"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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カフェイン代謝とCYP1A2(シトクロムP450)|CYP1A2阻害薬・誘導薬まで

カフェイン代謝とCYP1A2(シトクロムP450)

カフェイン中毒からCYP1A2阻害薬誘導薬まで

 

<目次>

 

 

 CYP1A2シトクロムP450の一種で、肝臓で薬物などの代謝に働く酵素です。この酵素ニューキノロン系抗菌薬にて阻害されてカフェイン中毒となるという症例があり、とても身近に感じられました。またカフェインと動悸の関係に関しては去年、何かないかな~と実は考えていたところでした。今回はこのCYP1A2とカフェイン中毒のつながりを理解する目的も含め、カフェイン代謝CYP1A2を中心に深掘りしてみたいと思います。

 

 

1.カフェイン代謝

 まずは、カフェインの代謝について生化学から調べてみたいと思います。近くにあった生化学の教科書(デブリン生化学)の索引から調べてみたところ、キサンチン誘導体という程度の記載しかなく、特に詳しい記載はありませんでした。そこで文献を探してみました。

 

<カフェインについて>

  • カフェインは、アルカロイドの1種でプリン環を持つキサンチン誘導体である
  • カフェインの化学構造 化学式: C8H10N4O2 分子量: 194.19 IUPAC名: 3,7-dihydro-1,3,7-trimethyl-1H-purine-2,6-dione

 

<カフェイン代謝

  • カフェインの主要代謝ルート(70~80%)は、肝臓の代謝酵素チトクローム(CYP)1A2の働きによるN-3脱ジメチル化で、パラキサンチン(1,7-ジメチルキサンチン)が生じる。他には、テオブロミン(N-4脱メチル化)、テオフィリン(N-1脱メチル化)への代謝もある。
  • カフェインの代謝のほとんど(約95%)はCYP1A2によるものであるが、CYP3A4やキサンチン酸化酵素やN-アセチル転換酵素2も一部関与している。
  • 血中カフェインの半減期は、約4時間といわれているが個人差がみられ、2~8時間の幅がある。
  • 中間代謝物のパラキサンチン、テオフィリン、テオブロミンはさらに代謝され、尿中に排泄される。
  • CYP1A2には遺伝的多形があり、カフェイン代謝速度の個人差の原因となっている。代謝速度はAA型>AC型>CC型である。

 

(出典1)東京福祉大学・大学院紀要 第6巻 第2号(Bulletin of Tokyo University  and  Graduate  School  of  Social  Welfare)  pp109-125  (2016, 3)

https://www.tokyo-fukushi.ac.jp/introduction/research/images/bulletin/bulletin06_02.pdf 

 

 要するにカフェインキサンチン誘導体の1種であり、カフェイン代謝のほとんどは肝臓の酵素であるシトクロムP450(CYP)のCYP1A2によると考えてよさそうです。

 カフェインやCYP1A2について検索していた際に、カフェイン摂取と胎児(頭周囲長)について日本での調査文献(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28355205/)など、様々なものがありました。カフェインが身近であるがゆえでしょうか。以前にも、カフェインと不整脈の相関関係に関してのJAMAの論文も2021年JAMA人気論文として取り上げました(The Most Talked About Articles of 2021 @JAMA ~米国の死因 第3位COVID-19/コーヒーと頻脈性不整脈の関連~)。カフェインについて興味がある人はいろいろなキーワードとともに検索して調べてみてください。

 

 このセクションの最後にカフェインの構造式も描きつつ、要点をまとめてみました。

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 カフェイン代謝9割以上CYP1A2が担っており、カフェインはキサンチン誘導体であるということを頭に留めつつ、ここで挙がったキーワード、キサンチン誘導体、CYP1A2について順に調べていこうと思います。

 


2.キサンチン誘導体

 カフェインはキサンチン誘導体であるということでした。ここで少し、キサンチン誘導体/カフェイン基本的なことについても調べてみたいと思います。

 キサンチン誘導体と聞くと、薬理学で学んだ記憶があるけど…ということで復習してみます。索引で見つかったところを主なものとして考えて調べてみます。すでにご存じの方は、次へお進みください

 

キサンチン誘導体 xanthines

  • キサンチンのメチル誘導体であるカフェイン、テオフィリン、テオプロミンは大脳皮質および延髄の興奮により、中枢機能および循環機能の亢進を起こす。
  • キサンチン類は非選択的ホスホジエステラーゼ阻害薬であり、カフェインは中枢興奮薬、テオフィリンおよび類似薬は気管支拡張薬、強心利尿薬、血管拡張薬として用いられている。

 

<中枢興奮薬>

作用機序: キサンチンのメチル誘導体であるカフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline)、テオブロミン(theobromine)は大脳皮質および延髄の興奮により、中枢機能および循環機能の亢進を起こす。

※キサンチン誘導体を含む大脳型興奮薬を精神刺激薬とも呼ぶ。

 

<気管支拡張薬>

作用機序: ①cAMPの分解酵素であるホスホジエステラーゼに対する阻害作用により、組織中のcAMP量を増加し、このcAMPが気管支平滑筋の弛緩を起こす。β作用薬とキサンチン誘導体との併用は著明な気管支拡張効果を生じる。②キサンチン誘導体の効果には、気管支平滑筋を収縮させるアデノシンA1受容体に対する拮抗作用も加わる。

 

(出典2)NEW薬理学(改訂第6版), 2011

 

 薬理学の基本的な教科書の更新をしていなかったと認識しましたが、基本的事項の確認ということでお許しください。さらにカフェインについての記載も見つけました。

 

カフェイン caffeine

  • カフェインはコーヒー(0.8%~2.3%)、茶(2~4%)、ココア(0.05%~0,8%)、コーラ(2~4%)など嗜好品として最も多く用いられる中枢興奮薬である。
  • また、頭痛薬(特に片頭痛、高血圧性頭痛に有効である)やかぜ薬に配合され、医薬品としても用いられる。

 

作用機序

  • 非選択的ホスホジエステラーゼ阻害薬
  • アデノシン受容体拮抗薬
  • 中枢神経系:大脳皮質および延髄中枢の興奮を起こす
  • 骨格筋:疲労感の衰退、活動性増大が起こるほか、骨格筋に直接作用して、酸素消費、熱産生の増大を起こし、筋小胞体からのCa2+放出によって筋収縮が生じる。
  • 心筋・平滑筋:心筋や平滑筋細胞内にcAMPが増大し、心筋興奮(β1作用)や平滑筋弛緩作用(β2作用)が現れる。心機能亢進、末梢血管拡張や気管支筋弛緩作用がみられる。(カフェインと比べてテオフィリン、テオブロミンの方が末梢作用が強い)
  • 利尿作用:カフェイン利尿はminor diureticsと呼ばれ、循環系に作用し腎血流が増大して利尿が起こる
  • その他:胃液分泌亢進作用(カフェインがホスホジエステラーゼを阻害することによる)

 

(出典2)NEW薬理学(改訂第6版), 2011

 

 カフェインについても理解が深まったとも思います。大学の2年生の時の試験では、カフェインはどうせ深く出題されないというような意識で見ていたのかもしれません。カフェインの利尿作用はminor diureticであり、機序も主に腎血流増加によるものであることも、新しい発見のようにも感じました。

