"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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小児喘息②:ウイルスによる臨床的特徴の相違と疫学

小児喘息②:ウイルスによる臨床的特徴の相違と疫学

 

1.小児喘息の診断の流れ(@前回の記事)

2.喘鳴の鑑別疾患(@前回の記事)

3.原因ウイルスによる増悪進展の相違(症状等の違い)

4.検出ウイルスの疫学と臨床的特徴

→前回の記事はこちら

小児喘息①:喘鳴と鑑別疾患(乳幼児喘息) - 医学生からはじめる アウトプット日記

 

 

 今回は前回の続きとして、③原因ウイルスによる気管支喘息急性増悪における進展の相違④検出ウイルスの疫学ならびに臨床的特徴について深掘りしていきます。

(※①、②は前回の記事をご覧ください)

 

3.原因ウイルスによる増悪進展の相違(症状等の違い)

 

 後半のテーマがマニアックで個人的には一番盛り上がっています。例えば、感染臓器の特定の出来た後などに、細菌感染症で起炎菌によって勢いが違う(黄色ブドウ球菌は進行が早い等)ことから、起炎菌まで推測できるような超人もいます。ウイルス感染×喘息増悪でも同じ様なことがいえるというような報告があります。

 

<呼吸器ウイルスの種類による幼児気管支喘息急性増悪進展の相違>

【方法】

・1歳から5歳までの気管支喘息急性増悪入院例

・鼻腔ぬぐい液からピコルナウイルス(PI)科のライノウイルス(RV)またはエンテロウイルスD68(EVD68)と、ニューモウイルス(PN)科のRSウイルスまたはヒトメタニューモウイルス(hMPV)のいずれかが単独で検出された症例を対象

・鼻漏と咳嗽を認めた日を第1病日とし、喘鳴確認病日、入院病日、入院日数(LOS)をPI群とPN群で比較

 

【結果】

検出ウイルス別の各項目(平均値±SD)

ウイルス

症例数

年齢 (歳)

発熱症例数

喘鳴確認病日

入院病日

入院日数

RV

8

2.6±1.6

4

1.5±0.5

1.9±1.0

3.3±0.5

EVD68

3

2.3±1.5

3

1.0±0

1.7±0.6

3.3±0.6

RSV

8

2.3±1.7

6

2.5±0.5

3.9±1.0

3.8±1.0

hMPV

7

1.7±1.5

7

2.7±0.8

4.3±1.4

3.7±0.5

 

PI群とPN群の比較

ウイルス

症例数

年齢(歳)*

喘鳴確認病日*

入院病日*

入院日数*

PI群

11

2.5±1.5

2

1.4±0.5

1

1.8±0.9

2

3.3±0.5

3

PN群

15

2.0±1.6

2

2.6±0.6

3

4.1±1.2

4

3.7±0.8

4

*上段:平均値±SD、下段:中央値

 

喘鳴確認病日、入院病日はPI群が有意に低かった(p<0.001)。

・入院日数には差がなかったが、中央値はPI群が1日短かった。

 

(出典)日本小児呼吸器学会雑誌 2021;32(1):47-54

 

 PI群(ピコルナウイルス科)ライノウイルス(RV)またはエンテロウイルスD68(EVD68)の方が鼻漏や咳嗽といった症状出現から喘鳴の出現や喘息増悪までの期間が短く進行が早い傾向があると言えそうです。

 一方で、PN群(ニューモウイルス科)RSウイルス(RSV)またはヒトメタニューモウイルス(hMPV)の方が症状の出現から喘鳴の出現や喘息の増悪までの期間が長く進行がゆっくりといった印象です。

 入院日数には有意差はないものの、多少PI群の方が短い傾向という程度すね。これはウイルスに勢いによる多少の違いはあれど、治療が同じ(全身性ステロイド薬の投与)であるので炎症が治まるのを待つしかないということかもしれません。

 

 さらに、この研究は症例数が少ないにもかかわらず有意差が出たというあたりだけでも驚きでした。症例数が少ないのであくまで報告とした方がよいかもしれませんね。平均値にするには申し分程度かもしれません(平均値にする怖さもさておき)。

 

 喘息の原因となるウイルスはこれらだけではないので、原因ウイルスを経過からだけで想像することはできませんが、原因ウイルス推定のヒントにはなりそうです。さらには年齢や全般的な疫学的なこと、さらには感染状況もヒントになりそうです。例えば、今年の夏前にRSウイルス感染症が流行したように。その地区の感染状況もヒントになってくると思いますので、各自治体のものもチェックしてみてください。

 

 全般的な検出されるウイルスの疫学について調べてみたいと思います。



4.検出ウイルスの疫学と臨床的特徴

 

 小児気管支喘息発作入院例にて検出されたウイルスによって臨床的特徴を調べてみたものです(偶然にも臨床的特徴も新たに分かりました)。

 

<小児気管支喘息発作入院令での検出ウイルスによる臨床的特徴について>

【方法】

・2009~2010年の1年間に喘息発作で入院した小児

・11種類の呼吸器系ウイルスを検索:RV、RSウイルスA、B(RSVA、B)、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)、インフルエンザA、B(FluA、B)。パラインフルエンザウイルス1,2,3(Para 1,2,3)、アデノウイルス(AdV)、ヒト・ボカウイルス(Boca)

・検出ウイルス別に臨床的特徴、その予後について検討:今回多くを占めたRV検出例、RSV検出例、hMPV検出例、ウイルス非検出例を比較

・比較項目:入院時のCRP値、体温、発作強度スコア、肺副雑音持続日数、酸素使用率、ステロイド全身投与使用率

【結果】

表. 全検出ウイルスのまとめ

 

検出例

全数

検出例

ウイルス検出例

123

46%

 

ウイルス非検出例

145

54%

 

