイラストを描いてもらい、作ってみました。

(まとめイメージ)肺癌と副腎転移・副腎腫大・副腎不全

 

 ちゃんと調べてみることで、何となく考えていた割合と異なることが確認できました。またひとつ個人的な認知のゆがみ改善することができました。

 

 いずれにしても、悪性腫瘍のために元気がなく消耗しているようにみえるという当たり前のことも思い出しました。今回の記事を通して、むしろ副腎不全に気がつくための症候、所見、一般的な検査結果のような糸口が気になった次第です。

 

 本日もお読みくださいまして、ありがとうございました。

ダニ媒介性感染症③|日本紅斑熱、ツツガムシ病

ダニ媒介性感染症③|日本紅斑熱ツツガムシ病

リケッチア感染症の両者の比較まで~

 

<目次>

 

 やっとダニシリーズもひと区切り、両者ともリケッチア感染症に分類される日本紅斑熱ツツガムシ病という最後のテーマになりました。前回のライム病、STARI、TARIの記事ほどマニアックなものでもなく、比較的論文にもありそうなテーマなのでさらっといきたいと思います。

 

 

1. リケッチア感染症

 日本紅斑熱でもなく、ツツガムシ病でもなく、「リケッチア感染症?」と思った方もいるかもしれません。今回のメインテーマの日本紅斑熱とツツガムシ病の共通点といえば、いずれもリケッチア感染症紅斑熱群リケッチアであることになります。

 まずはリケッチア感染症、紅斑熱群リケッチアについて触れておきたいと思います。

 

  • リケッチア感染症はリケッチア科の細菌を病原体とする感染症の総称である。日本ではつつが虫病、日本紅斑熱などが報告されている。主な感染経路はツツガムシ、マダニ、シラミなどの節足動物に刺されることによる。発熱、発疹などを呈し、重症化すると死亡することがある。
  • 原因菌は、リケッチア科に属する細菌である。偏性細胞内寄生細菌で、細胞外では増殖できない。感染症を引き起こす細菌は、つつが虫病の原因菌であるOrientia tsutsugamushi、日本紅斑熱のRickettsia japonica、ロッキー山紅斑熱のR. rickettsii、発疹チフスのR. prowazekiiなどが知られている。

(出典)国立健康危機管理研究機構(JIHS)感染症情報提供サイト > リケッチア症

id-info.jihs.go.jp

 

 リケッチア感染症リケッチア科の細菌感染症といっても、まあ説明にはなっていますが、ぼんやりしていますね。もちろん、発熱、頭痛、発疹というのは大きな共通点でしょうが、より具体的に、リケッチア科のどれに感染するかで、いろいろと変わってきます。

 少し焦点を絞って、それぞれ具体的にどのようなものがあるのかを見てみます。

 

紅斑熱群リケッチア(Rickettsia of the spotted fever group; SFG)

  • 6大陸でヒトへの感染を引き起こす。すべてのSFG感染症の抗菌薬治療は類似しているが、これらの異なるSFGリケッチアによって引き起こされる個々の疾患の疫学および臨床的特徴には重要な違いがある。

主な紅斑熱群リケッチアの比較

(出典)UpToDate > Other spotted fever group rickettsial infections, last update: Jan 31, 2024.

 

 UpToDateでは、リケッチア感染症のうち主なものがまとまっています。Rickettsia japonicaによるものが日本紅斑熱Orientia tsutsugamushi (旧Rickettsia tsutsugamushi) によるものがツツガムシ病になります。ツツガムシ病は別で疾患単体でページもあります。そいう意味でも、大枠を掴んでいただき、各疾患の把握はリンクをチェックしていただければと思います。

 

 

 

2. 日本紅斑熱

 それでは、日本紅斑熱からチェックしていきたいと思います。

 

  • 関東以西の比較的温暖な太平洋側、四国、九州に多い。
  • 発生時期は春先から晩秋。
  • 2~10 日の潜伏期を経て、2~3日間不明熱が続いた後、頭痛、発熱、悪寒戦慄をもって急激に発症する。他覚所見は高熱、発疹、刺し口が3 徴候である。
  • ツツガムシ病との鑑別診断が重要である。臨床的には、リケッチア症として治療を優先する。発生地域や時期、皮疹や刺し口の性状、分布などを詳細に観察し、特異的血清診断で確定診断する。そのほか麻疹や風疹などのウイルス性熱性疾患や薬疹などの発疹性疾患なども鑑別が必要である。また、病初期の尿所見から尿路感染症との鑑別が必要である。