 

 

3.CYP1A2(シトクロムP450 1A2)

 次に、CYP1A2について調べていきたいと思います。

 CYPというのは酵素シトクロムP450」のcytochromeの頭文字3文字に由来しています。次に、シトクロムP450にはファミリーがあり、CYP1、CYP2、CYP3、…と多数あります。さらにファミリーの下位にサブファミリーがあり、サブファミリーのAとなります。そして、その中の2つ目ということでCYP1A2というように特定されます。

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 さらにCYP1A2の役割について調べてみます。

 ヒト組織のシトクロムP450ファミリーのうちCYP1の主な機能は、薬物およびステロイド(特にエストロゲン)の代謝である。サブファミリー数は3つある。

(出典3)イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書30版

 

 ハーパー生化学の表にシトクロムP450ファミリーについてまとめた表があり、それを参考にしました。シトクロムP450ファミリーも10種類以上あります。他のファミリーでは、薬物やステロイド代謝以外にもアラキドン酸や脂肪酸代謝、胆汁酸合成、トロンボキサンA2の合成など、様々な役割を持っています。

 カフェイン中毒にて今回注目した酵素(CYP1A2)は、カフェイン代謝だけでなく、他の薬物ステロイド(特にエストロゲン)の代謝にも関わっており、同じような状況でカフェインだけでなく、これらの代謝の異常にも関わる可能性があると考えられます。

 

 

4.CYP1A2阻害薬・誘導薬

 CYP1A2という酵素があれば、その酵素の働きを阻害マイナス方向に働くもの(阻害薬、阻害食品)があれば、誘導プラス方向に働くもの(誘導薬、誘導体)があるということで、両方とも調べてみたいと思います。

 

4-1. CYP1A2阻害薬

 それでは、今回はニューキノロン系抗菌薬がCYP1A2の働きを阻害したように、CYP1A2の働きを阻害するような薬や食品について調べてみたいと思います。

 

<CYP1A2阻害薬>

  • ニューキノロン系抗菌薬(エノキサシン、ノルフロキサシン、シプロフロキサシン)
  • フルボキサミン
  • メキシレチン
  • プロパフェノン
  • フラフィリン
  • α-ナフトフラボン

 

(出典4)日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)134,285~288(2009)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/134/5/134_5_285/_article/-char/ja/

 

 CYP1A2阻害薬(阻害剤)として、上記のこれらが挙げられるようです。一般名を含め、薬の名前からイメージするのが苦手です。それぞれがどのような薬かを機序・種類程度を紹介いたします。

 ニューキノロン系抗菌薬は、殺菌的な作用を示す抗菌薬でDNAの複製を阻害します。

 フルボキサミンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRIで、うつ病の治療などに使われています。

 メキシレチンは、不整脈薬 Ib群に分類され、Na+チャネル遮断薬の一種である。また、原則禁忌であるものの糖尿病性神経障害治療薬としても必要な場合のみに用いられる。

 プロパフェノンも抗不整脈薬のひとつである。不整脈薬 Ic群に分類されNa+チャネル遮断薬として作用する。

 フラフィリン喘息治療薬のひとつで、気管支拡張作用を有するメチルキサンチン誘導体である。キサンチン誘導体に比べてメチル化により長時間作用する。

 α-ナフトフラボンアロマターゼ阻害薬であり、閉経後の乳がんホルモン療法などに用いられる。男性ホルモン(アンドロゲン)からエストロゲンが合成される際の酵素であるアロマターゼを阻害する。

 

 特に一般名からだけではやはりピンと来ないので、薬は何度も調べるに限りますね(笑)

 そして、生化学や薬理学を深掘りした部分(カフェイン代謝の用いるCYP1A2を阻害するキサンチン誘導体)とフラフィリン(メチルキサンチン誘導体)もつながりがありましたね。深掘りしていき、後で偶然にも類似点が見つかったり/つながったりするのが好きで、周りからはムダに見えても、今はつながらなくても”ムダに”深堀ってしまうことがあります。

 

 シトクロムP450というとグレープフルーツジュースが有名かもしれませんね。ということで、薬だけではなく食品も調べてみました。

 例えば、「食品・サプリメントと医薬品との相互作用」(内田ら, https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2007/200709kougi.PDF)では、多数のCYP誘導・阻害をはじめとする相互作用が紹介されています。このように、食品はとても多岐に渡る・複雑に相互しあっていると考えられます。具体例は、CYP1A2阻害薬に留めておきたいと思います。

 

4-2. CYP1A2誘導薬(誘導体)

 次に、プラス方向に働く誘導体(薬の場合は誘導薬)について調べてみます。ちなみに誘導体とは、酵素誘導をもたらすものです。

 

<CYP1A2誘導体>

~調節因子;AHR~

 

~調節因子;CAR/PXR~

 

 化学物質の曝露により薬物代謝酵素含量が増加する現象は、酵素誘導と呼ばれる。酵素誘導は、化学物質の曝露後にそれらを速やかに解毒する上では非常に効率的な生体システムである。しかし、酵素誘導は薬物相互作用の原因ともなる。すなわち、酵素誘導が起こると併用薬の代謝が亢進して血中濃度が低下し、治療効果が減弱する可能性がある。

 

(出典5)ファルマシア 50(7), 654-658.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/7/50_654/_article/-char/ja/

 

 まずは、薬の一般名から簡単に復習します。オメプラゾールもご存じの方も多いと思いますが、プロトンポンプ阻害薬PPIの一種です。

 カルバマゼピンは、てんかんであり、神経細胞のNa+チャネルを阻害します。また、フェニトインも抗てんかん薬の一種になります。

 

 CYP1A2誘導体によってCYP1A2の働きが上がることで、今回でいうところのカフェイン代謝も上がり、カフェイン中毒になりにくくなるということですね。一方で、ここで記載されているように、薬も早く代謝されることが予想されます。

 

 このように調べていくと、例えばニューキノロン系抗菌薬(CYP1A2阻害剤)とオメプラゾール(CYP1A2誘導体)を飲んでいるなど、様々な組み合わせが考えられます。薬物相互作用もとても複雑につながりあって、相互に作用しあっており、興味深い側面を見れたような気がします。

 

〜まとめ〜

 興味深いことを実感できて嬉しい限りですが、このセクションの焦点がぼけてしまったので、CYP1A2阻害薬・誘導薬(誘導体含む)をまとめて終わりにしようと思います。

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CYP1A2阻害薬・誘導薬のまとめ

 CYP1A2阻害薬を服薬していた際には、カフェインをはじめとするCYP1A2によって代謝される物質が蓄積されやすくなる(今回はカフェイン中毒となりやすくなる)可能性が上がるということや、

生化学・生理学などへの深掘りの楽しさ、薬物・食品の相互作用の奥深さの一側面だけでも記憶に残れば幸いです。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

医学書: Jmed76 これって膠原病?コンサルト実況解説50選 ~膠原病mimics~

書籍紹介(医学書ログ)

ミミックに騙されない思考の道筋 あなたも名医! これって膠原病?コンサルト実況解説50選』(jmedmook 76)

陶山恭博、須田万勢、福井翔(編)

 

