読書ログ(書籍紹介)
『先生、どうか皆の前でほめないで下さい: いい子症候群の若者たち』
金間大介(著)
~Z世代のトリセツ!?~
<目次>
今回は、仕事や課外活動などで若い人と関わることがある全年齢の人にお薦めの書籍です。ここでいう若者は大学生から20代半ばまでと定義されており、だいたい1995年生まれから2005年生まれぐらいでしょうか。若者(Z世代)の考え方の解釈として、「いい子症候群」というキーワードとともに興味深い解釈をする本です。Z世代の取説(トリセツ)のような側面もあります。そんな興味深い本の読書ログです。
この読書ログをこの先、読んでみようという人は若い人でも「いい子症候群」ではない人かもしれません。私自身の身近なところにも当てはめてみようと思います。
【こんな人にオススメ】
- リーダーシップを発揮することがある人
- 若い人と共同作業をする人
- 若い人が「何を考えているか分からない」と思ったことのある人
- 若い人に働きかけていきたい人
1.いい子症候群とは
まずは、この書籍のキーワードでもある「いい子症候群」についてです。私なりにではありますが、この本の「いい子症候群」というのは大体次のような解釈でしょうか。
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素直でいい子、まじめでいい子であるものの横並びを好み、表で褒められることを大いに恐れ、私たちから見れば良いことであっても目立つことは「目をつけられる」とお恐れている。勝利への意識は弱まっているものの、負けることも恐れている。リーダーは嫌、皆で決めたい。グループディスカッションもテンプレを持っており、就職活動の「私服」も画一化、エントリーシートもネットの情報に依存する傾向にあり、横一列である。ヨコの平等圧力は年々強まっている。
タテの社会である会社への就職後、いい子症候群の人たちは上司や先輩に対しては、何が正解かを考える癖がついており、同期などに対しては、表面的で軽い関係を維持し、後輩には「怖い」という感情を抱いている。そして、表面的にみんなに合わせている。そして、指示待ち集団で答えを教えてくれるのを待つ。
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しかし、これぐらいは何となくすでに感じ取っている人も多いと思います。横並び志向は、日本社会では若者に限った話でもないような気もします。例えば、一億中流で企業に勤め、郊外のニュータウンに家を買って、…と同じような気がします。時代とともに横並びの気にする点が変わったのかな、と感じました。横並び志向で、頑張った人が頑張った分だけお先にというわけでもなく、平等(公平)を好むと解釈できる部分には個人的には驚きつつも注目かもしれません。
気にする点が変わったという視点で、誰か若い人に発言を求めることだけでなく、表で誰かを褒めるということでも嫌がられる可能性があるのは要注意に感じました。この人なら答えられるから当てて褒めるというようなことをした記憶もあり、多いに反省しています。
また、指示待ちという点についても、教育が「学び方」を学ぶ教育ではない、答えありきという点も原因ではないかと感じました。「試験にこれが大切」、「答えがない試験はあり得ない」というような、教える側や入試、親の考え方の結果である側面もあるように思います。
2.印象的な部分と個人的な解釈
まずは最も印象的であった部分です。何だかデジャブ感がある方もいらっしゃると思います。
究極の"してもらい上手"
究極のしてもらい上手としての主導権逆転の手順が印象的でした。そして、何かをしてあげたいという大人の自己効力感を見事に操っていました。
究極のしてもらい上手
若者における主導権逆転の手順をここに公開する。
1.まずは意欲を見せる。がんばりたいです、と言う。
2.同時に、素直でまじめな若者オーラを放つ
3.それ以外の余計な言葉は発しない
4.それ以外の余計な言葉は発しない
5.ついでに本当はした方が良いと思われる行動もしない。例えば、決して質問したりしてはいけない。
(中略)
9.時折、疲れた顔や難しい顔をする。
10.ゴール!試合終了。これで大人は全部やってくれます。
(出典)先生、どうか皆の前でほめないでください いい子症候群の若者たち,金間大介,東洋経済新報社
どこかで見覚えがないでしょうか。やりたい人が集まったはずの課外活動(学生団体)でも、リーダーシップを発揮している人から、何だか似たようなことを複数回は相談されたような気がします。
いい子症候群の若者のやりたくないことはリーダーシップを発揮することでした。なので、課外活動のグループで誘われて入った人の中にいい子症候群の人がいれば、説明可能な解釈だと感じました。そして、リーダーの後継者問題や、メンバーからの「⚫︎×やってみたい」という意見が出ないことに悩んでいるというようなことが、何だか腑に落ちませんか。心理的安全性という解釈もできると思いますが、いい子症候群では同期のグループ内の場合でも説明可能だと思います。
学歴志向・肩書志向
