新型コロナワクチン 3回目接種(ブースター)のエビデンスを探して
<目次>
今回も新型コロナウイルス感染症ネタです。日に日にエビデンスが増えたりして「今はこうらしい」と言う程度の知識しかないのを恥ずかしく思います。
先週(2021年9月)のニュースにて、日本でも3回目のコロナワクチンの接種の兆しとも言えるような報道がありました。その時に3回接種(ブースター)に関するエビデンスをなかなか探すことができませんでした。また、しばらく後に文献検索してみたときにはいろいろな新たなエビデンスが登場していると思いますが、「今は?」ということでその時に見つけた、テッパンのNew England Journal of Medicine(NEJM)の論文などを紹介したいと思います。
(※あくまで抄読会のようなこんな文献があり、少し考えてみましたという程度でこの論文が正しい・間違ていると推奨するものではありません。また、新たなエビデンスも出てきますので執筆時と考えも変わってい行くと考えられますので、最新の情報をご確認ください。)
1.3回目接種による罹患率と重症化率の比較
ご存知の方もいらっしゃると思いますが、NEJMからイスラエルのデータベースを使いワクチンを3回目接種(ブースター)の有無による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患率ならびに重症化率を比較したものです。
【方法】
・イスラエルの保健省のデータベースによる後ろ向き研究
・60歳以上で少なくとも5か月以上前にファイザー製(BNT162b2)ワクチンを2回接種した1,137,804人
・一次分析:3回目接種を受けた人(ブースター群)*と受けていない人(非ブースター群)の感染率と重症化率の比較
・二次分析:3回目接種4~6日後と12日以降の感染率の比較
*3回目接種を受けてから12日以降
【結果】
一次分析
・感染率の率比**:11.3
・感染率の差異:86.6/100,000人日
・重症化率の率比**:19.5
**いずれも非ブースター群/ブースター群
二次分析
・感染率の率比(4-6日/12日以降):5.4(95% CI, 4.8 to 6.1)
3回目接種後の感染率比の推移
(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 15. doi: 10.1056/NEJMoa2114255.
明らかに3回目接種が効果的と言わんばかりの感染率や重症化率の率比でしたね。あくまでRatio(比)なので大きく見える面もあると感じたので、絶対値にも目を向けて見ました。絶対値的な差異は86.6/100,000人日でした。1日あたり10万人で約87人…、これは効果的と取るか、効果的でないと取るかは難しいと感じました。各個人のリスク、医療状況等によって変わってくると思います。
さらにこの論文中に「中和抗体価がブースター接種後、数日で上昇する研究がある***」という記述もありました。数日後に12日後と同程度まで抗体価が挙がっているのでしょうか?ブースター接種後に抗体価が上がっていることに注目してブースター接種後4~6日後と、ブースター接種後12日後以降で比較するということをしていました。しかし、「ただ抗体価が上がっているのであれば感染しにくい」という仮説を立ててれば、感染率に大きく差があること(率比5.4)はあまり腑に落ちないので、抗体価が実際にどれくらいかについても深掘りしてみたいと感じました。
(***の元の出典 2021年7月28日引用)https://investors.pfizer.com/events-and-presentations/event-details/2021/Pfizer-Quarterly-Corporate-Performance--Second-Quarter-2021/default.aspx
他にもブースター群と非ブースター群では、ブースター群に男性が多く(49% vs. 42%)、general jewish populationが多く(92% vs. 81%)、70歳以上が多い(58% vs. 46%)等の差異がありました。70歳以上が多いことは、むしろもっと効果が高いのか、外に出ないから感染しにくいのかなんて考えてしまいます。さらには健康意識の違い等、両群の差異による影響は多少はありそうです。
2.3回目接種による中和抗体価(GMT)@NEJM correspondence
先ほどの論文の「ブースター接種後4~6日後の群と12日以降の群で感染率に差がある」こと、「ブースター接種後数日で中和抗体価が上昇する」ということの間が本当に中和抗体価の量による直線的な差による比例的なものなのかと疑問に感じました。
さらにはブースター群と非ブースター群の感染率や重症化率と中和抗体価も中和抗体価の量による直線的な差による比例的なものなのかと疑問に感じました。、ブースター接種(3回目)を含め中和抗体価の量についての文献を調べてみました。
【方法】
- ファイザー製ワクチン(BNT162b2)2回目接種の7.9~8.8か月後に、ブースター(3回目)接種を受けた人
- 18~55歳の11名
- 65~85歳の12名
- 中和幾何平均抗体価(GMT: geometric mean titer):1回目接種前、2回目接種7日後、2回目接種1か月後、3回目接種前、3回目接種7日後、3回目接種1か月後に測定
【結果】
ワクチン接種と中和抗体価の推移
(出典)N Engl J Med. 2021 Sep 15. doi: 10.1056/NEJMc2113468.
今回は、全体的な接種後の時間経過と抗体価の傾向、特に2回目接種後から3回目接種前、3回目接種後の抗体価の値の変化が知りたいので変異(variant)ごとの違いについては特に触れずに行きます。さすがに、3回目接種後4~6日後と12日後の抗体価に近いものを比較することはできませんでした。前述の論文の一次分析にあたる3回目接種(ブースター)の有無による抗体価の違いに近そうなところをチェックしてみます。
2回目接種7日後から3回目接種前までは抗体価が徐々に下がってきています。3回目接種がなければ、3回目接種前の抗体価もしくはそれより抗体価は低いと考えれます。3回目接種前と3回目接種後を比較すると、明らかに3回目接種後には抗体価が増えています。一方で、抗体価が増えたほど3回目接種(ブースター)の感染率を下げている考えにくい状況と考えられます。
やっぱり、Covid-19に対する中和抗体価が減ったことと獲得免疫の程度が直線的な比例的な関係にはないと感じられてほっとしています。
3.その他のCOVID-19関連の情報サイトの紹介
もちろん、一次文献を探して読むことは大事だと感じます(このブログにとどまらず、必ず原著を読んでください)。でも時間がなかったり、まとまった情報を見た方が全体像が掴みやすい、世界の動向が知りたい等があると思います。知っているもののうち、一部のメジャーどころを紹介します。
- 日本プライマリ・ケア連合学会 予防医療・健康増進委員会 感染対策チーム 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)プライマリ・ケアのための情報サイト https://www.pc-covid19.jp/
- アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention; CDC)Centers for Disease Control and Prevention (cdc.gov)
- CDC >コロナワクチンのブースター(3回目接種)に関して https://www.cdc.gov/vaccines/acip/meetings/downloads/slides-2021-08-30/09-COVID-Oliver-508.pdf
- アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration; FDA) https://www.fda.gov/
- https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
- https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei_127713.html
エビデンスを読んでみる事とは違うものありますが、あくまで基本的には信頼できる(信憑性のある)と考えて良いと願いたい情報が載っていると思います。私のブログ含めもあくまで情報や論文の存在を知るきっかけとして、その後はぜひ一次文献をチェックしてみてください。
そして、生物医学的な視点(例えば、接触回避)だけでなく、精神面への影響、経済への影響などにもよって、行動制限などの国民全体へのコロナ対策は変わってくるでしょう。
本日もお読みくださりありがとうございました。
【新型コロナワクチン関連の記事】
新型コロナワクチンの安全性(有害事象)@NEJM