"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

医学の趣味人"Med-Hobbyist"のブログへようこそ。医学に関連する「なぜ」・「なに」といった好奇心を大切にする場所として、体験・読書をシェアする場所として、過去の失敗談やヒヤリを棚卸する場所として、傷を舐め合う場所ではなく何かヒントを得られるような場所にしたいと思います。少しでもお役に立てば幸いです。

臨床推論 症例探し・下調べ|自学自習や勉強会の開催に向けて(おススメの本も)

臨床推論 症例探し・下調べ

  • 自学自習や学生主体の気軽な勉強会開催に向けて
  • おススメの本

 

<目次>

 

 

 学生内・学生向けの臨床推論診断推論)の練習のために学内外(院内外)で症例提示をする際に、主に書籍や雑誌から症例を選んで、様々な準備をして行ってきました。その過去の体験を振り返り、お伝えできるものが少しでもあればという思いです。

 想定している勉強会は、1症例60分~120分等で行うような気楽学生だけでも可能な勉強会です。学び始めの初期研修医の頃にも応用可能だと思います。

 進行としては、まずは簡単な現病歴から鑑別や追加問診を挙げてもらい、プレゼンターが追加問診を開示し、さらに取りたい身体診察を挙げてもらい、プレゼンターが開示し、行いたい検査を挙げてもらい、プレゼンターが検査結果を開示し、さらに最終診断に迫るものです。

 何より参加者に楽しんでもらい、疾患について、治療について、鑑別について調べてみようとか、文献検索してみようとか、自学自習きっかけモチベーションアップなる、参加者同士つながる等、何か今後につながるお持ち帰り内容があればという思いでやっていました。先生と一緒にやることのメリットも多いですが、日常的な練習や手軽さのために行う学内でこじんまりとした会をはじめ、少しでも気軽に開催できるところが増えたり、自学自習のきっかけとなったり、楽しい好奇心の探求になればという思いで書いています。

 

 今回は、症例の難易度設定症例探し(学習用の症例報告や書籍など)、症例の下調べ(主に書籍やコンテンツ)、番外編としてSnap Diagnosisの症例の探し方の4つに分けて、臨床推論の勉強会(練習)の際にプレゼンター(症例提示役)・進行役として、症例探しや、進行・準備(事前学習)の際にとりわけ参考にしたものを紹介します。その際の調べものに用いたり、自習にも使いやすいおススメの医学書も紹介したいと思います。

 基本的に書籍を紹介する場合は、読者レビューも書かれていることの多いアマゾンへのリンクを準備致しました。読者レビューなどが気になる方はチェックしてみてください。

 

 

1.症例の難易度設定

 では、症例の難易度設定からお話していきます。症例のネタは参加者(勉強会)の難易度設定や目的に合わせて選んでいました。個人的な感想ですが、まずはどのような最終診断(疾患)の症例を選ぶかという視点で表にしてみます(表1)。

 

表1. 主な症例の難易度設定

 

超初心者

初心者

(やや初)中級(やや上)

上級

よくある疾患の

Common manifestation

よくある疾患の

Uncommon manifestation

ちょっと稀な疾患

稀な疾患

 

<定義>

超初心者:臨床推論って何かさえあまり分からない。

初心者:症候から鑑別がいくつかは出る程度。鑑別疾患の挙げ方(分類)とかも何となく意識し始めたぐらい。

中級(やや初心者):症候から鑑別は稀な疾患以外であれば、だいたい思い浮かぶ。

中級(やや上級者):症候からメジャーな鑑別は思い浮かび、稀な疾患も少しずつ知っている。攻める問診もある程度できる。

上級者:鑑別は稀な疾患まで多く知っていて、攻める問診ができる。(上級者の中でも上の人は診断仮説を立てる際にオッカムの剃刀のように1つにまとめる能力も高く、ヒッカムの格言のように切り替えることもできる。)

 

 このような難易度設定のイメージで参加者や目標を考えて、探す症例のターゲットを絞りました。

 初心者ほど、こういう症候や状況の際の対応考え方、よく見かける病気についての知識ようなものが学べる方がお持ち帰りポイントになって良いと思います。逆に上級者に行くほど、ポットフォール珍しい疾患のことなどを学べる方がお持ち帰りポイントになって良いと思います。使う症例の難易度とそれにあった参加者のレベルに合わせたお持ち帰りポイント(学習ポイント)が用意できるとよいと考えています。

 

 

2.症例探し

 それでは難易度ごとに症例を探してみたいと思います。やはり、上級者向けであればあるほど、すでに出会ったことのある症例でないように出典を選びました。上級者である、もしくは上達を目指して自学自習している人ほど、既存の参考書(症例集)や直近の有名な雑誌等の連載を見ている人の割合が多く、そのあたりの配慮もしました。症例報告を検索で探すこともありましたが、検索と関係なく主に見に行っていたソースを紹介します。難易度に関しては、雑誌や書籍の中の各症例次第ですので、参考程度にお願いします。

(注)改訂に気がついたものは最新版に更新して紹介しています。

 

2-1. 英語教材症例(論文)

 主な探す先(検索ではなく「この雑誌を見に行く」というようなもの)

<上級へ向けて>

  • New England Journal of Medicine (NEJM) > Case Records of the Massachusetts General Hospital
  • New England Journal of Medicine (NEJM) > Clinical Problem Solving

 

<中上級へ向けて>

  • Cleveland Clinic Journal of Medicine (CCJM) > Symptom to Diagnosis
  • Mayo Clinic Proceedings > Residents’ Clinics

 

  New England Journal of Medicine (NEJM)はご存じの方も多いと思います。もちろん、しっかり考えられる、ディスカッションのやりがいのある症例が多いというのが理由にあります。基礎的な部分(腹痛の基本的な鑑別を列挙するとか)は完成している人もしくは、参照先の書籍やデータベースを持っている人向けで、その先のディスカッションを楽しむことを目的に選んでいました。ディスカッションで点を1つの線にするようなひとつの診断を考える「オッカムの剃刀(Occam’s razor)」のトレーニングになります。

 さらに、なぜ英語の症例からかというと、Google等で検索して調べてもまずヒットしないから勉強会中にネタバレしにくいというのもあります。もちろん、パワーポイントを作成する際に翻訳するひと手間が必要ですが、参加者に症例がネタバレしてしまうのは、せっかく参加してもらうにもかかわらず申し訳ない気がして英語のものから選ぶことが多かったです。特に学外や院外向けで、やる気があり道具を使いこなしている人が多い場合には英語のものを意識しました。CCJMのSymptom to Diagnosisは、本の『Symptom to Diagnosis』(訳本『考える技術』)ではなく、NEJMのCase Recors of the MGHのようなものに似た位置づけのレジデントや医学生向けのものです。各医学雑誌のContentやArticle Typeから、それぞれ特集のページを探してみてください。

 

 次に学内・院内等でもっと気軽に実施するという視点からの症例の探しです。やはり、日本語で気軽にやるとなれば、日本語の症例集のようなものをみんなで使っていました。一緒にやる人の英語に対する難しさ・気軽さによっては洋書もお勧めです。次に紹介するような症例集を複数見つけたきっかけが、私自身は自学自習でした。自学自習の際に「この症例は○○でテーマが来たら、使えそう」などとチェックもしていました。そのため、自学自習している人と被らないようにする配慮も可能な範囲でしました。そして、書籍をもとに行うことで、症例部分を気楽にホワイトボード等に書きながら行うようにすることも可能で、事務的な準備も簡単にすることもできました。

 院内等で先生のご指導を頂ける場合には、体験した症例などを元にした振り返りカンファのようなものでも良いでしょう。あくまでも自習用という視点ですが、経験症例で用いる場合も症例の難易度学べる事も含めて、応用してみてください。

 

 

2-2. 日本語教材

 日本語の書籍などから症例を探す場合は主に下記のような書籍を参考にすることがありました。もちろん、J-stageなどでちょうどよいものを見つけることもありましたが、やはり書籍等のものは手軽に使いやすい物が多かった印象です。また、解説がしっかりしていたり、現病歴から検査結果までしっかり書かれており、書かれていない内容をアレンジして補う・もしくは記載なしと言う必要性が少ないものが多かったです。

 

<中上級へ向けて>

京都GIMカンファレンス関連

  • 『診断力強化トレーニングWhat’s your diagnosis?』

 

  • 『診断力強化トレーニング2 What's your diagnosis?』

 いずれも、かの有名な「京都GIMカンファレンス」からの症例です。途中の解説を自分で調べる必要性はありますが、やはり面白い症例が集まる有名カンファレンスからの症例です。普段から京都GIMカンファレンスに参加していない場合は、最近の症例から1症例ほど、『総合診療』の雑誌にて連載されています。カンファレンスに参加しましたが、参加できる場合は、現地での雲の上をいくようなディスカッション等も聞くことができるため、Zoomを含め参加することがおすすめです。上記の書籍とは関係ないですが、もう少しお手軽に東京GIM等もあります。

 

  • 『診断推論Step by Step 症例提示の6ステップで鑑別診断を絞り込む』

 解説が充実していて、1症例ごとにその中で段階を踏んで進めることができます。解説しやすい京都GIMカンファレンスを厳選したとも言えます。

 

  • 『総合診療』連載「オール沖縄!カンファレンス レジデントの対応と指導医の考え」 →レジデントの対応と指導医の考えという視点からの解説が載っています。京都GIMよりは優しめの印象です。

 

  • 『診断と治療』連載「症例を俯瞰する総合診療医の眼」 →雑誌連載なのでネタバレも少なく、解説が充実しています。汎用性の高いの考えさせられる症例です。

 

  • 『症例検討から学ぶ 診断推論戦略』

 対話形式でGIMカンファレンスを体験できます。対話から、臨床推論での思考過程を解像度を上げて学ぶことができます。例えば、症例1のReview of Systemの陽性項目が多い時の特異的な項目やノイズの具体的な選別を垣間見ることができます。詳しくは下記の記事もご覧ください。

 

 

  • 『諏訪塾ダイナマイトカンファレンス 明日あなたの臨床は変わる』

 対話形式で進められていくのが特徴的です。京都GIMよりは優しめです。

 

