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これがなくても否定できない大動脈解離|疼痛、血圧の左右差、脈拍欠損、縦隔拡大、ADD-RS

これがなくても否定できない大動脈解離

~疼痛、血圧の左右差、脈拍欠損、縦隔拡大、ADD-RS~

 

<目次>

 

 今回は、「これがなくても否定できない大動脈解離」ということでテーマ性をもった内容にしてみたいと思います。「上肢の血圧の左右差がないから大動脈解離は否定的」というような危険な橋を渡りかけたことはありませんか

 具体的にどのような内容が、どのような頻度で認められるのかというようなのを具体的に例をあげて紹介する記事にしたいと思います。

(注)一般論的な話は、教科書や二次文献等をご確認ください。

 

 

1. 疼痛(胸痛など

 大動脈解離の症状と言えば、胸痛、腹痛、腰背部痛といった疼痛があり、さらに痛みの移動があれば、それらしいと考える人が多いと思います。確かにそうですが、痛みを訴えることなく来る人がいます。

 

北米、ヨーロッパ、アジアの多施設でデータベースに登録された977名の急性大動脈解離(AAD)患者のうち、63名(6.4%)が無痛性AADであり、914名(93.6%)が有痛性AADであった。

(出典)Mayo Clin Proc. 2004 Oct;79(10):1252-7. doi: 10.4065/79.10.1252.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

大動脈解離482例のうち、447例(92.74%)の主な臨床症状は疼痛であり、35例(7.26%)は典型的な疼痛を認めなかった。

  • 無痛群におけるStanford A型の割合は、有痛群よりも有意に高かった(48.57% vs 21.03%、P=0.006)。
  • 意識障害の発生率は、無痛群が有痛群より有意に高かった(14.29% vs 3.58%、P=0.011)。
  • 低血圧の発生率は、無痛群が有痛群より4.26倍有意に高かった(P=0.01)。

(出典)J Huazhong Univ Sci Technolog Med Sci. 2014 Aug;34(4):582-585. doi: 10.1007/s11596-014-1319-8.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

AAD患者98人(男性53人、女性45人、66±12歳)のうち、16人(17%)は痛みがなく(無痛群)、82人は痛みがあった(有痛群)。

  • Stanford A型解離: 無痛群では81%、有痛群では70%であった。
  • 無痛群では、遷延性意識障害(44% vs 6%、P<0.001)、失神(25% vs 1%、P<0.001)、局所神経障害(19% vs 2%、P=0.006)を呈することが多かった。
  • 画像検査所見に有意差はなかった。
  • 無痛群で頻度の高い合併症は、脳虚血(50% vs 1%、P < 0.001)と心タンポナーデ(38% vs 13%、P = 0.01)であった。

(出典)Circ J. 2011;75(1):59-66. doi: 10.1253/circj.cj-10-0183.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

多施設における大動脈解離の患者464名のカルテの後ろ向き解析

  • 何らかの疼痛を訴えた大動脈解離の患者は95.5%であり、Stanford A型では93.8%、Stanford B型では98.3%であった。

(出典)JAMA. 2000 Feb 16;283(7):897-903. doi: 10.1001/jama.283.7.897.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 無痛性大動脈解離(painless aortic dissectionの頻度は意外と無視できないと思ってもらえれば幸いです。大動脈解離のうち約10%も無痛性であるとなれば、致命的な疾患(見逃してはいけない疾患)として否定しきってしまうのは危険です。

 無痛性大動脈解離の場合、大動脈解離を否定されがちな結果からか、有痛性と比較して診断までに時間要したり、予後悪くなりがちというような結果まで示しているものもあります。

 

 さらに無痛性大動脈解離で、注目すべきだと考えられるのは、失神意識障害が有意に多いということでしょうか。解離の際に意識が飛んだために、疼痛を感じなかったというようなことも考えられます。失神や意識障害の原因としても、大動脈解離も忘れないようにしましょう。

 

 

【補足】痛み移動

 大動脈解離と言えば、痛みの移動が特徴のひとつとして挙げられます。痛みの移動がないからといって、大動脈解離を否定することはさすがにないとは思いますが、診断にたどり着かない可能性が上がってしまうようです。

 

痛みの移動がない場合、大動脈解離の診断が見落とされることが有意に多かった(尤度比 33.16)。

(出典)Am J Emerg Med. 2012 Oct;30(8):1622-6. doi: 10.1016/j.ajem.2011.11.017.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov



