"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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頭部外傷 ①成人編|カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)の深掘り&ニューオリンズ基準との比較

頭部外傷 (①成人編)

  • カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)の深掘り
  • ニューオリンズ基準との比較

 

<目次>

 

 

 頭部外傷について外傷の専門家でもないけど、専門外だからこそ(?)、気になる臨床予測ルールを深掘りしてみようという内容です。今回は、頭部CT検査適応の判断にも用いるカナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)を好奇心で深掘りしてみようと思います。

(注)さっそく臨床予測ルールを読みたいという方は第2章からお読みください。

 

 

1. 頭部外傷!?

 外傷を専門に扱っていない病院でも「少し頭をぶつけたぐらいなので診てほしい」というようなことで、診察・救急車の応需をお願いされることもあると思います。

 専門外でも診てあげたい反面、悩むことがあると思います。昨今の医療訴訟と司法の判断(例: 外傷性健忘)、断らない救急「断れない救急」、脳外科等や病棟のバックアップ体制、画像検査へのアクセシビリティ、病院の立地(例: 地方で唯一の病院)、転院搬送のリスクなど、考えることもたくさんあるでしょう。

 

 頭部外傷鑑別として、硬膜下血腫硬膜外血腫外傷性くも膜下出血、さらには頭以外の頸椎損傷をはじめとする疾患があります。「少し頭をぶつけた」だけと言われても、その可能性があります。

 また、そもそも頭部外傷は他の病気結果ということもあるでしょう。例えば、心筋梗塞や大動脈解離等の心血管系が原因のような場合もあります。無痛性大動脈解離の患者で失神が多かったという話も以前のブログで書いたことがあります。目撃者こそいれば有難いですが、頭部を派手にぶつけたことの記憶がないだけなのかもしれません。

 

 今回は、とりあえず頭部外傷という部分に目を向けて、「少し頭をぶつけた」というような軽傷minor injuryのときに、バックアップ体制のないぐらいの病院でも役立ちそうな内容を考えてみました。そこで頭部CTの撮影をするかを判断する際の臨床予測ルールをふと思い浮かびました。成人向けのカナダ頭部CTルール、小児向けのPECARNなどがあります。そのうち、今回はカナダ頭部CTルールを中心に深掘りしてみたいと思います。

 

 

 

2. カナダ頭部CTルール

 今回のメインテーマです。軽症頭部外傷の際に頭部CTの適応の判断の臨床予測ルールのひとつであるカナダ頭部CTルールCanadian CT Head Ruleの話をしたいと思います。

 

2-1. 概要深掘り

 まずは、カナダ頭部CTルールについて全体像を把握しつつ、深掘りしてみたいと思います。臨床予測ルールを見かけた際には診断特性はもちろんのこと、研究への組入れ条件除外項目、患者の特徴状況などが気になります。

 

カナダの総合病院10施設の救急外来における前向きコホート研究

カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)
  • 1996年から1999年における軽症頭部外傷患者でGCSスコア13~15点、受傷から24時間以内であった3,121名。
  • 以下の患者を除外: 16歳未満、軽微の頭部外傷(意識消失なし、健忘なし、または見当識障害なし)、明らかな外傷歴が不明(例: 痙攣または失神)、明らかな頭蓋骨の穿通性損傷または陥没骨折、急性の局所神経学的所見の異常、major injuryによるバイタルサイン不安定、受診前の痙攣、止血障害または経口抗凝固薬の使用、頭部外傷の再評価による再来院、妊婦。

 

評価項目

  • 主要転帰は「神経学的介入の必要性」とし、次の通り; 頭部外傷による7日以内の死亡、または7日以内の開頭術、頭蓋骨骨折の挙上、頭蓋内圧モニタリング、頭部外傷に対する挿管のいずれかの処置の必要性
  • 副次的転帰は「臨床的に重要な脳損傷」とし、次の通り; CTで明らかになった急性の脳所見で通常であれば入院して神経学的経過観察を必要とするもの

 

患者3,121名の特徴

  • 年齢: 平均38.7歳(範囲: 16~99歳)
  • 救急車で受診の割合: 73%
  • 受診時のGCSスコア: 15点 2,489名(80%)、14点 522名(17%)、13点 110名(4%)
  • 受傷機転: 転落 963名(31%)、自動車事故805名(26%)、暴行 334名(11%)、スポーツ 307名(10%)、バイク 207名(7%)、歩行者の交通事故 187名(6%)、頭部打撲 105名(4%)、その他 31名(1%)