 解説もコンパクトで症例集に近いことや、〇〇内科というような区切りで症例が集めてあるのが特徴です。

 

  • 『Dr. 宮城の白熱カンファレンス 診断のセンスと臨床の哲学』

 宮城征四郎先生をはじめとする先生方の書籍で、汎用性の高い症例で診断に至るまでの過程でも発見がある内容というような印象です。

 

 

<中級へ向けて>

  • ティアニー先生の診断入門 第2版

 解説が充実していて学びが多く、ティアニー先生の鑑別疾患やプロブレムリストを見ながら、オーダーした検査という項目など順々に進めていくことができます。

 

 解説はコンパクトな症例集といった印象で、受験勉強でいうならチャートに例えられそうな本(症例集)です。
 

 クイズに近い感じでさらさらと学べる印象です。1症例で1つチェックポイントが用意されているような本にも感じます。

 

 

その他(分野別)

  • 呼吸器:『Dr.長尾プロデュース 呼吸器腹落ちカンファレンス 呼吸の果てまでカンファQ!』

 

  • 呼吸器:『知っておくと役に立つまれな呼吸器関連疾患ケースファイル50』

 

  • 呼吸器:『Dr.宮城×Dr.藤田 エキスパートに学ぶ 呼吸器診療のアートとサイエンス』

 

  • 呼吸器:『Dr.宮城×Dr.藤田 ジェネラリストのための呼吸器診療』

 

 呼吸器関連の症例集は解説までしっかりしているものが多かった印象を受けました。一方で、自学自習で用いる場合には「呼吸器の症例かな」という先入観とどう向き合うかが課題と感じました。

 

 

 臨床推論に欠かせない感染症のケースがたくさんあります。ここからさらにグラム染色を深める(例:山本剛先生の書籍『グラム染色道場』)など、やりたいことを見つければいいと思います。

 

 感染症プラチナマニュアルでも有名な岡秀昭先生のシリーズ本。本の名前はコンサルトですが、コンサルするような症例を通じて学ぶとも言える症例と解説のような本です。

 

  • 救急:『研修医目線でわかるERカンファレンス・ライブ』

 

  • 不明熱:『Dr. 鈴木の13カ条の原則で不明熱に絶対強くなる

 不明熱での考え方を症例を通して学んでいく書籍です。不明熱初学者向けで13カ条に沿うように解説も詳しく書かれています。

 

  • 不明熱:『ケースで学ぶ 不明熱の診断学

 

 

 学内でNEJMも扱いましたが、気軽に/お手軽にやる際には解説が充実しているかも気にして本から選びました。極力、検査までしっかり記載してあって、最終診断の載っているものにしました。

 さらには、症例部分のスライドを事前に作るよりも、Zoomの画面共有でGoogleドキュメント等を用いて参加者からの問診などを元にリアルタイムで書きこみながら(オフラインであれば教室のホワイトボードに書きながら)進めていくのも、準備の負担が減って手軽になります。

 

 

2-3【参考】自学自習only向け

 他にも、症例の冒頭部分だけのような例題を解きながら症候学を学ぶというようなコンセプトの書籍や、症例検討の勉強会として皆で用いるには検査等までは載っていない書籍は自学自習用として用いて、勉強会では使うのを避けました。一方、症例の冒頭部分だけのような例題を考えながら症候学を学んでいくコンセプトより自学自習に向いていると思います。

【一例】

  • 外来診療の型 同じ主訴には同じ診断アプローチ!

 

  • 続・外来診療の型 苦手な主訴にも同じ診断アプローチ! 

 問診から身体診察と、どの検査を提出する/しないが分かりやすく、検査を出すところまでが分かりやすい書籍でした。続編も登場し、取り扱う症候の網羅性も上がったと感じます。

 

  • First Aid for the USMLE Step 2 CS, Sixth Edition

 今となってはコロナの影響でStep 2 CSは廃止されてしまったものの、英語を使いつつ問診・身体所見をチェック項目付きで確認できるよくできた自習用教材でした。

 

  • 『帰してはいけない外来患者 第2版』 

 

  • 『カンファレンスで学ぶ 臨床推論の技術』

 

 

 中級をめざす勉強会の場合は、事前学習(取り扱う症候についての一般的な鑑別や鑑別の仕方等)を取り入れることや、鑑別などがわかる書籍を貸し出したりもしました。もちろん、各自が参考書を買って事前に読んでくるような環境(反転授業形式)であればこの上なく幸せですが、やはりサポートも必要でした。

 

 

 

3.症例の下調べ

 自学自習用はもちろん、プレゼンターや進行役として鑑別疾患を挙げたりするために、基本事項として次のような本を持参したり、事前学習をしたりしました。書籍は特にForeground questionの部分を調べたり、参加者に説明する際に確認するのに用いました。一方で、お勉強スライドのBackground questionに関しては、Google ScholarPubMedで検索して疑問を解決するようにしました。今回は前者を中心とした際に用いた書籍などのうち、よく見かけたものや内容が印象的であったものといったお勧めしやすい本を紹介します。

 

3-1. 症候学

症候学

  • 『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』

 ご存じの方も多いかと思います。表によって整理された鑑別一覧のようなものが好きな人におすすめできるようなレイアウトです。参照用に向いています。

 

  • 『診察エッセンシャルズ 新訂第3版』

 前者と比べると表で整理されているわけではないですが、記述によって理解が深まったり、気づきが多いと感じます。

 

  • 「Diagnosaurus DDx(ウェブ・アプリ)

accessmedicine.mhmedical.com

 鑑別疾患が箇条書きでそっけなく並んでいるだけですが、とりあえず一般的な症候等の鑑別疾患をスマホのアプリで手軽に羅列するのに役立ちます。英語版です。リンク先はウェブページですが、Apple用やAndroid用のアプリもあり、便利です。

 

  • 『Dr.徳田の診断推論講座【連動動画付,電子版付】』

 初学者にも扱いやすい分量や内容だと感じます。初学者向けの小さな勉強会の際にも、まず最初に抑える内容としても参考にしました。臨床推論を始めた際は初版でしたが、第2版になり各論(胸痛の原因、腹痛の原因、…)が充実しました。

 

  • 考える技術 第4版

 初心者にはとても大きく分厚い本です。やり切る自身が私にはなく、初めの導入には用いませんでしたが、使っている人も多く定評です。

 

 詳しく読むものとして、『内科診断学』や『ハリソン内科学』の症候学の章もありました。『内科診断学』(医学書院)は大きい割に最後の砦という感じもなく、使いどころや置きどころに多少困る感じでした。

  • ハリソン内科学 第5版

 ハリソン内科学を持っていれば、ハリソン内科学の鑑別疾患や考え方の記述が優秀だと思います。内科学書だからと見くびってはいけないと思います。

 

 さらに病態や検査結果(例:徐脈、服腎不全、低K血症)の鑑別疾患として『フレームワークで考える内科診断』などがあります(当時はFrameworks for INTERNAL MEDICINEという洋書でした→和書にURL変更済み)。しかし、これを参考にしなくても、UpToDate等にいつでもアクセス可能であればUpToDate等を使うのもよいかもしれません。

 

  • 『あなたも名医! 日常診療でここまでできる! 診断につながる病歴聴取【電子版付】(jmed62) 』

 病歴に絞って、痒いところに手が届く書籍です。『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第2版』とは異なり、記載に深みがあります。主訴別の問診はもちろんのこと、既往歴や薬剤歴のような各問診項目、OPQRSTの各項目についての詳しい問診の視点など、網羅的に病歴について扱い、鑑別疾患リストも一段深く、症状組み合わせ鑑別疾患ごとの特徴を比較しまとめてあったりします。詳しい解説とまとめの表のセットのような本です。参照用というよりも一歩先への学習用としても良いと思います。Evernote等に自作鑑別を作るきっかけにもなる本です。

 

  • 外来を愉しむ攻める問診

 先ほどの『あなたも名医! 日常診療でここまでできる! 診断につながる病歴聴取【電子版付】(jmed62) 』は密度が濃すぎて重たいと感じるものの、病歴についてまずは一歩として詳しく学んでみたいという場合は、山中克郎 先生の「攻める問診」もあわせてどうぞ。鑑別を絞りにいく問診である「攻める問診」という概念がとても良いと思います。「攻める問診」ということで、本よりもまずは動画で学ぶモチベーションをつけたい場合、CareNetの動画もあります。併せてご検討ください。

 

 ニッチな鑑別リスト(自作鑑別リスト)としては、膠原病や不明熱関連などのテーマ別の書籍や雑誌を学びながら集めるということが多かったですが、そのような鑑別疾患リストのヒントになる書籍です。

  • Kunimatsu's Lists 〜國松の鑑別リスト〜

 初心者向きではなく、臨床推論(診断推論)をやって自分に合うような鑑別まとめを作ろうとか、アレンジしようとか思った際に考慮すればよいと思います。國松淳和先生らしいとも感じる、不思議でニッチな鑑別リストです。

 

  • 『ジェネラリストのための内科診断キーフレーズ』

 痒いところに手が届くような鑑別リストが満載の書籍です。症候学だけではないですが、Semantic Qualifier(SQ)を意識した、解説付きの鑑別リスト(例:〇〇な胸痛)です。「CRP上昇の乏しい発熱」のように、発熱だけではlow yeild(鑑別疾患が多く非特異的な症状等)をSQ組合わせることで上手に鑑別を絞り込んだリストです。実際に、鑑別疾患を絞り込む際のヒントにもなる素敵な書籍です。もともと、Medicinaで連載されていたものを集めたもので、解説やエビデンスも充実しています。

 

  • ミミックに騙されない思考の道筋 あなたも名医! これって膠原病?コンサルト実況解説50選 / jmedmook76

 臨床推論における鑑別で避けては通れない膠原病膠原病のmimicsをPivot and Cluster的にまとめられている素敵な書籍もでした。エビデンスや解説もしっかりしています。詳しくは下記記事をご覧ください。症候だけでなく、検査や2者の鑑別などの様々な項目があります。

 

 

