薬と便秘
~抗ヒスタミン薬の機序・分類や鎮静性、便秘の頻度の深掘りまで~
<目次>
- 1. 便秘が副作用にある薬
- 2. 便秘の分類・機序
- 3. 抗ヒスタミン薬による腸の通過遅延
- 4. 抗ヒスタミン薬の分類
- 5. 抗ヒスタミン薬と鎮静性
- 6. 抗ヒスタミン薬による便秘の程度
- 7. 最後に
春の訪れを感じる小春日和の中、スギ花粉が猛威を振るう季節になりました。そして桜の開花の訪れとともに次はヒノキ花粉でしょうか。
3月に入ってから花粉症(アレルギー性鼻炎)のために薬を飲んでいるのですが、飲んでいる薬によってはお通じが…(便秘気味)、なんてことがあることにふと意識が向きました。薬に副作用・有害事象がない訳はないですが、抗ヒスタミン薬服薬をきっかけにちょっと調べてみようというような記事になります。
(注)服用中の薬のトラブルにつきましてはかかりつけ医等を受診またはご相談ください。
1. 便秘が副作用にある薬
抗ヒスタミン薬が便秘の原因になりうるということでしたが、薬には様々な副作用があります。横切りの視点で便秘をもたらしうる薬を調べてみました。
便秘の原因は多因子であり、薬物有害事象としてもよく見られる。便秘の発症に関与する一般的な薬剤は次の通りであった。
(出典)J UOEH. 2019;41(2):145-151. doi: 10.7888/juoeh.41.145.
案外、多いですね。入院中の便秘・下剤も話題になることがありますが、身近さを感じます。便秘の発症原因になりうる薬剤として、オピオイドで最も頻度が高いものであったとしても、他の薬が原因のものも十分に多そうです。
オピオイド、非ステロイド性抗炎症薬、三環系抗うつ薬、抗パーキンソン薬、抗精神病薬、抗痙攣薬、抗ヒスタミン薬、抗痙攣薬、催眠薬、カルシウム拮抗薬、利尿薬、中枢性降圧薬、抗不整脈薬、βアドレナリン受容体拮抗薬、胆汁酸分泌抑制薬、アルミニウムまたはカルシウム含有制酸剤、鉄サプリメント、カルシウム補助食品、次硝酸ビスマス、リチウム、ビンカアルカロイド、アルキル化剤、交感神経刺激薬、モノアミン酸化酵素阻害剤、ビスフォスフォネート、5-ヒドロキシトリプタミン3受容体拮抗薬(5-HT3受容体拮抗薬)と多岐に渡るようで、それぞれの薬が便秘とどのように関連しているのかが気になります。
2. 便秘の分類・機序
便秘の機序を復習してみることで、先ほどの薬(特に抗ヒスタミン薬)と便秘がどのように関連しているのかを調べてみたいと思います。機序的な部分への理解を深めるために、急性・慢性のような分類方法もあると思いますが、機序に基づいたような分類方法を探してみたいと思います。
- 便秘の病態生理学は多因子性であり、患者によって異なる。原発性便秘(一次性便秘)の原因は、排便障害、通過遅延、通過時間正常の3つのいずれかに分類される。
- 原発性便秘を診断する前に、まず続発性便秘(二次性便秘)を除外すべきである。薬歴から、オピオイドや抗コリン役のような便秘を生じうる薬を特定できることがある。また、続発性便秘は、糖尿病、慢性腎疾患、脱水、パーキンソン病、エーラス・ダンロス症候群、その他の結合組織障害の結果であることもある。
(出典)Aliment Pharmacol Ther. 2021 Jun;53(12):1250-1267. doi: 10.1111/apt.16369.
