血管炎②
~血管炎ごとの特徴・臨床症状のまとめ~
<目次>
明日のDGPJ 2021に向けた記事の血管炎②です。昨日の血管炎①では血管炎の分類や「血管炎っぽい」と感じたときの血管炎以外の鑑別を紹介したりしました。
今回は、その記事に続いて血管炎の疾患ごとの特徴(主に臨床症状)をまとめたものです。
<前回の記事はこちら>
【お断りとお詫び】
どんどん書いていきたかったのですが、やはり時間がありません。教科書にも各疾患の記載はあると思うので、定性的なものや便利な表(table)の一部を紹介する程度の記事になってしまいました。前回の記事のほど、流れを意識して書くこともできませんでしたが、途中までのものをこのままにしておくのももったいないので、公開することにしました(手直しはすることもあります)。また、有料文献へのアクセスの可否により、閲覧可能であったものを検索して紹介するというような流れになっています。申し訳ございませんが、予めご了承ください。
1.大血管炎
1-1.高安病(大動脈炎症候群)
大血管(動脈)に炎症が生じる高安病(高安動脈炎,大動脈炎症候群)です。患者像は若い女性といったところでしょうか。
<高安病の臨床症状>
動脈
動脈造影上の異常所見の頻度(%)
発現しうる症状
鎖骨下動脈
93
上肢の跛行、Raynaud現象
総頚動脈
58
視力障害、湿疹、一過性脳虚血発作、脳卒中
腹部大動脈
47
腹痛、悪心、嘔吐
腎動脈
38
高血圧、腎不全
大動脈弓または大動脈起始部
35
大動脈閉鎖不全、うっ血性心不全
椎骨動脈
35
視力障害、めまい
腹腔動脈
18
腹痛、悪心、嘔吐
上腸間膜動脈
18
腹痛、悪心、嘔吐
腸骨動脈
17
下肢の跛行
肺動脈
10-40
非定型的な胸痛、呼吸困難
冠動脈
<10
胸痛、心筋梗塞
(出典)ハリソン内科学 第5版
1-2.巨細胞性動脈炎(GCA)
巨細胞性動脈炎(GCA: giant cell arteritis)といえば、主には50歳以上の高齢者ですかね。とりあえず、典型的な症状とOccut manifestationを見つけたので紹介します。
(出典)Curr Opin Rheumatol. 2002 Jan;14(1):3-10. doi: 10.1097/00002281-200201000-00002.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11790989/
GCAでは、さらにLarge-vessel GCAというようなものもあり、もっと詳しく調べてみる必要性もあると思います。
大血管炎は、小血管炎に比べて、皮膚所見にも乏しく症状も身体の正中よりにあるような個人的な印象があります。しかし、それ以上、期日的にも調べる時間がなく、申し訳なく思います。完成度が表はない部分に関してもKelly and Firestein’s Textbook of Rheumatologyなどの教科書を読んだほうがいいかもしれません。
2.中血管炎
2-1.結節性多発血管炎(PAN, PN)
続いて中血管炎です。まずは、結節性多発血管炎(PAN, PN: polyarteritis nodosa)から紹介します。50歳前後(40-60歳)ぐらいの男性に多いイメージです。
<結節性多発動脈炎における臓器損傷に関連した臨床症状>
臓器
発生率(%)
臨床症状
腎動脈
60
腎不全、高血圧
筋骨格系
64
関節炎、関節痛、筋痛
51
末梢性ニューロパチー、多発性単神経炎
消化管
44
腹痛、悪心および嘔吐、出血、腸梗塞および穿孔、胆嚢炎、肝梗塞、膵臓梗塞
皮膚
43
皮疹、紫斑、小結節、皮膚梗塞、網状皮疹、Raynaud現象
心臓
36
尿生殖器
25
精巣・卵巣・精巣上体の疼痛
中枢神経系
23
脳血管障害、精神症状、痙攣
(出典)ハリソン内科学 第5版
2-②.川崎病
(PASS)
3.小血管炎
まずは、ANCA関連血管炎や免疫複合体性小血管炎のような小血管炎らしい症状・所見を見かけた際の鑑別です。よく、肺や腎臓などに症状が生じますが、それぞれで病変の生じる部位にも特徴があります。
(出典)Am Fam Physician. 2002 Apr 15;65(8):1615-20.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11989638/
しかし、上記の表だけ見ると、定量的な表現ではないのが気になります。古いNEJM(疾患名も含め)ですが、参考程度にどうぞ。
(出典)N Engl J Med 1997; 337:1512-1523
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9366584/
3-1.ANCA関連血管炎
3-1-①.ANCA関連血管炎と鑑別
他にも、ANCA関連血管炎を疑った際の肺病変であれば、びまん性肺胞出血なのか、結節や空洞病変なのか、といったそれぞれの鑑別の載っているものもありました。意外と便利かと思います。
