"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

医学の趣味人"Med-Hobbyist"のブログへようこそ。医学に関連する「なぜ」・「なに」といった好奇心を大切にする場所として、体験・読書をシェアする場所として、過去の失敗談やヒヤリを棚卸する場所として、傷を舐め合う場所ではなく何かヒントを得られるような場所にしたいと思います。少しでもお役に立てば幸いです。

健診で「肝機能障害?」と言われたら②|肝硬変とAST/ALT比の深堀り

健診「肝機能障害?」と言われたら

肝硬変AST/ALT比深掘りを中心に~

 

<目次>

1.肝逸脱酵素上昇=肝機能障害とは限らない(前回)

2.肝臓の働き・機能(前回)

3.肝機能検査を深堀り(前回)

4.肝細胞パターン(AST・ALT)の深掘り(前回

→【前回】健診で「肝機能障害?」と言われたら①|肝逸脱酵素上昇から深掘りへ

 

 

5.肝硬変(線維化)とAST/ALT比

 前回、肝機能検査の深堀りをして、慢性肝炎であればALT優位であり、肝硬変となるとAST優位となるという辺りの内容でした。肝硬変について調べてまとまりがつかなくなり、肝硬変とAST/ALT比という部分のみ別に改めてとなりました。

 詳しく調べてみたところ、AST/ALT比(the De Ritis ratio)肝臓の線維化には正の相関関係があるとする下記のような文献は見つかりました。

 

***

B型肝炎ウイルス(HBV)患者>

 B型肝炎ウイルス患者において、血小板数は線維化ステージと有意な負の相関を示し(r=-0.343、p=0.000)、AST/ALT比は線維化ステージと弱いながらも有意な正の相関を示した(r=0.137、p=0.013)。AST/ALT比≧1,血小板数<15万/mm3の重度の線維化または肝硬変(ステージ3および4)の患者は、陽性適中率が66.7%、感度14.6%、特異度97.5%、陰性的中率77.0%であった.

(出典)Korean J Gastroenterol. 2004 Apr;43(4):246-51.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

<非アルコール性脂肪性肝炎(NAFLD)患者>

 Kendall相関とSpearman相関の両方を用いて、血清ALTと肝臓の線維化スコアの間に有意な正の相関が観察された(Kendall correlations: r=0.202, P=0.004, Spearman correlations: r=0.284, P=0.005)。

 

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5018361/bin/hepatmon-16-07-38346-i001.jpg

  • 肝臓の線維化スコアとAST/ALT比の相関性を認めた(r=0.23, P=0.022)。

 

  • 肝臓の線維化スコアとFIB-4の相関性を認めた(r=0.5, P>0.001)。
  • 肝臓の線維化スコアとAPRIの相関性を認めた(r=0.51, P>0.001)。

(出典)Hepat Mon. 2016 Jul 3;16(7):e38346. doi: 10.5812/hepatmon.38346. eCollection 2016 Jul.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

C型肝炎ウイルスHCV)患者>

 AST/ALT比は組織学的な肝線維化ステージとともに有意に上昇し、Metavir fibrosis stageとAST/ALT比には有意な正の相関が認められた(r=0.129, P<0.0035)。一方で、ROC曲線解析の結果、AST/ALT比は有意な線維化(F≧2)(AUROC=0.531)を区別できず、重度の線維化(F≧3)(AUROC=0.584)や肝硬変(F4)(AUROC=0.626)では非常に低い診断精度であった。

(出典)Clin Res Hepatol Gastroenterol. 2013 Nov;37(5):467-72.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

***

 ここまで見てみると、AST/ALT比と線維化においてHBV患者での報告ではr=0.13であり、ほとんど相関なしでした。NAFLD患者の報告では、r=0.23からは低い正の相関程度でした。

 肝組織の線維化が進む(慢性肝炎から肝硬変になる)につれてAST/ALT比上昇する傾向はありそうなものの、そこまで診断には役立たないという程度の解釈になりそうです。肝硬変の原因の違いによる影響はあるのか、そもそもAST/ALT比はそれほど役立たないのか迷う限りです。

 調べている間にみつけた血小板数は低い負の相関関係にあり、それを組み込んだFIB-4APRI(AST to Platelet Ratio Index)というスコアの方が相関関係が強いようです。

 FIB-4は分母に√ALTと血小板数の積、分子にASTと年齢の積を用いた指標です。APRIはAST to platelet ratio indexという名前の通りですが、分母に血小板数、分子にASTを用いた指標になります。ASTやALT、血小板数をはじめ、線維化の指標の元となる検査値というところでしょうか。

 

 肝臓の線維化に何をどの程度参考にすればよいのか迷います。文献の妥当性の問題もあります。2次文献も参考にしたいものです。UpToDateを調べてみました。

 

 血清学的な肝線維化のマーカーは大きく間接的マーカーと直接的マーカーに分けられる。

<間接的マーカー>

 肝機能を反映するが、細胞外マトリックス代謝を直接反映するものではない。

 個々のマーカーには、血清AST値、血小板数、凝固因子、γ-GT(GGT)、総ビリルビン、α-2-マクログロブリン、α-2-グロブリン(ハプトグロビン)などが含まれる。これらの個々のマーカーは、肝線維化の有無を予測する指標に組み合わされている。

