読書Log&読書Link
『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』
成田悠輔(著)
<目次>
今回は、イエール大学のAssistant Professorもされ、様々なところで思い込みにとらわれない本質的なコメントをされている成田悠輔さんの書籍の読書ログ(読書Log)です。先日のアクセス数達成から、今までとは違い、読書リンク(読書Link)ということでこの本をきっかけに昔読んで想起した本とブレインストーミングのように考える余地を残しつつ、新たに組み合わせていく試みにしました。
成田悠輔さんの『22世紀の民主主義』に加えて、3冊の本を話題としてつなげつつ、紹介したいと思います。
1.【こんな人におススメ】
- データサイエンスに興味がある人
- 人工知能(AI)による将来に興味がある人
- 新しい発想に興味のある人
- 今の政治/選挙に満足していない人
シルバーデモクラシー(高齢者民主主義)ともいわれる現状にふれつつ、政治・政治家・選挙の在り方を提案する書籍です。普段の会話等を含めてデータを取得・検証し、選挙はアルゴリズム選びにするという夢の詰まったお話です。データサイエンスのお話としては、決して過激な話ではないように感じます。お話の内容やお話のされ方からも、膨らませていく夢を含んでる書籍であるようにも感じます。
身近なコロナの話に焦点を当ててみます。米国でのコロナ助成金はコロナ診療にほとんど効果がなく、病院のお財布を潤しただけというデータ研究のお話をおっしゃっていました。米国は明文化された基準によって助成金が配られており、もらえなかった病院と比較しやすかった一方で、日本はそもそも助成金の基準が曖昧で、結果を検証できる公開データもなかったという成田悠輔さんの話がありました。例を挙げればきりがないですが、地域振興もデータの取りやすいさやデータの利用しやすさの問題はあるものの、効果検証をされているのか分からないものもあります。そのようにもっと効果検証までされれば、「こういうバラマキは意味がない」と判断して次の政策に活かせるわけです。他にも、選挙は様々な人々の日常からの意見をデータ化して組み合わせて、それを今の選挙の代わりとなるシステムや政策に向けて、アルゴリズム化しようというものです。そして、アルゴリズムを公開し、チェックし修正していく政治家と、政治は詳しくないものの今回の参院選の元女性アイドルのようなマスコットとしての政治家を分けて考えています。
またデータサイエンスということでインタビューのような印象的なものではなく、全体の分布、1人当たり平均値や中央値といったようなデータを使うというような点も政治であればなおさら「ただ声が大きな人」やポピュリズムと異なって実態に即していそうな気がします。政治だけではありませんが、ゆるっとふわっとして角の立たない何となく良さそうに感じることを言っている人や、問題を起こさない人、埋もれてしまっている目立たない人まで、しっかりと数値(データ)で評価できるようになれば大きく変わると思います。
この話を拡張させて「医療(特に医師)にも当てはめてみたらどうだろうか」ということで過去に読んだ本も含めてつなげるということも含めて、読書リンクとしたいと思います。
2.医療に当てはめられないか?
『22世紀の民主主義』のような考え方を医療(特に医師)に当てはめて考えてみることはできないかと、ふと個人的に思いました。人工知能(AI)、人工知能まで行かなくとも機械学習も含めてデータサイエンスの考えを用いたら(データやプログラムを作ったら/使ったら)、どのように医療がなるのかを考えてみたいと思います。
データという視点に着目すると、年間130兆円もある医療介護業界という日本で数少ない「成長」している一大産業があります。皆保険制度という広く行き渡った一律の制度があるのにあまり使えるデータがないというのは、もったいないと感じます。実際に病名登録をしていて感じるのですが、「病名登録、これは〇〇でお願いします。」というようなのが月に何件かやってきます。もちろん、これは査定を通すための病名登録で、実態と病名登録では少し異なる部分もあります。日本の病名登録がどの程度使えるかは疑問です。他にも電子カルテにおいて統一規格はなく、データを集める際には大変であると考えられます。使いやすく、ある程度ベースの部分で統一されていて拡張性や共通性の高い電子カルテを日本で期待をしたい気持ちもあります。もちろん、システム・企業ごとの統一となればGAFAMのようなテック企業が幅を利かせていくでしょう。
病名登録や電子カルテが簡単にデータとして使いにくいことからでも、データとして何をどのように取得し、解析し、検証していくかを考える必要があります。Apple Watchのようなデバイスはデータを取得する統一された規格という視点からも次への展開を感じます。
