臨床推論 症例探し・下調べ
- 自学自習や学生主体の気軽な勉強会開催に向けて
- おススメの本も
<目次>
学生内・学生向けの臨床推論(診断推論)の練習のために学内外(院内外)で症例提示をする際に、主に書籍や雑誌から症例を選んで、様々な準備をして行ってきました。その過去の体験を振り返り、お伝えできるものが少しでもあればという思いです。
想定している勉強会は、1症例を60分~120分等で行うような気楽に学生だけでも可能な勉強会です。学び始めの初期研修医の頃にも応用可能だと思います。
進行としては、まずは簡単な現病歴から鑑別や追加問診を挙げてもらい、プレゼンターが追加問診を開示し、さらに取りたい身体診察を挙げてもらい、プレゼンターが開示し、行いたい検査を挙げてもらい、プレゼンターが検査結果を開示し、さらに最終診断に迫るものです。
何より参加者に楽しんでもらい、疾患について、治療について、鑑別について調べてみようとか、文献検索してみようとか、自学自習のきっかけやモチベーションアップになる、参加者同士がつながる等、何か今後につながるお持ち帰り内容があればという思いでやっていました。先生と一緒にやることのメリットも多いですが、日常的な練習や手軽さのために行う学内でこじんまりとした会をはじめ、少しでも気軽に開催できるところが増えたり、自学自習のきっかけとなったり、楽しい好奇心の探求になればという思いで書いています。
今回は、症例の難易度設定、症例探し(学習用の症例報告や書籍など)、症例の下調べ(主に書籍やコンテンツ)、番外編としてSnap Diagnosisの症例の探し方の4つに分けて、臨床推論の勉強会(練習)の際にプレゼンター(症例提示役)・進行役として、症例探しや、進行・準備(事前学習)の際にとりわけ参考にしたものを紹介します。その際の調べものに用いたり、自習にも使いやすいおススメの医学書も紹介したいと思います。
基本的に書籍を紹介する場合は、読者レビューも書かれていることの多いアマゾンへのリンクを準備致しました。読者レビューなどが気になる方はチェックしてみてください。
1.症例の難易度設定
では、症例の難易度設定からお話していきます。症例のネタは参加者(勉強会)の難易度設定や目的に合わせて選んでいました。個人的な感想ですが、まずはどのような最終診断(疾患)の症例を選ぶかという視点で表にしてみます(表1)。
表1. 主な症例の難易度設定
超初心者 |
初心者 |
(やや初)中級(やや上) |
上級 |
||
よくある疾患の Common manifestation |
◎ |
◎ |
○ |
― |
― |
よくある疾患の Uncommon manifestation |
― |
〇 |
◎ |
◎ |
◎ |
ちょっと稀な疾患 |
― |
― |
○ |
〇 |
△ |
稀な疾患 |
― |
― |
― |
○ |
〇 |
<定義>
超初心者:臨床推論って何かさえあまり分からない。
初心者:症候から鑑別がいくつかは出る程度。鑑別疾患の挙げ方(分類)とかも何となく意識し始めたぐらい。
中級(やや初心者):症候から鑑別は稀な疾患以外であれば、だいたい思い浮かぶ。
中級(やや上級者):症候からメジャーな鑑別は思い浮かび、稀な疾患も少しずつ知っている。攻める問診もある程度できる。
上級者:鑑別は稀な疾患まで多く知っていて、攻める問診ができる。(上級者の中でも上の人は診断仮説を立てる際にオッカムの剃刀のように1つにまとめる能力も高く、ヒッカムの格言のように切り替えることもできる。)
このような難易度設定のイメージで参加者や目標を考えて、探す症例のターゲットを絞りました。
2.症例探し
それでは難易度ごとに症例を探してみたいと思います。やはり、上級者向けであればあるほど、すでに出会ったことのある症例でないように出典を選びました。上級者である、もしくは上達を目指して自学自習している人ほど、既存の参考書(症例集)や直近の有名な雑誌等の連載を見ている人の割合が多く、そのあたりの配慮もしました。症例報告を検索で探すこともありましたが、検索と関係なく主に見に行っていたソースを紹介します。難易度に関しては、雑誌や書籍の中の各症例次第ですので、参考程度にお願いします。
(注)改訂に気がついたものは最新版に更新して紹介しています。
2-1. 英語教材の症例(論文)