 振り返れば、2021年第4四半期で最もアツい医学書のひとつであると思います。「こんな本、待ってました!というような、3名の先生方が編集された書籍です。膠原病mimicsとして、膠原病疑いで紹介された症例から、膠原病にとらわれず感染症悪性腫瘍等まで視点を広げて書かれており、読みごたえがあります。

 

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51FKLSfCT-L._SX352_BO1,204,203,200_.jpg

 

【こんな人におすすめ】

  • 最終診断が膠原病というバイアスを排除して考えたい
  • 膠原病Pivot and Clusterを考えたい
  • 膠原病を疑う際の症状や所見の鑑別疾患を学びたい
  • 症例ベースのような形で学びたい

 

 膠原病の書籍で、膠原病ミミック(mimics, またはmimicker)として感染症悪性腫瘍にまで視点を向けて楽しく書かれている書籍は、これまでの書籍で珍しいと感じました。そして、膠原病疑いとして膠原病内科にコンサルテーションされたときを想定した症例ベースの進め方も読みやすく(進めやすく)、場面を想定しやすいと感じました。とりわけ診断分野において、症例から学べることをこれだけ抽出できるんだという驚きもあります。各コンサル症例にて、「膠原病じゃない」・「膠原病かもしれない」と疑った/気づいたポイントからはじまり、Rheumatologistとしての視点やコンサルトのお返事まであります。

 

 さらに、臨床推論を大学時代からやっていた身としては、痒いところに手が届くような症状や所見からの鑑別疾患リストPivot and Cluterを作る手助けとなるような表の記載も満載で有難い限りです。次のようなものが50症例分用意されています。症例から学べる鑑別疾患や各疾患の特徴、診断過程などが、情報の詰まったチャートになって、まとまっています。

 症例の中で学べるものの例として薬剤性ANCA関連血管炎薬剤ごとの特徴の比較や、二次性レイノー現象の原因、急性・慢性蕁麻疹の原因、全身性エリテマトーデスSLE)のmimics、肺胞出血の原因、成人スティル病のmimicsなどというように多岐にわたります。例えば、SLE増悪のmimicsとしてのビタミンB1欠乏症には驚きました。

 

 そして、この本を読む前であれば、私自身で調べてブログ記事にしていたであろう鑑別疾患や各疾患の特徴を比較したまとめ等もありました。これでブログネタが減ってしまうかもしれませんね。寂しいやら、でもよい書籍がまたひとつ世に増えたという嬉しい叫びですね笑

 膠原病や臨床推論(診断)に興味のある人にお勧めです。長い間使えそうなので、なぜ単行本ではなく雑誌なんだろうかと疑問に感じているぐらいです。

 

 そしてこれこそ、岩田健太郎先生の提唱されているジェネシャリストGenecialist)」に近いものを感じる本でした。ここで執筆に携わっている膠原病の先生のとしての飛びぬける専門性膠原病を診る上で感染症などの関連してくる部分への横の広がりのようなグラデーションを感じました。もちろん、専門性のある先生方がコンサルをしてくる先生方に向けて自身の縦の専門性を背景としつつも優しく書いているというような本でした。

 ジェネシャリストという考えは、ジェネラリストとスペシャリストを二項対立ではなく昇華させている素敵な概念だと思います。気になる方はこちらも是非読んでみてください!

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、よろしければチェックしてみてください。

 

 もっと詳しくジェネシャリストについて知りたい方は書籍もありますので、よろしければ併せてお読みください。

Bartter症候群/Gitelman症候群の特徴

Bartter症候群/Gitelman症候群特徴

偽性Bartter症候群を含めた鑑別ポイント~

 

<目次>

 

 

 いつになってもしっかりと覚えられないBartter症候群Gitelman症候群あたりの鑑別や違いです。今回は、ひょんなことからBaker嚢胞について知りたい部分の記述がUpToDateで見つからなくてPubMedを検索していた際にこれから紹介する文献を見つけました。偶然にも見つけた際には「なんだ、この文献は!?検査値の有意差を調べているのか」と驚きました。主に周産期ではなく成人に目を向けて、この文献を紹介していく記事です。

 

1.概要:Bartter症候群/偽性Bartter症候群/Gittleman症候群

 国試対策中なら国試対策本、普段でも教科書やUpToDateなどの二次文献で多くのことは事足りると思います。

 大枠の概念だけを掴むという意味で国試のものを使います。ハリソン内科学などにもぜひ目を通してみてください。それではレビューブックでBartter症候群、偽性Bartter症候群、Gitelman症候群を比較してみます。

 

3疾患の比較

 

Bartter症候群

偽性Bartter症候群

Gitelman症候群

INTRO

ヘンレ係蹄上行脚でのNa、Clの再吸収障害のため、傍糸球体装置(JGA)の過形成とRAA系↑を示し、二次性アルドステロン症をきたした状態であるが、アンジオテンシンIIに対する昇圧反応は低下し、血圧正常を示す。

慢性下痢、嘔吐、下剤・利尿薬(特にループ利尿薬)の頻用により起こるBartter症候群類似の病態をいう

・遠位尿細管のNa+/Cl-の共輸送体遺伝子の異常に起因する

・Bartter症候群類似の症状を示すが、低Mg血症・低Ca尿症をきたす点と、成人発症が多い点で異なる

症状

低K血症による筋症状(脱力感、筋力低下、四肢麻痺)、多飲・多尿などをきたす

若年女性が、やせる目的でフロセミドなどの利尿薬を大量に使用し、低K血症による症状、脱力をきたす

思春期や成人期に低K血症による筋力低下、低Mg血症によるテタニーを初発症状として発症する

検査/

診断

・二次性アルドステロン症を反映し、レニン↑、アルドステロン↑、K↓

代謝性アルカローシスを示すが、血圧・Naは正常である

脱水により、レニン↑、アルドステロン↑をきたす

血圧は軽度↓~→、RAA系↑、低K血症、低Mg血症、著明な低Ca尿症がみられる

治療

スピロノラクトン(抗アルドステロン薬)の投与、

K製剤によるK補充(低K、代謝性アルカローシスの改善)

利尿薬を中止

KとMgを補充し、K保持性利尿薬(スピロノラクトン、トリアムテレン)を投与

(出典)レビューブック内科・外科 2018-2019

 

 疾患ごとの概念的な部分をつかむことができたと思います。実際にはどんな時にこれらの疾患を疑うのかという部分も気になりましたので、調べてみました。

 

<Bartter症候群やGitelman症候群症候群を疑うとき>

  • 説明のつかない低K血症、代謝性アルカローシスならびに血圧の正常・低下を認めたとき

 

<診断時:初期の評価>

  • Bartter症候群ならびにGitelman症候群は一般的(Common)ではない
  • 説明のつかない低K血症、代謝性アルカローシスならびに血圧の正常・低下を認めたとしても、他の疾患の除外が極めて重要

 

(出典)UpToDate>Bartter and Gitelman syndromes in adults: Diagnosis and management, last updated: Nov 23, 2021.

