小児喘息①:喘鳴と鑑別疾患(乳幼児喘息)
1.小児喘息の診断の流れ
2.喘鳴の鑑別疾患
(3,4は次回の記事を予定)
3.原因ウイルスによる増悪進展の相違(症状等の違い)
4.疫学:検出ウイルス(+臨床的特徴)
続編はこちら
→ 小児喘息②:ウイルスによる臨床的特徴の相違と疫学 - 医学生からはじめる アウトプット日記
喘鳴と聞けば気管支喘息というような診断が頭に思い浮かぶことが多いと思います。小児喘息(特に乳幼児喘息)の診断について調べることがありました。『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020』を見ていたところ、興味深い発見がありました。喘鳴の鑑別疾患だけでなく、ウイルス誘発性喘息のウイルスごとの症状(その疾患の臨床経過のゲシュタルト)の違いも見つけることができました。
1.小児喘息の診断の流れ
小児喘息(特に乳幼児)の診断の流れについて調べていたところ、『小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020』に乳幼児喘息の診断のフローチャートがありました。喘息の診断の流れや喘息の病態による種類(IgE関連、非IgE関連)をこの先の内容のために大枠だけでも紹介しようと思います。
乳幼児の病態の多様性を考慮し、IgE関連喘息(アレルゲン誘発性/アトピー型喘息)と非IgE関連喘息(ウイルス誘発性喘息など)に分類する。
非IgE関連喘息は、ウイルス感染、タバコ煙や冷気への暴露などによって引き起こされる喘息を含み、特に反応性気道疾患(Reactive Airway Disease; RAD)の占める割合が高い。
ここでフローチャートを確認すると、鑑別疾患とあり乳幼児期の喘息のpivot and clusterを思い浮かべたのですが、実際には急性喘鳴と反復性喘鳴の鑑別を考えるようです。そもそも喘息の原因も多様であり、奥深そうです。
2.喘鳴の鑑別疾患
それでは鑑別疾患やその鑑別ポイントについて具体的に挙げていきたいと思います。
乳幼児喘息では、鑑別すべき喘鳴を呈する疾患が学童期以降とは異なる。鑑別診断は急性喘鳴(基本的に1回だけのエピソード)と反復性喘鳴(同一疾患の複数回のエピソード)の2群に大別して考える。
初めて喘鳴をきたした場合は急性喘鳴に分類された疾患を中心に行う。
表1. 乳幼児喘息と急性喘鳴疾患の鑑別
疾患
喘息との鑑別に有用な症状・特徴
診療所で可能な検査
2次病院以降で可能な検査
急性鼻副鼻腔炎
<頻度:高>
覚醒時・昼間の咳嗽
副鼻腔Xp、SpO2
副鼻腔CT、MRI
気管支炎・肺炎
<頻度:高>
発熱、湿性咳嗽
胸部Xp、SpO2、血液抗体価検査、鼻咽頭病原体抗原迅速検査
胸部CT
急性細気管支炎
<頻度:高>
発熱、鼻閉、鼻汁、帆入力低下(1歳未満に多い)
RSウイルス迅速検査、ヒトメタニューモウイルス迅速、胸部Xp、SpO2
胸部CT
食物アレルギーなどによるアナフィラキシー
<頻度:低>
全身性に複数の臓器(皮膚、粘膜、呼吸器、消化器、循環器など)にアレルギー症状が出現
SpO2
ー
気道異物
<頻度:低>
突然の咳嗽、豆類などの接種歴の問診と聴診(3歳未満に多い)
吸気・呼気の胸部Xp、SpO2
胸部CT、気管支鏡
腫瘤による気道圧迫
(縦隔腫瘍など)
<頻度:稀>
胸痛、肩痛、時に嚥下障害、体位による症状の変化
胸部Xp、SpO2
胸部CT、MRI、気管支鏡
急性細気管支炎は冬期に流行することが多く、その大半はRSウイルス感染によるが、その他にもパラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモシスチス、アデノウイルス感染などでも発症する。