① 受傷2時間後 GCSスコア<15、② 解放骨折または陥没骨折疑い、③ 頭蓋底骨折を疑う徴候、④ 嘔吐2回以上、⑤ 年齢 65歳以上、⑥ 受傷時から30分以上前まで遡る逆行性健忘、⑦ 危険な受傷機転のうち、いずれかひとつでも認めた場合に頭部CTを撮影したとすると、感度は98.4%(95% CI, 96-99%)、特異度は49.6%であった。また、頭部CT検査のうち、検査が必要であった場合は54%であった。

(出典)Lancet. 2001 May 5;357(9266):1391-6. doi: 10.1016/s0140-6736(00)04561-x.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 この臨床予測ルールが提唱された研究での患者像状況はある程度把握できたでしょうか。平均年齢が思ったより若くて38.7歳というような驚きがあったかもしれません。また、受傷機転の内訳など、自身の環境での事前確率の差異を考えるヒントになると思います。

 そして、患者3,121名の組入基準除外基準が気になりました。組入基準を見ていると、Glasgow Coma Scale(GCS)スコア15点から13点まで組入れされています。除外基準として意識障害見当識障害がない場合や健忘がない場合も挙げられています。

 また、「少し頭をぶつけただけ」という場合には、軽症(minor injury)ではなく、軽微な頭部外傷(minimal injury)に分類されることがあることも容易に想像できます。抗凝固薬の服薬など、除外項目にひっかかる患者さんも多いといった印象です。

 

 この研究の前提となるような状況と患者背景や状況も異なれば、事前確率(検査前確率)も異なります。実際の診察する患者が論文の軽症頭部外傷ではなく軽微な頭部外傷となれば、神経学的介入や臨床上重要な脳損傷である事前確率が下がります。すると、陽性的中率も下がってきます。自身の環境にどこまで当てはめられるか、という難しいものを感じました。

 

 さらに、カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule)も、チェック項目①~⑤高リスク項目(受傷2時間後 GCSスコア<15、解放骨折または陥没骨折疑い、頭蓋底骨折を疑う徴候、嘔吐2回以上、年齢 65歳以上)、⑥と⑦中リスク項目(受傷時から30分以上前まで遡る逆行性健忘、危険な受傷機転)と分けられていいます。高リスク項目の場合は神経学的介入の感度が100%というような別の指標も出されています。今回は、何らかの脳の障害のある症例を、頭部CTひっかけることを部分に注目して、その部分を中心に扱いました。

 実際に外傷性脳損傷があった群と外傷性脳損傷のなかった群の比較や、研究対象患者の詳しい特徴なども含めて、気になる方は論文も是非見て深めてみてください。

 

 

 

2-2. 頭部CT減らせるか!?

 カナダ頭部CTルールを使うことで、頭部CT検査を減らすことができるのでしょうか。不要な検査はない方がよいでしょう。

 

後ろ向きクラスターランダム化比較試験

  • カナダにおいて救急外来(12施設)を受診した軽症頭部外傷4531例
  • カナダ頭部CTルールの使用を必須とした病院(介入群)と非介入群(対照群)における頭部CTをうけた患者の割合を、受診時(”before”)と12カ月後まで(”after”)で比較

 介入群における頭部CTを受けた患者の割合は、受診時に62.8%であったものが12カ月後までに76.2%へ増加した(差異+13.3%, 95% CI 9.7-17.0%)。対照群における頭部CTを受けた患者の割合は、受診時に67.5%であったものが12カ月後までに74.1%へ増加した(差異+6.7%, 95% CI 2.6-10.8%)。受診時と12カ月までの頭部CT撮影率の変化は、介入群と対照群で有意差はなかった(p = 0.16)。

 カナダ頭部CTルールは、軽症頭部外傷患者の臨床的に重要な脳損傷を同定する感度が高いことは本研究からも確認できた(感度100%, 95% CI 96-100%)。 しかし、この臨床予測ルールが救急外来での頭部CT検査の減少につながることは示されなかった。

(出典)CMAJ. 2010 Oct 5;182(14):1527-32. doi: 10.1503/cmaj.091974. Epub 2010 Aug 23.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 無作為割り付けまでされているという点が特に良いと思った研究です。有意差こそありませんが、カナダ頭部CTルールによって「最初は頭部CTを減らせたように見えても、最終的には減らせない」ということでしょうか。これは誤差のようなものだと思いますが、最終的(12カ月後まで)には、カナダ頭部CTルールの使用を必須にしていない群(対照群)の方が、撮影率がほんの少し低い(74.7%)というのは少し意外でした。有意差はないにしても、カナダ頭部CTルールで介入した群の方がトータルで撮影率の低下傾向っぽい数字かと思っていましたが、この研究のときはそうでもなかったようです。