主な探す先(検索ではなく「この雑誌を見に行く」というようなもの)
<上級へ向けて>
- New England Journal of Medicine (NEJM) > Case Records of the Massachusetts General Hospital
- New England Journal of Medicine (NEJM) > Clinical Problem Solving
<中上級へ向けて>
- Cleveland Clinic Journal of Medicine (CCJM) > Symptom to Diagnosis
- Mayo Clinic Proceedings > Residents’ Clinics
New England Journal of Medicine (NEJM)はご存じの方も多いと思います。もちろん、しっかり考えられる、ディスカッションのやりがいのある症例が多いというのが理由にあります。基礎的な部分(腹痛の基本的な鑑別を列挙するとか)は完成している人もしくは、参照先の書籍やデータベースを持っている人向けで、その先のディスカッションを楽しむことを目的に選んでいました。ディスカッションで点を1つの線にするようなひとつの診断を考える「オッカムの剃刀(Occam’s razor)」のトレーニングになります。
さらに、なぜ英語の症例からかというと、Google等で検索して調べてもまずヒットしないから勉強会中にネタバレしにくいというのもあります。もちろん、パワーポイントを作成する際に翻訳するひと手間が必要ですが、参加者に症例がネタバレしてしまうのは、せっかく参加してもらうにもかかわらず申し訳ない気がして英語のものから選ぶことが多かったです。特に学外や院外向けで、やる気があり道具を使いこなしている人が多い場合には英語のものを意識しました。CCJMのSymptom to Diagnosisは、本の『Symptom to Diagnosis』(訳本『考える技術』)ではなく、NEJMのCase Recors of the MGHのようなものに似た位置づけのレジデントや医学生向けのものです。各医学雑誌のContentやArticle Typeから、それぞれ特集のページを探してみてください。
次に学内・院内等でもっと気軽に実施するという視点からの症例の探しです。やはり、日本語で気軽にやるとなれば、日本語の症例集のようなものをみんなで使っていました。一緒にやる人の英語に対する難しさ・気軽さによっては洋書もお勧めです。次に紹介するような症例集を複数見つけたきっかけが、私自身は自学自習でした。自学自習の際に「この症例は○○でテーマが来たら、使えそう」などとチェックもしていました。そのため、自学自習している人と被らないようにする配慮も可能な範囲でしました。そして、書籍をもとに行うことで、症例部分を気楽にホワイトボード等に書きながら行うようにすることも可能で、事務的な準備も簡単にすることもできました。
2-2. 日本語の教材
日本語の書籍などから症例を探す場合は主に下記のような書籍を参考にすることがありました。もちろん、J-stageなどでちょうどよいものを見つけることもありましたが、やはり書籍等のものは手軽に使いやすい物が多かった印象です。また、解説がしっかりしていたり、現病歴から検査結果までしっかり書かれており、書かれていない内容をアレンジして補う・もしくは記載なしと言う必要性が少ないものが多かったです。
<中上級へ向けて>
京都GIMカンファレンス関連
- 『診断力強化トレーニングWhat’s your diagnosis?』
- 『診断力強化トレーニング2 What's your diagnosis?』
いずれも、かの有名な「京都GIMカンファレンス」からの症例です。途中の解説を自分で調べる必要性はありますが、やはり面白い症例が集まる有名カンファレンスからの症例です。普段から京都GIMカンファレンスに参加していない場合は、最近の症例から1症例ほど、『総合診療』の雑誌にて連載されています。カンファレンスに参加しましたが、参加できる場合は、現地での雲の上をいくようなディスカッション等も聞くことができるため、Zoomを含め参加することがおすすめです。上記の書籍とは関係ないですが、もう少しお手軽に東京GIM等もあります。