 逆に救急セッティングや初歩であれば、救急関連の書籍がお勧めです。林寛之先生や坂本壮先生の書籍、京都ERなどの様々な書籍が多数あります。症候学的な部分も含め、見やすく、記述も親切で網羅的な・見やすいものが多い林寛之先生の書籍と、ERでの主訴を聞いた時の全体像がつかみやすい京都ERを紹介しておきます。

  • 『新装改訂版 もう困らない 救急・当直 当直をスイスイ乗り切る必殺虎の巻! -電子版付-

 定番というぐらい、目次からこれを学ぶ(例:頭痛)と分かりやすい構成です。新装改訂版になりました。〔旧: あなたも名医!もう困らない救急・当直 ver.3 当直をスイスイ乗り切る必殺虎の巻! (jmed51)〕

 

 前者ほど、目次からはこれを学ぶと掴みやすいわけではないですが、「見逃しやすい頭痛のpitfall」という章であれば、救急外来での頭痛をひと通り学べるような内容となっており、書き方が前者よりやや実践向けの視点に感じます。

 

  • 『京都ERポケットブック』

 見開きでそれぞれの症候(例:腹痛)の診療(救急外来)の流れをつかめるというのがポイントだと思います。(第2版へ改訂のためリンク変更。第2版にて記載内容がボリュームアップしました。)

 

 

3-2. バイタルサイン身体診察

 さらに、バイタルサイン身体診察に興味を持ち、主に鑑別のために次のような書籍を使うこともありました。先述の『Dr.徳田の診断推論講座』のシリーズ本の『Dr. 徳田のバイタルサイン講座』、『Dr. 徳田のフィジカル診断講座』といったとっかかりになる本もありますが、とりわけ1冊でまとまっているものを紹介します。

 

バイタルサイン

  • 『バイタルサインからの臨床診断 改訂版〜豊富な症例演習で、病態を見抜く力がつく!』

     バイタルサインからも病態(例:ショックの原因)が推定・鑑別できることもあるという興味深い内容です。少し臨床推論をやってみてから、これを学び過去の症例を振り返ると発見があると思います。

     

    身体所見

     周りの人も含めてとっつきやすい『身体所見からの臨床診断』、鑑別・エビデンスも結構あって興味深くて便利な『マクギー』、マニアックに深く調べたいときの『サパイラ』というように、3冊をよく用いました。

    • 『身体所見からの臨床診断―疾患を絞り込む・見抜く!』

     
    • 『マクギーのフィジカル診断学 原著第4版』

     
    • 『Evidence-Based Physical Diagnosis』, Steven McGee (著) 

     上記はマクギーのフィジカル診断学の洋書(英語)の原著です。Kindle版であれば、2,879円(2023年11月)で購入することができます。しかも翻訳のタイムラグはないため原著5版になります。英語OK、電子書籍が軽くて好き、というような条件を満たす場合にはおススメです。洋書の方が安いこともあるので、原著がある場合にはときどきチェックしてみると節約にもなって良いでしょう。
     
    • 『サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 第2版』

       

       他にもバイタルサインや身体診察の本がたくさんありますが、症候学と同じような「横切り」の視点でも主に使っていた書籍です。身体診察の『マクギーフィジカル診断学』や『サパイラ 身体診察のアートとサイエンス』は名著と言われていました。

       

      • 『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』

       身体所見でも皮疹をチェックすることがありますが、そこからの原因・鑑別疾患の考え方を皮疹の専門用語に縛られずに分かりやすく解説した類書まれな分かりやすい本です。

       

      • Hospitalist (ホスピタリスト) Vol.10No.1 2022(特集:身体診察)

           横切りの視点だけではないですが、マクギーのようなエビデンスをもう少しギュッと凝縮させたようなものです。医学雑誌といってもかなりしっかり部類だと思います。HospitalistIntensivistテーマごとにエビデンス重視参考になるものが多いので、身体診察に限らず気になる方はチェックしてみてください。

           

          【本以外: YouTube

          • 一般的な身体診察についてベイツ等の教科書もありますが、実際にやってみるという点や一般的な点について網羅的無料フィジカルクラブチャンネルがあります。しかも軸となる教科書はマクギーです。平島修先生が一貫して解説されているのもmedu4を彷彿させる学びやすさかもしれません。

          www.physicalclub.org

           

           

          3-3. その他の本

           症候学、バイタルサインや身体所見、疾患解説を問わず、痒いところに手が届くような書籍がありました。例えば、貧血の鑑別や疫学的なして視点をはじめ、事前の下調べの際に鑑別や疑問解決に役立った本がありました。

           

             著者の髙岸勝繁 先生、文献ソムリエとも言われる監修の清田雅智 先生、編集の上田剛士 先生と錚々たる先生方が携わっていらっしゃる名著です。

             

            • 『ジェネラリストのための内科診断リファレンス: エビデンスに基づく究極の診断学をめざして』

               こちらも、著者の上田剛士 先生、 監修の酒見英太 先生と錚々たる先生方が携わっていらっしゃる名著です。

               

              • 『レジデントのための内科診断の道標』

                 内科診断リファレンスの改訂を待ち望んでいる方にもおすすめです。上田剛士先生も携わっていらっしゃる素晴らしいエビデンスに基づく記載が素敵な書籍です。どのような本か気になる方はよろしければ下記もご覧ください。

                 

                • セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版

                     症候や身体所見・検査結果/病態等といろいろですが、鑑別疾患のネモニクス豊富な書籍です。

                     

                    • 『臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ』

                     『診断戦略』のPivot and Clusterを体現したような鑑別の挙げ方を実践する類書まれな書籍です。想起しやすい疾患をもとに鑑別疾患を考え、その鑑別疾患それぞれまで深める書籍です。例えば、クモ膜下出血(SAH)が真っ先に思い浮かんだ時の鑑別疾患(RCVS、頸動脈/椎骨動脈解離、脳静脈洞血栓症、…)を紹介されていたりします。ちょっと鑑別が上がるようになってきた時から重宝する場面のある書籍です。

                     

                    • 所見から考える画像鑑別診断ガイド

                       例えば、肺の多発性陰性(0.5mm-2.0mm)の鑑別疾患リストというように、画像所見ごとに鑑別疾患がリストになっている類書稀で便利な本です。

                       

                       これ以上、分野別の書籍などを詳しく上げるとキリがないですが、これらの本等を使って、最終診断までの下調べをしていました。(注)追記の新しい本に関しては、今なら使うというようなものです。

                       特に、ここに挙げさせて頂いた書籍は「こういう分野・利用目的ならこれ!」とお勧めしやすい書籍になります。

                       その先は、その症例で気になった疑問点のうち、覚えておいてほしいところや教科書では調べにくい部分を解決するために文献を調べたりお勉強スライド(解説)づくりをしたりしていました。

                       

                       

                      3-4. 診断学の本

                       診断学の視点として深みを増すためや分かりやすくするため読んだ書籍もあります。症候学の本と比べると、具体的な鑑別疾患を挙げるという側面よりも鑑別疾患を考えていく過程言語したものです。

                       

                      • 『誰も教えてくれなかった診断学―患者の言葉から診断仮説をどう作るか』

                       診断過程における診断仮説を日本語で解説しようとした初の書籍ではないかと思います。方法論としても鑑別疾患として手札のカードのように考えていくので、初学者でちょっと鑑別が挙がるようになったぐらいでも、方法論がイメージしやすいでしょう。

                       

                      • 診断戦略: 診断力向上のためのアートとサイエンス

                         まず想起された鑑別疾患(pivot)をもとに他の鑑別疾患(cluster)を挙げていくPivot and Clusterに関する書籍です。直感(system1)と体系的思考(system2)による診断過程をハイブリットのように合わせて考えるSystem3に関する書籍とも言えます。System2だけでは時間がかかるので、ある程度慣れてくると、System1に寄りがちになります。方法論にこだわる必要はありませんが、バイアス対策にもなり、この方法論の概念を使うことによる有益性高いと感じます。志水太郎先生の診断学の書籍です。

                         

                        • 内科初診外来 ただいま診断中!

                           Semantic Qualifier(SQ)に基づいた鋪野紀好先生の書籍です。方法論だけでなく、症候学的な面もセットの書籍です。

                           

                          • 『レジデントノート増刊 Vol.23 No.2 症候診断ドリル』

                             こちらも、Semantic Qualifier(SQ)により特化した新たな書籍です。この書籍をきっかけに臨床推論に役立つSQについては新たにブログ記事にしています。SQについても興味のある方はこちらをご覧ください。

                             

                             学内外(院内・院外)の仲間でちょっとした臨床推論(診断推論)の勉強会を開いてみようという際の少しでも参考になれば幸いです。

                             

                             

                             

                            4.番外編 Snap Diagnosis編

                             普段の形式(上記)の臨床推論の勉強会のやり方にマンネリ化した時、時間が余った時などにSnap Diagnosis用の症例を挟むことがありました。ちょっとしたクイズにような感じで、いつも以上に気軽に参加しやすい会になることが多かったです。Snap Diagnosis(一発診断)用には、検索に加えて主に下記の雑誌・書籍などをチェックしました。

                             

                            • NEJM> Images in Clinical Medicine
                            • Cleveland Clinic Journal of Medicine (CCJM) > The Clinical Picture

                             上記は英語でもあり、印象的でキレイなClinical Picture(臨床写真)が多かったです。そして、論文からなので学内ではネタバレすることはなく便利でした。一方で、勉強会の運営をしているようなメンバー内で用いる場合には「それ知っている」というのか、Clinical Pictureを出したとたんに「2週前のNEJMので、あのNEJMに…」と話が違う方向に弾むようなこともありました。

                             それでは、手軽自学自習にも使えて、学内でも使えるような日本語の書籍を紹介しようと思います。

                             

                            一発診断100シリーズ

                            • プライマリ・ケアの現場で役立つ一発診断100―一目で見ぬく診断の手がかり』

                             
                            • プライマリ・ケアの現場で役立つもっと!一発診断100―診断の手がかりはここにある』

                             

                             
                            • 『「ぱっと診」でわかる!小児の一発診断100

                               

