"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

医学の趣味人"Med-Hobbyist"のブログへようこそ。医学に関連する「なぜ」・「なに」といった好奇心を大切にする場所として、体験・読書をシェアする場所として、過去の失敗談やヒヤリを棚卸する場所として、傷を舐め合う場所ではなく何かヒントを得られるような場所にしたいと思います。少しでもお役に立てば幸いです。

心不全とリハビリテーション 高齢入院患者にて @NEJM

心不全リハビリテーション 高齢入院患者にて @NEJM

~Physical Rehabilitation for Older Patients Hospitalized for Heart Failure~

 

 心不全の病態や治療薬について以前、ブログ記事にしました。心不全(急性胃心不全、慢性心不全急性増悪)で入院になった際に数週間も入院していると、入院前と比較して患者さんの歩行距離・歩行速度や筋力がとても落ちていると感じました。50歳代ぐらいまでの患者さんでは筋力は落ちたものの若さゆえなのか、生活に支障のあるような筋力低下とまでは感じなかったのですが、年配の患者さんの際には大丈夫かなと不安になったりしました。

 実際にどの程度、何が落ちているのかを定量にすることはできないかということで調べてみました。

 

 運が良いことに2021年7月15日のNew England Journal of Medicine(NEJM)のOriginal Articleにて、”Physical Rehabilitation for Older Oatients Hospitalized for Heart Failure”という文献を見つけました。こちらを紹介していきたいと思います。

 

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 急性非代償性心不全にて入院した高齢者では、身体的フレイル、QOL(quality of life)の低下、回復の遅れ、頻回の再入院がある。ガイドラインでは心不全で入院した患者の身体的障害についてしっかりとした指針はなく、入院して間もない患者でのリハビリテーションについての先行研究がない。

 

METHOD

<REHAB-HF trial>

・多施設共同ランダム化比較試験

・349人の60歳以上で急性非代償性心不全で入院した患者

 →175名の介入群(73.1±8.5歳)、174名の対照群(72.2±7.7歳)

・4つの身体機能に注目(特にEndurancde: 歩行持続性)

 ①椅子からの立ち上がり ②起立時間 ③歩行持続時間 ④歩行速度

(Appendixより)

 

介入群

~対照群〔通常の治療(リハビリ含む)〕に加え~

・3カ月後までの週3回(60分/回)の外来リハビリ

・3か月後以降、4週ごとの運動処方

 

対照群

・1カ月後、3か月後の外来受診と2週間ごとの電話

 

RESULTS

Primary Outcome

・介入群で26名の離脱(12名死亡、16名追跡不可)、対照群で19名(6名死亡、13名追跡不可)の離脱

・Short Physcial Performance Battery Score(SBBP Score)の点数(3カ月後,、12点満点)

 

表.結果(抜粋)

Outcome

介入群

対照群

Effect size

(95%信頼区間)

SPPB score, Primary Outcome

     

・開始前

6.0±2.8

6.1±2.6

 

・3カ月後

8.3±0.2

6.9±0.2

1.5(0.9 - 2.0)

6分間歩行距離(m)

     

・開始前

194±104

193±107

 

・3カ月後

293±8

260±8

34(12 - 56)

KCCQスコア

     

・開始時

40±21

42±21

 

・3カ月後

69±2

62±2

7.1(2 - 12.2)

EQ-5D-5L visual-analpgue scale score

     

・開始前

58±22

58±21

 

・3カ月後

71±2

65±2

7.0(2.3 - 11.6)



Secondary Outcomes @6カ月後

・再入院、死亡において有意差なし

 

試験中の死亡原因

 

介入群

対照群

心血管系

16名

8名

心不全

うち10名

うち6名

脳卒中

3名

6名

心血管系以外

6名

8名

 

試験中の有害事象

・胸痛、高血圧、めまい、高血糖低血糖は介入群で多かった。

・転倒や心不全は対照群で多かった。

 

(出典)N Engl J Med. 2021 Jul 15;385(3):203-216.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

↑↑詳しくは文献をお読みください

 

 やはり、SBBP Scoreが1.5点良いというあたりはリハビリのおかげというべきでしょうか。身体機能は良くなっていそうです。他にも、カンザスシティ心筋症アンケート(KCCQ)overall scoreからは生活の質(QOL)あたりも良くなっているといった印象を受けます。

 週に3回もリハビリ(通院)をしていれば、やはり当たり前と言えば当たり前な感じもします。週3回もリハビリのための通院ができる環境を達成できるかも考えなければいけないと感じました。

 

 一方で、この研究では再入院、予後(死亡)といったイベントに対して有意差を示すことはできなかったので、他の研究も出てくることを楽しみにしています。有意差はなくとも、心血管系での死亡や重篤な有害事象はやや介入群に多く、それより軽い有害事象は少ない印象です。

 有害事象での死亡に関しては介入群の方が多いという結果になっています。有意差だけではなく、実際に安静度を緩くしていく際にはまた心不全に陥ってしまうリスクも鑑みて、リハビリをしっかりと行う場合は、心不全の状況もしっかりフォローしないと行けないと感じました。

 

 年齢に関しては、介入群も対照群も72歳から73歳程度の年齢中央値で、実際の日本の心不全の高齢者よりも年齢層が若い印象です。あくまで印象ですが、試験として75歳以上(後期高齢者)のみを対象とした試験もあれば、もっと高齢者に目を向けてみたいものです。もっと離脱者が増えてしまうかもしれませんが…。



 本日もお読みくださり、ありがとうございました。



cf.【心不全に関する記事】

mk-med.hatenablog.com

mk-med.hatenablog.com

 

読書ログ:『スマホ脳』|タイムロッキングコンテナや通知設定等の対策まで

スマホ脳』

 アンデシュ・ハンセン (著), 久山 葉子 (翻訳)

~タイムロッキングコンテナ通知設定等対策まで

 

<目次>

 

 

 今回、紹介させていただく書籍はスマホ脳』です。絶対手放せないアイテムであるスマホが関係するタイトルということで、とても惹かれました。さすがにスマホは危険と煽りすぎな側面も感じますが、本来の生産性を高めたり、目標達成のための手段以外でスマホを使うことに対して生理学的な視点も交えながら競輪を鳴らすような書籍です。

 「暇つぶしで人生を終えたいですか?」というようなことを自分自身に問いかけつつ、普段のスマホの使い方振り返るきっかけとなりました。

 

 

1.『スマホ脳』を読んだきっかけ

 おそらく書店に足を運んでいる方の中にはご存知の方も多いと思います。1か月程前に品川駅構内の書店に立ち寄る機会があったのですが、その際もその書店ではランキング1位でした(部門は忘れました)。相変わらず、人気の書籍のようですね。

 今回もこの本を読んだきっかけは半年以上前に書店で見かけたことでした。もっとしっかり読んで自分なりに考えてみようと思ったきっかけYouTube「医師の教養」チャンネル(平島修先生、矢吹拓先生)の動画でした。

www.youtube.com

 

 そして、『スマホ脳』に関して民間医局と医師の教養チャンネルのコラボレーション企画にてパネリストをさせて頂く機会を頂きました。

≪開催報告≫もっと!医師の教養#3(ビジネス編)ー医師として、社会人として、1人の人間として考えてみようー|民間医局コネクト | 民間医局コネクト

 

 そこで改めてもう一度スマホとの関係性を見直してみようと振り返り、新たにスマホとの距離をおくことを決めた次第です。(スマホというよりはスマホ内のアプリ等を含むスマホ全体との関わり方として距離を置きました)

 

 

2. 書籍紹介

 では、書籍の紹介に移らせていただきます。

 

スマホ脳』

 アンデシュ・ハンセン (著), 久山 葉子 (翻訳)

https://m.media-amazon.com/images/I/51Ue+pr2r7L.jpg

 

<こんな人におススメ>
  • スマホが手元にないと不安になる人
  • 気がついたらスマホSNS等を含む)に時間を奪われている
  • なぜスマホに依存しやすいのかを知りたい人
  • スマホに奪われている時間を有意義に使いたい

 

 実際に書籍の中では、長年の人類の進化の視点からどのような特徴を持つ人が生存しやすかったか(選択されてきたか)に触れ、人間のホルモン(ドパミン等)の働きからもなぜ依存しやすいかについて説明しています。進化やホルモンの話を混ぜながら、分かりやすいく説明されています。スマホSNS等)の通知ですら、ドパミンとの関係で依存しやすくなるようです。スマホがギャンブルと同じく依存しやすいのかを腑に落ちるように理解できます。具体的なメカニズムやスマホによる影響は本を読んでみてください!!

