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小脳疾患・小脳症候群と身体所見

小脳疾患・小脳症候群と身体所見

 

<目次>

 

 小脳障害というと、運動失調、眼振がぱっと思い浮かびました。運動失調の所見として指鼻指試験、踵膝試験、回内回外試験ぐらいはOSCEもあり、どのように診察するかまで容易に想像がつきます。

 さて、今回はめまい関連の診察の際に、小脳障害の所見としてつぎ足歩行のような歩行試験が感度が良く、他の小脳所見がなくても陽性になりやすいと聞きました。髄膜炎の際のjolt accentuationは項部硬直よりも感度が高いというようなのと同じく、身体所見の有無だけ(0 or 1)ではなくて身体所見に対する重みづけ・意味づけもできればと思います。

 

 今回は小脳疾患の身体所見について深掘りしてみたいと思います。

 

1.小脳疾患の主要所見

 それでは、小脳疾患の主要所見(身体所見)から挙げていきたいと思います。

<小脳疾患の主要所見>

  • 運動失調
  • 眼振
  • 筋緊張の低下
  • 構音障害

 

運動失調

指鼻指試験、膝踵試験、回内回外試験

 

 運動失調とは、早さや滑らかさ、および適切な方向性を欠いた非協調的な随意運動である。小脳機能は運動を統括制御する点にあるため、運動失調の検査は運動に関与する筋力が十分にある場合にのみ可能である(MRCスケールで4~5)。運動失調の検査には、歩行の観察、指-鼻-指試験(finger-nose-finger test)、踵-膝-脛試験(heel-knee-shin test)、および急速交代運動がある。

 失調性歩行は、小脳症候群のうちで最もよくみられる所見である。そのため、小脳疾患が疑われる患者の評価の1つとして歩行検査は重要である。小脳疾患患者では、他に四肢の運動失調所見が全くなくても歩行障害を呈することが多い。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 指鼻指試験はおそらく知っている人が多いと思います。踵-膝-脛試験はいわゆる膝踵試験、急速交代運動はいわゆる回内回外運動であり、回内回外運動以外にも拮抗運動反復ができるような簡単な繰り返し動作で調べることができます。この項目は知っている人も多かったと思います。盲点は「筋力が十分にある場合にのみとることが可能な所見」という点かと思います。

 何より、歩行障害の感度が高そうで可能であればストレッチャーで運ばれてきた患者さんでも立ってもらい歩いてみてもらいたいですね。

 

 ちなみに真の小脳性運動失調症cerebellar ataxiaは前庭神経障害や迷路障害に伴う失調と区別できるようです。

 

前庭神経障害や迷路障害による失調

 かなりの程度の浮動感、頭部ふらふら感、運動知覚障害を伴う歩行障害をきたす。

小脳性運動失調

 これらのめまい様の症状がなく、平衡障害にもとづく明瞭な不安定歩行を呈する

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

眼振(小脳性眼振

 小脳疾患において最もよくみられる眼振は、側方注視時の水平性衝動性共同眼振である。

 小脳疾患のみで報告されているまれな眼振に反跳眼振がある。この眼振検査は、初めに患者に一方向を凝視してもらう(たとえば、右を見てもらうように伝える)。陽性であれば、右への急速相をもつ鋭い眼振が出現する。患者が同じ方向を約20秒間注視し続ければ、眼振は減衰する(逆方向に向くことすらある)。患者が視線を元に戻すと(正面を向くと)、当初はなかった左向きの眼振が出現し、時間とともに減衰する。これらの患者では、患者が最初に左右のどちらかを凝視するかによって眼振の方向を逆にすることが可能である。

 小脳性眼振の75%は、側方注視時にみられる水平性衝動性共同眼振である(15%は回転性眼振、10%は垂直性眼振)。水平性衝動性眼振は小脳疾患に特異的ではなく、末梢性の前庭疾患やその他の中枢神経疾患でもみられる。

 反跳眼振は遅発性で、出現する頃にはすべての患者で他に小脳所見がみられることから、臨床的有用性は限られる

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 診断的な意義や小脳疾患を疑うという視点からは、小脳性眼振があるかどうかをみるみつけることが有効でありそうですね。しかし、水平性衝動性眼振は小脳疾患に特異的ではなく前庭疾患等の末梢性等を含むことも留意が必要ですね。

 

