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急性リウマチ熱②|全体像: ゲシュタルトを掴む

急性リウマチ熱②
全体像:疫学、臨床像、診断、治療~

 

 前回は、日本の疫学に注目して深堀りしました。(前回の記事はこちら→急性リウマチ熱 ~日本をはじめとする疫学~ - 医学生からはじめる アウトプット日記 (hatenablog.com) )日本の疫学の次は、世界の疫学や臨床像が気になりました。

 

 今回は、前回見つけたreview articleをきっかけとして、急性リウマチ熱全体のゲシュタルト(全体像)を掴みたいと思います。

Acute Rheumatic Fever

Ganesan Karthikeyan, Luiza Guilherme

 

Introduction
A群レンサ球菌(GAS)(Streptococcus pyogenes)感染症に対する自己免疫反応により生じる。
・典型的には多関節炎弁逆流症を呈する関節や心臓の様々な程度の炎症を特徴とする。
・弁膜障害を除いて後遺症はなく、リウマチ性心疾患が予後に関連する。
低所得国や高所得国の取り残された人々の間では罹患率や死亡率ともに重要な問題である。

 

疫学
罹患率は主に社会経済的な発展度合により様々。
・もはや高所得国では公衆衛生上の問題ではないが、時々、偶発的なアウトブレイクが生じる。
子供や若年者における罹患率10万人あたり8〜51人/年
・近年では、流行地でも罹患率が10万人あたり20人/年を下回るという報告もある。
南太平洋、オーストラリアニュージーランドの先住民罹患率は未だ高い
・アフリカやアジアの大部分における罹患率は不明(国・地域でのデータ不足)。

近年の罹患率の傾向
・The Global Burden of Disease studyによると、25年間(1990年~2015年)においてリウマチ性心疾患が有意に減少し、急性リウマチ熱の罹患率も減少しているとされる
・全体では罹患率が減少しているが、例えば、東アジアでは罹患率が減少、一方サブサハラ・アフリカでは変化がない。

 

無症候性リウマチ性心疾患
・急性リウマチ熱の罹患率は、リウマチ性心疾患の有病率から潜在的には推定できうる
・オーストラリアでは、先住民の子供(高リスク群)における心エコーにてリウマチ性心疾患の有病率が8.6人/1,000人(罹患率 194人/100,000人年)、その他(低リスク群)における有病率が0人/1,000人(罹患率 10人/100,000人年未満)であったという報告がある。
・リウマチ性心疾患の調査は、急性リウマチ熱そのものの調査よりもコストも低く実現可能性が高い。
・無症候性リウマチ性心疾患の予後や治療は確立されたおらず、リウマチ性心疾患の調査への心配や不必要な治療のリスクもある。

 

年齢・性差
10〜14歳が最も多い
・5〜9歳が2番目に多い。
・5歳未満の場合、急性リウマチ熱に発展することは稀。
・30歳を超えて、はじめてリウマチ熱になるということは稀。
・歳を取ってからも再発することはあるが、40歳を超えて再発することは稀。
性差は特にない
(cf. リウマチ性心疾患は女性に多い)

 

病因
・急性リウマチ熱の病因は完全には理解されていない。
A群β溶連菌(GAS)による咽頭感染に対する免疫反応による。
・GASによる咽頭炎のうち0.3~3%が急性リウマチ熱になる
・皮膚感染症によって生じることもあるが、咽頭感染が契機となることが最も多いと考えられる。
・遺伝的な要素も関与しているとされ、発症率では一卵性双生児では二卵性双生児と比べリスクが高い(44% vs. 12%)
・GASのM蛋白N-アセチル-β-D-グルコサミンが、ヒトの心臓の弁のミオシンやラミニンと抗原エピトープを共有するために、免疫交差反応が生じる。
大脳基底核神経細胞におけるN-アセチル-β-D-グルコサミンに対する交差反応により、過剰にドパミンが放出され、舞踏病が生じる。
・免疫複合体の蓄積により、関節症状が生じうる。

・GASのM蛋白が基底膜のIV型コラーゲンと結合することで生じるとする別の仮説もある。

遺伝的感受性のメディエーター
・自然免疫:TLR2、FCN2、MASP2、MBL2、MIF、FCGR2A
・獲得免疫:HLA クラスII対立遺伝子、IGHV4-61*02
・自然免疫ならびに獲得免疫:IL1RA、TNF、TGBFB1、IL10、CTLA4

・6番染色体短腕(6p)にあるDRB1遺伝子(うち、特にHLA-DR7)が最も一般的に関連すると言われている。
※オーストラリアの先住民では、HLA-DQA1ならびにDQB1が急性リウマチ熱の発症のリスク増加に関与すると示唆されている。