 

 

3.『スマホ脳』をもとに試行錯誤

 この本を読んで、実際に私が対策してみたこと/考えてみたことを紹介します。

 

スマホへの対策◆

  1. SNSのアイコン:画面のすぐ見えるところに置かない(階層的に下にする)
  2. 時計:時間を見る際にスマホを見ないようにする
  3. スマホを見ない時間を作る
  4. 機内Wi-Fiにつながない
  5. スマホ通知設定画面設定を変える
  6. 物理的にスマホを使えなくする ータイムロッキングコンテナ

 

 実際にやってみて感じたことは次の通りです。

 

スマホのアイコンを消す

 Facebook等のSNSのアプリのアイコンを画面のすぐ見えるところから、ちょっと見えにくい階層的に下のところに配置しました。すると、確かに見る回数はある程度減ったと感じます。一方で、いくら階層的に下の方にあると言っても気になってしまうことがあり、アプリを削除することも徐々に考え始めましたFacebook勉強会の情報を集めたり、医学的情報を集めたりする際の有用性は感じているのですが、そういった情報以外にも知らなければ知らないでよい(SNS誕生以前は知人がどんな生活をしているのか・食べ物を食べているのか、ただの報告等)情報も多く、次に有用な情報が来るかどうか(情報が手に入るのかもしれないという期待)でドパミンが出ているのではないかと感じました。

 アプリの閲覧時間の管理(スクリーンタイムの振り返り)も入れて、気がつかない間に時間をとられないようにしようと心がけてみました。

 

【追記】

 一時期はアプリを削除していましたが、通知設定やスクリーンタイムでの使用時間制限へと至りました。具体的方法は⑤をご覧ください。

 

 

②時計を用意する

 スマホをベッドに持ち込むことで寝る前にスマホをついつい見てしまうということから、目覚まし時計はすでに導入していました。ベッドでスマホの画面をみて、そのまま寝落ちして画面(動画再生等)はそのままのようなこともあり、スマホの電池切れをしたことから目覚ましにならないリスクが高いというのもありました。

 iPhone 4Sの時にガラケーからスマホに変更してからは時計をしない日も増えました。しかし、時間を確認する目的でスマホを見たら通知が届いており、そこからスマホに時間を奪われてしまうということが多いことに今さらながら気がつきました(iPhoneが日本で始まった当時はすべてのメッセージ等が自動受信に対応していなかったからというのもありました)。そのため、最近では意識して時計もしてスマホのホールド画面をチェックする事から始まる負の連鎖を根源から少しでも断ち切るようにしています。

 

 

スマホを見ない時間を作る

 これは『スマホ脳』の書籍内でも実験だったかを含め紹介されています。数時間でさえ、あることに集中することが難しいと感じる今日この頃ですが、その時に見なくてもよいスマホの通知に気を取られて大切な時間を失っている私がいることに気がつきました。

 本当に必要な連絡であれば、電話を鳴らしてもらえばよいと感じています。本当に今すぐ必要であれば、相手もメッセージをちょっと送って終わりということはないはずです。何かに集中したい時には数時間に一度チェックして返信するというようなメリハリをつけた関わり方がとても心地よいです。どうしてもスマホに気がとられてしまう人はスポーツなど、目の前のことに集中できる(集中せざるを得ない)ことをやってみるのもよいかもしれないと感じます。

 

スマホに邪魔されず学ぶ/本を読むなどの対象に集中する時間がとても有意義なものだと感じることができました。たとえ、休日に1-2時間だけであってもスマホから意識を遠ざけて集中できることはとても価値のある時間であると感じました。病棟からの電話がくる可能性もあるので電話の通知オフにはできない人も多いかと思いますが、そのような中でも可能な範囲でこの気持ちよさを体感しなおして欲しいものです。

 

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スマホに邪魔されず目の前の世界/本の世界へ

 

④機内Wi-Fiにつながない

 スマホを機内Wi-Fi(インターネット)につながないことを意識するようになりました。昔はJALの機内Wi-Fiがサービスを開始した時にはクーポンのようなものがJALから無料で与えられていたので物珍しさもあり、機内Wi-Fi(インターネット)をつなぎ、特別急ぎの用もなく使っていた記憶があります。

 最近では、JALANAも国内線の機内Wi-Fiによるインターネットが無料になりました。しかし、電話はできない環境を逆手に取るようにし、スマホは原則的に機内Wi-Fiにつながないようにしました。③のスマホを見ない時間と同じく、PCで作業するなり、本を読むなり、勉強するなり、外の景色みてぼーっとするなり、邪魔されない自分の時間にしています。

 

 

スマホ通知設定や画面設定を変える

 私自身はスマホの通知が気になって、画面を開いたらそのままスマホに時間を奪われるというようなことが多くあります。集中力を鍛えるというのも解決策ですが、集中力を保ちやすいよう、就寝前はまぶしくないように、というような具合でiPhoneやアンドロイドで可能な限り次のような設定を工夫をしています。主にiPhoneをメインで使用中のため、iPhoneを軸としたお話をします。

 

  • SNSアプリ(LINEを除く)の通知OFF
  • メールの時間指定通知(時間指定要約)
  • カラーフィルター(画面の白黒化)
  • ホワイトポイントを下げる
  • アプリの使用時間制限
  • 休止時間の設定

 

 SNS通知オフについてです。一時期はアプリを削除していたのですが、どうしても発信をする機会があることやブラウザでの動作が不安定であったということもあり、アプリを復活させました。そこで、通知はオフにして、気を取られないようにすることにしました。そして、通知アイコンも見てしまって気にならないように、アプリはホーム画面から削除しています。

 メール等も通知に気を取られないようにするという方向性は同じです。例えば出版社の担当者の方とやり取りしている時などにメールに気がつかずに数日間放置となってしまっても困るので、時間指定通知を導入しています。各自で時間や回数を設定できますが、〇時にまとめて通知を受け取るというようなシステムです。私はあるメールアカウントでは朝、お昼、夕方(やや夜)に通知設定をしています。メールアドレスごとに用途を分けても対処しきれない場面(例えば金銭も扱う場面もあるものの広告メールも多い会社等)や深夜のメール通知にて起きないためにも、時間指定通知を導入しました。