- 『診断推論Step by Step 症例提示の6ステップで鑑別診断を絞り込む』
解説が充実していて、1症例ごとにその中で段階を踏んで進めることができます。解説しやすい京都GIMカンファレンスを厳選したとも言えます。
- 『総合診療』連載「オール沖縄!カンファレンス レジデントの対応と指導医の考え」 →レジデントの対応と指導医の考えという視点からの解説が載っています。京都GIMよりは優しめの印象です。
- 『診断と治療』連載「症例を俯瞰する総合診療医の眼」 →雑誌連載なのでネタバレも少なく、解説が充実しています。汎用性の高いの考えさせられる症例です。
- 『症例検討から学ぶ 診断推論戦略』
対話形式でGIMカンファレンスを体験できます。対話から、臨床推論での思考過程を解像度を上げて学ぶことができます。例えば、症例1のReview of Systemの陽性項目が多い時の特異的な項目やノイズの具体的な選別を垣間見ることができます。詳しくは下記の記事もご覧ください。
- 『諏訪塾ダイナマイトカンファレンス 明日あなたの臨床は変わる』
対話形式で進められていくのが特徴的です。京都GIMよりは優しめです。
解説もコンパクトで症例集に近いことや、〇〇内科というような区切りで症例が集めてあるのが特徴です。
- 『Dr. 宮城の白熱カンファレンス 診断のセンスと臨床の哲学』
宮城征四郎先生をはじめとする先生方の書籍で、汎用性の高い症例で診断に至るまでの過程でも発見がある内容というような印象です。
<中級へ向けて>
- 『ティアニー先生の診断入門 第2版』
解説が充実していて学びが多く、ティアニー先生の鑑別疾患やプロブレムリストを見ながら、オーダーした検査という項目など順々に進めていくことができます。
クイズに近い感じでさらさらと学べる印象です。1症例で1つチェックポイントが用意されているような本にも感じます。
その他(分野別)
- 呼吸器:『Dr.長尾プロデュース 呼吸器腹落ちカンファレンス 呼吸の果てまでカンファQ!』
- 呼吸器:『知っておくと役に立つまれな呼吸器関連疾患ケースファイル50』
- 呼吸器:『Dr.宮城×Dr.藤田 エキスパートに学ぶ 呼吸器診療のアートとサイエンス』
- 呼吸器:『Dr.宮城×Dr.藤田 ジェネラリストのための呼吸器診療』
呼吸器関連の症例集は解説までしっかりしているものが多かった印象を受けました。一方で、自学自習で用いる場合には「呼吸器の症例かな」という先入観とどう向き合うかが課題と感じました。
臨床推論に欠かせない感染症のケースがたくさんあります。ここからさらにグラム染色を深める(例:山本剛先生の書籍『グラム染色道場』)など、やりたいことを見つければいいと思います。
感染症プラチナマニュアルでも有名な岡秀昭先生のシリーズ本。本の名前はコンサルトですが、コンサルするような症例を通じて学ぶとも言える症例と解説のような本です。
- 救急:『研修医目線でわかるERカンファレンス・ライブ』
- 不明熱:『Dr. 鈴木の13カ条の原則で不明熱に絶対強くなる』
不明熱での考え方を症例を通して学んでいく書籍です。不明熱初学者向けで13カ条に沿うように解説も詳しく書かれています。
- 不明熱:『ケースで学ぶ 不明熱の診断学』
学内でNEJMも扱いましたが、気軽に/お手軽にやる際には解説が充実しているかも気にして本から選びました。極力、検査までしっかり記載してあって、最終診断の載っているものにしました。
さらには、症例部分のスライドを事前に作るよりも、Zoomの画面共有でGoogleドキュメント等を用いて参加者からの問診などを元にリアルタイムで書きこみながら(オフラインであれば教室のホワイトボードに書きながら)進めていくのも、準備の負担が減って手軽になります。
2-3【参考】自学自習only向け
他にも、症例の冒頭部分だけのような例題を解きながら症候学を学ぶというようなコンセプトの書籍や、症例検討の勉強会として皆で用いるには検査等までは載っていない書籍は自学自習用として用いて、勉強会では使うのを避けました。一方、症例の冒頭部分だけのような例題を考えながら症候学を学んでいくコンセプトの本はより自学自習に向いていると思います。
【一例】
