"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

医学の趣味人"Med-Hobbyist"のブログへようこそ。医学に関連する「なぜ」・「なに」といった好奇心を大切にする場所として、体験・読書をシェアする場所として、過去の失敗談やヒヤリを棚卸する場所として、傷を舐め合う場所ではなく何かヒントを得られるような場所にしたいと思います。少しでもお役に立てば幸いです。

地域実習|体験記①: 下調べから病院実習まで~

地域実習体験記① @和歌山県東牟婁郡串本町

 

<目次>

【次回記事】地域実習 ~体験記②:病院外実習から振り返りまで~ - 医学生からはじめる アウトプット日記

 

~下調べから病院実習まで

 地域実習に行った際には、ネタバレへの配慮(オフィシャルな方での発表を初紹介とする約束)といった諸所の事情から紹介せずにいました。今となっては、COVID-19によって地域実習(地域研修)に行くことができない人もいるのではないかという思いから、可能な範囲で思い出しながら書いてみます。

 そもそも、「地域医療」という言葉が様々な意味を持つ言葉になっていると感じます。都会でも、へき地でも、どこでも地域の視点やプライマリケアの視点からみた医療を地域医療という人がいます。一方で、へき地医療のことを地域医療という人もいます。他にも医療圏での医療のことを地域医療という人もいます。
 今回の地域実習は、特に後者以外の2つについて触れることができる実習であったと思います。大学病院でも地域医療の意識は大切だとは思いますが、とりわけ地域の視点やプライマリケアに近く、町内唯一の病院としての側面から離島ほどではないにしてもへき地医療について考えるきっかけになると思います。また、医療圏のことも調べるきっかけにしてみたいと思います。

 (※地域実習で学ぶ「地域医療」の言葉の意味が異なってしまうと、お読みいただいてもお時間を頂戴することになると思い、予めお伝えさせていただきました。)

 

 

1.地域実習先の下調べ

 地域実習先は本州最南端の町、和歌山県東牟婁郡串本町です。テレビの台風中継の際に潮岬という地名を聞いたことがある人が多いと思います。まさに、その潮岬があるのが串本町です。東京からですと、南紀白浜空港から陸路、もしくは大阪経由で向かう人が多いかと思います。大阪市内(新大阪駅)からはJRの特急電車「くろしお号」で約3時間ほどで着きます。実際に、串本町ではおいしいお魚も頂きました。

f:id:mk-med:20210220233700j:plain

串本町の位置関係(点線:和歌山県の県境)

 

 まずは串本町の概要から。

 2015年の国勢調査では、串本町の人口は16,558人、65歳以上人口割合43.0%(全国平均 26.6%)といった町です。

(出典)総務省 国勢調査 / 平成27年国勢調査 / 速報集計 人口速報集計

https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei02_02000055.html

  全国平均よりも高齢化が進んでいます。そういう意味では、日本全体(平均)の高齢化が今後さらに進んだ時のヒントがあるかもしれません。


 今回、お世話になる病院は「くしもと町立病院」です。串本駅から徒歩25分程度の「サンゴ台」という丘の上にあります。平成23年に移転して建設された病院です。周りでは、すさみ串本道路(高規格道路・自動車専用道路)、串本町役場新庁舎等の移転のための土地の造成や建設をしている風景がみられました。津波対策を兼ねて、高台への移転計画が進められていました。

 くしもと町立病院は、病床数は130床(一般病床90床、療養病床40床)二次救急医療機関で、災害時には災害支援病院としても機能します。医療圏としては和歌山県新宮医療圏に属します。新宮医療圏には新宮市立医療センターといたような大きな病院もあります。他にも、和歌山県の三次救急医療機関は3つあり、南和歌山医療センター(田辺市、田辺医療圏)、和歌山県立医科大学附属病院(和歌山市、和歌山医療圏)、日本赤十字社和歌山医療センター(和歌山市、和歌山医療圏)です。また、ドクターヘリ等でくしもと町立病院から搬送することもあるようです。

 

f:id:mk-med:20210220095836j:plain

くしもと町立病院の外観

 

