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頭部外傷 ②小児編|PECARN 頭部CT適応アルゴリズムの深掘りと比較

頭部外傷 ②小児編|PECARN

頭部CT適応アルゴリズム深掘り比較

 

<目次>

 

 「ちょっと頭を打ったので診てほしい」というようなことがあると思います。そのようなテーマで、前回は成人編としてカナダ頭部CTルール(Canadian Head CT Rule)を深掘りしました。

 今回は小児編として、軽傷頭部外傷における頭部CTの適応を判断するための臨床予測ルールであるPECARN(ペカーン)について深掘りしていきたいと思います。

(注)ゴールデンウィークということで、当直で小児の頭部外傷に出会う研修医の先生も多いと思います。未完成ですが、この時期ゆえに使えそうな部分からだけでも公開とさせていただきます。(→2024年5月6日完成

 

 

1. PECARNとは(概要)

 小児の場合、頭部CT検査を可能なら避けたいと思うことが多いのではないでしょうか。小児ゆえに被爆に慎重になる面もあると思います。

 PECARNとは、小児頭部外傷(軽症)における頭部CT適応のアルゴリズム(臨床予測ルール)のひとつです。個人的には、そのような際に専門ではないがゆえに頭部CT撮影の適応について参考にもしたい臨床予測ルールだと感じることがあります。

 まずは、PECARNにおける頭部CT撮影の適応アルゴリズム診断特性(感度や特異度、陽性的中率や陰性的中率)はもちろんのこと、まずは概要からチェックしてみたいと思います。大きく2歳未満と2歳以上でアルゴリズムが多少異なってきます。

 

1-1. 2歳未満のとき

 まずは、2歳未満の時のPECARNの頭部CT適応のアルゴリズム、感度、陰性的中率です。

2歳未満のとき

  • PECARNにおける頭部CT撮影の適応アルゴリズム(下記)において、臨床上重要な外傷性脳損傷(clinically-important traumatic brain injuries: ciTBI)の陰性的中率は1176例/1176例(100%, 95% CI 99.7-100.0)であり、感度は25例/25例(100%, 95% CI 86.3-100.0)であった。

PECARN(2歳未満)|小児頭部外傷と頭部CT

(出典)Lancet. 2009 Oct 3;374(9696):1160-70. doi: 10.1016/S0140-6736(09)61558-0. Epub 2009 Sep 14.

 

 PECARN(2歳未満)のときは、まずは「GCS 14点」、または「その他の意識変容の徴候」、または「触知可能な頭蓋骨骨折」のうちいずれか1つでもあれば、頭部CT撮影が推奨されます。

 そして、これらに該当しない際に、「後頭部または頭頂部または側頭部の血腫」、または「5秒以上の意識消失」、または「重度の受傷機転」、または『親の「いつもと違う」』がなければ、頭部CT撮影は推奨されません

 その中間の状態であるときが、アルゴリズムとしては幅があり、医師の判断のようなものが入り込むものとなっています。完全にスコアリングや該当項目の有無だけでは決まらない点がアルゴリズム(臨床予測ルール)とすると悩むところかもしれません。

 しかし、臨床予測ルール上ではスコアリングなどのスパッと分かれるものでも、結局は医師の判断となるので、そういう意味では悲しくもあまり大差がないとも言えます。

 

 

 

1-2. 2歳以上のとき

 続いて、2歳以上の時の頭部CT適応のアルゴリズム、感度、陰性的中率です。

2歳以上のとき

  • PECARNにおける頭部CT撮影の適応アルゴリズム(下記)において、臨床上重要な外傷性脳損傷(clinically-important traumatic brain injuries: ciTBI)の陰性的中率は3798例/3800例(99.95%, 95% CI 99.81-99.99)であり、感度は61例/63例(96.8%, 95% CI 89.0-99.6)であった。

PECARN(2歳以上)|小児頭部外傷と頭部CT

(出典)Lancet. 2009 Oct 3;374(9696):1160-70. doi: 10.1016/S0140-6736(09)61558-0. Epub 2009 Sep 14.