RV

88

33%

71%

RS-A

22

9%

18%

RS-B

1

0.4%

0.8%

hMPV

14

5%

10%

FluA

1

0.7%

1.6%

FluB

0

0%

0%

AdV

2

0.7%

1.6%

Parainfluenza 1

1

0.4%

0.8%

Parainfluenza 2

0

0%

0%

Parainfluenza 3

0

0%

0%

Boca

0

0%

0%

混合検出例

6

2.2%

4.5%

f:id:mk-med:20210925005219j:plain

  • (図1)月別には1月以外の年間を通してRVが多く検出されており、hMPVは2~4月に、RSVは12~2月に目立って検出された。
  • (図2)いずれの年齢でもライノウイルスが多く、とりわけ2~5歳時に多かった。

 

<RV検出例とウイルス非検出例での比較>

・肺副雑音持続日数のみウイルス非検出群で有意に長い結果であったが、その他の項目では有意な差はなし。

<RVとRSVとの比較>

・RSV例で肺副雑音持続日数が有意に長く(4.3±1.9日, 6.1±1.3, p=0.01<),また酸素使用率が有意に高かった(49%,80%,p=0.013)。その他項目に差はみられなかった。

<RVとhMPVとの比較>

・すべての項目で有意差は認めなかった。

<予後>

・治療転機が改善した割合,また不変,悪化の割合のそれぞれの傾向はRV検出群とRV非検出群で全く有意差を認めなかった。

・喘息発作入院後の3年聞での入院反復率(RV検出群1841例、RV非検出群2469例)やICSを使用している割合(RV群22/41例、RV非検出群40/69例)についても有意差は認めなかった。

・RVの検出の有無にかかわらずアトピー型と非アトピー型で3年後の予後を比較すると非アトピー型では治療内容がStep up(悪化)となる例が有意に少なかった。

 

(出典)日本小児呼吸器学会雑誌 2016;27(2)130-136

 

 喘息患者の約半数からウイルスが検出されていなかったのはアトピー関連の喘息もあるからであると容易に想像がつきます。検出された患者では、ライノウイルスが季節や年齢に関わらず多く、さらにとりわけ2~5歳で多かったということですね。ライノウイルスということは、先ほどの急性増悪の進行度合いでいうところのPI群(ピコルナウイルス科)で急性増悪の進行は早めの臨床経過(増悪の進展)を呈するものは多そうであると考えるできそうです。

 この論文では、検出数の多かったライノウイルスを軸に比較をしていて、肺副雑音持続日数でもRVよりRSウイルスの方が長く、ひとつ前の論文と類似していると思います。

 

 これをきっかけに、ぜひ喘息でもウイルスの有無やウイルスの差異による臨床像の違いというマニアック(?)なところにも興味を持て貰えればと思います。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

小児喘息①:喘鳴と鑑別疾患(乳幼児喘息)

小児喘息①:喘鳴と鑑別疾患(乳幼児喘息)

 

1.小児喘息の診断の流れ

2.喘鳴の鑑別疾患

(3,4は次回の記事を予定)

3.原因ウイルスによる増悪進展の相違(症状等の違い)

4.疫学:検出ウイルス(+臨床的特徴)

続編はこちら

→ 小児喘息②:ウイルスによる臨床的特徴の相違と疫学 - 医学生からはじめる アウトプット日記

 

 喘鳴と聞けば気管支喘息というような診断が頭に思い浮かぶことが多いと思います。小児喘息(特に乳幼児喘息)の診断について調べることがありました。『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020』を見ていたところ、興味深い発見がありました。喘鳴の鑑別疾患だけでなく、ウイルス誘発性喘息のウイルスごとの症状(その疾患の臨床経過のゲシュタルト)の違いも見つけることができました。



1.小児喘息の診断の流れ

 

 小児喘息(特に乳幼児)の診断の流れについて調べていたところ、『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020』に乳幼児喘息の診断のフローチャートがありました。喘息の診断の流れや喘息の病態による種類(IgE関連、非IgE関連)をこの先の内容のために大枠だけでも紹介しようと思います。

 

f:id:mk-med:20210923173541j:plain

 

 乳幼児の病態の多様性を考慮し、IgE関連喘息(アレルゲン誘発性/アトピー型喘息)と非IgE関連喘息(ウイルス誘発性喘息など)に分類する。

 非IgE関連喘息は、ウイルス感染、タバコ煙や冷気への暴露などによって引き起こされる喘息を含み、特に反応性気道疾患(Reactive Airway Disease; RAD)の占める割合が高い。

(出典)『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020』

 

 ここでフローチャートを確認すると、鑑別疾患とあり乳幼児期の喘息のpivot and clusterを思い浮かべたのですが、実際には急性喘鳴反復性喘鳴の鑑別を考えるようです。そもそも喘息の原因も多様であり、奥深そうです。



2.喘鳴の鑑別疾患

 それでは鑑別疾患やその鑑別ポイントについて具体的に挙げていきたいと思います。

 

 乳幼児喘息では、鑑別すべき喘鳴を呈する疾患が学童期以降とは異なる。鑑別診断は急性喘鳴(基本的に1回だけのエピソード)と反復性喘鳴(同一疾患の複数回のエピソード)の2群に大別して考える。

 初めて喘鳴をきたした場合は急性喘鳴に分類された疾患を中心に行う。

 

表1. 乳幼児喘息と急性喘鳴疾患の鑑別

疾患

喘息との鑑別に有用な症状・特徴

診療所で可能な検査

2次病院以降で可能な検査

急性鼻副鼻腔炎

<頻度:高>

覚醒時・昼間の咳嗽

副鼻腔Xp、SpO2

副鼻腔CT、MRI

気管支炎・肺炎

<頻度:高>

発熱、湿性咳嗽

胸部Xp、SpO2、血液抗体価検査、鼻咽頭病原体抗原迅速検査

胸部CT

急性細気管支炎

<頻度:高>

発熱、鼻閉、鼻汁、帆入力低下(1歳未満に多い)

RSウイルス迅速検査、ヒトメタニューモウイルス迅速、胸部Xp、SpO2

胸部CT

食物アレルギーなどによるアナフィラキシー

<頻度:低>

全身性に複数の臓器(皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、循環器など)にアレルギー症状が出現

