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プロトンポンプ阻害薬(PPI)|副作用と不適切使用の予測因子

プロトンポンプ阻害薬PPI

副作用不適切使用の予測因子

 

<目次>

 

 副作用(有害事象)について意識していない人も一定数はいるかもしれないと感じるプロトンポンプ阻害薬(proton pomp inhibitor: PPIです。PPIと言えば、タケキャブをはじめDo処方等で漫然と継続されているケースをみることもあります。

 今回は、そんなPPIの副作用や不適切な処方のリスクとなるようなものがわかる予測因子について深掘りするきっかけになればと思い、チェックしてみます。

 

 

1.PPIの副作用(有害事象)

 まずはPPI副作用(有害事象)には、どのようなものがあるのかを調べてみたいと思います。

 

PPI長期使用による有害事象(副作用)

マグネシウム血症

  • 9件の観察研究と109,798名の患者を対象としたメタ解析では、PPI投与患者における低マグネシウム血症のリスクが43%増加したと報告されており、因果関係が示唆されている。

 

ビタミンB12欠乏症

  • 胃酸は、食物タンパク質からビタミンB12を遊離させ、回腸末端での吸収を促進するのに必要である。

 

小腸内細菌異常増殖症(SIBO)

  • PPIの使用に伴う胃酸分泌の減少は小腸内の細菌の過剰繁殖につながりうる。11の研究のメタ解析では、PPIの使用により小腸内細菌が過剰に増殖し SIBOの発症リスクは、PPI使用者では非使用者に比べて増加することが PPI使用者は非使用者に比べてSIBO発症リスクが高いことがわかった(OR, 2.28; 95% CI, 1.24-4.21)

 

骨折

  • PPI治療を受けている患者の骨折リスク増加のメカニズムとして、カルシウム吸収の低下による骨密度(BMD)の低下が考えられている。閉経後の高齢女性を対象としたプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験で、オメプラゾール投与1週間後に空腹時の炭酸カルシウムの吸収率が低下することが明らかになった。しかし、PPI骨粗鬆症の発症に関連するという明確な根拠はない。
  • 骨折が増加するメカニズムとしてPPIによる破骨細胞活性の抑制も考えられており、骨のリモデリングや構造に影響を与えるという仮説もある。

 

Clostridium difficile感染症CDI

  • 全体的なリスクは低いものの、ヒスタミン2受容体拮抗薬の使用もCDIリスクの上昇と関連しており、CDI発症における酸抑制の全体的な役割を示唆している。
  • CDIPPI使用の関連は、アルカリ性の胃のpHでC. difficileのvegetative formが生存するためであるという仮説がある。

 

急性腎障害/慢性腎臓病

  • PPI使用によりCKDが有意に増えるが、PPI使用者ではNSAIDsの併用が統計的に有意に増加しており、これが交絡因子となっている報告がある。

 

認知症

  • アルツハイマー病の病態にはアミロイドβペプチドの蓄積が関与している。ランソプラゾールがマウスの脳内のアミロイドβレベルを上昇させることが研究で明らかにされており、PPIは脳内でアミロイド合成を増加させ、アミロイド分解を減少させる。
  • また、PPIの使用とビタミンB12の欠乏との関係が認知症を含む神経症状を引き起こす可能性がある。

市中肺炎(CAP)

  • ・肺炎は、PPI使用の開始後7日間に一時的な関係があった。この一時的な関係は、PPI使用とCAPの因果関係ではなく、交絡関係を示唆するものであろう。

(出典)Mayo Clin Proc. 2018 Feb;93(2):240-246. doi: 10.1016/j.mayocp.2017.10.022.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 PPIの副作用が意外と多彩であると感じた人も多いのではないでしょうか。相関関係のような関係性が見られるものがたくさんあるようです。因果関係がありそうなものや因果関係がはっきりしないものから、市中肺炎(CAP)のように因果関係はおそらくないと考えられているものもあります。

 

 因果関係としての仮説までひとまず簡単に抜粋しました。因果関係があると考えられるものでも、低Mg血症の部分のマグネシウムの吸収低下の話に関して、私自身不勉強でもっと生理学等で復習しないといけないと思いました。一方でビタミンB12欠乏症小腸内細菌異常増殖症(SIBO)に関して、因果関係があるとしても納得できそうです。

 因果関係があるか分からないものには骨折、クロストリジウム・ディフィシル感染症CDI)、慢性腎臓病(CKD)、認知症(特にアルツハイマー認知症があり、意外性を感じました。骨折に関して、カルシウムの吸収の話はまだ納得しやすく感じたのですが、破骨細胞の活性抑制のような話にまでなると、保留としたくなるような話と感じました。CDIに関して、SIBOのような理屈でわかるような分からないような印象です。CKDに関して、NSAIDsの使用量による間質性障害の可能性もあり、交絡因子による可能性も高そうと感じてしまいました。認知症アミロイドβ蓄積)もマウス実験の段階であることから、保留としたいような感じです。 

 市中肺炎(CAP)に関して、関連はあっても、因果関係はなさそうとされています。CDIやSIBOといった腸管以外の細菌による疾患(感染症)は意外な気もします。今回のReviewでは触れられていませんが、CAPやCDI以外の感染症上田剛士先生の本では関連性が取り上げられていました。 