 

 先述の2歳未満のときのアルゴリズムと概ね似ています。

 PECARN(2歳以上)のときは、まずは「GCS 14点」、または「その他の意識変容の徴候」、または「触知可能な頭蓋骨骨折」のうちいずれか1つでもあれば、頭部CT撮影が推奨されます。そして、これらに該当しない際に、「後頭部または頭頂部または側頭部の血腫」、または「意識消失」、または「重度の受傷機転」、または「激しい頭痛」がなければ、頭部CT撮影は推奨されません

 もちろん、臨床予測ルールが100%完璧であるわけもなく、白黒が綺麗に分けられるものであるということはなく、臨床予測ルールだけではなく医師の判断も含めていくものになります。

 

 そこで、EBM(Evidence-based medicine)の視点からも、PECARNが各々の診療環境・患者にどの程度当てはめることができるのかを考えることになります。この研究の患者の組入条件や除外条件、対象患者のciTBIの割合をはじめ、詳しいことが気になると思います。

 それを次章で深掘りしていきたいと思います。

 

 

2. PECARN深掘り

 それでは、職場の環境にどの程度当てはまるかを考えていくためにも、PECARNについて深掘りをしていきたいと思います。

Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma: a prospective cohort study

【方法】

  • 前向きコホート研究
  • 北米の25施設にある救急外来
  • 受傷から24時間以内に受診した18歳未満の患者42,412名
  • GCS 14点または15点(2歳以下の場合は乳児・小児用GCSスコア)
  • 心室シャント、出血性疾患、ならびにGCSスコア14点未満の患者は別で解析
  • 除外項目: 地面近くでの転倒、歩いたり走ったりして静止した物体への衝突、頭皮の擦過傷や裂傷以外に頭部外傷の徴候や症状の欠如、鋭的(貫通性・穿通性)外傷、評価の難しい神経学的障害の併存、搬送前の院外での神経画像施行
  • 臨床上重要な外傷性脳損傷(clinically-important traumatic brain injuries: ciTBI): 外傷性脳損傷による死亡、神経学的介入、24時間以上の気管挿管、または外傷性脳損傷を示唆する頭部CT所見による2泊以上の入院
  • 外傷性脳損傷の頭部CT所見: 頭蓋内出血・挫傷、脳浮腫、外傷性梗塞、びまん性軸索損傷、せん断損傷、S状静脈洞血栓症、正中偏位・脳ヘルニア、頭蓋縫合離開、気脳症、頭蓋骨骨折による陥没

【結果】

  • 患者像: 42,412名の解析、平均年齢 7.1歳(SD 5.5)、2歳未満が25%
  • 14,969名(35.3%)で頭部CT撮影が行われ、うち780名(5.2%, 95% CI 4.9-5.6)で外傷性脳損傷の画像所見を認めた。
  • 42,414名のうち376名(0.9%, 95% CI 0.8-1.0)で臨床上重要な外傷性脳損傷(ciTBI)を認め、2歳未満・2歳以上の両年齢群とも同等の割合であった。

(出典)Lancet. 2009 Oct 3;374(9696):1160-70. 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 まずは方法(Method)より、除外項目臨床上重要な外傷性脳損傷(clinically-important traumatic brain injuries: ciTBI定義、ciTBIの構成要素のひとつである外傷性脳損傷に該当する頭部CT所見のあたりをしっかりと把握しておくことで、よりPECARNルールをあてはめられる度合を考えやすくなるでしょう。例えば、除外項目をチェックすると、案外「軽傷/軽症(minor)」の頭部外傷とはいっても、普段診ている頭部外傷よりもPECARNの対象としている頭部外傷の方が重症と感じることもあるでしょう。

