小児喘息②:ウイルスによる臨床的特徴の相違と疫学
1.小児喘息の診断の流れ(@前回の記事)
2.喘鳴の鑑別疾患(@前回の記事)
3.原因ウイルスによる増悪進展の相違(症状等の違い)
4.検出ウイルスの疫学と臨床的特徴
→前回の記事はこちら
小児喘息①:喘鳴と鑑別疾患(乳幼児喘息) - 医学生からはじめる アウトプット日記
今回は前回の続きとして、③原因ウイルスによる気管支喘息急性増悪における進展の相違と④検出ウイルスの疫学ならびに臨床的特徴について深掘りしていきます。
(※①、②は前回の記事をご覧ください)
3.原因ウイルスによる増悪進展の相違(症状等の違い)
後半のテーマがマニアックで個人的には一番盛り上がっています。例えば、感染臓器の特定の出来た後などに、細菌感染症で起炎菌によって勢いが違う(黄色ブドウ球菌は進行が早い等)ことから、起炎菌まで推測できるような超人もいます。ウイルス感染×喘息増悪でも同じ様なことがいえるというような報告があります。
<呼吸器ウイルスの種類による幼児気管支喘息急性増悪進展の相違>
【方法】
・1歳から5歳までの気管支喘息急性増悪入院例
・鼻腔ぬぐい液からピコルナウイルス(PI)科のライノウイルス(RV)またはエンテロウイルスD68(EVD68)と、ニューモウイルス(PN)科のRSウイルスまたはヒトメタニューモウイルス(hMPV)のいずれかが単独で検出された症例を対象
・鼻漏と咳嗽を認めた日を第1病日とし、喘鳴確認病日、入院病日、入院日数(LOS)をPI群とPN群で比較
【結果】
検出ウイルス別の各項目(平均値±SD)
ウイルス
症例数
年齢 (歳)
発熱症例数
喘鳴確認病日
入院病日
入院日数
RV
8
2.6±1.6
4
1.5±0.5
1.9±1.0
3.3±0.5
EVD68
3
2.3±1.5
3
1.0±0
1.7±0.6
3.3±0.6
RSV
8
2.3±1.7
6
2.5±0.5
3.9±1.0
3.8±1.0
hMPV
7
1.7±1.5
7
2.7±0.8
4.3±1.4
3.7±0.5
PI群とPN群の比較
ウイルス
症例数
年齢(歳)*
喘鳴確認病日*
入院病日*
入院日数*
PI群
11
2.5±1.5
2
1.4±0.5
1
1.8±0.9
2
3.3±0.5
3
PN群
15
2.0±1.6
2
2.6±0.6
3
4.1±1.2
4
3.7±0.8
4
*上段:平均値±SD、下段:中央値
・喘鳴確認病日、入院病日はPI群が有意に低かった(p<0.001)。
・入院日数には差がなかったが、中央値はPI群が1日短かった。
(出典)日本小児呼吸器学会雑誌 2021;32(1):47-54
PI群(ピコルナウイルス科)のライノウイルス(RV)またはエンテロウイルスD68(EVD68)の方が鼻漏や咳嗽といった症状出現から喘鳴の出現や喘息増悪までの期間が短く、進行が早い傾向があると言えそうです。
一方で、PN群(ニューモウイルス科)のRSウイルス(RSV)またはヒトメタニューモウイルス(hMPV)の方が症状の出現から喘鳴の出現や喘息の増悪までの期間が長く、進行がゆっくりといった印象です。
入院日数には有意差はないものの、多少PI群の方が短い傾向という程度すね。これはウイルスに勢いによる多少の違いはあれど、治療が同じ(全身性ステロイド薬の投与)であるので炎症が治まるのを待つしかないということかもしれません。
さらに、この研究は症例数が少ないにもかかわらず有意差が出たというあたりだけでも驚きでした。症例数が少ないのであくまで報告とした方がよいかもしれませんね。平均値にするには申し分程度かもしれません(平均値にする怖さもさておき)。
喘息の原因となるウイルスはこれらだけではないので、原因ウイルスを経過からだけで想像することはできませんが、原因ウイルス推定のヒントにはなりそうです。さらには年齢や全般的な疫学的なこと、さらには感染状況もヒントになりそうです。例えば、今年の夏前にRSウイルス感染症が流行したように。その地区の感染状況もヒントになってくると思いますので、各自治体のものもチェックしてみてください。