出典では、原発性便秘の大きな3つの分類として、排便障害と、腸管の通過時間で2種類の計3種類について触れられていました。腸管の通過時間では、正常のものと遅延のものに分けられます。
今回は抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)ということで続発性便秘になりますが、理解のために原発性便秘の分類を使わせてもらえば、おそらく「通過遅延」に近いタイプであると考えられます。通過遅延にはどのようなメカニズムでなるのかも答え合わせをしながら深掘りしてみたいと思います。
3. 抗ヒスタミン薬による腸の通過遅延
私の身近にあるアレルギー性鼻炎(鼻水)向けのOTC薬をチェックしてみました。クロルフェニラミンマレイン酸塩が主成分のものや、フェキソフェナジン塩酸塩が主成分のもの、セチリジン塩酸塩が主成分のものなどがありました。これらが抗ヒスタミン作用をきたす主成分で、主にヒスタミンH1受容体拮抗薬として作用するものです。
ヒスタミンH1受容体の分布や機能などを調べてみたいと思います。
- ヒスタミンH1受容体は全身に広く分布しており、中枢神経系(CNS)、平滑筋、知覚神経、心臓、副腎髄質、免疫細胞、内皮細胞、上皮細胞などで発現していることがよく知られている。
- H1受容体の膜貫通ドメイン3および5との結合を介して、ヒスタミンは呼吸器や消化管の平滑筋収縮を刺激し、知覚神経を刺激してそう痒やくしゃみを引き起こし、血管透過性を亢進させて(プロスタサイクリン、血小板活性化因子、vWF、一酸化窒素を介して)浮腫を引き起こす。
- H1受容体は中枢神経系におけるヒスタミンのシナプス後作用のほとんどを媒介する。また、多様な分布と様々なエフェクター活性を持つH1受容体は、アレルギー性鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎、結膜炎、蕁麻疹の発症に関与している。
- ヒスタミンを介したH1およびH2受容体の同時活性化は、血圧低下、頻脈、潮紅、頭痛などのアナフィラキシーの臨床症状を引き起こす。
(出典)Mandola, A., Nozawa, A., & Eiwegger, T. (2019). Histamine, histamine receptors, and anti-histamines in the context of allergic responses. LymphoSign Journal, 6(2), 35-51.
http://dx.doi.org/10.14785/lymphosign-2018-0016
上記の中でも、ヒスタミンH1受容体への刺激による消化管平滑筋の収縮が抑制されることで蠕動運動が抑制され、便秘もしくは便秘とまではいわなくても、お通じが悪くなるということがあると考えると、抗ヒスタミン薬と便秘の関係も綺麗につながります。「抗コリン作用」というような表現もみたことがあるのですが、上記のようなことを示しているのだと思います。
脳にもヒスタミンH1受容体がありますね。眠気に関連する、世代の新しい抗ヒスタミン薬で眠気が生じにくいというな話がありましたので、整理してみたいと思います。
4. 抗ヒスタミン薬の分類
さらに、今回のきっかけとなった抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)における第1世代と第2世代の違いとして次のようなことも言われています。
ヒスタミンH1受容体拮抗薬は、さらに第一世代と第二世代に分類される。第一世代のヒスタミンH1受容体拮抗薬は血液脳関門を通過して中枢神経系(CNS)に移行しやすいが、第二世代のヒスタミンH1受容体拮抗薬は血液脳関門を通過しない。第一世代の抗ヒスタミン薬は中枢と末梢の両方のヒスタミンH1受容体に結合するのに対し、第二世代の抗ヒスタミン薬は末梢のヒスタミンH1受容体に選択的に結合する。このため、治療と副作用のプロファイルが異なる。
(出典)Farzam K, Sabir S, O'Rourke MC. Antihistamines. 2023 Jul 10. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan–. PMID: 30844215.
血液脳関門の通過性が副作用としての眠気の程度に影響してくる部分でしょうか。出典では血液脳関門を「通過しない」という表現でしたが、実際には第2世代では一般的に「通過しにくい」というべきだと思います。
さて、第2世代抗ヒスタミン薬でも鎮静性を気にすることがあると思います。眠気の原因となる鎮静性のあるものと非鎮静性のものがあるため、第2世代抗ヒスタミン薬でも鎮静性の有無という視点もありますが、第1世代と第2世代に分けて考えることが多いという事を文献から感じました。
5. 抗ヒスタミン薬と鎮静性
先ほどの第1世代、第2世代のところで鎮静性というキーワードが出てきたため、そこを少し深掘りしてみたいと思います。
小児診療や自動車の運転を考える際には抗ヒスタミン薬の鎮静性を気にすることがあると思います。眠気はあくまでも主観的な側面もありますが、鎮静作用と関連してくる部分でしょう。
先ほどの抗ヒスタミン薬の世代だけでなく、鎮静性の有無・程度もチェックしておこうと思います。
第2世代抗ヒスタミン薬の一部は脳内に移行してH1受容体を占拠する場合もある.必ずしも第2世代であるからといって非鎮静性であるわけではない.第1世代抗ヒスタミン薬(鎮静性)が50%以上の脳内H1受容体を遮断するのに対して,第2世代は大方30%以下である5).ただし,“第2世代”と称していても必ずしもゼロではなく,第1世代との違いは中枢移行性の相対的な差である.