 通知の設定方法ですが、"設定>通知"と進み、通知スタイルをアプリごとに設定します。通知設定を変更するアプリを選択肢します。通知オフの場合は、"通知を許可"オフにすれば、通知オフとなります。時間指定通知の場合は、"通知を許可"をオンにして、"時刻指定要約"を選択します。そして、"スケジュールを編集"を押して、1回目の要約の時刻、2回目の要約の時刻というように自身の生活スタイルに合わせて設定をしてみてください。

iPhoneにおける通知の時間指定(時間指定要約)の設定方法

 カラーフィルターというのは、画面を白黒化する方法で見えているものをつまらなく感じさせてくれます。カラーであるがゆえの刺激を避けることができます。例えば、これといった理由なくインスタを見てしまうことを防いでくれたりします。また夜にに設定することで、寝る前にスマホを見てしまうことを回避しています。

 ホワイトポイントを下げるというのも、画面の白さ(まぶしさ)を減らすための工夫のひとつとなります。これは、夜のスマホによる安眠妨害対策というものなので、お昼は基本的に使わないで過ごしています。

 カラーフィルターホワイトポイントも寝るための一環という側面があります。ブルーライトの影響はあるものの、これに関しては夜に部屋の照明を暗くしていくことや画面の明るさを調節していくこととセットでやっていく必要があると思います。

 アプリ使用時間制限も「目的もなく何となく見ていたら時間が過ぎていた」というような後悔を防止するためです。使用時間を管理しやすいように、そしてアプリを削除してもどうせ見てしまうというのもあり、SNSのアプリを削除からアプリで使用時間を管理するようになりました。何が良いかというと、使用時間を決めておくと、その時間で警告が表示されることや、その警告を解除するのに画面を押すというほんの少し手間がかかり、それで見ることをやめようという気にさせてくれることが多くなります。やるための手間を増やす悪い習慣をやめやすいと感じます。iPhoneでの設定方法設定>スクリーンタイム>App使用時間の制限、にて制限したいアプリを選択し、利用時間制限を設定してください。その制限時間を超えると警告が出て、閉じる、もしくは1分許可、15分許可、その日は制限を外すというような手順になります。

 他にも、デジタルデトックスをしたいときには「休止時間」を導入することも可能です。私自身はそこまではSNS等の通知さえ、これまでの方法で気にならなくなれば必要ないと感じていますが、休暇などで一気にオフにしたいとき、夜に電話以外の通知を一律にシャットダウンするときには使用できると思います。通知>スクリーンタイム>休止時間より設定できます。

 

 『スマホ脳』の書籍の中で紹介されている液晶によるブルーライトの影響はゼロにはできないもののカラーフィルターやホワイトポイントで夜の寝る前の対策もしています。iPadに関しては、通知は原則何も通知の鳴らない設定にしています。そのせいか、私自身の中ではスマホのような「意味もなく見たい」というような衝動には駆られません。そのため、スマートフォンへの対処法ということで実際にiPhoneを中心に対策をやっています。

 

 

⑥物理的にスマホを使えなくする ー タイムロッキングコンテナ ー

 誰もスマホを破壊しろと言っているわけではありません。物理的にスマホを指定した時間だけいじれないようにする便利グッズです。スマホ ロッキングコンテナ」、「タイムロッキングコンテナ」スマホロックBOX」、等で検索すると見つかります。

 タイマーで1時間など各自で設定してロックして使用します。その間は電話の受信程度はできます。一方で、ふとスマホを手に取って画面をいじり始めたら、SNS等を見ていて気がついた時には時間をムダにしていたというような状況を回避することができます。

スマホを物理的にロックする便利グッズ

 これなら、病棟からいつ電話がかかってくるか分からないような、電話を手放しにくい仕事でも、スマホをムダにいじらなくて済みます。物理的なロックの効果は偉大でした。

 スマホロックBOX次第ですが、電話にすら出れないもの、画面も見えないもの、スマホを充電しながらロックできるものなど、様々です。機能と値段の安さから上記のものになりましたが、いろいろとありますので気になる方はチェックしてみてください。

 

 

 

4. 実用書を読む意味は?

 知識の習得を目的とした本以上に、このような本では読書後に取り入れてみること、実証してみることに価値があると思います。学問の体系的な書籍の場合はPDCAサイクルぐらいの長期のスパンでアウトプットしていく場面もあると思いますが、それこそ今回のような実用書レベルのものでは、PDRサイクルやOODAサイクルのように回してみるまでいかなくても、とりあえずやってみるぐらいの短期的なアウトプットが必要だと思います。1冊読んだら、生活のどこかに導入してみるというような感じです。PDCAサイクルはあくまでも、変わらない環境の中で最善を尽くす方法を探るメソッドだからです。

 実際に読書してみて、それを取り入れたものの失敗であったというような場合でも良いと思いますし、取り入れながら改善していけばよいと思います。

 スマホに奪われていた時間に目を向けて何か有効に使ってより充実した時間を過ごすヒントとなれば幸いです。スマホに奪われる時間(必要な連絡等以外の時間)をゼロにすることはできないですが、私自身はこのブログを書いたり、ブログにするかを問わず何かを調べたり、教科書を読んだり、思いっきり遊んだり、映画を見たり、比較的何かに没頭する時間に使うようにしています。

 

 実際にスマホ「意味もなく見たい」というすべての衝動に勝つことはできないときもありました。そういう意味でも、アルコール依存症等だけでなく、誰しも身近なものに依存しやすい性質があると知ることもできました。

 そうしたら、なぜ依存症の人がやめられないのか、どのようにやめていったらいいのか、もっと依存症の患者さんに共感できる自分となれるような気がします。そのようなことも医師の教養を通じて先生に教えて頂く機会にもなりました。素敵な機会をありがとうございました。

 

 

P.S.  依存症ビジネス:「ついつい手が出るもの」

https://m.media-amazon.com/images/I/51rsJMdQ-+L.jpg

 

 『依存症ビジネス』デイミアン・トンプソン(著)ということでやや激しいタイトルではありますが、もともと依存になりやすい人間として注意・警告ととらえれば自身への戒めにもなると感じました。

 通知はもしかして「Facebookの投稿に対するコメントかな?」とかいうように、ついつい手が出てしまうものはスマホだけでなく様々なものがあります。依存を巧みに利用する自由市場とつながっており、スイーツとしてクリスピー・ドーナッツやスタバのフラペチーノのような商品、オンラインポルノをはじめ、カジノや麻薬・鎮痛薬だけでない様々な激しいドパミンジャンカー的な誘惑について以前から紹介されています。

 スマホ対策だけでなく、他にも対策することで、そもそも依存しやすいものだと意識しながら、「自由な選択肢や時間」が増やせるかもしれませんね。そして、スマホSNS通知設定SNSとの向き合い方iPhoneカラーフィルターなどと組み合わせて上手に使っていく必要があると思います。

 

P.S. ネットやSNSでの情報・ニュースと向き合う

 スマホ脳で紹介された依存症のような状況として、似ているものにネットやSNSでの短い・浅い情報やニュースを幾度となく見てしまう状況があります。その状況から失ったもの(注意力、時間等)を取り戻すためのヒントとして『News Diet』という本を読み、それを元に読書ログにしました。よろしければ、ご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 今回取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

 

 

小脳疾患・小脳症候群と身体所見

小脳疾患・小脳症候群と身体所見

 

<目次>

 

 小脳障害というと、運動失調、眼振がぱっと思い浮かびました。運動失調の所見として指鼻指試験、踵膝試験、回内回外試験ぐらいはOSCEもあり、どのように診察するかまで容易に想像がつきます。

