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医師国家試験 117C67|感染性心内膜炎の合併症(脳出血)とフォロー

医師国家試験 117C67

~感染性心内膜炎の合併症脳出血)とフォロー~

 

<目次>

 

 

 受験生の皆様は2日間に渡る試験ならびに長期間にわたる試験勉強、お疲れ様でした。今年も偶然にも医師国家試験(国試)を目にする機会があり、なぜか目に留まった117C67が実臨床的・教育的な問題だと感じたので、ブログにしてみることにしました。去年のようにいくつか選んで記事にするというようなことになるかは分かりませんが、とりあえず117C67について書いてみます。

 この問題(117C67)について、①感染性心内膜炎(IE)を疑うことができたか、さらにIEの合併症としての脳出血と考えることができたか、③最後にIEとしてのフォローを選ぶことができたかの大きく3段階になると思います。合否を分けるかとは別問題としても、特に②の段階でつまずく人もいたのではないでしょうか。段階に分けて勉強になりそうな部分をブログ記事にしてみたいと思います。



1.医師国家試験問題

117C67 52歳女性、意識障害のため救急車で搬入された。

現病歴: 5日前から38℃を超える発熱と悪寒戦慄を訴え、市販のアセトアミノフェンを内服していた。本日夕食中に急に頭痛とふらつき感を訴え、嘔吐した。その後、いびきをかいて眠りだし、呼びかけに応答しなくなったため、家族が救急車を要請した。

既往歴: アトピー性皮膚炎で…

(画像・問題省略)各自で予備校サイト等でご確認ください。

 ※頭部CT:中大脳動脈領域の脳溝を中心とする高吸収域

 

問67

 血液培養2セットを採取した後に集中治療室に入室し、抗菌薬投与を開始した。血液培養は2セットとも陽性となり、入室3日目にStaphylococcus aureusと同定された。

 この結果を受けて実施すべきなのはどれか。2つ選べ。

  1. 尿培養
  2. 心エコー検査
  3. 末梢神経伝導検査
  4. 血中エンドトキシン測定
  5. 血液培養再採取による陰性化の確認


※ブログの都合で選択a=1, b=2, ..., e=5となっております。

 

 

2.感染性心内膜炎を疑えるか?

 問67のところで「血液培養が陽性であったという親切な問題設定になっています。そのため、敗血症やそこから感染性心内膜炎(IEを疑うことができた人も多いと思います。

 国試としてみれば、「両側足趾先端に点状出血斑」「心尖部を最強点とするLevine 3/6の収縮期雑音を聴取」というのも感染性心内膜炎らしさでしょう。さらに、ここまで知っている必要はないかもしれませんが、アトピー性皮膚炎によって皮膚のバリアが弱くなることは感染性心内膜炎の原因ともなる菌血症のリスク因子にもなります。そこまで知らなくても、現症の最後の「鱗屑、紅斑および苔癬化を認め、一部浸出液」という皮膚の状態が悪いという主旨の部分で気が付けるかもしれませんし、知っている人にとっては分かりやすく表現されています。

 他にも余談ですが、問題文がアセトアミノフェンを飲んで病院を受診をしていなかったというくだりです。コロナ禍でのただの風邪だと思っていたということで受診控えをする中に怖い疾患も隠れているかもしれないというメッセージに感じるのは私だけでしょうか。

 去年の116A53グラム染色緑膿菌カバーの抗菌薬)のように、感染症診療を専門として実臨床的な問題作成する先生でも出題者委員にいらっしゃるのでしょうか。それでは、この問題から学べる部分掘り下げて行きたいと思います。

 

2-1. 発熱+悪寒戦慄→敗血症を疑う

 現病歴の冒頭部分「38℃を超える発熱悪寒戦慄」とあります。もちろん、経過としては、最終的に意識障害まで生じていますが、まずは悪寒・悪寒戦慄について整理しておきます。

<悪寒・悪寒戦慄>

  • 悪寒(chill):重ね着をしたくなる/布団を被りたくなる
  • 悪寒戦慄(shaking chill):体がガタガタと震えて止まらない

 

 今回は、雑に表現すると悪寒戦慄ということで激しいほうです。感染症でも重症な敗血症の可能性もあがります。見逃してはいけない疾患という意味でも敗血症は大切でしょう。敗血症であり、その原因として肺などの局所臓器不明であれば、感染性心内膜炎(IE疑う必要性があるでしょう。

 

【深掘り】悪寒戦慄と菌血症

 「悪寒戦慄があった場合に敗血症を見逃さない/意識する」という点について深掘りしてみたい方はお読みください。敗血症とは全身の炎症や臓器障害の有無が異なりますが、菌血症(血液培養陽性)と悪寒・悪寒戦慄の有無の関係性を調べたものがあります。

 

急性熱性疾患患者(526名)の後ろ向き研究

  • 救急外来を受診
  • 悪寒がない場合と比較

悪寒・悪寒戦慄と菌血症(血液培養陽性)のリスク

(出典)Am J Med. 2005 Dec;118(12):1417. doi: 10.1016/j.amjmed.2005.06.043.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 発熱患者において悪寒・悪寒戦慄がない場合と比べると、悪寒や悪寒戦慄があると(激しくなると)、菌血症の可能性が高くなります。菌血症の特異度90%ほど、悪寒がない場合とのリスク比12.1ということです。多少状況が違っても悪寒戦慄がある場合には、血液培養をしないと菌血症を見逃す可能性が高い状況です。



2-2. 発熱+意識障害の原因

 少し臨床推論(診断推論)の視点で症候学のあたりにも目を向けてみます。考えられる原因(鑑別疾患)として、意識障害があっても細菌性髄膜炎のような中枢神経系障害とは限りません。尿路感染症腎盂腎炎)や肺炎などで全身状態悪くなっても意識障害を来すことがあります。

 身体診察等で原因臓器をTop to Bottomで探しに行くにしても、まずは性感染症の否定も大切でしょう。

 

 今回は52歳と比較的若い(高齢者ではない)こともあって、IEそのもののとき(現病歴でいう5日前の悪寒戦慄があった時)には、意識障害まではきたしていなかったと考えられます。経過としても「本日の夕食中に急な頭痛」からの「意識障害」です。ここでは、頭痛+発熱+意識障害と考えることもできますが、突然発症(捻じれる、裂ける・破れる、詰まる)の可能性も考慮してほしいと思います。

 この部分で発熱の原因は感染症から非感染症まで広くありつつも、敗血症とその原因)を見逃してはいけないという視点が大切になってきます。また、病歴、身体診察、検査などに基づいて原因となる疾患を考えていく過程に興味がある人は臨床推論について学んでみてください。

 

2-3. 感染性心内膜炎の臨床所見・検査所見

 せっかくなので、感染性心内膜炎(IE多彩な臨床所見検査所見について学ぶ機会にできればと思います。

 

IEの臨床所見および検査所見と頻度

  • 発熱:80-90%
  • 悪寒および発汗:40-75%
  • 食欲不振、体重減少、倦怠感:25-30%
  • 筋痛、関節痛:15-30%
  • 背部痛:7-15%
  • 心雑音:80-85%
  • 新規の、あるいは増悪する逆流性心雑音:20-50%
  • 動脈塞栓症:20-50%
  • 脾腫:15-50%
  • ばち指:10-20%
  • 神経所見:20-40%
  • 抹消症状(Osler結節、爪下出血、Janeway病変、Roth斑):2-15%
  • 点状出血:10-40%

<検査所見>

  • 貧血:70-90%
  • 白血球増加:20-30%
  • 顕微鏡的血尿:30-50%
  • 赤沈亢進:60-90%
  • CRP値の上昇:>90%
  • リウマトイド因子:50%
  • 循環血液中の免疫複合体:65-100%
  • 血清補体の減少:5-40%

(出典)ハリソン内科学 第5版, 2017

 

 心症状や心臓の所見以外にも多数あります。神経症状や抹消症状、点状出血まであります。他にも、心臓の聴診所見として「新規の、あるいは増悪する」逆流性心雑音という部分にも記述の良さを感じます。国試ではそこまで意識されているかは分かりませんが、52歳と高齢者でないのに心雑音もあるということは今回のIEに起因する心雑音であるということを言いたいのでしょうか。高齢者になると、これまで気がつかれていなくても、IEとは関係なく心雑音がある場合もあります。

 箇条書きで臨床症状や所見と頻度を挙げただけですので、経過に伴う推移や疾患としてのゲシュタルト(疾患らしい流れ・フレーム)はもっと読んで把握する必要があります。しかし、これだけでも心臓の弁の感染症なのに多彩な症状・所見が生じるということだけでも掴んでもらえれば幸いです。気になる方は、ハリソンセシルなどのしっかりとした内科学書を読んでみてください(日本語のいわゆる内科学書に関してはおススメできるものがあるかいまいち分かりません)。

 

 

 

3.IEの合併症 -脳出血の原因は!?-

 IEの合併症としての脳出血と考えることができたかという部分から学べることをチェックしていきたいと思います。頭部CTを見るまでは感染性心内膜炎(IE)を疑っていたものの、IEの臨床症状について心症状のみを考えていたり、IEの合併症に脳出血があることまで知らなくて選ぶことが難しかったという人もいると思います。ハリソン内科学では心症状と非心症状という括りで説明されていました。括り方によって非心症状と合併症は異なってくるのですが、心臓以外にも生じるという点に着目してもらえればと思います。

 IEの合併症についてチェックしていきます。疣贅がちぎれて飛ぶことで様々なところに塞栓症を生じうることは考えやすいと思いますが、塞栓をはじめ病態(大きな原因)ごとに挙げてみたいと思います。

 

感染性心内膜炎の合併症

(出典)Circulation. 1998 Dec;98(25):2936-48. doi: 10.1161/01.cir.98.25.2936.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 抵抗のある人は、ざーっと左側(うっ血性心不全、塞栓症、…)だけ眺めてもらっても大丈夫です。古いReview(総説)ですが、この分類による挙げ方が、IEの合併症病態で把握するために役立つと思って選びました。そのため、予後や治療、疫学的な変化等に注意が必要です。いずれにしても、塞栓症だけでなく、心不全、膿瘍、細菌性動脈瘤、凝固障害というような切り口の視点があるということが参考になります。

 例えば、目に見えやすい障害部位を優先して感染性心内膜炎の合併症には脳卒中、腎障害、…があるというのは正解です。一方で、脳卒中の原因として脳梗塞(塞栓症として)と脳出血(細菌性動脈瘤の破裂)があるとなると、疑問に感じたり、繋がらなかったりすると思って、この列挙の仕方をしている文献を選びました。

 

 今回の問題(117C67)脳出血の原因が分かりましたか。合併症脳出血がつながりましたか。今回の問題のカギは細菌性動脈瘤破裂による脳出血と考えられます。

 問題の頭部CTでは、中大脳動脈領域の脳溝を中心に高吸収域がありました。おそらく、頭蓋内細菌性動脈瘤(ICMA)の好発領域(中大脳動脈の領域)を意識したものだと考えられます。塞栓だけではなく細菌性動脈瘤もあるというメッセージとともに、示唆に富んでいる病歴やICMAとしてオーソドックスな臨床所見を提示することで学びにもなる点もあり、考え込まれた問題だと感じます。

 

 合併症の具体例を考えてみます。塞栓症であれば、動脈閉塞に伴う影響のある臓器領域(腎臓、脾臓、消化管、四肢)などと関連する症状、疼痛、虚血による機能障害を具体的に考えることになります。細菌性動脈瘤の場合は、動脈瘤による特定部位の圧迫、破裂・漏出などによる症状を考えることになります。

 合併症に関しても、これ以外の分け方による合併症の分類も気になるという方はガイドライン(日本語)をはじめ、目を通してみてください。


 

4.選択肢を選ぶ(IEのフォロー)

 IEとしてのフォローを選ぶことができたかという部分に焦点を当てていきます。感染性心内膜炎(IE)とそれによる脳出血と分かったところで、もう一度問題文を確認してみましょう。

 血液培養2セットを採取した後に集中治療室に入室し、抗菌薬投与を開始した。血液培養は2セットとも陽性となり、入室3日目にStaphylococcus aureusと同定された。

 この結果を受けて実施すべきなのはどれか。2つ選べ。

 出題者の優しさというのか、問題の明確化のために「この結果を受けて実施すべきなのはどれか」とあります。この段階で感染性心内膜炎を疑えていて、血液培養陽性であることへのフォローと考えれば、a(尿培養)や c(末梢神経伝導検査)ではないと考えることもできます。選択肢a(尿培養)を選ぶ理由として、菌血症の原因が腎盂腎炎を疑いたいという意見もあるとは思いますが、すでに血液培養陽性から菌血症の状態と分かっています。菌血症の時には尿から細菌が排出される(細菌尿となる)こともありますので、検査の解釈としても微妙でしょう。

 ここからはどこまで実臨床触れているか、知っているかという部分もあるでしょう。選択肢dの血中エンドトキシン測定不正解にすることができるかだと思います。

 日本循環器学会の『感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン 2017』を知っていれば、もちろん答えられるでしょう。雰囲気で選んだら正解という人もいるでしょう。

 

 しかし、ガイドライン以前に細菌学の知識でも解くことができます。エンドトキシングラム陰性桿菌細胞壁外膜を構成している菌体内毒素で、その検出を目的とした検査です。今回の起炎菌Staphylococcus aureus黄色ブドウ球菌ということでグラム陽性球菌となります。グラム陰性桿菌ではないので、そもそも厳しいということでしょう。ここにも、単なる知識だけの一問一答ではないような知恵が隠されています。

 

 よって、選択肢 b(心エコー検査)d(血液培養再採取による陰性化の確認)が正解となります。

 

 ちなみにガイドラインには次のように書かれています。

毎日の注意深い観察のもと,抗菌薬治療開始後 72 時間(48 ~ 72 時間)を目安に効果判定を行う.バイタルサインを基本に,発熱や呼吸困難,倦怠感,食欲不振などの自覚症状,身体所見(心雑音の変化,四肢の浮腫,塞栓症状など)に加え,検査データ,画像所見(心エコー図,胸部レントゲン写真,頭部や体部の CT/MRI など)に基づいて総合的に判断する.基本は血液培養の陰性化(血液培養陽性の場合)である.ただし,血液培養は陽性となるまで1~ 3 日程度を要する.Staphylococcus aureus による症例や,心不全など重篤な合併症があり病状が不安定な場合は,手術適応についての判断が早急に必要となる.

