ダニ媒介性感染症①|マダニ咬傷
<目次>
また、夏本番が近づいてきました。去年はマムシ咬傷についてでしたが、今回はこの時期あるあるのものをテーマにしていきたいと思います。ちょうど、ニュースでもSFTSが取り上げられているのを見たため、節足動物媒介感染症のひとつであるダニ咬傷・マダニ咬傷を軸に深掘りできればと思います。
今回はブログ製作時間の関係もあり、節足動物媒介感染症とSFTSについてまでとして、複数回に分けていきます。
1. ダニが媒介する感染症
まずは、虫が媒介する感染症である節足動物媒介感染症とダニが媒介するもの(ダニ媒介性感染症)についてチェックしてみたいと思います。
- 虫の中にはウイルスや細菌などを媒介する種がおり、代表的な疾患にはマラリア(ハマダラカ)がある。国外ではその他にシャーガス病(サシガメ)、リーシュマニア症(アシチョウバエ)、アフリカ睡眠病(ツェツェバエ)が知られる。
- 現在、国内で問題になる主な節足動物感染症は、マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(ウイルス感染症)、日本紅斑熱(リケッチア症)、ライム病(ボレリア感染症)、ツツガムシが媒介するツツガムシ病(リケッチア感染症)がある。
(出典)夏秋優, ポケット版 Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎, Gakken, 2025
節足動物媒介感染症といっても、世界的にはダニよりマラリアが有名でしょうね。ヒトのマラリアには、熱帯熱マラリア、三日熱マラリア、四日熱マラリア、卵形マラリア、二日熱マラリア(サルマラリア)の5種類があります。シャーガス病やリーシュマニア症のようなものも興味があれば、調べてみてもいいでしょう。
今回は、マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、日本紅斑熱、ライム病と、ツツガムシが媒介するツツガムシ病についてチェックしていこうと思います。
2. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
2-1. SFTSの概要
まずは、死亡率も高く予後不良となりやすい重症熱性血小板減少症候群(Sever Fever with Thrombocytopenia Syndrome; SFTS)について、チェックしてみたいと思います。
症状;
- 発熱、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)、頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸器症状(咳、咽頭痛)、出血症状(紫斑、下血)等の症状が出現する。
- 致死率は10%を超える。
- 流行期はダニの活動が活発化する春から秋と考えられる。
治療;対症療法
(出典)厚生労働省検疫所 FORTH, https://www.forth.go.jp/keneki/kanku/disease/dis03_11sev.html
あまり見かけない感染症等について調べようと思った際によくお世話になる厚生労働省のFORTHのホームページです。あまり知らない際や概要を掴む際に役立つぐらいの構成かなと感じます。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)という疾患・病態名から、発熱と出血傾向は意識しなくても分かるところだと思います。やはりウイルス感染症として、消化器症状、頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹、呼吸器症状(咳、咽頭痛)等といったあたりは、参考になるのかなと思います。
2-2. SFTSの深掘り
何かのウイルス感染症後の血小板減少に比べると、様々な症状もあり重症感がします。総説等も探してみます。
- マダニ咬傷後の潜伏期は一般的に5~14日である。
- 発熱、呼吸器症状、消化器症状が突然現れ、その後、血小板減少と白血球減少が進行する。典型的な感染経過には、潜伏期、発熱期、多臓器不全期、回復期の4つの時期がある。
- 発熱期は、5〜11日間続く突然の発熱(体温38〜41℃)、頭痛、倦怠感、筋肉痛などのインフルエンザ様症状や、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状を特徴とし、血小板減少、白血球減少、リンパ節腫脹を伴う。
- 多臓器不全期(MOF期)は、致死例では多臓器不全の進行、生存例では良好な自然経過を特徴とする。多臓器不全は急速に進行し、まず肝臓と心臓、次いで肺と腎臓に生じる。発熱期と重なることもある。ほとんどの場合、発症後約5日で発症し、7~14日間持続する。
- 回復期は発症後11-19日目頃に始まる。臨床症状や検査所見は徐々に改善していく。検査所見は3-4週間以内に正常値に戻る。
SFTSの臨床症状・所見
- 発熱(99%)や全身倦怠感(81%)といった全身症状、悪心(77%)や腹痛・腹部圧痛(55%)といった消化器症状・所見、他にも筋肉痛(71%)、頭痛(51%)等が生じた。
- 発症から死亡までの平均日数は9日であった。ほとんどの患者(85%)における予後は良いものであったが、基礎疾患、神経精神症状、出血傾向、低ナトリウム血症、または高齢患者において予後は悪くなりがちであった。
(出典)Lancet Infect Dis. 2014 Aug;14(8):763-772. doi: 10.1016/S1473-3099(14)70718-2.