(出典)馬原文彦. "日本紅斑熱の発見と臨床的疫学的研究." モダンメディア 54.2 (2007): 32.

https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM0802-02.pdf

 

 日本紅斑熱を発見された馬原先生による発見の経緯から日本紅斑熱の特徴までよくまとまったものです。疫学、臨床症状はもちろんのこと、よくまとまっているので是非チェックしてみてください。

 

 もう少し、症状などの特徴を定量的にも診ておきたいと思います。

 

日本紅斑熱の臨床所見に関する発生地域別多施設調査

  • 日本紅斑熱の主要所見としては,発熱では37℃以上99%,38℃ 以上90%,39℃ 以上66%,紅斑は99%,刺し口は69% であった.82% の症例で入院治療を要している.その他の症状として,悪寒26%,頭痛38%,嘔気・嘔吐・下痢20%,リンパ節腫脹7%,意識障害6%,消化管出血1% であった.
  • 日本紅斑熱の主要臨床所見は,従来の報告のごとく「発熱」「発疹」は,ほぼ全例に見られ,マダニによる「刺し口」も70% 前後にみられたことから,これらの所見を3 徴候とするのは今回の調査において改めて妥当と思われた.しかし,「刺し口」は50~95%,「リンパ節腫脹」は0~100% と報告者により偏りが認められた.

(出典)J.J.A. Inf. D. 89:490~492, 2015.

 

 報告によって、リンパ節腫脹のようにばらつきがある所見もあれば、発熱発疹はほぼ全例で見られ、刺し口も70%程度で見られるということで3徴候とする理由も分かる気がします。

 一方、以前取り上げた、SFTS(重症熱性血小板減少症)では、悪心(77%)や腹痛・腹部圧痛(55%)といった消化器症状が多くみられそうであることから、消化器症状の有無は鑑別のヒントになると思います。

 

 

 

3. ツツガムシ病

  「つつがむし」と聞くと、古文で「つつがなし」というフレーズを思い出します。「恙(つつが)」が病気や災難を示し、病気や災難を呼び入れる虫による病気という事でツツガムシ病ということでしょうか(笑)。

 では、日本紅斑熱の鑑別にも挙がる本題のツツガムシ病もチェックしてきたいと思います。まずは概要からです。

 

  • ツツガムシ病はOrientia tsutsugamushiによるダニ媒介性感染症で、主に南アジアから東アジアのアジア太平洋地域に分布する。
  • 感染後7〜10日で急性発熱、激しい頭痛、全身筋肉痛が出現し、多くで刺し口に黒色痂皮(eschar)を形成する。発疹(斑状や斑状丘疹性)、リンパ節腫脹、消化器症状(悪心・嘔吐・下痢)、呼吸器症状(咳・呼吸困難)、相対的徐脈、中枢神経症状(髄膜脳炎)、急性腎障害など多彩な臨床像を呈する。
  • 診断は流行地での曝露歴と臨床所見で推定し、血清診断やPCRが補助となる。治療は早期にドキシサイクリンを用い、妊婦にはアジスロマイシンを使用する。予防はダニ曝露の回避で、ワクチンは存在しない。

(出典)Scrub typhus, UpToDate, last updated: Mar 31, 2025.

 

 簡単にまとめてみました。教科書でも何でも、全体像を掴めるものであればよいと思います。

 また、日本におけるツツガムシ病の血清型についてもチェックしておきます。

 

O. tsutsugamushi は血清学的に多様であり,わが国ではGilliam, Karp およびKato の標準3 型に,近年報告例の増加したIrie/Kawasaki, Hirano/Kuroki およびShimokoshi の3 型を加えた6 型に分類される。Gilliam, Karp 型は全国に分布するフトゲツツガムシが保有し,Kato 型は北日本の一部に分布するアカツツガムシが保有し,Irie/Kawasaki, Hirano/Kuroki 型は東北南部から九州まで分布するタテツツガムシが保有する。Shimokoshi 型を保有するダニはまだ明らかでないが,近年,東北地方や北陸地方にてShimokoshi 型の感染事例があいついで報告された。

(出典)田居克規; 岩崎博道. リケッチア感染症の診断と治療~ つつが虫病と日本紅斑熱を中心に~. 日化療会誌, 2018, 66.6: 704.

https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06606/066060704.pdf

 

 ツツガムシ病を疑った際に、コマーシャルベースで検査できる血清型はGilliam, Karp, Katoの標準3型だけです。それだけで診断できるとは考えずに、近くの保健所を通して残りの3型の血清抗体価の検査をお願いすることになると思います。コマーシャルベースのもののオーダーもしつつ、保健所経由での他の血清型の検査も待つことになります。

