健診で「肝機能障害?」と言われたら ①
~肝逸脱酵素上昇≠肝機能障害から、肝機能検査について~
<目次>
【続編】健診で「肝機能障害?」と言われたら②|肝硬変とAST/ALT比の深堀り
説明上手な先生のお話は本当に興味深くて面白いですね。ASTやALTはじめ検査のパターンを意味は分からず丸覚えしなくても良いということを体感できます。これをきっかけに調べてみることにしました。もちろん、院内の勉強会や抄読会は一長一短で内容や質、環境次第であるとも感じます。初期研修医内等でやっているものの質は分かりませんが、オンライン含めてこういう先生の学びのきっかけとなるようなのようなものは教育の面からは良いものです。
さて、12月に入ったとたんに寒くなったことで師走を意識するに至りました。そして、しばらく下書きのままの記事でしたが、年を越す前にこの記事をUPすることにしました。
1.肝逸脱酵素上昇=肝機能障害とは限らない
健診でAST、ALTが上がっていて「肝機能障害疑いです」と言われた時のお話をしたいと思います。本当はこの段階では、まだ検査項目も足らず、特に病歴もなく検査値のみであり、肝機能障害と言い切れるわけではなく、その検査値だけではひとまず「肝逸脱酵素が上がっている」と言えるだけです笑
健診にてクレアチニンキナーゼ(CK, CPK)のような測られていない項目がある(何が測られていないか)というのは、国試勉強の際には習わなかったpitfallであるようにも感じます。
まずは、「本当に肝機能障害?」という部分から行きたいと思います。本当の意味で肝臓の機能障害を診ようと思えば、ビリルビン(Bil)、アルブミン(Alb)、凝固因子(PT-INR)、アンモニア(NH3)といった数値を見る必要性があります。また、ALTは肝臓に特異度が高いですが、ASTは心臓、腎臓、肺、血球、脳などにも存在し、他の臓器の障害によることもあるという認識です。以前、心筋梗塞でASTが上がるという記事も書きました。
また、肝逸脱酵素が上昇していた場合は、CK(CPK)やLDHという他の検査値もヒントになります。LDHのアイソザイム、それぞれの半減期もヒントになるイメージです。
今回は、健診でASTやALTといった肝逸脱酵素が上昇していたことにより「肝機能障害」といわれたときのお話をします。
健診で肝機能障害疑いと言われたら、筋疾患(筋症状やCK上昇)や全身性疾患というような肝臓以外の鑑別も忘れないようにしたいですね。
では、クレアチニンキナーゼ(CK)は問題なく筋症状もないし、健診前の1-2週前から運動を始めたなんてこともなく、全身性の疾患「どうも肝臓っぽいぞ」となったときについて詳しく見ていこうと思います。
2.肝臓の働き
肝臓の主要な機能(働き)から深堀りしていきたいと思います。生理学の本をチェックしてみたところ、肝臓に機能についてまとまっている部分にたどり着けず、意外やセイントとチョプラの内科診療ガイドで見つけました。
<肝臓の主要な働き>
・血漿蛋白の合成
・糖代謝の調節
・凝固因子の産生
・消化管から吸収された化学物質の解毒
(出典)セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版
糖代謝に関しては盲点でした。糖を貯蔵したり糖新生の場所であったことと検査値をリンクできていませんでした。血糖値(グルコース値)の異常値が肝臓に直接結びつくほどの特異性はないにしても、糖尿病のビグアナイド薬(BZ)が肝臓での糖新生を抑制すると習ったことからも血糖値に関係しているのは明らかです。
3.肝機能検査を深堀り
肝逸脱酵素やその他の肝機能検査についてさらに調べていきます。まずは言葉の定義や一般的なことから紹介します。このままセイントとチョプラの内科診療ガイドでいけるところまでいきます。
定義:肝評価のための血液検査を肝機能検査という
肝臓の働きを反映
<合成能>
項目
備考
(Alb)
・肝臓の蛋白合成能
・食事量が一定の状態で肝機能障害が起こる場合にはアルブミン濃度が低下するのに数週間かかる