話は逸れますが、輸送用のコンテナの規格を統一することで輸送を効率化できたという物流イノベーションの話があります。『コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった』という本で読みました。このようにしっかりとした規格を考え、ある程度規格を統一することで効率化するというのは、コンテナに限らず様々なところである話ではないでしょうか。他にも、日本国内のトラックによる物流では積載率が平均40%台であることや荷下ろしのための待機時間という非効率な部分もあり、それらを共通データベースやAIで効率化し、輸送コストだけでなく長時間労働や労働環境の改善を図るというような夢もあるそうです。同じような考えを医療にも流用すればよいと思います。
データを取るにしても、全範囲から手をつけていくには大変です。そういう意味では、まずは手をつけやすい一分野や検査結果と範囲を絞り、そこから拡大していくことになると思います。そして、医師が「マスコットとしての政治家」となる方向ではなく、専門性を発揮する方向では、そのデータやアルゴリズムを選択・作成・助言をすることが仕事となってくるかもしれません。それが完成すれば、煩雑な業務からの時間を開放できる夢も広がります。今でも、心電図検査では「〇〇の疑い」というような粗いアシストのようなものもついている機械があります。分かりやすく言えば、その延長です。変数を選び、各変数の重要性を検証していくことになります。小児の白血病でドナー選び(探し)をすることを過去にしたことがあるのですが、機械学習されたプログラムである程度絞り込むだけでも事務作業を減らすことができると思います。しかも、データとしても定量的に扱いやすいと思います。
驚くことに、AI機器による触診で人工地震や電気特性を使って、人による触診と同じ情報を得るというような技術も考えられています。もちろん、ちゃんと手当をしてこそ医療というような意識もあるかもしれませんが、言語化の難しかった領域の教育だけでなく利用促進にもつながる期待もあります。
煩雑な業務からの開放が、公共の医療も守ることができるかもしれません。このまま皆保険で公共の医療を維持していくとすれば、労働人口の減少や高齢化で綻び始めているこの制度や医療の持続可能性にも注目して、人材不足や長時間労働を減らす方向に舵を切れば良いと思います。これも、広い視野で思いやりであるとも感じます。例えば、目の前で子供がまたおもちゃを欲しいと泣きわめく際に買うことだけが将来のための思いやりではないでしょう。我慢をできるようにすることや「なぜ欲しいのか」という理由から考えるクセを作ることも思いやりでしょう。
もちろん、人材不足や長時間労働を減らす方向に医療AIを用いるということだけでなく、付加価値を上げるサービス業のような方向での医療AIの活用やAIによって浮いた部分を付加価値を高める方向に用いるという考えもありそうです。医療AIで浮いた時間やリソースをもっと、人と人との対話を増やす時間に充てる、それをプレミアムなものにするというような考えです。しかし、現状の医療制度では差額ベッド代のような医療のコアではない部分でしか、付加価値は上がりません。また、社会保険や労働環境の現状から考えるに、公共の医療(日本の皆保険制度)では、人材不足や長時間労働を改善する事の方が優先な気もします。いずれにしても、煩雑な業務からの開放というのは祝福すべきでしょう。
例えば、日本病理学会では病理診断AIプログラムを開発・研究しています。背景には400床以上で病理医がいない病院が約3分の1あり、1人しか勤務していない病院が約44%もあるという人的資源不足があります。AIと人とのダブルチェックして、フェールセーフとして働くことを期待されていると思います。画像であるため集約化や施設間共有もできますが、逆手に取れば、2人で長時間労働するなら、1人ずつに加えAI支援というような可能性も考えられそうです。
さらには、東大入試(偏差値約70)に挑戦する人工知能の話で、偏差値65ぐらい(MARCH)ぐらいが限界という話を聞いたこともあります。もちろん、そのような限界はないという話もありますが、人工知能は少なくとも偏差値65ぐらいは達成できるという希望でもあります。これは、アルゴリズムによって動く医療AIが偏差値65ぐらいであり、医療AI(もしくはそのアルゴリズムによるを支援システム付き医師)の方が、噂に聞く化石のような医者よりもよい医療を提供する可能性も秘めています。
