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116D69 医師国家試験|レジオネラ肺炎: 暴露歴、予測スコア

116D69 医師国家試験

レジオネラ肺炎を深掘り ~レジオネラらしさ: 暴露歴予測スコア

 

<目次>

 

 医師国家試験(以下、国試)で「レジオネラ肺炎といえば温泉!」というような状況であったと思います。実際には温泉以外でも、市中肺炎としてレジオネラ肺炎は散発的にあるのですが、第115回まで国試ゲームといった状況でした。

 今回は、そこに少しではあるもののメスを入れてきた国試116D69から少し深掘りしてみようという記事です。また、国試シリーズはいったんこの問題までにしようと思います。



1.問題文 116D69

 71歳の男性。発熱、食欲不振を主訴に来院した。1週間前に貯めていた雨水で庭に水をまいた。数日前から食欲不振を認め、2日前から38.8℃の発熱、全身倦怠感、関節痛も出現したため受診した。意識は清明。身長 172 cm、体重 68 kg。体温 39.1℃。脈拍 76/分、整。血圧 104/66 mmHg。呼吸数 24/分。SpO2 94%(room air)。右下胸部にcoarse cracklesを聴取する。血液所見:赤血球 373万/μL、Hb 11.9 g/dL、Ht 35%、白血球 18,600 μL/L(好中球93%、好酸球0%、好塩基球1%、単球4%、リンパ球2%)、血小板 16万/μL。血液生化学所見:AST 28 U/L、ALT 16 U/L、LD 177 U/L(基準120~245)、CK 323 U/L(基準30~140)、尿素窒素 18.9 mg/dL、クレアチニン 0.97 mg/dL、血糖 169 mg/dL、Na 127 mEq/L、K 4.2 mEq/L、Cl 93 mEq/L。CRP 24 mg/dL。胸部エックス線写真で右下肺野に浸潤影を認める。喀痰グラム染色で多核好中球を多数認めるが、明らかな原因菌は確認できなかった。

 

治療のために適切な抗菌薬はどれか。2つ選べ。

 

a. セフェム系

b. カルバペネム

c. マクロライド

d. ニューキノロン

e. アミノグリコシド

 

 

2.解説

2-1. 軽く解説

 2日前の関節痛という部分に少し戸惑った人もいたと思いますが、右下胸部のcoarse crackleを認め、胸部X線で右下肺野に浸潤影を認めているあたりから、数日前からの急性感染症肺炎)というのは、想像に難いと思います。

 次に、体温が39℃程度であるのにもかかわらず、脈拍が86回/分であることから比較的徐脈も認めており、感染症であれば細胞内で異物と認識しにくい細胞内寄生菌などを少し疑います。国試なのでGeckler分類などの喀痰の質やグラム染色の質は保たれているとして「喀痰グラム染色で多核好中球を多数認めるが、明らかな原因菌は確認できない」という部分から細胞内寄生菌(レジオネラ、マイコバクテリウム、リケッチア、クラミジア、淋菌、チフスなど)を思い浮かべました。さらに、「1週間前にためていた雨水」というキーワードがあるため、レジオネラ肺炎であることを想定した細胞内寄生菌に効く抗菌薬を選ぶことにしましょう。

※尿中レジオネラ抗原検査は取られていない(詳しくは後述)。

 

 すると、抗菌薬選択としてレボフロキサシン(LVFX)のようなレスピラトリーキノロンを考えて選択肢dニューキノロン系、もしくはアジスロマイシン(AZM)のようなマクロライドを選ぶことになると思います。

 

2-2. 回答選択肢

 解答: マクロライド系)、ニューキノロン系)



3.少し深掘り ~レジオネラ肺炎~

 レジオネラ肺炎を疑う状況や、レジオネラ肺炎の感染経路を調べていこうと思います。今まで、レジオネラ肺炎は重症化しやすい(意識障害のような肺外症状)とか、血清P低下や血清Na低下というようなこと、肺炎の浸潤影がしつこいというようなことを聞いたことがあります。その辺りをしっかりと確認します。

 

レジオネラ・ニューモフィラ(Leginonella pneumophila

特徴

  • 河川やクーリングタワーの冷却水、人工呼吸器、ネブライザー、高温でも生息可能である。温泉や24時間循環式風呂などの水中に広く分布する
  • 汚染された水、土壌の暴露、誤嚥や、エアロゾルの吸引により潜伏期2~10日で発症する。
  • 汚染された水、土壌暴露による肺炎のアウトブレイク、リスク因子(50歳以上、喫煙、ステロイド免疫抑制剤使用、暴露歴)を有する患者の重篤な肺炎(半数近くが、ICU入室レベルの肺炎)や、肺外症状(頭痛、意識障害、下痢、肝機能障害、PやNaの低下、CPK増加など)の強い肺炎、相対的徐脈、βラクタム薬の無効の肺炎でレジオネラ肺炎を想起する。
  • 画像所見は典型的には浸潤陰影であり、画像所見での区別は困難。
  • 尿中レジオネラ抗原検査は、特異度は99%と高いため診断に有用。
  • 尿中抗原は、陽性であれば確実な診断となるが、レジオネラには複数の血清型があり、そのうち1型のみを検出するため感度は70%程度と低い。よって陰性であっても感染を否定できない。
  • 尿中抗原陰性の場合、レジオネラを診断する方法として、培養(BCYE培地)、抗体検査、PCR検査がある。
  • レジオネラ感染における一過性のインフルエンザ様症状をPontiac熱というが、治療は不要。