SpO2

気道異物

<頻度:低>

突然の咳嗽、豆類などの接種歴の問診と聴診(3歳未満に多い)

吸気・呼気の胸部Xp、SpO2

胸部CT、気管支鏡

腫瘤による気道圧迫

(縦隔腫瘍など)

<頻度:稀>

胸痛、肩痛、時に嚥下障害、体位による症状の変化

胸部Xp、SpO2

胸部CT、MRI、気管支鏡

 

 急性細気管支炎は冬期に流行することが多く、その大半はRSウイルス感染によるが、その他にもパラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモシスチス、アデノウイルス感染などでも発症する。

 

表2. 乳幼児喘息と反復性喘鳴の疾患の鑑別

疾患

喘息との鑑別に有用な症状

診療所で可能な検査

2次病院以降で可能な検査

慢性副鼻腔炎

<頻度:高>

慢性咳嗽、後鼻漏

副鼻腔Xp、SpO2

副鼻腔CT、MRI

鼻・咽頭逆流症

哺乳/食事摂取後の咳嗽

胸部Xp、SpO2

嚥下造影

胃食道逆流症

<頻度:高>

昼間の活動中の乾性咳嗽、夜間や臥位での咳き込み

胸部Xp、SpO2

上部消化管造影、24時間pHモニタリング、上部消化管内視鏡検査

慢性肺疾患(新生児期の呼吸障害後)

<頻度:高>

問診による早産児、低出生体重児の既往、乳児期早期の喘鳴

胸部Xp、SpO2

胸部CT

気管・気管支軟化症

<頻度:低>

乳児期早期の喘鳴、繰り返す肺炎、チアノーゼ/窒息発作

胸部Xp、SpO2

胸部CT

先天異常による気道狭窄(血管輪など)

<頻度:低>

乳児早期の喘鳴

胸部Xp、SpO2

胸部CT、MRI、気管支内視鏡

閉塞性細気管支炎

<頻度:稀>

膠原病、臓器移植、造血幹細胞移植の既往

胸部Xp、SpO2

胸部CT

気管支拡張症

<頻度:稀>

慢性咳嗽、喀痰、血痰、胸痛

胸部Xp、SpO2

胸部CT

先天性免疫不全症(反復性呼吸器感染症

<頻度:稀>

発熱、易感染

胸部Xp、SpO2

遺伝子検査

心不全

<頻度:稀>

動悸、浮腫、尿量減少

胸部Xp、SpO2、心電図(ECG)

超音波検査

 

(出典)『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020』

 

 成人の咳嗽の鑑別時にも考えるような、副鼻腔炎、胃食道逆流症、心不全というような呼吸器系以外の疾患もありますね。検査に関しては概ね納得ですが、今後はタブレットスマホ等で心臓超音波検査(心エコー)等もできるようになりそうですので、医師によっては診療所レベルでも心エコーが増えるかもしれないと感じました。

 ここで喘息の鑑別疾患を考えたのですが、そもそもの喘息の典型的な臨床症状・所見も調べてみたいと思います。

 

<喘息の臨床像>

Clinical Manifestations

・喘息の慢性的な症状として、間欠的な乾性咳嗽や労作時の喘鳴が一般的

・年齢の高い小児や成人では、呼吸困難感や胸が詰まるような胸部不快感を伴うことがある一方、年齢の低い小児では、間欠的な全般的な胸痛を伴う事の方が多い

・呼吸器症状は夜間、睡眠に伴って増悪することがあり、とりわけ呼吸器感染症やアレルゲン吸入により増悪が遷延する。

・小児の場合、日中の症状はたいてい身体活動(エクササイズ)、遊びに関連することが多い。

・その他の小児の喘息症状は非特異的であり、身体活動の自己制限や全身倦怠感であり、同年齢の子どもに身体的活動においてついていくことが難しく感じる

・喘息症状は様々な一般的な活動や暴露によって生じる。例えば、身体活動、換気亢進(笑う等)、冷たい・乾燥した空気が挙げられる。

 

(出典)Nelson Textbook of pediatrics 21 EDITION.

 

 誘因や夜間(→副交感神経優位)の増悪等の何かしらあると喘息であると分かりやすそうです。他にも吸入薬に反応することやアトピー素因などのリスクファクターもヒントになると思います。

 

 呼吸器感染症と喘息の関係について詳しいところは議論の的ではありますが、『ウイルス誘発性喘息におけるウイルスの種類による幼児気管支喘息の急性増悪進展の相違』という、原因となったウイルスの違いによる臨床経過の違いを比較した面白い文献も発見しました。

 次回はそこまで深掘りしてみたいと思います。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

【続編はこちら】

mk-med.hatenablog.com

認知症の特徴・鑑別 + Treatable DEMENTIA

認知症の原因・特徴と鑑別

 

<目次>

 

 「物覚えが悪くなった」といえば、いわゆる認知症(最も多いアルツハイマー認知症)でしょうか?認知症にも様々な種類があったり、他の治療可能な疾患によって「いわゆる認知症」のような症状が生じることがあります。アルツハイマー認知症レビー小体型認知症をはじめとするいわゆる認知症以外にも治療可能な認知症があります。

 今回は、意外と外来でパッと自分で想起できないという恥ずかしい経験から、簡単な内容ですが改めてまとめてみることにしました。



1.認知症の定義

 「認知症とは?」と聞かれると、個人的にはしっかりと答えることができないのが定義です。ハリソン内科学で調べてみました。

 

 認知症は日常生活機能を障害する後天的な認知機能の低下として定義される。

 時間や場所など明確な出来事を想起する能力であるエピソード記憶が通常失われ、70歳以上の人の10%、85歳以上の人の20~40%が臨床的に明らかな記憶障害を有する。記憶のほかに、認知症は言語、視空間、習慣や行動、計算、判断および問題解決能力などの知的機能も障害される。多くの認知症で神経精神医学的かつ社会適応能力の障害も出現し、抑うつ、無感情、不安、幻覚、妄想、興奮、不眠、睡眠障害、衝動、脱抑制をきたす。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 定義は、あくまで「日常生活機能を障害する後天的な認知機能低下」であり、通常記憶が障害されるということなんですね。ハリソンの書き方は、やはりしっかり読むものとして記述がしっかりしていると感じます。



