菊池病(組織球性壊死性リンパ節炎)
~意外と身近な疾患の特徴と鑑別疾患~
<目的>
私ごとですが、実は1ヶ月ほど前(執筆時点)から一ヶ所だけ頸部が腫れており、表皮は問題なく真皮以下のどこかの病変かなと思っていました。2cmほどの大きさで位置的に私自身では見にくく、ニキビにしては表皮が綺麗(ツルツル)、リンパ節腫脹にしては場所・深さが…と感じました。発熱もなく、圧痛もありません。可動性は微妙です。夜(夕方)に運良くショッピングモールに行く機会もあったのですが、そこのクリニックの待ち人数から「当日受診は不可で予約を」と言われて諦めたぐらいです。受診が面倒なまま、そのまま経過しております笑 端くれながら医療関係者がこのようなことを言ってしまうのは元も子もないですが、働いている世代にとって近くのクリニックの受診でさえ、ハードルが高くも感じます。
さて、話を戻しますと、アラサーである私にとってニキビか粉瘤、あっても「菊池病かな〜」ぐらいにとらえていますが、これを元に菊池病について少し調べてみます。(執筆後に受診して違うことも判明済み・治療済みです)
1.菊池病の特徴
菊池病(菊池・藤本病、組織球性壊死性リンパ節炎)は名前の通り、1972年に日本で初めて記述された疾患です。今回、好発年齢的にも頸部リンパ節腫脹というだけというあたりも、菊池病かなと思っているのですが、どこまで典型例か分からないので調べてみます。
疫学・臨床所見
疫学
- 男女比は 1:4、1:1.6、1:1.26と様々
- 他にも男女比は同等であったという韓国での報告もある
- アジアでの報告が多い
臨床所見
- 最も一般的な臨床像は、健康な若い女性における発熱と頸部リンパ節腫脹
- 発熱は、患者の30-50%における初期症状としてみられる
- 発熱は典型的にはlow gradeであり、約1週間持続し、1か月も持続することは稀。
- リンパ節腫脹は通常、頸部であり、局所的である。
(出典)UpToDate>Kikuchi disease, last updated: Sep 29, 2021.
発熱がない点が、少し上記のいわゆる典型例とは異なるかもしれません。アジア人というのも罹患率的には分かりませんが、報告は多いようです。リンパ節腫脹の場所に関しては、中国での報告(79例)では頸部のみ、アメリカでの報告(108例)では頸部1か所が多く(83例)、頸部両側性が3例であったものなどを2次文献として、頸部には”usually”と表現されていました。
症状に関して、UpToDateで引用されていたものが、症状等のうち6項目(リンパ節腫、発熱、皮疹、関節炎、倦怠感、肝脾腫)だけであったので、このまま深掘りしてみます。
症状・身体所見、検査結果、併存疾患etc
菊池病の症状・身体所見
菊池病の検査結果
菊池病との併存疾患
- 東アジアならびに極東(Far-East)における抗核抗体(ANA)の陽性率、SLEとの関連がヨーロッパと比較して優位に高かった。
- 東アジア・極東: ANA陽性率23%、SLE関連率28%
- ヨーロッパ: ANA陽性率3%、SLE関連率9%
(出典)Clin Rheumatol. 2007 Jan;26(1):50-4. doi: 10.1007/s10067-006-0230-5.