 

 

リスクファクター
貧困
社会的不利
(→家庭の狭さ)
・民族(貧困と社会的不利による面も)

 

診断
・1つだけで診断できる検査結果または臨床的特徴はない。
発熱、関節症状、心障害の組合せが多い。
舞踏病、皮膚症状は特異的だが、頻度が低く診断には役立ちにくい。
・小児では、一般的に発熱と関節症状がみられるが、これだけでは様々な原因があり、診断には不十分。

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リウマチ熱の診断フローチャート

 

臨床的特徴
・炎症に伴うCRPの上昇ESRの亢進
CRP>3mg/dL, ESR>60mm(初期、低リスク群), ESR>30mm(高リスク群)
・心電図: PR時間の延長(minor manifestation)

発熱
90%以上の患者で認められる
・流行地域でのカットオフは38℃。
・低医療資源環境では、発熱の明確な病歴の方が大切。

 

関節症状
75%以上の患者で認められる。
典型的には、大関節(膝関節、足関節、肘関節、手関節)における移動性の多関節炎で、サリチル酸によく反応する。
・体軸関節、小関節の障害は稀。
・4週間以内に疾患活動性は低下する
・多関節痛と非感染性単関節炎は流行地域でよくみられる

 

心炎
・心炎は 50~70%の症例で臨床的に診断される。
・さらに、無症候性心炎は 12~21%の症例で診断される。
心エコーにて70-90%の患者において心炎を認める。現在では心炎は主要症候であると考えられている。
・典型的には「汎心炎」とされ、心外膜、心筋、心内膜ともに障害される。
心外膜炎は後遺症なく改善する。
心外膜炎は一部の地域の心筋炎でみられ、心筋炎では収縮能低下がみられないこともある。
心内膜炎では弁膜障害にて、一般的に僧帽弁逆流症を生じる一方、大動脈弁逆流症となることは少ない。
・聴診では一般的に汎収縮期雑音が聴取され、稀にCarey Coombs雑音を聴取する。
約10~30%の患者は重度僧帽弁逆流症となる。
約10%心不全となる。

 

舞踏病
・急性リウマチ熱の10~30%で認められる。
・たいてい急性リウマチ熱の指標となる症状の1~3カ月後に生じ、単独の症状として生じうる。
・診断に役立つ特異的な主要症状の1つと考えられる。
・舞踏病を伴う患者では、心炎を伴うことが一般的(最大90%)
・舞踏病が唯一の症状の際は、薬物毒性、Wilson病といった他の原因の除外をすべき。

皮膚症状
・皮膚症状は稀(~10%)
・診断に役立つ特異的な主要症状の1つと考えられる。
輪状紅斑(erythema marginatum)が主に体幹や四肢近位部にみられる。
・皮疹は一過性で、皮膚の色の濃い人では見つけにくい。
皮下結節は小さく、無痛性で、四肢伸側の骨隆起上や椎骨の棘突起に沿ってみられる。

 

診断
心炎をthe modified World Heart Federaton基準によって診断すべき
→心炎があれば、急性リウマチ熱の診断に十分
心炎がない(心エコー正常の)場合:Jones基準(2015)

 

 

治療
<3つの主な治療目標>
・原因となるGAS感染症の治療
・関節炎、心炎、舞踏病に対する支持療法
・慢性リウマチ性心疾患の進行の予防
※多くの治療には、強いエビデンスがあるわけではない。

 

GAS感染症の治療
ペニシリン

 

支持療法
関節症状アスピリン
心炎:たいていACE阻害薬、血管拡張薬(重度の僧帽弁閉鎖不全症による肺水腫の時)

舞踏病ドパミン拮抗薬

 

リウマチ性心疾患の進行予防
・抗炎症治療:ステロイド

 

予防
・一次予防:ワクチン開発、GASによる咽頭炎の治療
・二次予防:抗菌薬の二次予防的投与

 

(出典)Lancet. 2018 Jul 14;392(10142):161-174. doi: 10.1016/S0140-6736(18)30999-1.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 あくまで疾患のゲシュタルトづくりを主に、疫学臨床像重点的にまとめました。臨床像では、どの症状(発熱、関節症状、心炎、舞踏病、皮膚症状)が、どの程度の割合でみられるか、また舞踏病が他の症状のあとに生じるというようなタイムコースが分かったことも個人的には勉強になりました。もっとしっかりと診断基準や治療法(多くは強いエビデンスはない)について調べてみるのも楽しいかもしれません。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。