2.治療可能な認知症 ~Treatable DEMENTIA~

 認知症を疑った際に、中には治療可能な疾患が原因で認知症となっていることがあります。まずは安易に認知症とは決め切らずに、治療可能な認知症を除外してみることが大切です。認知症の英語dementiaの頭文字をネモニクスとして覚えました。

 

表1.治療可能な認知症 treatable DEMENTIA

Depression & Drugs

うつ病、薬剤

Endocrine

副腎不全、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症・低下

Metabolism

ビタミンB1・B12・葉酸ニコチン酸欠乏、低血糖、肝性脳症

Electrolyte

電解質異常:特にNa, Ca異常

Neurosyphilis

神経梅毒

Transient epileptic amnesia

一過性てんかん性健忘

Intracranial lesion

水頭症、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍

Alcohol

アルコール中毒

(出典)Hospitalist VOL.7 NO.1 2019.3

 

 ハリソン内科学には、プリオン病、ハンチントン病、サルコイドーシス、血管炎やWison病などのまれな認知症の原因も多数列挙されていました。ネモニクス程度では物足りない方はぜひ、ハリソン内科学をお読みください。



3.認知症ごとの特徴と鑑別

 国試ではアルツハイマー認知症レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(Pick病含む)、血管性認知症の大きく4つを習うと思います。ここでは外来に認知症疑いの人が来たと仮定して、その場でどのような症状や所見があればどの認知症らしいかというところを中心に患者像をつかんで鑑別する目的で簡単なレベルでまとめてみたいと思います。

 

表.主な認知症の比較

 

アルツハイマー

レビー小体型

前頭側頭型

血管認知症

主な障害部位

頭頂葉

・側頭葉

後頭葉

前頭葉

・側頭葉

・様々な部位

前頭葉の障害が多い)

特徴的な症状

・記憶障害

見当識障害

・物盗られ障害

・幻視

・妄想

・パーキンソニズム

抗精神病薬に過敏性あり

・REM睡眠行動異常

・人格変化(脱抑制、感情鈍麻、自発性の低下など)

・自発後の減少

・行動異常(情動行動)

・滞続言語

・感情障害

・情動失禁

・まだら認知症

人格変化

晩期に崩壊

晩期に崩壊

早期に崩壊

保たれる

病識

なし(初期にはあり)

なし(初期にはあり)

なし

あり

経過

緩徐、常に進行

緩徐、常に進行

緩徐、常に進行

段階的に進行

基礎疾患

特になし

特になし

特になし

男性に多い

男女比

女性に多い(2:1)

男性に多い

特になし

男性に多い

CT/MRI所見

海馬の萎縮

→大脳の全般的な委縮

海馬の萎縮は比較的軽度

前頭葉と側頭葉の萎縮

脳実質内に脳梗塞

PET/SPECT所見

側頭葉、頭頂葉の血流・代謝低下

後頭葉の血流、代謝低下

前頭葉、側頭葉の血流、代謝低下

・梗塞部位に応じた血流、代謝低下

病理所見

・神経原線維変化

・老人斑

・レビー小体

・Pick球

・梗塞巣など

蓄積タンパク

アミロイドβ(Aβ)

・α-シヌクレイン

・タウ蛋白

TDP-43

(出典)病気がみえる vol.7 脳・神経(第2版)

 

 国試レベルでの比較で、どんな項目があったかは再想起できるように頑張ります。

 実際は各認知症ごとの特徴的な症状なども、すべての症状が完成する前に病院を受診することがほとんどで、それぞれの症状等がみられる順番やみられる頻度等があるはずです。そのあたりを少し深堀りします。

 

アルツハイマー認知症の症状のゲシュタルト

 アルツハイマー認知症の認知機能障害は記憶障害ではじまり、ついで言語障害や視空間認知機能障害を生じるという特徴的なパターンを取る傾向にある。

 しかし、アルツハイマー認知症患者の約20%は、失名辞、構成能力の障害、道順を説明できないなど、記憶障害以外の症状で発症する。また、初期症状として、高次視覚処理機能障害やlogopenic型進行性失語が現れ、その後何年も経て記憶や他の認知領域の障害に進行する患者や、非対称的な無動・筋硬直・ジストニア症候群あるいは遂行機能障害を示す患者もいる。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

レビー小体型認知症の症状のゲシュタルト

 認知症や神経精神症状がParkinson症候群に専攻して、または同時に発症する場合はレビー小体型認知症と呼ばれる。レビー小体型認知症の臨床症候は、幻想、パーキンソン症候群、覚醒レベルの動揺、転倒、そしてしばしばREM睡眠行動異常症で特徴づけられる。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

前頭側頭型認知症のゲシュタルト

 家族型および孤発性前頭側頭型認知症でみられる臨床像はきわめて多様であるが、中隔となる臨床症候群は3つある。これら3つの臨床症候群ではすべて運動ニューロン疾患を伴う可能性がある。

① 行動亜型(behavioral variant)は最もよくみられる前頭側頭型認知症で、反社会的行動や感情の障害がみられ、無関心、脱抑制、脅迫的行動、共感の欠如、過食、そして常にではないがしばしば遂行機能障害を伴う。

② 意味型(semantic variant)では、単語や物品の意味理解、相貌認知、感情の障害が徐々に進行していく。

③ 非流暢性/失文法性(nonfluent/agrammatic varient)では、高度な発話障害を生じ、しばしば運動性優位の言語障害を伴う。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

血管性認知症の症状のゲシュタルト

 典型的な症例では、神経症状の悪化が断続的にみられる。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 教科書で各疾患のゲシュタルトを作ることの大切さと、国試レベルの内容を頭からすらすらと想起できることの大切さの2つを再認識できました。今回はメジャーな疾患であったためか、教科書の記述も詳しく書かれていました。拙い今の私のレベルではReview Articleまで読みに行く必要性はあまりなさそうでステップを踏んでいきたいと思います。