 

 また、無症候性の場合も多く重症例では次のような臨床的特徴がみられるというNEJMからの報告もあります。

 

南インドの地方における2年間の追跡調査に基づく集団ベースの研究

  • ツツガムシ病への無症候性を含む血清学的陽性は81.2人/1000人年であった。症候性感染は6.0人/1000人年、入院は1.3人/1000人年、重症感染(臓器障害または妊娠への悪影響)は0.5人/1000人年であった。
  • 血清学的陽性化をした患者のうち、症候性感染が生じたのは7.4%であった。
  • 症候性感染となるのは高齢者ならびに女性で多い傾向であった。

重症ツツガムシ病の臨床的特徴
  • 重症感染症では、ARDS(66%, 確定例79%)、中枢神経系障害(14%, うち確定例75%)、ショック(38%, うち確定例55%)、急性腎障害(21%, うち確定例50%)、心筋炎(7%, うち確定例100%)、流産(7%, うち確定例50%)、死亡(17%, うち確定例100%)がみられた。また、呼吸管理において、高流量酸素療法(45%, うち確定例69%)、非侵襲的換気(10%, うち確定例69%)、侵襲的換気(17%, うち確定例80%)が必要な症例が少なくはなかった。

(出典)N Engl J Med. 2025 Mar 13;392(11):1089-1099. doi: 10.1056/NEJMoa2408645.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 まず、ツツガムシ病への感染(血清学的陽転化)で症状を呈するものの割合は7.4%しかないことになります。

 この論文のメインは、ツツガムシ病において病原体への曝露後、無症状で自然治癒する感染が最も一般的な経過である可能性があることを示唆しています。もちろん、地域差などはありそうですが、それにしても多くが症状を呈するわけでもなさそうです。

 また、重症例の臨床的特徴もチェックでき、ARDSが最も多く、他にもショック急性腎障害中枢神経障害呼吸管理の必要性が高いことも伺えます。特に中枢神経障害や呼吸管理の必要な症例ほど、確定例の割合が高く傾向がありそうです。心筋炎や流産、死亡例は数が少ないので何とも言いにくそうです。

 重症化すれば、「つつがなし」とは程遠い状態の悪い状況でもあり、重症となるものは病名に恥じないと感じました。

 

 

 

4. 日本紅斑熱 vs. ツツガムシ病

 日本紅斑熱とツツガムシ病の両者をせっかくなので分かりやすい形で比較しておきたいと思います。比較することで、相違点から特徴を掴みやすくなるかもしれません。

 

  • つつが虫病と日本紅斑熱は,わが国に常在する代表的なリケッチア症で,リケッチアを保有するダニ類の刺咬により感染する。両疾患とも,発熱,発疹および刺し口(痂皮)を3 主徴とし,臨床症状は酷似しており,臨床所見から鑑別するのは困難であるが,いくつかの相違点も知られている。両疾患の比較を下記の表の通り。

日本紅斑熱とツツガムシ病の比較

(出典)田居克規; 岩崎博道. リケッチア感染症の診断と治療~ つつが虫病と日本紅斑熱を中心に~. 日化療会誌, 2018, 66.6: 704.

https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06606/066060704.pdf

 

 また、日本紅斑熱の臨床的特徴を軸にしながら、ツツガムシ病との比較もされています。

 

日本紅斑熱の特徴(ツツガムシ病との比較)

  • 日本紅斑熱の潜伏期は2~8 日であり,つつが虫病と同様に発熱,発疹および刺し口(eschar)を臨床的特徴とし,これらを日本紅斑熱の3 主徴という。
  • 発熱は40℃ 前後を示すこともある弛張熱を認める。発疹は米粒大~小豆大の辺縁が不整型の紅斑を認め,一部出血性となることもあり,顔面や手掌・足底を含む四肢末端部優位に現れる。刺し口はやや小さめのため発見率は約60~70% であり,痂皮(eschar)はつつが虫病より小型の傾向がある。また,頭痛・高熱・悪寒戦慄を認め,急激に発症し,全身倦怠感,関節痛,筋肉痛等を伴う。咽頭痛を認めることも多く,リンパ節腫脹はつつが虫病に比べ目立たないことが多い。胃腸障害,特に急性胃粘膜病変(AGML)・胃潰瘍・十二指腸潰瘍を高率に合併する。
  • 感染症発生動向調査届出票(n=1,765:2007~2016 年)の記載では,発熱99%,発疹94%,肝機能異常73%,刺し口66%,頭痛31% およびDIC 20% であった。
  • 赤沈の亢進、CRP 強陽性、肝逸脱酵素の上昇がみられるが,白血球数の増減は一定しない。重症例では血小板減少をはじめとするDIC の所見を認め,検査値異常はつつが虫病より目立つ傾向にある。

(出典)田居克規; 岩崎博道. リケッチア感染症の診断と治療~ つつが虫病と日本紅斑熱を中心に~. 日化療会誌, 2018, 66.6: 704.