 

 それにしても、結局は軽症頭部外傷の症例の4分の3程度頭部CTを撮影しているということも分かります。カナダ頭部CTルールの感度が高いことはありがたいですが、万能でもなさそうです。

 

 他の研究もチェックしてみたいと思います。

 

カナダ頭部CTルールによる介入前の患者233名(介入前群)、介入後の患者241名(介入後群)の両群における比較研究(後ろ向き)

  • 頭部CT検査は、介入前群では134件(57.0%)、介入後群では90件(37.3%)であり(p<0.01)、頭部CT検査の総数は20%減少した。
  • 診断率は、介入前群では3.7%であり、介入後群では5.6%であり、有意差はなかった(p = 0.52)。
  • 内科的管理では両群で差は認められず、いずれの群でも神経外科的介入を受けた患者はいなかった。

(出典)BMC Geriatr. 2022 Jul 21;22(1):607. doi: 10.1186/s12877-022-03284-0.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 この研究をみると、カナダ頭部CTルールを用いることで頭部CT検査20%減らせるというのは驚きです。しかし、両群を無作為割り付けされていない後ろ向き研究です。カナダ頭部CTルールを適応する症例ほど、そこに至るまでに簡単に判断できた症例ではなく、ふるいに掛けられているような注意点を感じます。

 頭部CTによる診断率も有意差こそありませんが、カナダ頭部CTルールの適応までいった症例だからこそ、頭部CTでやっと診断がつくものが多そうな気もします。また、結果も特に有意差はないようで、これこそ内科的管理のようなアウトカムには特に有意差がなく、「頭部CTを避けたい」というモチベーションが小児ほどには湧きにくい際には、ちょっと考えさせられる結果とも感じるかもしれません。

 カナダ頭部CTルールの項目に「危険な受傷機転」という項目がありますが、この出典では「1mもしくは階段5段以上の転落」となっていて、もともとの「3フィート(約0.91m)もしくは階段5段以上の転落」とは少し異なる点もあります。このような差異や、介入前群と介入後群の詳細・「BHH CT Brain in Trauma Pathway」(診療手順)のようなものも、よろしければ出典を参照してみてください。

 

 上記の2つの論文などをチェックしてみて、受診時には頭部CTを減らせる可能性がそれなりにありそうですが、その後も含めたトータルでは減らせないかもしれないというぐらいかなと思いました。仮に、頭部CTのトータルでの撮影回数が減らなくても、箸にも棒にも掛からない症例の頭部CTの撮影が減り、必要な症例での撮影が増えるだけでも有意義だと思います。また、最終的には撮影するとしても、夜に技師さんを起こしてまで撮影するような場面を翌朝の撮影にできるだけでも嬉しいでしょう。

 

 

 

2-3. 75歳以上ではダメ!?

 カナダ頭部CTルールの5つ目の大リスク項目に「65歳以上」というチェック項目があります。正直なところ、病院にいると65歳は若く、年齢で頭部CTの検査適応の判断とする閾値になりにくいと感じることが何度もあります。そこで、このチェック項目における年齢を上げるようなことをしたらどうなるかという視点で調べてみました。

 

レベル1の外傷センター救急外来を受診した後ろ向きコホート研究

  • 臨床的に重要な脳損傷があった症例104例
  • カナダ頭部CTルールにおける頭部CT適応基準「65歳以上」を変更した場合の感度、特異度

 感度および特異度(95% CI)は、70歳以上の場合では100%(89.1~100)および4.2%(0.9~11.7)、75歳以上の場合では100%(89.1~100)および13.9%(6.9~24.1)、80歳以上の場合では90.6%(75.0~98.0)および23.6%(14.4~35.1)であった。

 年齢基準を75歳以上にすると、65~74歳では最大で頭部CT撮影が25%(n=10/41)減らせた。

(出典)Emerg Med J. 2019 Oct;36(10):617-619. doi: 10.1136/emermed-2018-208153. Epub 2019 Jul 20.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 このような"修正版"カナダ頭部CTルールを提案するような動きもあるようです。もちろん、この研究では前向き研究を期待するという締めくくりになっています。

 確かに、昨今の高齢化には目を見張るものがあり、カナダ頭部CTルールの登場した2000年代初頭と比べれば、この研究段階でも少なくとも10年以上は時が経過しています。あくまで比喩ですが、「2000年頃の65歳は2020年頃の75歳」とでも考えられそうです。それを臨床予測ルールにも反映させていこうということでしょうか。