病名登録のような部分を超えて、他にも効果検証をするためのデータ収集の促進となることにも期待しています。抗がん剤などの薬のRCTというような論文でよく見る内容だけでなく、統合医学(補完医学)、さらにはナラティブメディスンやスピリチュアル、患者中心の医療というような部分まで現場を含めた全体で、定量的で客観的な評価によって効果が可視化できるようになれば、効果に基づいて医療が考えやすくなるのではないでしょうか。これらに関しては、医療そのものなのか、医師の専門性と言えるのか、対人スキルのようなものなのか線引きは難しいものもありますが、患者さんにどの程度の効果があるのか、そして費用対効果がどうなのかという部分の客観的なデータが増えると嬉しいと思います。哲学対話のようなものも大切ですが、結果を求められる部分ではこのようなデータによる結果の検証が大切でしょう。
エビデンス例: AIによる慢性疼痛に対する認知行動療法
画像・波形解析に関連すること以外でもあくまで一例ですが、実際に論文になっているものもあります。慢性疼痛に対する認知行動療法(Cognitive behavioral therapy for chronic pain: CBT-CP)において、基本的にAIによる治療を受けた群(AI-CBT-CP群)と、セラピスト(療法士)による45分間の電話での治療を受けた群(CBT-CT群)での無作為比較試験が行われた論文を見つけました。
慢性疼痛に対するAIを用いた認知行動療法(AI-CBT-CP群)は、セラピストによる電話を用いた認知行動療法(CBT-CP群)に劣らず、セラピストによる治療時間が大幅に短縮されることが示された。
(出典)JAMA Intern Med. 2022 Sep 1;182(9):975-983. doi: 10.1001/jamainternmed.2022.3178.
もちろん、AI-CBT-CP群ではオプションとして15分のセラピストとの電話や、問題が生じたときの45分の電話が用意されていましたが、それを入れても人による治療時間の大幅な短縮となりました。論文は日本とは引継ぎ等の労働環境が異なる米国でより多くの患者を診ることができる点に焦点が当てられていましたが、いずれにしても生産性が高くなると考えれば良いでしょう。そして、AIだけで解決するとも思わないので、想定されたようなAIの使い方であると思います。
あくまで、3カ月や6カ月での非劣性を示すことができた研究で、AIが実験導入しやすい緊急性の低い治療であったように、limitationもあります。しかし、もっと長期間追跡したものや他のものでもいずれ、研究やそれに基づくエビデンスが増えていくと思います。AIは今後も進歩していくことを考えれば、スタートラインに立ってきたという印象でしょうか。論文のタイトルの患者中心の("patient-centered")疼痛ケアという表現の部分も含め、今後に期待したいと思います。
3.他の本と繋ぐ『10年後の仕事図鑑』
『22世紀の民主主義』を読んで、ふと思いついた書籍がありました。過去に読んだ書籍を振り返ってつなげてみたいと思います。
『10年後の仕事図鑑』ということで、AIの登場による新たな時代の仕事に対する考え方、働き方、お金や幸福といった全般的な話から、会社や会社員の未来、もっと具体的な職業ごとの変化(なくなる・減る仕事)といった話まであります。似たカバーをしている『2030年の世界地図帳』と同じく、読みやすくて見やすい構成となっています。そこで、医者や介護職も取り上げられていました。また、遠すぎない10年後というのが、逆算して想像や行動しやすいと思う点も素敵だと思います。
医師は治療・手術に専念できる
医師がAIに代替されることはないにせよ、役割は大きく変わってくるだろう。
数万通りもある診断パターンから、そのつど100%適切な対処を下すのは、人間である以上不可能だ。しかし、AIならできる可能性がある。AIに「病気かどうか」の診断基準を学ばせれば、ある程度スーパードクターが誕生する。すると、医師は「診断を下す人」ではなくなる。煩雑な業務をする必要もなくなり、患者と直接かかわってケアをしたり、手術したりすることに専念できるようになるだろう。
OCHIAI’S NOTE: あとはより少ないモデルの獲得をすることだろう。
ここでも、やはり煩雑な業務をする必要がなくなるという部分が鍵であると思います。これこそ、2024年問題の働き方改革のヒントにもなりそうです。
2018年(出版時)から見た10年後ということなので、これぐらいの内容なのでしょうか。第3次AIブームのAI画像診断あたりに焦点になっているような印象です。確かにこの分野は、パターン認識に基づく部分が多いため、早期にAIで代替できる部分は多いと考えられます。