これは意外だと感じました。しかし、データでは学歴志向、役職・肩書志向、コネが大事、資格を活かしたいという結果になりました。横並びが好きなら肩書きや学歴で競うことはないと思ったのですが、ここでもなるほどという解釈がされていました。
いい子症候群の若者にとって、学歴社会よりもずっと受け入れがたいものがある。そんなことと向き合うぐらいなら学歴社会上等と思わせるもの。「学生の個性や能力をじっくりと見極め、時間をかけて採用する方法」だ。なるべく目立たなく、なるべく横並びで、なるべく競争せず、なおかつ自分に自信がない学生にとって、こんな採用プロセスは圧のかたまりでしかない。
(出典)先生、どうか皆の前でほめないでください いい子症候群の若者たち,金間大介,東洋経済新報社
学歴社会はあくまで大学受験までの結果ということでしょうか。そう考えれば、AO入試等の一部の入試を除いて、学生の個性や幅広い能力をじっくり評価されることはなく、暗記などのいわゆる受験勉強で決まりますね。
ここで疑問に感じたことがあります。本来であれば学歴(受験の延長の事務処理能力)や肩書きは、ある程度能力を反映するものであるはずです。しかし、いい子症候群の傾向のまま学歴や肩書きを求めれば、肩書きと能力の不一致の増加や「肩書きインフレ」、肩書きに執拗してしまうような事態に陥るリスクがあると感じました。
過去の体験から例を考えてみます。学生であることを考えると、〇〇団体の代表、副代表、会計、その他ぐらいであった10名程度の団体があったとします。いい子症候群の流れを受けて、代表、副代表、会計、事務、レク、連絡係、スタッフ(本来役職なしと同じ気が…)というようになるのでしょうか。そうしたら、皆が役職を持つことができ、さらには細分化して役職が被らないほど増えれば、横並びであるかどうかすら考えなくてよくなるというメリットがいい子症候群の人にはありそうです。一方で、「役職インフレ」や団体の活動が縦割りになりやすそうな気もします。もしかすると、医学部の勉強会や学生/研修医部門などの運営について後輩から相談を受けるのも関係があるかもしれないとふと感じました。
【参考】 医学部・医療系勉強会の運営 ~悩むより楽しもう~ 体験談
役職・肩書志向の延長として、賞状(表彰)はどうなんでしょうか。例えば、全国大会がひとつしかなかったところに、A社大会、B新聞社杯 大会というような形で似たようなコンペを多数開催し、その賞を持って肩書きのように使う傾向は増えているのか気になるところです。可視化されて増えたように見えるだけでしょうか。純粋に学ぶきっかけや、個人的に仕事・活動に活かす以上に、若い人には賞状のモチベーションになるのでしょうか。
資格を活かしたいというのも肩書きと同じなのでしょうか。そうだとすれば、この業界では心電図検定、コロナの影響による受験者数はさておき話題としてのUSMLEなどが一部の学生に人気となりつつある理由も解釈できます。さらに従来からの医療の外では、MBAやFP(ファイナンシャル・プランナー)といった資格が人気な理由も解釈できそうです。
一方で、もっと大きな資格である専門医については若い世代に人気があるのかといえば、この解釈では疑問を感じます。従来から専門医の道を歩んできたことによる流れで、横並び思想でそれなりに専門医の道へ進むものの、専門医制度や勤務環境がネックとなり、若い人の資格志向的な部分があってもボチボチという解釈すればいいのでしょうか。専門医を取ってその資格を活かすという部分で活かしきれない、メリットが少ないと判断していると解釈すればいいのでしょうか。この先、専門医の道に進む若い人が減れば、「皆が取るから私も取る」という考えがなくなり、なし崩し的に崩れていくのでしょうか。
例えば、最近流行りのFPのような国家資格は独占業務ではなく、医師や弁護士、税理士等とは国家資格が大きく異なってきます(既存の既得権的な資格に割り込む資格が作りにくいのは我々の業界含め感じます)。調理師免許がなくても料理屋ができるのと同じですし、民間の資格は資格ビジネスのようなものも多いでしょう。特にこれといって起業したり、挑戦したり、やりたいことはないけれど、視野を広げる勉強になるというのが主なメリットでしょう。FP資格も途中まで持っていますが、マネーリテラシー含め広く浅く学ぶ感じで学ぶきっかけになっても既存の資格の合間を縫うようなものであり、資格としては不十分な印象に感じます。税理士免許が欲しいとか、具体的な業務に直結して必要な資格が欲しいと結局は感じるものでした。
話を戻せば、エッジを効かせて一つの分野で勝負をするというよりも、いろいろなものを組合わせて比較できないようにしている側面であると解釈すれば、横並びの「いい子症候群」でも解釈できると感じました。
まだ、いい子症候群に該当する年齢層が入社して少しということもあり、入社後ある程度月日が経った後にどのように変化していくのかというところが個人的には興味深いです。
社会貢献はしたいけど…
他にも社会貢献はしたいけど、主体的なボランティアはしたくない傾向があり、ナイーブな承認欲求を満たすために社会貢献、それも支援者と非支援者の関係性が分かる支援を好む傾向にあるようです。