 さて、今回はめまい関連の診察の際に、小脳障害の所見としてつぎ足歩行のような歩行試験が感度が良く、他の小脳所見がなくても陽性になりやすいと聞きました。髄膜炎の際のjolt accentuationは項部硬直よりも感度が高いというようなのと同じく、身体所見の有無だけ(0 or 1)ではなくて身体所見に対する重みづけ・意味づけもできればと思います。

 

 今回は小脳疾患の身体所見について深掘りしてみたいと思います。

 

1.小脳疾患の主要所見

 それでは、小脳疾患の主要所見(身体所見)から挙げていきたいと思います。

<小脳疾患の主要所見>

  • 運動失調
  • 眼振
  • 筋緊張の低下
  • 構音障害

 

運動失調

指鼻指試験、膝踵試験、回内回外試験

 

 運動失調とは、早さや滑らかさ、および適切な方向性を欠いた非協調的な随意運動である。小脳機能は運動を統括制御する点にあるため、運動失調の検査は運動に関与する筋力が十分にある場合にのみ可能である(MRCスケールで4~5)。運動失調の検査には、歩行の観察、指-鼻-指試験(finger-nose-finger test)、踵-膝-脛試験(heel-knee-shin test)、および急速交代運動がある。

 失調性歩行は、小脳症候群のうちで最もよくみられる所見である。そのため、小脳疾患が疑われる患者の評価の1つとして歩行検査は重要である。小脳疾患患者では、他に四肢の運動失調所見が全くなくても歩行障害を呈することが多い。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 指鼻指試験はおそらく知っている人が多いと思います。踵-膝-脛試験はいわゆる膝踵試験、急速交代運動はいわゆる回内回外運動であり、回内回外運動以外にも拮抗運動反復ができるような簡単な繰り返し動作で調べることができます。この項目は知っている人も多かったと思います。盲点は「筋力が十分にある場合にのみとることが可能な所見」という点かと思います。

 何より、歩行障害の感度が高そうで可能であればストレッチャーで運ばれてきた患者さんでも立ってもらい歩いてみてもらいたいですね。

 

 ちなみに真の小脳性運動失調症cerebellar ataxiaは前庭神経障害や迷路障害に伴う失調と区別できるようです。

 

前庭神経障害や迷路障害による失調

 かなりの程度の浮動感、頭部ふらふら感、運動知覚障害を伴う歩行障害をきたす。

小脳性運動失調

 これらのめまい様の症状がなく、平衡障害にもとづく明瞭な不安定歩行を呈する

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

眼振(小脳性眼振

 小脳疾患において最もよくみられる眼振は、側方注視時の水平性衝動性共同眼振である。

 小脳疾患のみで報告されているまれな眼振に反跳眼振がある。この眼振検査は、初めに患者に一方向を凝視してもらう(たとえば、右を見てもらうように伝える)。陽性であれば、右への急速相をもつ鋭い眼振が出現する。患者が同じ方向を約20秒間注視し続ければ、眼振は減衰する(逆方向に向くことすらある)。患者が視線を元に戻すと(正面を向くと)、当初はなかった左向きの眼振が出現し、時間とともに減衰する。これらの患者では、患者が最初に左右のどちらかを凝視するかによって眼振の方向を逆にすることが可能である。

 小脳性眼振の75%は、側方注視時にみられる水平性衝動性共同眼振である(15%は回転性眼振、10%は垂直性眼振)。水平性衝動性眼振は小脳疾患に特異的ではなく、末梢性の前庭疾患やその他の中枢神経疾患でもみられる。

 反跳眼振は遅発性で、出現する頃にはすべての患者で他に小脳所見がみられることから、臨床的有用性は限られる

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 診断的な意義や小脳疾患を疑うという視点からは、小脳性眼振があるかどうかをみるみつけることが有効でありそうですね。しかし、水平性衝動性眼振は小脳疾患に特異的ではなく前庭疾患等の末梢性等を含むことも留意が必要ですね。

 

筋緊張の低下

 小脳疾患の患者は、受動的な肢位変換に抵抗できず、深麻酔下にある患者や死後直後の遺体の筋肉に似ている。例えば、膝蓋腱を叩くと3回以上揺れる振り子様の膝蓋腱反射が生じる。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

構音障害

 小脳疾患患者の発話はゆっくりで、不明瞭、音量や抑揚が不規則である。小脳所見の中では出現頻度が最も低いが右よりも左小脳半球の病変でみられやすい。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 それぞれの身体所見の意味づけも詳しくできそうです。片側の小脳病変の患者において、これらの4つの主要な所見がどの程度の頻度で見られるのかについては下記の通りです。

 

<片側性小脳病変と所見の頻度>

身体所見

頻度

運動失調

 

・失調性歩行

80-93%

・四肢の運動失調

 

 ①測定障害

71-86%

 ②企図振戦

29%

 ③拮抗運動反復不全

47-69%

眼振

54-84%

筋緊張の低下

76%

・振り子様膝蓋腱反射

37%

構音障害

10-25%

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 やはり、聞いていた通り失調性歩行の頻度が最も高く次に測定障害ということでした。はっきりとした小脳障害の所見が出ないときには歩かせてみること(つぎ足歩行)も億劫にならずにやってみたいと再確認です。

 さらに2番目は測定障害ということで、指鼻指試験や膝踵試験の方が回内回外試験よりも陽性になりやすい(小脳疾患をみつけやすい)という発見もありました。



2.小脳症候群

 次に小脳が障害されたときにどのような所見がみられるかなどを小脳症候群ごとに深掘りしていきたいと思います。まずは小脳症候群についてから。 

 

 小脳疾患の患者は頭痛と歩行障害のどちらか、もしくはその両方を有することが多い。成人では4つの小脳症候群がよくみられ、それぞれはおもな小脳所見の分布の違いによって特徴づけられる。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 第4版

 

 小脳症候群は部位ごとに小脳半球症候群、前部小脳変性症(rostral vermis syndrome)、汎小脳症候群、小脳梗塞の4種類あります。

 これらの症候群の特徴をまとめてます。

 

<小脳疾患における主要所見と特徴>

小脳半球症候群

小脳所見

四肢の運動失調

(測定障害、企図振戦、拮抗運動反復不全)

85%が片側性

(うち80-90%が同側の病変)

眼振

片側性患者の65%

(70%が眼振方向に病変)

随伴症状

脳神経所見

(通常、V, VI, VII, VIII脳神経)

10-20%

(病変と同側性のものは75%)

意識障害

38%

上位運動ニューロン徴候

28%

乳頭浮腫

68%

前部小脳変性症

(原因:慢性的なアルコール摂取が多い)

上肢障害

16%のみ

失調性歩行

100%

両側下肢の失調

88%

眼振と構音障害

9%

汎小脳症候群

運動失調、眼振、筋緊張の低下、構音障害

※両側対称性

(原因:薬物中毒(例;フェニトイン)、遺伝性、腫瘍随伴症候群など)

脳梗塞

小脳半球症候群に類似

※以下の点が異なる

・すべての所見が突然出現

・構音障害が多い(44%)

・筋力低下が多い(22%の片麻痺患者、24%の四肢麻痺患者)

(参考)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 各々の身体所見と小脳病変ごとの違いや、小脳梗塞をはじめとする症候群毎の違いもはっきりしたように感じます。

 脳梗塞は突然出現することが特徴的ですね。さらには脳梗塞以外では四肢の運動失調や失調性歩行が見られやすい印象ですが、脳梗塞では、構音障害や筋力低下が多いあたりは、小脳梗塞を疑った際には四肢の運動失調や歩行性失調がないから「小脳らしくない」と誤って考えてしまいそうで注意が必要そうです。