【参考】疼痛以外手がかり

 無痛性大動脈解離についてチェックしてみました。胸痛や腰背部痛がない場合に、どのようにして想起するかという視点からも、疼痛以外症状身体所見等について簡単に触れておきたいと思います。

 

 疼痛以外の症状として、失神、呼吸困難、脱力も認められる。身体所見として、高血圧あるいは低血圧、脈拍欠損、大動脈弁逆流、肺水腫、および頸動脈閉塞(片麻痺、片側知覚消失)や脊髄虚血(対麻痺)による神経所見を示すことがある。腸管虚血、血尿、心筋虚血も認める。これらの臨床症状は、解離による大きな動脈の閉塞によって起こる合併症を反映している。

 さらに、動脈瘤性拡張からの解離の進行による隣接組織(例えば、上頸部交感神経節、上大静脈、気管、食道)の圧迫による臨床症状も起こりうる。そのためHorner症候群、上大静脈症候群、嗄声、嚥下困難、気道障害などをきたすことがある。A型病変では、逆行性解離により血清心膜液や心タンポナーデを合併する。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 このように大動脈解離の解離部位によって様々な症状などを引き起こします。さらに大動脈弁逆流により、反跳脈、脈圧の開大、拡張期雑音の聴取、うっ血性心不全もきたしうるでしょうし、麻痺であれば、MMT低下や腱反射消失のように様々な神経所見が生じるでしょう。

 いずれにしても、疼痛以外症状合併症にも大動脈解離を想起するヒントがあります。疼痛がなくても、失神などでも見逃さないように気をつけましょう。

 

大動脈解離の患者において失神は9.4%でみられ、Standord A型とB型を比較するとA型で有意に多かった(12.7% vs. 4.1%, p = 0.002)

(出典)JAMA. 2000 Feb 16;283(7):897-903. doi: 10.1001/jama.283.7.897.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10685714/

 

 失神は大動脈解離の約10%でみられます。失神で意識が飛んで疼痛を感じなかったと考えるとつながりやすいでしょう。

 

 先ほども取り上げたこの論文では、大動脈解離について症状や身体所見、マネジメント、アウトカムについて調べてある論文です。定量な面からのゲシュタルト作りにも使いやすいと思います。




2. 血圧左右差

 血圧の左右差も大動脈解離を疑うきっかけとなります。いや、むしろ血圧の左右差がないことなんて普通にあります。国試の典型例のようなものに引っ張られすぎているのでしょうか。ということで、具体例を出してみたいと思います。

 

Stanford A型急性大動脈解離(TAAD)において、大動脈解離以外の場合と比較した際に、L-R>15 mmHg(19% vs. 8%, p=0.047)、L-R>20 mmHg(14% vs. 4%, p=0.029)であり、腕間血圧差は有意であった。

*L: 左腕の収縮期血圧、R: 右腕の収縮期血圧

(出典)J Nippon Med Sch. 2021 Nov 17;88(5):467-474.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 有意差はあったということですが、患者間の特性の違いも考慮する必要もあるでしょう。それにしても、そもそも血圧の左右差を認める割合が少ないですね。あくまで目安としても、大動脈解離の患者の20%未満です。また、当たり前ですが、大動脈解離ではない患者でも血圧の左右差を認めることもある点も要注意でしょう。

 さらに、診断において次のようなことも言われています。

 

血圧の左右差がない場合、大動脈解離の診断が見落とされることが有意に多かった(尤度比 35.76)。

(出典)Am J Emerg Med. 2012 Oct;30(8):1622-6. doi: 10.1016/j.ajem.2011.11.017.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22306397/

 

 このように、血圧の左右差がなくても大動脈解離を否定したりせず、忘れないようにしましょう。




3. 脈拍欠損

 血圧差と似ていますが、もう少し簡便な身体所見として脈拍があります。血圧差の延長のような面もあるので、こちらの脈拍消失は軽くチェックする程度にしたいと思います。

 

古典的な身体所見のひとつである脈拍欠損は、15.1%の患者でしか認められなかった。

(出典)JAMA. 2000 Feb 16;283(7):897-903. doi: 10.1001/jama.283.7.897.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 血圧低下の1つのパターンであると考えれば、血圧低下が見られる場合にある程度類似しうることも考えられる数字でしょう。




4. 縦隔拡大

 アクセシビリティの高い胸部レントゲン(胸部X線において縦隔拡大をチェックする人も多いと思います。そこでも、大動脈解離が否定できるのかということについてチェックしてみたいと思います。

 