表2. 乳幼児喘息と反復性喘鳴の疾患の鑑別
疾患
喘息との鑑別に有用な症状
診療所で可能な検査
2次病院以降で可能な検査
慢性副鼻腔炎
<頻度:高>
慢性咳嗽、後鼻漏
副鼻腔Xp、SpO2
副鼻腔CT、MRI
鼻・咽頭逆流症
哺乳/食事摂取後の咳嗽
胸部Xp、SpO2
嚥下造影
胃食道逆流症
<頻度:高>
昼間の活動中の乾性咳嗽、夜間や臥位での咳き込み
胸部Xp、SpO2
上部消化管造影、24時間pHモニタリング、上部消化管内視鏡検査
慢性肺疾患(新生児期の呼吸障害後)
<頻度:高>
問診による早産児、低出生体重児の既往、乳児期早期の喘鳴
胸部Xp、SpO2
胸部CT
気管・気管支軟化症
<頻度:低>
乳児期早期の喘鳴、繰り返す肺炎、チアノーゼ/窒息発作
胸部Xp、SpO2
胸部CT
先天異常による気道狭窄(血管輪など)
<頻度:低>
乳児早期の喘鳴
胸部Xp、SpO2
閉塞性細気管支炎
<頻度:稀>
膠原病、臓器移植、造血幹細胞移植の既往
胸部Xp、SpO2
胸部CT
気管支拡張症
<頻度:稀>
慢性咳嗽、喀痰、血痰、胸痛
胸部Xp、SpO2
胸部CT
先天性免疫不全症(反復性呼吸器感染症)
<頻度:稀>
発熱、易感染
胸部Xp、SpO2
遺伝子検査
<頻度:稀>
動悸、浮腫、尿量減少
胸部Xp、SpO2、心電図(ECG)
超音波検査
成人の咳嗽の鑑別時にも考えるような、副鼻腔炎、胃食道逆流症、心不全というような呼吸器系以外の疾患もありますね。検査に関しては概ね納得ですが、今後はタブレットやスマホ等で心臓超音波検査(心エコー)等もできるようになりそうですので、医師によっては診療所レベルでも心エコーが増えるかもしれないと感じました。
ここで喘息の鑑別疾患を考えたのですが、そもそもの喘息の典型的な臨床症状・所見も調べてみたいと思います。
<喘息の臨床像>
Clinical Manifestations
・喘息の慢性的な症状として、間欠的な乾性咳嗽や労作時の喘鳴が一般的
・年齢の高い小児や成人では、呼吸困難感や胸が詰まるような胸部不快感を伴うことがある一方、年齢の低い小児では、間欠的な全般的な胸痛を伴う事の方が多い
・呼吸器症状は夜間、睡眠に伴って増悪することがあり、とりわけ呼吸器感染症やアレルゲン吸入により増悪が遷延する。
・小児の場合、日中の症状はたいてい身体活動(エクササイズ)、遊びに関連することが多い。
・その他の小児の喘息症状は非特異的であり、身体活動の自己制限や全身倦怠感であり、同年齢の子どもに身体的活動においてついていくことが難しく感じる
・喘息症状は様々な一般的な活動や暴露によって生じる。例えば、身体活動、換気亢進(笑う等)、冷たい・乾燥した空気が挙げられる。
(出典)Nelson Textbook of pediatrics 21 EDITION.
誘因や夜間(→副交感神経優位)の増悪等の何かしらあると喘息であると分かりやすそうです。他にも吸入薬に反応することやアトピー素因などのリスクファクターもヒントになると思います。
呼吸器感染症と喘息の関係について詳しいところは議論の的ではありますが、『ウイルス誘発性喘息におけるウイルスの種類による幼児気管支喘息の急性増悪進展の相違』という、原因となったウイルスの違いによる臨床経過の違いを比較した面白い文献も発見しました。
次回はそこまで深掘りしてみたいと思います。
本日もお読みくださりありがとうございました。
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