                              目でみるトレーニンシリーズ

                              • 目でみるトレーニン-認定内科医・認定内科専門医受験のための151題』

                               
                              • 目でみるトレーニン 第2集: 内科系専門医受験のための臨床実地問題』

                               
                              • 目でみるトレーニン 第3集: 内科系専門医受験のための必修臨床問題』

                               
                              • 目でみるトレーニン 第4集: 内科系専門医受験のための必修臨床問題』

                                 このシリーズは月刊『medicina』にて連載されており、『medicina』で見るという方法もあります。

                                 

                                • 『レジデントノート増刊 Vol.21 No.11 臨床写真図鑑ーコモンな疾患編 集まれ!よくみる疾患の注目所見〜あらゆる科で役立つ、知識・経験・着眼点をシェアする81症例』

                                 
                                • 『総合診療 2019年 11月号 特集 臨床写真図鑑 レアな疾患編 見逃したくない疾患のコモンな所見』

                                   上記2冊はコモンな疾患とレアな疾患でちょうどよく振り分けられていて、2冊セットのような相性の良い書籍でした。

                                   

                                  外来診療のUncommon Diseaseシリーズ

                                  • 『外来診療のUncommon Disease』

                                   
                                  • 『外来診療のUncommon Disease (vol.2) 』

                                   
                                  • 『外来診療のUncommon Disease vol.3【電子版付】』

                                     Snap Diagnosisになりそうな症例も入っています。週刊『日本医事新報』にて連載の「キーフレーズで解く外来診断学」をまとめて書籍化したものです。一発診断用だけでなく、知っておくと役立つ疾患臨床推論の考え方のヒントにもなる症例が多数あります。

                                     

                                     

                                    5.準備時短×臨床推論勉強会

                                    5-1.  Googleドキュメントの利用

                                     「臨床推論の勉強会を気楽に開くためにどのようにしたらよいのか?」というような質問を受けた際に、パワーポイントでのスライド作成の手間が省くことができ、Googleドキュメントを用いた方法があります。Googleドキュメントの画面をZoom等で画面共有しながら、書き込みながら進めていくような方法です。岩田健太郎先生のセミナーでも類似の方法が取られていることもありました。。

                                     紹介されているものを見つけました。一例として、イメージをしやすくするために、よろしければYouTube動画をご覧ください(追記)。

                                     Googleドキュメント以外にもGoogleスライドなど、オンライン上でみんなで編集できるものであれば、何でも応用して使用可能です。Googleドキュメントを参加者全員で書き込んだりすることで、鑑別疾患や追加問診、疑問などを同時に書いてもらったりすることもできます。

                                     

                                    5-2. スライドマスターの使用

                                     スライド(パワーポイント)を用いるとしても、時間短縮とキレイさを両立させる方法として、スライドマスター作成もあります。私自身のブログ記事ですが、よろしければご覧ください。

                                    mk-med.hatenablog.com

                                     

                                     

                                     

                                    6.最後に

                                     学内(院内)等の仲間で書籍を決めて、皆が同じ書籍を手元に持ちながら気軽に皆で考えながら定期的に進めていくのも気軽で楽しいかもしれません。

                                     プレゼンター(症例提示役)や進行役をやるに至るまでに、自学自習用の書籍も読んだりしました。他にも素敵な書籍があると思いますが、その中で、とりわけ症例そのものや、勉強会の症例検討中の進行そのものに役立ったものを中心に個人的な視点から挙げさせていただきました。少しでもお役に立ったり、興味を持つ人が増えたり、自学自習を始めてみたり、気軽な勉強会を始めてみたりする人が増えれば幸いです。

                                     そして、様々な臨床推論のイベントを楽しんでもらえれば幸いです。もちろん、ゲーム化には気をつけつつ、何か気づきを見つけてほしいと思います。毎年、12月頃に全国オンライン臨床推論グランプリ(DGPJ)として、豪華な講師の先生方による臨床推論の大会もありました。是非、参加して奥深さを体験したり、学んでみてください。

                                     

                                     本日もお読みくださり、ありがとうございました。

                                     

                                     

                                    【関連記事】

                                     その他、勉強会の運営でお悩みの方がいらっしゃいましたら、下記の記事を書きました。少しでもお役に立てれば幸いです。

                                    mk-med.hatenablog.com

                                     

                                     臨床推論(診断推論)に役立つSemantic Qualifierについての本から深掘りしてみたブログ記事です。

                                    mk-med.hatenablog.com

                                     

                                     臨床推論における鑑別で興味深い楽しさのある膠原病膠原病のmimicsをPivot and Clusterのようにまとめられている素敵な書籍もでした。エビデンスや解説もしっかりしています。詳しくは下記記事(医学書ログ)をご覧ください。

                                    mk-med.hatenablog.com

                                     

                                     他にも、画像診断・読影にも興味がある初学者の方がいらっしゃいましたら、下記のような書籍から始めてみるとよいと思います。

                                    mk-med.hatenablog.com

                                    急性リウマチ熱②|全体像: ゲシュタルトを掴む

                                    急性リウマチ熱②
                                    全体像:疫学、臨床像、診断、治療~

                                     

                                     前回は、日本の疫学に注目して深堀りしました。(前回の記事はこちら→急性リウマチ熱 ~日本をはじめとする疫学~ - 医学生からはじめる アウトプット日記 (hatenablog.com) )日本の疫学の次は、世界の疫学や臨床像が気になりました。

                                     

                                     今回は、前回見つけたreview articleをきっかけとして、急性リウマチ熱全体のゲシュタルト(全体像)を掴みたいと思います。

                                    Acute Rheumatic Fever

                                    Ganesan Karthikeyan, Luiza Guilherme

                                     

                                    Introduction
                                    A群レンサ球菌(GAS)(Streptococcus pyogenes)感染症に対する自己免疫反応により生じる。
                                    ・典型的には多関節炎弁逆流症を呈する関節や心臓の様々な程度の炎症を特徴とする。
                                    ・弁膜障害を除いて後遺症はなく、リウマチ性心疾患が予後に関連する。
                                    低所得国や高所得国の取り残された人々の間では罹患率や死亡率ともに重要な問題である。

                                     

                                    疫学
                                    罹患率は主に社会経済的な発展度合により様々。
                                    ・もはや高所得国では公衆衛生上の問題ではないが、時々、偶発的なアウトブレイクが生じる。
                                    子供や若年者における罹患率10万人あたり8〜51人/年
                                    ・近年では、流行地でも罹患率が10万人あたり20人/年を下回るという報告もある。
                                    南太平洋、オーストラリアニュージーランドの先住民罹患率は未だ高い
                                    ・アフリカやアジアの大部分における罹患率は不明(国・地域でのデータ不足)。

                                    近年の罹患率の傾向
                                    ・The Global Burden of Disease studyによると、25年間(1990年~2015年)においてリウマチ性心疾患が有意に減少し、急性リウマチ熱の罹患率も減少しているとされる
                                    ・全体では罹患率が減少しているが、例えば、東アジアでは罹患率が減少、一方サブサハラ・アフリカでは変化がない。

                                     

                                    無症候性リウマチ性心疾患
                                    ・急性リウマチ熱の罹患率は、リウマチ性心疾患の有病率から潜在的には推定できうる
                                    ・オーストラリアでは、先住民の子供(高リスク群)における心エコーにてリウマチ性心疾患の有病率が8.6人/1,000人(罹患率 194人/100,000人年)、その他(低リスク群)における有病率が0人/1,000人(罹患率 10人/100,000人年未満)であったという報告がある。
                                    ・リウマチ性心疾患の調査は、急性リウマチ熱そのものの調査よりもコストも低く実現可能性が高い。
                                    ・無症候性リウマチ性心疾患の予後や治療は確立されたおらず、リウマチ性心疾患の調査への心配や不必要な治療のリスクもある。

                                     

                                    年齢・性差
                                    10〜14歳が最も多い
                                    ・5〜9歳が2番目に多い。
                                    ・5歳未満の場合、急性リウマチ熱に発展することは稀。
                                    ・30歳を超えて、はじめてリウマチ熱になるということは稀。
                                    ・歳を取ってからも再発することはあるが、40歳を超えて再発することは稀。
                                    性差は特にない
                                    (cf. リウマチ性心疾患は女性に多い)

                                     

                                    病因
                                    ・急性リウマチ熱の病因は完全には理解されていない。
                                    A群β溶連菌(GAS)による咽頭感染に対する免疫反応による。
                                    ・GASによる咽頭炎のうち0.3~3%が急性リウマチ熱になる
                                    ・皮膚感染症によって生じることもあるが、咽頭感染が契機となることが最も多いと考えられる。
                                    ・遺伝的な要素も関与しているとされ、発症率では一卵性双生児では二卵性双生児と比べリスクが高い(44% vs. 12%)
                                    ・GASのM蛋白N-アセチル-β-D-グルコサミンが、ヒトの心臓の弁のミオシンやラミニンと抗原エピトープを共有するために、免疫交差反応が生じる。
                                    大脳基底核神経細胞におけるN-アセチル-β-D-グルコサミンに対する交差反応により、過剰にドパミンが放出され、舞踏病が生じる。
                                    ・免疫複合体の蓄積により、関節症状が生じうる。

                                    ・GASのM蛋白が基底膜のIV型コラーゲンと結合することで生じるとする別の仮説もある。

                                    遺伝的感受性のメディエーター
                                    ・自然免疫:TLR2、FCN2、MASP2、MBL2、MIF、FCGR2A
                                    ・獲得免疫:HLA クラスII対立遺伝子、IGHV4-61*02
                                    ・自然免疫ならびに獲得免疫:IL1RA、TNF、TGBFB1、IL10、CTLA4

                                    ・6番染色体短腕(6p)にあるDRB1遺伝子(うち、特にHLA-DR7)が最も一般的に関連すると言われている。
                                    ※オーストラリアの先住民では、HLA-DQA1ならびにDQB1が急性リウマチ熱の発症のリスク増加に関与すると示唆されている。

                                     

                                     

                                    リスクファクター
                                    貧困
                                    社会的不利
                                    (→家庭の狭さ)
                                    ・民族(貧困と社会的不利による面も)

                                     