(出典)感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン, 日本循環器病学会, 2017

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2017_nakatani_h.pdf

 

 要するに今回の症例で言うと、次のように考えられます。

<治療効果判定>

  • 基本は血液培養陰性化(血液培養陽性の場合)である。

<手術適応の判定>

  • Staphylococcus aureus による症例や,心不全など重篤な合併症があり病状が不安定な場合 →まだ心エコー所見もないので確認

 

 突っ込みどころとしては、「IEや敗血症を疑っていて血液培養を取っているんだから、血液培養を取った後にすぐに心エコーはできなかったのか?」という疑問があります。しかし、問題文をみても一度も心エコーをしていないようなので、心エコーでしょう。さらに興味のある人は、経胸壁心エコー(TTE)か経食道エコー(TEE)というようなことまで深めてもよいでしょう。TEEの方が感度高くなります。興味のある方は調べてみてください。

 

 

 

5.このような国試に向けて

 ガイドラインまでは求められていないと思いますが、発熱+悪寒戦慄、感染性心内膜炎(IE臨床症状合併症学びになる部分の多い問題であると感じました。もちろん、そこまで必要ない/ただ解ければよいと感じる人もいるでしょう。

 近年の国試では、1対1対応のような問題(例:膠原病であれば抗体ありき)から、症状や身体所見、一般的な検査から診断を推定させて解くような問題が増えていると感じます。抗体などの丸暗記で診断が分かり、治療を選ぶというような知識と1対1対応ではない問題も出てきており、実臨床的な問題が増えてきているとも考えられます。そのような問題に対して、診断を考える過程やその疾患の経過なども含めた特徴といった臨床推論(診断推論)について学んでおくと、国試のみならずPCC-OSCEを含めてスムーズだと感じました。また、副次的にも診療科を縦切りの知識とすると横切りの知識も手に入ります。興味がある人は、初級だけでも大丈夫なので学んでみてください。

参考になったり、理解を深めたりするのにお役に立つ部分がござましたら、幸いです。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

【関連記事】

mk-med.hatenablog.com

 

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 途中でも発熱+意識障害や悪寒戦慄といったような病歴身体所見、さらには検査結果といったものから、原因となっている疾患は何であるかを絞っていく臨床推論というものがあります。PCC-OSCEで必要とされる内容(初級・初心者向け)からアドバンスな内容までありますが、興味がある方は初級だけでもチェックしてみてください。

 

 

 病気がみえるも見やすくて良いと思うのですが、しっかりとした教科書は記述が深く、疾患の経過も含めたフレームゲシュタルト)を作ったり、理解を深めたり実習卒後にも役立ちます。改訂をしばらくしていないので、改訂されるまで購入を控えるか/洋書にするかは悩みどころですが、内科学書として日本の疫学や日本にのみ多い疾患以外の記述はしっかりしているハリソン内科学などをお供にしてみてはいかがでしょうか。

 アマゾンの読者レビューや価格などが気になる方はチェックしてみてください。

低ホスファターゼ症②|検査所見、鑑別疾患 ~尿中PEAや血清ALPの感度・特異度まで深掘り~

低ホスファターゼ症②|検査所見、鑑別疾患

~尿中PEA血清ALP感度・特異度まで深掘り~

 

<目次>

【前編】低ホスファターゼ症①|臨床症状 ~意外な全身症状も!?~

 

 前回は低ホスファターゼ症(hypophosphatasia; HPP)の特徴や臨床症状についてのお話でした。意外にも感じられる特徴や臨床症状があるとも感じられた人もいたのではないでしょうか。

 続編として今回は、HPPの検査所見(検査値、検査異常)と鑑別疾患についてチェックしていきたいと思います。

 

 

3.低ホスファターゼ症の検査値

 低ホスファターゼ症(HPP)に気づくきっかけとなるような検査値もチェックしてみたいと思います。低ホスファターゼ症といえばALP活性低下が根底にあると想起する人もいると思いますが、血清ALP低値(低ALP血症)だけでなく、様々な検査値異常も見つかりました。

 まずは教科書レベル(ハリソン内科学)で確認してみます。

 

3-1. HPPの検査値(内科学書の概要)

 臨床的および放射線学的に、くる病様または骨軟化症が認められるにもかかわらず、臨床検査でALP値が低く、血清カルシウムおよびリンが正常値または高値となる。血清副甲状腺ホルモン(PTH)値、25-(OH)ビタミンD値、1,25-(OH)2ビタミンD値は正常である。

 PLPの上昇は本疾患に特異的であり、重症の患児の無症状の両親にも見られることがある。ビタミンB6はPLP値を上昇させるので、ビタミンB6のサプリメントは検査の1週間前に中止する必要がある。TNSALPをコードするALPL遺伝子内の機能喪失型変異を検出する臨床検査が可能である。

(出典)Harrison’s Principles of Internal Medicine 19th edition, 426e-5

 

 これまで、高カルシウム血症を前提に、PTH低値というようなこともつなげて考えていましたが、ハリソン内科学では少し異なった見解となっています。もちろん、血清カルシウム値が正常であれば、PTHはフィードバック的にも低値にはなりませんね。あくまで、臨床的もしくはX線写真の所見でくる病骨軟化症が疑われた経過の場合に血清カルシウム値が低値ではないと言いたいだけなのかもしれませんが、HPPにおける高カルシウム血症の頻度も気になるところです。

 ビタミンDはいずれも正常とのことです。一方で、PLPは特異的な検査ということで、先述のハリソン内科学での疾患の特徴や病態に関係する部分としても気になります。

 

 引き続き、検査値を深掘りしていきたいと思います。

 

 

3-2. 年齢別の臨床的特徴(検査値を含む)

 教科書より突っ込んで、Reviewも確認していきます。臨床症状もセットになっている表なので、前回の復習にもお使いください。

低ホスファターゼ症の臨床的特徴

  • TNSALP〔組織非特異的アルカリホスファターゼ(一般にアルカリホスファターゼまたはALP活性と呼ばれる)〕の酵素活性の低下は、HPPの重要なマーカーとなる。したがって、ALPの結果を年齢などの臨床的な文脈で解釈することが非常に重要である。
  • ALPは集中治療室や外傷・骨折の後などのストレス状態で上昇することがある。一方でALPの値が低いだけでは低ホスファターゼ症と診断することはできない。 

幼児期(late infancy)や小児期(childhood)

  • 高カルシウム血症、高リン血症、副甲状腺ホルモン(PTH)低値といった代謝異常は一般的だが、一過性のこともありうる。
  • 様々な症状から低リン酸血症であることが判明することがある。
  • X線写真では、骨塩量(骨密度)の低下、くる病と誤診される可能性のある骨幹部の膨隆、長管骨端、bowingを伴う骨やgracile骨の放射線透過領域を認める。

(出典)Curr Osteoporos Rep. 2016 Jun;14(3):95-105. doi: 10.1007/s11914-016-0309-0.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 ALP活性低下により、血清ALP低値となることが基本であるが、骨折を繰り返したりすることを考慮すれば、その際にはALPがその人・年齢のベースラインからは上昇することもあるということもピットフォールにあるかもしれませんね。ALP低値から気がつくことは比較的順当でも、ALPが低値でないときも臨床的な経過で総合的に判断して気がつく必要性が出てきますね。

 カルシウム血症、リン血症、カルシウム尿症、副甲状腺ホルモン(PTH)低値は先述の文献にも記載があり、目新しさはありません。一方で、ハリソン内科学とは少し異なる部分もあります。

 症状では小児期までの難聴(deafness)脳出血(intracranial hemorrhage)が先述の文献と比べて追加されています。さらに、筋緊張低下(hypotonia)、成人で疲労が加わったというような点はありますが、高カルシウム血症、筋力低下・パフォーマンス低下の延長でも理解できそうです。一方で、血清PLP高値尿中PEA高値は前述の文献の際には取り上げていない検査値です。特にピリドキサール-5’-リン酸(PLP)は神経障害に、無機ピロリン酸PPi)は腎臓や筋骨格系の石灰化といった病態生理にも関わっていることが分かっている物質です。

 

 骨のX線写真歯の早期喪失臨床写真もあるので、気になる方は出典をご覧ください。また、HPPには発症時期や症状から分けられる6つの臨床病型や診断基準などもあります。臨床病型では周産期重症型、周産期良性型、乳児型、小児型、成人型、歯限局型に分けられ、今回の文献から引用した部分の発症年齢による分類にも通ずるものがあります。興味のある方は是非調べてみてください。

 やはり、個人的にはReviewだけでは物足りなく感じます高カルシウム血症に関するハリソン内科学とReviewの記述の相違点も気になります。高カルシウム血症の頻度など、定量なものも探してみたくなります。

 

 

3-3. 高Ca血症などの検査異常の頻度

 ハリソン内科学では、高カルシウム血症(高Ca血症)ではなく、正常という描き方をされていました。一方で、先ほどの文献では高Ca血症との記載があります。考えられることとして、低ホスファターゼ症(HPP)が成人となるほど(発症が遅いほど)、重症度が低いために正常値に近くなることが多いということでしょうか。検査異常の頻度について調べてみたいと思います。

 

成人発症(成人型)ホスファターゼ症

<血液所見>

  • 血清ALP: 血清ALPの中央値は正常下限の43%
  • 高カルシウム血症: 13%
  • 高リン酸血症: 18%
  • 血清PLP: 中央値 68 μg/L (正常値 5–50 μg/L)であり、全員(n=8)で上昇を認めた
  • 尿中PEA: 15/16名(94%)で上昇

 

X線所見>

  • 軟骨石灰化症: 27%(女性のみ)
  • 痛風(CPPD): 12%(女性のみ)

(出典)Bone. 2013 May;54(1):21-7. doi: 10.1016/j.bone.2013.01.024.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 稀な疾患での母数は少ないことに留意は必要ですが、成人発症(成人型)低ホスファターゼ症における高カルシウム血症はわずか13%、高リン血症も18%ということで、正常の場合の方が多い結果となりました。高Ca血症よりは原因を絞りやすいと考えられる血清ALP低下X線所見をきっかけに低ホスファターゼ症や、くる病などを想起して、血清PLPや尿PEAといった検査値も診断の後押しになりそうです。もちろん、先述のハリソン内科学に記載のように低ホスファターゼ症らしければ、「TNSALPをコードするALPL遺伝子内の機能喪失型変異」をチェックするという方向性にもなるでしょう。

 このように、検査値異常頻度定量的に把握できてくると、血清PLP上昇や尿中PEA上昇は特異度が高そうな検査という印象を受けます。そこで、さらに検査特性について深掘りしてみたいと思います。

 

 

3-4.【深掘り】検査の感度・特異度

 先ほどの続きとして、血清PLP上昇尿中PEA上昇のような検査結果が低ホスファターゼ症の診断にどの程度寄与するのかというような視点で検査特性として、感度特異度を深掘りしてみたいと思います。

 

成人型低ホスファターゼ症における検査特性

<Method>

  • 後ろ向き研究
  • 低ホスファターゼ症(HPP)疑いで紹介された18歳以上の患者

<Result>

尿中PEA、血清ALP、血清PLPの結果(Fig.1)

尿中PEA、血清ALP、血清PLPのROC曲線(Fig.2)

  • 尿中PEA、血清ALP、血清PLPの曲線下面積(AUC)は、それぞれ0.968、0.927、0.781であった。
  • 尿中PEAは53.50 nmol/mgクレアチニン以上で100%の特異度(95%CI, 83.2%~100.0%)、88.4%(95%CI, 75.5~94.9%) の感度でHPPと診断された。
  • 血清ALPは30.5 U/L未満で100%の特異度(95%CI 82.4%~100.0%)、77.2 %の感度(95%CI 64.8~86.2 %)でHPPと診断された。
  • 血清PLPは、436 nmol/L以上で特異度100 %(95 % CI 81.6 %~100.0 %)、感度26.9 %(95 % CI 16.8~40.3 %)でHPPと診断された。

(出典)Bone. 2022 Oct;163:116504. doi: 10.1016/j.bone.2022.116504.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 今回の低ホスファターゼ症疑いで紹介された患者さんの研究です。母数は少ないですが、事前確率が比較的高い研究です。HPPと診断された人(n=59)とHPPとは診断されなかった人(n=19)の患者特性もよければ、出典をチェックしてみてください。

 尿中PEA上昇に関して、カットオフ値を53.50 nmol/mgとしなくても40 nmol/mgあたりでも、特異度がそれなりに高く(約90%)であるにもかかわらず、感度がとても高く100%に近く、AUCの面積も0.968であり、1に近く感度・特異度ともに高く、優秀です。もちろん、検査の陽性的中率を上げるために事前確率も大切ですが、二次スクリーニングのように使いやすいことも汲み取れます。