2.地域実習

<実習に向けての想い>

 普段の実習では、病院(特に大学病院)での医療について学ぶことが多いですが、地域実習ということで病院の前の医療(例:予防医学、健康増進)や病院の後の医療(例:在宅医療)の場で実習することができます。さらには、地域社会と医療のつながりも感じられて、考えるきっかけになればという思いで行きました。BPSモデルのB(Bio)の部分だけでなく、P(Psycho)やS(Social)の部分に、もっと触れられればいいなと期待していました。家庭医療の学生向けの一部の勉強会・団体で違和感を感じる「思いやりの話だけ」というような始終一面からの視点だけでなく、Bioはもちろんのこと、患者さんの街のデータを調べたり、人類学や社会学の研究や視点も取り込んだり、深みを少しずつ探っていければと思います。どの診療科臨床医でも、非臨床医でも大学病院以外の医療に触れておくという部分に意味があると思います。専門家でも「総合診療はマインド」という視点で取り入れつつ地域とかかわったり、非臨床医でもデジタル化と共に地域を支えるシステムを作るようなことがあるかもしれません。

 前述の「地域医療」というと、前述のように言葉の定義があいまいで都市部でも地域医療はあります。都市部以外での医療をみることができるという意味でも、何か考えるきっかけになればと思い、先ほどのように下調べとして地域実習先の基本的な街のデータを調べてみました。そして、データから抱く印象と実際の街での医療についてみていき、今後他の地域のデータを見れば他の場所にも多少は応用して考えられるようになればと思います。

 

<それでは、実習のお話へ>

 色々調べてみても、最後は百聞は一見にしかずということで現地でのお話をしたいと思います。(人によって実習内容も異なります。また、個別の個人的なお話は控えさせていただきます。)


 地域実習は月曜日の朝に大阪を出発して、実習は午後から始まります。移動に片道あたり半日があてがわれ、実習は4日間というスケジュールです。

 まずは、くしもと町立病院での実習からお話します。普段と特に異なるのは療養病棟での実習でしょうか。病棟(普段の大学病院は急性期)の雰囲気から異なります。これは病院も異なれば、当たり前のことかもし得ませんね。入浴介助の実習等を行いました。入浴介助では、入浴される方が不安になりにくいよう浴槽自体が上下することだけでも驚きました。永久気管孔の方の入浴の際の注意事項も身を持って実習から学びました。さらに、今までこのような実習をしたことがないからだと思いますが、実際に介助をすることで、人も重みも伝わります。そして、今まで以上により生活に身近なこと(例:ADL)に興味を持ちました。
 これをきっかけに、フレイルロコモティブシンドロームといった分野を勉強するきっかけとなる人もいると思います。地域実習までにこれらを学んでおいて、理解しやすかったこともあったと感じたことを覚えています。

 外来実習の時間もありました。内科でしたが、大学病院の際とは異なり様々な内科疾患にめぐり合いました。それ以上に印象に残っているのは、紹介状に紹介元の医院が「高齢につき閉院します」ということが書いてあったこと。普段、そこまで意識することはないかもしれませんが、改めて高齢化のことを思い出したのでした。
 また病棟に関しては、どのような疾患の患者さんがどの程度いらっしゃるかについては、病院のホームページの入院患者実績や手術件数をご覧ください(→http://www.hsp.kushimoto.wakayama.jp/aboutus/jisseki)。大学病院よりも、様々なCommon Disease(しかも比較的典型例)に巡り合う可能性が高いと思います。 

 

 

3.病院外実習から振り返りまで(次回)

 引き続き、次の記事にてもっと地域に根差した病院外での実習についてから、実習後の振り返りから社会と医療についても触れていきたいと思います。

【続き】

mk-med.hatenablog.com

 

 今回は病院での実習までのお話でした。本日もお読みくださいましてありがとうございました。

嗄声の原因|嗄声の定義から調べてみる

嗄声の原因 ~嗄声の定義から調べてみる~

 

<目次>

 

 今回は、突然の嘔吐と嗄声が出現した80歳代男性の症例報告でした。最終診断は胸部大動脈瘤切迫破裂ということで、反回神経麻痺嗄声の原因でした。

 嗄声の原因は、今回のような大動脈瘤をはじめとする神経麻痺、声帯ポリープをはじめとする咽頭や声門の器質的なものぐらいで、high yieldな症候でしょうか?悪心・嘔吐よりはhigh yieldであるとは思いますが、深堀りしてみます。

 