 

 実際の診察では、身体所見としてレビー小体型認知症パーキンソン症候群(パーキンソニズム)の神経所見もとれるようになりたいものです。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 

 今回の認知症についての定義や疾患像(ゲシュタルト)をはじめ、いつ読んでも発見のあることが多いハリソン内科学だと感じます。読者レビューをはじめ気になる方はチェックしてみてください。

 

新型コロナワクチン 3回目接種(ブースター)のエビデンスを探して

新型コロナワクチン 3回目接種(ブースター)のエビデンスを探して

 

<目次>

 

 今回も新型コロナウイルス感染症ネタです。日に日にエビデンスが増えたりして「今はこうらしい」と言う程度の知識しかないのを恥ずかしく思います。

 先週(2021年9月)のニュースにて、日本でも3回目のコロナワクチンの接種の兆しとも言えるような報道がありました。その時に3回接種(ブースター)に関するエビデンスをなかなか探すことができませんでした。また、しばらく後に文献検索してみたときにはいろいろな新たなエビデンスが登場していると思いますが、「今は?」ということでその時に見つけた、テッパンのNew England Journal of Medicine(NEJM)の論文などを紹介したいと思います。

(※あくまで抄読会のようなこんな文献があり、少し考えてみましたという程度でこの論文が正しい・間違ていると推奨するものではありません。また、新たなエビデンスも出てきますので執筆時と考えも変わってい行くと考えられますので、最新の情報をご確認ください。)



1.3回目接種による罹患率と重症化率の比較

 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、NEJMからイスラエルのデータベースを使いワクチンを3回目接種(ブースター)の有無による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患率ならびに重症化率を比較したものです。

 

【方法】

イスラエルの保健省のデータベースによる後ろ向き研究

・60歳以上で少なくとも5か月以上前にファイザー製(BNT162b2)ワクチンを2回接種した1,137,804人

・一次分析:3回目接種を受けた人(ブースター群)*と受けていない人(非ブースター群)の感染率と重症化率の比較

・二次分析:3回目接種4~6日後と12日以降の感染率の比較

*3回目接種を受けてから12日以降

 

【結果】

一次分析

f:id:mk-med:20210926051651j:plain

・感染率の率比**:11.3

・感染率の差異:86.6/100,000人日

・重症化率の率比**:19.5

**いずれも非ブースター群/ブースター群

 

二次分析

・感染率の率比(4-6日/12日以降):5.4(95% CI, 4.8 to 6.1)

 

3回目接種後の感染率比の推移

f:id:mk-med:20210926051718j:plain

(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 15. doi: 10.1056/NEJMoa2114255.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 明らかに3回目接種が効果的と言わんばかりの感染率や重症化率の率比でしたね。あくまでRatio(比)なので大きく見える面もあると感じたので、絶対値にも目を向けて見ました。絶対値的な差異は86.6/100,000人日でした。1日あたり10万人で約87人…、これは効果的と取るか、効果的でないと取るかは難しいと感じました。各個人のリスク、医療状況等によって変わってくると思います。

 さらにこの論文中に「中和抗体価がブースター接種後、数日で上昇する研究がある***」という記述もありました。数日後に12日後と同程度まで抗体価が挙がっているのでしょうか?ブースター接種後に抗体価が上がっていることに注目してブースター接種後4~6日後と、ブースター接種後12日後以降で比較するということをしていました。しかし、「ただ抗体価が上がっているのであれば感染しにくい」という仮説を立ててれば、感染率に大きく差があること(率比5.4)はあまり腑に落ちないので、抗体価が実際にどれくらいかについても深掘りしてみたいと感じました。

 

(***の元の出典 2021年7月28日引用)https://investors.pfizer.com/events-and-presentations/event-details/2021/Pfizer-Quarterly-Corporate-Performance--Second-Quarter-2021/default.aspx

 

 他にもブースター群非ブースター群では、ブースター群に男性が多く(49% vs. 42%)、general jewish populationが多く(92% vs. 81%)、70歳以上が多い(58% vs. 46%)等の差異がありました。70歳以上が多いことは、むしろもっと効果が高いのか、外に出ないから感染しにくいのかなんて考えてしまいます。さらには健康意識の違い等、両群の差異による影響は多少はありそうです。



2.3回目接種による中和抗体価(GMT)@NEJM correspondence

 

 先ほどの論文の「ブースター接種後4~6日後の群と12日以降の群で感染率に差がある」こと、「ブースター接種後数日で中和抗体価が上昇する」ということの間が本当に中和抗体価の量による直線的な差による比例的なものなのか疑問に感じました。

 さらにはブースター群と非ブースター群の感染率や重症化率中和抗体価中和抗体価の量による直線的な差による比例的なものなのか疑問に感じました。、ブースター接種(3回目)を含め中和抗体価の量についての文献を調べてみました。

 

【方法】

  • ファイザー製ワクチン(BNT162b2)2回目接種の7.9~8.8か月後に、ブースター(3回目)接種を受けた人
  • 18~55歳の11名
  • 65~85歳の12名
  • 中和幾何平均抗体価(GMT: geometric mean titer):1回目接種前、2回目接種7日後、2回目接種1か月後、3回目接種前、3回目接種7日後、3回目接種1か月後に測定

 

【結果】

ワクチン接種と中和抗体価の推移

f:id:mk-med:20210926051746j:plain

(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 15. doi: 10.1056/NEJMc2113468.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 今回は、全体的な接種後の時間経過と抗体価の傾向、特に2回目接種後から3回目接種前、3回目接種後の抗体価の値の変化が知りたいので変異(variant)ごとの違いについては特に触れずに行きます。さすがに、3回目接種後4~6日後と12日後の抗体価に近いものを比較することはできませんでした。前述の論文の一次分析にあたる3回目接種(ブースター)の有無による抗体価の違いに近そうなところをチェックしてみます。