                                    診断
                                    ・1つだけで診断できる検査結果または臨床的特徴はない。
                                    発熱、関節症状、心障害の組合せが多い。
                                    舞踏病、皮膚症状は特異的だが、頻度が低く診断には役立ちにくい。
                                    ・小児では、一般的に発熱と関節症状がみられるが、これだけでは様々な原因があり、診断には不十分。

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                                    リウマチ熱の診断フローチャート

                                     

                                    臨床的特徴
                                    ・炎症に伴うCRPの上昇ESRの亢進
                                    CRP>3mg/dL, ESR>60mm(初期、低リスク群), ESR>30mm(高リスク群)
                                    ・心電図: PR時間の延長(minor manifestation)

                                    発熱
                                    90%以上の患者で認められる
                                    ・流行地域でのカットオフは38℃。
                                    ・低医療資源環境では、発熱の明確な病歴の方が大切。

                                     

                                    関節症状
                                    75%以上の患者で認められる。
                                    典型的には、大関節(膝関節、足関節、肘関節、手関節)における移動性の多関節炎で、サリチル酸によく反応する。
                                    ・体軸関節、小関節の障害は稀。
                                    ・4週間以内に疾患活動性は低下する
                                    ・多関節痛と非感染性単関節炎は流行地域でよくみられる

                                     

                                    心炎
                                    ・心炎は 50~70%の症例で臨床的に診断される。
                                    ・さらに、無症候性心炎は 12~21%の症例で診断される。
                                    心エコーにて70-90%の患者において心炎を認める。現在では心炎は主要症候であると考えられている。
                                    ・典型的には「汎心炎」とされ、心外膜、心筋、心内膜ともに障害される。
                                    心外膜炎は後遺症なく改善する。
                                    心外膜炎は一部の地域の心筋炎でみられ、心筋炎では収縮能低下がみられないこともある。
                                    心内膜炎では弁膜障害にて、一般的に僧帽弁逆流症を生じる一方、大動脈弁逆流症となることは少ない。
                                    ・聴診では一般的に汎収縮期雑音が聴取され、稀にCarey Coombs雑音を聴取する。
                                    約10~30%の患者は重度僧帽弁逆流症となる。
                                    約10%心不全となる。

                                     

                                    舞踏病
                                    ・急性リウマチ熱の10~30%で認められる。
                                    ・たいてい急性リウマチ熱の指標となる症状の1~3カ月後に生じ、単独の症状として生じうる。
                                    ・診断に役立つ特異的な主要症状の1つと考えられる。
                                    ・舞踏病を伴う患者では、心炎を伴うことが一般的(最大90%)
                                    ・舞踏病が唯一の症状の際は、薬物毒性、Wilson病といった他の原因の除外をすべき。

                                    皮膚症状
                                    ・皮膚症状は稀(~10%)
                                    ・診断に役立つ特異的な主要症状の1つと考えられる。
                                    輪状紅斑(erythema marginatum)が主に体幹や四肢近位部にみられる。
                                    ・皮疹は一過性で、皮膚の色の濃い人では見つけにくい。
                                    皮下結節は小さく、無痛性で、四肢伸側の骨隆起上や椎骨の棘突起に沿ってみられる。

                                     

                                    診断
                                    心炎をthe modified World Heart Federaton基準によって診断すべき
                                    →心炎があれば、急性リウマチ熱の診断に十分
                                    心炎がない(心エコー正常の)場合:Jones基準(2015)

                                     

                                     

                                    治療
                                    <3つの主な治療目標>
                                    ・原因となるGAS感染症の治療
                                    ・関節炎、心炎、舞踏病に対する支持療法
                                    ・慢性リウマチ性心疾患の進行の予防
                                    ※多くの治療には、強いエビデンスがあるわけではない。

                                     

                                    GAS感染症の治療
                                    ペニシリン

                                     

                                    支持療法
                                    関節症状アスピリン
                                    心炎:たいていACE阻害薬、血管拡張薬(重度の僧帽弁閉鎖不全症による肺水腫の時)

                                    舞踏病ドパミン拮抗薬

                                     

                                    リウマチ性心疾患の進行予防
                                    ・抗炎症治療:ステロイド

                                     

                                    予防
                                    ・一次予防:ワクチン開発、GASによる咽頭炎の治療
                                    ・二次予防:抗菌薬の二次予防的投与

                                     

                                    (出典)Lancet. 2018 Jul 14;392(10142):161-174. doi: 10.1016/S0140-6736(18)30999-1.

                                    pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

                                     

                                     あくまで疾患のゲシュタルトづくりを主に、疫学臨床像重点的にまとめました。臨床像では、どの症状(発熱、関節症状、心炎、舞踏病、皮膚症状)が、どの程度の割合でみられるか、また舞踏病が他の症状のあとに生じるというようなタイムコースが分かったことも個人的には勉強になりました。もっとしっかりと診断基準や治療法(多くは強いエビデンスはない)について調べてみるのも楽しいかもしれません。

                                     

                                     本日もお読みくださりありがとうございました。

                                    急性リウマチ熱①|日本をはじめとする疫学

                                    急性リウマチ熱(リウマチ熱)①

                                    日本をはじめとする疫学

                                     

                                     今回は急性リウマチ熱(acute rheumatic fever)です。リウマチ熱についてパッと思い浮かぶのは、A群β溶連菌感染症の2、3週後に続発する非化膿性炎症性疾患で、発熱や関節痛などがみられ、リウマチ性心疾患が問題となるというようなことです。

                                     先日、リウマチ熱の症例報告に出会いましたが、疫学的に近年は珍しいということを聞いているせいか、血管炎の症例報告ほど巡り合うことがなく、知らないことが多いと感じました。それこそが、今回深堀りをしてみようと思ったきっかけです。世間で「リウマチ」というというと関節リウマチをイメージする人が一般的であると思うぐらい、リウマチ熱に触れる機会が少ないと思います。

                                     

                                    <疫学>
                                     まずは、日本での疫学から調べてみたいと思います。

                                     1970年代から激減し、2004年の小児慢性疾患治療事業の登録数は42例にすぎない.
                                    (出典)『内科学 第11版』, 矢崎義雄(総編集者), 朝倉書店, 2017.

                                     

                                     好発年齢的には小児の疫学が反映されていると思います。1970年代から激減といわれてもピンときません。昔の状態と今の状態の比較が定量的にできないかと、さらに探してみました。

                                     

                                    東京都における1968年の学童(調査学童数 115,165人)のリウマチ性疾患ならびにリウマチ性心疾患の疫学的調査

                                    • リウマチ熱既往あり 492名(0.435%)
                                    • リウマチ性心疾患 32名(0.027%)

                                    <地域別>
                                    住宅地(学童 20,523名)
                                    ・リウマチ熱既往あり 0.594%
                                    ・リウマチ性心疾患 0.019%(心炎既往0.07%)
                                    工場地(学童 72,882名)
                                    ・リウマチ熱既往あり 0.345%
                                    ・リウマチ性心疾患 0.029%(心炎既往0.05%)
                                    郊外(学童 16,383名)
                                    ・リウマチ熱既往あり 0.549%
                                    ・リウマチ性心疾患 0.018%(心炎既往0.04%)
                                    農山村(学童 5,368名)
                                    ・リウマチ熱既往あり 0.521%
                                    ・リウマチ性心疾患 0.074%(心炎既往0.11%)

                                    (出典)村上正中:東京都公立小・中学校生徒におけるリウマチ熱・リウマチ性心疾患の疫学的調査.心臓4巻8号, 1972年.

                                    https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo1969/4/8/4_974/_pdf

                                     

                                     直接比較はできませんが、およそ0.5%もいれば200名ぐらいの高校で1名ぐらいはリウマチ熱の既往がある人がいる計算になりますね。一方で、平成21年(2009年)の調査においては、わずか両手で数えられるだけの人数しかいません。

                                     平成21年1月1日から12月31日おいて、小児循環器学会評議員と理事,大学附属病院小児科,専門医修練施設・施設群 185 施設(うち142施設より回答)におけるリウマチ熱は6例であった。
                                    (出典)市田蕗子ら:平成21年度 稀少疾患サーベイランス調査結果.PEDIATRIC CARDIOLOGY and CARDIAC SURGERY VOL. 26 NO. 4 (348 –350)

                                    http://jspccs.jp/wp-content/uploads/j2604_348.pdf

                                     

                                     衛生状況の向上やそれによるA群溶連菌感染症罹患率の減少、さらには抗菌薬の使用も関わっていそうですね。抗菌薬使用と聞くと、溶連菌感染を疑うときにはCentor Scoreをよく耳にします。

                                     これだけリウマチ熱の症例が減っていれば、珍しいと言われるのもとても納得です。果たして、世界ではどうでしょうか。

                                     

                                     急性リウマチ熱とリウマチ性心疾患は貧困に起因する。これらの疾患はどの国でもよくみられるものであったが、20世紀初頭になって先進国では発生率が低下しはじめた。この低下は、主として生活環境の改善、特に過密住居の解消衛生状態の向上によって、A群レンサ球菌の伝播が減少したことによる。さらに抗菌薬の導入と医療システムの改善も、発生率に補助的な役割を果たした。

                                     20世紀が終わるまでに、先進国では急性リウマチ熱は事実上消失し、リウマチ性心疾患の発生率も低下した。しかし、残念ながら途上国ではそうはいかず、これらの疾患は依然として認められる。途上国においてリウマチ性心疾患は小児の心臓病の最たる原因であり、さらに成人でも罹患率が高く(有病率のピークは25~40歳)、主な死因となっている。

                                     現在、急性リウマチ熱症例やリウマチ性心疾患による死亡例の約95%が途上国で発生しており、その頻度はサハラ以南のアフリカ地域、太平洋の国々、オーストラリア、南。中央アジアで特に高い

                                    (出典)『ハリソン内科学 第5版<全2巻>』

                                     

                                     リウマチ熱のそもそもの要因となるA群溶血性レンサ球菌感染症(GAS)が減ることで、リウマチ熱やリウマチ性心疾患が先進国では事実上消失した一方、途上国では依然として存在するというのも納得です。日本でリウマチ熱が希少疾患となるほど少なくなるのが理解できます。ちなみに、溶連菌感染症に罹患した人のうち、どの程度の人がリウマチ熱になるかという疫学データもあるようです。

                                     

                                     A群β溶血性レンサ球菌の咽頭感染症例の0.3~3.0%に発症するといわれている。
                                    (出典)Lancet. 2018 Jul 14;392(10142):161-174. doi: 10.1016/S0140-6736(18)30999-1.