 血清ALP低下に関して、尿中PEAとほどではないにしてもAUCの面積も0.927であり、それなりに1に近く、意外に優秀でした。血清ALP低下に関しては、HPP以外にも様々な原因があります。そもそも、ALPは身近な検査なので、HPP疑いかどうかに関わらず検査値をチェックすれば、陽性的中率も低くなります。それこそHPP疑いとして事前確率高い集団で考える必要があります。

 血清PLP上昇は想像していたよりも、AUCが0.5に近く、いまひとつな印象をうける検査でした。もちろん、いずれも母数が少ない研究から導かれた感度・特異度であるため、95%信頼区間のような幅を持った解釈も必要でしょう。

 

 この研究結果でも登場した尿中PEA血清PLP血清ALP病態生理にも関わっている物質です。長くなることが予想されるため、病態生理についても続編で深掘りしてみたいと思います。

 今回は、ここまで臨床症状や検査異常について調べてきたため、これを読んだことでHPPを想起することが増えると考えています。そのバイアスへの対策のためも含めて、HPPの鑑別疾患もチェックしておきたいと思います。




4.低ホスファターゼ症の鑑別疾患

 これまで、臨床症状や検査異常について調べてきました。ここまでくると学習バイアスのようなものが働いて、低ホスファターゼ症(HPP)真っ先に想起する場面が出てくると思います。くる病をはじめ、似たような表現となる疾患もあります。そこで、HPPの鑑別疾患Pivot and cluster)をチェックしてみたいと思います。

 

低ホスファターゼ症の鑑別疾患(年齢別)

(出典)Curr Osteoporos Rep. 2016 Jun;14(3):95-105. doi: 10.1007/s11914-016-0309-0.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 この分野に馴染みもないもので訳が合っているのかすら、少し不安です。多くの鑑別疾患骨格系(骨・軟骨)に何らかの異常を来す疾患です。Reviewの表からですが、年齢や状況の区分も本当はグラデーションのようであると思います。くる病骨形成不全症軟骨石灰化症のような想起しやすいものから、屈曲肢異形成症、Caffey病、後弯曲肢異形成、タナトフォリック骨異形成症、Forestier病のような疾患名を想起しにくものもあります。疾患名はさておき、骨格系(骨・軟骨)の形成不全石灰化異形成をきたすというような疾患を鑑別に挙げるというような視点には立ちやすいと感じます。

 一方で、白血病慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)といった疾患が骨格系以外からの想起ということでpitfallにならないように意識したいと感じました。大腿部痛のような骨痛を起源とするような疼痛の場合にも忘れないようにしたいものです。他にも鑑別疾患が、変形性関節症(OA)+偽痛風というコモンなものの組合せや、骨減少症/骨粗鬆症といった視点も、HPPに気がつくきっかけにもなりうる側面と事前確率への配慮も必要そうです。

 

 ここでの鑑別でも、これまでの様々な症状や検査値が役立ってきます。

 

 


5.低ホスファターゼ症の診断

 臨床症状や検査所見について取り上げ、鑑別疾患も挙げたところで診断についても確認しておきたいと思います。

 HPP は、血清ALP活性値が年齢別の正常値と比較して低下していることに加え、臨床症状および骨X線所見から診断可能である。確定診断のためにはTNSALPをコードするALPL遺伝子の解析が有用である。

(出典)低ホスファターゼ症診療ガイドライン, 2019年1月11日版

minds.jcqhc.or.jp

 

 正直なところ、ガイドラインといってもメジャーな疾患のガイドラインを想像して開くと、レポートのようなものに感じるかもしれません。あくまでClinical Question(CQを除いて、上記の診断に関する記載はもちろんのこと、一般的な疾患の特徴、臨床症状、検査所見に関してもハリソン内科学レベルの記載でした。そのため、今回深掘りしたという経緯もあります。

 ALP酵素補充療法をはじめとする治療や管理、予後に関するような記載が、CQも含めて多くあります。気になる方はガイドラインをチェックしてみてください。

 

 

 

6.低ホスファターゼ症の病態生理

 続編としてALP活性低下から石灰化障害や神経障害等が生じる病態生理について、先程キーワードとして出てきたPEAやPLP、それ以外にもPPiといったものも含めて深掘りしていきたいと思います。私自身の都合で完成まで時間がかかってしまうこともあり、いったんここまでで分割とさせていただきます。

 完成まで今しばらくお待ちください。

 *続編のリンク掲載予定

 

 

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

【関連記事】

前編(低ホスファターゼ症の特徴、臨床症状)

mk-med.hatenablog.com

健診で「肝機能障害?」と言われたら②|肝硬変とAST/ALT比の深堀り

健診「肝機能障害?」と言われたら

肝硬変AST/ALT比深掘りを中心に~

 

<目次>

1.肝逸脱酵素上昇=肝機能障害とは限らない(前回)

2.肝臓の働き・機能(前回)

3.肝機能検査を深堀り(前回)

4.肝細胞パターン(AST・ALT)の深掘り(前回

→【前回】健診で「肝機能障害?」と言われたら①|肝逸脱酵素上昇から深掘りへ

 

 

5.肝硬変(線維化)とAST/ALT比

 前回、肝機能検査の深堀りをして、慢性肝炎であればALT優位であり、肝硬変となるとAST優位となるという辺りの内容でした。肝硬変について調べてまとまりがつかなくなり、肝硬変とAST/ALT比という部分のみ別に改めてとなりました。

 詳しく調べてみたところ、AST/ALT比(the De Ritis ratio)肝臓の線維化には正の相関関係があるとする下記のような文献は見つかりました。

 

***

B型肝炎ウイルス(HBV)患者>

 B型肝炎ウイルス患者において、血小板数は線維化ステージと有意な負の相関を示し(r=-0.343、p=0.000)、AST/ALT比は線維化ステージと弱いながらも有意な正の相関を示した(r=0.137、p=0.013)。AST/ALT比≧1,血小板数<15万/mm3の重度の線維化または肝硬変(ステージ3および4)の患者は、陽性適中率が66.7%、感度14.6%、特異度97.5%、陰性的中率77.0%であった.

(出典)Korean J Gastroenterol. 2004 Apr;43(4):246-51.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

<非アルコール性脂肪性肝炎(NAFLD)患者>

 Kendall相関とSpearman相関の両方を用いて、血清ALTと肝臓の線維化スコアの間に有意な正の相関が観察された(Kendall correlations: r=0.202, P=0.004, Spearman correlations: r=0.284, P=0.005)。

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5018361/bin/hepatmon-16-07-38346-i001.jpg

  • 肝臓の線維化スコアとAST/ALT比の相関性を認めた(r=0.23, P=0.022)。

 

  • 肝臓の線維化スコアとFIB-4の相関性を認めた(r=0.5, P>0.001)。
  • 肝臓の線維化スコアとAPRIの相関性を認めた(r=0.51, P>0.001)。

(出典)Hepat Mon. 2016 Jul 3;16(7):e38346. doi: 10.5812/hepatmon.38346. eCollection 2016 Jul.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

C型肝炎ウイルスHCV)患者>

 AST/ALT比は組織学的な肝線維化ステージとともに有意に上昇し、Metavir fibrosis stageとAST/ALT比には有意な正の相関が認められた(r=0.129, P<0.0035)。一方で、ROC曲線解析の結果、AST/ALT比は有意な線維化(F≧2)(AUROC=0.531)を区別できず、重度の線維化(F≧3)(AUROC=0.584)や肝硬変(F4)(AUROC=0.626)では非常に低い診断精度であった。

(出典)Clin Res Hepatol Gastroenterol. 2013 Nov;37(5):467-72.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

***

 ここまで見てみると、AST/ALT比と線維化においてHBV患者での報告ではr=0.13であり、ほとんど相関なしでした。NAFLD患者の報告では、r=0.23からは低い正の相関程度でした。

 肝組織の線維化が進む(慢性肝炎から肝硬変になる)につれてAST/ALT比上昇する傾向はありそうなものの、そこまで診断には役立たないという程度の解釈になりそうです。肝硬変の原因の違いによる影響はあるのか、そもそもAST/ALT比はそれほど役立たないのか迷う限りです。

 調べている間にみつけた血小板数は低い負の相関関係にあり、それを組み込んだFIB-4APRI(AST to Platelet Ratio Index)というスコアの方が相関関係が強いようです。

 FIB-4は分母に√ALTと血小板数の積、分子にASTと年齢の積を用いた指標です。APRIはAST to platelet ratio indexという名前の通りですが、分母に血小板数、分子にASTを用いた指標になります。ASTやALT、血小板数をはじめ、線維化の指標の元となる検査値というところでしょうか。

 

 肝臓の線維化に何をどの程度参考にすればよいのか迷います。文献の妥当性の問題もあります。2次文献も参考にしたいものです。UpToDateを調べてみました。

 

 血清学的な肝線維化のマーカーは大きく間接的マーカーと直接的マーカーに分けられる。

<間接的マーカー>

 肝機能を反映するが、細胞外マトリックス代謝を直接反映するものではない。

 個々のマーカーには、血清AST値、血小板数、凝固因子、γ-GT(GGT)、総ビリルビン、α-2-マクログロブリン、α-2-グロブリン(ハプトグロビン)などが含まれる。これらの個々のマーカーは、肝線維化の有無を予測する指標に組み合わされている。

  • APRI
  • FibroTest, FibroSure, ActiTest
  • Hepascore
  • AST/ALT比:AST/ALT比>1であれば肝硬変の存在を示唆するとするいくつかの研究がある。しかし、研究結果は一貫しておらず、肝硬変の診断におけるAST/ALT比の臨床的有用性は依然として不明である。
  • その他

 

<直接的マーカー>

細胞外マトリックスのターンオーバーを反映する。

例:プロコラーゲンI型・III型、ヒアルロン酸、メタロプロテアーゼ組織インヒビターなど

 

(出典)UpToDate > Noninvasive assessment of hepatic fibrosis: Overview of serologic and radiographic tests, last updated: Nov 01, 2021

 

 UpToDateをみれば、さらに詳しく書いてあります。今回のAST/ALT比の深堀りとしては、肝硬変の際にAST/ALT比が上がることもあるという程度の落としどころとなりそうです。他のAPRIの方が有効そうです。

 

 少し病理組織学的なところに戻ります。肝硬変(肝臓の線維化)の進行としては、グリソン鞘あたりから線維化が始まり、グリソン鞘間が線維化にてつながり、偽小葉を作っていくと覚えています。そこからすると、「グリソン鞘側の病変がALT優位」(慢性肝炎の時ほどALT優位であり線維化が中心静脈の方まで進むとAST優位へ)という覚えるためのこじ付けとして使えそうです。

 

 今回のように病態生理等の基礎医学的な部分にまで目を向けることでASTやALTをはじめとする肝機能検査が理解結びつけしやすくなると感じました。(受験勉強・医学部暗記試験の弊害なのか、パターン認識でこなして、今回のような部分は周りに求められていないかもしれませんが…)

 

 肝機能検査のあとは、肝臓が原因となれば、肝臓の原因(鑑別疾患)を挙げて考えて行くことになると思います。私自身は上田剛士先生にセミナーで教えていただいた慢性肝障害の鑑別疾患「ABCDEFGHIJ(想起順にBCDEFGHAIJ)」という頭文字から鑑別を挙げていくという方法(ネモニクス)が好きですが、それぞれ何か想起しやすいものを見つけると良いと思います。

 

 

6.ASTとALTが著増(> 1,000 U/L)する原因

 ネモニクスつながりで、AST、ALTが著増し、検査値が4桁(> 1,000 U/L)となる原因のネモニクスがあります。それで今回のテーマは終わりにしたいと思います。

  “Tainted Mushrooms Can Cause Bad Hepatitis, So Watch Out!”というネモニクスです。私にはちょっと覚えにくいので、むしろウイルス性肝炎、中毒・薬剤、虚血性から想起することになりそうですが、もしよろしければどうぞ。

f:id:mk-med:20220111003241j:plain

 

 

 

P.S. 何でもありのAST/ALT比

 AST/ALT比に関して、肝臓関連でも様々な文献がありましたが、もはや何でもありな感じですね。PubMedで検索したところ、AST/ALT比が前立腺がん罹患率の予測因子となるという示唆や、COVID-19における肝逸脱酵素と死亡率、AST/ALT比と慢性心不全の重症度など様々な文献が見つかりました。

 

“AST/ALT ratio as a significant predictor of the incidence risk of prostate cancer”

Cancer Med. 2020 Aug;9(15):5672-5677. doi: 10.1002/cam4.3086. Epub 2020 Jun 20.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32562455/

 

“The AST/ALT (De Ritis) Ratio Predicts Survival in Patients with Oral and Oropharyngeal Cancer”

Diagnostics (Basel). 2020 Nov 19;10(11):973. doi: 10.3390/diagnostics10110973.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33228184/

 

“The De Ritis ratio as prognostic biomarker of in-hospital mortality in COVID-19 patients”

Eur J Clin Invest. 2021 Jan;51(1):e13427. doi: 10.1111/eci.13427. Epub 2020 Oct 25.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33043447/

 

“AST/ALT ratio predicts the functional severity of chronic heart failure with reduced left ventricular ejection fraction”

BMC Res Notes. 2020 Mar 24;13(1):178. doi: 10.1186/s13104-020-05031-3.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32209113/



 インパクトファクターも低そうなところで、これこそ、どの文献が一般的に使えそうなのかというところで迷いました。UpToDateのような二次文献やしっかりした教科書では、文献等の妥当性の判断も入っているという意味で役立ちそうです。有料文献にアクセスできない場合は、無料のReview Articleを探してみるのも良いでしょう。

 

<肝機能検査のReview Articleの一例>

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK482489/#article-20995.s2

 

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

【関連記事】

 前回の記事(健診で「肝機能異常?」と言われたら①)では一般的なことを中心に扱いました。よろしければ、こちらも合わせてご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

低ホスファターゼ症①|臨床症状 ~意外な全身症状も!?~

低ホスファターゼ症①|臨床症状 意外な全身症状も!?