・代謝ストレスが更新している場合(敗血症やショック)では、肝機能は正常でも下がることがある
プロトロンビン時間(PT)
・肝合成能が著しく低下すると数時間以内に延長する
→肝機能低下の重要な指標
(Bil)
ビリルビンが上昇している際には実臨床では、非抱合型(間接)と抱合型(直接)の両者が混在することが多い
非抱合型(間接)ビリルビン
上昇の原因
・ビリルビン産生の亢進(溶血や血腫など)
・肝臓への取り込み低下や抱合障害(Gilbert症候群やCrigler-Najjar症候群など)
※健常人の場合、最多の原因はGilbert症候群
抱合型(直接)ビリルビン
(D-Bil)
上昇の原因
・毛細胆管へのビリルビン分泌の減少(Dubin-Johnson症候群やRotor症候群)
・胆管上皮の障害(肝炎、毒素、肝硬変による)
・胆道閉鎖(胆管結石、胆管炎、膵がんによる)
ブドウ糖濃度
(グルコース)
→血中ブドウ糖濃度が低下
<肝障害>
2つの代表的パターン
- 胆汁うっ滞型:ALPやBil、γ-グルタミントランスペプチダーゼ(GGT)→ALPはアイソザイムも
- 肝細胞パターン:AST、ALT、LDH
(出典)セイントとチョプラの内科診療ガイド 第3版
肝臓の働きを反映する数値のところで、合成能の部分にてアンモニアがありませんでした。解毒という意味でアンモニアは役立つと思うのですが、さすがに採血のスピッツもアンモニア用でしかも冷やさないといけないとなると、ハードルが高いかもしれません。
また、コリンエステラーゼ(ChE)や総コレステロールも役立つかもしれません。コレステロールは、糖と同じく他の要素も多そうですので、そういう意味ではコリンエステラーゼでしょうか。
他の項目を見ていくと、肝障害の代表的パターンのうち胆汁うっ滞型は鑑別疾患が主に胆道系疾患になってきます。今回は、肝細胞パターン(AST、ALT、LDH)のAST、ALTを深堀りしてみたいと思います。LDHはアイソザイムごとの特徴を調べれば見つかると思います。
4.肝細胞パターン(AST・ALT)の深堀り
肝逸脱酵素のAST、ALTに苦手意識があるので、そこをもっと確認していこうと思います。AST優位とかALT優位とか覚えるのは…と感じます。
ASTは肝臓での特異性は低いものの、中心静脈周囲の病変の際に上がりやすく、半減期もASTより短いイメージです。そのため、ウイルス性肝炎では回復期にはALT優位になるというようなことを習った記憶があります。では、いろいろと確認していきます。
<AST、ALTの特徴>
AST
aspartate aminotransferase
ALT
alanine aminotransferase
特徴
肝細胞以外にも心筋、骨格筋、脳、膵臓および赤血球にも含まれる
肝細胞にのみ存在すると考えてよい
→ALT上昇は肝細胞障害を意味する
17時間(血中)
・細胞質AST:10-20時間
・ミトコンドリアAST:5-10時間
47時間(血中)
・細胞質ALT 40-50時間
上昇
肝細胞、心筋、骨格筋、腎臓、脳、膵臓および赤血球に含まれる
→これらの細胞障害により血中に放出
肝細胞全体が障害されると、AST>ALTとなる
肝細胞の障害
<高度障害:500-20,00 U/L>
・急性ウイルス性
・中毒性
・薬剤性
・虚血性
※心臓発作(肝うっ血)でも生じる
<中等度障害:125-500 U/L>
・ウイルス性
・薬剤性
・自己免疫性
・アルコール性 など
※肝炎の活動度と一致
<軽度:<120 U/L>
・肝硬変
・脂肪蓄積性肝炎
・胆汁うっ滞性肝炎
・脂肪肝
・肝癌 など
低下
ASTもALTも、ピリドキサールリン酸(PLP、ビタミンB6の誘導体)を補酵素とするアミノ酸転移補酵素であるため、PLP減少により低値となる。アポ酵素(PLPが結合しない状態で酵素活性を有さない)が相対的にホロ酵素(PLPが結合して活性を有する)より多い。
<ビタミンB6欠乏→PLP減少>
・透析患者
・高齢者動脈硬化患者