2010年におとなり中国の地方から始まった感染症です。それが、2014年にレビューとなった感じでしょう。
SFTSの詳しい経緯や経過、特徴などについては出典をご覧いただくとよいと思います。文献によって、症状の出現率や死亡率は異なりますが、潜伏期、発熱期、多臓器不全期、回復期の4つの期間からなり、発熱、呼吸器症状、消化器症状が生じ、さらに血小板減少と白血球減少が進行するといったイメージで良いでしょう。
せっかくなので、日本で最初のSFTSに関する調査(後ろ向き研究)もチェックしてみました。
日本における初めてのSFTS患者11名の後ろ向き研究
- 以下を満たす患者の医師からの自発的な報告のもと、分離/ゲノム増幅、および/または血清中の抗SFTSウイルス免疫グロブリンG抗体の検出によってSFTS診断が行われた; (1)38℃以上の発熱、(2)嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血などの消化器症状、(3)10万/µL未満の血小板減少、(4)4000/µL未満の白血球減少; (5)AST、ALT、LDH高値、(6)他の原因がない、(7)重篤のために死亡または集中治療室に入院。
- 患者は11名全員が50歳以上で、西日本に居住していた。
- 死亡例が6例、男女比は8:3であった。
- 11例中、8例からSFTSVが分離された。日本のSFTSウイルス分離株はすべて中国からの分離株とは独立した遺伝子型であった。
- ほとんどの症例で出血症状がみられたが、これは播種性血管内凝固症候群および血球貪食症候群によると考えられる。
日本人初のSFTS患者11名の臨床症状・所見 (出典)J Infect Dis. 2014 Mar;209(6):816-27. doi: 10.1093/infdis/jit603.
日本における最初の報告といったところでしょうか。SFTSであった患者11名全員が50歳以上、西日本地域であったことも特徴的な調査でしょう。西日本と言われるのは、最初からでしょう。
この報告では死亡率が55%(6/11例)と高いことは、SFTS疑いとして調査の対象となった患者像が集中治療を要した症例もしくは死亡した症例というところによる重症度の違いがあると考えられます。SFTS患者11名全員が50歳以上(若年ではない)とも関連があるようにも思います。もっと軽症でここまでの治療を必要としなかったSFTSもあると考えれば、Lancetの総説とは遺伝子型は違ったとしても、Lancetの総説(死亡率15%)の方が実臨床に合っている可能性は高そうです。ましてや、日本の医療環境を考えれば、死亡率はもっと低い可能性も考えられます。
症状に関しては、Lancetの総説とも似ていると感じます。症状そのものは重症度関係なく生じる傾向にあるのかもしれません。
また、これだけ発熱や血小板減少、肝逸脱酵素等の上昇に加え、死亡率からも重症な症例を集めているにもかかわらず、CRP>1.0mg/dLは11例中3例のみ(27.2%)のみでした。消化器症状や神経症状、出血所見をはじめ様々な上昇・所見があるにも関わらずCRP陰性になりがちな発熱という視点も役に立つときもあるでしょう。
確かに本邦初の11名の報告ではすべての症例が西日本でした。それから15年近くがたちましたが、感染地域に関しては西日本が中心ですが、徐々に東の方に広がっています。
SFTSの感染症発生動向調査では、九州、中国、四国地方や和歌山県・三重県を中心に西日本で多くみられる。さらに、北陸や関東地方・東海地方でも発症例がある。
(出典)JIHS国立健康危機管理研究機構, 感染症情報提供サイト, 2025年1月31日更新,
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/article/sfts/020/index.html
確認した際には最終更新が2025年1月31日のものでした。上記出典に日本地図の都道府県に色分けして発生状況を可視化したものがあります。よければ、そちらもご確認ください。
3. 次回へ
続いて、ライム病、日本紅斑熱、ツツガムシ病といった残っているダニ咬傷についても調べていようと思いましたが、製作の時間の都合から次回以降にしたいと思います。
正直なところ、今回調べ始めてみたものの、私はマダニとダニの詳しい違い等の虫のことは知りません(笑)。マダニの方がダニに比べてサイズが大きなことぐらいでしか知りません。ツツガムシも幼虫と成虫がいて、刺すのは幼虫ということぐらいです。ツツガムシは「ぱっと見、ダニのような格好をしているのにどこが違うの?」という素人の感想となってしまいます。
それこそ、虫の違い(マダニやツツガムシ)や様々な虫も含めて学んでみたいという方は、夏秋優先生の『Dr.夏秋の臨床図鑑 虫と皮膚炎』(ポケット版かどうかを問わず)でも見てみてください。
本日もお読みくださいましてありがとうございました。
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