筋緊張の低下

 小脳疾患の患者は、受動的な肢位変換に抵抗できず、深麻酔下にある患者や死後直後の遺体の筋肉に似ている。例えば、膝蓋腱を叩くと3回以上揺れる振り子様の膝蓋腱反射が生じる。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

構音障害

 小脳疾患患者の発話はゆっくりで、不明瞭、音量や抑揚が不規則である。小脳所見の中では出現頻度が最も低いが右よりも左小脳半球の病変でみられやすい。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 それぞれの身体所見の意味づけも詳しくできそうです。片側の小脳病変の患者において、これらの4つの主要な所見がどの程度の頻度で見られるのかについては下記の通りです。

 

<片側性小脳病変と所見の頻度>

身体所見

頻度

運動失調

 

・失調性歩行

80-93%

・四肢の運動失調

 

 ①測定障害

71-86%

 ②企図振戦

29%

 ③拮抗運動反復不全

47-69%

眼振

54-84%

筋緊張の低下

76%

・振り子様膝蓋腱反射

37%

構音障害

10-25%

(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 やはり、聞いていた通り失調性歩行の頻度が最も高く次に測定障害ということでした。はっきりとした小脳障害の所見が出ないときには歩かせてみること(つぎ足歩行)も億劫にならずにやってみたいと再確認です。

 さらに2番目は測定障害ということで、指鼻指試験や膝踵試験の方が回内回外試験よりも陽性になりやすい(小脳疾患をみつけやすい)という発見もありました。



2.小脳症候群

 次に小脳が障害されたときにどのような所見がみられるかなどを小脳症候群ごとに深掘りしていきたいと思います。まずは小脳症候群についてから。 

 

 小脳疾患の患者は頭痛と歩行障害のどちらか、もしくはその両方を有することが多い。成人では4つの小脳症候群がよくみられ、それぞれはおもな小脳所見の分布の違いによって特徴づけられる。

(出典)マクギーのフィジカル診断学 第4版

 

 小脳症候群は部位ごとに小脳半球症候群、前部小脳変性症(rostral vermis syndrome)、汎小脳症候群、小脳梗塞の4種類あります。

 これらの症候群の特徴をまとめてます。

 

<小脳疾患における主要所見と特徴>

小脳半球症候群

小脳所見

四肢の運動失調

(測定障害、企図振戦、拮抗運動反復不全)

85%が片側性

(うち80-90%が同側の病変)

眼振

片側性患者の65%

(70%が眼振方向に病変)

随伴症状

脳神経所見

(通常、V, VI, VII, VIII脳神経)

10-20%

(病変と同側性のものは75%)

意識障害

38%

上位運動ニューロン徴候

28%

乳頭浮腫

68%

前部小脳変性症

(原因:慢性的なアルコール摂取が多い)

上肢障害

16%のみ

失調性歩行

100%

両側下肢の失調

88%

眼振と構音障害

9%

汎小脳症候群

運動失調、眼振、筋緊張の低下、構音障害

※両側対称性

(原因:薬物中毒(例;フェニトイン)、遺伝性、腫瘍随伴症候群など)

脳梗塞

小脳半球症候群に類似

※以下の点が異なる

・すべての所見が突然出現

・構音障害が多い(44%)

・筋力低下が多い(22%の片麻痺患者、24%の四肢麻痺患者)

(参考)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版

 

 各々の身体所見と小脳病変ごとの違いや、小脳梗塞をはじめとする症候群毎の違いもはっきりしたように感じます。

 脳梗塞は突然出現することが特徴的ですね。さらには脳梗塞以外では四肢の運動失調や失調性歩行が見られやすい印象ですが、脳梗塞では、構音障害や筋力低下が多いあたりは、小脳梗塞を疑った際には四肢の運動失調や歩行性失調がないから「小脳らしくない」と誤って考えてしまいそうで注意が必要そうです。

 

 

3.まとめ

  • 小脳の障害では一般的に失調性歩行が最も認められやすく次に四肢の運動失調を認めやすい
  • 小脳梗塞の際には突然発症であり、構音障害や筋力低下が多いことに注意が必要

 診察時には、まずはこれぐらいから注意して考えていければと思います。

 

 今回はマクギーのフィジカル診断学ハリソン内科学の2冊から広げて比較や深掘りをしてみました。是非もっと詳しく読んでみてください。

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 今回はじめ、いつ読んでも発見のあることが多いハリソン内科学マクギーのフィジカル診断学だと感じます。読者レビューをはじめ気になる方はチェックしてみてください。