 2回目接種7日後から3回目接種前までは抗体価が徐々に下がってきています。3回目接種がなければ、3回目接種前の抗体価もしくはそれより抗体価は低いと考えれます。3回目接種前と3回目接種後を比較すると、明らかに3回目接種後には抗体価が増えています。一方で、抗体価が増えたほど3回目接種(ブースター)の感染率を下げている考えにくい状況と考えられます。

 やっぱり、Covid-19に対する中和抗体価が減ったことと獲得免疫の程度が直線的な比例的な関係にはないと感じられてほっとしています。



3.その他のCOVID-19関連の情報サイトの紹介

 もちろん、一次文献を探して読むことは大事だと感じます(このブログにとどまらず、必ず原著を読んでください)。でも時間がなかったり、まとまった情報を見た方が全体像が掴みやすい、世界の動向が知りたい等があると思います。知っているもののうち、一部のメジャーどころを紹介します。

 

 

 

 

 厚生労働省

 

  エビデンスを読んでみる事とは違うものありますが、あくまで基本的には信頼できる(信憑性のある)と考えて良いと願いたい情報が載っていると思います。私のブログ含めもあくまで情報や論文の存在を知るきっかけとして、その後はぜひ一次文献をチェックしてみてください。

 

 そして、生物医学的な視点(例えば、接触回避)だけでなく、精神面への影響、経済への影響などにもよって、行動制限などの国民全体へのコロナ対策は変わってくるでしょう。

 

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

【新型コロナワクチン関連の記事】

新型コロナワクチンの安全性(有害事象)@NEJM

mk-med.hatenablog.com

医学書: ハイパーソノグラフィーK ~マンガから心エコーを学ぼう~

医学書ログ(書籍紹介)

『ハイパーソノグラファーK ①』

原作:山田 博胤、小谷 敦志
漫画:小玉 高弘

 

 本日紹介するのも良い意味で風変わりな学習教材です。マンガを通じて1時間足らずで心臓超音波検査を身近に感じる学習用の漫画です。1時間足らずで一読できます(30分で読んで、付録の心エコーの動画を会員登録してみました)。

 

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51hf3xkN8gL._SX350_BO1,204,203,200_.jpg

 

【こんな人におススメ】

  • 心エコーを心理的身近に感じたい
  • 楽しみながら学びたい
  • 教育方法/手段の参考として

 

 この本(漫画)のお勧めポイントは「漫画であり手軽である」ということです。放射線科でのお話を中心とした『ラジエーションハウス』よりはストーリー性は少なめで教材寄りといった印象ですが、この手軽さには目を見張るものがあります。

 医学部3年生あたりではじめて循環器や心エコーを学ぶ際に1回でもこのような教材(漫画)に触れて、実際に心エコーをやってみたい、もっと学びたいと思えれば成功かと思います。そういう意味でも教育方法・手段の参考にもなると思います。心エコーの動画も付録(オンライン上)であり、最近の超音波関連の参考書と同程度のクオリティとなっている面もあります。

 

 実際にマンガ内で紹介されている心エコー動画(オンライン)は次の通りです。いずれの動画も10秒にも満たない簡単に閲覧できるものです。

  • 傍胸骨左縁長軸断面(正常)
  • 傍胸骨左縁短軸断面(正常)
  • 下壁梗塞左室短軸断面
  • 下壁梗塞心尖部二腔断面
  • 腹部大動脈解離(長軸)
  • 腹部大動脈解離(長軸)
  • 腹部大動脈解離(短軸)

 

 漫画のコンテンツの欠点は、漫画の中にいわゆる解説的な医学的なことをまとめたページや漫画用の印刷ではない心エコーの解説等がないこと、付録の動画も心エコーの動画のみで、実際の心エコーの当て方等の初歩的な部分がないことでしょうか。他にも続編が出ていません(シリーズ化されていない?)。心エコーを学んで終わりというあたりも、腹部エコー編などの次に続かないところが悔しいと思います。その辺りは自身で穴埋めするエコーの本が必要になると思います。

 しかし、新たな試みの教材として今後に期待したいと思います。学生であれば、大学の図書館で借りるというような楽しみ方も良いと思います。起爆剤となれば、後は自分自身で学び始めるという面があるので学ぶきっかけづくりとして大切であると思います(むしろ、そこが大切であると思います)。

 さらにこの本でエコーをかじり、ポケットエコーを含めてもっと練習したいというやる気に応えられる環境が欲しいと思いました(本は個人で簡単に買うことが出来ますが、エコーの機器はハードルが高いです)。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

小児がんと急性リンパ性白血病 ~ゴールドリボンをきっかけに~

小児がん急性リンパ性白血病
ゴールドリボンをきっかけに~

 

<目次>

 

 9月9日に、多くはないものの日本各地の様々な建物が金色にライトアップされるということがありました。「ゴールドリボン」という小児がんの啓発によるものです。これをきっかけに小児がんについて調べてみたいと思います。

 

1.ゴールドリボンとは

 今月は「ゴールドリボン 世界小児がん啓発月間」ということで、9月9日などには全国のお城やタワーなどの様々な施設が金色にライトアップされるということがありました。

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金色にライトアップ

 「ゴールドリボン」とは何のことかご存じでない人も多くいるかと思います。一方でピンクリボンなら乳がんで知っているけど、という人も多いと思います。小児がんの啓発カラーがゴールド(金色)であり、それにちなむものです。

 小児がんの支援団体はたくさんありますが、今回(今月)は小児がん啓発月間であり、ゴールドリボンということから、ゴールドリボンにちなむ団体を紹介させていただきます。

 

『認定NPO法人 ゴールドリボン・ネットワーク』 

www.goldribbon.jp

 こちらでは、小児がんの患者さんへのニット帽やマスクのプレゼント、交通費等補助制度、奨学金制度(給付型)、イベント等を行っています。もちろん、ここだけではないですが、ホームページの「応援する」というボタンからクレジットカードで簡単に寄付することができました。寄付をすると「ゴールドリボン」のピンバッジもいただけるようで到着が楽しみです。