- 『外来診療の型 同じ主訴には同じ診断アプローチ!』
- 『続・外来診療の型 苦手な主訴にも同じ診断アプローチ! 』
問診から身体診察と、どの検査を提出する/しないが分かりやすく、検査を出すところまでが分かりやすい書籍でした。続編も登場し、取り扱う症候の網羅性も上がったと感じます。
- 『First Aid for the USMLE Step 2 CS, Sixth Edition』
今となってはコロナの影響でStep 2 CSは廃止されてしまったものの、英語を使いつつ問診・身体所見をチェック項目付きで確認できるよくできた自習用教材でした。
- 『帰してはいけない外来患者 第2版』
- 『カンファレンスで学ぶ 臨床推論の技術』
中級をめざす勉強会の場合は、事前学習(取り扱う症候についての一般的な鑑別や鑑別の仕方等)を取り入れることや、鑑別などがわかる書籍を貸し出したりもしました。もちろん、各自が参考書を買って事前に読んでくるような環境(反転授業形式)であればこの上なく幸せですが、やはりサポートも必要でした。
3.症例の下調べ
自学自習用はもちろん、プレゼンターや進行役として鑑別疾患を挙げたりするために、基本事項として次のような本を持参したり、事前学習をしたりしました。書籍は特にForeground questionの部分を調べたり、参加者に説明する際に確認するのに用いました。一方で、お勉強スライドのBackground questionに関しては、Google ScholarやPubMedで検索して疑問を解決するようにしました。今回は前者を中心とした際に用いた書籍などのうち、よく見かけたものや内容が印象的であったものといったお勧めしやすい本を紹介します。
3-1. 症候学の本
<症候学>
- 『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』
ご存じの方も多いかと思います。表によって整理された鑑別一覧のようなものが好きな人におすすめできるようなレイアウトです。参照用に向いています。
- 『診察エッセンシャルズ 新訂第3版』
前者と比べると表で整理されているわけではないですが、記述によって理解が深まったり、気づきが多いと感じます。
- 「Diagnosaurus DDx」(ウェブ・アプリ)
鑑別疾患が箇条書きでそっけなく並んでいるだけですが、とりあえず一般的な症候等の鑑別疾患をスマホのアプリで手軽に羅列するのに役立ちます。英語版です。リンク先はウェブページですが、Apple用やAndroid用のアプリもあり、便利です。
- 『Dr.徳田の診断推論講座【連動動画付,電子版付】』
初学者にも扱いやすい分量や内容だと感じます。初学者向けの小さな勉強会の際にも、まず最初に抑える内容としても参考にしました。臨床推論を始めた際は初版でしたが、第2版になり各論(胸痛の原因、腹痛の原因、…)が充実しました。
- 『考える技術 第4版』
初心者にはとても大きく分厚い本です。やり切る自身が私にはなく、初めの導入には用いませんでしたが、使っている人も多く定評です。
詳しく読むものとして、『内科診断学』や『ハリソン内科学』の症候学の章もありました。『内科診断学』(医学書院)は大きい割に最後の砦という感じもなく、使いどころや置きどころに多少困る感じでした。
- 『ハリソン内科学 第5版』
ハリソン内科学を持っていれば、ハリソン内科学の鑑別疾患や考え方の記述が優秀だと思います。内科学書だからと見くびってはいけないと思います。
- 『フレームワークで考える内科診断』
さらに病態や検査結果(例:徐脈、服腎不全、低K血症)の鑑別疾患として『フレームワークで考える内科診断』などがあります(当時はFrameworks for INTERNAL MEDICINEという洋書でした→和書にURL変更済み)。しかし、これを参考にしなくても、UpToDate等にいつでもアクセス可能であればUpToDate等を使うのもよいかもしれません。
- 『あなたも名医! 日常診療でここまでできる! 診断につながる病歴聴取【電子版付】(jmed62) 』