                                    pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

                                     

                                     この文献がちょうどreview articleであり、定量的な表現もあるものなので、急性リウマチ熱の日本以外も含めた疫学、病因、臨床的特徴、診断(Jones基準)などを引き続き読み進めていきたいと思います。

                                     

                                     急性リウマチ熱日本をはじめとする疫学の深堀りお読みくださり、ありがとうございました。

                                     

                                     続き(急性リウマチ熱の全体像~ゲシュタルト~)については、下記の記事をお読みください。

                                    mk-med.hatenablog.com

                                    ビタミンB1(チアミン)の摂取基準と欠乏症

                                    ビタミンB1チアミン摂取基準欠乏症

                                     

                                     先日、30歳前半の男性の下腿浮腫と体重増加の症例と症例集にて出会いました。最終診断は、ビタミンB1欠乏症(脚気心と脚気ニューロパチー)でした。

                                     

                                     ビタミンB1は主に代謝の際に働く補酵素という程度の認識です。ビタミンB1欠乏症について、機序をはじめ知らないことが多いため、改めて深堀りしてみました。

                                     今回はその際に見つけた文献から、ビタミンB1摂取について興味を持ちました。食事指導について考えた際にどの様な食事・摂取基準などがあるのかも気になりました。今回は偶然の巡り合わせから、ビタミンB1の摂取基準について調べてみます。

                                     

                                    ビタミンB1の年齢ごとの食事摂取基準は次の通り。

                                    f:id:mk-med:20210225143635j:plain

                                    ビタミンB1チアミン)の食事摂取基準


                                     ビタミン B1 は、飽和量を満たすまではほとんど尿中に排泄されず、飽和量を超えると、急激に尿中排泄量が増大することから、この変曲点(= 飽和量) を必要量と考える。

                                     また、ビタミン B1 の主要な役割は、エネルギー産生栄養素の異化代謝補酵素である。したがって、 必要量はエネルギー消費量当たりで算定すべきである。ビタミン B1 の必要量をビタミン B1 摂取量と尿中のビタミン B1 排泄量との関係式における変曲点から求める方法により、その値をチアミンとして 0.35 mg/1,000 kcal と算定したチアミン塩化物塩酸塩量としては 0.45 mg/1,000kcal となる。

                                     ビタミン B1 摂取量(mg/1,000 kcal)を算定するための参照値として、対象年齢区分の推定エネルギー必要量を乗じて推定平均必要量を算定した。推奨量は、推定平均必要量に推奨量算定係数 1.2 を乗じた値とした。

                                     

                                    (出典)厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書(全文)

                                    https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

                                    www.mhlw.go.jp

                                     
                                     摂取量の推定平均必要量は、エネルギー消費量当たりで算定されるべきであるため、推定エネルギー必要量に基づいています。そのため、推定平均必要量も男女差も少しずつでてきています。

                                     厚生労働省の資料ですが、これだけ良い資料があるのにもかかわらず、普段の検索であまりヒットしないのは、本当にもったいないと思えるような資料でした。普段から厚生労働省のホームページへもアクセスするように意識したいと思えました。

                                     

                                     では、どのような食品ビタミンB1が含まれているのかについて具体的に挙げてみたいと思います。まずは日本の教科書から引用します。

                                     

                                    ビタミンB1を多く含む食品

                                    酵母

                                    ・小麦はいが

                                    ・豚肉

                                    ・あまのり

                                    ・ごま

                                    ・落花生

                                    ・大豆

                                    ・えんどう

                                    ・玄裸麦

                                    ・たらこ

                                    ・干ししいたけ

                                    ・玄米 など

                                    ビタミンB1を突出して多く含む食品は少ない。

                                     

                                    (出典)『基礎栄養学』, 高早苗(著), 三共出版, 2015

                                     

                                     次に、今回ビタミンB1の摂取について調べるきっかけとなった文献からです。

                                     

                                    厳選されたビタミンB1の多く含まれる食事(アメリカ)

                                    穀物

                                    肉類

                                    • 豚肉
                                    • 鹿肉
                                    • 牛肉
                                    • 鶏肉

                                    シーフード

                                    野菜・果実

                                    乳製品等

                                    • 豆乳

                                    種実類

                                    • レンティル
                                    • 様々な豆(例:黒豆、ピーナッツ、ナッツ類)
                                    • ひまわりの種

                                     

                                    (出典)Prog Cardiovasc Dis. May-Jun 2018;61(1):27-32. doi: 10.1016/j.pcad.2018.01.009. Epub 2018 Jan 31.

                                    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29360523/

                                     

                                      ビタミンB1を多く含む食材として挙げられているものに、文化圏や食事の違いがみられますね。しかし、穀物、肉類、豆類といった共通点があります。具体的にどれぐらいのビタミンB1が含まれているのかも見つけました。

                                     

                                     チアミンは多くの食物中に存在するが、全粒穀物、肉、魚、酵母は特にビタミンB1が豊富で、およそ湿重量にして3mg/kgが含まれている。野菜のビタミンB1含量は少なく、単位重量当たり、肉の1/2~1/3である。チアミン熱に弱く、加熱調理のような過程で失われると思われるため、シリアル、パン、乳製品など多くの加工食品では添加されている。

                                     

                                    (出典)『最新栄養学[第10版]ー専門領域の最新情報ー』, 木村修一, 古野純典(翻訳監修), 建帛社, 2014

                                     

                                     そう考えると、パンや加工食品ではビタミンB1欠乏になりにくく、白米のみを食べている人や消化吸収に障害のある人で欠乏症が生じやすいと考えられます。実際にビタミンB1欠乏症の患者像について、このような記載もありました。

                                     

                                     日本および東南アジア地域は米を主食としたため、古くから脚気が存在していた。戦後、日本では国民の栄養状態の改善とともに脚気の患者数は減少したが、近年、肉類、魚類・牛乳などを好まない偏食傾向の青少年に脚気がみられることが報告されている。

                                     

                                    (出典)『臨床栄養医学』, 日本臨床栄養学会(監修), 南山堂, 2009

                                     

                                     もしかすると、ビーガンのような食に対する考え方を持つ人々からなのでしょうか。ビタミンB1の摂取量と欠乏症の関連についても、面白い記載がありました。

                                     

                                     4人の健康な男性に1か月(30 日)間にわたってビタミン B1 を完全に除去した食事を食べさせた欠乏実験では、実験開始およそ2週間後に血中ビタミン B1 濃度が急に低下し、脚気の典型的な初期症状の一つである全身倦怠感の出現が観察された 14)。その後、回復期(ビタミン B1 を1日当たり 0.7 mg 含む食事を与えた)に入ると血中ビタミン B1 濃度は速やかに上昇に転じ、2週間程度でほぼ元のレベルに戻り、全身倦怠感も消失している。

                                     複数の知見をまとめた総説には「ビタミン B1 摂取量が 1,000 kcal 当たり 0.16 mg を下回ると脚気が出現するおそれがある。」とした記述が認められる 15)。これは、エネルギー摂取量を成人女性で 2,000 kcal/日、成人男性で 2,500 kcal/日とすると、0.32~0.40 mg/日に当たる。この総説では「1,000 kcal 当たり 0.3 mg に増やすと脚気の危険はほとんどなくなる。」とも記述されている。

                                     

                                     14)桂 英輔.人体ビタミン B1 欠乏実験における臨床像について.ビタミン 1954; 7: 708─13.

                                     15)Bates CJ. 木村美恵子(訳).チアミン.最新栄養学[第8版], Bowman BA, Russell RM(編).ILSI Press 2001.(日本語版 : 建帛社、2002: 189─95)

                                     

                                    (出典)厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書(全文)

                                    https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

                                     
                                     このような実験ができてしまうことが昔らしいと感じるような引用文献だとタイトルから感じました。元の文献にアクセスすることが出来なかったので、4人という人数ならびにどのような実験かは分からず、どこまで一般化できるかは分かりません。しかしビタミンB12欠乏よりは、短い期間(週または月単位)のうちにビタミンB1欠乏になるということは言うことができそうです。また、ビタミンB1代謝の際の補酵素であるという点からも1000 kcal当たりのビタミンンB1の含量によって欠乏症が生じるというのも納得で、目安にはなりそうです。

                                     

                                     ビタミンB1は欠乏症だけであるのかも気になるので、そこも調べてみました。

                                     

                                     ビタミンB1の 50mg/日以上の慢性的な服用は成人で頭痛、いらだち、不眠などの臨床症状を呈する。

                                     

                                    (出典)『臨床栄養医学』, 日本臨床栄養学会(監修), 南山堂, 2009

                                     

                                     通常の食品の可食部100 g当たりのビタミンB1含量が1 mgを超える食品は存在せず、通常の食品を摂取している者で過剰摂取による健康被害が生じたという報告は見当たらない

                                     また、生活習慣病の発症予防・重症化予防の直接的な関連を示す報告はない。

                                     

                                    (出典)厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書(全文)

                                    https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf

                                     

                                     このように、過剰摂取の心配は基本的にありません。また、生活習慣病との直接的な関連もないようです。過剰摂取となるような状況は、サプリメントの過剰摂取や医原性という状況であると推測できます。

                                     

                                     ひとまず、白米にふりかけだけというような程度の食事だけで生活することは欠乏症のリスクであると感じました。普段の食事から少し気をつけていればいいというような認識と、白米(精米したもの)には穀物でもビタミンB1が含まれていないというようなことを再認識できました。消化吸収障害や偏食、もしくは日常的な高カロリー食(単位カロリーあたりのビタミンB1摂取量の低下)の摂取がなければ、欠乏症はそこまで意識しなくてもいいかもしれません。

                                     