 確かに、臨床予測ルールをそのまま適応するのではなく、リスクがなさそうなら75歳ぐらいでもいいかもしれないというように、グラデーションをかけながら自身の環境の個々の症例に当てはめていくことになるでしょう。

 

 

 

 

 

3. ニューオリンズ基準との比較

 今回のメインテーマはカナダ頭部CTルールですが、他にもニューオリンズ基準(New Orleans Criteria)という軽症頭部外傷時の頭部CT適応の判断の補助になる臨床予測ルールもあります。

 

3-1. ニューオリンズ基準とは

 ニューオリンズ基準について比較用に簡単にチェックしてみます。

 

ニューオリンズ基準(New Orleans Criteria)

(出典)N Engl J Med. 2000 Jul 13;343(2):100-5. doi: 10.1056/NEJM200007133430204.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 ニューオリンズ基準は上記の7項目(短期記憶の障害、アルコールまたは薬物による中毒状態、鎖骨より頭側の視認可能な外傷、年齢: 60歳超え、痙攣、頭痛、嘔吐)のいずれかを満たす場合に、頭部CTを推奨するものです。カナダ頭部CTルールと似ているような項目もありますが、特に注意すべき点はGCSスコアが15点の人のみを対象としている点でしょう。この方が「少し頭をぶつけた」だけという状況に近いかもしれません。

 個人的にはアルコール(飲酒)がチェック項目にあることで、泥酔具合にもよりますが「飲酒後転倒」というよくありがちな症例で頭部CT適応になりうるようです。ちょっと、繁華街に近い病院ではふるいに掛ける目的では使いにくいかもしれません。

 症例数が500名程度と少ないことが、感度100%という数字をたたき出した一因かもしれません。そういう視点でも95%信頼区間を記載しておきましたが、いずれにしても感度は高いと言えます。出典では患者情報だけでなく、上記の7項目①から順に適応した場合の感度や特異度の変化も追うことができます。詳しくは出典をご覧ください。

 

 

 

3-2. 感度・特異度・オッズ比比較

 それでは、カナダ頭部CTルール(CCHR)ニューオリンズ基準(NOCの比較をしてみたいと思います。やはり、先ほどの比較でGCSスコアの差異が気になりました。GCSスコア15点のみで比較できるものを探してみました。

 

軽症頭部外傷かつGCSスコア15点の成人1822名の前向きコホート研究

・脳外科的介入の必要性の予測に関して、カナダ頭部CTルールとニューオリンズ基準の感度はともに100%であったが、カナダ頭部CTルールの方が特異的であった(76.3% vs 12.1%, P<.001)。

・臨床的に重要な脳損傷について、カナダ頭部CTルールとニューオリンズ基準の感度は棟じであったが(100% vs 100%;95%信頼区間[CI]、96%~100%)、カナダ頭部CTルールの方が特異的であり(50.6% vs 12.7%、P<.001)、頭部CT検査率は低くなった(52.1% vs 88.0%, P<.001)。

(出典)JAMA. 2005 Sep 28;294(12):1511-8. doi: 10.1001/jama.294.12.1511.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 上記の比較からすると、ニューオリンズ基準とカナダ頭部CTルールの感度は同程度なものの、カナダ頭部CTルールの方が特異度が高く、ムダな頭部CTを撮る必要性が少ない可能性があるということでしょうか。ただし、先ほどの「2-2. 頭部CTは減らせるか」のことを踏まえると、医師のスキルとカナダ頭部CTルールが同程度の頭部CT検査率であり、ニューオリンズ基準に従うと、一般的な医師のスキルで判断した場合よりも頭部CT検査は多くなりうる可能性も感じました。

 また、いずれもGCS 15点のみの比較のため、どちらかというと「少し頭をぶつけた」という状況に近いことが多いと思います。過去の訴訟判例のように、外傷性健忘とか言われ始めたらGCSをちゃんと取れたのか、一見よさそうでも不安のような脳裏をよぎるものがあります。そういう視点でもニューオリンズ基準程度で頭部CT検査をしておけば、安心しやすいということなのでしょうか。

 

 他にもメタ分析のものもチェックしてみます。

 

メタ分析による14研究(21140例)の解析

カナダ頭部CTルール

  • 頭部CT所見が陽性となる感度は89.8% (95% CI: 79.6 to 95.2)、特異度は38.3% (95% CI: 34.0 to 42.8)であり、オッズ比は5.5 (95% CI: 2.3 to 13.1)であった。
  • 臨床的に重要な外傷性脳損傷である感度は92.5% (95% CI: 79.5 to 97.5)、特異度は40.1% (95% CI: 34.8 to 45.6)であり、オッズ比は8.3 (95% CI: 2.4 to 29.2)であった。