 

 

3.まとめ

  • 小脳の障害では一般的に失調性歩行が最も認められやすく次に四肢の運動失調を認めやすい
  • 小脳梗塞の際には突然発症であり、構音障害や筋力低下が多いことに注意が必要

 診察時には、まずはこれぐらいから注意して考えていければと思います。

 

 今回はマクギーのフィジカル診断学ハリソン内科学の2冊から広げて比較や深掘りをしてみました。是非もっと詳しく読んでみてください。

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 今回はじめ、いつ読んでも発見のあることが多いハリソン内科学マクギーのフィジカル診断学だと感じます。読者レビューをはじめ気になる方はチェックしてみてください。

 

 

急性胆嚢炎とST上昇|心疾患以外の鑑別まで

急性胆嚢炎とST上昇(心電図)

心疾患以外のST上昇の鑑別まで

 

<目次>

 

 

 急性心筋梗塞(※STEMI)では、心電図(ECG)でST上昇が認められるというのは有名なことかと思います。

 心窩部痛や上腹部痛、右季肋部痛で来たらどうでしょうか?心筋梗塞(胸部の疾患)も否定したいですよね。そこで心電図を取った場合にST上昇を認めたら、やっぱり心筋梗塞か?となると思います。もちろん、他にもブロックや心筋炎によるST上昇とか考えるとミラーリングの有無とかも気になるところではあると思いますが、心臓に原因があるとフォーカスすることになりそうです。

 

 もちろん、問診で心筋梗塞であれば、Onsetや動脈硬化因子、放散痛、随伴症状と聞くことでヒントになる部分もありますが、やはりそれでは除外できないですよね。

 今回は心筋梗塞を疑ったものの急性胆嚢炎という症例と巡り会う機会がありました。そこから、急性胆嚢炎と心電図変化について深掘りしてみたいと思います。



1.ST上昇の鑑別(心電図)

 まずは、ST上昇の鑑別から調べてみます。もしかして教科書に載ってるぐらいの知識だったらどうしようとも思っています。心電図に関して安定したよりどころにもなる教科書をチェックしてみたいと思います。

 

〈ST上昇の鑑別診断〉

正常亜型

早期細分極

→上に凹のST上昇でQRS後半成分にノッチ(J波)を伴う。徐脈時に顕著。

・男性、若年者に多い。

虚血性心疾患

急性貫壁性心筋虚血(異型狭心症を含む)

急性および陳旧性心筋梗塞

心室壁運動異常、心室

持続性のST上昇

特に心拍数の上昇時に著明

急性心膜炎、急性心筋炎

 

左脚ブロック、左室肥大

右胸部誘導でみられる

Brugada症候群

 

その他

カリウム血症、急性肺性心(肺血栓塞栓症など)、電気的除細動器、急性脳血管障害、頭部外傷、低体温、心臓腫瘍、心サルコイドーシス、エキノコッカス心嚢胞など

人工的原因

基線の動揺、心電図モニターにおける変化など

※1次性ST-T変化としてST低下、T波減高、陰性T波の見られる原因の中に胆嚢炎の記載があり。

(出典)心電図の読み方パーフェクトマニュアル 理論と波形パターンで徹底トレーニング!

 

 心筋梗塞心室壁運動異常、心室瘤、急性心膜炎、急性心筋炎、左脚ブロック、Brugada症候群あたりの心臓に原因があるものは納得の原因かと思います。一方で心臓以外の原因で、カリウム血症、急性脳血管障害(くも膜下出血など)、低体温あたりは盲点のように感じました。特に、くも膜下出血をはじめとする脳血管障害でST上昇が認められるときがあるのは、驚きです。

 くも膜下出血をはじめ、脳血管障害はST上昇だけなのでしょうか。他も探してみます。

 

くも膜下出血などの脳血管障害急性期の 50∼ 100% に心電図異常を認める。

 主な変化は ST上昇、ST下降、大きな陽性T波、陰性 T波、QT延長、J波の出現、不整脈などである。とくにST変化、T波変化を伴う QTの延長が特徴的である。不 整脈の合併も多く洞頻脈、洞徐脈、心房細動、房室ブロック、心室性期外収縮心室頻拍、心室細動など多彩である。

(出典)心電図の読み方パーフェクトマニュアル 理論と波形パターンで徹底トレーニング!

 

 くも膜下出血(SAH)の際は、ST上昇に限らずST低下も含めたST変化、T波を伴うQTの延長なんですね。他にもくも膜下出血であれば、病歴で雷鳴様頭痛などがあればヒントにはなりそうです。(頭痛のないSAHとかもありますが)

 

 さて、急性胆嚢炎ではST上昇というのはメジャーな所見ではないようですね。詳しく調べていきたいと思います。



 

2.急性胆嚢炎と心電図変化

  Pubmedで検索してみるとReview articleはなかったのですが、症例報告が複数見つかりました。いくつか、チェックしてみたいと思います。

 

【症例1】56歳女性〔胸痛(放散のない刺されるような正中の痛み)〕

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4925988/bin/CRIM2016-3132654.001.jpg

・II、III、aVF誘導にて2mmのST上昇

(出典)Case Rep Med. 2016;2016:3132654. doi: 10.1155/2016/3132654. Epub 2016 Jun 15.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27403165/



【症例2】心血管系疾患の既往のない34歳女性(上腹部痛)

(入院後)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3134683/bin/jls0011127070001.gif

・II、III誘導にて2mmのST上昇

・V5、V6、aVFにて1mmのST上昇

(出典)JSLS. Jan-Mar 2011;15(1):105-8. doi: 10.4293/108680811X13022985131534.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21902954/

 

【症例3】69歳女性(腹部違和感、発熱)

・V1誘導にてcoved型ST上昇(右脚ブロックあり)

(出典)Circ J. 2003 Sep;67(9):802-4. doi: 10.1253/circj.67.802.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12939560/

 

【症例4】63歳女性〔胸痛(間欠的、band-like、胸骨下の痛み)〕

・V1、V2、V3誘導にて3~4mmのST上昇

 

 胆嚢の疾患と心疾患は長い間関連するとされてきた。この関連性に関して胆道拡張(膨満)による心電図変化であるとする研究が試みられてきた。これらの研究では、びまん性で非特異的なT波の陰転化(陰性T波)、ST低下が通常を認めるとのことである。

(出典)Mil Med. 2006 Dec;171(12):1255-8. doi: 10.7205/milmed.171.12.1255.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17256696/



 他の症例報告(男性のものも)もありましたが、ST上昇のみられる誘導や形に規則性もなさそうですね。胆道拡張であれ、ST上昇をもたらすとすれば、他にもSTを生じる心臓関連以外の疾患(腹部疾患など)がないかも調べてみたいと思います。



 

3.消化器症状とST上昇

消化器症状を伴うST上昇の鑑別疾患

・肺炎、肺塞栓、穿孔性胃潰瘍

・腸閉塞、急性虫垂炎、急性膵炎、急性胆嚢炎、褐色細胞腫

・細菌性髄膜炎、糖尿病性ケトアシドーシス大麻乱用

・食道穿孔、腸間膜虚血、大動脈解離、Kounis症候群、電解質異常

 

 胸痛を伴わない消化器症状における心電図のST上昇では、心エコーが心筋梗塞たこつぼ心筋症との鑑別に役立つ。

(出典)Am J Emerg Med. 2021 Jun 4;49:137-141. doi: 10.1016/j.ajem.2021.05.067. Online ahead of print.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34111833/