 

 稀な病気ということで、説明のつかない低K血症代謝性アルカローシスならびに血圧 正常・低下を認めたときに調べながらでもいいのではないかと思ってしまいました。

 そもそも、Bartter症候群(BS)といっても、BS1, 2, 3, 4a, 4b, 5と種類があるので、それをまとめて疾患像というのも難しい部分があると思います。BSの種類ごとの発症年齢、低K血症の程度、Ca排泄の程度などの表もUpToDateの”Bartter and Gitelman syndromes in children: Clinical manifestations, diagnosis, and management”のTableにありました。

 

 ぜひ、アクセス可能な文献を見てみてください。



2.検査値を比較・有意差は?

 それでは、今回の話題の核心の文献を見ていきましょう。Bartter症候群とGitelman症候群の間だけでなく、Bartter症候群Type 3Gitelman症候群に加え、偽性Bartter症候群/偽性Gitelman症候群の3群にわけて、検査値などを比較したものです。

 

<Bartter症候群・Gitelman症候群・偽性BS/GSの検査値等の比較>

f:id:mk-med:20211223012957j:plain

(出典)Genet Med. 2016 Feb;18(2):180-8. doi: 10.1038/gim.2015.56. Epub 2015 Apr 16.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

有意差を認めた項目

  • 診断時の年齢
  • 血液pH
  • 血清Mg
  • 血清Cr値
  • eGFR
  • 尿中Ca/Cr比
  • 血漿レニン活性
  • 血漿アルドステロン

 

 診断時の年齢は、事前確率を考えるうえでヒントになりそうです。ちなみに、研究対象の患者は日本の大学病院ということで、かなり現場に近い可能性は高そうですね。

 血液pHBartter症候群でややアルカローシスによっています。Bartter症候群で記載のあった代謝性アルカローシスとして、偽性Bartter症候群やGitelman症候群と、Bartter症候群を区別するヒントになりそうです。

 血清Mg低値もGitelman症候群で際立っているとも言えそうですが、そうでないときもありそな差といった印象でした。有意差はあっても、実際に判断するのは難しそうな値に感じ、コンピューター解析用かなという印象です。

 尿中Ca/Cr比は、Gitelman症候群著明な低Ca血症を反映していそうです。尿中Ca/Cr比が低下いるということで3疾患からGitelman症候群を鑑別するのに有効だと感じます。一方で、血清Cr値やeGFRは有意差を認めて、あまり検査値も離れていないため、実際に判断するのは難しそうです。

 血漿レニン活性血漿アルドステロン値Bartter症候群高値ですね。3疾患からBartter症候群を鑑別するのに役立ちそうです。先ほどの疾患の概念的な部分の確認で、Bartter症候群は二次性アルドステロン症という記載もあり、それを反映していそうです。一方で、偽性Bartter症候群は脱水でレニン↑、アルドステロン↑でしたが、そこまで上がらずGitelman症候群と似た程度しか上がらないようですね。

 

 RCPCのような概念で説明できるかの逆算はできそうですが、一部の検査値だけで診断に迫るというのは怖い印象です。また、検査の順番という部分からもUpToDateの『説明のつかない低K血症代謝性アルカローシスを見かけたときに疑い、さらに検査をしていき、レニン活性やアルドステロン値にたどり着くというのが、理にかなっていると思います。もちろん、他の疾患・病態の影響も考えないといけないのはいうまでもありません。結果としては興味深いですし、検査値の定量的な解析にAIなんかが導入された際には役立ちそうと夢を膨らませています。

 検査値も大切ですが、偽性BS/GSに関しては利尿薬の使用など、他にも診断の手掛かり(事前確率を変える手掛かり)となるものもありそうです。

 

 また周産期であれば、Free ArticleでBS1, 2, 3, GSを比較したような文献もありました。”Differential diagnosis of perinatal Bartter, Bartter and Gitelman syndromes”というタイトルの文献です。

Differential diagnosis of perinatal Bartter, Bartter and Gitelman syndromes

 

 また、小児であればUpToDateもBartter症候群やGitelman症候群の別ページもありました。成人に移行していく過程・成人発症のケースもある遺伝性疾患や、小児科として習った疾患の成人診断例のあたりの症例が奥深いとも感じました。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

読書ログ: 他者と生きる|リスク・病い・死をめぐる人類学(医療人類学)

書籍紹介(読書ログ)

『他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学

磯野真穂(著)

 

<目次>

 

 

1.書籍紹介

 医療人類学・社会人類学を身近に!ということで紹介させていただきます。人類学者であり、専門が文化人類学医療人類学磯野真穂さんの著書になります。医療関係者にはおそらく身近なところから考えながら読んでいきやすい人類学の1冊として紹介させていただきます。

 

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【こんな人におススメ】
  • 他者」への理解を深めたい
  • 「病気」「健康」について考えてみたい
  • エビデンス以外の患者さんの背景・価値観をもっと考えたい
  • 医療の先にある患者さんの幸せについて考えるきっかけに

 

 家庭医療をテーマとする団体で触れる機会もある人類学について、自ら触れて、考えてみようと思う人向けの書籍です。医療人類学・社会人類学の書籍は他にもあります。しかし、なぜこの書籍かというと、磯野真穂さんの書かれた読みやすい文章であり、様々なテーマ(キーワード)を広くふれ、新書ということでお値段もお手頃ということから読書ログで取り上げさせていただきました。

 

 この書籍の中では、様々な視点から、医学、医療を考えさせてくれるきっかけがありました。医師の専門家としてのエビデンスの理解、解釈、その後の各自への適応、価値観に基づく判断のような科学的な思考とはまた違う、こういう解釈(価値観?)もあるのかというようなものです。EBMのような科学的思考のような医師としてのベースとは別枠というのか、伸びしろとしての興味深さを感じました。

 例えば、次のような「アハ体験」がありました。

 

 医学を含めた学問に対して、「医学という学問はどう生きるべきかを提示しない」として「医学の価値と人間として生きることの価値」を考えるきっかけとなりました。

 

 予防医学は、「病気がもたらす苦痛を除去するため、「大して気にせず」生きている人に「気にさせること」を目的とする医学」という視点を持つことで、予防医学の行き過ぎた場合や、その病気を避けるための対策をとらせるために考えるきっかけをくれます。さらにはリスクとレトリックにおいて、言葉を巧みに使う、直喩を用いる(例:心房細動による脳梗塞の例として長嶋さんを患者さんに用いる)など具体的に考えていきます。

 予防医学は医療でどんどんと注目されているものの、医療費削減の視点はさておき、それ以外に「あなたは糖尿病です。高血圧です。」と診断されて、病人になって薬を飲んで心配して暮らすこと、アドヒアランスを上げることで「病人」となってしまいうること、健康至上主義など、たくさん考えさせられました。

 

 エビデンスとの向き合い方としては、論文に掲載されたデータをそのまま用いる方が科学的であるものの、「診察室における、ある表現の選択理由を考える時、私たちが目を向けるべきは、科学的根拠に基づく治療に込められた願いとその先に描かれる未来である」というような話もあります。「エビデンスによる医学」ではなく、Evidence-Based Medicineというべき部分に関しても、つっこみを入れてくれるような書籍です。

 また正しい知識・理解から、予防上のリスクに関して唯一の正しい理解や対応が存在すると考えてしまう危険性や、さらにはリスクはグラデーションというような部分まで考えるきっかけとなります。その数パーセントの相対的な差は有意差はあっても、「私はどうなの?」という部分やその人の生活背景によっても方針は異なってきて当然だという思いや、「正義」を持つことは危ないという視点も改めて感じました。