抗ヒスタミン薬のうち、脳内ヒスタミンH1受容体占拠率が20%以下のものを非鎮静性、20-50%のものを軽度鎮静性、50%以上のものを鎮静性として分類した場合に下記のようになった。
- 非鎮静性抗ヒスタミン薬: フェキソフェナジン、エバスチン、セチリジン、オロパタジン
- 軽度鎮静性抗ヒスタミン薬: アゼラスチン、メキタジン、セチリジン
- 鎮静性抗ヒスタミン薬: クロルフェニラミン*、オキサトミド、ジフェンヒドラミン*、ケトチフェン、d-クロルフェラミン*
*第1世代抗ヒスタミン薬
(出典)日耳鼻112: 99-103, 2009
また、日経メディカルに鎮静性の指標として脳内ヒスタミンH1受容体占有率を分かりやすい図で説明されています。よろしければ、下記URLもご確認ください。
先ほどの例で挙げた抗ヒスタミン薬の主成分であるフェキソフェナジンは非鎮静性、クロルフェニラミンは鎮静性に分類されています。このような薬の鎮静性の違いにも注目しつつ、両者の便秘などの違いが気になりました。せっかくなので先述の文献の中でもっとも鎮静性が高いd-クロルフェニラミンと最も鎮静性が低い(非鎮静性であった)フェキソフェナジンの便秘等の頻度の違いがあるのかが気になりました。
6. 抗ヒスタミン薬による便秘の程度
便秘の機序や抗ヒスタミン薬の作用する機序・分類に対しても理解が深まったところで、便秘の頻度や程度について気になったので、深掘りしてみることにしました。
PubMedで「これだ!」というようなものは見つけられませんでした。便秘がそこまで重要な比べるほどの副作用ではないのかもしれません。
前章までの経緯から、d-クロルフェニラミンが主成分の第1世代抗ヒスタミン薬とフェキソフェナジンが主成分の第2世代抗ヒスタミン薬の違いにも着目してみたいと思います。特にどの商品がどうであるという意味ではなく、成分による比較として、PMDAでチェックしてみたいと思います。
d-クロルフェニラミンのその他の副作用として便秘を認める割合は5%以上または頻度不明であった。
(出典)添付文章: d-クロルフェニラミンマレイン酸塩錠2mg「NIG」, 2023年 11月改訂 ( 第1版 )
フェキソフェナジンのその他の副作用として便秘を認める割合は0.1%未満であった。
(出典)添付文書: フェキソフェナジン塩酸塩OD錠60mg「YD」,2023年 10月改訂 ( 第1版 )
第1世代抗ヒスタミン薬で最も鎮静性の高かったd-クロルフェニラミンの方が便秘の頻度も高い、もしくは頻度不明という結果になりました。最も鎮静性の低い(非鎮静性であった)フェキソフェナジンは頻度が0.1%未満という結果でした。
抗ヒスタミン薬の世代による違いなのか、鎮静性の程度の違いによるものなのかは分かりませんでした。そのため、他にも2番目に鎮静性の高い第2世代抗ヒスタミン薬であるケトチフェチンや、第1世代抗ヒスタミン薬の中では最も鎮静性の低いクロルフェニラミン(それでも鎮静性に分類)も調べてみることにしました。
ケトチフェンのその他の副作用として便秘を認める割合は0.1%未満であった。
(出典)添付文章: ケトチフェンカプセル1mg「日医工」, 2023年12月改訂(第1版)
クロルフェニラミンの副作用における便秘の記載なし。
クロルフェニラミンマレイン酸塩注射液のその他の副作用として便秘を認め、頻度は不明である。
(出典)2mgクロダミン注 5mgクロダミン注, 2023年 1月改訂(第1版)
決して便秘の頻度は多くなさそうですが、あくまで一例であり用法容量等によっても異なってきます。あくまで推測として、鎮静性の高い薬や第一世代、用量の多い場合や投与方法の吸収率の高そうなものの方が便秘も生じそうですが、はっきりとは分からないというような感じとなってしまいました。個人の相性はもちろんのこと、薬次第といった印象です。
具体的にお使いのお薬・身近なお薬の副作用などが気になる場合は下記の医薬品医療機器総合機構(PMDA)ホームページの添付文書等検索より、お薬を検索してみてください。
7. 最後に
本記事における特に後半は好奇心によるものではっきりとしたことまでは示すことはできませんでした。しかし、前半にあるように多彩な薬が便秘と関連しうること、ヒスタミンH1受容体と腸管平滑筋の収縮・運動の関係、抗ヒスタミン薬の種類や分類・鎮静性といった何か参考になるものがあれば幸いです。
また、病棟・外来等で接する機会が少なくない便秘や下剤、薬の副作用について調べるきっかけにもなれば幸いです。
本日もお読みくださいましてありがとうございました。
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