『レジデントのための内科診断の道標』
上田剛士(監修)、小嶌裕介(著)
ここ1-2カ月ぐらいの間に上田剛士先生の携わっていらっしゃる書籍が複数出版されるということがありました。『ジェネラリストのための内科診断リファレンス』(以下、内科診断リファレンス)をはじめとして、今回もエビデンスが素敵だといつも感じるので特にこの本を医学書ログにしました。
【こんな人におススメ】
1.最近増えた他の本
ここ1-2カ月ぐらいの間に、エビデンスが素敵な書籍やレクチャーで楽しませてもらえる上田剛士先生の書籍が立て続けに発売されました。『ドゥガーウィン 診断のための診察と検査』からはじまり、『レジデントのための内科診断の道標』や『ジェネラリストと学ぶ 総合画像診断: 臨床に生かす!画像の読み方・考え方』と3冊も急に増えた印象でした。
- 『ドゥガーウィン 診断のための診察と検査』
『ドゥガーウィン 診断のための診察と検査』(以下、ドゥガーウィン)は、訳本です。『セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版』と同じような大きさなのですが、レイアウトが文字尽くしでした。内容を文字でまとめてある教科書のようでした。読んでいると、時々「あー、いいこと書いてある」となることはあるのですが、読みやすさやレイアウトから万人におすすめできるとも言い難い印象でした。
- 『ジェネラリストと学ぶ総合画像診断』
『ジェネラリストと学ぶ総合画像診断』は、画像だけや症例の情報はあっさり目の放射線診断系の画像クイズよりもに画像以外の臨床的な情報にも視点を向けていると感じる点が特徴的でした。対話形式での展開なので好みは分かれると思います。読み物の延長として読みやすいと感じました。
3冊とも手にしてみて、その中で個人的に一番おススメしやすいのは『レジデントのための内科診断』ということに落ち着きました。それでは、今回の中心の書籍に移りたいと思います。
2.どんな本!? 魅力的なところ
さて、本題の『レジデントのための内科診断の道標』(以下、内科診断の道標)の話に移りたいと思います。内科診断リファレンスのようなエビデンスを軸に話を進めている本です。内科診断リファレンスゆずりで、感度・特異度・尤度比、陽性率、頻度というような数値を表やグラフにしたものが多数あります。病気がみえるシリーズの延長のような『研修医のための内科診療ことはじめ 救急・病棟リファレンス』とは大いに異なる系統の本です。
エビデンスなので、新たなエビデンスと共に変化していく面も魅力的だと感じます。信仰とは違って、反証可能なものとして疑いつつも信じている存在といったところでしょうか。何より医師として、もちろん宗教でもなければ、一部のいかがわしい自由診療のようなものでもなく、医療(特に保険診療)をする身としてもエビデンスに基づいた医療(EBM)の医学的な判断材料の根底として優先される(知っておく/調べられるようにしておく)部分であり、大切な内容が日本語でまとめられている書籍というのは有難いと感じる人も多いのではないでしょうか。また、参考文献リストもPMIDをはじめとして見やすく整えられており、limitationや研究された状況などをさらに深掘りもしてみやすいでしょう。
もちろん、エビデンスの上で、各検査や治療を身体的な負荷や経済的負担などに対する患者さんの価値観に合わせて行く訳で、従来からの治療最優先であれ、ふわっとした「思いやり」であれ、医師の価値観を押し付ける訳ではないのです。例えば、検査・治療が高くても何が何でもエビデンスで少しでもいいからやる訳ではなく、「選択Aだと自己負担5万円程度で、自己負担2万円の選択Bと比べて、このような差(治療成績や副作用など)がありますが、どうしますか?」(日本の場合は、保険制度で高額医療は定額サブスクみたいになってしまいますが…)となる訳です。BPSモデルでいうところのB ioの部分を中心としたエビデンスは、MSWなども含む医療関係者の中でも医師の専門性の根底になるもののひとつだと考えています。
※医療・医学的な部分とそれ以外を意識しておくことが必要だと考えています。別にアートやナラティブメディスンのようなものも患者満足度等に影響があるなら、それを取り入れていけばいいと思います。もちろん、現状の保険医療の制度では、差額ベッド代を除いて医学的なもの以外が反映されにくく、高齢化で医療の持続可能性も考えざるを得ない状況では留意が必要です。医師がエビデンスがない状態で「医学的に効く」といってしまうあたりが問題で、あくまで優先順位のような感覚です。
以前からある内科診断リファレンスは主要症候(内科一般)以外に、消化管、肝胆膵、循環器、内分泌代謝、腎泌尿器…というような切り口がメインでした。そして、臓器別の下位に疾患を中心に、他にも症候や病態といったものまで解説されていました。
一方、内科診断の道標では、序章の感度・特異度・尤度比以外は、咳・血痰、呼吸困難・胸痛、腹痛・嘔吐、意識障害、失神、めまい、…というように症候を軸とした大きな切り口となっています。その下位では、胸水、心不全というような病態、ある疾患でみられる症候というような両方向でセクションがあります。内科診断リファレンスよりも疾患別の解説が割合としては減って、臨床推論で役立ちそうな「縦切り」の要素が増えたような印象はあります。(そういう意味では本当の意味での改訂ではないとも言えるでしょう。)
構成としても、1つもしくは複数のセクションでまとまりになっていて、短い症例が導入として1つもしくは複数紹介されています。例えば、短い導入の症例が1つあり、関節痛の分類、急性単関節炎の原因疾患、痛風の診断というような小セクションが続くような感じです。導入の短い症例をみて興味を持って読書のように通読してもよし、索引から調べるのもよし、目次から気になるところを読んでみるのもよし、というような感じでしょうか。また、文章やデザインとして、「レジデントのための」ということで、『マクギーのフィジカル診断学』の解説のような文章や図表が増えたというような印象を受けました。紙の書籍を買うと、便利とは言い難いものの日本医事新報社の電子版もついています。
気になる方はぜひ書店等で手に取ってみてください。
本日もお読みくださいましてありがとうございました。
本日取り上げた書籍になります。アマゾンでの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。