腸疾患・腸炎の病変部位と原因
~好発部位から考える鑑別疾患~
<目次>
例えば、「腸結核であれば回盲部が好発」というようなことが、ふと思い浮かぶことはありませんか。教科書等でもそれらがまとめられているようなページがあったか記憶が曖昧である一方、腸疾患や腸炎の病変部位から鑑別疾患を考える際にヒントとして役立つかもしれないと感じました。久しぶりの想起も兼ねて記事にしてみることにしました。
1. 細菌性腸炎・寄生虫症
まずは、腸疾患や感染性腸炎の中でも細菌性腸炎や寄生虫症のときの好発部位をチェックしていて見つけました。例えば、腸結核であれば回盲部に好発するというようなことを耳にすることがありますが、実際にはどうなのでしょうか。
画像診断では画像所見のみではなく、部位も診断には重要な要素であるため、好発部位を把握しておくことは重要である。
(出典)大川清孝, et al. "4. 感染症; 細菌, 寄生虫." 日本内科学会雑誌 100.1 (2011): 71-77.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/100/1/100_71/_pdf
病変の好発部位が1つというわけにはいかないようですが、上記のようになるようです。
終末回腸~右側結腸が好発部位である病原微生物として、エルシニア、サルモネラ、腸炎ビブリオ、チフス、パラチフス、結核菌と挙げられています。腸結核の場合、回盲部が好発というよく耳にする部位も含まれています。
全大腸の場合は、カンピロバクター、細菌性赤痢菌、サルモネラ(直腸病変なし)です。サルモネラも確かに右側結腸だけでなく全体に及ぶこともあり、部位でヒント程度にはなりうると改めて感じる程度です。
右側結腸の場合は、腸管出血性大腸菌、盲腸・直腸の場合は、赤痢アメーバ、さらに盲腸の場合は、鞭虫、蟯虫と続きます。胃・小腸が好発部位のアニサキスは知っている人も多いと思いますが、十二指腸~上部小腸(ランブル鞭毛虫、糞線虫、クリプトスポリジウム、イソスポーラ、サイクロスポーラ)、上部小腸(コレラ、横川吸虫、広節裂頭条虫、鉤虫、有鉤条虫、無鉤条虫)、小腸(回虫、旋尾線虫)となると、感染症に興味がある人やその辺りの感染症に触れている人でないと、普段から意識するほど身近には感じられないかもしれませんね。
もちろん、感染性腸炎として症候や病歴などからも鑑別を絞っていくことも大切ですが、病変部位でも可能性が変わりうる、原因特定のヒントになりうるという視点も持ってもらえたら幸いです。
この出典では、X線造影、腹部エコー・腹部CTにおける画像所見にも触れています。例えば、エルシニア腸炎における回腸末端の著明な壁肥厚や回盲部周囲の著明なリンパ節腫大といった、それぞれの病原微生物ごとの画像的な特徴などが気になる方はチェックしてみると良いと思います。
2. 炎症性腸疾患(広義)
先述のような感染症だけでなくて、虚血性腸炎であれば脾弯曲部や下行結腸(左側結腸)というような好発部位を覚えている人も多いと思います。虚血性腸炎だけでなく、様々な疾患における好発部位をチェックしてみます。
内視鏡観察により得られる情報は病変部位、分布様式、および所見であり、疾患によって異なるパターンを示す。
(出典)清水誠治, et al. "炎症性腸疾患の鑑別診断." 日本消化器内視鏡学会雑誌 56.1 (2014): 3-14.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/56/1/56_3/_pdf
今回は画像診断ではなく、内視鏡関連の文献からです。検索のキーワード等のせいか、英語で良いものが見つからず、またもや日本語検索で日本語の文献からになりました。
先ほどの感染性腸炎(細菌性腸炎、寄生虫症)の場合も込みで広義の炎症性腸疾患ということでまとめられていました。腸結核のように、多少病変部位に関する記載にズレもありますが、概ね一致しているものもあります。