~臨床症状から検査値、ALP活性低下による病態生理まで~

 

<目次>

 

 ALP低値から低ホスファターゼ症という症例の話がありました。低ホスファターゼ症と言えば、血清ALP低下・血清リン濃度低下(低リン血症)だけでなく、ALP活性低下による骨の脆弱性やそれに伴う障害を想起するになると思います。一方で、骨以外にも神経症状や腎障害なども引き起こします。

 ガイドラインを確認しても、あくまでClinical Question(CQ)を除いて、一般的な疾患の特徴、臨床症状、検査所見に関しては簡単な教科書(ハリソン内科学)レベルの記載のため、深掘りしてみようと感じました。今回は、その低ホスファターゼ症による全身症状や臓器障害と検査結果までと、ALP活性低下における病態生理について3回に分けて深掘りしてみようと思います。



1.低ホスファターゼ症の概要

 成人における低ホスファターゼ症(成人型)が今回のテーマのきっかけでしたが、低ホスファターゼ症(hypophosphatasia; HPP)全般について取り上げてみたいと思います。小児科でくる病をきっかけに学んだ人もいると思います。HPPは、小児だけでなく、周産期型から成人型まであるため、全体像からチェックします。

 低ホスファターゼ症の症状特徴となりうるものについて何があるのかを、ざっくり小児から成人まで調べてみます。

 

 低ホスファターゼ症は、乳幼児ではくる病、成人では骨軟化症を呈し、血清中のALP値が逆説的に低くなる稀な遺伝性疾患である。カナダでは、メノナイトやヒュッターに多く、新生児期および小児期の重症型は10万人に1人の割合で発症する。本疾患の重症度は非常に様々であり、極端には骨の石灰化障害を伴う子宮内死亡から、成人で早期の歯牙喪失のみが認められる場合まである。重症例は常染色体劣性遺伝であるが、軽症例では遺伝様式はあまり明らかでない。この病気は、遺伝子のパターンによって引き起こされるが、軽症例ではあまり明確ではない。本疾患は、組織非特異的ALP(TNSALP)の欠損によって引き起こされ、このALPはどこにでも存在するものの、骨の異常のみをもたらす。他のALPアイソザイム(生殖細胞、腸管、胎盤)の蛋白質レベルや機能は正常である。ALPが欠損すると、ホスホエタノールアミン(PEA)、無機ピロリン酸PPi)、ピリドキサール-5’-リン酸(PLP)が蓄積するようになる。

 

  • 周産期低ホスファターゼ症は妊娠中に発症し、しばしば羊水過多や子宮内死亡を合併する。致死率は約50%である。

     

  • 乳児型は生後6ヵ月までに臨床的に明らかになり、成長不良、頭蓋泉門の乖離、頭蓋早期癒合症、頭蓋内圧上昇、肺炎の誘因となるフレイルチェストを呈する。高カルシウム血症および高カルシウム尿症がよくみられる。

     

  • 小児型低ホスファターゼ症は臨床症状が多彩である。乳歯の早期喪失(5歳以下)が特徴的である。くる病類似の、よちよち歩きを伴う歩行遅延、低身長、前額部の突出を伴うdolichocephalic skullを呈する。思春期には改善することが多いが、成人してから再発することもある。

     

  • 成人型低ホスファターゼ症は、中年期に疼痛を伴う中足骨のストレス骨折や大腿骨偽骨折による大腿部痛を呈する。

(出典)Harrison’s Principles of Internal Medicine 19th edition, 426e-5 

 

 あくまでも特徴程度ですが、ハリソン内科学にも書かれていました。乳児型の成長不良や頭蓋縫合早期症、小児型の乳歯の早期喪失、よちよち歩き(歩行遅延)や低身長のイメージが強いかもしれません。

 今回のきっかけとなった成人型にも注目してみたいと思います。まずは、骨の脆弱性として中足骨のストレス骨折大腿骨偽骨折による大腿部痛という稀な疾患・病態の特徴的なものだけでもチェックできて嬉しく感じます。

 骨の脆弱性に注目すれば、ステロイドといった医原性も含めた骨粗鬆症だけでなく、小児科疾患の成人例という気づきのきっかけのひとつにでもなればと思います。



 

2.低ホスファターゼ症の臨床症状

 先ほどの全体像(特徴・症状)を掴みつつ、臨床症状を深掘りしていきたいと思います。

2-1. 全般 -HPPの臨床症状-

 さきほどのハリソン内科学程度では特に驚いたり、病態生理を調べてみようと感じるほど、不思議に感じる症状や臓器障害がない人が多いと思います。そこで、低ホスファターゼ症(HPP)症状臓器障害にどのようなものがあるのか、網羅的に調べてみたいと思います。

 

低ホスファターゼ症の臨床症状

(出典)Clin Cases Miner Bone Metab. 2017 May-Aug;14(2):230-234. doi: 10.11138/ccmbm/2017.14.1.230. 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 まずは低ホスファターゼ症臨床症状です。出典に忠実に作りましたが、高カルシウム尿症のあたりは症状ではないですが、そこから類推してくださいということでしょうか。高カルシウム血症もあるはずですが、高リン血症は記載があって、とりあえず全般的にでしょうか。

 神経症がなぜ生じるのかと一瞬つながらないような印象も受けましたが、発作(seizure)の補足部分に頭蓋縫合早期癒合症に関連する症状として、頭蓋内圧亢進を介して生じるという事で納得しやすく感じました。詳しくは病態生理編で調べたいと思います。

 骨格系くる病様は出典では「くる病」(rickets)と記載されており、くる病のような症状と捉えればよいでしょう。くる病や病的な骨折は石灰化障害によって生じることを想起することはしやすいでしょう。筋力低下高カルシウム血症で説明がつきます。

 関節(筋腱付着部症や軟骨石灰化)における異所性石灰化といっても、ピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶沈着症に関連するものと考えれば納得でしょう。痛風ももちろんCPPD結晶沈着によるものです。CPPD結晶沈着にも当てはまる無機ピロリン酸PPi)による病態生理について詳しく調べたいと考えています。

 腎臓の項目のこれらがclinical manifestationsなのかは微妙ですが、紹介状での検査異常のようなものまで含めれば、まあ良いでしょう(文献中ではclinical manifestationに入っています)高リン血症(高P血症)高カルシウム血症による副腎皮質ホルモン(PTH)の低下で繋げることができます。腎石灰化も高カルシウム尿症やCPPD結晶沈着による結石で説明できそうです。

 歯科領域においても、乳歯早期喪失永久歯早期喪失も骨と同じく想像しやすいでしょう。



2-2. 発症年齢別 -HPPの臨床症状-

 さきほどの臨床症状では、年齢による区別がなく全般的な話であると感じました。同じ文献に発症年齢ごとの特徴もありましたので、チェックしてみたいと思います。

 

低ホスファターゼ症の発症年齢ごとの臨床症状

<成人>

  • 成人型低ホスファターゼ症(HPP)の症状は多彩であり、典型的には中年以降に診断される。典型的には骨治癒の遅延や不完全な骨治癒を伴う骨粗鬆症によって繰り返すストレス骨折を原因とする疼痛が初発症状である。
  • さらにHPPが進行すると、大腿骨の偽骨折が生じることもあり(might)、治癒に乏しく大腿部に激しい自発痛や圧痛を生じる。他にも骨折を伴わない骨痛、ミオパチーに関連する筋力や筋機能の低下、慢性の筋痛を訴えることもある(may)。
  • 四肢の疼痛もHPPの徴候となりうる。
  • ピロリン酸PPi)カルシウム2水和物の沈着による軟骨石灰化症、靭帯の異所性石灰化や偽痛風発作が生じることもある。高リン血症や高カルシウム尿症も同様に生じうる(may)。

(出典)Clin Cases Miner Bone Metab. 2017 May-Aug;14(2):230-234. doi: 10.11138/ccmbm/2017.14.1.230.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 2-1の低ホスファターゼ症(HPP)における臨床症状が発症年齢ごとになり、稀な疾患に気がつくヒントとなりやすくなりました。くる病様という部分は、出典では「くる病」(rickets)と記載されていましたが、先程と同じく、くる病のような症状と捉えればよいでしょう。また、重症度も早期(周産期)に発症するほうが高い傾向にあります。重症度が低いため、成人発症として小児科以外でも、特に青年や成人例では、筋・骨格系の問題として整形外科や、場合によっては脱力のような主訴で神経内科のようなところでもお目にかかるかもしれません。

 スライドはあくまで発症年齢別の主な臨床症状ということでした。症状として出現しにくい腎臓関連(高カルシウム尿症、腎石灰化など)は見つかっていないだけであったり、健診他の検査の際に高カルシウム血症・尿症といった検査値異常や腎石灰化・腎結石などの画像所見は見つかることもあると考えています。そして、早期発症ほど重症度が高いとも考えれば、発症年齢ごとでみられやすい臨床症状が異なってくることも理解できます。

 

 

2-3. 成人の場合の深掘り -HPPの臨床症状-

 興味を持ったきっかけや成人症例での見逃しを防ぐことを含め、小児疾患の成人発症(成人型HPP)について深掘りしようと思います。成人の場合の症状等の定量な数値からのヒントも見つかりました。

 

成人発症(成人型)HPPの臨床症状

  • 対象: 診断時18歳以上の22名(女性68%)
  • 診断時年齢: 中央値49歳

臨床症状等(診断時)

  • 症候性患者: 68%
  • 筋骨格系の疼痛: 41%
  • 新規骨折(incident fracture): 18%
  • 骨折の既往: 54%〔股関節/大腿骨頚部: 23%、足: 23%(女性のみ)、手首: 18%、脊椎: 9%(男性のみ)、多発骨折: 9%〕

(出典)Bone. 2013 May;54(1):21-7. doi: 10.1016/j.bone.2013.01.024.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 成人発症低ホスファターゼ症(成人型HPP)の場合の臨床症状になります。続編で、検査値(高カルシウム血症)について定量的な表現のある文献を探していた際に運よく見つけたものです。

 1976~2008年にMayo ClinicでHPPと診断された症例のカルテ等の記録を調べたものになります。もともと稀な疾患でもあり、母数が少ないことが難点だとは思いますが、成人発症症例での参考になると思います。

 症状を有する患者(症候性)68%ということで、画像所見を含めた検査異常で見つかることもあるということを示唆しています。臨床症状としては、筋骨格系疼痛骨折でしょう。診断時の年齢の中央値が49歳であることを考えると、骨粗鬆症にしては相対的に若い年齢で骨折しているというのもヒントでしょう。

 

 他にも、成人発症(成人型)ではなく成人患者の臨床症状もありました(先にこちらを見つけていたのでそのまま紹介します)。

 

低ホスファターゼ症の成人患者125名(45±14.3歳)の調査

  • 小児期発症: 86%

臨床的特徴

  • 疼痛: 患者の95%(骨: 82%、関節: 73%、筋: 53%)
  • 筋力低下: 62%
  • 歩行異常: 52%

過去の骨折回数

  • 少なくとも1回以上: 患者の85%
  • 6-10回: 22%
  • 11回以上: 26%

その他

  • 整形外科または歯科の外科的処置の既往: 74%

(出典)Metabolism. 2016 Oct;65(10):1522-30. doi: 10.1016/j.metabol.2016.07.006.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 あくまで質問形式の調査であり、成人型(成人発症)ではなく、HPPの成人患者であるという点は、成人発症のHPPを考える際には注意が必要だと思います。それでも、疼痛(特に骨痛)骨折の既往が多いと考えられます。また、先ほどの成人発症症例(成人HPP)と比べて、疼痛などの症状や骨折の既往などの割合が高いことを考えれば、成人よりも前に発症するほうが見つかりやすい、症状が出やすい・重症度が高いというようなことが考えられると思います。定量的な指標として想像しやすくするひとつとして取り上げさせてもらいました。

 

 

 発症年齢別の臨床症状(2-2)をチェックすると、歩行異常であればまだしも、骨痛からの圧痛、筋力低下からのMMT程度では、身体診察で訴えを客観視はできても、特異性の乏しい面もありそうです。成人例の話ではスルーされがちなALP低値案外キーワードでした。他にも気がつくきっかけや組合せとして検査値にも着目してみたいと思います。




3.低ホスファターゼ症の検査値

 続編では、低ホスファターゼ症(HPP)検査結果について取り上げていきたいと思います。続編、お待たせ致しました。よろしければ、下記リンクよりお進みください。

mk-med.hatenablog.com

 

 低ホスファターゼ症について調べ始めたところ、どんどんと書くことが増えて書き終えることができずに更新が滞ってしまいました。1回はおろか、途中で2回に分ける予定をしていた際の区切りである検査値までも触れる前に分割することになりました。申し訳ございませんが、気長に待っていただければ幸いです。

 

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 ハリソン内科学にも疾患概念のゲシュタルトを簡単につくる程度の記載があったことに驚きました(e-chapter)。やはり、しっかりとした教科書は恐るべしだと感じました。

 

投資信託の選び方 -つみたてNISA編-|医師に向けた視点とともに(新NISA対応)

投資信託の選び方 -つみたてNISA編-(新NISA対応)

~医師に向けた視点とともに~

 

<目次>



 今回は、つみたてNISA(新NISAつみたて枠を含むにおける投資信託の選び方についての友人・知人からの質問や相談等をもとにした記事です。

 10月、11月頃に新しいNISA制度(新NISA)に関するニュースも増えたことでつみたてNISAの知名度が上がり、マジョリティ(追随層)の人ぐらいが検討に至ったのか、「新年こそは!」ということで2023年からは始めてみようと思ったのか、何件もの相談を受けました。職場では相談・話題にしずらい内容と感じる人もいそうで、「職場の人には聞けないけど、ネットならこっそり見れる」という人もいるかもしれないと感じました。そもそもこのような記事をアップするのか悩みましたが、そのような人にもこの記事がお役に立てば幸いです。

 相談とは言っても「端的に何を買ったらいいですか?」というような質問に答える気はありません。投資なので自分自身情報を取捨選択して、自分自身の考えに基づいて判断してほしいと思います。それだけでは寂しいと思うので、「投資信託の選び方 -つみたてNISA編-」として個別で選び方の具体的なチェック項目やスクリーニング項目のようなものを提示して説明した際のその入り口部分、すなわち考える土台となる部分を中心に、医者として働き方ライフスタイルへの考慮も添えながら、ブログにしてみたいと思います。老後いくら必要かというような前提条件も忘れずにお考え下さい。

 このような内容は既に知っているというような人も一定数いるような拙い内容ではありますが、新年に向けて考えている人をはじめ、一部でも参考になれば幸いです。

 

 

1. 投資信託の選び方-つみたてNISA編 の全貌

 まずは、今回の元ネタとなった投資信託の選び方 -つみたてNISA編-」目次です。このうち、最初の「大切なことの確認」に当たる部分を中心に扱います。

 この目次における「大切なことの確認」が、自分自身の投資におけるつみたてNISA位置づけ判断のもとになる考えを作る際のヒントになると思います。これは私自身の初心者向けへのひとつの考えであり、様々な投資スタイルがありますので、そのひとつとしてお考えください。

 また、目次のうち、文字化するのが大変な部分は省略させていただき、誤解をされる可能性の低い部分のみのブログ公開とさせていただきます。




2. つみたてNISAとは?

