貧血の病歴と身体所見 ~眼球結膜蒼白をはじめ~
<目次>
今回は先日の札幌医大 臨床推論勉強会RiHにて症例提示後、解説をさせていただいた際に扱った貧血に関する部分の内容の発展版になります。その節はお声掛けいただき、ありがとうございました。
それでは貧血についてのお話をしていきたいと思います。貧血の症状は、運動耐用能低下、労作時呼吸困難であればまだわかりやすいですが、倦怠感など非特異的な症状をはじめ様々です。
貧血を疑ったときに、「採血すればいいじゃないか?」とか、救急外来で「結果はスグだし血液ガスをとればいいじゃないか?」と言われてしまえば身も蓋もありません。ですが、身体診察で貧血らしいと考えることができるほうがベッドサイドで便利だとも感じます。採血を予定していなかった場面、採血のしにくい状況(小児、病院外など)で気がつくことができれば素敵であると思います。
それでは、貧血を疑っていく病歴や身体所見について調べていきたいと思います。
1.貧血の病歴
貧血の際にどのような病歴があるのか、問診の際のヒントになるという視点で調べてみました。
・易疲労感や労作時呼吸困難が最もよく認める貧血の徴候である
・立ちくらみは急性失血による起立性低血圧を疑うが、経過が慢性であれば貧血とは関連性がないことが多い。
・顔色蒼白に気がついていれば高度の貧血を考える。
表1.貧血の徴候
Hb<8.0g/dL
Hb>8.0g/dL
倦怠感
91%
84%
呼吸困難
64%
49%
めまい感
54%
40%
最近蒼白になった
84%
39%
食欲低下
52%
39%
体重減少>7kg/6カ月
52%
36%
動悸
29%
21%
(出典)ジェネラリストのための内科診断リファレンス, 2014
倦怠感はlow yeildな症状ですが、労作時呼吸困難は大きなヒントになると思います。また、倦怠感の原因の一つとして貧血を忘れないようにしたいと思います。
2.貧血の身体所見とエビデンス
貧血といえば、真っ先に思い浮かぶ身体所見は眼瞼結膜蒼白でしょうか? 眼瞼結膜ひとつとっても、「眼球結膜貧血様」と言えば、蒼白以外に貧血という判断が入っており、やはり私の中では学生の時に学外で初めて教えていただいた「conjunctival rim pallor」が一番定義もしっかりとしており、しっくりとくるイメージです。
では、貧血の際に身体所見から調べています。
急性出血では循環血液量減少によるバイタルサインの異常が最も顕著な身体所見であるが、慢性貧血では皮膚や粘膜の色調変化がそれを示す。
(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
慢性貧血の場合、相対的大動脈弁狭窄症による大動脈弁領域における収縮期駆出性雑音も聴取できそうです。今回はマクギーに記載されている慢性貧血における所見を深堀りしていこうと思います。
慢性貧血では皮膚や結膜下の毛細血管ならびに細静脈を循環する赤色の酸化ヘモグロビの量が減るため、皮膚や結膜が蒼白にみえる。しかし、皮膚の色は微小血管の径、循環する還元型ヘモグロビンの量、もともとの皮膚の色素の影響を受けるため、蒼白の所見がいつも貧血の存在を意味するとは限らない。寒冷暴露や交感神経刺激による血管収縮も蒼白を呈することがあり、貧血の蒼白所見は血管拡張(炎症、もしくは虚血、冷却、放射線による恒久的な血管損傷)による赤色やチアノーゼの青色、暗い皮膚の色の患者によってわかりにくくなることがある。
理論的には、結膜、爪床、手掌の診察はもともとの皮膚の色素の影響を避けられる。さらにより客観的な眼球結膜蒼白の定義として、下眼瞼を観察し、眼瞼結膜の前縁が後縁と同程度の色素であれば結膜縁の蒼白化とする。
表2.慢性貧血に対する診断的有用性
所見
感度
(%)
特異度
(%)
尤度比(LR)
所見あり
所見なし
いずれかの部位の蒼白化*
22~77
66~92
3.8
0.5
顔面の蒼白化***
46
88
3.8
0.5
爪床の蒼白化
59~60
66~93
NS**
0.5
手掌の蒼白化
58~64
74~96
5.6
0.4
手掌のしわの蒼白化
8
99
7.9
NS**
結膜の蒼白化
31~62
82~97
4.7
0.6
舌の蒼白化
48
87
3.7
0.6
結膜縁の蒼白化
・蒼白化あり
10
99
16.7
ー
・蒼白化境界線
36
ー
2.3
ー
・蒼白化なし
53
16
0.6
ー
*皮膚、爪床、結膜のいずれかの蒼白化
**NS: 有意差なし
***黒人を除外した研究
(出典)マクギーのフィジカル診断学 原著第4版