胸部X線において、急性大動脈解離の患者のうち263名(61.6%)で縦隔拡大を認めた。Stanford A型では62.6%で認め、B型では56%で縦隔拡大を認めた。

(出典)JAMA. 2000 Feb 16;283(7):897-903. doi: 10.1001/jama.283.7.897.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10685714/

 

 ここでは、Stanford A型でも37.4%において縦隔拡大認めないということです。見逃してはいけない疾患と考えれば、否定材料には使いにくいでしょう。




5. ADD-RS(大動脈解離診断リスクスコア)

 ここで、どんな患者に大動脈解離のリスクが高いかをチェックするために、大動脈解離診断リスクスコア(Aortic Dissection Detection Risk Score: ADD-RSという臨床予測ルール(CPR)があります。何でもない人にまで造影CTをしていたらキリがないと思いますが、大動脈解離のリスクを事前に見積もって、スクリーニングするために作られたものです。

 これも、先ほどまでに取り上げた身体所見等もありますが、「0点(該当項目がない)なら大動脈解離でない」とすると、危険な橋を渡るリスクがあります。具体的にチェックしていきます。

 

ADD-RS(大動脈解離診断リスクスコア)

大動脈解離診断リスクスコア(ADD-RS)

2538名の急性大動脈解離患者のデータにおける後ろ向き研究

  • ADD-RSは、各カテゴリー(患者背景、疼痛の性状、身体所見)の該当する項目が1つ以上ある場合にそのカテゴリーを1点とし、0-3点で評価する。
  • 急性大動脈解離患者のうち、ADD-RS 0点(低リスク)が108名(4.3%)、1点(中リスク)が36.5%、2-3点(高リスク)が59.2%であった。
  • ADD-RSが0点(低リスク)の患者108名のうち、72人に胸部X線検査が行われ、そのうち35人(48.6%)に縦隔の拡大が認められた。

(出典)Circulation. 2011 May 24;123(20):2213-8. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.110.988568.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 まずは、安易にADD-RSだけを過信し、低リスク(ADD-RS 0点)だから大動脈解離を否定的であると考えてしまうと、4.3%の大動脈解離は見逃してしまうリスクがあるということです。もっと感度が高いかもしれないと誤解して考えていた人もいるのではないでしょうか。これこそ、ADD-RSについて深掘りしてみて、「低リスク(0点)でも大動脈解離の約5%見逃しうる」という事実と元々の感覚とのズレを知ることができることが収穫だと思います。

 詳しくはこの論文をチェックしていただければと思うのですが、ADD-RSが0点であった患者において胸部X線を行ったとしても、約半数でしか縦隔拡大を認めていません。臨床予測ルールを中途半端に知り、それを過信していると、そのまま見逃す可能性が高まります。

 

 この大動脈解離のスクリーニングとしての感度を補うように追証され、このADD-RSとDダイマを組み合わせた診断アルゴリズムも存在します。欧米のガイドライン等で目にしたことがあるかもしれません。

  • ADD-RS≧1点、かつDダイマー陽性(≧0.5μg/mL)のとき、急性大動脈解離の診断特性は感度100%、特異度15%であった。
  • ADD-RS≧2点、かつDダイマー陽性のとき、急性大動脈解離の診断特性は感度99%、特異度35%であった。

(出典)Eur Heart J Acute Cardiovasc Care. 2020 Oct;9(3_suppl):S32-S39. doi: 10.1177/2048872620901831.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 これを見ると、絶対ではないにしてもDダイマによって診断特性(感度)改善されています。Dダイマ陰性であれば、除外しやすくなります。そもそもDダイマーが陰性でない場合はそれなりにあるとは思いますが…。

 

 本題に戻すと、臨床予測ルールのようなチェックリストはあくまで一辺を切り取ったものです。ADD-RSをはじめ、特定の項目だけを過信すると見逃しうるということを意識しておいてもらえればと思います。

 

**********

 胸痛をはじめとする疼痛血圧の左右差、脈拍欠損、縦隔拡大、のような大動脈解離を示唆するような項目がなかったり、ADD-RSのような臨床予測ルールで低リスクであるにもかかわらず、CTに行ったらヒヤっとしたというような経験がある人もいると思います。そんな大動脈解離見逃さない一助になれば幸いです。

 

 本日もお読みくださいまして、ありがとうございました。

 

 

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 ADD-RSのように臨床予測ルールをもとに、深掘りしてみると新たな発見があることがあります。興味がある方がいらっしゃいましたら、よろしければご覧ください。