 詳細を把握することで、PECARNで対象としている軽傷頭部外傷(minor head injury)よりも、実臨床で診ることの多そうな軽微な頭部外傷(minimal head injury)の際の推測もしやすくなるでしょう。PECARNのアルゴリズムでは、軽微な頭部外傷において「頭部CTを推奨しない」となる可能性も上がるでしょう。

 さらに、軽微な頭部外傷の際の検査前確率を考えてみます。軽微な頭部外傷であればciTBIである確率(検査前確率)も論文で想定された軽症の頭部外傷の状況よりも低くなります。すると、陽性的中率下がってくるでしょう。

 

 

 さらに、結果(Result)にまで目を向けると、小児軽症頭部外傷における臨床上重要な外傷性脳損傷(ciTBI)が全体の0.9%であり、割合にして少ないという点が個人的には少し気になりました。また、頭部CT撮影された割合が全体の35.3%であり、その中の5.3%で画像上の異常を認めています。すなわち、頭部CTにて異常を認めたものが全体で言うと概算で約1.9%しかありません。普段の「ちょっと頭を打ったから診てほしい」という環境ではもっと少ない可能性も考えられます。

 また、頭部CT検査がされなかったものが約65%あります。アルゴリズムにて「頭部CTを推奨しない」または医師の判断において頭部CTの撮影をしないとしたもので、約3分の2の頭部CT撮影が回避できると考えれば、その一部はPECARNのおかげで減らせているということでしょうか。

 専門家であれば、臨床予測ルールに関係なく元からの検査のオーダーする精度も高そうですが、そうでない場合は検査オーダーの精度は悪くなりそうなので…。PECARNの恩恵の程度を勝手に推測してしまいそうです。

 

 受傷機転の詳細や2歳未満・2歳以上の各年齢群での特徴(出典Table 1をはじめ、もっと詳しいことが出典には書かれています。これをきっかけに、ぜひ出典に目を通してみてください。

 

 

 

3. 他臨床予測ルールとの比較

 小児頭部外傷の臨床予測ルールにおいてPECARN以外にも、CATCHCHALICEというような臨床予測ルールもあります。

 これらのciTBIのに対する感度や陰性的中率の比較をしてみたいと思います。

PECARN、CATCH、CHALICEの妥当性評価と比較

  • 臨床上重要な外傷性脳損傷(ciTBI)に対する感度は同程度であった。
  • 妥当性評価において感度が最も高かったのは、2歳未満の小児におけるPECARN(100.0%, 95%CI 90.7-100.0; 転帰が確認された38/38例)および2歳以上の小児におけるPECARN(99.0%, 94.4-100.0; 97/98例)であった。続いて、CATCH(高リスク予測因子のみ; 95.2%; 76.2-99.9; 20/21例; 中リスクおよび高リスク予測因子88.7%; 82.2-93.4; 125/141例)、CHALICE(92.3%; 89.2-94.7; 370/401例)であった。
  • 陰性的中率は、すべてのルールにおいて99%以上であった。

(出典)Lancet. 2017 Jun 17;389(10087):2393-2402.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 感度に関しては高いものから順にPECARN、CATCH、CHALICEでしたが、95%信頼区間(CI)を踏まえると同程度であったという結論であると考えられます。しかし、個人的には感度だけを見ると、少しでも見逃しにくい傾向のありそうなPECARNを推したくなります。

 一方でPECARNはアルゴリズムのようですが、CATCHCHALICEは単純な項目チェックといった感じで中には使いやすいと感じる人もいるかもしれません。チェック項目の違いも含めて、気になる方はチェックしてみてください(下記はPubMedへのリンクになります)。

 

CATCH(PMID: 20142371)

CHALICE(PMID: 17056862)

 

 本日もお読みくださいましてありがとございました。

 

 

 小児救急というと、個人的に真っ先に思い浮かぶ書籍は、林寛之先生の『「子どもが苦手」な研修医へ 小児救急の極意を伝授』でしょうか。気になる方はチェックしてみてください。今回と関連する項目は第3章の中の「頭をゴツン」でしょうか。

 

 

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