 

(出典)日常診療に潜むクスリのリスク 臨床医のための薬物有害反応の知識, 上田剛士, 医学書院, 2017

 

 高いハザード比を見ていると、何らかの因果関係に近いものがないのか気になると思います。特にサルモネラ感染症カンピロバクター感染症は胃酸の強さと殺菌が関係していそうです。

 他にも貧血ビタミンB12欠乏だけでなく、鉄欠乏性貧血もある)、高ガストリン血症によるPPI離脱症状胃癌の発生との関係の報告や可能性についても触れられています。機序の仮説についても想像通りの部分もそうでない部分もあります。

 

 ここまでで取り上げたReviewのもとにしても、多くは後ろ向きの観察研究が元となったエビデンスであることを考えれば、まだまだ考える余地はあります。他にも因果関係の程度に関する記載を見ると、相関関係だけなのか、因果関係とまではっきり言い切れるのか怪しいものもあります。そういう意味では副作用・有害事象という表現よりももっと精密な表現があるような気もします。

 しかし、「薬は毒でもあると考えれば何か有害事象がありうるという視点は大切だと思います。巷でたまに騒いでいるワクチン摂取数と超過死亡を単に並べたような相関関係とは異なり、因果関係を考えてみたくなるのものが多く感じます。そして、Reviewにおいて因果関係についての確かさにも言及してある部分も素敵だと思います。

 薬を不必要な人に処方しないという視点から、PPIの不適切使用(不適切処方)について調べてみたいと思います。




2.PPI不適切使用の予測因子

 PPI不適切使用(不適切処方)に関して、それこそ適応通りに使えば大丈夫というような簡単な答えもあるでしょう。それを言ってしまえば、そうなのかもしれませんが、「Do処方」のような状況含めて不要にPPIを使用されていることもあるのではないでしょうか。

 不適切使用になりやすい人・条件といったリスクについての予測因子を知っておけば、PPIの不適切使用がないか注意するきっかけの一助になるのではないでしょうか。

 

プライマリケア領域における不適切なPPI使用

  • オランダのプライマリケア領域の医療データベース(148,926名)において、2016年から2018年に新規でPPIが新規に使用された18歳以上の患者23,601名(平均年齢57±17歳、女性59%)の後ろ向き研究。
  • PPI新規使用者23,601名のうち、開始時に適切なPPI使用が10,466名(44%)、不適切なPPI使用が13,135名(56%)であった。

PPIの不適切な使用の予測因子

(出典)Br J Gen Pract. 2022 Jun 24;BJGP.2022.0178. doi: 10.3399/BJGP.2022.0178.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 そもそも、プライマリケア領域での不適切使用56%と半分以上で多いことに驚きました。それだけ、Do処方のようなものや、気軽に処方してしまう傾向があるのでしょうか。

 PPIの不適切使用を定義するにあたり、適切使用についても定義されています。適切使用の定義も気になる人もいらっしゃるかと思いますが、そこまで変に感じるところはないように思います。「適切な使用適応」や「適切な使用期間」については詳しくは論文をご覧ください。

 

 予測因子オッズ比はいかがだったでしょうか。糖尿病心不全のような、意外に感じる項目がある人もいるかもしれません。

 特に、非選択的NSAIDs、セレコキシブ(COX2選択的阻害薬)、低用量アスピリン、ADP受容体阻害薬(抗血小板薬のひとつで一般名としてはクロピトグレル、プラスグレル、チクロピジン)、DOAC、低分子量ヘパリン、ステロイド全身投与もオッズ比がそれなりに比較的高く、オッズ比>3ですね。いわゆる消炎鎮痛薬等としてCOX阻害するもの、抗血小板薬・抗凝固薬といった辺りのオッズ比が高めです。

 SSRISNRIに関しては、うつ症状等による胃腸症状で用いることがあるからでしょうか。胃がキリキリする制酸薬と想像がつくあたりから、納得できるようにも感じます。

 

 性別男性であること)や加齢といったものまでPPIの不適切な使用の予測因子となるようです。1歳年を取るごとにOR 1.03なので、30歳と80歳を比べると単純計算でOR 4.38となります。そういう視点でとらえると高齢者も若年者と比較して大きなオッズ比としてひとつのリスクとなりそうです。高齢者の定期通院とDo処方の継続の関係も気になるところです。



 クスリはリスクという、どちらから読んでも逆さ文字のように読める”名言”がありますが、まさしくPPIでも様々な有害事象があり、不適切使用の予測因子を少し意識してみることで、不適切処方や不要な処方を減らすことができるきっかけになるかもしれません。やはり、PPIも含めて薬は必要な量だけ必要な期間だけが理想だと思います。

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。



 今回取り上げた”クスリはリスク”という名言がタイトルにも入った上田剛士先生の書籍です。高齢者に対する抗精神病薬や薬剤性血球減少をはじめ、複数の読み応えのある薬の副作用(有害事象)について取り上げられています。約5年前発刊と少し古いですが、アマゾンの読者レビューをはじめ気になる方はチェックしてみてください。