1.嗄声の定義

 まずは嗄声の定義から。何となくかすれ声という程度の認識なので再確認します

 嗄声(hoarseness、かれ声)は音声障害のうち、声帯およびその付近の異常状態によって発声時の声の質が異常になることをいう。一般的には、失声(無声、ささやき声)、気息声(息漏れのある声)、無力声(力のない声)、努力声(力み声)なども含めて嗄声ということが多い。

(出典)『内科診断学福井次矢,奈良信雄,磯部光章ら(著),医学書院,2016

 

 意外と無力声や努力声も嗄声に入ることもあるようですね。昔、実習中でしたが、嗄声の訴えがないと嗄声に気がつかないということがありました。そのときには、ひと呼吸の間に話すことができる時間がヒントになるとも聞きました。他にも普段との比較も重要になってくると感じました。実際、嗄声どのように訴えられるのかも調べておきます。

 

嗄声の患者は
「声がかすれる、出ない、ふるえる」
「ガラガラ声になった」
「高さがおかしい」
などと訴える。反回神経麻痺の患者は、
「会話中疲れやすい」
と言うことがある
(出典)『内科診断学福井次矢,奈良信雄,磯部光章ら(著),医学書院,2016


 会話中に疲れやすいというのは盲点でした。息継ぎする回数が増えるからでしょうか。声の高さ・性質が変われば、元からでなければ気がつきそうですね。

 

 

2.嗄声の原因(鑑別疾患)

 では本題に戻り、嗄声の原因(鑑別疾患)を調べてみました。意外と(予想通り?)症候学の簡単な教材には嗄声という項目がありませんでした。教科書類からはみ出て調べてみます。

“Hoarseness—Causes and Treatments”というReview articleから、原因と頻度(嗄声の全症例のうちの割合)を紹介します。

Hoarseness—Causes and Treatments
Rudolf Reiter, Thomas Karl Hoffmann, Anja Pickhard, et al.
嗄声の原因
<機能性>
・機能性音声障害(30%)

<器質性>
・急性咽頭炎(42.1%)
・慢性咽頭炎(9.7%):ニコチン乱用、吸入ステロイド、環境中の刺激物の吸入、胃食道逆流症
良性腫瘍(10.7-30%):ポリープ、嚢胞、Reinke浮腫(ポリープ様声帯)、再発性乳頭腫
・悪性腫瘍(2.2-3%):声帯癌
・声帯裂傷(n.d.)
・生理的/加齢(2%)

<内科疾患による兆候>
・胃食道逆流症(9.7%)
結核(n.d.)
・リウマチ性疾患(n.d.):関節リウマチ、SLE、血管炎、サルコイドーシス
・アミロイドーシス(n.d.)
・リンパ腫(n.d.)

<神経疾患>
・声帯麻痺(2.8-8.0%)
 声帯麻痺の大部分(24-79%)は迷走神経または反回神経の麻痺による。手術などの医原性、外傷、悪性腫瘍が原因にある。悪性腫瘍では甲状腺癌(甲状腺癌のうち0.9-1.6%)肺癌(肺癌のうち1.5-43%)といったものの初期症状のことがある。特発性も2-41%でみられる。
・痙攣性発声障害(n.d.)

<声帯機能不全>(n.d.)

心因性
心因性発声障害(2-2.2%)

(出典)Dtsch Arztebl Int. 2015 May 8;112(19):329-37. doi: 10.3238/arztebl.2015.0329

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 声帯麻痺については少し詳しく記載しました。胃食道逆流症、慢性咳嗽の原因以外にもここでも原因として挙げられていますね。
 他にも攻める問診や嗄声の中での鑑別に役立ちそうな典型的な症状の記載、各原因についての詳しい記載、綺麗な表もありました。例えば、良性腫瘍のポリープや嚢胞の典型症状に声のボリュームの低下、発話への倦怠感という記載や、心因性発声障害の典型症状に突然の嗄声(数時間、数日)というような記載もありました。気になる方はFree articleなので、目を通してみてください。


 嗄声に身体所見がないかと調べた際に偶然分かった問診項目や、追加の鑑別疾患です。嗄声についての直接的な身体所見は見当たりませんでした。

 

 

3.問診項目と原因の追記

 次のような問診項目や、神経筋疾患の鑑別疾患がありました。

<問診項目>
・環境に対するアレルギー
・胃酸の逆流
・喫煙、煙や他の刺激物の吸入
・2週間以上続く慢性的なものか
・喫煙や飲酒は継続的であるか
・咳や喀血、体重減少、片側性の咽頭痛はないか