 

 確かに、皮疹の分布日本紅斑熱は四肢末梢優位)、痂疲の大きさ(ツツガムシ病の方が小型)、検査値(検査値場が目立つのはツツガムシ病)といった鑑別のヒントもありそうです。

 また、西日本に多いのがツツガムシ病ですが、徐々に東へ広がっています。関東でも、どちらか分からないこともあるでしょう。

 

 このような鑑別点はあるものの、両方が考えられる状況では、やはり鑑別困難なことも多いと思います。そもそも両者は同じリケッチア感染症です。

その際に大切になってくるのは、ツツガムシ病もしくは日本紅斑熱のどちらでも良いように、必要な検査を提出して経験的治療を開始することだと思います。

 

 疾患ゆえに日本語の総説のようなものが多く、読みやすいので、是非出典にも目を通してみてください。

 

 

 

5. 最後に

 3回に渡るダニシリーズにお付き合いくださいましてありがとうございました。

 ライム病TARI/STARI(2回目)で迷ってもライム病を想定して検査、抗菌薬治療開始まで進めることが大切でしょう。今回のように日本紅斑熱とツツガムシ病で悩んでも、両者をカバーしつつ検査し、日本紅斑熱までカバーして抗菌薬治療開始まで進めるといったことが大切だと思います。

 「詳しくなれば、鑑別できるかな?」という視点も大切ですが、何より患者さんの不利益にならないように、すぐに鑑別しきれないものもある中で、必要な検査を出して、経験的に治療を開始していくことが大切だと感じた次第です。

 

 本日もお読みくださいまして、ありがとうございました。

 

 

 日本紅斑熱やツツガムシ病の原因となるような虫やダニに興味がある方はよろしければ、チェックしてみてください。

 

 

【関連記事】

mk-med.hatenablog.com

 

mk-med.hatenablog.com

ダニ媒介性感染症②|ライム病 ~遊走性紅斑の鑑別: STARI, TARIも~

ダニ媒介性感染症②|ライム病

遊走性紅斑鑑別: STARI, TARI深掘り

 

<目次>

 前回、日本におけるダニ媒介性感染症には、重症熱性血小板減少症候群SFTS)、ライム病、日本紅斑熱、ツツガムシ病の大きく4つがあります。日本では主な節足動物媒介感染症でもあり、ダニ媒介性感染症でもあるという話で、SFTSついて書き始めたところで、ブログ製作時間の都合もあり、残りは次回以降とさせていただきました。

 今回は、その続きとしてライム病とその鑑別としてSTARITARIについてチェックしていこうと思います。

 

 

1. ライム病

 今回は、ライム病(lyme disease)についてチェックしていきたいと思います。何といっても、日本だと、北海道での感染が基本となるので、それだけ覚えているのに近いと言えば、それまでですが…。どのような感染症かチェックしていきたいと思います。

 

1-1. 概要

 まずは、どんな臨床像を呈する疾患なのかをチェックしています。

 

 ライム病はIxodes ricinus 群というダニによって媒介されるスピロヘータである Borrelia burgdorferi sensu latoによる感染症である。症状は通常,遊走性紅斑 erythema migrans (EM,第1期,局所感染症)という特徴的な拡大する皮膚病変からはじまる。数日から数週して、スピロヘータは全身のさまざまな部位に播種する(第2期,播種性感染症)。播種性感染症でみられることがある臨床症状として,第2期環状皮膚病変,髄膜炎,脳神経炎,根神経炎,末梢神経炎,心炎、房室結節ブロック、移動性筋骨格痛,などがある。数カ月から数年がたつと(通常,潜伏感染の期間の後に),間欠性または持続性の関節炎,慢性脳症,多発ニューロパチー,肢端皮膚炎が現れることがある(第3期,持続感染症)。多くの患者は早期症状を夏季に経験するが、第2期・第3期に進行するまで無症状のこともある。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 臨床経過は大きく第1期第2期第3期に分かれます。遊走性紅斑のような皮膚・局所症状から始まる第1期、全身症状がみられる第2期、そして持続感染による第3期といった感じです。身近なものに例えると、梅毒にも似ている部分があるように感じます。