例えば、胸部画像ではCAD (Computer Aided Diagnosis) が行われており、AIとも親和性が高いと考えられます。既にノイズ除去や画像の位置合わせといった技術も進められており、健診時の画像のような状況下で最初にAIを導入しやすいところとも言えます。また、CADの中でも特にコンピュータ検出支援(CADe: Computer Aided Ditection)も用いることで、初期病変に気がつかないことへのフェールセーフとして安全性を高めることも可能です。とりわけ、AIには長時間労働や当直・夜勤明けのような過労がないというのもメリットだと感じます。コンピュータ診断支援(CADx)では、特に作業を減らす効果も期待できそうです。医療以外で想像しやすいものを挙げると、契約書チェッカーとなるような便利なソフトもあり、契約書のPDFから注意喚起をしたり、急ぎの際にもミスを減らせるという、似たようなCADと似たようなメリットがあります。
治療方針の決定は、患者の社会・経済的な背景の考慮等が必要であり、まだ先の話になると思います。一方で、可能性のある選択肢を提示する治療支援システムぐらいはできそうな気もします。そこまででなくても、UpToDateのようなものが自ら検索しなくても必要なページが画面横にアイコンのように表示されるだけでも、手間が減ります。
落合陽一さんの最後のNOTEの部分は示唆にも富んでいます。例えば、診断支援AIで陽性的中率を考えた場合に、稀な疾患では偽陽性が増えてしまいます。総合診療の診断難症例のようなプログラムを別にするというのもひとつでしょう。想定外・ハズレ値や稀な疾患・稀な治療を意識する必要があり、統計の知識も活かせるでしょう。稀な疾患や治療に加え、既存の疾患・治療では何か説明できないような新たな疾患概念・治療法といった部分も従来からの考えでも専門家として残されていく部分とも言えそうです。アルゴリズムを考える・選ぶことを含め、ルーチン作業の部分ではなく、医学的な判断や思考の部分を仕事としてくことができそうです。
今の若手・中堅ぐらいの年齢の人とっては、これより先の未来に起こりそうな変化を頭の片隅に置いておいてもよいかもしれません。いつ、どの程度携わるかは人次第ですが、新たなことを吸収して周りが変化してく中で、新しいことを取り入れることはもちろん、現状を維持していくことも判断した結果と考えるとよいでしょう。現状維持は単なる惰性だけではなく、しっかりとしたところでは比較検討した結果のはずです。
いつか、その選択肢が現実味を帯びてくるという意味では、成田悠輔さんのデータサイエンスを医師に当てはめれば、20年・30年先のゴールのひとつなのかもしれません。いずれにしても、工業化したときのように煩雑な部分の手間が省けるという期待ができます。また、今まで熟練してきた年配の医師の技術を取り込んでいく視点でも協力があれば、有難いでしょう。
4.抵抗とどう向き合っていくか
医師が、医療におけるアルゴリズム選び・作成というようなデータサイエンスに関わるとなると、抵抗が予想されます。まず、50歳程度より上の人は今のままで逃げ切りができそうな年齢層でもあり、長年そのような環境で上に登ってきた人なのでその気持ちも分かります。他にも、自分の生活を守るために既得権のようなものにすがりついているというような事情がある人の抵抗も想定されれば、プログラム医療機器として広めるために業許可だけでなく、実質的に保険収載というハードルもあります。日本社会に蔓延っているとも考えられる失敗への恐怖がある人(挑戦して失敗すると後ろ指をさされる社会の流れ)もいるかもしれません。今タネを撒いておかなければ、さらに手遅れになる可能性は高いものの、現状では変えていくほどの余力がないと感じる人もいると思います。そして、今回取り上げた書籍を見て、選んだ私自身に対して否定的な反応を示す人もいるでしょう。これこそ、成田悠輔さんが日本以外にも基盤を持っている(一か所に依存していない)ことや『22世紀の民主主義』のシルバーデモクラシーに対するお話のようなマインドも新たなことをやっていく際のヒントになるかもしれません。
親世代が息子に価値観や常識を押し付けるのが違うと感じるように、これまでの慣習や伝統から「普通は・常識として〇〇すべき」と強制していくのは違うと思います。世代によって大切にしているものごとも異なってきます。普通や常識もバイアスがかかったものです。選択も自由です。むしろ、失敗しながらも立ち直り、挑戦し続けられる環境があればいいと持っています。
一方で、常識だとか慣習だとか言っている人は、その人たちの作り上げた現状の世界の中でピラミッドを維持していけばよいと思います。そうすれば、プライドもその中では維持されるでしょう。他にも、いったん従来のピラミッドを登るとそれがサンクコストになってしまい、既得権側のようになることもあります。始めるよりやめる方が決断が難しいとはこのことです。