ちなみに、貧血の基準がHb 9.0g/dL未満、Hb 10 g/dL未満、Hb 11 g/dL未満、Hct 35%未満、女性Hb 11g/dL、男性13 g/dL未満と貧血の定義が様々な文献を合わせたもののようです。
貧血における蒼白化の所見において、特異度は比較的高いものが多いですが、感度はいまひとつですね。なので、貧血を引っかけるつもりがなくても、身体所見で蒼白化を認めた場合には貧血である可能性が高いので調べていくようにするべきということもできます。
眼瞼結膜蒼白と一言でいっても、漫然と眼瞼結膜の色を確認するだけでなく、結膜縁(conjunctival rim)の蒼白化に注目するとよりよい特異度になるようですね。感度が上がらなかったのは残念です。
個人的にはHb 10 g/dLやHb 9.0g/dLあたりの蒼白化の身体所見の感度(特にどのあたりで感度が上がるか)が特に気になるので、そこを深堀してみたいと思います。
3.眼瞼結膜(結膜縁)蒼白の見方
(4.に行く前におまけ)
眼瞼結膜蒼白(とりわけ、眼瞼縁蒼白、conjunctival rim pallor)のみかたについて興味のある方のみご覧ください。人によって、「眼瞼結膜蒼白」でも多少着眼点が異なると思います。
下眼瞼(下まぶた)を「あっかんべー」するように下にめくります。すると、下眼瞼の縁が貧血ではない人であれば、赤みを帯びています。ここ(眼瞼縁、conjunctival rim)が、内側と同じような色のまま蒼白である場合に「眼瞼結膜蒼白(conjunctival rim pallor)」としています。
4.ヘモグロビン値による推移;感度、特異度、尤度比
それでは、ヘモグロビン値(Hb)による身体所見の尤度比の違いについて見てみます(本当は感度の変化についての成人の文献を見つけたかったです)。この文献では、実質的にはconjunctival rim pallor(結膜縁で見た際の眼球結膜蒼白)にて蒼白の有無を判断しています。
<尤度比:ヘモグロビン値と眼瞼結膜蒼白の関係>
(出典)J Gen Intern Med. 1997 Feb;12(2):102-6. doi: 10.1046/j.1525-1497.1997.00014.x.
次に、小児におけるへモブロビン値と眼球結膜蒼白の感度、特異度を見つけました。小児のほうが、成人よりも病態の影響以外の物が少ないと考えられるため、成人との違いも考えずにはいられませんでしたが、ある程度参考にはなると思います。
<感度・特異度:ヘモグロビン値と眼瞼結膜蒼白の関係@小児>
(出典)Trop Med Int Health. 2000 Nov;5(11):805-10. doi: 10.1046/j.1365-3156.2000.00637.x.
ヘモグロビン値 8 g/dL(moderate pallor)と5 g/dL(severe pallor)をカットオフ値にして感度と特異度を出しています。さすがに、現実的にはヘモグロビン値5g/dLよりも8g/dLでの所見を気にしたいものです。
ヘモグロビン値<8 g/dLとした際の眼瞼結膜蒼白の感度が84%、特異度が81%であり、ヘモグロビン値<5 g/dLとすると感度が50%、特異度は95%でした。特異度は上がるものの感度は低下しました。
ヘモグロビン値< 8 g/dLで考えれば、小児で貧血を見つける際には、手掌の蒼白や爪床の方が感度が高いことになります。これは、小児採血をする際にライトを透かせたりした手のことを考えるとわかるような気がします。また、成人とは異なると感じました。
他にも小児では、ヘモグロビン値 11 g/dL、8 g/dL、5 g/dLをカットオフ値とした眼球結膜蒼白、手掌蒼白、爪床蒼白についての主にdiagnostic odds ratio(診断的オッズ比)についてメタ分析した文献もありました。よろしければ、下記をご覧ください。
→ BMC Pediatr. 2005 Dec 8;5:46. doi: 10.1186/1471-2431-5-46.
貧血の身体所見の感度はそこまで高くはないので、やはり貧血を見つけるという意味では健診での採血なども役立つと思います。一方で、特異度も踏まえると眼球結膜、手掌、爪床をはじめ、もし所見が見つかった際にも貧血について考えるきっかけにもしようと思います。
本日もお読みくださりありがとうございました。
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