 「つみたてNISA」について「株のこと?税金かからないの?」という程度の認識で、何も詳しくは知らず、雑誌やニュースで目にするから、耳にするからという程度の人も多いと思います。詳しいことは金融庁のホームページ等を見ていただくとして簡単には次のようなものです。

 つみたてNISA対象である投資信託を買った場合に、その運用益に対する税金タダになるという非課税制度です。投資信託とは、多くの人から集めたお金を様々なものに投資して、その運用で得られた利益をと投資家に還元するもので、元本保証のない金融商品のため損をすることもあります。

 年40万円×20年分の非課税枠があり、各枠がそれぞれ20年間続きます。言葉で書くとイメージしにくい人もいると思います。NISAの制度から金融庁のホームページ等で分かりやすく説明されています。ゼロから始めてみようと思う方は「一般NISA」にするか、「つみたてNISA」にするかも含めて、必ずチェックしてみてください。2024年1月以降の新NISAでは、つみたて枠と成長投資枠(現在の一般NISAのようなもの)の併用が可能になる模様です。

 つみたてNISAについての本の多くは、具体的な投資信託を選ぶ際のチェック項目や指標ではなく、NISAの制度紹介することやその周辺知識を紹介することに重きを置いているような本が多く感じるので、それだけであれば、まずは金融庁のホームぺージおすすめです。

 

 そして、つみたてNISAの対象となる投資信託216本あります(2022年12月1日現在)。そこからどの投資信託を買うのか(積立していくのか)という話になります。

 新NISAとして制度の変更・拡大の話がありますが、積立の年数が20年から無制限になっても、年間投資額上限が40万円から120万円になっても、根本的な考え方は、現在のつみたてNISAと同じです。そのつみたてNISAに対して私自身の求める根本的な考えを確認していきたいと思います。




3. つみたてNISAに求めるものは?

 あなた自身がつみたてNISA求めるものを考えてみましょう。資産の中でどのような役割を求めていますか。資産といっても貯金のようなものから、株式、さらにはビットコインのようなものまでたくさんあります。意識したことはないかもしれませんが、それぞれの役割で合致するものも異なってきます。

 つみたてNISAは、将来(少なくとも10年以上)に向けて安定してじっくり育てていく資産のひとつという位置づけが合っていると考えています。そういう視点から20-30年後老後の資産形成というようなことにも比較的適しているでしょう。

 1年で数倍にすることを求める資産であれば、もっと変動幅の大きな損も得もしやすい(ボラティリティが高い)ものを買うべきでしょう。それに伴うリスクや戦略なども必要になってきますが、個別株を狙うというのも選択肢でしょう。そうなってくると、NISAでも、つみたてNISAではなく、一般NISAの方でNISA制度を活用した方が良いということも考える必要があります。

 さらには100円を1億円というような夢物語のような投資とも異なります。また、信用取引やリバレッジ(梃の原理)をかけてリスクも高めて一攫千金とも異なり、つみたてNISA地味な投資となります。

 また、すぐに使う貯金の代わりにつみたてNISAというような位置づけとも少し異なります。どうしてもスグに売却して使わないといけないような状況では、そのときにリーマンショックのような不況であれば、確実に損をしてしまいます。不況の間ぐらいは売らなくてもいいぐらいの余裕も必要です。

 

補足: 医師の働き方を加味すると?

 あなた自身の資産構成全体収入の安定性も加味して、投資のスタイルとその一部としてのつみたてNISAの位置づけを決めてください。ここで医師(基本的には臨床医を推定)として働く場合の具体的な話をしたいと思います。

 当たり前ですが、明日の食費に困っているほどの人にはおすすめできません。このブログの読者的には医師医学生の方が多いはずです。医師として安定した収入があり、年40万円ぐらいを20年間、手をつけなくても良いお金を用意することができる人が多いのではないかと思います。もちろん、「初期研修医で手取りが20万円を切っていて生活費がカツカツ」、「まだ大学医局の専攻医でバイト先も微妙で…」、「毎月お金を散財しにいく配偶者がいる…」、「東京で1000万円ちょっとでそこそこの生活では…」など、その家庭ごとの事情もあると思います。

 さらに、その人の資産構成配分(ポートフォリオ)次第で、貯金100%(まさか?)というような人から、貯金(投資信託より安定した資産)+個別株(投資信託より不安定な資産)だけというような人など、様々な方針による部分もあるでしょう。

 安定性以外にも、投資信託では、個別株のような個別の企業分析、さらには決算書の確認というような購入後のフォローというような手間は比較少なくて済む反面、面白みがないなど様々でしょう。

 例えば、急性期病院で働き、経済等にそこまで興味のない医師の多くは、企業分析(ファンダメンタルズ)や経済の流れなどを追うことを考えると、個別株を買うこと手間になってきて、塩漬け(現在の価格が買い値よりも下がり、売ると損が出る状態であるために、やむをえず長期保有している状態)のリスクにもなると思います。そういう意味でも、過去にDr.Kの株式投資の本を読んだ際と同じく、「NISAについて詳しく知らない程度の人にとって、まずは投資信託からで良い」と個人的には考えています。

 

 さらに突っ込んで話せば、「初期研修医で手取りが20万円を切っていて生活費がカツカツ」や「まだ大学医局の専攻医でバイト先も微妙で…」という場合は上限の40万円/年(33,333円/月)ではなく、月1万円からでも始めてみるなど、100円から買うことができるので若いうちから長期複利運用益を手にしてみてください。もちろん、無駄見直してみてそこで浮くお金だけというような金額設定でもいいかもしれません。本題ではないので詳しくは書きませんが、特に不便でもないのに格安SIMやガス・電気の契約でお得なものを使っていないなど、周りを見ていると見直せる人が多い印象です。投資が目的ではなく、投資を手段として豊かに生きることが目的ですので、匙加減は各個人の考え方によると思います。老後の生活スタイルや必要なお金などから考えてみるとよいと思います。自分自身の投資に対する方針や、収入の推移予定、20-30年後などの望む生活、将来の資金設計からも考えていただければと思います。

 

 そこで、大きく2つの考えになると思います。1つ目は、医師である程度安定した収入が継続してあり、今後のお金は不安も感じず、ハイリスク・ハイリターンの大きな投資をしたいのでつみたてNISAは使わないというような方向性です。

 2つ目は、医師であるが将来は体調面や退職金の少なさなどから不安であり、安定して稼いでいる間に長期に少しずつ蓄えておくというような考え方です。後者の考え方や資産のポートフォリオ(”資産配分”)の一部として安定した資産という考えをお持ちであれば、つみたてNISAの活用が有効的になってくることが多いと思います。

 他にも、フリーランスとして不安定な生活をしているので、資産安定を求める部分確保しておくというような人も、つみたてNISAを利用して比較的安定した資産を確保しておくというような考えもあるでしょう。

 

 さらに退職金に注目してみます。勤務医で医局の関連病院を点々としている場合、転職を繰り返している扱いであり、医局での長期雇用ではありません。そのため、年収の割に退職金が少ない場合が多くあると思います。退職金の少ない分の補填として貯めるという方法もあります。つみたてNISAでも、iDeCoでも良いでしょうが、ひとつの選択肢に入ります。実際に年金も投資運用されています。それを個人で行うような感覚です。

 つみたてNISA制度も改定が予定・検討されていて、新NISA(2024年1月以降)では投資期間上限が無期限に、投資上限額も拡大される方向性で話が進んでいます。現在のつみたてNISA2042年までであり、非課税枠800万円を使い切るために年40万円のペースで用意できるまでやらないというのは勿体ないという結論になると思います(あくまで非課税枠の話です)補足②(6-2. 新NISA)ならびに最新の情報をご自身で確認してください。

 



4. つみたてNISAの三原則

 先ほどまでのことを踏まえ、「将来(少なくとも10年以上)に向けて安定してじっくり育てていく」という位置づけで考えていくと、つみたてNISAに求めるものは大きく次の3つになると考えています。

 つみたてNISAの3原則(長期でじっくり素人でも育てていく投資)金融庁のつみたてNISAのホームページでも見かける長期分散」、「積立です。

 長期という理由のひとつは複利で稼ぐためです。例えば、単純計算で年5%の運用益であれば、複利の場合はn年で(1.05)のn乗になります。単利では(1+0.05n)にしかなりません。長期間であればあるほど、指数関数的に増えて運用益が増えやすくなります。

 他にも、元本割れ、すなわち損をする可能性を減らす目的もあります。金融庁の『つみたてNISA早わかりガイドブック』にも記載されていますが、積立期間5年間と20年間で比較した場合に元本割れのリスクが20年で低いことが示されています。もちろん、過去のデータなので将来に保証されたものではありませんが、参考にはなると思います。

 

 分散というのは、様々な業種に投資先を分散することです。それにより、一つの会社はダメでも全体で見たときには安定してくるということです。そして全体の傾向として、世界の経済が発展する限り、株価は上がっていくであろうという考えに基づいています。2004年から2020年でみると、世界の株価は年率平均8%アップです。その間、伸び悩んだ国・地域もあれば、大きく伸びた国・地域もありますが、リーマンショックやコロナによる不況込みの数値です。あくまで過去の平均データで未来の保証はありませんが、参考になれば幸いです。インデックスファンド vs. アクティブファンドという運用成績の戦いもありますが、株価指数に連動した投資信託(インデックスファンド)でも平均あたりを狙えるということになります。もちろん、運用成績や手数料(信託報酬)含む戦いになります。長期戦を含め、SPIVAなどのデータをチェックしてみてください(個別の人はその時に詳しく示しています)

 

 積立というのも時間的分散を意味します。積立で一定額で買えば、高い時には少なく、安い時にはたくさん買えることで上手に上下幅を低く抑えられ、安定します。これは個別株で狙って安い時に買って、高い時に売るという戦略とは大きく異なります。

 

 分散・時間的分散(積立)することで、個別株や短期投資とは違って経済情勢などについてそれほど追従していない人にも日々の個別の案件に流されにくく買いやすいという面があります。

 ぜひ、長期・分散・積立のことなどについて金融庁の『つみたてNISA 早わかりガイドブック』もご覧ください。絵も用いて分かりやすく解説されています。

 

補足: 投資と投機・博打

 投資という言葉が人によって少し異なると感じることがあります。人によって、投機、ましてや博打まで含んでいるような人もいますので当記事内での使い方としても確認しておきます。

 つみたてNISAの3原則(長期・分散・積立)を満たすようなものは投資となります。投資はじっくりと育てるスタンスで、長期に渡ってじっくり運用益を増やすものになります。短期の価格変動には振り回されずに構えます。もちろん、つみたてNISAの制度上でも、信用取引レバレッジは考えられていません。

 投機勝つか負けるかというようなスタイルで、短期で一発当てるものになります。短期の価格変動も利用します。FXやデイトレードは投機的な側面が大きくなります。もちろんマイルールとそれに基づく注文(例: OCO注文、IFDONE注文)、テクニカル(チャート分析)、時事的な情報などに基づいて繰り返せば、投資的な要素も増えてきますが、つみたてNISAでの投資と異なる側面があります。さらに、投機的なもののうち、ほとんどが運任せのものになると、もはや博打です。

 博打の身近な例を挙げれば、年末ということで宝くじでしょう。宝くじの還元率は約47%(2019年: 46.5%)しかありません。3,000円(10枚セット)を買うと、数週間後に平均的には-53%1,410円程度になるという結果が保証されています。宝くじに至っては胴元が半分以上回収していきます。夢を見た分のエンターテインメント料ということでしょうか(笑)。株には強者と弱者というような視点もありますが、株のようなゼロサムゲーム(手数料を除く)とは異なります。数週間という短期間で運任せで結果が出るのが好きな人が多いのかもしれませんが、投資ではありませんので区別して考えてください。

 

 

 

5. 投資信託を探す

 つみたてNISAに求めるものが、将来(20-30年後)の安定した資産のひとつという人は、長期・分散・積立の3原則にしたがって、つみたてNISAの対象の投資信託の中から自分にぴったりなものを探して運用してみるみるのはいかがでしょうか。