 

 ここまでいくと、もはや何でもST上昇ありですね。心電図でST上昇がみられても心筋梗塞たこつぼ心筋症のような心疾患ではなくお腹の病気も疑うという前に、心エコーで確認したいですね。「ST上昇⇒心エコーで確認!」を第一にして、心エコーで心筋梗塞たこつぼ心筋症でないときに、上記のような心疾患以外のST上昇の鑑別疾患を考えてみたいと思います。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 

 本日取り上げた書籍になります。心電図関連として1冊持っておくと安心感のある本です。読者レビューを含め、気になる方はチェックしてみてください。

 

心不全②|クリニカルシナリオと病態・治療(急性心不全)

心不全② クリニカルシナリオと病態・治療(急性心不全

 

<目次>

 

 前回は心不全(主に慢性心不全の病態や治療薬)についてやってきました。今回は急性心不全について深掘りしていきたいと思います。

【前編】心不全① 病態と治療薬(慢性心不全)

 

1.急性心不全に陥るとき

 前回の記事(心不全①)にて病態を調べてみたところ、交感神経の亢進、RAA系の亢進、バソプレッシンの分泌亢進が病態の鍵になるというようなお話をしました。今回はその何とか無症状か軽度の症状で保っていた状態が崩れてしまい、急性心不全(急性非代償性心不全)に陥るのかについて考えていきたいと思います。

 

 急性非代償性心不全 acute decompensated heart failure(ADHF)は多種多彩な臨床症状を呈する症候群であり、ほとんどの場合、心機能低下、腎機能低下、血管コンプライアンスの変化など相互に関連した異常が重なって入院が必要になる。患者の管理は今日でも厳しく、末梢臓器(心臓と腎臓)への灌流を維持しつつ体液量と血管抵抗低下の管理に始終する。

 管理における第1の原則は、既知の心不全悪化要因を同定しそれに対応することである。服薬の不復行や処方薬の内容(非ステロイド性抗炎症薬、心臓刺激薬を含む風邪薬やインフルエンザ薬、甘草、人参、麻黄などの漢方薬)を把握し管理する必要がある。臨床所見から活動性感染や明確または不明確な肺塞栓が示唆される場合、これらの疾患を検索・同定し治療すべきである。可能なら、不整脈は以下のように治療すべきである。心機能低下例の頻脈性心房細動では心拍数調節または洞調律化を行い、心筋虚血が持続している場合は冠動脈血行再建術を行い、心筋酸素需要の増大に関連した心筋虚血では持続している出血などの原因を治療する。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 ここでは、心不全の悪化要因を同定してそれに対応することと書かれていますが、薬関係や感染症、肺塞栓、不整脈といったようなものが挙がっていますが、急性の治療に加えて原因にも注目して根本的に解決していくことが必要ですね。

 

 心不全の原因は「FAILURE」と聞いた人も多いと思うので紹介しておきます。

 

心不全の増悪因子 “FAILURE”>

心不全の増悪因子 "FAILURE"

F: Forgot meds

怠薬

A: Arrhythmia, Anemia

不整脈、貧血

I: Infection, Ischemia, Infarction

感染症狭心症心筋梗塞など

L: Lifestyle

塩分過剰摂取、ストレスなど

U: Upregulators

甲状腺疾患、妊娠、脚気心(ビタミンB1欠乏)

R: Rheumatic valve, valvular disease

弁膜症

E: Embolism

肺塞栓症

(出典)内科レジデントの鉄則 第3版

 

 

 では、急性期(急性心不全)の病態と治療薬を具体的に考えていきましょう。まずは前回の病態の図のどこが崩れてしまうのかを考えてみました。例えば、怠薬や塩分摂取過剰で循環血漿量が急激に増加したとしましょう。すると、循環血漿量の増加が引き金となって悪循環に陥ると考えることができると思います。

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急性心不全の病態①

 交感神経が亢進すると静脈や肝臓でプールしている血液がプールから戻り、循環血液量が増加します。それに対して心臓のポンプ機能が追いつかず肺うっ血が生じ、呼吸困難が生じて交感神経がさらに亢進して悪循環に陥るとか考えることができます。

 

 もうひとつ例を挙げるとすれば、感染症やストレスで交感神経が急激に亢進したとしましょう。すると、交感神経の亢進から悪循環に陥るというように考えることができると思います。

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急性心不全の病態②

 いずれも、心臓のポンプ能にある程度以上の予備能があれば急性心不全の状態に陥らなかったかもしれませんが、既にポンプ機能が落ちてしまった心臓にはそれを代償できなかったと考えられます。そして、どんどん息は苦しくなるし悪循環に陥ると考えられます。そこで、急性期の治療が必要となってきます。



2.クリニカルシナリオと病態・治療

 では、急性心不全の状態の分類(病態)と急性期の治療について考えていきます。急性心不全治療ガイドラインでは、いかに早期に病態把握を行い、治療を行うかという視点からクリニカルシナリオ(Clinical Scinario; CS)という概念があります。来院時(治療前)の収縮期血圧(SBP)によって急性心不全の病態を分類して治療方針を決めるものです。これを用いて急性心不全の病態・治療を考えていきたいと思います。

 

<クリニカルシナリオ>

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クリニカルシナリオと治療薬

 血圧 140 mmHg以上のクリニカルシナリオ1に相当する心不全は高血圧性心臓病を基礎とし、拡張機能障害型で、後負荷ミスマッチによって急性肺水腫として発症するタイプが多く、早期の非侵襲的陽圧換気(NPPV)による酸素化改善と血管拡張薬による血圧管理が重要です。この場合のうっ血には著明な体液量増加より肺血管床への血流再配分が関わっていると考えられています。

(出典)心臓 vol. 48 No.9 (2016): 1107-1111.

 

 まずは、クリニカルシナリオ1(収縮期血圧>140 mmHg)のときについて考えてみます。拡張機能障害型ということで、言い換えればHFpEFの患者さんで高血圧などが続いており、左室肥大等から拡張障害が生じている患者さんでしょうか。

 そのような患者さんで、後負荷ミスマッチ(afterload mismatch, 後負荷不適合)、すなわち血圧が上昇(後負荷が増大)した状態で収縮性や前負荷を増大させることができず代償できない状態が生じたとしましょう。左室機能を上げて代償することができないので、その手前にある左房や肺に血液がうっ血する状態(肺うっ血)になると考えられます。

 

 具体的に下図を用いて病態と治療を考えてみます。急性心不全の悪循環な病態を止めるためにどこをターゲットに治療薬を用いているを図にしてみました(クリニカルシナリオ2,3もあります)。

 

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急性心不全の病態と治療

 何らかのストレスや怠薬等で循環血液量が増えて左室拡張末期容量が増加したとします。すると、左室拡張末期圧も上昇します。すると、左房圧や肺静脈圧が上昇し、肺うっ血にもなります。さらに交感神経が亢進し、RAA系が亢進し、血圧が上昇(後負荷が上昇)することで悪循環になっていると考えられます。


 クリニカルシナリオ1の病態では、急性の肺うっ血がメインであり、肺うっ血にならないようにNPPVを用いたり、硝酸薬にて静脈に血液をプールし静脈還流量を減らすようにしちえると考えられます。NPPVでは、肺に圧をかけることで肺の血管にも圧がかかり、うっ血しにくいとも考えられます。

 

 では、クリニカルシナリオ2,3にいきましょう。

 