 今回はこのゴールドリボンの啓発月間ということで、小児がんについて調べてみたいと思います。

 

 

2.小児がん:日本の疫学急性リンパ性白血病まで~

 UpToDateではアメリカでの罹患率などの疫学となってしまうので、日本の疫学を探しました。小児からAYA世代(adult young adulthood世代)の0歳から39歳までに診断された人の疫学になります。(今回は小児がんということで14歳までを中心に扱います)

 

日本における0~14歳の悪性腫瘍の粗罹患率(100万人年あたり)

  • 男性:120.2
  • 女性:105.1
  • 男女:112.8

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0~14歳における悪性腫瘍の種類

 最も多いのが白血病(38.1%)、次いで中枢神経腫瘍(16.1%)、リンパ腫(9.2%)、胚細胞性腫瘍ならびに性腺腫瘍(7.6%)、神経芽細胞腫(7.4%)であった。

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(出典)Jpn J Clin Oncol. 2017 Aug 1;47(8):762-771. doi: 10.1093/jjco/hyx070.

 

 小児がんにおいて白血病が最も多いようです。とりわけ、急性リンパ性白血病(ALL)が内訳としても多いです。今回はこの中でも多い白血病罹患率について年齢ごとの変化を深掘りします。(中枢神経腫瘍、リンパ腫、胚細胞性腫瘍、骨肉腫などの他の腫瘍も出典の文献に記載があるので気になる方はご覧ください)

 

年齢(群)ごとにおける白血病ならびにリンパ腫の罹患率の変化

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(出典)Jpn J Clin Oncol. 2017 Aug 1;47(8):762-771. doi: 10.1093/jjco/hyx070.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 小児がんには様々な腫瘍があり、年齢により好発のものとそうでないものがあることが具体的に分かりました。では、小児がんに気がつくにはどうしたらいいのかについて考えてみたいと思います。

 

 

3.小児がんの症状や所見急性リンパ性白血病まで~

 小児がんに気がつくためにはどのような症状があるかを調べてみました。

警告症状

 小児がんを疑う症状には次のようなものがある。詳細な病歴聴取が第一歩となり、主訴が大切である。

 

  • 説明のつかない顔色不良、元気のなさ
  • 異常なしこり、腫瘤、腫脹
  • 説明のつかない発熱、症状の持続
  • 容易に生じるあざや出血
  • 長期的または継続的な身体の痛み
  • 跛行
  • 頻繁な頭痛(とりわけ朝に生じやすく嘔吐を伴う)
  • 突然の聴力または視力変化

(出典)UpToDate > Overview of the presenting signs and symptoms of childhood cancer, last  updated: Jun 09, 2021.

 

 例えば、貧血による顔色不良や元気のなさ、血小板減少による易出血性によってあざや出血(例:点状出血)は白血病でも見られますね。今回は、疫学的にも多い急性リンパ性白血病(ALL)の臨床所見について深掘りしてみます。急性リンパ性白血病症状や所見のあたりのゲシュタルトづくりが出来れば思います。

 

受診時の最も一般的な小児のALLの臨床所見

・肝腫大(64%)、脾腫大(61%)
 →臓器腫大は食欲不振、体重減少、腹部膨満、または腹痛として現れる

・リンパ節腫脹(約50%)

・発熱(≧50%):感染または腫瘍熱

・血液学的異常

 >出血(約50%):点状出血や紫斑、診断時の血小板数<100,000/microL(約75%)

 >貧血(≧50%):蒼白、倦怠感

 >白血球数:正常または増加(WBC<10,000/microLが約50%、>50,000/microLが20%)

・筋骨格系の痛み(43%)

 

一般的ではないALLの臨床所見

・頭痛(<5%)
 →白血病が中枢神経に浸潤した場合は頭痛、嘔吐、傾眠、項部硬直、稀に脳神経異常を伴う

・精巣腫大(<1%):左右差に注意
 ※白血病の再発の際には男児で最大10%に達する

・縦隔内腫瘤による上大静脈症候群(SVCS)、気管の圧迫
 →疼痛、嚥下障害、呼吸困難、頸部・顔面・上肢腫脹

 

(出典)UpToDate >Overview of the clinical presentation and diagnosis of acute lymphoblastic leukemia/lymphoma in children, last  updated: Apr 13, 2021.

 

 ALLの際に、稀ながらも精巣腫大も生じうるというのは大発見でした。ALLの浸潤・転移によるものだそうです。ALLと分かった際には身体所見としても確認を忘れないようにしたいですね。

 

 この先として小児科の疾患の深掘りか、プライマリケアでの白血病の手がかりや全体像などが気になります。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

がん患者の発熱の原因 ~疫学から事前確率を意識する~

がん患者白血病患者発熱の原因

~疫学から事前確率を意識する~

 

<目次>

 

 少し前のことになりますが、急性白血病の患者さんで発熱性好中球減少症(febrile neutropenia; FN)があり、血液培養は陰性であり他にも疑わしい熱源がなく、芽球割合の変化からも原因が腫瘍熱であろうということがありました。

 『発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン(2012年)ではMASCCスコアやキノロン予防投与の有無によって、静脈注射や経口、抗菌薬の種類の差こそあれ、抗菌薬が投与されます。もちろん、好中球の数が少なく易感染状態であり、先手先手に対応していくのは納得です。一方で、そのうちどれくらいの割合でどのような感染症が原因であるかといったことが気になりました。今回はそこを深掘りしてみたいと思います。

 

1.白血病の感染源・発熱原因

 "Causes of fever in cancer patients (prospective study over 477 episodes)"というタイトルのorginal articleを見つけました。症例の件数的には参考程度ですが、その中で白血病の患者における感染症の原因の件数をまとめたものがありました(後で固形癌含め詳しく扱います)。

 

白血病を伴う患者における感染症の原因

原因

症例数

割合 (%)

耳鼻咽喉科領域

10

16.1%

呼吸器

11

17.7%

消化器

5

8.1%

尿路

2

3.2%

神経

4

6.5%

軟部組織

4

6.5%

敗血症

3

4.8%

一次性菌血症

11

17.7%

二次性菌血症

11

17.7%

その他

1

1.6%

合計

62

100%

(出典)Support Care Cancer. 2006 Jul;14(7):763-9. doi: 10.1007/s00520-005-0898-0. Epub 2006 Mar 10.