 嗄声が2週間以上続くなら、喉頭鏡検査を紹介して甲状腺機能低下症、逆流性食道炎、声帯結節、頭頚部癌および、パーキンソン病筋萎縮性側索硬化症重症筋無力症など神経学的障害が原因かどうか調べる。
 
(出典)『ベイツ診察法 第2版』リン S. ビックリー,ピーター G. シラギ(著)

 

ということで、2週間以上続いた場合には嗄声の原因として神経筋疾患も考える、原理的に考えれば神経(筋)疾患も入るということを確認できました。

 悪心・嘔吐や腹痛のような鑑別に比べると、嗄声を元に考えると比較的絞って考えやすそうでhigh yieldな症候という印象を受けました。そして、嗄声の原因の疫学的なこと、自身の中で盲点であった部分の復習にもなりました。

 

 本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

読書ログ: 考えることは力になる|ポストコロナを生きるこれからの医療者の思考法

読書ログ(書籍紹介)

考えることは力になる ポストコロナを生きるこれからの医療者の思考法』

岩田健太郎(著)

 

 巡り合えて良かったと思う書籍の紹介です。普通の医学書を紹介するというより、周辺をテーマにしたものや興味深いものを紹介できればと思います。

 今回は、孤高な岩田健太郎先生の考え方に触れることのできる書籍の紹介・読書ログです。

 

https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51nS8OVUbuL._SY291_BO1,204,203,200_QL40_ML2_.jpg

 

【こんな人におすすめ】

  • ロジカルに考えれるようになりたい人
  • 質問上手になりたい人
  • 情報リテラシーを高めたい人
  • 情報を吟味できるようになりたい人

 

 岩田健太郎先生の普段の考え方が垣間見れるのではないかと思うようなワクワクする書籍です。

 この本を紹介する理由は何といっても、医療者が感性豊かに論理的に考えるためのひとつの方法を照らしてくれるような本だからです。「こういう決まり事だから」ということで思考停止になったりしていませんか? 解答を出すのは上手だけれども、なぜか疑問は湧かない、質問したいことはないというような状況になっていませんか?

 「なぜ、こういう決まりなのか?」というように「Why(なぜ)」を大切にしてロジカルに考えて、もっとよくできることがあると思います。

 タイトルには、ポストコロナを生きるこれからの医療者の思考法とありますが、コロナに関係なく、医療者が論理的に考えるための方法を教えてくれます。


 本の中では論理的(ロジカル)に考えるための方法を順に紹介していきます。まずは、感情豊かになるための方法、上手に質問する方法、Becauseによる論理をチェックする方法、他にも帰納法演繹法をはじめとする理論、話し方や議論の仕方という相手とかかわる部分や英語の勉強、トンデモ情報を見抜くために情報の検証の仕方もあります。すべてを読んで、普段医療に関わる身として自分で考える力が手に入る気がします。考える力を身につけて医療をはじめ様々なことに関わっていったら、自身のこと、自身の周りの事もより良くなっていくと感じます。

 また文章の書き方もところどころ、ツッコミの様なものもあったりと、決して硬い教科書のようなものでもなく、すらすらと読みやすい点も良かったです。

 この本のようにはすべては無理でも、こういう考え方があるんだというだけでも、読んでみる価値があると思います。

 

 本日も読みくださり、ありがとうございました。

 

 今回取り扱った書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

二次性血小板減少性紫斑病(ITP)の原因

二次性血小板減少性紫斑病(ITP)の原因

 

 結核による免疫性血小板減少性紫斑病(immune thrombocytopenic purpura; ITP)の症例報告を見て、ここでも結核か!と驚きました。結核がITPの原因として不思議ではないものの、主な原因として何があるのか疑問に思ったため、ITPの原因について調べたいと思います。

 ITPはPrimaryとSecondayに分けられて、Primaryと診断する前の2次性の除外にも少しでも役立てばと思います。原因として、自己免疫疾患、ピロリ菌やHIVHCVのような感染症をぱっと思い浮かんだのですが果たして…

 