 クリニカルシナリオ2に相当する心不全では体液貯留が主体の心不全であることが多く、低心機能、腎機能障害および神経体液性因子の亢進を背景に、緩徐にうっ血をきたすと考えられており、利尿薬治療が必要となります。

 

 収縮期血圧 100 mmHg未満のクリニカルシナリオ3に相当する心不全は、しばしば重症の心機能障害を有します。低灌流の所見があり、coldと判断した場合には、強心薬が必要です。低灌流による臓器障害を進展させないために、臓器保護の観点からも必要な場合は早期に強心薬を用いることが重要です。一方で、強心薬投与による心不全の予後改善効果はなく、むしろ細胞内カルシウム過負荷による心筋障害や催不整脈作用などが指摘されており、可能な限り最小限、短期間の使用に留める必要があります。

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(出典)心臓 vol. 48 No.9 (2016): 1107-1111.

www.jstage.jst.go.jp

 

 クリニカルシナリオ2,3となるほど心機能がEFベースでも悪そうですね。悪くなるほど、水分シフト(肺うっ血)の病態だけではなく、慢性的な水分貯留(体うっ血)もあるということを感じました。

 一方でクリニカルシナリオ1の人は肺うっ血がメインな病態であり、心不全でよく聞く下腿浮腫はみられなくても良いということを病態から考えさせられました。

 

 

【前回:慢性心不全についてはこちら】

mk-med.hatenablog.com

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

心不全①|病態と治療薬(慢性心不全)

心不全① 病態と治療薬(慢性心不全

 

<目次>

 

 心不全には様々な分類がありますが、何となく「心臓のポンプ機能が十分に働かない」という程度で考えていると、治療になぜその薬を用いるのか、なぜ用いないのかというあたりがあまり理解できないように感じました。そこで心不全の病態や分類について調べてみることにしました。まずは教科書の要約・抜粋から。
(調べていったところ、この記事は急性心不全の話よりも慢性心不全の話になりました。急性心不全は次回にしたいと思います)

【急性心不全の記事】

心不全② クリニカルシナリオと病態・治療(急性心不全) - 医学生からはじめる アウトプット日記

 


1.心不全の病態

 心不全heart failure (HF)の不均一性と複雑性を含んだ機序にもとづいた定義を開発しようと繰り返し試みられたが、時代時代の分析に耐えて残った概念的枠組みは1つもない。現在のAmerican College of Cardiology Foundation (ACCF)/American Heart Association (AHA)ガイドライン心不全心室充満や血液駆出の構造的・機能的障害に由来する複雑な臨床的症候群と定義づけたが、このような障害は日常的臨床症状である呼吸困難と倦怠感、心不全の徴候である浮腫とラ音を引き起こす。なお、体液過剰の徴候や症状のない患者が多いため、古い用語の「うっ血性心不全」よりも「心不全」という表現が好ましい。

 

<病態生理>
 誘因となるイベントは全てが多少なりとも心臓のポンプの低下を引き超こす。心機能が低下した当初はほとんど症状はないか、わずかしかなく、心機能が低下してしばらくたってから症状が出現する。

 心不全患者における心拍出量の減少は、左室内、頚動脈洞、大動脈弓の高圧系圧受容器の減負荷を生じさせる。この末梢の圧受容器の減負荷が副交感神経を介した抑制性シグナルを減少させ、その結果、遠心性の交感神経活動と下垂体からのアルギニンバソプレシン(AVP)の非浸透圧性の放出を亢進させる。AVP [あるいは抗利尿ホルモン(ADH)]は集合間での自由水再吸収に働く。中枢への求心性シグナルは、心臓や、腎臓、末梢血管、骨格筋を神経支配している遠心性の交感神経経路を活性化させる。
 腎臓の交感神経刺激によりレニンの分泌が起こり、その結果アンジオテンシンIIとアルドステロンの血中濃度が増加する。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 (RAA系)の亢進ナトリウムと水分の貯留を促進し、末梢血管を収縮させ、心筋細胞の肥大、心筋細胞死、心筋の線維化へと導く。

 

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心不全における神経体液性因子の活性

 このような神経体液性因子の調節は、短期的には血圧の維持、したがって重要臓器灌流を維持するように促す。また、神経体液性因子の調節は心臓と循環系の水分の貯留に寄与していると考えられている。

 これに加え、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、プロスタグランジン(PGEs, PGIs)、一酸化窒素(NO)を含む血管拡張因子活性化すると、過剰な末梢血管収縮が相殺される。これらやサイトカインをはじめとして、左室リモデリングとよばれる心筋内における一連の適応性の変化を引き起こす。

 このような代償機構が左室機能を生理的範囲内に維持できるよう調節していることで、患者の機能的能力は保持されるか、わずかに低下する程度にとどまっている。したがって、患者は数年間は無症状か症状がほとんどない状態となる。しかし、ある時点から症状が明らかになり、その結果心不全による合併症発現や死亡リスクが増加する。


<駆出率の低下した心不全 HFrEF; Heart Failure with a reduced EF>
  左室リモデリングに関わる生理活性物質が持続的に過剰発現し、心臓と循環に有害な作用を及ぼして心不全の進展に寄与すると考えられている。実際にこの考え方が、心不全患者の治療においてこれらの系を遮断する薬物(例;ACE阻害薬、β遮断薬)を使用する臨床的根拠となっている。

 

<駆出率の保たれた心不全 HFpEF; Heart Failure with a preserved EF>
 HFpEFの進展に寄与する機序については理解の途上にある。拡張機能障害が唯一の機序と考えられていたが、血管の硬さの増加や腎機能障害のような心臓以外のその他の機序も重要であることが研究によって示されている。

 

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 やはり、複雑でまだしっかりとは解明されきってはいない面もありますね。つまみ食い形式で文量を減らしてみましたが、何だかすっきりしません(笑)そもそも、短くはなったものの短いとも言い切れない文量があります(泣)

 交感神経亢進、RAA系亢進、バソプレッシン分泌亢進というあたりがキーになりそうですね!これらを代償することができなくなったときに、負のスパイラルに陥って急性心不全になりそうです。例えば、呼吸困難感染普段以上に交感神経の亢進があった際には何とか維持をしていたバランスを保てなくなりそうです。
 誘因となる原因は心臓のポンプの低下を引き超こすということで、もちろんその原因そのものを治療できるものも中にはありますね。しかし、左室モデリングは心臓を移植するとかしない限りは解決しませんね。

 


2.心不全と治療薬

 病態の復習や理解を深めるのにつながることを期待して治療薬についても調べてみます。

<慢性心不全の経口薬>
・ACE阻害薬
・ARB
・β遮断
・抗不整脈
・血管拡張
・利尿薬
・バソプレッシンV2受容体拮抗薬
ジギタリス

(出典)循環器内科ゴールデンハンドブック(改訂第4版)

 

 RAA系の亢進を抑えるACE阻害薬ARBモデリング防ぐACE阻害薬β遮断薬不整脈由来の心不全をコントロールする抗不整脈薬、冠動脈や血管の拡張をさせて狭心症や高血圧症の治療になるノルバスク錠をはじめとする血管拡張薬(血管拡張因子のお手伝い?と考えられる)、腎臓での水の再吸収を抑えるバソプレッシンV2受容体拮抗薬と先ほどの病態から説明できそうです。
 ジギタリスに関しては昔から使われてきましたが、近年では減少傾向のように感じます。やはり、メカニズムから考えるにエビデンスの再考等が考えられるのも納得です。特に慢性期には体液管理等が優先だと感じるので、基本的には第1選択で使うことには疑問を感じます。

 