 遊走性紅斑は、比較的特徴的な所見(皮疹)だと感じます。他のダニ媒介感染症とは違う分かりやすい所見とも言えそうです。

 

 ただし、後述しますが、ハリソンはやはり米国発の教科書なので日本とマダニの種類やボレリアの病原体が異なったりします。その点はご注意ください。

 

 いずれにしても、今回の出典はハリソンでしたが、やはり教科書は頼りになる場面も多く感じます。先程のSFTSの際には新しい感染症(出版当時)なのか、ハリソン内科学に大した記載はありませんでした。ふと、ハリソン内科学の原著22版もこの7月に出ることですし、早く第6版が出版されることを期待した次第です。

 

 それはさておき、ライム病について詳しくチェックしたい方は、教科書や総説等をチェックしてみてください。例えば、下記の総説のようなものが検索で見つかると思います。

(Ref. Ann Intern Med. 2025 May;178(5):ITC65-ITC80. doi: 10.7326/ANNALS-25-01111.

 

 

 

1-2. 日本学情報等

 ライム病に関しては北海道が基本と考えてはいるのですが、日本学情報等もしっかりとチェックしておきたいと思います。

 

  • 四類感染症に指定されている。
  • 日本では、1986年に初のライム病患者が報告されて以来、主に本州中部以北(特に北海道)で患者が報告されている。感染症法施行後の報告数は、1999年から2018年までの20年間で231例である。北海道以外の地域での届出例の多くは、北海道や海外(主にアメリカ、欧州諸国)での感染例である。欧米の現状と比較して本邦でのライム病患者報告数は少ないが、野鼠やマダニの病原体保有率は欧米並みであることから、潜在的にライム病が蔓延している可能性が高いと推測されている。
  • ライム病をおこす病原体ボレリアには数種類が確認されている。本邦ではBorrelia  bavariensisB. gariniiが主な病原体となっている。
  • ライム病ボレリアは、野山に生息するマダニに咬着されることによって媒介、伝播される。本邦においては、シュルツェ・マダニ(I.persulcatus)の刺咬後にライム病を発症するケースがほとんどである。本マダニは北海道ならびに、本州や四国、九州の山間部に生息する。北海道や青森県の一部では市街地等を除く平野部でも生息する(図4)。北海道や本州中部、東北地方の一部で採取された本マダニからライム病ボレリアが分離・検出されている。一般家庭内のダニで感染することはない。

(出典)JIHS(国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト)

id-info.jihs.go.jp

 

 国内でも「北海道だけ」とは言い難い学情報等でした。気候を考えれば、東北地方や中部地方の標高の比較的高い地域にもシュルツェ・マダニが生息していると推定されるため、その辺りの地区であれば、北海道や海外への渡航歴がなくても感染している可能性もゼロとは言いにくいのかもしれません。

 

 JIHSのホームページでは臨床症状等についても、分かりやすくまとまっています。また、日本地図とともにシュルツェ・マダニの生息推定地域等も説明されています。よろしければ、1度チェックしてみてください。

 

 

 

2. 遊走性紅斑深掘り

 せっかくライム病で「遊走性紅斑」という皮疹のキーワードが出てきました。遊走性紅斑(erythema migrans; EM)について少し深掘りしておきたいと思います。

 

2-1. 概要

 そもそも遊走性紅斑についてぼんやりとしか知識を持ち合わせていないのでチェックしてみることにしました。

 

遊走性紅斑はライム病の特徴的な初期病変でおり,通常は感染から数日~14日後に出現する.臨床的には紅色丘疹ないし小さな紅斑から始まり,次第に周囲に拡大して,少なくとも直径5 cm(平均10~16 cm)に達する環状の紅斑を呈する例が多い.ライム病の流行地においては,遊走性紅斑の出現はライム病を強く示唆し、初期(第1期)の診断においては遊走性紅斑等の臨床像によるところが大きい。

(出典)Eur J Dermatol. 2004 Sep-Oct;14(5):296-309.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 ライム病は病期が3つに分けられますが、初期にあたる第1期に遊走性紅斑がみられます。それが診断の手がかりとなるということのようです。

 診断の手がかりということですが、感度や特異度もしくは遊走性紅斑の出現頻度といった診断特性やそのヒントになるものも気になるところです。見つけたものを挙げておきます。

 