病歴に絞って、痒いところに手が届く書籍です。『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第2版』とは異なり、記載に深みがあります。主訴別の問診はもちろんのこと、既往歴や薬剤歴のような各問診項目、OPQRSTの各項目についての詳しい問診の視点など、網羅的に病歴について扱い、鑑別疾患リストも一段深く、症状の組み合わせや鑑別疾患ごとの特徴を比較しまとめてあったりします。詳しい解説とまとめの表のセットのような本です。参照用というよりも一歩先への学習用としても良いと思います。Evernote等に自作鑑別を作るきっかけにもなる本です。
- 『外来を愉しむ攻める問診』
先ほどの『あなたも名医! 日常診療でここまでできる! 診断につながる病歴聴取【電子版付】(jmed62) 』は密度が濃すぎて重たいと感じるものの、病歴についてまずは一歩として詳しく学んでみたいという場合は、山中克郎 先生の「攻める問診」もあわせてどうぞ。鑑別を絞りにいく問診である「攻める問診」という概念がとても良いと思います。「攻める問診」ということで、本よりもまずは動画で学ぶモチベーションをつけたい場合、CareNetの動画もあります。併せてご検討ください。
ニッチな鑑別リスト(自作鑑別リスト)としては、膠原病や不明熱関連などのテーマ別の書籍や雑誌を学びながら集めるということが多かったですが、そのような鑑別疾患リストのヒントになる書籍です。
- 『Kunimatsu's Lists 〜國松の鑑別リスト〜』
初心者向きではなく、臨床推論(診断推論)をやって自分に合うような鑑別まとめを作ろうとか、アレンジしようとか思った際に考慮すればよいと思います。國松淳和先生らしいとも感じる、不思議でニッチな鑑別リストです。
- 『ジェネラリストのための内科診断キーフレーズ』
痒いところに手が届くような鑑別リストが満載の書籍です。症候学だけではないですが、Semantic Qualifier(SQ)を意識した、解説付きの鑑別リスト(例:〇〇な胸痛)です。「CRP上昇の乏しい発熱」のように、発熱だけではlow yeild(鑑別疾患が多く非特異的な症状等)をSQを組合わせることで上手に鑑別を絞り込んだリストです。実際に、鑑別疾患を絞り込む際のヒントにもなる素敵な書籍です。もともと、Medicinaで連載されていたものを集めたもので、解説やエビデンスも充実しています。
臨床推論における鑑別で避けては通れない膠原病。膠原病のmimicsをPivot and Cluster的にまとめられている素敵な書籍もでした。エビデンスや解説もしっかりしています。詳しくは下記記事をご覧ください。症候だけでなく、検査や2者の鑑別などの様々な項目があります。
逆に救急セッティングや初歩であれば、救急関連の書籍がお勧めです。林寛之先生や坂本壮先生の書籍、京都ERなどの様々な書籍が多数あります。症候学的な部分も含め、見やすく、記述も親切で網羅的な・見やすいものが多い林寛之先生の書籍と、ERでの主訴を聞いた時の全体像がつかみやすい京都ERを紹介しておきます。
- 『新装改訂版 もう困らない 救急・当直 当直をスイスイ乗り切る必殺虎の巻! -電子版付-』
定番というぐらい、目次からこれを学ぶ(例:頭痛)と分かりやすい構成です。新装改訂版になりました。〔旧: あなたも名医!もう困らない救急・当直 ver.3 当直をスイスイ乗り切る必殺虎の巻! (jmed51)〕
- 『救急外来・当直で魅せる 問題解決コンピテンシー』
前者ほど、目次からはこれを学ぶと掴みやすいわけではないですが、「見逃しやすい頭痛のpitfall」という章であれば、救急外来での頭痛をひと通り学べるような内容となっており、書き方が前者よりやや実践向けの視点に感じます。
- 『京都ERポケットブック』
見開きでそれぞれの症候(例:腹痛)の診療(救急外来)の流れをつかめるというのがポイントだと思います。(第2版へ改訂のためリンク変更。第2版にて記載内容がボリュームアップしました。)
3-2. バイタルサイン・身体診察の本
さらに、バイタルサインや身体診察に興味を持ち、主に鑑別のために次のような書籍を使うこともありました。先述の『Dr.徳田の診断推論講座』のシリーズ本の『Dr. 徳田のバイタルサイン講座』、『Dr. 徳田のフィジカル診断講座』といったとっかかりになる本もありますが、とりわけ1冊でまとまっているものを紹介します。
<バイタルサイン>