 

(出典)感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022, 岡秀昭, メディカル・サイエンス・インターナショナル

 

 今回の症例の理解を深めるために使えそうな部分を抜粋してきました。今回の問題では、「1週間貯めてあった雨水」という汚染された水を示すキーワード、潜伏期間も2~10日で潜伏期間に当てはまり、関節痛もインフルエンザ様症状ということでPontiac熱と捉えることもでき、比較的徐脈もあります。検査では、血清Na値の低下(127 mEq/L)やCPK(CK)の上昇も認めています。また、71歳というのもリスク因子に入っています。

 尿中レジオネラ抗原を書かなかったのは、陽性と書けば、問題文をそこまですべて読まなくても、レジオネラ肺炎の抗菌薬選択の問題として成立してしまうからというが考慮されていると感じます。さらには尿中レジオネラ抗原検査に関しては1型のみのものは感度が70%程度と高くなく除外できないこともあるが、受験生は混乱する(クレームになる)という視点や陰性と書いて難しくするぐらいなら、検査自体を書かないというように、とても配慮されていると感じます。

(3/27追記:血清1型のレジオネラ抗原のみの検査キットをERで使ったことがありますが、1型以外もチェックできるものが増えてきているようです)

 

 少し初期研修以降でも使える書籍(しかもプラチナマニュアルは安くベストセラー!)に手を伸ばせば、かなり理解も深まると思います。

 

 

4.さらに深掘り

4-1. レジオネラ予測スコア

 先ほどのプラチナマニュアルにレジオネラ予測スコアというものが、少し載っていました。いわゆる「レジオネラ肺炎らしさ」のヒントとなります。まずは、それから確認します。

 

レジオネラ予測スコア

① 体温>39.4℃

② 喀痰がない

③ Na<133 mEq/L

LDH>255 IU/L

CRP>18.7 mg/dL

⑥ PLT<17.1万/μL

のうちあてはまるのが0~1個だとレジオネラだと考えにくくなる。4個以上でレジオネラによる肺炎である可能性は66%。

(出典)感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022, 岡秀昭, メディカル・サイエンス・インターナショナル

 

 この臨床予測ルール(Clinical Prediction Rule: CPR)をみると、いわゆる特異的な検査を除いて、一般的な検査結果までそれらしいものを集めてあるとも言えそうです。しかし、検査するまでに分かる項目は体温と喀痰の有無ぐらいでしょうか。

 このCPRを見ると、その点数のカットオフのスコアそのものだけでなく、感度や特異度、レジオネラ肺炎の予測スコアの点数ごとの推移のような詳細まで気になります。そこで、孫引きしてみます。

 

4-2. レジオネラ肺炎らしさ

 それでは、レジオネラ予測スコアをもとに、レジオネラ肺炎らしさを深掘りしていこうと思います。

※元の文献中では「レジオネラ予測スコア」という固有名詞的な言い方があるわけではありません。

 

 スイスの大学病院に市中肺炎(CAP)で入院した人(レジオネラ肺炎82名、レジオネラ以外の肺炎368名)の後ろ向き研究です。それでは、レジオネラ肺炎らしさの補足ができないかを見ていこうと思います。

 まずは、レジオネラ肺炎レジオネラ以外の肺炎比較した項目になります。有意差(p<0.05)のある項目にマーカーを引いてあります。赤色がレジオネラ予測スコアに使われている部分、黄色が予測スコアの項目以外で有意差のあった項目(アウトカム以外)、青色がアウトカムで有意差のあった部分になります。

 

レジオネラ肺炎とレジオネラ以外の肺炎の比較

f:id:mk-med:20220316121337j:plain

(出典)BMC Pulm Med. 2009 Jan 19;9:4. doi: 10.1186/1471-2466-9-4.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 レジオネラ肺炎とレジオネラ以外の肺炎を比べていきます。レジオネラ肺炎において、年齢がやや若く、既往歴・併存症において、うっ血性心不全COPDが少ないと言えます。それだけ、基礎疾患がなくても、少しではあるものの若くても発症しやすいと考えられそうです。

 病歴では、抗菌薬投与がすでにされていることが多く、が少なく、喀痰の増加もみられにくく、呼吸困難も少ないと言えそうです。いわゆる自覚症状が少ないのに加え、入院前にレジオネラ(細胞内寄生菌)に効く抗菌薬を投与されておらず、βラクタム系やアミノグリコシド系の抗菌薬が投与されていた可能性が高いということも言えそうです。