  • 遊走性紅斑は、典型的には赤い斑状または丘疹状病変として始まり、数日から数週間かけて拡大し、しばしば中心部が部分的に消退を伴う、大きな円形の病変を形成する皮膚病変と定義された。
  • CDCによると、米国におけるライム病の遊走性紅斑は症例の70%で認められるとする報告があるが、実際の医療現場では90%程度で認められるかもしれない。
  • スウェーデン南部では遊走性紅斑は77%で認められるとする報告がある。
  • 近年ではスロヴェニアで95%を超える症例で遊走性紅斑を認めるとする報告もあり、近年の増加はライム病の診断基準における皮膚外症状の厳格化や早期発見によるものかもしれない。

(出典)Infect Dis Clin North Am. 2022 Sep;36(3):523-539.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 日本でのライム病のことが詳しく書かれているような総説ではないですが、ライム病の認知向上によるかはわかりませんが、比較的高い確率でみられる所見とも言えそうです。

 

 

2-2. ボレリア種類ごと比較

 先ほどの通り、遊走性紅斑の感度はぼちぼち高そうですね。ただし、米国や欧州ではベクターとなるマダニ病原体ボレリアの種類にも違いがあります。さらに、日本やヨーロッパとの違い等もあるため、差異はあるかもしれない点は留意だと思います。

 日本ではBorrelia bavariensisB. gariniiが主な病原体ですが、米国ではB. burgdorferi sensu strictoが主な病原体になります。

 先ほどの文献で米国とヨーロッパにおけるライム病(ボレリア3種類)での比較がありました。せっかくなので、比較しておきたいと思います。

 

ライム病と遊走性紅斑 ボレリアごとの比較

ライム病と遊走性紅斑 米国・欧州のボレリアの種類ごとの比較
  • 米国におけるB. burgdorferi s.s. とヨーロッパにおけるB. afzelii, B. gariniiの比較
  • B. burgdorferi s.s.B. gariniiの間では、B. burgdorferi s.s.の方が有意にダニ咬傷の認識が少なく(24.5% vs. 63.5%)、皮疹中心部の消退が少なく(30.3% vs. 55.6%)、遊走性紅斑による局所症状が少ない(42.0% vs. 59.9%)一方で、有意に全身症状が多く(77.8% vs. 33.7%)、多発性遊走性紅斑が多く(25.9% vs. 5.8%)、所属リンパ節腫脹が多く(37.7% vs. 2.6%)、発熱(>38℃)が多かった(10.8% vs. 1.3%)。また、有意差はなかったものの、Jarisch Herxheimer reactionもB. burgdorferi s.s.で多い傾向があった(8.6% vs. 0%)。
  • B. burgdorferi s.s.B. afzeliiの間でも有意差のある項目が多かった。
  • B. afzeliiB. gariniiの間では、有意差のある項目は遊走性紅斑における局所症状(47.2% vs. 66.3%)のみであった。

(出典)Infect Dis Clin North Am. 2022 Sep;36(3):523-539.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 米国におけるB. burgdorferi s.s. ヨーロッパにおけるB. afzelii, B. gariniiでは、B. burgdorferi s.s.B. afzeliiB. garinii異なる臨床症状・所見を呈する傾向にあり、B. afzeliiB. garinii似ている傾向にあると言えそうです。

 B. burgdorferi s.s.はどちらかというとダニ咬傷場所の局所症状よりは全身症状や複数の遊走性紅斑がみられそうです。一方、B. afzeliiB. gariniではダニ咬傷部位の近くの局所症状が多そうです。

 ただし、ボレリア3種類の所見を比較して鑑別するのは組合せ技でも難しそうです。もちろん、米国とヨーロッパという場所の違いが何より事前確率を変えるため、「米国におけるB. burgdorferi s.s.」と「ヨーロッパにおけるB. afzelii、またはB. garinii」の鑑別であれば、患者さんの渡航の方が参考になりそうです。

 もちろん、ヨーロッパではB. afzeliiB. gariniiがライム病の主な病原体ですが、B. burgdorferi s.s., B. bavariensis, B. spielmanii, B. lusitaniaeといった病原体もライム病の原因となることもご留意ください。

 

 この遊走性紅斑をはじめとしたライム病について調べていたところ、ライム病(遊走性紅斑)鑑別になりうるものを見つけました。その鑑別について次章でチェックしてみたいと思います。

 

 

 

3. ライム病鑑別: STARI & TARI

 先ほど、ライム病で「遊走性紅斑」という皮疹のキーワードが出てきたので、遊走性紅斑の鑑別を調べていると、STARITARIといった病態・概念を見つけました。初期の遊走性紅斑が診断に役立つという視点から、ライム病の鑑別としてこれらを深掘りしてみたいと思います。

 

3-1. 概要

 ライム病はご存じの方も多いと思いますが、STARIやTARIについて私は曖昧な点も多く、調べてみることにしました。

 

STARI; Southern tick-associated rash illness

  • 米国南東部ではA. americanumの刺咬によって,ライム病に類似した遊走性紅斑が出現することが問題となっており、STARIあるいはMasters diseaseと呼ばれている.また近年ではライム病の発生地域である米国北東部からもSTARIの症例が報告された.

