カフェイン代謝とCYP1A2(シトクロムP450)
~カフェイン中毒からCYP1A2阻害薬・誘導薬まで~
<目次>
CYP1A2はシトクロムP450の一種で、肝臓で薬物などの代謝に働く酵素です。この酵素がニューキノロン系抗菌薬にて阻害されてカフェイン中毒となるという症例があり、とても身近に感じられました。またカフェインと動悸の関係に関しては去年、何かないかな~と実は考えていたところでした。今回はこのCYP1A2とカフェイン中毒のつながりを理解する目的も含め、カフェイン代謝やCYP1A2を中心に深掘りしてみたいと思います。
1.カフェイン代謝
まずは、カフェインの代謝について生化学から調べてみたいと思います。近くにあった生化学の教科書(デブリン生化学)の索引から調べてみたところ、キサンチン誘導体という程度の記載しかなく、特に詳しい記載はありませんでした。そこで文献を探してみました。
<カフェインについて>
- カフェインは、アルカロイドの1種でプリン環を持つキサンチン誘導体である
- カフェインの化学構造 化学式: C8H10N4O2 分子量: 194.19 IUPAC名: 3,7-dihydro-1,3,7-trimethyl-1H-purine-2,6-dione
<カフェイン代謝>
- カフェインの主要代謝ルート(70~80%)は、肝臓の代謝酵素チトクローム(CYP)1A2の働きによるN-3脱ジメチル化で、パラキサンチン(1,7-ジメチルキサンチン)が生じる。他には、テオブロミン(N-4脱メチル化)、テオフィリン(N-1脱メチル化)への代謝もある。
- カフェインの代謝のほとんど(約95%)はCYP1A2によるものであるが、CYP3A4やキサンチン酸化酵素やN-アセチル転換酵素2も一部関与している。
- 血中カフェインの半減期は、約4時間といわれているが個人差がみられ、2~8時間の幅がある。
- 中間代謝物のパラキサンチン、テオフィリン、テオブロミンはさらに代謝され、尿中に排泄される。
- CYP1A2には遺伝的多形があり、カフェイン代謝速度の個人差の原因となっている。代謝速度はAA型>AC型>CC型である。
(出典1)東京福祉大学・大学院紀要 第6巻 第2号(Bulletin of Tokyo University and Graduate School of Social Welfare) pp109-125 (2016, 3)
https://www.tokyo-fukushi.ac.jp/introduction/research/images/bulletin/bulletin06_02.pdf
要するにカフェインはキサンチン誘導体の1種であり、カフェイン代謝のほとんどは肝臓の酵素であるシトクロムP450(CYP)のCYP1A2によると考えてよさそうです。
カフェインやCYP1A2について検索していた際に、カフェイン摂取と胎児(頭周囲長)について日本での調査文献(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28355205/)など、様々なものがありました。カフェインが身近であるがゆえでしょうか。以前にも、カフェインと不整脈の相関関係に関してのJAMAの論文も2021年JAMA人気論文として取り上げました(The Most Talked About Articles of 2021 @JAMA ~米国の死因 第3位COVID-19/コーヒーと頻脈性不整脈の関連~)。カフェインについて興味がある人はいろいろなキーワードとともに検索して調べてみてください。
このセクションの最後にカフェインの構造式も描きつつ、要点をまとめてみました。
カフェイン代謝の9割以上をCYP1A2が担っており、カフェインはキサンチン誘導体であるということを頭に留めつつ、ここで挙がったキーワード、キサンチン誘導体、CYP1A2について順に調べていこうと思います。
2.キサンチン誘導体
カフェインはキサンチン誘導体であるということでした。ここで少し、キサンチン誘導体/カフェインの基本的なことについても調べてみたいと思います。
キサンチン誘導体と聞くと、薬理学で学んだ記憶があるけど…ということで復習してみます。索引で見つかったところを主なものとして考えて調べてみます。すでにご存じの方は、次へお進みください。
キサンチン誘導体 xanthines
- キサンチンのメチル誘導体であるカフェイン、テオフィリン、テオプロミンは大脳皮質および延髄の興奮により、中枢機能および循環機能の亢進を起こす。
- キサンチン類は非選択的ホスホジエステラーゼ阻害薬であり、カフェインは中枢興奮薬、テオフィリンおよび類似薬は気管支拡張薬、強心利尿薬、血管拡張薬として用いられている。
<中枢興奮薬>