これを具体的に献血や東日本大震災のようなボランティアへの年代ごと参加率などを示しながら説明しています。横ならび意識や主体的にボランティアはしないという流れから、「直接頼まれたら、全然やるんですけどね」という意識のようです。ここで、最近の若い人が街づくり等で地域社会へ貢献すること、特に何かお店をしながら、誰か(いい子症候群ではない主体的、リーダー的な人)を軸に町おこしをするメンバーとなっていくことの解釈をすることができるように感じました。特に自分から主体的になるべくしてなったリーダー格の人以外でよく耳にしそうな気がします。地域社会や人の見える関係性の中で何かしたいと言いつつ、恐れでなかなか行動してみることができない人がいる…、そのような状況なのでしょうか。
社会貢献と言えば、途上国支援やボランティアというようなイメージから、地元・地方の街おこしに学生の視点が変わりつつあるように感じていたり、海外志向から地元志向に感じていた部分に何となく納得できそうな解釈のひとつを手に入れたような気がしました。
3.若者のために
この本を読んで、いい子症候群の全体像がある程度掴めました。しかし、そこで「最近の若い人は…」と大きな括りとなってしまっては老害に一歩近づいてしまうような気がします。離職率はZ世代よりロスジェネ世代の方が少し高いというような集団での特徴もあり、悩む限りです。また、Z世代の中でも個人差があるような気がします。枠にはまらない「いい子症候群」らしからぬ人もいます。
何より、全体論としても「いい子症候群」と言われる若い人のために、周りとして最も気をつけておきたいことは、目の前にいる人は自分とは異なる方法で、異なる目標で異なる結果を求めているということだと思います。
そのためにも、「和」とか「空気を読む」というような同調圧力を若い人の中で発生させないだけでなく、既存のシステムを維持したい側にいる大人が新たなものを否定しないようにする、既存のシステム側へ矯正しないということが大切だと思います。若い人の新たなものが、次の日本を支えてくれる産業等になるかもしれません。周りの国が成長しているのに、現状維持では実質的に徐々に低下していくだけだと思います。一億中流でニュータウンに家を買うような30-40年以上前であれば、すなわちマクロな視点で日本が成長しているときなら、横並びでも成長できたと思うのですが、状況は変わってきているような気がしました。
そして、既存のシステムを維持する側の人が新たなことへの違和感を感じていることや、新たなことは受け入れられないという無言の圧力を若い人は絶対に感じ取ると思います。例えば、就活で安く労働力を確保しようとしている会社への嗅覚のように。
他にも成功・成長しようとして挑戦すると、失敗するリスクもあります。失敗が怖くて失敗しないように考えて横並びであるならば、まずは失敗や挫折をしてもいいので、それを活かして挑戦して、最後(長期的)には成長・成功いってほしいと思います。閉鎖的な関係(似たような人だけの関係)の中にいると、多くの場合は周りと違うことができずに同じようなことだけをするのかもしれませんし、一度失敗しただけでマスコミやSNSで復活ができないほどに吊るしあげられてゲームオーバーとなるような雰囲気もあるかもしれません。何かを失う苦しみの方が強い傾向が人にある性質があるということを意識すると、横並びでなくでも良いと思えるかもしれません。
少しでも老害にならないためにも、違う世代だけでなく、違う世界や新たな人・物事・場所などへ飛び込んでみて、自分の中で当たり前だと思い込んでいることは当たり前ではないことに気がつく経験を意図的に定期的に試みてみるのはいかがでしょうか。私は、少なくとも月に数回(可能な限り毎週1回)は些細なこと・場所でもいいので新たなことに触れ、「今までこうだったからこうあるべき」という感覚は持たないようにして「ここはどうなっているのかな」というようにしています。
そして、何より各個人によってだけでなく、世代によっても大切にしているものごとが異なるという点もあるでしょう。私自身も老害とならないように努めていきたいと思いますので、何卒よろしくお願い致します。
他にも、大学生が思う公平な分配方法、施されても施し返さない傾向、例題にならう傾向、場を乱さないための演技、協調より同調、地方公務員人気の理由、劣等感、指示待ち人材などの話題もあります。さらには、いい子症候群の人が失敗することや目立つことへのネガティブな恐怖を克服したりするヒントもあります。もちろん、若者すべてが「いい子症候群」であると枠に当てはめることはできませんし、個を無視して枠にあてはめることによるステレオタイプ的な考えをすることには限界がありますが、考え方のひとつとして役立つ部分があると思います。
このようなことに興味のある方は是非手に取ってみてください。そして何より、新たなひとつの解釈、さらにそこからの人を巻き込む際のヒントとなるきっかけをありがとうございました。
また、YouTubeにて「いい子症候群」と検索したところ、トップに次のような動画もヒットしました。著者の金間大介先生もご出演されています。書籍を買うのはハードルが高い方も是非どうぞ。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。
今回取り上げた書籍です。アマゾンの読者レビューはじめ、気になる方はチェックしてみてください。