- 『バイタルサインからの臨床診断 改訂版〜豊富な症例演習で、病態を見抜く力がつく!』
バイタルサインからも病態(例:ショックの原因)が推定・鑑別できることもあるという興味深い内容です。少し臨床推論をやってみてから、これを学び過去の症例を振り返ると発見があると思います。
<身体所見>
周りの人も含めてとっつきやすい『身体所見からの臨床診断』、鑑別・エビデンスも結構あって興味深くて便利な『マクギー』、マニアックに深く調べたいときの『サパイラ』というように、3冊をよく用いました。
- 『身体所見からの臨床診断―疾患を絞り込む・見抜く!』
- 『マクギーのフィジカル診断学 原著第4版』
- 『Evidence-Based Physical Diagnosis』, Steven McGee (著)
- 『サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 第2版』
他にもバイタルサインや身体診察の本がたくさんありますが、症候学と同じような「横切り」の視点でも主に使っていた書籍です。身体診察の『マクギーフィジカル診断学』や『サパイラ 身体診察のアートとサイエンス』は名著と言われていました。
- 『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』
身体所見でも皮疹をチェックすることがありますが、そこからの原因・鑑別疾患の考え方を皮疹の専門用語に縛られずに分かりやすく解説した類書まれな分かりやすい本です。
- 『Hospitalist (ホスピタリスト) Vol.10No.1 2022(特集:身体診察)』
横切りの視点だけではないですが、マクギーのようなエビデンスをもう少しギュッと凝縮させたようなものです。医学雑誌といってもかなりしっかり部類だと思います。HospitalistやIntensivistはテーマごとにエビデンス重視で参考になるものが多いので、身体診察に限らず気になる方はチェックしてみてください。
【本以外: YouTube】
- 一般的な身体診察についてベイツ等の教科書もありますが、実際にやってみるという点や一般的な点について網羅的で無料なフィジカルクラブチャンネルがあります。しかも軸となる教科書はマクギーです。平島修先生が一貫して解説されているのもmedu4を彷彿させる学びやすさかもしれません。
3-3. その他の本
症候学、バイタルサインや身体所見、疾患解説を問わず、痒いところに手が届くような書籍がありました。例えば、貧血の鑑別や疫学的なして視点をはじめ、事前の下調べの際に鑑別や疑問解決に役立った本がありました。
著者の髙岸勝繁 先生、文献ソムリエとも言われる監修の清田雅智 先生、編集の上田剛士 先生と錚々たる先生方が携わっていらっしゃる名著です。
こちらも、著者の上田剛士 先生、 監修の酒見英太 先生と錚々たる先生方が携わっていらっしゃる名著です。
- 『レジデントのための内科診断の道標』
内科診断リファレンスの改訂を待ち望んでいる方にもおすすめです。上田剛士先生も携わっていらっしゃる素晴らしいエビデンスに基づく記載が素敵な書籍です。どのような本か気になる方はよろしければ下記もご覧ください。
- 『セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版』
症候や身体所見・検査結果/病態等といろいろですが、鑑別疾患のネモニクスが豊富な書籍です。
- 『臨床推論の落とし穴 ミミッカーを探せ』
『診断戦略』のPivot and Clusterを体現したような鑑別の挙げ方を実践する類書まれな書籍です。想起しやすい疾患をもとに鑑別疾患を考え、その鑑別疾患のそれぞれまで深める書籍です。例えば、クモ膜下出血(SAH)が真っ先に思い浮かんだ時の鑑別疾患(RCVS、頸動脈/椎骨動脈解離、脳静脈洞血栓症、…)を紹介されていたりします。ちょっと鑑別が上がるようになってきた時から重宝する場面のある書籍です。
- 『所見から考える画像鑑別診断ガイド』
例えば、肺の多発性陰性(0.5mm-2.0mm)の鑑別疾患リストというように、画像所見ごとに鑑別疾患がリストになっている類書稀で便利な本です。
これ以上、分野別の書籍などを詳しく上げるとキリがないですが、これらの本等を使って、最終診断までの下調べをしていました。(注)追記の新しい本に関しては、今なら使うというようなものです。