  • APRI
  • FibroTest, FibroSure, ActiTest
  • Hepascore
  • AST/ALT比:AST/ALT比>1であれば肝硬変の存在を示唆するとするいくつかの研究がある。しかし、研究結果は一貫しておらず、肝硬変の診断におけるAST/ALT比の臨床的有用性は依然として不明である。
  • その他

 

<直接的マーカー>

細胞外マトリックスのターンオーバーを反映する。

例:プロコラーゲンI型・III型、ヒアルロン酸、メタロプロテアーゼ組織インヒビターなど

 

(出典)UpToDate > Noninvasive assessment of hepatic fibrosis: Overview of serologic and radiographic tests, last updated: Nov 01, 2021

 

 UpToDateをみれば、さらに詳しく書いてあります。今回のAST/ALT比の深堀りとしては、肝硬変の際にAST/ALT比が上がることもあるという程度の落としどころとなりそうです。他のAPRIの方が有効そうです。

 

 少し病理組織学的なところに戻ります。肝硬変(肝臓の線維化)の進行としては、グリソン鞘あたりから線維化が始まり、グリソン鞘間が線維化にてつながり、偽小葉を作っていくと覚えています。そこからすると、「グリソン鞘側の病変がALT優位」(慢性肝炎の時ほどALT優位であり線維化が中心静脈の方まで進むとAST優位へ)という覚えるためのこじ付けとして使えそうです。

 

 今回のように病態生理等の基礎医学的な部分にまで目を向けることでASTやALTをはじめとする肝機能検査が理解結びつけしやすくなると感じました。(受験勉強・医学部暗記試験の弊害なのか、パターン認識でこなして、今回のような部分は周りに求められていないかもしれませんが…)

 

 肝機能検査のあとは、肝臓が原因となれば、肝臓の原因(鑑別疾患)を挙げて考えて行くことになると思います。私自身は上田剛士先生にセミナーで教えていただいた慢性肝障害の鑑別疾患「ABCDEFGHIJ(想起順にBCDEFGHAIJ)」という頭文字から鑑別を挙げていくという方法(ネモニクス)が好きですが、それぞれ何か想起しやすいものを見つけると良いと思います。

 

 

6.ASTとALTが著増(> 1,000 U/L)する原因

 ネモニクスつながりで、AST、ALTが著増し、検査値が4桁(> 1,000 U/L)となる原因のネモニクスがあります。それで今回のテーマは終わりにしたいと思います。

  “Tainted Mushrooms Can Cause Bad Hepatitis, So Watch Out!”というネモニクスです。私にはちょっと覚えにくいので、むしろウイルス性肝炎、中毒・薬剤、虚血性から想起することになりそうですが、もしよろしければどうぞ。

f:id:mk-med:20220111003241j:plain

 

 

 

P.S. 何でもありのAST/ALT比

 AST/ALT比に関して、肝臓関連でも様々な文献がありましたが、もはや何でもありな感じですね。PubMedで検索したところ、AST/ALT比が前立腺がん罹患率の予測因子となるという示唆や、COVID-19における肝逸脱酵素と死亡率、AST/ALT比と慢性心不全の重症度など様々な文献が見つかりました。

 

“AST/ALT ratio as a significant predictor of the incidence risk of prostate cancer”

Cancer Med. 2020 Aug;9(15):5672-5677. doi: 10.1002/cam4.3086. Epub 2020 Jun 20.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32562455/

 

“The AST/ALT (De Ritis) Ratio Predicts Survival in Patients with Oral and Oropharyngeal Cancer”

Diagnostics (Basel). 2020 Nov 19;10(11):973. doi: 10.3390/diagnostics10110973.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33228184/

 

“The De Ritis ratio as prognostic biomarker of in-hospital mortality in COVID-19 patients”

Eur J Clin Invest. 2021 Jan;51(1):e13427. doi: 10.1111/eci.13427. Epub 2020 Oct 25.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33043447/

 

“AST/ALT ratio predicts the functional severity of chronic heart failure with reduced left ventricular ejection fraction”

BMC Res Notes. 2020 Mar 24;13(1):178. doi: 10.1186/s13104-020-05031-3.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32209113/



 インパクトファクターも低そうなところで、これこそ、どの文献が一般的に使えそうなのかというところで迷いました。UpToDateのような二次文献やしっかりした教科書では、文献等の妥当性の判断も入っているという意味で役立ちそうです。有料文献にアクセスできない場合は、無料のReview Articleを探してみるのも良いでしょう。

 

<肝機能検査のReview Articleの一例>

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK482489/#article-20995.s2

 

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

【関連記事】

 前回の記事(健診で「肝機能異常?」と言われたら①)では一般的なことを中心に扱いました。よろしければ、こちらも合わせてご覧ください。

mk-med.hatenablog.com