 

 さらに、日本人にとっての遺体/死体の価値観、病の起源を語ることの意味、数字でとらえる・平均値でとらえること、時間と「人生の長さ」への考察や、自分らしさ(人間らしさ)など、医療をきっかけに様々なことを考えるきっかけとなると思います。医療の先にある患者さんや周囲の人の幸せって何だろうと考えるきっかけになればと思います。遺体への日本人の価値観からのCOVID-19の際の最後のお別れができないことへの反応や、時間と「人生の長さ」における「どう生きたか、深さは?」というような視点も、病気と接することが日常の医療者が、患者さんと接するときのヒントがあるような気がします。

 定量的なもの(平均値・統計など)から、あえて遠く離れて広い視点で見てみる際の1つとして、休日の読書タイムのような感じがしました。もしよろしければ、手に取ってみてください。

 

 にも、磯野真穂さんの著書『ダイエット幻想』や『なぜふつうに食べられないのか』などの医療と近いお話もあります。前者では摂食障害と他人とのつながり等をテーマにしています。後者は摂食障害を詳しく、拒食症の6名のお話をもとに考えていく書籍で、おわりに書かれていた「食べることも、他者と交わることも、自らの境界の内部に外部を招き入れること、つまり…」という文章や、6名のお話の中で家庭環境にも気が向いたりとしたことを覚えています。ぜひ、自分自身の読んでみたい書籍を見つけてみてください。

 

2.医療人類学に触れてみよう @YouTube

 新書であっても人類学の本を手に取ってみるというのは、それだけでハードルが高いと感じる人もいると思います。まずは、お手軽にYouTubeをちょっと見てみて興味が湧くか試してみるのも良いと思います。

急に具合が悪くなる』宮野真生子・磯野真穂(著)の書籍を元にしたトーク企画(医師の教養チャンネル@YouTube)です。

youtube.com

 第2話から具体的な医療人類学に関する話が始まります。そして、最後には特別編として磯野真穂さんとの対談もあります。

 

 『他者と生きる』だけでなくて、『急に具合が悪くなる』にも興味を持った場合には、これをきっかけとしてどちらから読んでみても良いと思います。

 



P.S. エビデンスについて社会学で深掘り

 少し前に読んだエビデンス社会学 証言の消滅と真理の現在』松村一志(著)も、証拠・証言、エビデンスについて反-反実在論ミシェル・フーコーなども取り上げながら、歴史的な流れを踏まえつつ考えさせられる書籍でした。『他者と生きる』における統計・エビデンスとはまた別視点でじっくり考えさせられました。また、いわゆる健康番組等で用いられているような「証言」レベルエビデンス(科学的根拠)の違いのヒントにもなりました。

 

 

 今回は、医療の周辺も考えるきっかけとなりそうな本の読書ログでした。唯一の結論を出すことではなく、考えることにとても価値があると感じる内容の紹介でした。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンでの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

 

お餅 de 食餌性イレウス(餅イレウス)

お餅といえば? お正月!?

お餅による食餌性イレウス(餅イレウス

 

<目次>

 

 

 お正月のあたりで話題にあがった、お餅による食餌性イレウスをはじめとする消化管障害(イレウス、潰瘍、穿孔)について調べてみた記事です。お餅をはじめとする食品を喉に詰まらせる(気道閉塞)のイメージから、お餅による食餌性イレウスの年齢層を勝手にイメージしていました。しかし、お餅による食餌性イレウスを調べてみたところ、私自身の想像していた年齢層よりも若い人に多いというところもあり、それをきっかけに調べてみたブログ記事です。

 タイトルは少しPOPすぎたかもしれませんが、下手にひらがなが続くと読みにくそうなので、このようなタイトルにしました。

 

1. お餅のど詰まる

 本題のお餅による食餌性イレウスの前に、お餅といえばお正月に食べるイメージでしょうか。「お餅をのどに詰まらせないように」という部分に注意を向けている高齢者も多いと思います。消費者庁の平成30年の資料によると、高齢者の「ものが詰まる等」事故による救急搬送者数(平成28年)では、90歳以上がもっとも多い状態でした。

 

「ものが詰まる等」事故による救急搬送者数

f:id:mk-med:20220112151842j:plain

  • 食品別では、食物(食品であるが詳細不明のもの)424人、おかゆ類110人、餅88人、御飯79人、肉76人
  • 発生月別では1月が27人(30.7%)で最多

(出典)消費者庁 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_009/pdf/caution_009_181226_0001.pdf

 

 すべてがお餅のデータではないですが、ヒントにはなりそうです。いずれにしても高齢者になれば、歯牙の状態、唾液量、咀嚼・嚥下機能の低下より注意が必要というは言えそうです。



2. 食餌性イレウス:意外若い?

 それは本題の食餌性イレウスのお話に映りたいと思います。「お餅がのどに詰まる」のイメージで、お餅による食餌性イレウス好発年齢(年齢層)もぼんやり考えていました。しかし、恥ずかしながら食餌性イレウスの年齢層(平均年齢)が想像より若かったというところから調べるに至りました。まずは、そのきっかけとなった症例報告の考察部分から紹介します。

 

餅による食餌性イレウスの2例

  • 食餌性イレウスイレウス手術例の2~5.1%と報告されており、比較的まれな疾患である。
  • 1988年から2001年における日本での食餌性イレウス手術例は51例であり、年齢は2~81歳、平均52.6歳であった。
  • 食餌内容はコンニャク類が12例(23.5%)と最も多く、次いで餅9例(17.6%)、海藻類7例(13.7%)が多かった。餅は原因になりやすい食餌であった。

(出典)日本腹部救急医学会雑誌 24 (1): 73~77, 2004

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem1993/24/1/24_1_73/_article/-char/ja/

 

 これを見る限り、食餌性イレウス手術例において、お餅は2割弱であるものの50歳前半というのは若い印象を持ち、食餌性イレウスお餅による食餌性イレウスについて切り分けで、お餅によるものを深掘りしてみようと思いました。

 

 

 

3. お餅による消化管障害(食餌性イレウス

 それでは、お餅による食餌性イレウス(餅イレウス臨床像などについて調べていきたいと思います。

3-1.文献①:162例+経験8症例特徴

 お餅による食餌性イレウスを調べていったところ、さすがにお餅によるイレウスのReview Articleや二次文献(UpToDate)は見つかりませんでした。お餅による消化管障害としてイレウス、消化管潰瘍、消化管穿孔についての件数の多めの症例報告をはじめとする文献を見つけました。これらを見ていこうと思います。

 

餅による消化管障害(イレウス、穿孔、潰瘍)の162例と経験8症例の特徴

  • 1968 年から 2012 年までに報告された餅による消化管障害は、医学中央雑誌と
    MEDLINE で餅(rice cake)、食餌(food)、閉塞(ileus, obstruction)、穿孔(perforation)、潰 瘍(ulcer)をキーワードに検索したところ、小腸閉塞・穿孔 136 例(うち会議録 49 例,集計 40 例)、胃内異物・潰瘍 8 例(うち会議録 3 例)、食道異物・潰瘍 7 例(うち会議録 3 例)、十二指腸異物・潰瘍 2 例(うち会議録 1 例)、S状結腸穿孔 2 例(うち会議録 1 例)の,計 155 例を認めた。
  • すべて本邦からの報告であったが、その理由として、原料であるもち米がアジアに限られた栽培作物であること、他国の餅食品と異なり本邦の餅はもち米を 100% 使用し,調整(餅つき)することによって独特の物性を有すること、さまざまな行事の際に摂取する食文化があること、などが考えられる。