作用機序: キサンチンのメチル誘導体であるカフェイン(caffeine)、テオフィリン(theophylline)、テオブロミン(theobromine)は大脳皮質および延髄の興奮により、中枢機能および循環機能の亢進を起こす。
※キサンチン誘導体を含む大脳型興奮薬を精神刺激薬とも呼ぶ。
<気管支拡張薬>
作用機序: ①cAMPの分解酵素であるホスホジエステラーゼに対する阻害作用により、組織中のcAMP量を増加し、このcAMPが気管支平滑筋の弛緩を起こす。β作用薬とキサンチン誘導体との併用は著明な気管支拡張効果を生じる。②キサンチン誘導体の効果には、気管支平滑筋を収縮させるアデノシンA1受容体に対する拮抗作用も加わる。
(出典2)NEW薬理学(改訂第6版), 2011
薬理学の基本的な教科書の更新をしていなかったと認識しましたが、基本的事項の確認ということでお許しください。さらにカフェインについての記載も見つけました。
カフェイン caffeine
- カフェインはコーヒー(0.8%~2.3%)、茶(2~4%)、ココア(0.05%~0,8%)、コーラ(2~4%)など嗜好品として最も多く用いられる中枢興奮薬である。
- また、頭痛薬(特に片頭痛、高血圧性頭痛に有効である)やかぜ薬に配合され、医薬品としても用いられる。
作用機序
- 非選択的ホスホジエステラーゼ阻害薬
- アデノシン受容体拮抗薬
- 中枢神経系:大脳皮質および延髄中枢の興奮を起こす
- 骨格筋:疲労感の衰退、活動性増大が起こるほか、骨格筋に直接作用して、酸素消費、熱産生の増大を起こし、筋小胞体からのCa2+放出によって筋収縮が生じる。
- 心筋・平滑筋:心筋や平滑筋細胞内にcAMPが増大し、心筋興奮(β1作用)や平滑筋弛緩作用(β2作用)が現れる。心機能亢進、末梢血管拡張や気管支筋弛緩作用がみられる。(カフェインと比べてテオフィリン、テオブロミンの方が末梢作用が強い)
- 利尿作用:カフェイン利尿はminor diureticsと呼ばれ、循環系に作用し腎血流が増大して利尿が起こる
- その他:胃液分泌亢進作用(カフェインがホスホジエステラーゼを阻害することによる)
(出典2)NEW薬理学(改訂第6版), 2011
カフェインについても理解が深まったとも思います。大学の2年生の時の試験では、カフェインはどうせ深く出題されないというような意識で見ていたのかもしれません。カフェインの利尿作用はminor diureticであり、機序も主に腎血流増加によるものであることも、新しい発見のようにも感じました。
3.CYP1A2(シトクロムP450 1A2)
次に、CYP1A2について調べていきたいと思います。
CYPというのは肝酵素「シトクロムP450」のcytochromeの頭文字3文字に由来しています。次に、シトクロムP450にはファミリーがあり、CYP1、CYP2、CYP3、…と多数あります。さらにファミリーの下位にサブファミリーがあり、サブファミリーのAとなります。そして、その中の2つ目ということでCYP1A2というように特定されます。
さらにCYP1A2の役割について調べてみます。
ヒト組織のシトクロムP450ファミリーのうちCYP1の主な機能は、薬物およびステロイド(特にエストロゲン)の代謝である。サブファミリー数は3つある。
(出典3)イラストレイテッド ハーパー・生化学 原書30版
ハーパー生化学の表にシトクロムP450ファミリーについてまとめた表があり、それを参考にしました。シトクロムP450ファミリーも10種類以上あります。他のファミリーでは、薬物やステロイドの代謝以外にもアラキドン酸や脂肪酸の代謝、胆汁酸合成、トロンボキサンA2の合成など、様々な役割を持っています。
カフェイン中毒にて今回注目した酵素(CYP1A2)は、カフェイン代謝だけでなく、他の薬物やステロイド(特にエストロゲン)の代謝にも関わっており、同じような状況でカフェインだけでなく、これらの代謝の異常にも関わる可能性があると考えられます。
4.CYP1A2阻害薬・誘導薬
CYP1A2という酵素があれば、その酵素の働きを阻害しマイナス方向に働くもの(阻害薬、阻害食品)があれば、誘導しプラス方向に働くもの(誘導薬、誘導体)があるということで、両方とも調べてみたいと思います。
4-1. CYP1A2阻害薬
それでは、今回はニューキノロン系抗菌薬がCYP1A2の働きを阻害したように、CYP1A2の働きを阻害するような薬や食品について調べてみたいと思います。
<CYP1A2阻害薬>
(出典4)日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)134,285~288(2009)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/134/5/134_5_285/_article/-char/ja/