そして、成田悠輔さんの書籍から伝わってくる決意のようなものがあります。新たなものを作り上げていく人は「既成のものはどうでもいい」と突き進んで行ってほしいというような期待が湧きました。次の世界は、これまでのようなピラミッドの形をしていないかもしれません。もちろん、新しい敵の足を引っ張り合ってやるとは考えずに、もしくはいずれくる時代の波だと考えて、熟練の技を「言語化」するのに手を貸して頂き、リターンなり、仕事の効率化なりの利益享受をし、尊重し合う関係となってお互いwin-winとなれば嬉しいと感じます。
挑戦者は新しい考えやものにより、これまでのシステムで昇り詰めてきた人からの抵抗を受けるかもしれません。しかし、従来からの多くの人の中で一般的だとされる価値観の延長で世間体や評価を気にしすぎる真面目な人になりすぎず、大きな勘違いのような、人に後ろ指をさされてよいというような、鈍感さとでもいえばよいようなものを兼ね備えて進んでいって欲しいと感じます。特に、代案のない・揚げ足を取るだけの批判は無視していけばよいと思います。そんなオーラというのか、心持ちのヒントが成田悠輔さんの動画や『22世紀の民主主義』の書籍にある気がします。
人工知能(AI)で医師−患者間の人対人との直接のコミュニケーションが減り、「寂しくなる」という意見もあるでしょう。もちろん、臨床意志決定支援AIも考えられています。それだけでなく、入院患者の世代変化も後押しとなると思います。
現在の80~90歳代では高齢者向け用携帯電話ですらやっとの人も多いです。しかし、あと20年もすると、多くの人がスマホを使う世代になります。病院側も環境を整える必要はありますが、昨今の面会制限に関係なくテレビ電話やオンラインのビデオ通話サービスも自ら使うことができ、家族との会話もできるはずです。選択肢を増やす方向でのオンラインの医療へのさらなる活用のみならず、寂しさを紛らわせるという部分での医療者との会話を望む部分は減るのでないでしょうか。他にも生身の医療職という枠を超えて、AIも含めて相談相手のような役を考えてもいいかもしれません。
工業化のときのようにはじめは抵抗があることは承知ですが、職人による製品の方が今では付加価値の高いものが多く、手頃な工業製品がなかったとしたら困る人も多いでしょう。利点だけではなく、工業化によって大量消費というような問題点も生じました。その視点で言えば、人工知能と人が同じ方向で競うと賃金の低下というのは考えられるでしょう。そのため、データを取ったり、アルゴリズムを選んだり・作成したり、チェックしたりと、管理する側になるというのを考えて、共生していこうと考えています。
また、日本の医療費は年間42兆200億円(2020年度)です。コロナのような大きな変化がない限り、毎年1兆円近く増えています。医療規模でも世界最大規模です。データサイエンスには必須のデータに関しての素地はあります。これらをビッグデータとして、有効活用しない手はないと思います。『10年後の仕事図鑑』で共著されているホリエモンで思い出したのですが、既得権を過度に維持/バレたらまずいことにフタをするために、ライブドア事件のような成長を妨げる規制や見せしめを日本がせずに、環境整備や法整備がされることを期待したいと思います。
5.最後に with『アイデアのつくり方』
読書リンクの初回なので、それにふさわしい書籍もつなげてみたいと思います。
『アイデアのつくり方』、ジェームス・W. ヤング(著)という本があります。今回のように「新しそうなアイデアも、既存のアイデアの組合せである」ということを解く書籍です。既存のアイデアの組合せと考えることができたなら、新しいもので不安だからという理由で抵抗を示す人には、もっと受け入れやすくなるかもしれないですね。先ほどのデータ取得・検証と統一規格で効率化の話での輸送用コンテナの例も、既存のアイデア(規格統一)を輸送コンテナに当てはめたとも言えます。
他にも、DX化もまったく新しいことではないと考えています。最近では、DX化という言葉が独り歩きするように流行っています。もともとパソコンなどもありました。バズワードや商機のような面がある一方、マズい状況を話題にするきっかけとしやすい面があります。そして、デジタルトランスフォーメーション(DX)は社会の在り方であり、ただ各病院や企業に合わせたオリジナルなマイナーなシステムでデジタル化するのではなく、それなりに最適化されて統一化されてパッケージ化されたシステムを入れることだと考えています。実際には過去のビジネストランスフォーメーションによる効率化のデジタル化版がDXであり、その延長でデータサイエンスやアルゴリズム選び・作成にかかわると考えれば、根底にある考えは過去と同じではないでしょうか。
