"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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地域実習|体験記②: 病院外実習から振り返りまで

地域実習体験記② @和歌山県東牟婁郡串本町

 

<目次>

地域実習 ~体験記①:下調べから病院実習まで~ - 医学生からはじめる アウトプット日記の続きです。

~病院外実習から振り返りまで

 

1.病院外実習を通じて

 先ほどまでは病院での実習について書きました。病院外での実習が、とりわけ地域医療ならではの実習でもあります。それでは串本町内で足を運んでみたいと思います。

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串本町(右側が中心地、宿泊先にて撮影)

 病院外での実習では病院医療にかかわる実習をさせていただきました。予防医学・健康増進をテーマに、串本町内にあるとある地区の公民館のような場所へ伺いました。私の実習の際は、大学ならびに現地にて指導してくださる先生との関係から、「高血圧」をテーマにしてお話をしました。大学の実習という形態上、パワーポイントをつくってお話をするのですが、ここに来てよかったと思うのはパワーポイントでの発表の後の、高血圧以外の内容でも何でもありの健康についてのお話合いです。

 テーマでもあった血圧や、さらには健康・医療に対して、普段からどのようなことを思っているか、どれぐらい気にされているか、それ以外にも普段の医療との接点はどのような感じかというようなことを実感することが出来ました。病院の中にいては分からない、地域の人の健康や病気に対する視点が直接のお話を通じて聞けるというとても貴重な経験でした。

 

日本を100人の国に例えると、39.0人が病気やケガなどで通院している。
(出典)厚生労働省 平成30年版厚生労働白書 - 障害や病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会に -(100人でみた日本)

https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/18-3/dl/01.pdf

 通院している人は39%とされます。ということは逆手にとれば、61.0人は通院していないということです。予防医学や健康増進はすべての人に関係する事なので、病院に来ない人達とも健康についてお話することが出来るという貴重な機会だと感じます。私たちが病院で待っていればよいというような視点ではダメであり、社会的なアプローチが必要と再認識しました。

 他にも、在宅医療のように病院の外で医療に関わることで、「○○さん」というその1人ひとりを生活の中での役割等も含め、もっとしっかり見るきっかけとなり、さらには病院のときにその「○○さん」の普段の生活の事をもっとしっかり想像して考えられるようになると思いました。


2.実習を終えて

a. 医療機関へのアクセス・街づくり

 津波対策も含めて高台への移転を見ながら、高台はやや市街地から離れており一見すると少し不便ではないかとも感じました。しかし、病院にバス停があり、バスの路線図をみると基本的なコミュニティバスの路線が病院を起点にしています。これは、今後病院の横あたりに串本町役場が移転してくる事も考えれば、整理されている印象も受けました。また、病院がここまで町の中核である現状を見ると、高齢化のことも頭から離れませんでした。

 次に気になったのは、すさみ串本道路の建設です。高規格の自動車専用道ができるということは他の街へのアクセスが改善されるということを意味します。とりわけ、和歌山県田辺市方面とのアクセスが改善されます。すると、陸路では最寄りの三次救急医療機関である南和歌山医療センター(田辺市)までの搬送時間短縮がされるというのは容易に思いつきます。また、南和歌山医療センターは地域がん診療連携拠点病院でもあります。

 現在の串本町役場から南和歌山医療センターへの搬送時間が約60分ですが、開通後の搬送時間は約49分と、約11分短縮されます。
(出典)国土交通省 近畿地方整備局 紀南河川国道事務局,一般国道42号 すさみ串本道路
https://www.kkr.mlit.go.jp/kinan/road/tsukuru/susami/

 開通後も南和歌山医療センター(田辺市)への搬送時間がそれなりにかかることもあり、どれほどの住民の方々の意識が変わるか分かりませんが、現在(開通前)と比べれば、多少は南和歌山医療センター(田辺市)が近く感じられると思います。その際には、くしもと町立病院(新宮医療圏)と南和歌山医療センター(田辺医療圏)と異なる二次医療圏にありながら、病院や医療圏の関係性も、くしもと町立病院の立ち位置も変わってくることと思います。

