"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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読書ログ: 他者と生きる|リスク・病い・死をめぐる人類学(医療人類学)

書籍紹介(読書ログ)

『他者と生きる リスク・病い・死をめぐる人類学

磯野真穂(著)

 

<目次>

 

 

1.書籍紹介

 医療人類学・社会人類学を身近に!ということで紹介させていただきます。人類学者であり、専門が文化人類学医療人類学磯野真穂さんの著書になります。医療関係者にはおそらく身近なところから考えながら読んでいきやすい人類学の1冊として紹介させていただきます。

 

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【こんな人におススメ】
  • 他者」への理解を深めたい
  • 「病気」「健康」について考えてみたい
  • エビデンス以外の患者さんの背景・価値観をもっと考えたい
  • 医療の先にある患者さんの幸せについて考えるきっかけに

 

 家庭医療をテーマとする団体で触れる機会もある人類学について、自ら触れて、考えてみようと思う人向けの書籍です。医療人類学・社会人類学の書籍は他にもあります。しかし、なぜこの書籍かというと、磯野真穂さんの書かれた読みやすい文章であり、様々なテーマ(キーワード)を広くふれ、新書ということでお値段もお手頃ということから読書ログで取り上げさせていただきました。

 

 この書籍の中では、様々な視点から、医学、医療を考えさせてくれるきっかけがありました。医師の専門家としてのエビデンスの理解、解釈、その後の各自への適応、価値観に基づく判断のような科学的な思考とはまた違う、こういう解釈(価値観?)もあるのかというようなものです。EBMのような科学的思考のような医師としてのベースとは別枠というのか、伸びしろとしての興味深さを感じました。

 例えば、次のような「アハ体験」がありました。

 

 医学を含めた学問に対して、「医学という学問はどう生きるべきかを提示しない」として「医学の価値と人間として生きることの価値」を考えるきっかけとなりました。

 

 予防医学は、「病気がもたらす苦痛を除去するため、「大して気にせず」生きている人に「気にさせること」を目的とする医学」という視点を持つことで、予防医学の行き過ぎた場合や、その病気を避けるための対策をとらせるために考えるきっかけをくれます。さらにはリスクとレトリックにおいて、言葉を巧みに使う、直喩を用いる(例:心房細動による脳梗塞の例として長嶋さんを患者さんに用いる)など具体的に考えていきます。

 予防医学は医療でどんどんと注目されているものの、医療費削減の視点はさておき、それ以外に「あなたは糖尿病です。高血圧です。」と診断されて、病人になって薬を飲んで心配して暮らすこと、アドヒアランスを上げることで「病人」となってしまいうること、健康至上主義など、たくさん考えさせられました。

 

 エビデンスとの向き合い方としては、論文に掲載されたデータをそのまま用いる方が科学的であるものの、「診察室における、ある表現の選択理由を考える時、私たちが目を向けるべきは、科学的根拠に基づく治療に込められた願いとその先に描かれる未来である」というような話もあります。「エビデンスによる医学」ではなく、Evidence-Based Medicineというべき部分に関しても、つっこみを入れてくれるような書籍です。

 また正しい知識・理解から、予防上のリスクに関して唯一の正しい理解や対応が存在すると考えてしまう危険性や、さらにはリスクはグラデーションというような部分まで考えるきっかけとなります。その数パーセントの相対的な差は有意差はあっても、「私はどうなの?」という部分やその人の生活背景によっても方針は異なってきて当然だという思いや、「正義」を持つことは危ないという視点も改めて感じました。

 

 さらに、日本人にとっての遺体/死体の価値観、病の起源を語ることの意味、数字でとらえる・平均値でとらえること、時間と「人生の長さ」への考察や、自分らしさ(人間らしさ)など、医療をきっかけに様々なことを考えるきっかけとなると思います。医療の先にある患者さんや周囲の人の幸せって何だろうと考えるきっかけになればと思います。遺体への日本人の価値観からのCOVID-19の際の最後のお別れができないことへの反応や、時間と「人生の長さ」における「どう生きたか、深さは?」というような視点も、病気と接することが日常の医療者が、患者さんと接するときのヒントがあるような気がします。

 定量的なもの(平均値・統計など)から、あえて遠く離れて広い視点で見てみる際の1つとして、休日の読書タイムのような感じがしました。もしよろしければ、手に取ってみてください。

 

 にも、磯野真穂さんの著書『ダイエット幻想』や『なぜふつうに食べられないのか』などの医療と近いお話もあります。前者では摂食障害と他人とのつながり等をテーマにしています。後者は摂食障害を詳しく、拒食症の6名のお話をもとに考えていく書籍で、おわりに書かれていた「食べることも、他者と交わることも、自らの境界の内部に外部を招き入れること、つまり…」という文章や、6名のお話の中で家庭環境にも気が向いたりとしたことを覚えています。ぜひ、自分自身の読んでみたい書籍を見つけてみてください。

 

2.医療人類学に触れてみよう @YouTube

 新書であっても人類学の本を手に取ってみるというのは、それだけでハードルが高いと感じる人もいると思います。まずは、お手軽にYouTubeをちょっと見てみて興味が湧くか試してみるのも良いと思います。

急に具合が悪くなる』宮野真生子・磯野真穂(著)の書籍を元にしたトーク企画(医師の教養チャンネル@YouTube)です。

youtube.com

 第2話から具体的な医療人類学に関する話が始まります。そして、最後には特別編として磯野真穂さんとの対談もあります。

 

 『他者と生きる』だけでなくて、『急に具合が悪くなる』にも興味を持った場合には、これをきっかけとしてどちらから読んでみても良いと思います。

 



P.S. エビデンスについて社会学で深掘り

 少し前に読んだエビデンス社会学 証言の消滅と真理の現在』松村一志(著)も、証拠・証言、エビデンスについて反-反実在論ミシェル・フーコーなども取り上げながら、歴史的な流れを踏まえつつ考えさせられる書籍でした。『他者と生きる』における統計・エビデンスとはまた別視点でじっくり考えさせられました。また、いわゆる健康番組等で用いられているような「証言」レベルエビデンス(科学的根拠)の違いのヒントにもなりました。

 

 

 今回は、医療の周辺も考えるきっかけとなりそうな本の読書ログでした。唯一の結論を出すことではなく、考えることにとても価値があると感じる内容の紹介でした。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンでの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。