 

  • 出版されている症例報告145例の特徴(まとめ)は表の通り。

イレウス 145例のまとめ
  • 餅の摂取から症状発現までの時間は、摂取直後に発症する食道潰瘍を除くと、多くの症例で数時間から1日以内であり、遅くとも4日以内に発現していた。

 

<発症年齢分布と性別>

f:id:mk-med:20220112152347j:plain

  • 餅による消化管障害の好発年齢は50~60歳代
  • 男女比は約2:1と男性に多い

 

<月別の発症数>

  • 10月から徐々に増え始め、特に1月に集中
  • 年間79件:(多い月)10月3件、11月6件、12月11件、1月49件、2月4件

 

<食餌性イレウス

  • イレウス全体の0.3~5.9%
  • 原因となった食餌は、1988年から2002年の集計ではコンニャク類(23.5%)について餅(17.6%)が第2位であった

 

<食餌性イレウスの原因>

①食餌の咀嚼不十分(歯牙欠損,義歯,早食い,丸呑み癖)

②食餌自体が咀嚼・消化困難

③水分による食餌の膨張

④腸管の器質的異常(狭窄、憩室、過長、胃切除後)

⑤腸管麻痺作用を持つ食物(ケシの実、ふすま、燕麦など)

⑥空腹時摂取ならびに胃酸過多 など

  • 自験例において、義歯あるいは早食い癖のある症例は8例中7例(87.5%)であった。

 

<餅イレウスの診断とCT値>

  • 問診による食餌内容の確認に加えて、CT検査が非常に有用である
  • 餅のCT像は、均一な、高濃度物質、高吸収物質、高吸収物質、high density materialと表現される。
  • CT値についての記載のある症例は少ないが、145HU、136HU、124~206HU、約150HU、約170HU、自験例では120~174HUと数値は近似している。
  • 近年、腹部超音波検査も食餌性イレウスの診断に有用といわれているが、原因の特定よりも、イレウスの早期診断や異物の移動、腸管拡張の経時的観察が簡便に行えるところにあると考えられた。

 

(出典)日消誌 2013;110:1804―1813

ci.nii.ac.jp

 

 発症年齢がイメージより若かったという部分に関して納得できました。お餅による食餌性イレウス8例中7例で義歯早食い癖の指摘があったように、よく噛まない・よく噛めないというのが原因になりそうです。

 発症年齢が50-60歳代であるのも、80歳代や90歳代になるとよく噛まずに餅を食べる(飲み込む)ことができない、つまり大きな餅がそれ以前にのどに詰まるとも考えられそうです。

 ”餅イレウス145症例”の表からの、臨床像も参考になりました。多くの人(71%)はお餅を食べてから数時間から1日以内にやってくるというのに加え、症状も腹痛がほぼ必発でやってくるというイメージができました。

 

 疫学的には、イレウスのうち食餌性イレウスは多くなく、「イレウスを疑ったとき」+「1月(特にお餅を食べそうなお正月シーズン)」には事前確率が高くなりそうなので「お餅」を想起しつつ、食餌性イレウスの原因となりそうな食事がないかを問診してみるのもありかもしれません。

 さらには、腹部の手術歴が36%ということで、もともとイレウスを生じやすい人に餅による食餌性イレウスも生じやすいと考えられそうです。

 

 あとは、日本特有イレウスの原因に近いという部分も、ジャポニカ米やお正月という文化と密接に関連していると感じずにはいられませんでした。つきたてのお餅はおいしいと感じますが、つきたてでもないお餅でも正月になると食べることがなぜか増える/なぜかスーパーで見かけることが増える風物詩かもしれませんね。

 

 この文献は、餅による食餌性イレウス含む消化管障害におけるCT診断の有用性についての検討でした。そのため、食餌性イレウスの際の食物ごとの小腸閉塞の際のCTや超音波の画像の比較もあり、楽しい内容でした。よろしければ、CT・超音波画像は出典をご覧ください。



3-2.文献②(14例英語文献)

 PubMedでも日本のお餅による食餌性イレウスについての英語文献を見つけました。日本にいれば、お餅は当たり前ですが、海外に向けてはむしろ地域性・民族性のあるレア症例というところでしょうか。Introductionが一番印象的でした。

 

“Rice cake ileus--a rare and ethnic but important disease status in east-southern Asia”

Introduction

  Rice cake is a unique food in Japan and in some Asian countries. Japanese food is now becoming very popular in the United States and European countries. Thus, doctors should be aware of the diseases caused by new food cultures such as rice cake. Rice cake has never known as a cause of alimentary tract obstruction.

 

(出典)Intern Med. 2011;50(22):2737-9. doi: 10.2169/internalmedicine.50.6152. Epub 2011 Nov 15

 

 こちらも、英語であることや、餅イレウスの世界での特殊性について触れている点をのぞけば、先ほどのように臨床像を掴むヒントになると思います。

 

14例の餅イレウスの特徴

<疫学>

  • 男性症例:5例(35.7%)、平均年齢64.0歳(52-82歳)
  • 女性症例:9例(64.3%)、平均年齢は65.1歳(53-79歳)
  • 全症例とも餅摂取後24時間以内
  • 1月が8名(57.1%)で最も多い
  • 腹部手術の既往:10例(71.4%)

 

<症状>

  • 腹部疝痛(100%)
  • 悪心(85.7%)
  • 嘔吐(64.3%)

 

<身体所見>

  • 腹部:圧痛(100%)、筋性防御(28.6%)

 

<CT所見>

  • 高吸収物質の確認(100%)
  • 腹水(14.3%)

※虚血性変化は観察されず

 

<治療>

手術症例はなし

  • 経鼻胃管(short tube)4例(28.6%)
  • イレウス管(long tube)4例(28.6%)

 

(出典)Intern Med. 2011;50(22):2737-9. doi: 10.2169/internalmedicine.50.6152. Epub 2011 Nov 15

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 男女比に関しては今回の症例報告では女性の方が多い傾向でした。文献ごとに差異もありますが、お餅を食べてから24時間以内腹痛という点や50~60歳代に多そうであるという点、腹部手術の既往がある人に多い点、お餅を食べる1月に多い点は共通点ですね。

 さらには、CTでの高吸収物質というのも「お餅」という診断にまで至るかはさておき、消化管に何かあるということを掴むことには役立ちそうです。

 

【補足:様々な食餌性イレウス

 食餌性イレウスの原因となる食材等(物も)は地域性時代・ブームといった食べるものへの影響もあり本当に多彩です。気になる食材などのキーワードとセットに探してみまると興味深いかもしれません。CT画像も興味深いものもあります。