                                     今回はそれ以上に栄養学についての様々な教科書と出会い、生化学や生理学に触れる基礎栄養学や、内科のような臨床症状や疾患についてふれる臨床栄養学に出会いました。とりわけ基礎栄養学寄りの記載のあった教科書では、病態生理にもつながる生化学や生理学にも触れる良い機会となりました。他の栄養素のことも、この機会に学習できればと思います。

                                     

                                     引き続きアウトプットしやすい内容であれば、脚気心・ニューロパチーの病態生理についても深堀りできればと思いました。

                                     

                                     今回もお読みくださり、ありがとうございました。

                                    結節性紅斑 erythema nodosum|全身性疾患の徴候

                                    結節性紅斑 erythema nodosum

                                    ~全身性疾患の徴候~


                                     前回、結核による結節性紅斑が認められた症例をきっかけに結核の皮膚病変、皮膚結核について深掘りしてみました。


                                     結節性紅斑は結核による皮膚病変であるが、皮膚結核ではないような何とも言いがたい分類を前回の深掘り(肺外結核と皮膚結核 ~結核と皮膚病変~ - 医学生からはじめる アウトプット日記)で見つけました。

                                     分類によるのかもしれませんが、何だか腑に落ちないので、結節性紅斑について調べてみます。

                                    Erythema Nodosum: A Sign of Systemic Disease

                                    Robert A Schwartz, Stephen J Nervi


                                     結節性紅斑は、皮下脂肪の有痛性の炎症で蜂窩織炎の最も一般的なもののひとつ。

                                    【疫学】

                                    ・10,000人のうち約1〜5人に生じる

                                    ・成人の場合の男女比は1:6(女性に多い

                                    ・小児の場合の男女比は1:1


                                    【臨床症状・所見】

                                    ・結節性紅斑は、径1〜10cmで境界不明瞭。


                                    〈結節性紅斑の基本的な特徴〉

                                    ・有痛性

                                    ・対称性

                                    ・赤色の小結節

                                    ・前脚(前脛骨)が最も好発

                                    ・数週で打撲様を伴い、紅斑は消退する

                                    ・潰瘍はなく、完全に治癒する傾向にある(1〜2カ月)


                                    ・前駆症状は一般的に1〜3週間前に見られ、体重減少、倦怠感、微熱、咳嗽、関節炎を伴わない関節痛が特異的な症状に含まれうる。


                                    【一般的な検査結果】

                                    ・白血球増加(10,000/mm3以上)、赤沈亢進、CRPの上昇が認められうる。


                                    【病因】

                                    ・皮下での様々な抗原による非特異的な反応

                                    IV型(遅延型)アレルギー反応が関与するとされている

                                    【病理組織】

                                    ・皮下脂肪組織における中隔の炎症: 中隔性脂肪織炎

                                    ・新生血管周囲への好中球の浸潤がみられる

                                    ・光線性放射状肉芽腫(actinic radial granulomas)が特徴的な所見である。

                                    ・血管の炎症や出血を伴いうるが、血管炎とは関連なし


                                    【結節性紅斑の原因】

                                    〈Common〉

                                    ・特発性 (up to 55%)

                                    感染症: streptococcal pharyngitis (28-48%), Yersinia spp. (ヨーロッパ), mycoplasma, chlamydia, histoplasmosis, coccidioidomycosis, mycobacteria

                                    ・サルコイドーシス(11-25%)(両側性肺門リンパ節腫脹を伴う)

                                    ・薬剤性(3−10%): 抗菌薬(e.g. サルファ剤,アモキシリン), 経口避妊薬

                                    ・妊娠 (2-5%)

                                    ・腸疾患 (1-4%):限局性腸炎, 潰瘍性大腸炎

                                    〈Rare〉(1%未満)

                                    感染症

                                    ・ウイルス性: 単純ヘルペスウイルス, Epstein-Barrウイルス, B・C型肝炎ウイルス, HIV

                                    ・細菌性: Campylobacter spp., rickettsiae, Salmonella spp., psittacosis, Bartonella spp., syphilis Parasitic: amoebiasis, giardiasis

                                    その他:リンパ腫, その他悪性腫瘍


                                    ・結節性紅斑の全患者は、結核への暴露のリスクによって階層化されるべきある。

                                    潜在的には治療可能な全身性疾患の兆候であることが多い。


                                    【診断】

                                    f:id:mk-med:20210223230818j:plain

                                    包括的な病歴や身体診察のあとに診断的な評価・検査を行う。


                                    【鑑別疾患】

                                    f:id:mk-med:20210223230856j:plain

                                     

                                    【治療】

                                    ・基本的に治療をしなくとも自然消退する。

                                    根底にある疾患に対する治療と支持療法が最も一般的。


                                    (出典)Am Fam Physician. 2007 Mar 1;75(5):695-700. 

                                    pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

                                     

                                     やはり、結節性紅斑の原因の多さはじめ結核特有ではなく様々な抗原によるIV型アレルギー反応の様です。結核菌が皮膚病変から認められるわけでもなく、真性皮膚結核に含まれないのはもちろん納得ですが、免疫反応という意味では結核疹に含まれないのは少し腑に落ちない部分もあります。

                                     しかし、いろいろと結節性紅斑について分かりました。そして、結節性紅斑であれば結核というわけでは全然ないという意味からも、全身疾患の兆候としての皮膚所見として結節性紅斑を見直すいい機会になりました。

                                     出典はFree Article なので、もっと詳しく見てみたい方は是非どうぞ。


                                     今回もお読みくださり、ありがとうございました。

                                     

                                    肺外結核と皮膚結核 ~結核と皮膚病変~

                                    肺外結核と皮膚結核

                                    結核と皮膚病変~

                                     

                                    <目次>

                                     

                                     2週間以上続く発熱と下腿の皮疹を認めた40歳台の男性の症例と症例集にて出会いました。皮疹は結節性紅斑で、最終診断は結核でした。


                                     やはり結核の症例は様々なclinical maniestationsがあり、興味深いですね。皮膚所見が苦手で、結節性紅斑やその他の皮膚病変がいまひとつ理解できていません。結節性紅斑は、結核に対する免疫反応とのことで、結核と皮膚病変について調べてみたいと思います。

                                     結節性紅斑も気になりますが、結核による他の皮膚病変についてもどのようなものがあるか知りたいため、まずは肺外結核皮膚結核について調べてみます。

                                     

                                    1.肺外結核

                                     まずは、肺外結核の部位と疫学から調べてみます。

                                     肺外結核結核患者の10~40%に発症する。さらに、HIV結核の両方に患者では、最大3分の2の患者が、肺結核と肺外結核の両方ともか、肺外結核のみかを発症する可能性がある。

                                     肺外結核頻度の順に次の通りです。

                                    ・リンパ節:結核性リンパ節炎(35%)
                                    ・胸膜:胸膜結核(20%)
                                    ・尿生殖器尿生殖器結核(10~15%)
                                    ・骨関節:骨関節結核(10%)
                                    ・髄膜:結核髄膜炎および結核(5%)
                                    ・腹膜
                                    ・心外膜:結核心外膜炎


                                     実際には、上記以外にも胃腸結核(3.5%)、播種性結核がある。さらにまれな肺外結核として、結核は脈絡網膜炎、ぶどう膜炎、汎眼球炎、結核性耳炎、皮膚病変結核乳腺炎、副腎結核の原因となる。

                                     結核の皮膚病変には、直接接種による初期病変、膿瘍と慢性潰瘍、皮膚腺病、尋常性狼瘡、粟粒病変、結節性紅斑といったものが含まれる。

                                     また、すべての臓器が感染しうる。
                                     
                                    (出典)『ハリソン内科学 第5版 <全2巻>』

                                     

                                     本当に何でもありですね。肺外結核の中でも皮膚結核(皮膚病変)は稀な肺外結核のひとつのようです。

                                     

                                     

                                    2.皮膚結核

                                     肺外結核のひとつである皮膚結核について深掘りしていきます。皮膚結核がどれぐらい稀なのかを調べてみます。

                                     

                                    肺外結核のうち皮膚結核の頻度は1~2%である

                                    (出典)Clin Dermatol. May-Jun 2019;37(3):192-199. doi: 10.1016/j.clindermatol.2019.01.008. Epub 2019 Jan 11

                                     

                                     結核全般ではなく、肺外結核のうち1~2%とというと多いとは言えないといった印象です。ちょうどよさそうなreview articleなので、このまま皮膚結核について読んでみます。

                                     

                                    Cutaneous tuberculosis: A great imitator
                                    Qiquan Chen, Wen Chieh Chen, FeiHao.

                                     

                                    皮膚結核(cutaneous tuberculosis; CTB)について

                                    <疫学>
                                    ・全肺外結核のうち、皮膚病変がみられるのは1~2%のみ


                                    <分類と病態>
                                    ・CTBの分類は複雑で、様々な分類がある。
                                    ・「(真性)皮膚結核」(“True CTB”)と「結核」(“tuberculid”)に大きく分ける分類が最も広く受け入れられている(table 1)。
                                    真性皮膚結核では、病変部から一般的な検査によって結核が認められ、病原菌に対する直接的な免疫反応である。
                                    結核は、結核菌に対するアレルギー反応による皮疹である。

                                    真性皮膚結核
                                    ・真性皮膚結核はさらに、外因性内因性に分けられる。
                                    外因性結核菌の接種によるものである。
                                    内因性は直接拡散、自己接種、または血行性によるものである。

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                                    <皮膚所見と分類>
                                    紅斑、局面:主に尋常性狼瘡(lupus vulgaris)や疣状皮膚結核(TB verrucosa cutis)でみられる。
                                    斑、丘疹:典型的には腺病性苔癬(lichen scrofulosorum)、丘疹状壊疽性結核疹(papulonecrotic tuberculid)、粟粒結核(miliary tuberculosis)でみられる。
                                    潰瘍、びらん:皮膚腺病(scrofuloderma)、バザン硬結性紅斑(erythema indruratum of Bazin)、開口部皮膚結核(orifical TB)、ならびに時折 丘疹状壊疽性結核疹で潰瘍性びらん病変がみられる。
                                    結節:バザン硬結性紅斑(erythema indruratum of Bazin)でみられる。
                                    結節性紅斑(erythema nodosum: EN)は肺結核に関連しうるが、皮膚結核(CTB)には分類されていない。
                                    膿瘍:転移性結核膿瘍(結核性ゴム腫: tuberculous gumma)でみられる。