CYP1A2阻害薬(阻害剤)として、上記のこれらが挙げられるようです。一般名を含め、薬の名前からイメージするのが苦手です。それぞれがどのような薬かを機序・種類程度を紹介いたします。
ニューキノロン系抗菌薬は、殺菌的な作用を示す抗菌薬でDNAの複製を阻害します。
フルボキサミンは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)で、うつ病の治療などに使われています。
メキシレチンは、抗不整脈薬 Ib群に分類され、Na+チャネル遮断薬の一種である。また、原則禁忌であるものの糖尿病性神経障害治療薬としても必要な場合のみに用いられる。
プロパフェノンも抗不整脈薬のひとつである。抗不整脈薬 Ic群に分類されNa+チャネル遮断薬として作用する。
フラフィリンは喘息治療薬のひとつで、気管支拡張作用を有するメチルキサンチン誘導体である。キサンチン誘導体に比べてメチル化により長時間作用する。
α-ナフトフラボンはアロマターゼ阻害薬であり、閉経後の乳がんホルモン療法などに用いられる。男性ホルモン(アンドロゲン)からエストロゲンが合成される際の酵素であるアロマターゼを阻害する。
特に一般名からだけではやはりピンと来ないので、薬は何度も調べるに限りますね(笑)
そして、生化学や薬理学を深掘りした部分(カフェイン代謝の用いるCYP1A2を阻害するキサンチン誘導体)とフラフィリン(メチルキサンチン誘導体)もつながりがありましたね。深掘りしていき、後で偶然にも類似点が見つかったり/つながったりするのが好きで、周りからはムダに見えても、今はつながらなくても”ムダに”深堀ってしまうことがあります。
シトクロムP450というとグレープフルーツジュースが有名かもしれませんね。ということで、薬だけではなく食品も調べてみました。
例えば、「食品・サプリメントと医薬品との相互作用」(内田ら, https://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2007/200709kougi.PDF)では、多数のCYP誘導・阻害をはじめとする相互作用が紹介されています。このように、食品はとても多岐に渡る・複雑に相互しあっていると考えられます。具体例は、CYP1A2阻害薬に留めておきたいと思います。
4-2. CYP1A2誘導薬(誘導体)
次に、プラス方向に働く誘導体(薬の場合は誘導薬)について調べてみます。ちなみに誘導体とは、酵素誘導をもたらすものです。
<CYP1A2誘導体>
~調節因子;AHR~
~調節因子;CAR/PXR~
- カルバマゼピン
- フェニトイン
化学物質の曝露により薬物代謝酵素含量が増加する現象は、酵素誘導と呼ばれる。酵素誘導は、化学物質の曝露後にそれらを速やかに解毒する上では非常に効率的な生体システムである。しかし、酵素誘導は薬物相互作用の原因ともなる。すなわち、酵素誘導が起こると併用薬の代謝が亢進して血中濃度が低下し、治療効果が減弱する可能性がある。
(出典5)ファルマシア 50(7), 654-658.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/faruawpsj/50/7/50_654/_article/-char/ja/
まずは、薬の一般名から簡単に復習します。オメプラゾールもご存じの方も多いと思いますが、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の一種です。
カルバマゼピンは、抗てんかん薬であり、神経細胞のNa+チャネルを阻害します。また、フェニトインも抗てんかん薬の一種になります。
CYP1A2誘導体によってCYP1A2の働きが上がることで、今回でいうところのカフェイン代謝も上がり、カフェイン中毒になりにくくなるということですね。一方で、ここで記載されているように、薬も早く代謝されることが予想されます。
このように調べていくと、例えばニューキノロン系抗菌薬(CYP1A2阻害剤)とオメプラゾール(CYP1A2誘導体)を飲んでいるなど、様々な組み合わせが考えられます。薬物相互作用もとても複雑につながりあって、相互に作用しあっており、興味深い側面を見れたような気がします。
〜まとめ〜
興味深いことを実感できて嬉しい限りですが、このセクションの焦点がぼけてしまったので、CYP1A2阻害薬・誘導薬(誘導体含む)をまとめて終わりにしようと思います。
CYP1A2阻害薬を服薬していた際には、カフェインをはじめとするCYP1A2によって代謝される物質が蓄積されやすくなる(今回はカフェイン中毒となりやすくなる)可能性が上がるということや、
生化学・生理学などへの深掘りの楽しさ、薬物・食品の相互作用の奥深さの一側面だけでも記憶に残れば幸いです。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。