"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎①|皮膚潰瘍と抗体陽性率

MDA5抗体陽性皮膚筋炎①

~基本事項の確認から抗体陽性率皮膚潰瘍

 

<目次>

(次回)抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎 ②抗体による臨床像の比較 - 医学生からはじめる アウトプット日記

 

 先日、New England Journal of MedicineのCase Record of MGHにてMDA5抗体陽性皮膚筋炎の症例がありました。60歳男性、主訴は発熱、倦怠感、関節痛、口腔内潰瘍、皮疹です。

 それを読み進めているうちに肺病変もあり、皮膚筋炎であることは納得なのですが、

”Approximately 50% of cases are associated with oral ulcers, often on the tongue.”

とあり、口腔内潰瘍約50%に見られるという割合に驚きました。他にも皮疹(特に皮膚潰瘍)についても感度を意識したことがないと感じました。

 お恥ずかしい限りですが、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎の臨床症状・所見について調べなおしてみたいと思います。

 

 

1.基本事項(国試レベル)確認

 皮膚筋炎について個人的にセミナー等で学んだこととの境界があいまいなので、まずは国試レベルからの確認です。レビューブックからになります(適宜、下へ飛ばし読みしてください)。

 

多発性筋炎・皮膚筋炎

INTRO.

  1. 多発性筋炎は、原発性の横紋筋の炎症性疾患で、近位筋群の筋痛を伴う対称性の筋力低下を特徴とする疾患である。筋炎症状に加え皮膚症状を伴うものを皮膚筋炎という.
  2. 女性に多く(男女比は約1:3),5-9歳と50歳代にピークがある.
  3. 胃癌(最多)・肺癌などの悪性腫瘍(15-30%の症例で合併、皮膚筋炎で多い),間質性肺炎の合併が多い.

 

症状

  1. 初発症状は,近位筋の対称性の筋力低下が多い.
  2. 症状は筋,皮膚,肺,関節などでみられるが,腎の直接障害はみられない
  3. 筋症状として,近位筋群の筋力低下(早期より歩行不能となる場合もある),筋委縮,筋の自発痛・把握痛,嚥下障害,構音障害がある.
  4. 皮膚症状として,ヘリオトープ疹,Gottron徴候,Raynaud現象,多形皮膚萎縮症などがある.
  5. 関節症状として,多発性関節炎(非破壊性,非変形性)がある.
  6. 肺症状として,びまん性間質性肺炎がある.特に筋症状を欠く皮膚筋炎で重症化する.

 

検査/診断

  1. CK・アルドラーゼ・AST・ALT・LDHなどの酵素↑(治療効果判定や再燃の指標として重要),ミオグロビン↑,赤沈↑,CRP↑を呈する
  2. 筋破壊を反映して尿中クレアチン↑,筋量低下を反映して尿中クレアチニン↓がみられる.筋電図においては,安静時自発電位や筋原性パターン(低振幅、短持続時間),四肢のMRI T2強調像で筋内高信号,筋生検で筋線維の変性・壊死,リンパ球浸潤がみられる.
  3. 間質性肺炎合併例では,免疫学的検査で抗Jo-a抗体含む抗ARS(アミノシルtRNA合成酵素)抗体(+)となることがある

 

PM/DMにおける自己抗体とその臨床的意義

自己抗体

臨床意義

抗ARS抗体

筋炎,間質性肺炎,関節炎,Raynaud現象,発熱を認める

 

抗Jo-1抗体

DMよりPMを呈することが多い

抗Mi-2抗体

間質性肺炎,悪性腫瘍の合併リスクが少ない

ステロイド反応性が良い

抗MDA5抗体

(抗CADM-140抗体)

筋症状を欠く無筋症性皮膚筋炎(CADM: clinically amyopatic DM)を呈する

予後不良間質性肺炎を認める

抗TIF1-γ抗体

DMを呈する.悪性腫瘍の合併リスクが高い.

(出典)レビューブック内科・外科 2018-2019

 

 皮膚筋炎の症状や抗体別の特徴に関して国試のミニマムエッセンス的には上記ということらしいです。イヤーノートよりもまとまっているのがいいですね。

 今回は多発性筋炎という名前についての議論はしませんが、多発性筋炎と皮膚筋炎についての広い記述でした。皮膚筋炎には、抗MDA5抗体だけではなく、抗TIF1-γ抗体陽性など様々な抗体陽性の皮膚筋炎があります。レビューブックの皮膚筋炎の項目の最後に、自己抗体ごとの臨床的意義の記載があります。抗MDA5抗体についての記述もありますが、口腔内潰瘍皮膚潰瘍について特に記載はありませんでした。

 今回のような症例では、国試レベルではやはり臨床像をとらえる上では足らないと感じました。抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎に注目して、口腔内潰瘍や皮膚潰瘍、抗体陽性率、疾患そのものの臨床像や抗体陰性の皮膚筋炎との比較をしてみたいと思います。

 

 

 

2.皮膚筋炎抗体陽性率

 今回の深堀りのきっかけのひとつになった皮膚潰瘍抗体陽性率についての文献を探してみました。UpToDateでも調べてみましたが、Overview of and Approach to the idiopathic inflammatory myopathies>Myositis-specific autoantibodiesにそれぞれの簡単な記載はありますが、皮膚潰瘍と抗体についての関係性(陽性率)のような記載はありませんでした。そのため、PubMedで検索します。

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/instance/4404195/bin/nihms667693f1.jpg

・抗MDA5抗体陽性例において皮膚潰瘍は多い(36.1% vs. 4.4%, P<0.0001)

・抗Mi2抗体陽性例において皮膚潰瘍は少ない(5.6% vs. 21.1%, P=0.04)

・抗Ro52抗体陽性例において皮膚潰瘍が多い傾向にある(P=0.07)

(出典)Arthritis Care Res (Hoboken). 2015 May;67(5):667-72. doi: 10.1002/acr.22498.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 152名の皮膚筋炎(DM)の患者におけるコホート研究です。潰瘍のあるDMと潰瘍のないDMにおける、DM特異抗体の陽性率になります。診断への過程において、皮膚潰瘍があれば抗MDA5抗体陽性というわけではないですが、「皮膚潰瘍を認めなければ抗MDA5抗体陰性である可能性が高い」とは言えそうです。

 

 

3.抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎臨床像(次回)

 次回は、抗MDA5抗体陽性皮膚筋炎臨床的特徴(症状・所見)について抗MDA5抗体陽性/陰性での比較をしながら、深堀りしてみたいと思います。

【続き】

mk-med.hatenablog.com

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

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 明けましておめでとうございます。今年も当ブログの記事をお読みくださりありがとうございます。お正月らしい記事ではございませんが、2022年も私なりに楽しいことを深堀りしていこうと思います。

 本年も当ブログをはじめ、何卒よろしくお願い申し上げます。