 宮古島伊良部島を結ぶ伊良部大橋のように離島に橋ができるほどのインパクトはないと思いますが、社会インフラと医療は影響し合っていると振り返ることができました。

 

b. 病院と地域の在り方

 療養病床で心なしか病棟が寂しい、患者さんが少ないと感じました。そこで、病床稼働率を調べてみました。

 27年度のくしもと町立病院の病床稼働率は一般病床で78.2%、療養病床で66.8%でした。
(出典)地域医療構想と公的病院のあり方 和歌山県福祉保健部 平成28年10月https://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/050100/imuka/iryoshingikai_20170425_d/fil/09bessatsu1.pdf

 少し年度は異なりますが、大きく変わらないとすれば寂しく感じた理由は納得できました。すると、今度気になってくるのは経営状況です。町立病院とは言え、町のお金が投入されているとなれば、町の財源の問題等にもつながるはずです。

 

 令和元年度の純損失は7,398,871円という状況で、医業外収益の中には県補助金455,000円、負担金交付金201,935,805円が含まれます。
(出典)令和元年度 串本町病院事業損益計算書
http://www.hsp.kushimoto.wakayama.jp/wp3/wp-content/uploads/2020/12/r01kessan_houkoku.pdf

 病院・医療を維持していくために税金が使われています。医療はなくてはならないと思うものなので補助をゼロ円にしろとは思いません。一方で、このお金の一部を町の他のことに使うことができたら住みやすい街になるかもしれないという側面があると感じることがあります。例えば、子育て関連にそのお金を使うことができるとしたら町の高齢化を少しでも改善することができるかもしれないと思うこともあります。
 医療者も赤字を減らすことに無理のない範囲で工夫をし、町の人と医療の在り方を相談して他の公共サービスと上手にバランスを取っていくことが大切かもしれないと思いました。

 


3.最後に…

 やはり、地域実習では、現地へ行き、そこの「空気を吸い」、食事をし、直接肌で感じる部分も大切であると思います。COVID-19でオンライン講義が増えました。確かにオンラインは便利でオンラインのほうが良いものもたくさんあります。データ的な部分を調べるのも、オンラインで恩恵を授かる部分もあります。一方でデータ等の下調べとセットで、このように直接体験することが大切であると思うこともあります。例えば、医療以外にも串本町ではこのようなおいしい食事に巡り合うこともできました。

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串本町での食事のひとつ

 もちろん食事だけでなく、その地域の人とお話をして気がつく地域性や、直接街を歩くことで感じる何かもあると思います。直接行くことができず、すべてをこのブログの記事からだけで本当に現地を理解する(体験する)というのは無理だと思いますが、少しでも参考になれば幸いです。COVID-19によりこの界隈もオンライン化が進み、オンライン上でいつでもどこでもオンデマンドで上手く済ませられるもの、Zoomでブレイクアウトルームを使うTBLのようなリアルタイムで双方向で行えるものを上手に使いながら、座学は技術的には場所に縛られずに学びやすくなってきていると感じます。慣習的・感情的な部分による縛り・制約がどこまでなくなるかだと思います。

 地域自習や留学をはじめとする直接体験するために移動する価値のある貴重なものごとのために、以前よりは時間を確保しやすくなってきていると思います。ぜひCOVID-19が落ち着いたときには、行ってみてください。

 

 そして何より、このような貴重な実習の機会をくださり、医療者や患者様はじめ関係者の皆様、本当にありがとうございました。

 

 

【P.S.】個人で地域実習(奄美大島)へ申込み

 コロナ禍で地域実習(へき地実習、離島実習)を全体で中断している大学などもあると思います。そのような状況でも感染状況が落ち着いた時に地域実習へ行ってみたいという熱心な方もいらっしゃると思います。地域実習の一例として、フィジカルクラブ奄美大島奄美群島での離島医療の実習・見学を紹介させていただきます。地域実習(特に離島医療)に関して興味がある方はぜひどうぞ。本州の地域実習とはさらに異なる離島医療に触れる貴重な機会でした。体験記のよると、コロナの状況によっては受け入れてもらえているようです。詳しくは下記のフィジカルクラブHPをご覧ください。フィジカルクラブの奄美大島だけでなく他にも隠岐など、受け入れをしている病院・地域もあるようですので、調べてみるとよいと思います。。

【フィジカルクラブHP】奄美大島へ見学・実習に来ませんか? - 医師・看護師、全ての医療人のための身体診察ワークショップ

 

 

 

【当記事の前編】

mk-med.hatenablog.com