~何まで引き起こす!?合併症?~
Medicina 2021年11月号『外来で役立つAha!クエスチョン この症状で,次は何を聞く?』にて、帯状疱疹に続発する偽性ヘルニアや、帯状疱疹に伴う尿閉のお話までありました。
「何でも引き起こす帯状疱疹?」ということで、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)による帯状疱疹(皮疹)以外に何を引き起こすかを調べてみたいと思います。まずは上記のmedicinaより、紹介します。
腹部偽性ヘルニアは帯状疱疹ウイルスにより、以下のような機序で生じるようです。
腹部偽性ヘルニアは「欠損のない腹壁の膨隆」と定義され、帯状疱疹ウイルスや糖尿病などを原因とした神経根障害により、腹壁筋が麻痺するために生じると言われている。
(出典)medicina Vol.58 No.12 2021-11
ちなみに腹部偽性ヘルニアのイメージは次のようなものです。NEJMの Images in Clinical Medicineで見つけました。
(出典)N Engl J Med 2006; 355:e1 DOI: 10.1056/NEJMicm050341
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm050341
尿閉は水痘・帯状疱疹ウイルスにより、以下のような機序で生じるようです。
腰仙髄神経領域で生じた帯状疱疹は高確率で排尿障害を併発する。機序としては、後根神経節に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化して軸索内伝播し、求心性に仙髄(S2~S4)の中間質外側部に及び、脊髄内臓神経の副交感性線維を障害することで排尿障害が起こると考えられている。
また、近年本邦を中心に報告例が増えている髄膜炎に伴い尿閉をきたす髄膜炎尿閉症候群(MRS)と呼ばれる症候群がある。
(出典)medicina Vol.58 No.12 2021-11
髄膜炎尿閉症候群(MRS)は聞いたことありますが、これは特に帯状疱疹に限った話ではなく、今回の上記出典の尿閉が主訴で来ることよりも、意識障害、頭痛、発熱というような髄膜炎の主訴で来ることが多そうです。いわゆる帯状疱疹による尿閉として考えた際には、ウイルスが再活性化して求心性に脊髄内蔵神経の副交感性線維を障害するためと考えてよさそうです。
では、帯状疱疹の合併症を探していきたいと思います。
ハリソン内科学では、眼部帯状疱疹(zoster ophthalmicus)が主に紹介されている程度でした。
帯状疱疹とは、後根神経節に潜伏しているVZVの再活性化によって生じる続発性の疾患である。
(出典)ハリソン内科学 第5版
やはり、病態としては後根神経節に潜伏しているVZVの再活性化によって神経炎となり、いろいろと生じると考えてよさそうです。
UpToDateを調べてみます。帯状疱疹の症状や合併症として挙げられているのは以下の通りでした。
<帯状疱疹の臨床症状>
・発疹
・急性神経炎
→18%が発疹の領域に少なくとも30日間痛みがあり、痛みの持続時間は年齢とともに増加する。PHNと区別が必要。
<帯状疱疹の合併症>
・帯状疱疹後神経痛(PHN)
・眼部帯状疱疹
・急性網膜壊死(ARN)
・Ramsay Hunt症候群
→耳鼻咽喉科領域、顔面神経麻痺が主な症状
その他神経学的合併症
・無菌性髄膜炎
・脳炎
・末梢運動神経障害
・脊髄炎
・ギランバレー症候群
・脳卒中症候群(脳の動脈の感染による)
(出典)UpToDate > Epidemiology, clinical manifestations, and diagnosis of herpes zoster, last updated: Jan 29, 2021.
他にも嚥下障害を主訴とした帯状疱疹の再活性化と考えられるRamsay Hunt症候群の症例もあった。帯状疱疹の罹患部によって、その罹患部位に関連する様々な臨床所見となり、あとはその各々の部位ごとの頻度の違いのようです。
帯状疱疹の罹患部としては50%以上が胸部に出現し,三叉神経第Ⅰ枝領域に出現するものは10%程度,Ramsay Hunt 症候群として発症するのはわずか1%程度である.
Ramsay Hunt 症候群は末梢性顔面神経麻痺,難聴やめまい,耳介の帯状疱疹を三主徴とするが全てを呈するのは約60%で,各症状の出現時期には2週間前後の時間差があり,第Ⅶ・Ⅷ脳神経症状以外の三叉神経や舌咽-迷走神経麻痺などの多発脳神経炎を合併する重症例も少数存在する.
Ramsay Hunt 症候群の多発脳神経障害を第Ⅶ・第Ⅷ脳神経以外の脳神経障害を合併したものとした場合にその割合は約10%と報告されており,いずれの脳神経も障害を受ける可能性はあるがⅨ・Ⅴ・Ⅹ・Ⅺ神経麻痺が多く、第Ⅸ・Ⅹ神経麻痺の予後は比較的良好である。
(出典)Tokushima Red Cross Hospital Medical Journal 10:69-74,2005
正直なところ、帯状疱疹ウイルスの潜伏・再活性化した場所等でよくある「表現型」があるものの、何でもありであると感じました。
帯状疱疹を疑った際に皮疹があれば疑いやすいと思うものの、皮疹がない場合(無疱疹性帯状疱疹)や皮疹に先行して症状が生じる場合にも、帯状疱疹も忘れないようにしたいと思います。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。