全般的な検出されるウイルスの疫学について調べてみたいと思います。
4.検出ウイルスの疫学と臨床的特徴
小児気管支喘息発作入院例にて検出されたウイルスによって臨床的特徴を調べてみたものです(偶然にも臨床的特徴も新たに分かりました)。
<小児気管支喘息発作入院令での検出ウイルスによる臨床的特徴について>
【方法】
・2009~2010年の1年間に喘息発作で入院した小児
・11種類の呼吸器系ウイルスを検索:RV、RSウイルスA、B(RSVA、B)、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)、インフルエンザA、B(FluA、B)。パラインフルエンザウイルス1,2,3(Para 1,2,3)、アデノウイルス(AdV)、ヒト・ボカウイルス(Boca)
・検出ウイルス別に臨床的特徴、その予後について検討:今回多くを占めたRV検出例、RSV検出例、hMPV検出例、ウイルス非検出例を比較
・比較項目:入院時のCRP値、体温、発作強度スコア、肺副雑音持続日数、酸素使用率、ステロイド全身投与使用率
【結果】
表. 全検出ウイルスのまとめ
検出例
全数
検出例
ウイルス検出例
123
46%
ウイルス非検出例
145
54%
RV
88
33%
71%
RS-A
22
9%
18%
RS-B
1
0.4%
0.8%
hMPV
14
5%
10%
FluA
1
0.7%
1.6%
FluB
0
0%
0%
AdV
2
0.7%
1.6%
Parainfluenza 1
1
0.4%
0.8%
Parainfluenza 2
0
0%
0%
Parainfluenza 3
0
0%
0%
Boca
0
0%
0%
混合検出例
6
2.2%
4.5%
- (図1)月別には1月以外の年間を通してRVが多く検出されており、hMPVは2~4月に、RSVは12~2月に目立って検出された。
- (図2)いずれの年齢でもライノウイルスが多く、とりわけ2~5歳時に多かった。
<RV検出例とウイルス非検出例での比較>
・肺副雑音持続日数のみウイルス非検出群で有意に長い結果であったが、その他の項目では有意な差はなし。
<RVとRSVとの比較>
・RSV例で肺副雑音持続日数が有意に長く(4.3±1.9日, 6.1±1.3, p=0.01<),また酸素使用率が有意に高かった(49%,80%,p=0.013)。その他項目に差はみられなかった。
<RVとhMPVとの比較>
・すべての項目で有意差は認めなかった。
<予後>
・治療転機が改善した割合,また不変,悪化の割合のそれぞれの傾向はRV検出群とRV非検出群で全く有意差を認めなかった。
・喘息発作入院後の3年聞での入院反復率(RV検出群1841例、RV非検出群2469例)やICSを使用している割合(RV群22/41例、RV非検出群40/69例)についても有意差は認めなかった。
・RVの検出の有無にかかわらずアトピー型と非アトピー型で3年後の予後を比較すると非アトピー型では治療内容がStep up(悪化)となる例が有意に少なかった。
(出典)日本小児呼吸器学会雑誌 2016;27(2)130-136
喘息患者の約半数からウイルスが検出されていなかったのはアトピー関連の喘息もあるからであると容易に想像がつきます。検出された患者では、ライノウイルスが季節や年齢に関わらず多く、さらにとりわけ2~5歳で多かったということですね。ライノウイルスということは、先ほどの急性増悪の進行度合いでいうところのPI群(ピコルナウイルス科)で急性増悪の進行は早めの臨床経過(増悪の進展)を呈するものは多そうであると考えるできそうです。
この論文では、検出数の多かったライノウイルスを軸に比較をしていて、肺副雑音持続日数でもRVよりRSウイルスの方が長く、ひとつ前の論文と類似していると思います。
これをきっかけに、ぜひ喘息でもウイルスの有無やウイルスの差異による臨床像の違いというマニアック(?)なところにも興味を持て貰えればと思います。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。