 

TARI; tick-associated rash illness

  • 本邦では、タカサゴキララマダニ刺症の咬着の2~3日後に掻痒を伴う紅斑を認める報告がある。マダニの唾液腺物質に対するアレルギー反応が関与している可能性が示唆される.本邦におけるマダニ刺症に伴う遊走性紅斑については,STARIという病名は適切とは言えない.ライム病を除外できた症例あるいはライム病と確定できない症例に対する病名として米国での病名に近いtick-associated rash illness (TARI)という病名を提唱しておきたい.

(出典)Med. Entomol. Zool. Vol. 64 No. 1 p. 47‒49 2013. doi: 10.7601/mez.64.47.

 

 STARIは概念としては確立していて、ライム病のみられない(媒介するダニのいない)米国南部でのダニによる皮疹といったところでしょう。はっきりとした病因は不明とのことです。

 一方で、TARIはSTARIほど確固たる概念ではなく、この出典の著者の夏秋先生らが日本で提案されている概念といったところに感じます。夏秋先生の本ではTARIについての記載もありましたが、本によってはTARIの記載はありません。

 いずれにしても、ライム病(ダニ咬傷後の感染症)ではなく、「ダニ刺され」というだけでも遊走性紅斑に似た皮疹が生じうるということですね。

 

 さらにボレリアの病原体の種類がヨーロッパと日本で被る部分もあるにもかかわらず、ヨーロッパでのSTARIのような報告はないそうです。

 

STARIはヨーロッパではみられない。おそらく、マダニの一種であるAmblyomma. americanumがヨーロッパに生息していないためである。しかし日本では、2014年にA. testudinariumマダニの咬傷部位に発生したEMに類似した皮膚病変が報告された。この病変はボレリア菌によるものではなく、TARIと命名された。

(出典)Infect Dis Clin North Am. 2022 Sep;36(3):523-539.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 とりあえず、米国日本では遊走性紅斑鑑別(ライム病鑑別)となりうるものがあるということでしょう。

 ボレリアの病原体の種類が合致する部分もあるにもかかわらず、ヨーロッパではTARIやSTARIのような報告がないことは意外でした。勝手な推測ですが、媒介するベクターのダニが、米国のライム病の場合はIxodes scapularisI. pacificusであるのに対して、ヨーロッパではI. ricinusI. persulcatusである点もヨーロッパではTARIやSTARIのような皮疹が見られない原因かもしれないということで個人的には納得させておきたいと思います。

 

 STARIがNew England Journal of Medicine(NEJM)のClinical Pictureとなったこともあります。気にある人は下記もチェックしてみてください。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 

3-2. 遊走性紅斑STARI比較

 TARIと比べてSTARIの方が調べていると情報が多く、遊走性紅斑とSTARIを比較したものもありました。そちらをチェックしてみたいと思います。

 

遊走性紅斑とSTARIの比較

ライム病による遊走性紅斑とSTARIの比較
  • 同時期にニューヨーク州で遊走性紅斑(ライム病)の症例とミズーリ州のSTARIの症例の比較
  • STARIでは、遊走性紅斑と比べて有意に、ダニ咬傷を認識していることが多く(85.7% vs. 19.8%)、皮疹の直径が小さく(8.3±2.2 cm vs. 16.4±11.5 cm)、皮疹中心部の消退が多く(76.2% vs. 21.6%)、全身症状が少なく(19.0% vs. 76.2%)、関節痛が少なく(4.8% vs. 33.7%)、項部硬直が少なく(0% vs. 34.7%)、集中力障害や記憶障害が少なかった(0% vs. 29.7%)。

(出典)Infect Dis Clin North Am. 2022 Sep;36(3):523-539.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 これをみると、STARIの方がダニ咬傷(ダニ刺咬)の認識は高い一方で、皮疹の直径は小さかったり、全身症状や項部硬直や記憶障害のような神経症も少なかったり、マイルドな印象で、ダニ咬傷そのものが強いということでしょうか。

 神経症があればライム病と思う反面、神経症状がなかったとしてもSTARIの可能性は少し上がるかもしれないが、ライム病の可能性も十分にあるというような印象です。

 また、米国での遊走性紅斑とSTARIの比較ということで、前章で深掘りしたように、米国のB. burgdorferi s.s. とヨーロッパのB. afzelii、B. gariniiにおける遊走性紅斑等の違いも踏まえる必要があります。さらに日本ではBorrelia. bavariensisB. gariniiが主な病原体であり、ベクターも異なる部分もあるため、なおさら分からない部分もあるでしょう。両者の鑑別に多少は役立つとは思うものの、治療や4類感染症として届け出の必要なライム病除外できるような状況ではないと思います。

 

 

 

4. 結局、治療は!?