 長期ということで「長期間安心して持っていられるための条件は?」とか、「分散って具体的にどのような配分がいいの?」などと調べて考えてみることもできます。

 また、長期間での実質的な運用益が重要となってきます。必要な手数料が安ければ、実質的な運用益が高くなります。例えば、先ほどの国際分散の話の中でインデックスファンドとアクティブファンドの話も軽く触れましたが、長期運用成績だけでなく、信託報酬(実質的な手数料のひとつ)の視点からもインデックスファンドにするか、アクティブファンドにするかというような視点も考えられるようになります。

 個別株と比べて、つみたてNISAにおける投資信託の方が運用していく際の手間がかかりにくかったり、銘柄を探す際もハズレを引きにくいと思います。その辺りも、個別株ほど企業分析等についての情報強者と弱者の差がないというべきなのか、情報強者のおこぼれをもらいやすいというのか、本業があって時間的にも余裕の少ない人に向いていると思います。また、元本がつみたてNISA程度の金額であれば、個別株を選ぶ際の過程は労力に合わないと感じる人も多いと思います。そもそも同じ個別株をずっと20-30年間持ち続けているのはあまり想像しにくいと思います。

 投資信託であれば、株式時価総額などの世界の情勢によって資産配分や組入銘柄を調節して運用してくれるため、購入後はそれを時々チェックするだけです。そのような信頼できそうな投資信託(長期投資に良さそうな投資信託)を探すことになります。

 

5-1. 雑誌は参考程度

 信頼できそうな投資信託を探すにしても、個別株にしても、何を買っていいのか分からないという人も多いと思います。すると、窓口で薦められるままに買ってしまうまでではないにしても、巷の雑誌に掲載されている投資信託の銘柄を見て、判断基準もなく買ってしまうというような失敗があると思います。

 あくまで投資信託の人気ランキングにしても、おすすめランキングにしても、紹介されている投資信託参考程度です。もちろん、知らなかった投資信託を見つけるきっかけになると思います。その後、なぜ、どのような点からお勧めしているのか、というようなことを確認して、自身の投資の方針に合っているのか、自身の判断基準と照らし合わせてチェックしてから買いましょう。チャートのようなもので総合評価されていても、そのスコアリング(点数付け)が良く分からないものあり、スコアリングについても自身で納得できるかまでチェックしましょう。

 巷の雑誌では「(なぜ)どういう考えで、その銘柄をお勧めするのか」というような根底の部分の記述があるものが少ないように感じます。そうならないためにも、しっかり説明されている書籍のようなものをお勧めしています。

 雑誌以上に、「儲かる」などの謳い文句でnoteの有料記事情報商材等でとんでもない値段で売っているものもあります。情報弱者を相手にしたものである可能性もあったり、金額に対する内容の妥当性がないために1回限りでお金を搾取するようなものもあります。そういうものにも気をつけましょう。

 

 

5-2. おすすめ書籍例

 私のつみたてNISAにおける投資信託のスクリーニング条件やチェック項目とは異なる部分はもちろんありますが、具体的なスクリーニング項目指標を挙げている参考としやすい次のような本もあります。

※目次のように、当スライドでは具体的なカットオフ値のようなスクリーニングの際の指標も提示しています。しかし、わざわざ誤解を受けたりするリスクもあり、公開への躊躇いもあり、無料の公開ブログではここまでとさせて頂きます。今のところ不特定多数への公開はしない方針です。予めご了承ください。


『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』 中野 晴啓 (著) 

 つみたてNISAに向いている投資信託9本を選ぶまでの「6つの選択基準をはじめ、具体的に書かれている点が好意的です。選択基準も、国際分散のようなぼんやりした書き方ではなく、「国内資産比率は〇×以下」というような具体的な数字まで紹介して、チェック項目を紹介されている点がとても良いと思います。

 

 この本以外にも、つみたてNISAを謳う書籍は多数あるのですが、制度の部分の解説に焦点が置かれていたり、どの投資信託をどのように選べばよいかの部分が曖昧であったりといった本が多く目立ちます。購入前には、本屋で手に取ってみるというようなことをおすすめ致します。そのような書籍が多い中では親切な書籍だと思います。

 「つみたてNISAとは?」とか、「何がいいか人に聞いてみよう」というレベルの人をはじめ、初心者の型作りとしても選択基準は役に立つと思います。型破りをするにも型を知ってからとも言えます。

 もちろん、「6つの選択基準」に至るまでの論理的な展開も「なぜ、この基準を設けたのか」という部分の背景が分かりやすいと思います。そして背景をもとに自分なりの基準を作り直してみてもいいでしょう。



 

 

6. NISAやiDeCoの制度

 ここからは現行のNISAについてや、2024年1月から始まる新NISAといった制度についてといった、「投資信託の選び方」とは異なる補足的な内容になります。

 

6-1. 新NISAについて

 12月中旬に発表された新NISAの概要です。まだ詳しい部分に関しては分からない部分もありますが、つみたてNISAをしている人にとっては、現行のつみたてNISAとの併用も可能な予定で良くなっていると言えるような内容でしょう。

 新NISAつみたて枠に注目します。現在のつみたてNISAと同じ年間投資上限額120万円です。一方の成長投資枠にも着目すると、買付残高1800万円であることを踏まえると、単純計算で最速で5年で枠を使い切ります。

 成長投資枠でどこまで対象金融商品となるかは分かりませんが、「上場株式、投資信託等」と言われていて、現在の一般NISAのように幅広いものを買うことができることを踏まえれば、実質的には、つみたて枠の延長として使うことができます。もっと早く、つみたて枠600万円分を120万円/年で5年間で満額にして、成長投資枠にも240万円/年で5年で1200万円を投入して、5年目で満額1800万円にすることができます。その後は長期・複利インデックス投資で寝かしておくことができるというような使い方も可能になるでしょう。

 読者層として医学生高学年もしくは初期研修医の先生以上が多いと思いますので、特に気にする点ではないとは思いますが、対象年齢も20歳以上から、18歳以上に変更になります。家庭に余裕のある医学生であれば、年110万円以下の贈与税のかからない範囲で親から贈ってもらい、早いうちに満額にして長期・複利で貯めておくのもひとつの手段だと思います。

 

 他にも、現行のつみたてNISA・一般NISAを利用している人は、2023年までに利用した非課税枠は、新NISAの非課税枠とは別でつみたてNISAの制度のままで引き継がれます。これまでNISA使ってきた人にとっては、新NISAの1800万円分の非課税枠の拡大だけでない恩恵に預かれます。2023年につみたてNISA始めようと思っている人にとっても、新NISAの1800万円とは別に、2023年に積み立てられる最大40万円分の非課税枠(2042年まで)が付加的に増えるような計算になります。

 

 この新NISAの発表の前後で、「聞く力」をアピールし、これまで検討に検討を重ね、検討を加速までさせてきた某国首相が何かを決断したと思えば、マニフェストにもなかったような増税というビックリ(?)するような発表をしたと感じた人もいたことでしょう(笑)。増税で厳しくなっても、その分少しでも節税できる部分が増えたNISAを有効活用するのはどうでしょうか。もちろん、マクロな視点で増税累進課税の在り方や増税の内容に対していろいろと思うことはあるでしょう。しかし、個人というミクロな視点ではこのつみたてNISAによる節税や、人によってはもっと壮大なスケールで海外移住・キャピタルフライトなど、対処できる手段があるでしょう。もちろん、制度が複雑化して知らない人が損をするというのはいかがなものかとは思いますが、自分自身の投資方針合致して使うことができるなら使わない手はないと思います。



6-2. iDeCoとの比較

 つみたてNISAを考えるにあたり、iDeCoも気になる方もいると思います。両方やるのが得策かもしれませんが、つみたてNISAと比べると良い点も悪い点もiiDeCoにはあります。主な点を比較してみたスライドです。

 さらに、現行のつみたてNISAから新NISA(2024年以降)となれば、投資上限額年360万円/年(つみたて枠120万円/年+成長投資枠240万円/年)に拡大され、運用期間無制限になり、NISA制度の魅力アップします(詳細は先述: 「6-1. 新NISA」)

 この両者を比べると、それこそ両者とも破綻しかけている年金制度補完とも取れるでしょう。年金という名前は誤解させたいのか分かりませんが、年金世代間扶養という昭和の年齢人口構成でこそ成り立った生き残った人への古い制度(というか、もはや税金や社会保険料のようなもの)であり、自分自身のために自分自身で積み立てているわけではないのです。今の高齢化によって、身近な医療費・介護費(社会保険料)や高齢者への医療・介護の在り方の問題だけでなく、年金にも問題をもたらしています。

 マクロな視点の話は1年ほど前に持続可能についての読書ログでも触れました。見せかけや既得権益民度、高齢化と持続可能な医療など、様々な話題に触れましたが、「日本全体が…」とか過度に期待せずに、今回は、個人単位ミクロな視点着実に対策を考えていく主旨でこのまま話を進めて行きます。

 iDeCoやつみたてNISAは自分のため積み立てることになります。iDeCo(or つみたてNISA)は、制度こそマクロな視点で年金破綻から生じていても、最終的にはミクロな個人の視点での補完の選択肢であり、頑張りは報われる制度でしょう。

 両者を比較していきたいと思います。iDeCoの方が節税効果高くなります。iDeCoでは積立金の掛け金が全額所得控除という点が大きく節税になります。特に年収が900万円を超えて所得税率が33%となる辺りから節税効果が大きくなると感じると思います。30-40代以降では、勤務医でこれぐらいの額を超えること人も多いと思います。後々、開業して75歳まで働くというような場合は30-40歳代の勤務医のときよりも、65歳を超えた後の方が年収が多いかもしれませんが、そのような計画を立てている場合を除き、節税効果は高くなります。iDeCoはあくまで年金扱いなので60歳まで売却ができない点も注意点でしょう。

 他にもiDeCoは、職場を変わる毎書類が必要であったり、職場によって投資上限額が変わってくる点もややこしく感じるかもしれません。特に勤務医で数年ごとに病院を点々としている人には面倒に感じるかもしれません。それに加えて、運用できる金融商品を選ぶという2つハードル同時にかかることに躊躇してしまう場合は、つみたてNISAから始めてみて、金融商品を買うというハードルをまずはクリアしてみてから、次にiDeCoを買うと考えてみてはいかがでしょうか。

 

 

7. 投資信託の買う場所 -ネット証券-

 つみたてNISAで投資信託を買う場所は?」と聞かれることがあります。証券会社と言っても、実質的にネット証券一択に近いと思います。

 ネット証券と聞くと不安な人もいるかもしれませんが、むしろ取引したいときに、スマホでパソコンですぐにアクセスできます。ネット証券の方が取扱している投資信託の銘柄本数も多く、個別株などの他の手数料も安い傾向もあります。またSBI証券楽天証券といったネット証券では、証券口座への振替も全国450以上の銀行等から対応しています。

 ネット証券には窓口もないので、従来の窓口のある銀行や証券会社のように、何か手数料が高いようなものを相談員(FP等)に上手に勧誘されるわけでもありません。携帯会社と同じように、窓口等の人件費や物理的な場所代などを手数料などで補うので当たり前と言えば当たり前ですが、一石二鳥ならぬ一石三鳥です。窓口では、つみたてNISAのお勧めできるような投資信託は手数料も安いので、窓口でそれだけをおススメされる可能性は低いと考えられます。

 つみたてNISAの指定証券口座はひとつのみです。そのため、買いたい投資信託買える場所であることはもちろん、様々な銘柄の買うことができるところにしましょう。長期間にわたって運用するため、途中で異なる銘柄も買う可能性があります。

 三菱UFJ銀行やゆうちょ銀行では、つみたてNISA対象の投資信託は、何と12銘柄しか扱っておりませんSBI証券楽天証券では、180を超える銘柄を取り扱っています(2022年12月現在)。SBI証券では三井住友カードVISAカード系)による積立時のポイント還元、楽天証券では楽天カードによる積立時のポイント還元など、様々な付加的なサービスもあります。最近、楽天ポイントの改悪もあり要注意ですが、楽天モバイルを使い楽天経済圏でポイントを貯めている人は楽天証券、そうでない人はSBI証券など、両者で悩んだときはその辺りも加味してみると良いでしょう。



 

 

8. 最後に

 投資はあくまで豊かな生活を手に入れるひとつの手段です。手段の目的化しないように気をつけて、素敵な生活をお送りください。そして、自分自身の成長のための"投資"も忘れずに考えてください。

 つみたてNISAだけでは到底不可能ですが、仮に無理なくFIREできるほど投資に成功した場合、専門職ダンピングやりがい搾取のような話をとりあえず横においておけば、稼ぎを気にせず、大学病院でも、教育でも、働く選択肢として選びやすくなるかもしれません。さらには週3日だけ働いたり、途上国支援に行ったりというような好きな環境で活動しやすくなるかもしれません。

 家族など、もっと詳しくて信頼できる人が近くにいれば、知らないのにプライドなどで知っているフリをして突き進むより、その人に相談して助けてもらいながらやってみるのもいいかもしれません。何より、やってみないと分からないこともあります。投資を始めてみることで、金銭的な損得以外にも、政治経済など新たなことが身近になって興味を持つかもしれません。

 

<お断り>

  • 特定の金融商品等をお勧めするものではありません。
  • 運用により信託財産に生じた損益はすべて投資者に帰属します。したがって投資者の投資元本が保証されているものではなく、下落により損失を被り、投資元本を割り込むことがあります。預貯金とは異なります。
  • 信託財産の過去の運用実績は、将来の投資成果を保証するものではありません。
  • 投資は投資者自身の判断にて行うものです。当スライドもあくまでひとつの情報として、様々な情報・方針等を吟味の上、投資者の状況に応じた投資方針や判断のもとで投資を行ってください。
  • 必ず最新の情報・条件等をご自身でお確かめください。