 

 白血球患者の発熱を伴う感染症の原因として呼吸器感染症、一次性菌血症、二次性菌血症がいずれも17.7%で最も多く、それらに次いで耳鼻咽喉科(ORL)領域の感染症多いがという結果でした。この際の白血病患者はFNの状態とFNではない状態の両者が含まれています。この文献には、他にも固形癌やリンパ腫の場合の感染源の割合もあり、さらにこの文献を読み進めて行きたいと思える内容でした。

 少し脇道に逸れますが、白血病の治療の際などに気をつけるべきFNでは、ガイドライン上の選択肢は抗菌薬投与でした。一方で白血病の診断時等(好中球が減っていない場合)はどうなのか疑問に感じました。白血病の際には易感染とは聞きますが、実際はどうなのでしょうか。

 小児の急性リンパ性白血病(ALL)ではありますが、ALL診断時の発熱のみに対して抗菌薬が必要であるのかということについて深掘りした文献も見つけました。

 

METHOD

  • ALLと診断された21歳未満(診断時)
  • 体温(口腔)38.3℃、38℃以上にて4時間、最近の発熱、また敗血症の疑いのある発熱のみ患者

 

RESULT

  • 221名中126名(57%)で発熱を認め、血液培養が採取
  • 血液培養を採取された126名のうち、2名(1.6%)で陽性
  • 血液培養陽性例では、A群β溶連菌(GAS)1件と大腸菌1件

(出典)J Pediatr Hematol Oncol. 2015 Oct;37(7):498-501. doi:10.1097/MPH.0000000000000417.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 この結果を考えると、発熱のみで感染源が分からないとも考えられる発熱の場合は菌血症、敗血症の可能性は低そうです。好中球の数にもよりますが、化学療法前(診断時)なので特に好中球減少症の状態であるわけではなさそうです。このことも考慮に入れれば、当たり前ではありますが非感染性の発熱の原因(例えば、腫瘍熱、薬剤性)をしっかりと考えないといけなさそうです。



2.がん患者の発熱の原因

 それでは先ほど紹介した担癌患者の発熱の原因というタイトルの文献から、担癌患者さんの発熱の原因について深掘りしていきたいと思います。この文献の良いところはFNの患者さんとそうでない患者さんに分けて解析している点にもあると思います。

 

METHOD and PATIENT

発熱の定義

  • 体温38.5℃を超える
  • または38℃を超える24時間以内の2回のピーク

好中球減少症

  • 好中球減少群は好中球数が500/uL未満

発熱患者の診察

  • 病歴
  • 身体診察
  • 胸部X線
  • 尿培養
  • 血液培養2セット
  • 呼吸器症状を認める場合:肺炎クラミジア、レジオネラ、肺炎球菌の血清学的検査
  • 疑わしい部位の培養

 

RESULT

  • 477 episode(371名)の前向き研究
  • 53名が白血病、26名がリンパ腫、292名が固形癌
  • 好中球減少症は24%(116 episodes)
  • 感染症が原因:67%
  • 感染症が原因:23%
  • 不明熱(FUO):10%
  • 好中球減少症の伴う感染性の原因(239/357)と好中球減少症を伴わない感染性の原因(80/115)の間に頻度の有意差はなし

 

<非感染性の原因>

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  • FUOは好中球減少症群で頻度が高い〔20/115(17%)vs. 26/357(7%), p=0.0015〕
  • FUO以外の原因は非好中球減少症群で頻度が高い〔92/357(26%)vs. 15/115(13%), p=0.0046〕

 

感染症の感染源>

好中球減少症の有無による差異

f:id:mk-med:20210906210842j:plain

 

腫瘍の種類ごとの差異

f:id:mk-med:20210906210906j:plain  

<菌血症の病原体>

f:id:mk-med:20210906211008j:plain

  • 感染に関連する死亡率 →好中球減少症群 4.3%(5名) vs. 非好中球減少症群 11.1%(40名) (p=0.03)

 

(出典)Support Care Cancer. 2006 Jul;14(7):763-9. doi: 10.1007/s00520-005-0898-0. Epub 2006 Mar 10.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 例えば、一次性菌血症が好中球減少症群で多いのは予想通りでしたが、意外な結果が大きく2つほどありました。1つ目は、好中球減少症の有無による感染性または非感染性の原因の頻度に有意差は認めないというのは、好中球が少ない方が感染症になりやすいような印象と異なり意外な印象を受けました。

 2つ目は、感染に関連する死亡率において好中球減少症群の方が死亡率が高いと予想していたのですが、結果は非好中球減少症群の方が死亡率が高いという結果でした。これは、好中球減少症を伴う方が治療介入等がすぐに入るから等と推測できます。しかし、それでも好中球の数の影響よりも治療介入によって予後が変わることに驚きは隠せませんでした。好中球があれば、炎症も激しくて気がつきそうなものです。担癌患者さんということで、免疫が落ちているには変わりはなさそうですが。

 たとえ、好中球減少症がなくても必要であれば治療介入すると思います。好中球が減っているというのはむしろ、ルーチン検査で白血球数をチェックして、好中球が減っているということでfocus of attentionにより感染症をより意識しているということでしょうか。

 

 臨床をしている時の頻度が多そうとか少なそうとか、個人の肌感覚の怖さ(エビデンスと意外とズレている)を感じるエビデンスでした。この文献内には他にも好中球減少症群群と非好中球減少症群群の感染症全体での病原体の差異等の記載もありました。詳しくは文献をご確認ください。

 

 他にも、担癌患者の発熱の原因や病原体の疫学はエンピリックに治療をする際にも役立ちそうです。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。