 さらに心不全の分類(Forrester分類、Nohria-Stevenson分類)による治療法も調べてみましたが、ハリソン内科学ではその分類の説明やそれ基づいた治療法の説明はなく、HFrEFやHFpEFごとの治療法や、急性非代償性心不全の際の治療法についての記載でした。

 

 今回調べたことは主に代償がはたらきバランスを保っているときだと思うのですが、急性非代償性心不全(急性心不全、慢性心不全の急性増悪)について次回は調べてきたいと思います。

 

【続き:急性心不全

mk-med.hatenablog.com

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 今回取り上げた、いつでも何か復習や発見のあるハリソン内科学になります。もっと心不全について治療まで読み進めてみたといったことやアマゾンの読者レビューをはじめ、気になる方はチェックしてみてください。

 

瞳孔散大とショック(血圧低下)

瞳孔散大とショック(血圧低下)

 

<目次>

 

 

 末期担癌患者さんのショックバイタル(血圧の測定も△)で両側の瞳孔が散大している患者さんのお話を聞きました。救急では「ABCDの順で」といっても瞳孔散大(Dの異常)を見かけるとABCよりも目につきやすく気になってしまいそうですね。

 今回は、そのような瞳孔所見について深掘りしていきます。

 

1.瞳孔所見と鑑別

 まずは瞳孔が解剖学的に何によって調節されているかを知ることで鑑別疾患を考えることができると思うので、調べてみました。

 

 正常の瞳孔径の調節は、虹彩、第II・III脳神経、および眼球に分布する交感神経によって維持されている。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

ということは、虹彩第II脳神経(視神経)第III脳神経(動眼神経)交感神経(もしくは副交感神経とのバランス)によって瞳孔所見が決まってくると言えますね。対光反射の経路と混同してしまいそうな私自身がいます(笑)

 

 では、瞳孔所見と鑑別疾患を調べてみました。

 

所見

鑑別疾患

両側縮瞳

(瞳孔径2mm以下)

ほとんど全ての代謝性昏睡

・糖尿病性ケトアシドーシスDKA

・高二酸化血症

有機リン中毒

モルヒネ中毒

間脳の両側障害

中脳破壊病変(対光反射も消失)

瞳孔散大

・抗コリン薬中毒(興奮・昏迷の場合)

・低酸素血症(深昏睡の場合)

瞳孔散大+眼球運動障害

・脳幹の動眼神経核周囲の損傷

片側性で対光反射が直接間接ともに消失

・末梢動眼神経麻痺

 →脳出血、脳ヘルニア

瞳孔不同+対光反射遅延

てんかん(Seizure)の発作中・発作後

両側散大と対光反射消失

(非常に重篤な全身状態)

・心肺停止後

・低体温

バルビツール酸

 

 意識を司る脳幹網様体と瞳孔支配の神経経路は隣接しており、昏睡患者に見られる瞳孔異常は脳幹の障害を強く疑うべきである。昏睡には代謝性(内因性・代謝性)と器質性によるものがあり、瞳孔調節は代謝による影響を受けにくいため、昏睡+対光反射消失=器質性疾患(代謝性疾患を除外)と考えて良い。

 

(出典)疾患を絞り込む・見抜く!身体所見からの臨床診断

 

 刺激を与えれば何らかの反応を得られる状態(昏迷)であれば、代謝性疾患も器質性疾患考えられて、刺激に全くの反応がない状態(昏睡)であれば、器質性疾患というのは、盲点でした。

 他にも、瞳孔不同であればてんかん、片側性瞳孔散大+対光反射消失であれば脳出血や脳ヘルニアというような末梢動眼神経麻痺ということで、瞳孔に左右差があれば頭を疑うとも言えそうです。

 


2.瞳孔散大(散瞳) dilated pupil, mydriasis

 さらに瞳孔散大の部分だけを深掘りしていきます。

 

<瞳孔散瞳の原因>

病態

備考

生理的瞳孔不同

(Physiologic anisocoria)

・ほのかな明かりの中で0.4mm以上の瞳孔不同があることがある

・対光反射は正常、明暗によらず一定の瞳孔差

動眼神経の圧迫

(Hutchinson pupil)

・腫瘍、動脈瘤、外傷病変など

・最も多い原因はPCoA, ICAの動脈瘤

動眼神経麻痺 118名中45名がPCoAでったという報告もある)

緊張性瞳孔

Tonic pupil

毛様体神経節の障害(原因の多くは不明)

・特発性で片側性=Adie pupil

・シェーグレン症候群、巨細胞性動脈炎、関節リウマチを含む膠原病、傍腫瘍症候群、アミロイドーシス、アルコール性、糖尿病性の末梢神経障害との関連があるとする報告もある

中毒性・薬剤性

Toxic (pharmacologic) pupil

両側性の散瞳(片側性は様々)

→中枢神経に作用する物質:アトロピン、スコポラミン、アンフェタミンマリファナ大麻)、LSD、グルテチミド

・外来で多い(指→眼):スコポラミン、ベラドンナ

・入院患者で多い:抗コリン剤(吸入)→例:吸入気管支拡張薬

アサガオ(Jimson weed含む):スコポラミン、アトロピン、ヒヨスチアミンを含むアルカロイド


ボツリヌス毒素

(他の多くのtoxic pupilと異なり1%ピロカルピンに反応する)

その他

・先天性

・良性一過性片側性散瞳症(片頭痛の女性に多い)

・”Tadpole pupil”:虹彩拡張筋の発作性分節性けいれんによる

 →オタマジャクシのような形になる

 →交感神経障害の初期徴候:ホルネル症候群の1/3以上

・角膜形成術や眼科手術(対光反射なし)

・外傷 →例:cat’s eye

 

・多くの場合、瞳孔散大は副交感神経支配障害を意味し、対光反射は保たれる

動眼神経の副交感神経線維はもっとも動眼神経の最も外側を通る

 →動脈瘤などの外部からの圧迫が最も疑われる

 

(出典)Curr Opin Ophthalmol. 2013 Nov;24(6):550-7. doi: 10.1097/ICU.0000000000000005. 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 しかし、今回の瞳孔散大を調べるきっかけとなったショックバイタル(血圧低下)に関しては直接的には言及されていません。ショックで交感神経が亢進したことによって瞳孔散大となるのでしょうか?

 

3.瞳孔散大と循環血漿量減少性ショック

 さらにショックバイタル(血圧低下)と瞳孔散大の関係性がないかを探してみました。次のような症例報告のようなものがありました。

 

<17歳女性 循環血漿量減少性ショックの症例>

【バイタルサイン】

収縮期血圧 85 mmHg(元々130 mmHg), 心拍数 85 回/分(数分間は115 回/分以上) 

 

 急性出血性循環血漿量の減少により交感神経活性が生じた。全身での交感神経の亢進が、理論的には瞳孔散大を生じさせたとされる。

 この症例では心壁の破裂もあり、血行動態が不安定であったため全般的な脳虚血によって瞳孔散大が生じたことも考えられる。

 

(出典)Br J Neurosurg. 2020 Apr;34(2):235. doi: 10.1080/02688697.2020.1718602. Epub 2020 Jan 28

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 いずれにしても、瞳孔散大循環血漿量減少性ショック(hypovolemic shock)の警告になるということは心に留めておきたいと思います。



~最後に~

 瞳孔の異常を見つけても、短絡的にD(Dysfunction of CNS)の異常に目を奪われる前に、Airway, Breathing, Circulation(ABC)も大丈夫かを忘れないようにしたいと思います。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。