~リケッチア感染症の両者の比較まで~
<目次>
やっとダニシリーズもひと区切り、両者ともリケッチア感染症に分類される日本紅斑熱とツツガムシ病という最後のテーマになりました。前回のライム病、STARI、TARIの記事ほどマニアックなものでもなく、比較的論文にもありそうなテーマなのでさらっといきたいと思います。
1. リケッチア感染症
日本紅斑熱でもなく、ツツガムシ病でもなく、「リケッチア感染症?」と思った方もいるかもしれません。今回のメインテーマの日本紅斑熱とツツガムシ病の共通点といえば、いずれもリケッチア感染症、紅斑熱群リケッチアであることになります。
まずはリケッチア感染症、紅斑熱群リケッチアについて触れておきたいと思います。
リケッチア感染症はリケッチア科の細菌感染症といっても、まあ説明にはなっていますが、ぼんやりしていますね。もちろん、発熱、頭痛、発疹というのは大きな共通点でしょうが、より具体的に、リケッチア科のどれに感染するかで、いろいろと変わってきます。
少し焦点を絞って、それぞれ具体的にどのようなものがあるのかを見てみます。
紅斑熱群リケッチア(Rickettsia of the spotted fever group; SFG)
- 6大陸でヒトへの感染を引き起こす。すべてのSFG感染症の抗菌薬治療は類似しているが、これらの異なるSFGリケッチアによって引き起こされる個々の疾患の疫学および臨床的特徴には重要な違いがある。
主な紅斑熱群リケッチアの比較 (出典)UpToDate > Other spotted fever group rickettsial infections, last update: Jan 31, 2024.
UpToDateでは、リケッチア感染症のうち主なものがまとまっています。Rickettsia japonicaによるものが日本紅斑熱、Orientia tsutsugamushi (旧Rickettsia tsutsugamushi) によるものがツツガムシ病になります。ツツガムシ病は別で疾患単体でページもあります。そいう意味でも、大枠を掴んでいただき、各疾患の把握はリンクをチェックしていただければと思います。
2. 日本紅斑熱
それでは、日本紅斑熱からチェックしていきたいと思います。
- 関東以西の比較的温暖な太平洋側、四国、九州に多い。
- 発生時期は春先から晩秋。
- 2~10 日の潜伏期を経て、2~3日間不明熱が続いた後、頭痛、発熱、悪寒戦慄をもって急激に発症する。他覚所見は高熱、発疹、刺し口が3 徴候である。
- ツツガムシ病との鑑別診断が重要である。臨床的には、リケッチア症として治療を優先する。発生地域や時期、皮疹や刺し口の性状、分布などを詳細に観察し、特異的血清診断で確定診断する。そのほか麻疹や風疹などのウイルス性熱性疾患や薬疹などの発疹性疾患なども鑑別が必要である。また、病初期の尿所見から尿路感染症との鑑別が必要である。
(出典)馬原文彦. "日本紅斑熱の発見と臨床的疫学的研究." モダンメディア 54.2 (2007): 32.
https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM0802-02.pdf
日本紅斑熱を発見された馬原先生による発見の経緯から日本紅斑熱の特徴までよくまとまったものです。疫学、臨床症状はもちろんのこと、よくまとまっているので是非チェックしてみてください。
もう少し、症状などの特徴を定量的にも診ておきたいと思います。
日本紅斑熱の臨床所見に関する発生地域別多施設調査
- 日本紅斑熱の主要所見としては,発熱では37℃以上99%,38℃ 以上90%,39℃ 以上66%,紅斑は99%,刺し口は69% であった.82% の症例で入院治療を要している.その他の症状として,悪寒26%,頭痛38%,嘔気・嘔吐・下痢20%,リンパ節腫脹7%,意識障害6%,消化管出血1% であった.
- 日本紅斑熱の主要臨床所見は,従来の報告のごとく「発熱」「発疹」は,ほぼ全例に見られ,マダニによる「刺し口」も70% 前後にみられたことから,これらの所見を3 徴候とするのは今回の調査において改めて妥当と思われた.しかし,「刺し口」は50~95%,「リンパ節腫脹」は0~100% と報告者により偏りが認められた.
(出典)J.J.A. Inf. D. 89:490~492, 2015.