 下記のような食餌性イレウスのリストをみると、意外なものもあると思います。乾燥食材、シイタケ、イナゴやら海外では軍用パンまでありました。そこから、症例報告などを検索してみるとよいでしょう。

www.jstage.jst.go.jp

 

4.まとめ

 今回は、2つの文献を中心に見てみましたが、まとめると餅による食餌性イレウスには以下のような特徴があると考えられそうです。

 

  1. 好発年齢:50~60歳代
  2. 餅の摂取後24時間以内発症が多い
  3. 腹部の外科手術(開腹手術)の既往がある人に多い
  4. 症状:腹痛がほぼ必発し、嘔気嘔吐のような他のイレウスの症状も多い
  5. 身体所見:腹部所見(圧痛など)を認めることが多い
  6. 検査:CTにて高吸収物質を認める
  7. 治療:主に経過観察または経鼻胃管やイレウス管(手術症例は少ない

 

 早くとも来年まで、お餅による食餌性イレウス・消化管障害の知識は使うことはないかもしれませんが、忘備録としておきます。また、お餅を食べる食生活の変化、年齢構成の変化によってもっとレアな症例になるかもしれませんね。

 

 

追記:お餅を食べる時に…

 お餅を食べる時に食餌性イレウスになりにくくする(少しでも予防する)にはどうしたらいいかを考察してみました。

 前述の内容に加え、餅による食餌性イレウスでは次のようなことが、症例報告の考察部分にありました。

  • 繊維性食物が原因になることは消化が悪いためと考えられるが、炭水化物で消化の良い餅が柔らかい状態ではイレウスの原因にはならないと考えられる。しかし硬くなった餅は消化が悪く、また腸管を閉塞し腸管穿孔にいたることもある。
  • 餅は消化が良いので飲み込んでも良いと判断して柔らかい餅は当然、硬い餅まで飲み込むことが原因となっている可能性がある。

(出典)日臨外会誌 65 (9), 2362-2367, 2004.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/ringe1998/65/9/65_9_2362/_article/-char/ja/

 

 あくまで症例報告の考察部分ですが、これも餅イレウスの予防には役立ちそうです。確かに固い状態(冷めた状態)のお餅は消化しにくそうですし、でんぷんの形態も暖かい時と異なり保存に適した状態になっています。

 

 予防のためには、「お餅は小さく、そしてゆっくりよく噛んで食べる」+「固いお餅に注意(水分+温める)」というお餅に限らず多くの場合で当たり前のところに落ち着くのかもしれません。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎②|抗体の有無による臨床像の比較

MDA5抗体陽性皮膚筋炎②

~抗MDA5抗体陽性/陰性による臨床像比較~

 

1.基本事項(国試レベル)の確認(前回)

2.皮膚潰瘍の有無と抗体陽性率(前回)

 【前回】抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎 ①皮膚潰瘍と抗体陽性率

3.抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の臨床像

 

 前回は皮膚筋炎の国試レベルの基本事項の確認と皮膚筋炎における抗体と皮膚潰瘍の相関について調べました。今回は、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の臨床像を抗MDA5抗体陰性皮膚筋炎との比較を交えながら深堀りしていきたいと思います。

 

 

3.抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎臨床像

 続いて、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の皮膚潰瘍以外も含めたClinical Manifestationを中心に全体像を掴んでみたいと思います。まずは調べ直すきっかけとなったNEJMから、見ていきます。

 

  • Cutaneous ulcerations overlying the metacarpophalangeal and interphalangeal joints, elbows, and nail folds are seen in up to 85% of patients with anti–MDA-5 dermatomyositis, often with lateral digital hyperkeratosis, which was observed in this patient.
  • Approximately 50% of cases are associated with oral ulcers, often on the tongue.
  • The arthralgias, fever, presence of anti-Ro antibodies, abnormal results on liver function tests, and elevated ferritin level seen in this patient are common in patients with anti–MDA-5 dermatomyositis.

(出典)N Engl J Med 2021; 385:2282-2293.

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcpc2107353

 

要するに

  • 皮膚潰瘍(中手節関節、指節間関節、肘、爪郭を覆っている部位)は多い場合約85%の症例で認められる
  • 皮膚潰瘍ではよく指趾側面の角化病変を伴う
  • 口腔内潰瘍約50%の症例で認められ、舌に多い
  • 関節痛、発熱、抗Ro抗体陽性、肝機能障害、フェリチン上昇は一般的である

ということらしいです。

 

 二次文献のUpToDateでは特に抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎について臨床的な特徴を簡単にまとめたような記述を見つけたので、そこから紹介します。

 

  • 抗MDA5抗体は、自然免疫反応に関与するタンパク質であるメラノーマ分化関連遺伝子5(MDA5)がコードするRNAヘリカーゼを認識するものである。
  • 当初、抗MDA5抗体はclinical amyopatic dermatomyositis(CADM)の特殊な自己抗体として報告され、抗CADM-140と呼ばれた。
  • 高い罹患率と死亡率を伴う急速に進行する間質性肺疾患と強く関連している。
  • 筋の病変を持たない傾向があるが、しばしば関節炎を有する。
  • Gottron丘疹および皮膚潰瘍、痛みを伴う手掌丘疹および斑点、口腔内潰瘍、および非瘢痕性脱毛を含む特徴的な皮膚所見が存在する。

(出典)UpToDate>Overview of and approach to the idiopathic inflammatory myopathies, last updated: Jun 09, 2021. 

 

 二次文献で信用できる全体像はこの程度のようですね。

 

 れでは満足しない性格(?)なのでさらに深堀りしていきます。

 これら上記記述の引用元を調べるというのもアリですが、抗MDA5抗体の有無による症状の違いにも注目しながら調べてみたいと思います。抗MDA5抗体の陽性/陰性にて比較した2つの文献から紹介します。

f:id:mk-med:20211216130201j:plain(出典)Arthritis Care Res (Hoboken). 2012 Oct;64(10):1602-10. doi: 10.1002/acr.21728.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 入院に至った抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の臨床症状の特徴として以下の項目で有意差が認められたようです。

  • CADM(clinically amyopatic DM)が多い(80% vs. 40.8%)
  • 皮膚潰瘍多い(80% vs. 8.2%)
  • 嗄声バッキングが多い(46,7% vs. 8.2%)
  • 筋痛少ない(26.7% vs. 61.2%)
  • 間質性肺疾患(ILD)が多い(100% vs. 63.3%)

他にも、血清CK、LDHアルブミン値においても有意差がありました。死亡率が高いというのも要注意です。母数(n)が多ければ、他の項目でも有意差が認められたかもしれません。他にも、入院症例であるという偏りはあるものの間質性肺疾患が100%というのも母数が増えればもっと自然な数値になったかもしれません。

 それでは次の文献も見てみます。次の文献の方がnが小さく、もっと参考程度かもしれませんが、せっかくみつけたので紹介します。

 

f:id:mk-med:20211216130227j:plain(出典)Clin Exp Rheumatol. Nov-Dec 2014;32(6):891-7. Epub 2014 Aug 15.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 ここでは、Amyopathic DMが多いこと、発症時の血清CKが低いこと、間質性肺疾患が多いことにて有意差が認められます。母数が小さすぎて中には0%という項目まであることには留意が必要だと思います。

 

 私自身なりにまとめるとすると、これらの文献からは抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎特徴は、