244例の菊池病をまとめたこの論文では、台湾からの報告が最も多く119例、続いてUSAからが22例、スペインから21例、UKから19例、日本から17例と多い順に続きます。台湾からの報告が占める割合が多いので、日本人に近いかもしれません。
症状ならびに身体所見において、リンパ節腫脹が多く症例で認められる(100%)こと、次に発熱がぼちぼち認められる(35%)ことが、多く認められるものトップ2でした。他のものは10%以下の頻度で少なく、稀なものも多くあります。そういう視点からはリンパ節腫脹以外は認めないものも多そうです。
症状において、発熱を認めない症例の方が多い結果です。また、発熱や倦怠感、関節痛、皮疹、食欲不振、筋痛は、SLEなどの膠原病でみられても不思議ではない印象です。そのため、SLEをはじめとする膠原病・自己免疫疾患とのつながりが高いことも納得できそうです。
一方で寝汗(盗汗)まであった際には、何だか悪性リンパ腫ではないかという不安が隠せません。
検査結果においては、白血球減少症、貧血、血小板減少症のような項目から、SLEをはじめとする汎血球減少症に似ているとも考えられそうです。もちろん、そこだけみるとリンパ腫も怖いですが…。赤沈や肝逸脱酵素、も上がっています。しかし、これらの検査結果異常も、頻度が20%以下で少なく、あまり検査結果が動く疾患とも言いにくい印象です。
あくまでPubMedに掲載されている報告をまとめた論文なので、英語で報告する壁や、症例報告等に至った症状・所見の物珍しさというバイアスもあると思います。
SLEとの関連性が高そうですが、併存疾患も感染症、膠原病・自己免疫疾患、不明熱、造血器腫瘍と多様ですね。結核がここでももちろん登場しています。鑑別のヒントにもなりそうです。
最終的な診断に関しては生検となります。もちろん、悪性リンパ腫や腫瘍の転移のような見逃すと恐いものを除外するためです。併存疾患も興味深いものでしたが、重なるところがあると思います。鑑別疾患を調べていきたいと思います。
2.菊池病の鑑別疾患
菊池病は良性疾患なので対処療法で基本的に治りますが、菊池病だと思って違うということもあると思います。そこで、菊池病の鑑別疾患を調べてみたいと思います。
まずは頚部リンパ節腫脹(cervical lymphadenopathy)という視点で考えるのも初歩としていいと思います。おそらく鑑別は多岐に渡ることが予想されます。教科書では、リンパ節腫脹で鑑別が見つかりました。頻度はさておき、頸部に絞らなくても鑑別疾患を挙げるという意味で参考になると思います。
リンパ節腫脹の鑑別疾患
リンパ節腫脹の鑑別疾患
生検の推奨
- 年齢(>40歳)、大きさ(>2cm)、部位(鎖骨上窩リンパ節は常に異常)、持続期間(>1カ月)
- 硬さ(硬/ゴム状/軟)や圧痛は指標とならない
(出典)内科ポケットレファレンス 第3版,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2021
PubMedやGoogle scholarで検索してもlymphadenopathyでたくさん見つかりました。やはり、鑑別疾患は感染症(ウイルス、細菌、真菌、寄生虫)、免疫性、悪性腫瘍、その他と多数あります。年齢や性別に加え、経過からイルネススクリプト、ゲシュタルトを考えることにありそうです。
本当は前頸部(主に限局性の細菌感染)か後頸部(全身性)かも気になります。他にも、生検の推奨に影響はなくとも、リンパ節の触診所見(硬さ)や圧痛の有無も気になります。しかし、先ほどまでに調べた際に特に記載もなかったので、このまま進みたいと思います。
今回は、菊池病ということで生検(病理)にて診断ということでした。組織学的な鑑別疾患を調べてみます。
菊池病の組織学的鑑別疾患
菊池病の組織学的鑑別疾患
(出典)Arch Pathol Lab Med. 2018 Nov;142(11):1341-1346. doi: 10.5858/arpa.2018-0219-RA.
菊池病の組織学的な鑑別疾患もやはり多岐に渡りますね。感染症、リンパ腫、その他腫瘍といった感じです。詳しく挙げていくと、感染症(結核、ヒストプラズマ症、ハンセン病、猫ひっかき病、梅毒、エルシニア・エンテロコリチカによるリンパ節炎、細菌性リンパ節炎、単純ヘルペス、感染性単核球症)、自己免疫疾患(SLE)、リンパ腫(B細胞性非ホジキンリンパ腫、T細胞性非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、骨髄性肉腫でした。
このreviewには、病理組織も掲載されています。気になる方はぜひアクセスしてみてください。
菊池病と言っても、まだまた広げていくことはできそうですが、キリが良いのでここまでにしようと思います。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。