 2002年と古いですが、NEJMのReview articleを見つけたのでこれから見ていきたいと思います。

二次性ITPの原因
・SLE
・抗リン脂質症候群
・免疫抑制状態(IgA欠損症、低γグロブリン血症)
・リンパ増殖性疾患(慢性リンパ性白血病、リンパ腫)
感染症HIVC型肝炎ウイルス
・薬剤性(例:ヘパリン、キニジン

(出典)N Engl J Med. 2002 Mar 28;346(13):995-1008. doi: 10.1056/NEJMra010501.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov


 これだけ挙げられればいいということなのでしょうか。
 ピロリ菌についての記述はなかったことが、気になりました。教科書に立ちもってみます。

 

ITPは基礎疾患に併発すれば、二次性と称せられる。基礎疾患としては自己免疫疾患,特に全身性エリテマトーデス(SLE)や,HIVC型肝炎などの感染症が一般的である。ITPとHelicobacter pylori感染との関連は不明である。
(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 二次性ITPの原因の数としては、先ほどと同じぐらいでしょうか。ピロリ菌(Helicobacter pylori)感染との関連は不明と書かれています。ピロリ菌が頭から離れず、ITPに限らず深堀りしてみます。

 “Pathobiology of Secondary Immune Thrombocytopenia”というタイトルのReviewを見つけました。

 

二次性ITPにおける免疫性血小板減少の原因
全身性エリテマトーデス(SLE)
・SLE患者の約20-25%が中等度もしくは重度の血小板減少になる。
・グリコプロテイン抗体、免疫複合体、抗リン脂質抗体(APLA)、血管炎、血栓性微小血管障害、血球貪食、c-Mpl受容体やMKに対する抗体、骨髄間質の変化といった様々な病因が関与する。

抗リン脂質抗体症候群
・ITPの患者の20-70%で抗リン脂質抗体を認める。

甲状腺疾患
・ITPの患者で抗甲状腺抗体がよく認められる。
・治療抵抗性や脾摘の前に検査をしたほうが良いとする報告もある。

Evans症候群
・根底には免疫不全があることもある。子供の約50%と一部の成人において、自己免疫性リンパ増殖症候群とのオーバーラップもある。

リンパ増殖性疾患
・慢性リンパ性白血病(CLL)、CD8 T-lymphocyte large granular lymphocytic leukemia (LGL)の患者においてITPの罹患率が高い。
・ホジキンリンパ腫の患者において、おそらくITPの罹患率が高い。

感染症
HIV
・ITPの患者でHIVのリスクがある場合は除外すべき。

C型肝炎ウイルス
・明らかな肝炎がなくても、ITP患者の約30%でHCVが検出される。

Helicobacter pylori
・H.pyloriと強い関連性がある地域がある。
・USではピロリ菌の検査をすべきというコンセンサスはない。

ワクチン・その他の感染症
・風疹、麻疹、流行性耳下腺炎のワクチンでは、25,000-40,000人に1人が重度の血小板減少が生じうるが、肺炎球菌ワクチン、Hibワクチン、水痘帯状疱疹(VZV)ワクチン、B型肝炎ワクチンではそれより少ない。
サイトメガロウイルス、風疹、EBウイルス、VZV、重症急性呼吸器症候群SARS)、その他多くの感染症でも生じる。

輸血(輸血後紫斑病)

薬剤性血小板減少症(DITP)
ヘパリン
 Heparin-Induced Thrombcytopenia
 未分画ヘパリンを静脈的に治療量を投与された患者の1-3%。診断はヘパリン投与と特徴的な臨床症状による。ELISA法は感度が高く除外目的での価値があるが、擬陽性の可能性がバイパス手術後の患者では50%を超えうる。
金製剤
アブシキシマブ
fiban drugs
キニーネ
(以下、多くはないが)
・βラクタム系抗菌薬の一部
・リストセチン(骨髄抑制の例)
・チクロピジン血栓性微小血管障害の例)

Semin Hematol. 2009 Jan;46(1 Suppl 2):S2-14. doi: 10.1053/j.seminhematol.2008.12.005.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 個人的には、原因とされるものの一部は原因なのか相関なのか今ひとつわからないものもありました。一方で、ITPの原因には免疫的な機序等により、何でも生じうるといった印象を受けました。特に感染症の「その他」のあたり納得です。
 今回の結核によるITPの症例報告では、結核も原因になりうるのは何となくわかるけど、まだまだ知らないことがたくさんと思って調べました(当たり前ですが)。
 H.pylori感染の診断が血小板減少の数か月前だったかにあったものだったので、結核の前にH.pyloriに目が行っていたのですが、H.pyloriとITPの関連性における地域の違い(日本とアメリカ)も盲点でした。

 詳しい機序などが気になる方は、2つ目のPubMedからの文献も是非お読みください。

 

 今回も、たわいのない調べごとにお付き合いくださりありがとうございました。

比較的徐脈(相対的徐脈)|多彩な原因と所見の特異性・重要性は?