  • 間質性肺炎が多い
  • 皮膚潰瘍が多い
  • 嗄声バッキングが多い
  • 筋痛が少ない
  • 血清CK値上昇ゆるやか

というあたりに注目したいと思います。特に急性間質性肺炎命にかかわることも多く、皮膚筋炎の中でも抗MDA5抗体が国試でも注目されがちな理由でしょうか。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

【前回記事】

mk-med.hatenablog.com

抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎①|皮膚潰瘍と抗体陽性率

MDA5抗体陽性皮膚筋炎①

~基本事項の確認から抗体陽性率皮膚潰瘍

 

<目次>

(次回)抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎 ②抗体による臨床像の比較 - 医学生からはじめる アウトプット日記

 

 先日、New England Journal of MedicineのCase Record of MGHにてMDA5抗体陽性皮膚筋炎の症例がありました。60歳男性、主訴は発熱、倦怠感、関節痛、口腔内潰瘍、皮疹です。

 それを読み進めているうちに肺病変もあり、皮膚筋炎であることは納得なのですが、

”Approximately 50% of cases are associated with oral ulcers, often on the tongue.”

とあり、口腔内潰瘍約50%に見られるという割合に驚きました。他にも皮疹(特に皮膚潰瘍)についても感度を意識したことがないと感じました。

 お恥ずかしい限りですが、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の臨床症状・所見について調べなおしてみたいと思います。

 

 

1.基本事項(国試レベル)確認

 皮膚筋炎について個人的にセミナー等で学んだこととの境界があいまいなので、まずは国試レベルからの確認です。レビューブックからになります(適宜、下へ飛ばし読みしてください)。

 

多発性筋炎・皮膚筋炎

INTRO.

  1. 多発性筋炎は、原発性の横紋筋の炎症性疾患で、近位筋群の筋痛を伴う対称性の筋力低下を特徴とする疾患である。筋炎症状に加え皮膚症状を伴うものを皮膚筋炎という.
  2. 女性に多く(男女比は約1:3),5-9歳と50歳代にピークがある.
  3. 胃癌(最多)・肺癌などの悪性腫瘍(15-30%の症例で合併、皮膚筋炎で多い),間質性肺炎の合併が多い.

 

症状

  1. 初発症状は,近位筋の対称性の筋力低下が多い.
  2. 症状は筋,皮膚,肺,関節などでみられるが,腎の直接障害はみられない
  3. 筋症状として,近位筋群の筋力低下(早期より歩行不能となる場合もある),筋委縮,筋の自発痛・把握痛,嚥下障害,構音障害がある.
  4. 皮膚症状として,ヘリオトープ疹,Gottron徴候,Raynaud現象,多形皮膚萎縮症などがある.
  5. 関節症状として,多発性関節炎(非破壊性,非変形性)がある.
  6. 肺症状として,びまん性間質性肺炎がある.特に筋症状を欠く皮膚筋炎で重症化する.

 

検査/診断

  1. CK・アルドラーゼ・AST・ALT・LDHなどの酵素↑(治療効果判定や再燃の指標として重要),ミオグロビン↑,赤沈↑,CRP↑を呈する
  2. 筋破壊を反映して尿中クレアチン↑,筋量低下を反映して尿中クレアチニン↓がみられる.筋電図においては,安静時自発電位や筋原性パターン(低振幅、短持続時間),四肢のMRI T2強調像で筋内高信号,筋生検で筋線維の変性・壊死,リンパ球浸潤がみられる.
  3. 間質性肺炎合併例では,免疫学的検査で抗Jo-a抗体含む抗ARS(アミノシルtRNA合成酵素)抗体(+)となることがある

 

PM/DMにおける自己抗体とその臨床的意義

自己抗体

臨床意義

抗ARS抗体

筋炎,間質性肺炎,関節炎,Raynaud現象,発熱を認める

 

抗Jo-1抗体

DMよりPMを呈することが多い

抗Mi-2抗体

間質性肺炎,悪性腫瘍の合併リスクが少ない

ステロイド反応性が良い

抗MDA5抗体

(抗CADM-140抗体)

筋症状を欠く無筋症性皮膚筋炎(CADM: clinically amyopatic DM)を呈する

予後不良間質性肺炎を認める

抗TIF1-γ抗体

DMを呈する.悪性腫瘍の合併リスクが高い.

(出典)レビューブック内科・外科 2018-2019

 

 皮膚筋炎の症状や抗体別の特徴に関して国試のミニマムエッセンス的には上記ということらしいです。イヤーノートよりもまとまっているのがいいですね。

 今回は多発性筋炎という名前についての議論はしませんが、多発性筋炎と皮膚筋炎についての広い記述でした。皮膚筋炎には、抗MDA5抗体だけではなく、抗TIF1-γ抗体陽性など様々な抗体陽性の皮膚筋炎があります。レビューブックの皮膚筋炎の項目の最後に、自己抗体ごとの臨床的意義の記載があります。抗MDA5抗体についての記述もありますが、口腔内潰瘍皮膚潰瘍について特に記載はありませんでした。

 今回のような症例では、国試レベルではやはり臨床像をとらえる上では足らないと感じました。抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に注目して、口腔内潰瘍や皮膚潰瘍、抗体陽性率、疾患そのものの臨床像や抗体陰性の皮膚筋炎との比較をしてみたいと思います。

 

 

 

2.皮膚筋炎抗体陽性率

 今回の深堀りのきっかけのひとつになった皮膚潰瘍抗体陽性率についての文献を探してみました。UpToDateでも調べてみましたが、Overview of and Approach to the idiopathic inflammatory myopathies>Myositis-specific autoantibodiesにそれぞれの簡単な記載はありますが、皮膚潰瘍と抗体についての関係性(陽性率)のような記載はありませんでした。そのため、PubMedで検索します。

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/instance/4404195/bin/nihms667693f1.jpg

・抗MDA5抗体陽性例において皮膚潰瘍は多い(36.1% vs. 4.4%, P<0.0001)

・抗Mi2抗体陽性例において皮膚潰瘍は少ない(5.6% vs. 21.1%, P=0.04)

・抗Ro52抗体陽性例において皮膚潰瘍が多い傾向にある(P=0.07)

(出典)Arthritis Care Res (Hoboken). 2015 May;67(5):667-72. doi: 10.1002/acr.22498.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 152名の皮膚筋炎(DM)の患者におけるコホート研究です。潰瘍のあるDMと潰瘍のないDMにおける、DM特異抗体の陽性率になります。診断への過程において、皮膚潰瘍があれば抗MDA5抗体陽性というわけではないですが、「皮膚潰瘍を認めなければ抗MDA5抗体陰性である可能性が高い」とは言えそうです。

 

 

3.抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎臨床像(次回)

 次回は、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎臨床的特徴(症状・所見)について抗MDA5抗体陽性/陰性での比較をしながら、深堀りしてみたいと思います。

【続き】

mk-med.hatenablog.com

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

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 明けましておめでとうございます。今年も当ブログの記事をお読みくださりありがとうございます。お正月らしい記事ではございませんが、2022年も私なりに楽しいことを深堀りしていこうと思います。

 本年も当ブログをはじめ、何卒よろしくお願い申し上げます。