 自分で仕組みを理解できないものは買わないというような点や、相手から「儲かる」というような話を聞いた時には注意するなど、気をつけましょう。現在の日本で、一般的な元本保証の金融商品・運用では年率1%程度の運用が最大です。それを超えるような場合は、その分のリスクも伴うと考えるとよいでしょう。

 

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 そして、このようなスライドを作成する機会ともなる様々な相談を頂いた身近な方々のご縁にも感謝致します。

 年末年始も完全なオフは1日だけで、後は待機(オンコール)が1~2日、残りは日直・当直というような医局に所属する人などが周りだけでも複数います。年末企画のような記事ですが、少し早く公開することに致しました。新年にこだわらず、都合がつく際にご覧いただければ幸いです。

 そして、様々な人の投資の考えや方法を見て、自分の投資方針に合うものを見つけ、どんどん取り込んで成長変化していってください。新年こそ、長期の複利の視点では少しでも早く、これをお読みになった今からでも是非一歩を進めてみてください。

 

*********

 

 本日取り上げた書籍になります。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

 投資信託の選び方として、考え方や前提のお話の後に、6つの具体的な選択条件が提示されています。まずは型を身につけて、徐々に自分自身の型に変えていく土台のひとつにもいかがでしょうか。

 

 

 

 

【関連記事】

 NISAのような金融商品における節税の話だけでなく、個人のお金の話についてはFP(ファイナンシャル・プランナー)の勉強を通じて行うという方法もあります。

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 つみたてNISAによる投資信託ではなく、一般NISAによる個別株を考えている方は、個別株についての読書ログもよろしければご覧ください。

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灼熱痛・灼熱感の鑑別疾患|Sjogren症候群による小径線維ニューロパチーをはじめ

灼熱痛・灼熱感の鑑別疾患

Sjogren症候群による小径線維ニューロパチーをはじめ~

 

<目次>

 

 先日、膠原病による神経障害の話の際にシェーグレン症候群(Sjogren syndrome: SjS)が話題になりました。そこで特に小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy: SFNで灼熱痛が生じるという話についての確認や、灼熱痛(burnign pain, 灼熱感 burinig sensation)について深掘りしてみようと思いました。

 特に灼熱痛や灼熱感に含まれる「灼熱」というキーワードに関しては、口腔灼熱症候群(Burning mouth syundrome)という単語にも出現します。それだけでは口腔内乾燥が前面にあり、神経症状が含まれておらず、少し違うような特異的な表現に感じます。今回はそこから少し深掘りしてヒントをブレインストーミングのように探してみようと感じた次第です。(UpToDateで灼熱痛とかであれば、便利ですが…。)



1.どこの灼熱痛?

 まずは、さきほどのシェーグレン症候群をヒントに痛みの場所で分けてみたいと思います。口腔灼熱症候群であれば、口腔内乾燥が主な原因であると考えられます。一方で四肢などの灼熱痛であれば、口腔乾燥とは関係なく異常感覚(神経障害による感覚異常)によるものと考えられます。もちろん、口腔でも異常感覚の可能性もありますが、まずは何かヒントを得るために口腔口腔以外の大きく2つに分けてみたいと思います。



2.口腔の灼熱痛(口腔灼熱症候群の原因)

 口腔の灼熱痛ということで、まずは口腔灼熱症候群(Burinig Mouth Syndrome)を軸に鑑別疾患(原因)を考えてみたいと思います。

 

口腔灼熱症候群の病因・特徴

※表のうち、原因とその特徴のみを抜粋。

(出典)Am Fam Physician. 2002 Feb 15;65(4):615-20.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 やはり、調べてみて正解でした。口腔が灼熱痛(灼熱感)の原因であっても、パッと思いつくもの以外の病因もありました。粘膜疾患、更年期障害、栄養欠乏、口腔内乾燥、脳神経障害、薬の有害事象が挙げられています。更年期障害は盲点でした。薬の有害事象(副作用)はどんな原因にもある反面、具体的に挙げにくいと感じます。

 粘膜疾患では扁平苔癬カンジダが具体的な原因であり、灼熱痛が飲食中に生じるという特徴もあります。栄養欠乏ではビタミンB1ビタミンB2、ビタミンB6、亜鉛というような微量元素まで具体例とされています。ビタミンB12葉酸欠乏のように考えておきたいと思います。

 口腔内乾燥の原因として、シェーグレン症候群も挙げられています。他にも、化学療法放射線治療も具体例として挙げられていて、唾液腺の変性が原因です。ここでは、粘膜疾患のときのように飲食中の灼熱感に加えて、味覚変化も特徴に挙げられている点がヒントになるかもしれません。

 脳神経障害は、たいてい両側性であり、飲食時の不快感の低下が特徴のようです。いずれにしても、灼熱感のするタイミング、味覚、飲食時の問診ヒントになる可能性を秘めていると思います。

 

 他にも、シェーグレン症候群であれば、口腔内乾燥だけでなくドライアイでも似たような状況も起こりえるでしょう。

 また、口腔の灼熱痛としてはカプサイシンのような香辛料も灼熱感となることが想像できます。もちろん、辛い物を食べて口が焼けるようになったというような時間経過と症状の関係も明確であると思うので、疾患のように扱われることはないか、あっても稀だと思います。

 カプサイシンの話を広げれば、催涙スプレーの成分もカプサイシンであるものが一般的です。警察沙汰などで顔などにかけられた場合は、曝露した顔面などの部位に灼熱痛や灼熱感が生じるでしょう。その延長で言えば、化学物質や薬剤の場合も暴露部位の灼熱痛・灼熱感となると考えられます。



 

3.口腔以外の灼熱痛

 先程の続きという事で、シェーグレン症候群を切り口に口腔の灼熱痛の次は口腔以外の灼熱痛に目を向けてみます。

3-1. シェーグレン症候群の灼熱痛

 まずは、シェーグレン症候群(SjS)の灼熱痛はどのようなカニズム(病態生理)で灼熱感が生じるのかという部分に焦点を当ててみます。後で考える際のヒントになればという感覚です。

 シェーグレン症候群(SjS, SS)における神経障害はそもそもどのようなものであるのかを調べてみます。

 

  • 原発性シェーグレン症候群における神経学的徴候を認める頻度は10-60%と幅広く、感覚性失調や小径線維ニューロパチー(small fiber neuropathy; SFN)というような感覚性ポリニューロパチーのみ、もしくは優位のものが最も一般的な神経学的徴候であった。
  • SFNでは、有髄Aδ線維、無髄C線維が障害され、自律神経障害や障害遠位対称性の灼熱痛が生じうる。
  • シェーグレン神経障害患者20名のうち、16名(80%)が足の灼熱感を、12名(60%)がlength-dependent sensory symptomsを呈した。

(出典)Neurology. 2005 Sep 27;65(6):925-7. doi: 10.1212/01.wnl.0000176034.38198.f9.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 SjS末梢神経障害は、幅が広いものの10-60%で生じることから、稀ではなくぼちぼち見かけるようです。そのうち、感覚性運動失調小径線維ニューロパチー(Small Fiber Neuropathy: SFNといった感覚性ポリニューロパチーのみ、または感覚性ポリニューロパチー優位のものが最も一般的なようです。

 それが原因で遠位対称性の灼熱痛が生じうるということで、深掘りしてみたいことが大きく2つ生じました。まずは順当に小径線維ニューロパチー(SFN)による灼熱感・灼熱痛の原因について、もうひとつはSFNによる感覚障害だけでなく、SjSによる血管炎など様々な原因による感覚障害で生じうるというようなことを考えられ、もっと枠を広げて考えてみたいと思います。



3-2. 小径線維ニューロパチー(SFN)の原因

 先ほどからの続きで、順当にSFNの原因について深掘りしてみたいと思います。SjSはもちろんですが、他にどのような原因があるのか調べてみました。

 

小径線維ニューロパチー(SFN)の原因

  • 糖尿病、耐糖能異常
  • 膠原病
  • 甲状腺機能異常
  • ビタミンB12欠乏
  • 異常蛋白血症
  • HIV
  • C型肝炎
  • Celiac病
  • レストレッグス症候群
  • 神経毒性のある薬剤への曝露
  • 遺伝性疾患
  • 腫瘍随伴症候群

 

SFNの50%以上の症例で原因や関連疾患が見つかる。

足底筋膜炎、血管の機能不全、腰仙椎の脊椎変性疾患と間違われることが多い。

上記のほとんどの病因はlength-dependent small fiber neuropathyをきたすが、Sjögren症候群, Celiac病, 傍腫瘍症候群といった一部はnon-length-dependent small fiber neuropathyをきたしうる。

(出典)Cleve Clin J Med. 2009 May;76(5):297-305. doi: 10.3949/ccjm.76a.08070.

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Cleveland Clinic Journal of MedicineのReviewからになります。タイトルが”Small Fiber Neuropathy: Burning Problem”ということで検索をしてマッチした中でも数少ない内容を期待させるタイトルでした。

 length-dependent 小径線維ニューロパチーは神経の長さの長い四肢末端(特に足先)から灼熱痛・灼熱痛が生じます。糖尿病の神経障害の際にも学んだ人も多いと思いますが、手袋靴下型のような分布です。non-length-dependent 小径線維ニューロパチーは「length-dependent」以外の分布で生じるものです。

 原因多彩で、糖尿病甲状腺機能異常ビタミンB12欠乏といった内分泌代謝疾患、Sjogren症候群やCeliac病のような膠原病・自己免疫疾患HIVC型肝炎といった感染症などがあります。レストレッグス症候群は意外なような気もしましたが、想像を超える亜型があることを考えると納得できます。むずむず脚症候群という言い方でむずむずする原因ともなりうるとでも解釈すれば、こじつけで覚えたり、想起したりするきっかけにはなりそうです(笑)。

 異常蛋白血症に関しては、分かりやすい例を挙げるとM蛋白血症の末梢神経障害と同様のことが生じることを考えるとリンクできます。腫瘍随伴症候群は何でもありの延長、神経毒性の薬剤曝露も遺伝性疾患もリストになっていて納得だと思います。

 

 SFNについて病態から症状、検査や疼痛管理までまとめられているReviewなので気になる方はチェックしてみてください。

 

SFNの症状は、典型的には足の灼熱感(burning)や足指のしびれで始まる。

(出典)Cleve Clin J Med. 2009 May;76(5):297-305. doi: 10.3949/ccjm.76a.08070.

 先程の話と合わせると、length-dependentでは足に灼熱痛・灼熱感が生じることが典型ということになります。「足、灼熱痛」というキーワードで検索すると、灼熱脚症候群が検索にひっかかります。

 そこで、SjSから離れて足の灼熱痛全般(灼熱脚症候群)原因に注目してみたいと思います。



 

4.灼熱脚症候群の原因

 もちろん、先程の小径線維ニューロパチー(SFN灼熱脚症候群(burning feet syndrome)の原因になるというのは言うまでもありません。包摂関係的にはSFN以外の原因もあります。先程の調べてみたいと感じた「SFNによる感覚障害だけでなく、SjSによる血管炎など様々な原因による感覚障害で生じうる」というようなことから枠を広げるきっかけとしても灼熱脚症候群の原因を考える機会にしたいと思います。

 

灼熱脚症候群の原因

(出典1)Aust Fam Physician. 2003 Dec;32(12):1006-9.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

(出典2) Burning Feet Syndrome (GriersonGopalan Syndrome), 2022年12月13日

my.clevelandclinic.org

 

 いかがだったでしょうか。灼熱脚症候群の原因のうち、末梢神経障害SFNによる灼熱痛も包摂されています。SFNの原因の際に比べて、神経絞扼のような物理的原因や「その他」に分類されるような原因が大きく広がりました

 神経障害多くは末梢神経障害ですが、多発性硬化症(MS)のようなものまで原因として列挙されていました。多発性硬化症神経障害性疼痛は、MSによる損傷により、脳から身体への信号を伝達する神経が「短絡(short circuiting)」することで生じます。灼熱痛・灼熱痛の原因を末梢神経以外の枠にも広げることができました。

 感染症に関しても、SFNの原因となるような感染症を先程知りましたが、水虫リーシュマニア症という物理的に足で感染することによるものも案外pitfallでした。

 他にも、足そのもので生じるものという視点での肢端紅痛症をはじめとする鑑別疾患(原因)も増やすことができました。「その他」には自分から想起するのが難しいものも複数あり、慢性高山病Gitelman症候群あたりは調べてよかったと感じています。



 

5.最後に|灼熱痛・灼熱感の原因

 広げる方向性で調べ散らかってしまいましたが、足であれば、Burning Feet Syndromeの原因の中に小径線維ニューロパチーによるものも末梢神経障害のひとつとして包括されています。もちろん、原因の重複(糖尿病など)がありますが、併せて鑑別疾患(原因)を考えると枠が広がってよいと考えています。

 病歴も大切ですが、灼熱痛・灼熱感の分布も意識してみると原因も絞りやすくなるでしょう。分布でも、length-dependentのような手袋靴下型、神経絞扼であれば神経支配領域はヒントになるでしょう。

 

 口腔でも口腔以外のいずれでも、例えば、ビタミン欠乏が原因となるように重複している部分がみられます。口腔であれば口腔灼熱症候群の原因を考えつつ、偶然に口腔であると考えれば、灼熱脚症候群と同じような選択肢にも原因や機序に広げて行ければと思います。

 

 原因が見つからないときの、広い枠で原因の候補を挙げるヒントになれば幸いです。

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。



P.S.