比較的徐脈(相対的徐脈)

~多彩な原因所見の特異性・重要性は?~

 

<目次>

 

 最近、ふとした勉強会のような場所で「比較的徐脈の所見は特異的ではない」というような文献があるという噂の話になりました。これをきっかけに比較的徐脈(相対的徐脈, relative bradycardia)をちょっと深堀りしてみたいと思います。 

(注)2024年3月28日に加筆のうえ、URLを変更致しました。

 

 

1. 比較的徐脈と言えば…

 あまり馴染みのない方もいらっしゃるかもしれません。比較的徐脈といえば、体温の割に心拍数が低いという程度の認識の人もいると思います。

 そのような比較的徐脈ですが、まず国試で比較的徐脈と言えば、

あたりでしょうか。

 そもそも、すべて感染症ですね(笑)比較的徐脈かどうかのひとつの目安として国試前に少し勉強会に参加したことがある人ならば、39℃110番(39℃でHR 110/min)ぐらいを目安に覚えている人はいるかもしれませんね。

 実は調べてみると、もっと他の原因があったり、「体温の割に心拍数が低い」とする閾値異なったものを提唱されたりしているものがあります。

 

 

 

2. 比較的徐脈深掘り -多彩原因-

 では、比較的徐脈について調べてみたいと思います。

 まずは、おそらくこれが噂のReview Article(総説)であろう、というものから簡単に読みました。

The Clinical Significance of Relative Bradycardia

Fan Ye, Mohamad Hatahet, Mohamed A. Youniss, et al.

WMJ. 2018 Jun;117(2):73-78. PMID: 30048576

【Introduction】

 通常、38.3℃(101℉)以上となると、体温が1℉上がるごとに心拍数(HR)が8または10 回/分あがる。

  • HR 108/分 @38.3℃、+1℉ごとにHR+8/分
  • HR 110/分 @38.3℃、+1℉ごとにHR+10/分 

 38.3℃より高温のときに、心拍数が予想される値より低い状態を比較的徐脈とする。原因は数が限られ、感染症と非感染症がある。

比較的徐脈(相対的徐脈)の原因

 

【Method】

 "Relative bradycardia, fever, pulse-temperature dissociation and pulse-temperature deficit"を含むものをPubMedならびにMedlineにて検索。

 

【Discussion】

  • 比較的徐脈の定義は心拍数が予想される値よりも低い状態とし、不整脈や心伝導系に影響のある薬剤などを服用している場合も除く。
  • 非感染性の原因:悪性リンパ腫、薬剤性、人為的発熱(詐欺熱)、副腎不全、周期的好中球減少症。薬剤性の発熱(148例)による比較的徐脈は11例という報告がある。
  • 感染症が原因のとき:細胞内・非腸内グラム陰性菌では、非特異的でありながら感度は高い。
  • 感染症の原因の鑑別に役立つこともある(in some cases)が、渡航歴をはじめとする病歴全体からはじめるべき。
  • 比較的徐脈の病因は様々で、詳しいことはあまり分かっていない。

 

【conclusion】

  • 比較的徐脈がベッドサイドでの感染性・非感染性の病因の診断に役立ちうるという認識は大切である。
  • 他の兆候や所見がない、もしくはいまひとつの時に、比較的徐脈は病因を探すために役立つかもしれない。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 簡単に読んでみました。まずは、イントロダクションに記載のあるように、比較的徐脈の定義のもととなる閾値の心拍数の計算が2通りあるという時点で、所見の曖昧さを感じました。

 次に、感染症による比較的徐脈の原因多さに驚きました。この所見を認めたら原因がかなり絞れるというような「数が限られる」というほど、特異的な所見ではなさそうです。また、報告レベルでしかみられないものもありました。たくさん原因挙げれてもその疾患において比較的徐脈が稀であれば、あまり使いにくいのではないかと感じます。