<PLPが減少→アポ型ALT増加>
・急性心筋梗塞
・肝疾患:ピリドキサールキナーゼの活性低下
・肝癌:PLPの異化亢進
(出典)検査値を読むトレーニング -ルーチン検査でここまで分かる
ASTやALTの半減期の違い(ASTの方が半減期が短い)、ALTの上昇の程度による鑑別の違い、さらにはASTやALTが低下するメカニズム(ビタミンB6の関与)というあたりは、知っていることで理解が深まると感じました。お酒飲みではビタミンB群が不足していることが多いので、ASTやALTが上がり切らないことも理解できました。
それにしても、RCPC(Revered Clinico-Patholocal Conferrence)によって、検査値の推移や組合せから病態を考えていくのも楽しいですね。ASTやALTだけでなく、他のルーチン検査についても同じように参考になることが書かれているのが魅力です。
さて本題に戻ります。一方でASTだけ、もしくはALTだけでは、ASTやALTを掴み切れないと率直に感じました。AST/ALT比(ASTとALTの関係)にも触れながら、理解を深めてみようと思います。
<AST、ALTの含有割合>
肝細胞内 ALT:AST=1:3.2
細胞質AST:ミトコンドリアAST=1:4
<ASTとALTの関係から分かること>
ALT (U/L)の条件
ASTとALTの関係
健常人
<40
AST優位
重症肝細胞障害
>1,000
AST優位
慢性肝炎(ウイルス)
40<ALT<500
ALT優位
40<ALT<500
ALT優位
肝硬変
<200
AST優位
アルコール性肝炎
40<ALT<500
AST優位(AST/ALT=2)
アルコール性肝細胞障害
- PLP欠如がASTよりもALTを低下させる
- 肝ALT活性が低下する
虚血性障害
- AST>ALTとなるが、虚血がなくなれば速やかに低下し逆転する
(出典)検査値を読むトレーニング -ルーチン検査でここまで分かる
ALT優位のまずは2つから見てみます。慢性肝炎はだらだらと炎症の状態が続くことで、半減期の長いALTが多くなる(残っている)ということでしょうか。脂肪肝も慢性的な状況なので納得はできます。
次にAST優位のものを見てみます。正常人や重症肝細胞障害ではASTとALTの割合を考えれば、ASTの方が多いので納得はできます。アルコール性肝炎は、PLP欠如がASTよりもALTを低下させることや、肝ALT活性が低下することから納得できます。
肝硬変もAST優位のようです。だらだらと細胞が障害されており、ASTが多いということでしょうか。そうすれば、慢性肝炎と同じパターン(ALT優位)になりそうな気もし、すっきりしません。
昔、病理的にASTは中心静脈側の障害、ALTはグリソン鞘側の障害というようなことを聞いた覚えがあるのですが、『標準病理学(第5版)』で調べたところでもはっきりしませんでした。後ほど、肝硬変とAST/ALT比についてはもう少し深堀りしてみたいと思います。
虚血性障害では、ASTの方がまず高くなる(AST優位)のは肝細胞が障害された際にASTが多く含まれているから単純に放出量が多いと考えられます。虚血がなくなれば速やかに低下し、ALT優位となるのはALTの半減期が長いためと考えられます。
5.肝硬変(線維化)とAST/ALT比
先ほど、すっきりしなかった「肝硬変とAST優位」についてです。肝硬変(線維化)とAST/ALT比について調べていたところ、長くなりすぎて(散らかりすぎて)しまったため、次回にしたいと思います。
お待たせ致しました。続編はこちらになります。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。
今回、取り上げた書籍になります。読者レビューはじめ、気になる方はチェックしてみた下さい。
今回の肝逸脱酵素だけでなく様々なルーチン検査からの病態の考察・推測が魅力的です。
【関連記事】
肝逸脱酵素関連ですが、心筋梗塞とAST上昇についても記事にしました。よろしければご覧ください。