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116C22 医師国家試験|炎症性マーカーとサイトカイン ~CRP, IL-6をはじめ~

116C22 医師国家試験 炎症性マーカーサイトカイン

CRP、IL-6をはじめ~

 

<目次>

 

 

 今回は、短めの医師国家試験(以下、国試)の問題、116C22から深掘りします。免疫学の時に習ったり、もしくは感染症内科や膠原病内科の実習のときにCRPについて少し学ぶことがあったりした人は知っているかもしれない内容です。この問題をもとに、学び広げていきたいと思います。

 あっさりとした知識問題ではありますが、さっそく問題文から見ていきましょう。

 

1.問題文 116C22

炎症性疾患にみられるCRP上昇に最も関与するサイトカインはどれか。

 

a. IL-1

b. IL-6

c. TGF-β

d. TNF-α

e. インターフェロンγ

 

 

2.解説

 問題文だけ見れば、本当にあっさりとした知識問題です。これに関しては、問題を解く際には知っているかに近い問題であると思います。IL-6が主にCRP上昇に関わります。

 それに加えて、感染症の際にCRPが上昇する機序に関して分かりやすい図もありました。図のリンクの紹介を含めて引用しておきます。

 

図A. 細菌感染症/ウイルス感染症におけるCRP値とフェリチン値

図B. サイトカインと炎症性マーカー 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5158075/bin/ppat.1005973.g002.jpg

  • 細菌感染症ではIL-1βならびにIL-6の反応によって、血清中のCRPが上昇する。
  • ウイルス感染症ではIL-18による反応が特徴的である、高フェリチン血症となる。
  • 細菌感染症とウイルス感染症で完全に二分されるわけではなく、血漿中のIL-18を上昇させる細菌感染症もある一方で、血漿中のIL-1βを上昇させるウイルス感染症もある。

(出典)PLoS Pathog. 2016 Dec 15;12(12):e1005973. doi: 10.1371/journal.ppat.1005973. eCollection 2016 Dec.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 正解を導くだけであれば、これ以上詳しい説明は不要だと思います。CRPフェリチン細菌感染症らしさ/ウイルス感染症らしさのひとつの指標にもなりそうです。細菌感染症でIL-6が上昇する流れは図Bをご覧ください。また、この流れの関係でIL-6を含むサイトカインの流れから肝臓でC反応性蛋白(C-Reactive Protein: CRP)が上がるのにタイムラグが2~3日ほどあるというようなことを聞いたことがある人もいると思います。

 正解はIL-6となります。

 

 正解 (IL-6)



 

3.深掘り

 先ほどの文献によると、細菌感染症の場合はCRPが上昇しやすく、ウイルス感染症の場合はフェリチンが上昇しやすいということでした。鑑別のヒントの一部にもなりそうです。

 今回の深掘りは、IL-6阻害薬を使用する場合の注意点や、他のインターロイキン・サイトカインの感染症時の変動について簡単に深掘りしたいと思います。

 

3-1.IL-6阻害薬使用時には要注意

 今回は、IL-6が上がることでCRPが上がるというつながりを問う問題でした。一般的にステロイドのような免疫抑制剤を使っていると、炎症が抑えられてCRPが上がりにくくなります。それと同じような・似たような状況が生物学的製剤のIL-6阻害薬でも生じます。CRPだけをチェックしていても炎症があるか分かりにくくなるのです。

 

重症感染症であってもCRP/ESRが上昇しないことがある:

IL-6は免疫反応に関わるサイトカインであり、IL-6受容体阻害薬により感染症の全身症状(発熱など)やCRPおよび血沈上昇をマスクすることがある。

(出典)レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版,青木眞,医学書院,2020

 

 先ほどの図Bでの流れを踏まえれば、IL-6のところでブロックされたら、CRPも上昇しにくくなります。トシリズマブやサリルマブというような抗IL-6受容体抗体(IL-6阻害薬)を使っている際には気をつけておくとよいと思います。

 薬歴しっかりと把握しにくい救急外来でも、関節リウマチの既往のある患者(実は生物学的製剤のトシリズマブを毎月点滴している)などの場合で、少しでもCRPが上昇していたら、「おや?」と思う感覚は必要かもしれません。もちろん、膠原病でよく用いるステロイドの副作用にも要注意です。

 いずれにしても、肺炎や腸管穿孔のような感染症が生じても、症状CRPのような炎症性マーカーは上がりにくくなるということは要注意だと思います。また、IL-6阻害薬の図Bでの経路的にはフェリチン上昇はブロックしにくいと考えられます。

 このように薬と絡めてやや基礎医学的なところを学ぶことができる問題でした。



3-2.細菌感染症とウイルス感染症

 それでは、他のインターロイキンが細菌感染症のときならびに、ウイルス感染症のときにどのように変化するかを詳しく見ていこうと思います。

 

血漿中のサイトカイン濃度の変化

 

細菌感染症

ウイルス感染症

IL-1α

低下/N.D.

N.D.

IL-1β

増加

増加

IL-1Rα

増加

正常/N.D.

IL-2

増加

増加

IL-6

増加

低下/N.D.

IL-18

増加

増加

IFN-α

N.D.

増加

IFN-γ

増加

増加

TNF-α

増加

正常、増加

(出典)PLoS Pathog. 2016 Dec 15;12(12):e1005973. doi: 10.1371/journal.ppat.1005973. eCollection 2016 Dec.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 先ほどの図Bと照らし合わせながら見ると、分かりやすいかもしれません。細菌感染症とウイルス感染症における違いもありますね。もっと興味を持てば、免疫学の教科書でそれぞれ調べてみると、楽しそうです。Toll-like Receptor(Toll様受容体)とかまで遡れそうです。



4.国試に向けて

 今回は、国試では知識問題としてさらりと問われた問題でした。実はこんなに臨床に役立つことや臨床問題で聞かれそうなことが隠されているような問題もあります。少しずつ、ただの知識問題に見えるものから、実臨床や臨床問題で使えそうな知識を広げていってみてはいかがでしょうか。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。



国試シリーズはこちら

mk-med.hatenablog.com

 

 今回取り上げた書籍です。青木眞先生が携わられ、エビデンス込みで辞書のようにしっかりと調べたいときのお供になる『レジデントのための感染症診療マニュアル』です。アマゾンンの読者レビュー等が気になる方はチェックしてみてください。