特に、ここに挙げさせて頂いた書籍は「こういう分野・利用目的ならこれ!」とお勧めしやすい書籍になります。
その先は、その症例で気になった疑問点のうち、覚えておいてほしいところや教科書では調べにくい部分を解決するために文献を調べたり、お勉強スライド(解説)づくりをしたりしていました。
3-4. 診断学の本
診断学の視点として深みを増すためや分かりやすくするため読んだ書籍もあります。症候学の本と比べると、具体的な鑑別疾患を挙げるという側面よりも鑑別疾患を考えていく過程を言語したものです。
- 『誰も教えてくれなかった診断学―患者の言葉から診断仮説をどう作るか』
診断過程における診断仮説を日本語で解説しようとした初の書籍ではないかと思います。方法論としても鑑別疾患として手札のカードのように考えていくので、初学者でちょっと鑑別が挙がるようになったぐらいでも、方法論がイメージしやすいでしょう。
- 『診断戦略: 診断力向上のためのアートとサイエンス』
まず想起された鑑別疾患(pivot)をもとに他の鑑別疾患(cluster)を挙げていくPivot and Clusterに関する書籍です。直感(system1)と体系的思考(system2)による診断過程をハイブリットのように合わせて考えるSystem3に関する書籍とも言えます。System2だけでは時間がかかるので、ある程度慣れてくると、System1に寄りがちになります。方法論にこだわる必要はありませんが、バイアス対策にもなり、この方法論の概念を使うことによる有益性が高いと感じます。志水太郎先生の診断学の書籍です。
- 『内科初診外来 ただいま診断中!』
Semantic Qualifier(SQ)に基づいた鋪野紀好先生の書籍です。方法論だけでなく、症候学的な面もセットの書籍です。
- 『レジデントノート増刊 Vol.23 No.2 症候診断ドリル』
こちらも、Semantic Qualifier(SQ)により特化した新たな書籍です。この書籍をきっかけに臨床推論に役立つSQについては新たにブログ記事にしています。SQについても興味のある方はこちらをご覧ください。
学内外(院内・院外)の仲間でちょっとした臨床推論(診断推論)の勉強会を開いてみようという際の少しでも参考になれば幸いです。
4.番外編 Snap Diagnosis編
普段の形式(上記)の臨床推論の勉強会のやり方にマンネリ化した時、時間が余った時などにSnap Diagnosis用の症例を挟むことがありました。ちょっとしたクイズにような感じで、いつも以上に気軽に参加しやすい会になることが多かったです。Snap Diagnosis(一発診断)用には、検索に加えて主に下記の雑誌・書籍などをチェックしました。
- NEJM> Images in Clinical Medicine
- Cleveland Clinic Journal of Medicine (CCJM) > The Clinical Picture
上記は英語でもあり、印象的でキレイなClinical Picture(臨床写真)が多かったです。そして、論文からなので学内ではネタバレすることはなく便利でした。一方で、勉強会の運営をしているようなメンバー内で用いる場合には「それ知っている」というのか、Clinical Pictureを出したとたんに「2週前のNEJMので、あのNEJMに…」と話が違う方向に弾むようなこともありました。
それでは、手軽に自学自習にも使えて、学内でも使えるような日本語の書籍を紹介しようと思います。
一発診断100シリーズ
- 『プライマリ・ケアの現場で役立つ一発診断100―一目で見ぬく診断の手がかり』
- 『プライマリ・ケアの現場で役立つもっと!一発診断100―診断の手がかりはここにある』
- 『さらに!一発診断100 (プライマリケアの現場で役立つ)』
- 『「ぱっと診」でわかる!小児の一発診断100』
目でみるトレーニングシリーズ
- 『目でみるトレーニング-認定内科医・認定内科専門医受験のための151題』
- 『目でみるトレーニング 第2集: 内科系専門医受験のための臨床実地問題』
- 『目でみるトレーニング 第3集: 内科系専門医受験のための必修臨床問題』