 比較的徐脈を認めうる感染症だけでも、クラミジア肺炎、オウム病、Q熱、ヒト顆粒球アナプラズマ症、ヒト単球性エーリキア症、腸チフス、パラチフス、野兎病、レジオネラ症、レプトスピラ症、リステリア症、結核、ツツガムシ病、ロッキー山紅斑熱、発疹熱、ライム病、バベシア症マラリアシャーガス病、ラッサ熱、ハンタウイルス感染症(腎症候性出血熱)、クリミア・コンゴ出血熱、リフトバレー熱、サシチョウバエ熱、マールブルグ熱、エボラ出血熱、黄熱病、デング熱、ウエストナイル熱、エコーウイルス感染症(急性髄膜炎)、ヒトメタニューモウイルス肺炎と様々な原因があります。

 感染症として、悪性リンパ腫、薬剤性、人為的発熱(詐欺熱)、副腎不全、周期的好中球減少症が原因となる報告もあるようですが、薬剤性をパッと見ただけでも頻度が気になります。

 また、薬剤熱ではなくでも、比較的徐脈を生じうる原因とは別に、βブロッカーをはじめとするような「頻脈性不整脈抑える効果もある薬+発熱」というような場合も注意が必要であると思いました。発熱がある場合に薬によってマスクされると考えると、比較的徐脈は判断も含めて難しい所見であると感じました。

 

 

原因ごとの所見頻度

 さて、原因ごとの比較的徐脈がみられる感度・特異度なども意識してみないといけないと感じました。比較的徐脈を認めた頻度に関しては次のようになります。

 

 必要な身体所見が取られていた症例のうち、比較的徐脈を認めた割合(%)は以下の通りであった; バベシア症 89%、デング熱 23-76%、ハンタウイルス感染症(腎症候性出血熱) 60%、レジオネラ症 0-60%、レプトスピラ症 100%、マラリア 13.6%、 発疹熱(murine typhus)49%、Q熱 73%、サシチョウバエ熱ウイルス感染症(sandly fever) 23%、ツツガムシ病 38-53%、野兎病 42%、チフス 14-63%.

(出典)WMJ. 2018 Jun;117(2):73-78. PMID: 30048576

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30048576/

 

 比較的徐脈の定義が論文ごとでバラバラであったり、そもそもの体温と心拍数といった必要なバイタルサインがそもそも取られていないものの割合(評価可能な症例割合)も論文ごとでバラバラであったりするので、参考程度だと思います。

 それにしても、比較的徐脈の定義から曖昧ではっきりとした評価難しいと感じる一方で、定義が変わることで比較的徐脈の頻度すら大きく変わる可能性があり、状況によっては特異性は高くないと感じずにはいられませんでした。

 

 やはり、比較的徐脈だけでなく、各疾患ゲシュタルトを意識しつつ、それに合致するような病歴身体所見、検査結果と合わせてという当たり前のところにたどり着くのでしょうか。

 

 それにしても「詳しくは分かっていない」とdiscussionのところにも書いてあり、判断に困りました。ある程度のスタンダートはどこに落ち着くのでしょうか。

 

 

 

3. 一般的知識としては?

 先ほどの総説を読んだことで「どれぐらいが一般的なことの範囲として言えるのか」というような部分の判断に困る面も感じました。そのため、今度はスタンダード探しのような感じで、教科書で比較的徐脈について調べてみたいと思います。

 教科書ということで皆さんご存知の『ハリソン内科学 第5版』を見てみるも索引で見つからず、身体診察の教科書を確認しました。『サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原著第4版』、『マクギーのフィジカル診断学 原著第4版』、『ベイツ診察法 第2版』の索引でも比較的徐脈を見つけることができませんでした。目次のバイタルサインの項目でも、比較的徐脈は確認できませんでした。あまり、「公民権」を得ているような身体所見とも言い難いものなのでしょうか。

 

 バイタルサインに興味にある人で知らない人はいないであろう、入江先生の書籍にたどり着きました。この本には、バイタルサインについて学ぶ際に大変お世話になっています。

 

比較的徐脈を呈する病態

<感染性>

<非感染性>

  • 薬剤熱:抗菌薬、抗痙攣薬、H2受容体拮抗薬など
  • 腫瘍熱:リンパ腫
  • 膠原病:SLE、成人Still病、サルコイドーシス

 