 検査結果では、血清CRP値、血清プロカルシトニン値、血清クレアチニンキナーゼ(CK)値、肝酵素上昇のみられる割合、血清LDH値が高く、炎症や組織破壊が多いと考えられます。一方で、血清Na値は低く、血清Na値低下も重度の感染症を示していると考えられます。血小板数低下に関しても、重症化すると血栓性血小板減少性紫斑病に至る症例もあり、結びつけられそうです。ヘモグロビン尿症や蛋白尿も、肺外症状の多さと結びつけられそうです。

 

4-3. ROC曲線をチェック

 それでは、ここから臨床予測ルールとなった部分を深掘りしていきます。スコアごとの結果(点数ごとの推移)が気になります。Univariate analysisでは予測因子として、年齢、体温、呼吸困難なし、咳なし、喀痰なし、血清Na値、肝酵素上昇、LDH、CK、CRP、血小板数、ヘモグロビン尿症、蛋白尿が挙げられています。そして、Multivariate analysisにて、体温、喀痰なし、血清Na値、LDHCRP、血小板数の6項目に絞られています。解析の詳しいことは分からないので、気になる方は出典をご覧ください。

 この6項目でのROC曲線、AUCをみてみます。

 

レジオネラ予測スコアの診断の正確性

f:id:mk-med:20220316121706j:plain

6項目のROC曲線とAUC

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2636761/bin/1471-2466-9-4-1.jpg

図1. ROC曲線(URL添付)

(出典)BMC Pulm Med. 2009 Jan 19;9:4. doi: 10.1186/1471-2466-9-4.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 上記のスコアごとの感度、特異度を見れば、臨床予測ルールとして使おうとすれば「多少は使える」ものの、「だいたい」レジオネラ肺炎っぽいという程度に思えました。論文中ではオッズ比も出されていますが、4点以上というのはあくまで設けた閾値であると感じました。スコアだけでスカッと分けられるほどのものではなさそうに感じます。3点でも2割程度がレジオネラ肺炎ということや、レジオネラ肺炎とレジオネラ以外の市中肺炎で差のあった他の症状、所見、さらには暴露歴なども参考にしたいものです。

 

 臨床予測ルールの表面的な部分(何点で〇〇)だけでなく、その疾患病態についての理解を深めるきっかけに使うのはいかがでしょうか。他にも詳しい条件(例: 起炎菌)を見てみたいなどありましたら、ぜひ論文にアクセスしてみてください。

 

 

5.国試に向けて

 今回はレジオネラ予測スコアという臨床予測ルールでしたが、国試でも有名な抗凝固薬のCHADS2スコアをはじめとする臨床予測ルールが多数あります。こういうのの丸暗記は苦手で、理解を深めてみたいものがあれば、時間を決めて少しだけ調べてみるのはいかがでしょうか。例えば、いつもの通りの勉強を8時間、あとは好きにやるというような感じです(これほど普通の勉強をやる必要があるかはさておき)

 また、国試の勉強に3の少し深掘りまでして興味深い研修でも使える書籍に触れて楽しみながら学ぶ時間を少し作るのもいかがでしょうか。

 

~国試シリーズを通して~

 4回(4問)に渡る国試シリーズ、いかがだったでしょうか。まずは合格点を手っ取り早く取れる予備校(私の場合は主にmedu4)で倍速でささっと学び、その後に興味に任せて国試に縛られずに楽しくやっておりました。合格点から先の勉強を少しでも好奇心から、興味の湧くテーマから、楽しみながら学ぶヒントとなれば幸いです。

 例えば、2倍速で国試予備校の動画を見て、浮いた時間の半分(とは言わないまでも)を深掘りに、半分を遊びになんていうのはいかがでしょうか。2倍速までは特に理解度も変化しないというような研究もあり、元々国試予備校の講義も話し方がゆっくりで倍速に向いていると思います。

 また、医学生4, 5-6年生の時の勉強のボリュームゾーンはやはり国試対策予備校の講義であり、競争もあり、オンデマンドで便利で分かりやすいコンテンツがあるように感じます。そこから先の勉強は、アクティブラーニング、初期研修医向けやさらにその先の本や論文、一緒にやる人こそ選ぶ面があるもののTeam-Based Learning(TBL)となってくると思います。国試に向けて予備校のテキストを数社も何周もするほど心配になりすぎず、気が向いたら楽しみがてら、このシリーズで扱ったように初期研修やその先の論文も見てみようと思ってもらえれば幸いです。何より、実習や学生生活実りあるものにしてください!

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

国試シリーズはこちら

mk-med.hatenablog.com

 

 今回取り扱った"感染症プラチナマニュアル"は、ポケットサイズで参考文献もちゃんと書かれたとてもコンパクトで素敵な本です。エビデンスを実臨床に活かす身近で素敵な本です。アマゾンの読者レビュー等が気になる方はチェックしてみてください。