『白い巨塔が真っ黒だった件』
大塚篤司(著),幻冬舎
~アカデミア・医学部教授になりたい人に~
<目次>
Twitter(@otsukaman)でも情報発信をされているのでご存じの方も多いと思います。大塚篤司先生の著書『白い巨塔が真っ黒だった件』の読書ログです。
タイトルの白い巨塔ですが、ドラマで話題となったように象牙の塔(ivory tower)とも言われ、学者の現実(俗世)離れした世界のことも意味します。その白い巨塔が真っ黒だったということです。どのように真っ黒であったのか気になる作品です。帯には「“ほぼほぼ実話!?” 教授選奮闘物語」とも書かれている、タイトルや帯からも大変興味深い書籍です。
1.【こんな人におすすめ】
- アカデミアを考えている人
- 医学部教授になりたい人
- 風通しの良い医局を作りたい人
- 大学院(博士課程)を考えている人
ひとことで言えば、「アカデミア」ですが、医局への入局とセットで大学院での研究も必要なようなところもあったり、研究より医学部教授に興味があったり、医学部教授には興味がないものの研究に興味があったりというような人もいると思いますので、このように分けてみました。また、結果として風通しの良い医局を作りたいと考えている人も、教授になるというような手段の達成という視点からもおススメです。
2. 感想など
何より、ペンネームではなく実名でこの本を世に出してくださった大塚先生には頭が上がらない思いです。そして、風通しの良い医局が増えることに希望を与えたり、教授選の不条理と戦い、風通しの良い医局を作ろうとしている人に勇気を与えるような本でした。
(注)著書内の教授選のときのように実名発信はリスクになりうる医療業界です。あくまでフィクションということですが、ご経歴や書籍の中の描写を考えれば、大学院・教授選といった内容は京都大学(京大病院)時代のことをもとにしている内容だと推測しています(あくまでも私個人の感想です)。
内容として、まずは大学院での話から始まります。研究室でパワハラを受ける話、教授の愛人の話、国際学会の話、そして教授選の話と続きます。はじめは、大学院時代の話で、教授の愛人が秘書さんという設定でした。私が変なのかもしれませんが、「今回は学生さんや女医さんのパターンではなかったのか」とか、そのように感じるレベルでした。ハラスメントや学生相手の男女関係の問題など、現代の常識からすれば無くなってほしい良くないことではありますが、導入部分から内容的にも違和感を感じず、そのまま作品に引き込まれていきました。世間一般からすれば、医療・医局界隈の裏話かもしれません。
色々と乗り越えて、話は教授選の話に移ります。教授選が3回もあり、ここが山場です。教授選が業績だけではない不条理な側面もストーリーで具体的に触れられていたり、敵か味方か分からない本音の言えない政治の駆け引きのような場面が描かれていたり、怪文書の話が描かれていたりします。教授選1回目、2回目と変化して少しずつ対策もされていく部分も参考になると思います。どのような展開になるのか、詳しくは手に取って読んでもらえればと思います。
また、ストーリーの中で登場する谷口先生のような恩師にもなりうるような先生の存在の大切さも感じました。それこそ、研究に対する姿勢や組織としての見本になると思います。
作品としての表現や場面展開にも注目してみたいと思います。例えば、次のような表現もあります。
- (研究室の)ぼくの机の上に墓石が立った
- 「私に逆らったら、この県では医者を続けられないからね」
- 「ええ、アカデミアの世界にはマフィアが住んでいます」
いかがでしょうか。驚きましたか。むしろ言われていることに違和感を感じず、上手な比喩表現だと感じる私は、またしても変なのかもしれません。親しみやすく、連想しやすい比喩表現をはじめ、全体を通して読みやすく感じました。
表現だけでなく作品の方向性やメッセージ性も素敵でした。大学院や教授選での悲しい出来事もちゃんと表現されつつも、全体としては希望が持てるような流れの作品になっています。風通しの良い医局ができることを期待させてくれることや、大変な大学院や教授選を通じて、派閥だけでなく嫉妬や妬みに邪魔されたとしても前向きに次こそ良いものを実現させていこうという意気込みを感じました。
このような内容や作品性から、アカデミアを考えている人、医学部教授になりたいと思ってる人に参考になる、希望が持てる貴重な書籍だと思います。フィクションであっても先人の失敗談から学ぶことができることや、リアルに感じて臨場感が湧くことも大きな利点だと思います。ぜひ、本を手に取って、ストーリーの内容・展開や表現をはじめ、好奇心とともに読んでみてほしいと感じます。
若手の進路を考える際の参考になるという視点でみると、アカデミアについて解像度を上げて想像しやすかったり、後を追う若手として教授選や医局員としての危険を回避するために参考になる部分があるというのは貴重なものだと感じます。もちろん、この本では特に触れられていないお金や結婚・家庭の話等もお忘れなきようにお願いします。
比較として、『レジデントノート』2023年6月号「若手医師の進路選択」を挙げてみます。以前からお話を伺っていたこともあって拝見しましたが、志望動機、診療科の良い点・悪い点、休日の過ごし方というような「よくできた」会社説明会資料のような内容に感じました。それとは異なった解像度や作品性こそ、アカデミアを考えている人に刺さるものがあると思います。
著書のストーリー上で教授に就任されたC大学(近畿大学と推測)のような、風通しのよい医局をつくってみたいという若手の夢を後押ししてくれるのではないでしょうか。そして、ついていきたいと考える人もいるのではないでしょうか。私であれば、途中で医局を辞めて他の都道府県に逃げて開業しているかもしれないとすら想像される場面でも、アカデミアを諦めずに前向きに進む勇気をもらえます。
ChatGPTによる感想まとめ
せっかくなので今回の感想等をまとめて、200文字程度でChatGPTに本の紹介文を作ってもらいました。
大塚篤司先生の『白い巨塔が真っ黒だった件』は、アカデミアの暗部をリアルに描き、風通しの良い医局を目指す若手研究者や入局志望者に希望と勇気を与える一作。教授選の厳しさや政治の駆け引きをリアルに描写し、先人の失敗談から学ぶこともできる。フィクションだが、リアルな臨場感があり、アカデミアや医学部教授になりたいと考える人に貴重な一冊。
私には書けない文体で書いてくれるのが、チャットAIの魅力です。ポップアップ広告やキャッチコピーのようなものも考えてくれるでしょう。(2023年8月2日追記)
3. 最後に
アカデミアを考えている人が、「私も理想の医局を作る」というような勇気をもらえる本だと思います。そして、大塚先生の掲げるような風通しの良い医局・医療現場がさらに増えればと思います。
ぜひ、皆さんも前向きになれる勇気と前進するための知恵をもらえるような作品を手に取ってお楽しみください。
京都の街を彷彿させる描写もありました。それとは関係ないですが、明日も頑張ろうと思える夕暮れの街並みの写真とともに今回の読書ログを締めたいと思います。
【関連記事】
また、過去の読書LogでSDGsに関する本を取り上げた際に、持続可能な働き方・医療について感想を述べたことがありました。その際に、部活動指導による過酷な労働環境の中学校教員と医師の働き方の類推をしました。そこで取り上げた『ブラック部活』という部活指導を発端とする教員のブラック職場と今後に向けて書かれた本にも似ていると感じました(下記)。今回はそのような本のアカデミア版とでも言えばいいのでしょうか。