(出典)Rheum Dis Clin North Am. 2010 Aug;36(3):491-506. doi: 10.1016/j.rdc.2010.05.009.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20688246/
- ANCA関連血管炎だけでなく様々な疾患でANCAが陽性となる
ということも、上記の文献にも記載がありました。DGPJに参加するほどの人にはいう必要ないかもしれませんね。
3-1-②.多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
多発血管炎性肉芽腫瘍(GPA、Wegener肉芽腫瘍)といえば、触知可能な紫斑(palpable purpura)という言葉を聞くイメージです。こちらも中年の人に多いイメージです。それはされおき、臨床症状。所見が教科書でも項目がたくさんですが、まとめっていました。
<多発血管炎性肉芽症の臨床症状・所見>
発現する症状
初発時の
陽性率(%)
全経過中の
陽性率(%)
腎臓
・糸球体腎炎
18
77
耳鼻咽喉
73
92
・副鼻腔炎
51
85
・鼻障害
36
68
・中耳炎
25
44
・難聴
14
42
・声門下狭窄
1
16
・耳痛
9
14
・口腔病変
3
10
肺
45
85
・肺浸潤
25
66
・肺結節
24
58
・喀血
12
30
・胸膜炎
10
28
眼
・結膜炎
5
18
・涙嚢炎
1
18
・強膜炎
6
16
・眼球突出
2
15
・眼痛
3
11
・視力低下
0
8
・網膜病変
0
4
・角膜病変
0
1
・虹彩炎
0
2
その他
・関節痛/関節炎
32
67
・発熱
23
50
・咳
19
46
・皮膚異常
13
46
・体重減少(体重の10%以上)
15
35
・末梢性ニューロパチー
1
15
・中枢神経系疾患
1
8
・心膜炎
2
6
・甲状腺機能亢進症
1
3
(出典)ハリソン内科学 第5版
3-1-③.好酸球性多発血管炎性肉芽腫瘍(EGPA)
(PASS)
3-2.免疫複合体性小血管炎
(PASS)
ハリソンをはじめ、教科書にも記載がありました。Clinical Presentationsに関する定量的な表現は教科書に特にありませんでしたが、よろしければご確認ください。
4.その他の血管炎
4-1.ベーチェット病(Bechet’s disease)
ベーチェット病といえば、まず思いつくのは比較的若年の男女で、再発性口腔内アフタのイメージですが、実際にはどうなのか調べてみたいと思います。
中国人を対象とした論文が見つかりました。
(出典)APLAR Journal of Rheumatology 2006; 9: 244–247
口腔内アフタが100%ではないのも少し気になりますが、2番目に多いのは陰部潰瘍(76.3%)のようで、特異度が高いそうなイメージでしたが、頻度が意外と高い印象を受けました。
トルコ人に多い、日本人でもそれなりにみられるものの、欧米人では少ない等、人種・地域によって罹患率が異なったり、Clinical Presentationsが異なったりします。特異的な組織や抗体もなく、臨床経過で診断することが多いと思いますので人種ごとや臨床経過もよろしければ、ハリソン内科学やケリーの膠原病学で調べてみてください。
4-2.Cogan症候群
中々、アクセス可能な文献かつ定量的なものも見つからず、時間切れとなってしまいました。ハリソン内科学で特徴だけでも確認して終わりにしたいと思います。
- Cogan症候群は角膜実質炎と前庭聴器官症状を特徴する
- 全身性血管炎、特に大動脈弁の障害を伴う血管炎を合併することがある。
(出典)ハリソン内科学 第5版
定量的な表現はありませんでしたが、疾患像は掴みやすいし、読みやすいと思います。他にも定量的な表現(症状等の頻度)では、症状などの経過の一部分を切り取ったもの(例:診断時)であったり、最終的な症状であったりと、もちろんすべてを切り取れるわけではありません。ハリソンやKelly and Firestein’s Textbook of Rheumatologyなどの教科書で症状などの経過や危険因子、合併症等もみてみてください。
申し訳ないのですが、そろそろ時間切れなのでここまでにしたいと思います(手直しをする可能性等はあります)。Table等が英語のままですが、思った以上に記事作成時間短縮になりました。ご了承ください。また、次回以降の記事に関しても、作業効率とアウトプットのスピード的には翻訳に時間をとられるので英語のものは英語のままでも良いのではないかと感じました。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。
明日のDGPJ 2021もぜひ楽しみましょう!!
【前回の記事(血管炎①)はこちら】
【P.S. DGPJ 2020】
当記事のきっかけにもなった診断グランプリであるDGPJ2020について、詳しくはこちらをご覧ください。
今回取り上げた書籍です。教科書のハリソンやケリーの膠原病学にもしっかりした記述があり、参考になりました。PASSした部分やアマゾンの読者レビューなどが気になる方はチェックしてみてください。