(出典)『バイタルサインからの臨床診断 改訂版 豊富な症例演習で、病態を見抜く力がつく!』,入江聰五郎(著)

 

 やはり、比較的徐脈の原因の多さを考えると、このようなところに落ち着くのでしょうか。見ていて、すーっと入ってきやすい気がします。

 

 さらに、どの程度の体温と心拍数の乖離比較的徐脈判断するかは、一筋縄ではいかないと感じました。

 そもそも基準とする体温、心拍数も様々であり、そこから「ある程度」以上体温に対して心拍数が低いから比較的徐脈であるという判断にあると思います。さらに、βブロッカーを服用しているといったような薬剤をはじめとする他の要素も入りこんだら、なお難しいと思いました。

 

  • 予測HR=(実測体温℃-36.5℃)÷0.55×10回/分+基準心拍数
  • 予測心拍数よりも20回/分以上遅くなる状態を比較的徐脈の目安としている

(出典)『バイタルサインからの臨床診断 改訂版 豊富な症例演習で、病態を見抜く力がつく!』,入江聰五郎(著)

  確かに判断の基準として分かりやすいと感じました。やはり、学びのメルクマークとしても教科書等は役立つと感じた一場面でした。

 

 

 

4. まとめ

 前述のReview articleの体温・心拍数をしっかり覚えて、もしくは予測心拍数の式やまで計算して判断することはできれば理想かもしれません。でも、「39℃でHR 110/min」で比較的徐脈を意識するというようなのも、やはり心に留めておく、心に留めて置きやすい値という意味でも重要であると思いました。

 そして、比較的徐脈はやはり全身的な病態で絞り切れないので、フィジカルの前にやはり病歴随伴症状服薬歴をはじめとする医療面接、そしてフィジカルでもバイタルサイン以外の身体診察も大切であると感じました。

 

  • 比較的徐脈だけでなく病歴随伴症状も大切にする
  • その上で比較的徐脈もヒントになりうると考える
  • 比較的徐脈の体温と心拍数の乖離の程度次第All or Noneでもない

 

 このようなことを心に留めておきたいと思います。

 個人的な感想にお付き合いくださり、ありがとうございました。

 

 

 

比較的徐脈(相対的徐脈)の重要性は?

 ご覧いただきましてありがとうございます。上記タイトルの記事は、下記の記事にて加筆のもと、URLを変更してリニューアル致しました。

 お手数をおかけ致しますが、下記のページへとお進みください。

mk-med.hatenablog.com

 

読書ログ: 家でのこと|訪問看護で出会う 13の珠玉の物語

 『家でのこと-訪問看護で出会う 13の珠玉の物語』

 高橋恵子(著)

 

 巡り合えてよかったと思う書籍の紹介です。普通の医学書を紹介するというより、周辺をテーマにしたものや興味深いものを紹介できればと思います。

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41SZFPnx4oL._SX350_BO1,204,203,200_.jpg

 

【こんな人におすすめ】

  • 実習ができない(特に学外実習、地域実習)
  • 在宅医療に興味がある
  • 患者さんの人生を感じたい

 

 この本を紹介する理由は、やはり実習ができない、とりわけ地域実習や、学外実習に行けないという現状の中、在宅医療の実習・見学に行けなくてもそれを少しでも補える何かをという視点からおススメしたいと思う書籍(まんが)です。

 

 本の中では、訪問看護の際に患者さんや家族の気持ちや人生、生活等から何かが伝わる名場面を抜き出したようなマンガです。もちろん、実際には地味で地道な場面もありますが、このような場面に出会えれば、○○さんという患者さんの人生在宅医療もっと興味を持ったりするきっかけになるかもしれません。

 そして何より、読んでいるときに涙を流しそうになる、暖かな気持ちになる、そのような体験をしていただければと思います。動画コンテンツのように画質がよければいいというわけでもなく、マンガという読み手の想像力も入れやすいコンテンツ形式だからこそ、これだけ感動できると思いました。

 この本はおそらく1時間も経たずに読めると思いますが、涙もろい人はあまり人前では読まない方がいいかもしれません。

  ふと、本屋さんの新刊コーナーで手に取るに至るまでのこのご縁に感謝致します。

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 今回取り扱った書籍です。アマゾンでの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。