 結局、遊走性紅斑(ライム病)やSTARI、TARIっぽい皮疹みかけたらどうするかという事になると思います。

 

 ライム病の遊走性紅斑は、第2期以降につながる可能性がある。数百例のSTARI患者を診察してきたが、こちらも後ほどの症状・所見が生じうると考えており、「風邪様症状」とは考えていない。さらなる知見が得られるまでは、抗生剤投与を控えるべきだとほのめかすことは時期尚早である。

(出典)Clin Infect Dis. 2006 Feb 15;42(4):580-1; author reply 581-2.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 私はさすがに、この出典のようにSTARIやTARIでライム病の第2期以降のような症状・後遺症が生じるまでは思っていません。

 しかし、遊走性紅斑っぽいものを見かけたら、ライム病もしくはSTARIかTARIを考えると思います。先程の皮疹の比較も踏まえると、皮疹や所見からはライム病を否定しきるのは個人的には難しいと考えています。

 ライム病の場合は第2期以降につながる可能性もあるため、少なくとも血清学的に白黒つくまでは、ライム病と考えて抗菌薬を投与したほうが良いと個人的には思う次第です。

 いろいろと探してみると、STARIの症例報告でドキシサイクリンを投与されているものもありますし、次のような文献もあります。

 

  • ライム病に類似した疾患(STARI)には、ライム病に類似した治療が適切であり、標準的なライム病治療の推奨が適用されると考えられる。
  • ドキシサイクリン3mg/kgを分割投与で10~30日間経口投与、またはアモキシシリン500mgを1日3回、あるいはセフロキシム500mgを1日2回経口投与を処方する。セファレキシンがライム病に対して有効でないというエビデンスがあるため、ライム病同様にライム病様疾患の治療における使用を推奨しない。

(出典)Infect Dis Clin North Am. 2008 Jun;22(2):361-76, viii.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 このような考えもあるようです。日本で言えば、TARIの原因となるタカサゴキララマダニ生息範囲(関東以南)と、ライム病の原因となるシュルツェ・マダニ生息範囲北海道に加え、本州、四国、九州の標高の高いところ等)への渡航を思い浮かべつつ、ライム病の可能性のある場所に行っているのであれば、なおさら血清学的検査の結果が出るまでライム病を否定できないと考えています。もちろん、タカサゴキララマダニであれば、TARIだけではなくSFTSの可能性等も考慮しないといけなくなってきます。

 結構、患者さんが「どこに行って何をしたのか」は大切になってくると思います。もちろん、ダニの写真があれば絞り込めますが、写真もない、ダニもすでにくっついていない、というようなことは大いにありえるでしょう。例えば、信州で登山であれば、どちらか分からないこともあるでしょう。

 

 さらに、治療について「感染症プラマニュ」で「ライム病」と検索してみました。

 

(出典)感染症プラチナマニュアル Ver.9 2025-2026.

 

 どちらにしても、私は、ライム病もしくはSTARI、TARIでも、ライム病を否定ができないと思ったら、とりあえずテトラサイクリン系抗菌薬(何もなければ、ドキシサイクリン)を投与すると思います。

 

 もちろん、ダニ咬傷(ダニ刺咬)だけで遊走性紅斑のような皮疹や他の症状等もなければ、それだけでは感染を示唆するわけでもないので、その際の抗菌薬投与はまた別の問題でしょう。 

 結局のところ、遊走性紅斑様の皮疹だけでは鑑別しきれず(ライム病を否定しきれず)、渡航歴・活動歴も合わせて判断をし、ライム病を否定できなければ、とりあえず抗菌薬でしょうか。

 

 今回のブログ記事は白黒つかない感じでしたが、トリビアとして趣味として楽しんでもらえる人がいらっしゃれば幸いです。

 

 次回こそ、日本紅斑熱とツツガムシ病について触れていきたいと思います。本日もお読みくださいましてありがとうございました。

mk-med.hatenablog.com

 

 

 

【関連記事】

 mk-med.hatenablog.com

 

 

 ライム病といえば、慢性髄膜炎の原因にもなります。興味がある方は、よろしければ下記の記事もご覧ください。

mk-med.hatenablog.com