今では斬新にも聞こえる、以前の日本の考えのひとつを紹介します。経済企画庁長官でもあった堺屋太一さんの経済白書(平成12年)では、この100年間の日本が経済成長をした理由は、その都度臨機応変に制度を変更してきたことと、人的資源であると言っています。終身雇用や年功序列、社会福祉制度も1950-60年代の人口構成や人口ボーナスやそれを元にした経済発展をもとに作られたもので、終身雇用・年功序列は新しい制度であることも明らかに感じます。物理的な資源のない国なので人的資源に目を向けたと考えられますが、使い捨ての職場では言わずもがなであり、人的資源を昔は大切にしていたようです。
日本の現状からすれば斬新なことのようにも聞こえます。本人には新しく見えることでも、実際にはすでに考えている・考えていた人が多数いるとも言えます。英語で検索すれば、より顕著でしょう。
今回の医療AIの話も数年前ほどからそれなりの大きさの書店には本が並ぶようになりました。本がSF小説を読んでいる人にはもっと壮大な世界観というのか、未来のイメージがあるかもしれません。技術の延長ではなく、SF小説の世界から必要な技術を考えていくというのも夢があると感じることがあります。
そして小説や小さな文学作品には、大手メディアではコンプライアンスや炎上対策で憚られるような汚い業と本音のような言論の自由も残されていたり、参考になる部分もあるかもしれないと感じます。介護とか尊厳死についての小説でタイトルは忘れましたが、次のような比喩を読んだ記憶があります。とか「優しさに見えるその介護も、おぼつかない足取りでうろつく老人に転倒されて仕事の邪魔や責任追及されないため」とか、「手を差し伸べずに見守る介護は手を差し伸べる介護以上に消耗する、介護度3を5にする介護」とか、「本気で死にたがっている介護者を見極め、足の筋肉という第二の心臓を奪うことは考えられていない」というような、キレイごとだけでは済まされない、何かを考える際に見ないままではいけない・無視できないような視点も含まれていたりします。
文学作品も含めて、既知のものを取り入れたり、組合せたりすることで多くの「新しい」ものが考えられそうです。
最後に、今回の本のタイトルに立ち戻ると、民主主義ということで、今のような余命・関連性等に関係ない1人1票の目に見えやすい平等(公平とは限らない)な投票では、若い人の方が数が少ない現状における単なる多数決では勝ち目がないと考えています。テクノロジーや思想、ビジネス(大きなものだけではなくシェアハウスや地域コミュニティの集いカフェのような新たなものも含む)のようなもので変えていく活路を見いだせればと考えています。
あとは、どのように行動していくか、取り入れていくかが重要であると思います。現実を見る部分(例えば、ミニマムの生活は運用含めて〇〇で確保)と、夢を見る部分を分けるというのもあるでしょう。人工知能や機械学習を作る・考えるにしても、利用するにしても、あなたの行動が何かをもたらしうるという希望と共に読書ログを終わりにしたいと思います。
『22世紀の民主主義』を読んで、さらに興味を持った場合、「データサイエンス」や「医療AI」というような分野・タイトルの本を探して学んで深めていくのも興味深いと思います。過去に読んだ書籍で『これだけでわかる!医療AI』というような、数式なしで全体像を掴むのに役に立つ様々な書籍もありました。
ブレインストーミングのようなお話にお付き合いくださり、ありがとうございました。
【さらにその先へ】
医療AIの入門書(概論)について、聞かれたことをきっかけ医療AIの入門書についての医学書ログを記事にしました。第3次医療AIブームとしての画像解析(AI画像診断)を中心に興味のある方はよろしければ、ご覧ください。
医療AIではなく、対話型AI(チャットAI)を医療情報収集や医療現場でも使うことはできないかということもチェックしてみました。第1弾としてChatGPT、第2弾としてPerplexity AIを扱います。こちらも、よろしければご覧ください。
今回取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。
規格をある程度統一することで効率化するというような、役に立ちそうな既存のアイデアのひとつとして輸送用コンテナのイノベーションの話です。古いものが合理的な新たなもの変わっていく際の古いものにしがみつく人による抵抗やブルシット・ジョブ、新たな合理的なものを取り入れて挑戦する人の行動も見物のストーリーです。
【関連記事】
検証可能なデータと同じく、様々なところでしっかりと検証するための数値化について興味がある方はよろしければご覧ください。
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