<目次>
痛風(gout)の症例で、身体の体幹に近い部位に痛風発作が生じるというような症例がありました。Dual Energy CTにて診断まで至っておりましたが、結晶性関節炎の中でも偽痛風らしくも感じてしまう症例でした。
痛風といえば、末梢の冷たくなりやすい部位にできやすく、その一例として母趾の中足趾節関節によく痛風発作が生じるというようなイメージを持っています。
1.一般的な痛風発作部位のゲシュタルトづくり
今回は痛風発作の部位を中心に深堀りしてみてみます。まずは、教科書レベルからゲシュタルトを作ります。
急性関節炎は最も多くみられる痛風の初期症状である。通常は、最初に単関節が侵され、続いて急性の多発性関節炎が生じる。好発部位は母趾の中足趾節関節(第1中足趾節関節)であるが、足根関節、足関節、膝関節もしばしば侵される。特に高齢の患者や重症の患者では手指関節も障害される。炎症性のHeberden結節またはBouchard結節は、痛風性関節炎における最初の兆候である。
(出典)ハリソン内科学 第5版
さらに詳しい情報をUpToDateで探してみました。
- 下肢に多く、初発の80%は単関節炎であり、最も多いのは第1中足趾節関節または膝関節である
- 足関節、足趾、手関節、手指、または肘頭滑液包での初発発症はありうるものの、再発性で一般的であり、他の滑液包、肩、腰、胸鎖関節においても潜在的には発症することもある
- 軸関節は稀であるものの、脊椎および仙腸関節にも発生する可能性がある
(出典)UpToDate >Clinical manifestations and diagnosis of gout, this topic last updated: Dec 01, 2019.
いずれにしても、定量化はそこまでできなかったものの定性的にはイメージは掴めてきました。多少、初発時と再発時の関節炎の部位に違いがあるようですね。
2.高齢者の場合
さらに高齢者の痛風の場合には次の特徴があるようです。今回は中年の方の症例でしたが、違いについても注目してみます。
<高齢者の痛風>
高齢者の痛風では、より多関節炎が増加し、上肢の関節や指などの小関節の侵襲が増加する。また女性の割合が増加し、関節リウマチや血清返納陰性関節炎との鑑別が重要となる。痛風結節も早期から出現し、部位も非特異的となる。指に出現することが多い。
表.高齢者の痛風と典型例との比較
特徴
典型的な痛風
高齢者の痛風
年齢
中年~40歳代
65歳以上
性別
男性>>女性
男性=女性
関節炎
急性単関節炎
下肢優位で母趾MTP関節が60%
多関節炎が増加
上肢関節炎が増加
指関節炎が増加
痛風結節
発症数年経過して出現する
早期、発作がなくても出現する
関連因子
肥満、脂質異常症、高血圧、アルコール
腎機能障害、利尿薬使用
アルコール関連は少ない
(出典)ジェネラリストのための内科診療フローチャート
典型的には単関節、上肢優位、男性が多かったものが、高齢者になると多関節炎、上肢や指関節が増え、男女比も同程度となるようです。
さらに定量的な記述を探したいと思います。
3.具体的な数値を探す(定量化を試みる)
痛風発作の部位による定量化した表現も見つけました。さすがは、内科診断リファレンスです。
<痛風発作>
- 体温の低い部位に結晶が析出するため第1中足趾節関節炎を認めることは診断的価値が非常に高い。一方、体幹に近い肩・股関節は罹患しがたい。
- 耳介や関節伸側・手指などに痛風結節を認めることも特異度が高い所見である
- 女性の場合25%が手指の初発症状を訴えるが、男性では0%である
- 初発発作は85-90%が単関節炎であり、60%が第1中足趾節関節に起こる
- 第1中足趾節関節の発作:感度96%(91-100%)、特異度97%(96-98%)、LR+ 31(21-49)、LR- 0.04
(出典)ジェネラリストのための内科診断リファレンス
第1中足趾節関節の痛風発作は感度96%、特異度97%、陽性尤度比(LR+)31であり、とても縛らしい結果ですね。男女差も多少あるようです。もう少し、定量化されたものを深堀りして探してみたいと思います。
<痛風部位>
Ameircan Familiy Physicianの総説
- 末梢の関節や滑液包の腫脹、疼痛、圧痛は痛風に伴う症状である。
- 最も多いのは第1中足趾節関節(患者の56%~78%)である。
- 中足関節(25%~50%)、足関節(18%~60%)、上肢関節(13%~46%)、指節間関節(6%~25%)など他の関節が侵されることもある。
(出典)Am Fam Physician. 2020 Nov 1;102(9):533-538.
Kohらによる報告
- シンガポールでの100名(男性77名、女性23名、年齢中間値50.9歳、中国人89%)の後ろ向き研究の結果
- 痛風発作の際、足首(39%)と膝(27%)が一般的であり、第1中足趾節関節(MTP)関節は26%であった。
- 多関節炎での発症は稀であった(6%)。
(出典)Ann Acad Med Singap. 1998 Jan;27(1):7-10.
<痛風の初発部位>
日本での報告
- 稀な痛風発作部位を過去5-10年のMedlineで検索してみると、椎体、仙腸関節、肩峰鎖関節、胸骨柄などの報告がみられる
- Kohらによる報告との違いの理由は定かではないが、彼らの症例は女性患者が含まれること、気候、人種差などが関与しているのではないかと推測される
- (患者年齢)29歳以下12.4%、30-39歳28.0%、40-49歳27.2%、50-59歳19.1%、60-69歳9.3%、70歳以上4.0%
最近以外の報告が中心であり、最後の日本の大学病院で痛風患者の報告は最初に痛風発作が生じた部位という限定もあります。
Kohらによる報告はシンガポールにおけるもので、気候的に日本ほど寒くはないという違いもあります。したがって多少の差異はあると思います。それでも、第1中足趾節関節や足首、膝といった下肢に多いようです。また、椎体、仙腸関節、胸骨柄といった稀な部位の症例報告もあるようですね。
そうなると、American Familiy Physicainの総説のような幅を持った割合に落ち着いてくるのでしょうか。そうなると、なおさらどこの関節でもありうるというような割合ですね。
また、Dual Energey CT等の診断技術の向上により、体幹に近い(関節液を採取しにくい)部位の診断報告も増えているかもしれません。しかし、UpToDateのような最新の二次文献においても体幹に近い部位の関節炎(痛風発作)が特に多いというようなことはなく、体幹に近い部位の痛風発作は少ないかやや少ない程度であると考えています。
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痛風発作が生じる部位の定量化もあくまで参考値ですが、個人的には多い・少ないという言葉よりもイメージしやすくなりました。UpToDateや教科書のイメージを元に上記のような報告もあると考えられればと思います。
また、他の結晶性関節炎との比較をすることも興味深そうです。
痛風をはじめとする急性単関節炎の鑑別について、よろしければ下記をご覧ください。
本日もお読みくださりありがとうございました。