- 『目でみるトレーニング 第4集: 内科系専門医受験のための必修臨床問題』
このシリーズは月刊『medicina』にて連載されており、『medicina』で見るという方法もあります。
- 『レジデントノート増刊 Vol.21 No.11 臨床写真図鑑ーコモンな疾患編 集まれ!よくみる疾患の注目所見〜あらゆる科で役立つ、知識・経験・着眼点をシェアする81症例』
- 『総合診療 2019年 11月号 特集 臨床写真図鑑 レアな疾患編 見逃したくない疾患のコモンな所見』
上記2冊はコモンな疾患とレアな疾患でちょうどよく振り分けられていて、2冊セットのような相性の良い書籍でした。
外来診療のUncommon Diseaseシリーズ
- 『外来診療のUncommon Disease』
- 『外来診療のUncommon Disease (vol.2) 』
- 『外来診療のUncommon Disease vol.3【電子版付】』
Snap Diagnosisになりそうな症例も入っています。週刊『日本医事新報』にて連載の「キーフレーズで解く外来診断学」をまとめて書籍化したものです。一発診断用だけでなく、知っておくと役立つ疾患や臨床推論の考え方のヒントにもなる症例が多数あります。
5.準備の時短×臨床推論勉強会
5-1. Googleドキュメントの利用
「臨床推論の勉強会を気楽に開くためにどのようにしたらよいのか?」というような質問を受けた際に、パワーポイントでのスライド作成の手間が省くことができ、Googleドキュメントを用いた方法があります。Googleドキュメントの画面をZoom等で画面共有しながら、書き込みながら進めていくような方法です。岩田健太郎先生のセミナーでも類似の方法が取られていることもありました。。
紹介されているものを見つけました。一例として、イメージをしやすくするために、よろしければYouTube動画をご覧ください(追記)。
Googleドキュメント以外にもGoogleスライドなど、オンライン上でみんなで編集できるものであれば、何でも応用して使用可能です。Googleドキュメントを参加者全員で書き込んだりすることで、鑑別疾患や追加問診、疑問などを同時に書いてもらったりすることもできます。
5-2. スライドマスターの使用
スライド(パワーポイント)を用いるとしても、時間短縮とキレイさを両立させる方法として、「スライドマスター作成」もあります。私自身のブログ記事ですが、よろしければご覧ください。
6.最後に
学内(院内)等の仲間で書籍を決めて、皆が同じ書籍を手元に持ちながら気軽に皆で考えながら定期的に進めていくのも気軽で楽しいかもしれません。
プレゼンター(症例提示役)や進行役をやるに至るまでに、自学自習用の書籍も読んだりしました。他にも素敵な書籍があると思いますが、その中で、とりわけ症例そのものや、勉強会の症例検討中の進行そのものに役立ったものを中心に個人的な視点から挙げさせていただきました。少しでもお役に立ったり、興味を持つ人が増えたり、自学自習を始めてみたり、気軽な勉強会を始めてみたりする人が増えれば幸いです。
そして、様々な臨床推論のイベントを楽しんでもらえれば幸いです。もちろん、ゲーム化には気をつけつつ、何か気づきを見つけてほしいと思います。毎年、12月頃に全国オンライン臨床推論グランプリ(DGPJ)として、豪華な講師の先生方による臨床推論の大会もありました。是非、参加して奥深さを体験したり、学んでみてください。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。
【関連記事】
その他、勉強会の運営でお悩みの方がいらっしゃいましたら、下記の記事を書きました。少しでもお役に立てれば幸いです。
臨床推論(診断推論)に役立つSemantic Qualifierについての本から深掘りしてみたブログ記事です。
臨床推論における鑑別で興味深い楽しさのある膠原病。膠原病のmimicsをPivot and Clusterのようにまとめられている素敵な書籍もでした。エビデンスや解説もしっかりしています。詳しくは下記記事(医学書ログ)をご覧ください。
他にも、画像診断・読影にも興味がある初学者の方がいらっしゃいましたら、下記のような書籍から始めてみるとよいと思います。