報告によって、リンパ節腫脹のようにばらつきがある所見もあれば、発熱、発疹はほぼ全例で見られ、刺し口も70%程度で見られるということで3徴候とする理由も分かる気がします。
一方、以前取り上げた、SFTS(重症熱性血小板減少症)では、悪心(77%)や腹痛・腹部圧痛(55%)といった消化器症状が多くみられそうであることから、消化器症状の有無は鑑別のヒントになると思います。
3. ツツガムシ病
「つつがむし」と聞くと、古文で「つつがなし」というフレーズを思い出します。「恙(つつが)」が病気や災難を示し、病気や災難を呼び入れる虫による病気という事でツツガムシ病ということでしょうか(笑)。
では、日本紅斑熱の鑑別にも挙がる本題のツツガムシ病もチェックしてきたいと思います。まずは概要からです。
- ツツガムシ病はOrientia tsutsugamushiによるダニ媒介性感染症で、主に南アジアから東アジアのアジア太平洋地域に分布する。
- 感染後7〜10日で急性発熱、激しい頭痛、全身筋肉痛が出現し、多くで刺し口に黒色痂皮(eschar)を形成する。発疹(斑状や斑状丘疹性)、リンパ節腫脹、消化器症状(悪心・嘔吐・下痢)、呼吸器症状(咳・呼吸困難)、相対的徐脈、中枢神経症状(髄膜脳炎)、急性腎障害など多彩な臨床像を呈する。
- 診断は流行地での曝露歴と臨床所見で推定し、血清診断やPCRが補助となる。治療は早期にドキシサイクリンを用い、妊婦にはアジスロマイシンを使用する。予防はダニ曝露の回避で、ワクチンは存在しない。
(出典)Scrub typhus, UpToDate, last updated: Mar 31, 2025.
簡単にまとめてみました。教科書でも何でも、全体像を掴めるものであればよいと思います。
また、日本におけるツツガムシ病の血清型についてもチェックしておきます。
O. tsutsugamushi は血清学的に多様であり,わが国ではGilliam, Karp およびKato の標準3 型に,近年報告例の増加したIrie/Kawasaki, Hirano/Kuroki およびShimokoshi の3 型を加えた6 型に分類される。Gilliam, Karp 型は全国に分布するフトゲツツガムシが保有し,Kato 型は北日本の一部に分布するアカツツガムシが保有し,Irie/Kawasaki, Hirano/Kuroki 型は東北南部から九州まで分布するタテツツガムシが保有する。Shimokoshi 型を保有するダニはまだ明らかでないが,近年,東北地方や北陸地方にてShimokoshi 型の感染事例があいついで報告された。
(出典)田居克規; 岩崎博道. リケッチア感染症の診断と治療~ つつが虫病と日本紅斑熱を中心に~. 日化療会誌, 2018, 66.6: 704.
https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06606/066060704.pdf
ツツガムシ病を疑った際に、コマーシャルベースで検査できる血清型はGilliam, Karp, Katoの標準3型だけです。それだけで診断できるとは考えずに、近くの保健所を通して残りの3型の血清抗体価の検査をお願いすることになると思います。コマーシャルベースのもののオーダーもしつつ、保健所経由での他の血清型の検査も待つことになります。
また、無症候性の場合も多く、重症例では次のような臨床的特徴がみられるというNEJMからの報告もあります。
南インドの地方における2年間の追跡調査に基づく集団ベースの研究
- ツツガムシ病への無症候性を含む血清学的陽性は81.2人/1000人年であった。症候性感染は6.0人/1000人年、入院は1.3人/1000人年、重症感染(臓器障害または妊娠への悪影響)は0.5人/1000人年であった。
- 血清学的陽性化をした患者のうち、症候性感染が生じたのは7.4%であった。
- 症候性感染となるのは高齢者ならびに女性で多い傾向であった。
重症ツツガムシ病の臨床的特徴
- 重症感染症では、ARDS(66%, 確定例79%)、中枢神経系障害(14%, うち確定例75%)、ショック(38%, うち確定例55%)、急性腎障害(21%, うち確定例50%)、心筋炎(7%, うち確定例100%)、流産(7%, うち確定例50%)、死亡(17%, うち確定例100%)がみられた。また、呼吸管理において、高流量酸素療法(45%, うち確定例69%)、非侵襲的換気(10%, うち確定例69%)、侵襲的換気(17%, うち確定例80%)が必要な症例が少なくはなかった。
(出典)N Engl J Med. 2025 Mar 13;392(11):1089-1099. doi: 10.1056/NEJMoa2408645.