                                    ・他にも、シクロホスファミドならびにプレドニゾロンで治療中のSLE患者における粟粒結核では蜂窩織炎を呈する皮膚結核もみられる。

                                    (出典)Clin Dermatol. May-Jun 2019;37(3):192-199. doi: 10.1016/j.clindermatol.2019.01.008. Epub 2019 Jan 11

                                    pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

                                     この文献には実際の皮膚病変の臨床写真も掲載されていました。実際の臨床写真を見てみたい人は上記よりどうぞ。

                                     

                                     この文献の分類では、結節性紅斑は皮膚結核には分類されていないとされています。結節性紅斑も結核に対する免疫反応であれば、結核疹(“tuberculid”)に含まれてもいいような気がしましたが、そうではないようですね。

                                     ハリソン内科学の肺外結核の項目では、結核皮膚病変の原因として挙げられているので「皮膚結核」とは少し意味合い異なる、もしくは分類の仕方が異なるのかもしれません。

                                     ひとまず、皮膚結核結核の皮膚病変についてこのようなものがあるということが分かりました。次回は、皮膚結核には含まれないとされる結節性紅斑について深堀りしてみようと思います。


                                     今回も、拙い文章をお読みくださりありがとうございました。

                                    地域実習|体験記②: 病院外実習から振り返りまで

                                    地域実習体験記② @和歌山県東牟婁郡串本町

                                     

                                    <目次>

                                    地域実習 ~体験記①:下調べから病院実習まで~ - 医学生からはじめる アウトプット日記の続きです。

                                    ~病院外実習から振り返りまで

                                     

                                    1.病院外実習を通じて

                                     先ほどまでは病院での実習について書きました。病院外での実習が、とりわけ地域医療ならではの実習でもあります。それでは串本町内で足を運んでみたいと思います。

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                                    串本町(右側が中心地、宿泊先にて撮影)

                                     病院外での実習では病院医療にかかわる実習をさせていただきました。予防医学・健康増進をテーマに、串本町内にあるとある地区の公民館のような場所へ伺いました。私の実習の際は、大学ならびに現地にて指導してくださる先生との関係から、「高血圧」をテーマにしてお話をしました。大学の実習という形態上、パワーポイントをつくってお話をするのですが、ここに来てよかったと思うのはパワーポイントでの発表の後の、高血圧以外の内容でも何でもありの健康についてのお話合いです。

                                     テーマでもあった血圧や、さらには健康・医療に対して、普段からどのようなことを思っているか、どれぐらい気にされているか、それ以外にも普段の医療との接点はどのような感じかというようなことを実感することが出来ました。病院の中にいては分からない、地域の人の健康や病気に対する視点が直接のお話を通じて聞けるというとても貴重な経験でした。

                                     

                                    日本を100人の国に例えると、39.0人が病気やケガなどで通院している。
                                    (出典)厚生労働省 平成30年版厚生労働白書 - 障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に -(100人でみた日本)

                                    https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/18-3/dl/01.pdf

                                     通院している人は39%とされます。ということは逆手にとれば、61.0人は通院していないということです。予防医学や健康増進はすべての人に関係する事なので、病院に来ない人達とも健康についてお話することが出来るという貴重な機会だと感じます。私たちが病院で待っていればよいというような視点ではダメであり、社会的なアプローチが必要と再認識しました。

                                     他にも、在宅医療のように病院の外で医療に関わることで、「○○さん」というその1人ひとりを生活の中での役割等も含め、もっとしっかり見るきっかけとなり、さらには病院のときにその「○○さん」の普段の生活の事をもっとしっかり想像して考えられるようになると思いました。


                                    2.実習を終えて

                                    a. 医療機関へのアクセス・街づくり

                                     津波対策も含めて高台への移転を見ながら、高台はやや市街地から離れており一見すると少し不便ではないかとも感じました。しかし、病院にバス停があり、バスの路線図をみると基本的なコミュニティバスの路線が病院を起点にしています。これは、今後病院の横あたりに串本町役場が移転してくる事も考えれば、整理されている印象も受けました。また、病院がここまで町の中核である現状を見ると、高齢化のことも頭から離れませんでした。

                                     次に気になったのは、すさみ串本道路の建設です。高規格の自動車専用道ができるということは他の街へのアクセスが改善されるということを意味します。とりわけ、和歌山県田辺市方面とのアクセスが改善されます。すると、陸路では最寄りの三次救急医療機関である南和歌山医療センター(田辺市)までの搬送時間短縮がされるというのは容易に思いつきます。また、南和歌山医療センターは地域がん診療連携拠点病院でもあります。

                                     現在の串本町役場から南和歌山医療センターへの搬送時間が約60分ですが、開通後の搬送時間は約49分と、約11分短縮されます。
                                    (出典)国土交通省 近畿地方整備局 紀南河川国道事務局,一般国道42号 すさみ串本道路
                                    https://www.kkr.mlit.go.jp/kinan/road/tsukuru/susami/

                                     開通後も南和歌山医療センター(田辺市)への搬送時間がそれなりにかかることもあり、どれほどの住民の方々の意識が変わるか分かりませんが、現在(開通前)と比べれば、多少は南和歌山医療センター(田辺市)が近く感じられると思います。その際には、くしもと町立病院(新宮医療圏)と南和歌山医療センター(田辺医療圏)と異なる二次医療圏にありながら、病院や医療圏の関係性も、くしもと町立病院の立ち位置も変わってくることと思います。

                                     宮古島伊良部島を結ぶ伊良部大橋のように離島に橋ができるほどのインパクトはないと思いますが、社会インフラと医療は影響し合っていると振り返ることができました。

                                     

                                    b. 病院と地域の在り方

                                     療養病床で心なしか病棟が寂しい、患者さんが少ないと感じました。そこで、病床稼働率を調べてみました。

                                     27年度のくしもと町立病院の病床稼働率は一般病床で78.2%、療養病床で66.8%でした。
                                    (出典)地域医療構想と公的病院のあり方 和歌山県福祉保健部 平成28年10月https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/050100/imuka/iryoshingikai_20170425_d/fil/09bessatsu1.pdf

                                     少し年度は異なりますが、大きく変わらないとすれば寂しく感じた理由は納得できました。すると、今度気になってくるのは経営状況です。町立病院とは言え、町のお金が投入されているとなれば、町の財源の問題等にもつながるはずです。

                                     

                                     令和元年度の純損失は7,398,871円という状況で、医業外収益の中には県補助金455,000円、負担金交付金201,935,805円が含まれます。
                                    (出典)令和元年度 串本町病院事業損益計算書
                                    http://www.hsp.kushimoto.wakayama.jp/wp3/wp-content/uploads/2020/12/r01kessan_houkoku.pdf

                                     病院・医療を維持していくために税金が使われています。医療はなくてはならないと思うものなので補助をゼロ円にしろとは思いません。一方で、このお金の一部を町の他のことに使うことができたら住みやすい街になるかもしれないという側面があると感じることがあります。例えば、子育て関連にそのお金を使うことができるとしたら町の高齢化を少しでも改善することができるかもしれないと思うこともあります。
                                     医療者も赤字を減らすことに無理のない範囲で工夫をし、町の人と医療の在り方を相談して他の公共サービスと上手にバランスを取っていくことが大切かもしれないと思いました。

                                     


                                    3.最後に…

                                     やはり、地域実習では、現地へ行き、そこの「空気を吸い」、食事をし、直接肌で感じる部分も大切であると思います。COVID-19でオンライン講義が増えました。確かにオンラインは便利でオンラインのほうが良いものもたくさんあります。データ的な部分を調べるのも、オンラインで恩恵を授かる部分もあります。一方でデータ等の下調べとセットで、このように直接体験することが大切であると思うこともあります。例えば、医療以外にも串本町ではこのようなおいしい食事に巡り合うこともできました。

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                                    串本町での食事のひとつ

                                     もちろん食事だけでなく、その地域の人とお話をして気がつく地域性や、直接街を歩くことで感じる何かもあると思います。直接行くことができず、すべてをこのブログの記事からだけで本当に現地を理解する(体験する)というのは無理だと思いますが、少しでも参考になれば幸いです。COVID-19によりこの界隈もオンライン化が進み、オンライン上でいつでもどこでもオンデマンドで上手く済ませられるもの、Zoomでブレイクアウトルームを使うTBLのようなリアルタイムで双方向で行えるものを上手に使いながら、座学は技術的には場所に縛られずに学びやすくなってきていると感じます。慣習的・感情的な部分による縛り・制約がどこまでなくなるかだと思います。

                                     地域自習や留学をはじめとする直接体験するために移動する価値のある貴重なものごとのために、以前よりは時間を確保しやすくなってきていると思います。ぜひCOVID-19が落ち着いたときには、行ってみてください。

                                     

                                     そして何より、このような貴重な実習の機会をくださり、医療者や患者様はじめ関係者の皆様、本当にありがとうございました。

                                     

                                     

                                    【P.S.】個人で地域実習(奄美大島)へ申込み

                                     コロナ禍で地域実習(へき地実習、離島実習)を全体で中断している大学などもあると思います。そのような状況でも感染状況が落ち着いた時に地域実習へ行ってみたいという熱心な方もいらっしゃると思います。地域実習の一例として、フィジカルクラブ奄美大島奄美群島での離島医療の実習・見学を紹介させていただきます。地域実習(特に離島医療)に関して興味がある方はぜひどうぞ。本州の地域実習とはさらに異なる離島医療に触れる貴重な機会でした。体験記のよると、コロナの状況によっては受け入れてもらえているようです。詳しくは下記のフィジカルクラブHPをご覧ください。フィジカルクラブの奄美大島だけでなく他にも隠岐など、受け入れをしている病院・地域もあるようですので、調べてみるとよいと思います。。

                                    【フィジカルクラブHP】奄美大島へ見学・実習に来ませんか? - 医師・看護師、全ての医療人のための身体診察ワークショップ

                                     

                                     

                                     

                                    【当記事の前編】

                                    mk-med.hatenablog.com