<目次>
前回は心不全(主に慢性心不全の病態や治療薬)についてやってきました。今回は急性心不全について深掘りしていきたいと思います。
1.急性心不全に陥るとき
前回の記事(心不全①)にて病態を調べてみたところ、交感神経の亢進、RAA系の亢進、バソプレッシンの分泌亢進が病態の鍵になるというようなお話をしました。今回はその何とか無症状か軽度の症状で保っていた状態が崩れてしまい、急性心不全(急性非代償性心不全)に陥るのかについて考えていきたいと思います。
急性非代償性心不全 acute decompensated heart failure(ADHF)は多種多彩な臨床症状を呈する症候群であり、ほとんどの場合、心機能低下、腎機能低下、血管コンプライアンスの変化など相互に関連した異常が重なって入院が必要になる。患者の管理は今日でも厳しく、末梢臓器(心臓と腎臓)への灌流を維持しつつ体液量と血管抵抗低下の管理に始終する。
管理における第1の原則は、既知の心不全悪化要因を同定しそれに対応することである。服薬の不復行や処方薬の内容(非ステロイド性抗炎症薬、心臓刺激薬を含む風邪薬やインフルエンザ薬、甘草、人参、麻黄などの漢方薬)を把握し管理する必要がある。臨床所見から活動性感染や明確または不明確な肺塞栓が示唆される場合、これらの疾患を検索・同定し治療すべきである。可能なら、不整脈は以下のように治療すべきである。心機能低下例の頻脈性心房細動では心拍数調節または洞調律化を行い、心筋虚血が持続している場合は冠動脈血行再建術を行い、心筋酸素需要の増大に関連した心筋虚血では持続している出血などの原因を治療する。
(出典)ハリソン内科学 第5版
ここでは、心不全の悪化要因を同定してそれに対応することと書かれていますが、薬関係や感染症、肺塞栓、不整脈といったようなものが挙がっていますが、急性の治療に加えて原因にも注目して根本的に解決していくことが必要ですね。
心不全の原因は「FAILURE」と聞いた人も多いと思うので紹介しておきます。
<心不全の増悪因子 “FAILURE”>
心不全の増悪因子 "FAILURE"
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では、急性期(急性心不全)の病態と治療薬を具体的に考えていきましょう。まずは前回の病態の図のどこが崩れてしまうのかを考えてみました。例えば、怠薬や塩分摂取過剰で循環血漿量が急激に増加したとしましょう。すると、循環血漿量の増加が引き金となって悪循環に陥ると考えることができると思います。
交感神経が亢進すると静脈や肝臓でプールしている血液がプールから戻り、循環血液量が増加します。それに対して心臓のポンプ機能が追いつかず肺うっ血が生じ、呼吸困難が生じて交感神経がさらに亢進して悪循環に陥るとか考えることができます。
もうひとつ例を挙げるとすれば、感染症やストレスで交感神経が急激に亢進したとしましょう。すると、交感神経の亢進から悪循環に陥るというように考えることができると思います。
いずれも、心臓のポンプ能にある程度以上の予備能があれば急性心不全の状態に陥らなかったかもしれませんが、既にポンプ機能が落ちてしまった心臓にはそれを代償できなかったと考えられます。そして、どんどん息は苦しくなるし悪循環に陥ると考えられます。そこで、急性期の治療が必要となってきます。
2.クリニカルシナリオと病態・治療
では、急性心不全の状態の分類(病態)と急性期の治療について考えていきます。急性心不全治療ガイドラインでは、いかに早期に病態把握を行い、治療を行うかという視点からクリニカルシナリオ(Clinical Scinario; CS)という概念があります。来院時(治療前)の収縮期血圧(SBP)によって急性心不全の病態を分類して治療方針を決めるものです。これを用いて急性心不全の病態・治療を考えていきたいと思います。
<クリニカルシナリオ>
血圧 140 mmHg以上のクリニカルシナリオ1に相当する心不全は高血圧性心臓病を基礎とし、拡張機能障害型で、後負荷ミスマッチによって急性肺水腫として発症するタイプが多く、早期の非侵襲的陽圧換気(NPPV)による酸素化改善と血管拡張薬による血圧管理が重要です。この場合のうっ血には著明な体液量増加より肺血管床への血流再配分が関わっていると考えられています。
(出典)心臓 vol. 48 No.9 (2016): 1107-1111.
まずは、クリニカルシナリオ1(収縮期血圧>140 mmHg)のときについて考えてみます。拡張機能障害型ということで、言い換えればHFpEFの患者さんで高血圧などが続いており、左室肥大等から拡張障害が生じている患者さんでしょうか。
そのような患者さんで、後負荷ミスマッチ(afterload mismatch, 後負荷不適合)、すなわち血圧が上昇(後負荷が増大)した状態で収縮性や前負荷を増大させることができず代償できない状態が生じたとしましょう。左室機能を上げて代償することができないので、その手前にある左房や肺に血液がうっ血する状態(肺うっ血)になると考えられます。
具体的に下図を用いて病態と治療を考えてみます。急性心不全の悪循環な病態を止めるためにどこをターゲットに治療薬を用いているを図にしてみました(クリニカルシナリオ2,3もあります)。
何らかのストレスや怠薬等で循環血液量が増えて左室拡張末期容量が増加したとします。すると、左室拡張末期圧も上昇します。すると、左房圧や肺静脈圧が上昇し、肺うっ血にもなります。さらに交感神経が亢進し、RAA系が亢進し、血圧が上昇(後負荷が上昇)することで悪循環になっていると考えられます。
クリニカルシナリオ1の病態では、急性の肺うっ血がメインであり、肺うっ血にならないようにNPPVを用いたり、硝酸薬にて静脈に血液をプールし静脈還流量を減らすようにしちえると考えられます。NPPVでは、肺に圧をかけることで肺の血管にも圧がかかり、うっ血しにくいとも考えられます。
では、クリニカルシナリオ2,3にいきましょう。
クリニカルシナリオ2に相当する心不全では体液貯留が主体の心不全であることが多く、低心機能、腎機能障害および神経体液性因子の亢進を背景に、緩徐にうっ血をきたすと考えられており、利尿薬治療が必要となります。
収縮期血圧 100 mmHg未満のクリニカルシナリオ3に相当する心不全は、しばしば重症の心機能障害を有します。低灌流の所見があり、coldと判断した場合には、強心薬が必要です。低灌流による臓器障害を進展させないために、臓器保護の観点からも必要な場合は早期に強心薬を用いることが重要です。一方で、強心薬投与による心不全の予後改善効果はなく、むしろ細胞内カルシウム過負荷による心筋障害や催不整脈作用などが指摘されており、可能な限り最小限、短期間の使用に留める必要があります。
(出典)心臓 vol. 48 No.9 (2016): 1107-1111.
クリニカルシナリオ2,3となるほど心機能がEFベースでも悪そうですね。悪くなるほど、水分シフト(肺うっ血)の病態だけではなく、慢性的な水分貯留(体うっ血)もあるということを感じました。
一方でクリニカルシナリオ1の人は肺うっ血がメインな病態であり、心不全でよく聞く下腿浮腫はみられなくても良いということを病態から考えさせられました。
【前回:慢性心不全についてはこちら】
本日もお読みくださり、ありがとうございました。