まず、ツツガムシ病への感染(血清学的陽転化)で症状を呈するものの割合は7.4%しかないことになります。
この論文のメインは、ツツガムシ病において病原体への曝露後、無症状で自然治癒する感染が最も一般的な経過である可能性があることを示唆しています。もちろん、地域差などはありそうですが、それにしても多くが症状を呈するわけでもなさそうです。
また、重症例の臨床的特徴もチェックでき、ARDSが最も多く、他にもショックや急性腎障害、中枢神経障害、呼吸管理の必要性が高いことも伺えます。特に中枢神経障害や呼吸管理の必要な症例ほど、確定例の割合が高く傾向がありそうです。心筋炎や流産、死亡例は数が少ないので何とも言いにくそうです。
重症化すれば、「つつがなし」とは程遠い状態の悪い状況でもあり、重症となるものは病名に恥じないと感じました。
4. 日本紅斑熱 vs. ツツガムシ病
日本紅斑熱とツツガムシ病の両者をせっかくなので分かりやすい形で比較しておきたいと思います。比較することで、相違点から特徴を掴みやすくなるかもしれません。
- つつが虫病と日本紅斑熱は,わが国に常在する代表的なリケッチア症で,リケッチアを保有するダニ類の刺咬により感染する。両疾患とも,発熱,発疹および刺し口(痂皮)を3 主徴とし,臨床症状は酷似しており,臨床所見から鑑別するのは困難であるが,いくつかの相違点も知られている。両疾患の比較を下記の表の通り。
日本紅斑熱とツツガムシ病の比較 (出典)田居克規; 岩崎博道. リケッチア感染症の診断と治療~ つつが虫病と日本紅斑熱を中心に~. 日化療会誌, 2018, 66.6: 704.
https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06606/066060704.pdf
また、日本紅斑熱の臨床的特徴を軸にしながら、ツツガムシ病との比較もされています。
日本紅斑熱の特徴(ツツガムシ病との比較)
- 日本紅斑熱の潜伏期は2~8 日であり,つつが虫病と同様に発熱,発疹および刺し口(eschar)を臨床的特徴とし,これらを日本紅斑熱の3 主徴という。
- 発熱は40℃ 前後を示すこともある弛張熱を認める。発疹は米粒大~小豆大の辺縁が不整型の紅斑を認め,一部出血性となることもあり,顔面や手掌・足底を含む四肢末端部優位に現れる。刺し口はやや小さめのため発見率は約60~70% であり,痂皮(eschar)はつつが虫病より小型の傾向がある。また,頭痛・高熱・悪寒戦慄を認め,急激に発症し,全身倦怠感,関節痛,筋肉痛等を伴う。咽頭痛を認めることも多く,リンパ節腫脹はつつが虫病に比べ目立たないことが多い。胃腸障害,特に急性胃粘膜病変(AGML)・胃潰瘍・十二指腸潰瘍を高率に合併する。
- 感染症発生動向調査届出票(n=1,765:2007~2016 年)の記載では,発熱99%,発疹94%,肝機能異常73%,刺し口66%,頭痛31% およびDIC 20% であった。
- 赤沈の亢進、CRP 強陽性、肝逸脱酵素の上昇がみられるが,白血球数の増減は一定しない。重症例では血小板減少をはじめとするDIC の所見を認め,検査値異常はつつが虫病より目立つ傾向にある。
(出典)田居克規; 岩崎博道. リケッチア感染症の診断と治療~ つつが虫病と日本紅斑熱を中心に~. 日化療会誌, 2018, 66.6: 704.
確かに、皮疹の分布(日本紅斑熱は四肢末梢優位)、痂疲の大きさ(ツツガムシ病の方が小型)、検査値(検査値場が目立つのはツツガムシ病)といった鑑別のヒントもありそうです。
また、西日本に多いのがツツガムシ病ですが、徐々に東へ広がっています。関東でも、どちらか分からないこともあるでしょう。
このような鑑別点はあるものの、両方が考えられる状況では、やはり鑑別困難なことも多いと思います。そもそも両者は同じリケッチア感染症です。
その際に大切になってくるのは、ツツガムシ病もしくは日本紅斑熱のどちらでも良いように、必要な検査を提出して経験的治療を開始することだと思います。
疾患ゆえに日本語の総説のようなものが多く、読みやすいので、是非出典にも目を通してみてください。
5. 最後に
3回に渡るダニシリーズにお付き合いくださいましてありがとうございました。
ライム病とTARI/STARI(2回目)で迷ってもライム病を想定して検査、抗菌薬治療開始まで進めることが大切でしょう。今回のように日本紅斑熱とツツガムシ病で悩んでも、両者をカバーしつつ検査し、日本紅斑熱までカバーして抗菌薬治療開始まで進めるといったことが大切だと思います。
「詳しくなれば、鑑別できるかな?」という視点も大切ですが、何より患者さんの不利益にならないように、すぐに鑑別しきれないものもある中で、必要な検査を出して、経験的に治療を開始していくことが大切だと感じた次第です。
本日もお読みくださいまして、ありがとうございました。
日本紅斑熱やツツガムシ病の原因となるような虫やダニに興味がある方はよろしければ、チェックしてみてください。
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