ニューオリンズ基準

  • 頭部CT所見が陽性となる感度は97.2% (95% CI: 89.7 to 99.2)、特異度は12.3% (95% CI: 7.4 to 19.8)であり、オッズ比は4.8 (95% CI: 1.2 to 18.3)であった。
  • 臨床的に重要な外傷性脳損傷である感度は98.3% (95% CI: 93.8 to 99.6)、8.5% (95% CI: 4.8 to 14.5)であり、5.4 (95% CI: 1.5 to 20.0)であった。

 カナダ頭部CTルールとニューオリンズ基準ともに、頭部CT所見陽性や臨床的に重要な外傷性脳損傷の有無を予測する良好なスコアであることが示された。両スコアとも特性が似ていることから、これらの臨床予測スコアを互換的に利用することができる。

(出典)Arch Acad Emerg Med. 2020 Sep 8;8(1):e79. eCollection 2020.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 個人的にはこの結果を見ると、GCSスコアの範囲(組み入れ条件)もそれぞれのもともとの臨床予測ルールに従った場合、「カナダ頭部CTルールの方がやや感度は低め、特異度は高め」、「ニューオリンズ基準の方が感度はやや高め、特異度は低め」といった印象を受けますが、あくまでも印象程度でしょうか。先程の研究(GCS15点のみ)と比較して、カナダ頭部CTルールの感度は低くなっています。

 いずれにしても、両方臨床予測ルールを知っておくことで、組み入れ条件や除外項目も意識しつつ、両方とも自身の状況に適応しながら使うことができるというのがメリットでしょうか。

 

 

 

 

4.最後に

 今回は頭部CTを撮るべきか悩むような状況についての個人的な好奇心任せでの深掘りでした。念のため、JATECでは、次のように書かれています。

 

軽症(GCS合計点14, 15点)では,帰宅までに,あるいは入院中に一度は頭部CT検査を行うようにする。特に軽症であっても表*に記載した危険因子が存在すれば,頭部CT検査を実施する。

*表の内容: 頭痛、嘔吐、60歳以上の年齢、薬物またはアルコール中毒前向性健忘の持続(短期間の記憶の欠損)、鎖骨より上の明らかな外傷、痙攣

(出典)改訂第6版 外傷初期診療ガイドライン JATEC (2021), 137-139, へるす出版.

 

 ここで挙げられている危険因子は「60歳以上」か、「60歳超え」かというような小さな違いこそありますが、ニューオリンズ基準実質的に同じです。もちろん、JATECでは、「切迫するD」(このときのGCSは8点未満もしくは2点以上の低下)、中等症(GCS 8~13点)といったGCSスコア悪いときにもA・B・Cが安定していれば、必ず頭部CTを行うことを推奨していることも忘れてはならないでしょう。

 頭部CT検査のタイミング等についても書かれています。昔いた病院でJATECのプロトコールによるPrimary surveyからのSecondary surveyなど懐かしいものがありますが、やはり、軽症(minor injury)とも言い難い軽微な場合(minimal injury)にどうするかが判断としての悩みどころでしょう。

 

 カナダ頭部CTルールはいかがでしたでしょうか。案外、組入基準除外項目があったと感じ、「少し頭をぶつけた」という症例にそのまま使えないかもしれないと感じたかもしれません。また、ニューオリンズ基準と比較も含めて、自身の状況適応しながら補助的参考として少しでも使えそうなところがあれば、幸いです。

 いずれにしても、どちらのどの項目も頭部CTを想起する際のきっかけにはなるかもしれません。年齢に関しては65歳以上にしても、60歳超えにしても、昨今の高齢化では素直に当てはめてよいものかは考える必要もあると思います。

 

 よろしければ、外傷診療についてJATECをはじめとしたガイドライン二次文献等も確認してみてください。アップデートするきっかけにもなれば幸いです。アップデートすることは訴訟回避のような直接的な自分自身のメリットだけでなく、患者さんのためや、病院で訴訟のリスクの低い医者として雇用主の期待に沿えることにもなると考えています。開業であれば、診察において雇用主のようなメリットも享受できます。その分のリターンがあればさらに良いですが、あくまで雇われの身としても市場価値は意識しておいてもいいと思うことがあります。

 

 今回は頭部外傷成人編でした。好奇心のまま長くなってしまい、申し訳ございませんでした。機会があれば、次は小児編としてPECARNのような臨床予測ルールについても深掘りしてみたいと思います。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 

【関連記事】

 続編(小児編)のPECARNについての記事はこちら。

mk-med.hatenablog.com