直腸では、潰瘍性大腸炎、急性出血性直腸潰瘍、宿便性潰瘍、NSAIDs座薬起因性直腸潰瘍、直腸粘膜脱症候群、アメーバ性大腸炎、偽膜性大腸炎(CD腸炎)、アフタ様大腸炎、放射線性大腸炎、虚血性直腸炎、cap polyposis、クラミジア直腸炎、直腸梅毒、サイトメガロウィルス腸炎などが挙げられるようです。潰瘍性大腸炎の名前を見ると、炎症性腸疾患もお出ましといったところでしょうか。細菌性でもクラミジアや梅毒(梅毒性直腸炎)が候補に挙がっており、こちらは性感染症でしょう。それもあってか、他の部位に比べて、ピットフォールになりやすい鑑別疾患も含まれていると感じました。
右側結腸ではクローン病、回盲部ではクローン病、腸管ベーチェット病のあたりの腸疾患も挙げられています。先述の細菌性腸炎もありますが、腸結核とクローン病が並んでいます。
小腸では、クローン病、NSAID 起因性腸炎、腸結核、非特異性多発性小腸潰瘍症、好酸球性胃腸炎、IgA血管炎(Schönlein-Henoch 紫斑病)、SLE、ブドウ球菌感染症、腸炎ビブリオ、ノロウィルス感染症、旋尾線虫タイプX 幼虫移行症、アニサキス症、放射線性小腸炎、アミロイドーシスなどと挙げられています。クローン病と腸結核だけでなく、IgA血管炎やSLEも加わって鑑別疾患が多くあります。やはり、ここでも腸結核とクローン病の両者があり、両者の鑑別ポイントが気になる鑑別疾患の候補でした。
あと、全体を通じて興味深いのはクローン病のような炎症性腸疾患だけでなく、薬剤性(NSAIDs起因性腸炎)も目立つところでしょうか。抗生物質起因性出血性大腸炎のような抗菌薬によるものもあり、薬剤性は忘れられませんね。
【補足】 腸疾患の分布様式
感染性腸炎や腸疾患の好発の病変部位をチェックすることで鑑別に役立ちうるという視点で見てきましたが、病変部位のついでに同じ文献で分布様式も見つけました。例えば、「潰瘍性大腸炎が連続性、クローン病が非連続性」のような鑑別の仕方は、病変部位での鑑別に近いと思いますので、補足しておきたいともいます。
内視鏡観察により得られる情報は病変部位、分布様式、および所見であり、疾患によって異なるパターンを示す。
(出典)清水誠治, et al. "炎症性腸疾患の鑑別診断." 日本消化器内視鏡学会雑誌 56.1 (2014): 3-14.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/56/1/56_3/_pdf
先ほどの出典の分布様式に今度は着目します。連続性、区域性、限局性ないし単発性、多発性・連続性に分けられています。テーマの補足なので軽く流したいと思いますが、ここでも分布様式が多発性・非連続性の中にクローン病と腸結核が挙げられており、両者の鑑別が気になるところです。
他にも内視鏡における所見の一覧の表も鑑別に役立つので気になる方は出典を見てみてください。その中でも、狭窄、浮腫やびまん性炎症、隆起、潰瘍というような項目は画像での鑑別の際にもヒントになりそうです。
3. 最後に
腸疾患や腸炎の病変部位(好発部位)による鑑別はいかがでしたでしょうか。画像診断でも、内視鏡でも役立つときがあると思います。
個人的には、クローン病と腸結核の病変部位が小腸、回盲部、右側結腸と重なっており、分布様式も多発性・非連続ということで、鑑別ポイントが気になりました。もちろん、あくまで好発というわけでこれ以外の形で現れることもあるでしょう。
腸管壁異常に対するCT画像診断の総説に目を通していた時に見つけた言葉で締めたいと思います。
- 補足的な腸管壁の形態学的因子や局所的因子は、特定の診断に追加的な、あるいは場合によってはより優れた洞察を提供する。
- 最終診断には信頼できる臨床情報が常に加味されなければならない。
(出典)Radiographics. 2002 Sep-Oct;22(5):1093-107; discussion 1107-9. doi: 10.1148/radiographics.22.5.g02se201093.
今回の病変部位もひとつの因子と考えれば、上記の通りだと思います。絶対的ではないものの、症状や身体所見、検査結果などの他の診療情報も合わせたうえで鑑別のヒントになれば幸いです。
本日もお読みくださいましてありがとうございました。