  今回は、特別に灼熱痛・灼熱感の鑑別についての記事をこのタイミングで投稿することにしました。前回の『健康診断で「肝機能障害?」と言われたら』の続編を期待されていた方には申し訳ございません。

 今年も気がつけば師走、毎年この時期になると開催されているオンライン全国臨床推論グランプリが今年2022年も12月17日(土)の午後に開催されるようです。それにぎりぎり間に合わせる形の投稿で順番を前後させていただきました。様々な所属の先生方が準備してくださる素敵な症例で、GIMカンファレンスをも勝るような学びのきっかけとなるもので目白押しです。今年は合計9つの症例を提示してくださるようです。この記事ぐらいでは参考になるか分かりませんが、参加費無料でZoomで気軽に参加できるので楽しみにしているところです。興味のある方はよろしければ、参加してみてください。

 どのような症例か想像がつかない方は、下記の過去の開催報告をご覧ください。

tbljapanmedicine.wixsite.com

健診で「肝機能障害?」と言われたら①|肝逸脱酵素上昇から深掘りへ

健診「肝機能障害?」と言われたら

肝逸脱酵素上昇≠肝機能障害から、肝機能検査について~

 

<目次>

【続編】健診で「肝機能障害?」と言われたら②|肝硬変とAST/ALT比の深堀り

 

 説明上手な先生のお話は本当に興味深くて面白いですね。ASTやALTはじめ検査のパターンを意味は分からず丸覚えしなくても良いということを体感できます。これをきっかけに調べてみることにしました。もちろん、院内の勉強会や抄読会は一長一短で内容や質、環境次第であるとも感じます。初期研修医内等でやっているものの質は分かりませんが、オンライン含めてこういう先生の学びのきっかけとなるようなのようなものは教育の面からは良いものです。

 さて、12月に入ったとたんに寒くなったことで師走を意識するに至りました。そして、しばらく下書きのままの記事でしたが、年を越す前にこの記事をUPすることにしました。

 

 

1.肝逸脱酵素上昇=肝機能障害とは限らない

 健診でAST、ALTが上がっていて「肝機能障害疑いです」と言われた時のお話をしたいと思います。本当はこの段階では、まだ検査項目も足らず、特に病歴もなく検査値のみであり、肝機能障害と言い切れるわけではなく、その検査値だけではひとまず「肝逸脱酵素が上がっている」と言えるだけです笑

 健診にてクレアチニンキナーゼ(CK, CPK)のような測られていない項目がある(何が測られていないか)というのは、国試勉強の際には習わなかったpitfallであるようにも感じます。

 

 まずは、「本当に肝機能障害?」という部分から行きたいと思います。本当の意味で肝臓の機能障害を診ようと思えば、ビリルビン(Bil)、アルブミン(Alb)、凝固因子(PT-INR)、アンモニア(NH3)といった数値を見る必要性があります。また、ALTは肝臓に特異度が高いですが、ASTは心臓、腎臓、肺、血球、脳などにも存在し、他の臓器の障害によることもあるという認識です。以前、心筋梗塞でASTが上がるという記事も書きました。

 また、肝逸脱酵素が上昇していた場合は、CK(CPK)LDHという他の検査値もヒントになります。LDHのアイソザイム、それぞれの半減期もヒントになるイメージです。

 今回は、健診でASTやALTといった肝逸脱酵素が上昇していたことにより「肝機能障害」といわれたときのお話をします。

 

 健診で肝機能障害疑いと言われたら、筋疾患(筋症状やCK上昇)全身性疾患というような肝臓以外の鑑別も忘れないようにしたいですね。

f:id:mk-med:20220109122220j:plain

 

 では、クレアチニンキナーゼ(CK)は問題なく筋症状もないし、健診前の1-2週前から運動を始めたなんてこともなく、全身性の疾患「どうも肝臓っぽいぞ」となったときについて詳しく見ていこうと思います。



 

2.肝臓の働き

 肝臓の主要な機能(働き)から深堀りしていきたいと思います。生理学の本をチェックしてみたところ、肝臓に機能についてまとまっている部分にたどり着けず、意外やセイントとチョプラの内科診療ガイドで見つけました。

 

<肝臓の主要な働き>

血漿蛋白の合成

・糖代謝の調節

・凝固因子の産生

・消化管から吸収された化学物質の解毒

・ヘモグロビン代謝で生じる副産物の代謝

(出典)セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版

 

 代謝に関しては盲点でした。糖を貯蔵したり糖新生の場所であったことと検査値をリンクできていませんでした。血糖値(グルコース値)の異常値が肝臓に直接結びつくほどの特異性はないにしても、糖尿病のビグアナイド薬(BZ)が肝臓での糖新生を抑制すると習ったことからも血糖値に関係しているのは明らかです。



 

3.肝機能検査を深堀り

 肝逸脱酵素やその他の肝機能検査についてさらに調べていきます。まずは言葉の定義や一般的なことから紹介します。このままセイントとチョプラの内科診療ガイドでいけるところまでいきます。

 

定義:肝評価のための血液検査を肝機能検査という

 

  • 実際に肝臓の働きを反映:アルブミンビリルビン、プロトロンビン時間など
  • 肝障害を表す検査項目:AST、ALT、ALPなど

 

肝臓の働きを反映

<合成能>

項目

備考

アルブミン

(Alb)

・肝臓の蛋白合成能

・食事量が一定の状態で肝機能障害が起こる場合にはアルブミン濃度が低下するのに数週間かかる

代謝ストレスが更新している場合(敗血症やショック)では、肝機能は正常でも下がることがある

プロトロンビン時間(PT)

・肝合成能が著しく低下すると数時間以内に延長する

→肝機能低下の重要な指標

半減期アルブミンより短い

ビリルビン

(Bil)

ビリルビンが上昇している際には実臨床では、非抱合型(間接)と抱合型(直接)の両者が混在することが多い

非抱合型(間接)ビリルビン

上昇の原因

ビリルビン産生の亢進(溶血や血腫など)

・肝臓への取り込み低下や抱合障害(Gilbert症候群やCrigler-Najjar症候群など)

※健常人の場合、最多の原因はGilbert症候群

抱合型(直接)ビリルビン

(D-Bil)

上昇の原因

・毛細胆管へのビリルビン分泌の減少(Dubin-Johnson症候群やRotor症候群)

・胆管上皮の障害(肝炎、毒素、肝硬変による)

・胆道閉鎖(胆管結石、胆管炎、膵がんによる)

ブドウ糖濃度

グルコース

重篤な肝機能障害では糖新生と解糖が破綻

→血中ブドウ糖濃度が低下

 

<肝障害>

2つの代表的パターン

  • 胆汁うっ滞型:ALPやBil、γ-グルタミントランスペプチダーゼ(GGT)→ALPはアイソザイムも
  • 肝細胞パターン:AST、ALT、LDH

 

(出典)セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版

 

 肝臓の働きを反映する数値のところで、合成能の部分にてアンモニアがありませんでした。解毒という意味でアンモニアは役立つと思うのですが、さすがに採血のスピッツアンモニア用でしかも冷やさないといけないとなると、ハードルが高いかもしれません。

 また、コリンエステラーゼ(ChE)コレステロールも役立つかもしれません。コレステロールは、糖と同じく他の要素も多そうですので、そういう意味ではコリンエステラーゼでしょうか。

 他の項目を見ていくと、肝障害の代表的パターンのうち胆汁うっ滞型は鑑別疾患が主に胆道系疾患になってきます。今回は、肝細胞パターン(AST、ALT、LDH)のASTALT深堀りしてみたいと思います。LDHはアイソザイムごとの特徴を調べれば見つかると思います。

 

 

4.肝細胞パターン(AST・ALT)の深堀り

 肝逸脱酵素のAST、ALTに苦手意識があるので、そこをもっと確認していこうと思います。AST優位とかALT優位とか覚えるのは…と感じます。

 ASTは肝臓での特異性は低いものの、中心静脈周囲の病変の際に上がりやすく、半減期もASTより短いイメージです。そのため、ウイルス性肝炎では回復期にはALT優位になるというようなことを習った記憶があります。では、いろいろと確認していきます。

 

<AST、ALTの特徴>

 

AST

aspartate aminotransferase

ALT

alanine aminotransferase

特徴

肝細胞以外にも心筋、骨格筋、脳、膵臓および赤血球にも含まれる

肝細胞にのみ存在すると考えてよい

→ALT上昇は肝細胞障害を意味する

半減期

17時間(血中)

・細胞質AST:10-20時間

ミトコンドリアAST:5-10時間

47時間(血中)

・細胞質ALT 40-50時間

上昇

肝細胞、心筋、骨格筋、腎臓、脳、膵臓および赤血球に含まれる

→これらの細胞障害により血中に放出


肝細胞全体が障害されると、AST>ALTとなる

肝細胞の障害

<高度障害:500-20,00 U/L>

・急性ウイルス性

・中毒性

・薬剤性

・虚血性

※心臓発作(肝うっ血)でも生じる


<中等度障害:125-500 U/L>

・ウイルス性

・薬剤性

・自己免疫性

・アルコール性 など

※肝炎の活動度と一致


<軽度:<120 U/L>

・肝硬変

・脂肪蓄積性肝炎

・胆汁うっ滞性肝炎

脂肪肝

・肝癌 など

低下

ASTもALTも、ピリドキサールリン酸(PLP、ビタミンB6の誘導体)を補酵素とするアミノ酸転移補酵素であるため、PLP減少により低値となる。アポ酵素(PLPが結合しない状態で酵素活性を有さない)が相対的にホロ酵素(PLPが結合して活性を有する)より多い。


<ビタミンB6欠乏→PLP減少>

・透析患者

・高齢者動脈硬化患者


<PLPが減少→アポ型ALT増加>

・急性心筋梗塞

・肝疾患:ピリドキサールキナーゼの活性低下

・肝癌:PLPの異化亢進

(出典)検査値を読むトレーニング -ルーチン検査でここまで分かる

 

 ASTやALTの半減期の違いASTの方が半減期が短い)、ALTの上昇の程度による鑑別の違い、さらにはASTやALTが低下するメカニズム(ビタミンB6の関与)というあたりは、知っていることで理解が深まると感じました。お酒飲みではビタミンB群が不足していることが多いので、ASTやALTが上がり切らないことも理解できました。

 それにしても、RCPC(Revered Clinico-Patholocal Conferrence)によって、検査値の推移や組合せから病態を考えていくのも楽しいですね。ASTやALTだけでなく、他のルーチン検査についても同じように参考になることが書かれているのが魅力です。

 

 さて本題に戻ります。一方でASTだけ、もしくはALTだけでは、ASTやALTを掴み切れないと率直に感じました。AST/ALT比(ASTとALTの関係)にも触れながら、理解を深めてみようと思います。

 

<AST、ALTの含有割合>

肝細胞内 ALT:AST=1:3.2

細胞質AST:ミトコンドリアAST=1:4

 

<ASTとALTの関係から分かること>

 

ALT (U/L)の条件

ASTとALTの関係

健常人

<40

AST優位

重症肝細胞障害

>1,000

AST優位

慢性肝炎(ウイルス)

40<ALT<500

ALT優位

脂肪肝

40<ALT<500

ALT優位

肝硬変

<200

AST優位

アルコール性肝炎

40<ALT<500

AST優位(AST/ALT=2)

 

アルコール性肝細胞障害

  • PLP欠如がASTよりもALTを低下させる
  • 肝ALT活性が低下する

 

虚血性障害

  • AST>ALTとなるが、虚血がなくなれば速やかに低下し逆転する

 

(出典)検査値を読むトレーニング -ルーチン検査でここまで分かる

 

 ALT優位のまずは2つから見てみます。慢性肝炎はだらだらと炎症の状態が続くことで、半減期の長いALTが多くなる(残っている)ということでしょうか。脂肪肝も慢性的な状況なので納得はできます。

 次にAST優位のものを見てみます。正常人重症肝細胞障害ではASTとALTの割合を考えれば、ASTの方が多いので納得はできます。アルコール性肝炎は、PLP欠如がASTよりもALTを低下させることや、肝ALT活性が低下することから納得できます。

 

 肝硬変AST優位のようです。だらだらと細胞が障害されており、ASTが多いということでしょうか。そうすれば、慢性肝炎と同じパターン(ALT優位)になりそうな気もし、すっきりしません。

 昔、病理的にASTは中心静脈側の障害、ALTはグリソン鞘側の障害というようなことを聞いた覚えがあるのですが、『標準病理学(第5版)』で調べたところでもはっきりしませんでした。後ほど、肝硬変とAST/ALT比についてはもう少し深堀りしてみたいと思います。

 

 虚血性障害では、ASTの方がまず高くなる(AST優位)のは肝細胞が障害された際にASTが多く含まれているから単純に放出量が多いと考えられます。虚血がなくなれば速やかに低下し、ALT優位となるのはALTの半減期が長いためと考えられます。

 

 

 

5.肝硬変(線維化)とAST/ALT比

 先ほど、すっきりしなかった「肝硬変とAST優位」についてです。肝硬変(線維化)とAST/ALT比について調べていたところ、長くなりすぎて(散らかりすぎて)しまったため、次回にしたいと思います。

 お待たせ致しました。続編はこちらになります。

mk-med.hatenablog.com

 

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 今回、取り上げた書籍になります。読者レビューはじめ、気になる方はチェックしてみた下さい。

 今回の肝逸脱酵素だけでなく様々なルーチン検査からの病態の考察・推測が魅力的です。

 

 

 

【関連記事】

 肝逸脱酵素関連ですが、心筋梗塞とAST上昇についても記事にしました。よろしければご覧ください。

mk-med.hatenablog.com