"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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血管炎①|Pivot and Clusterを考えてみる

血管炎①

鑑別疾患Pivot and Clusterを考えてみる

 

<目次>

 

 

 去年からオンラインで始まった診断グランプリ(DGPJ 2021)がまもなく開催ですね。今年も後輩が意志を継いでTBL JAPAN運営・開催してくれることは有難く、とても嬉しい限りです。

 

 DGPJとはDiagnostic Grand Prix Japanの略です。去年のDGPJ 2020では、診断は難しいけれども学びがいのある豪華12症例でした。今年はどのような症例かワクワクです。DGPJ2020について、詳しくは下記をご覧ください。

【DGPJ 2020 開催報告】 

tbljapanmedicine.wixsite.com

 

 今回は運営のどまんなかではないので症例は事前に知らないままのはずのため、おそらく回答権もあると思います。このまとめで対策になるレベルか分かりませんが、少し対策になるかもしれない内容を復習しておきたいと思います。

 

 今回は「血管炎っぽいかも…」と思った際の「Pivot and Clusterを考えてみよう」という際のもととなるような鑑別疾患をはじめとしたまとめです。

 国家試験対策講座+α程度であれば、血管炎(血管炎症候群)といえば、

  • 大血管炎に高安病と巨細胞性動脈炎があって、
  • 中血管炎に結節性多発動脈炎、川崎病があって
  • 小血管炎にANCA関連血管炎、免疫複合体性血管炎がある

というような感じかと思います。

 

 でも、これだけでは血管炎すら掴めていない気がします。例えば、ベーチェット病なんかも血管炎であり、分類から調べ直してみたいと思います。



1.血管炎の分類(CHCC2012分類)

 血管炎の分類は大学時代に学んだ大血管炎、中血管炎、小血管に加えて、血管のサイズ以外の視点で分類されたものとして、

  • 種々の血管を侵す血管炎
  • 単一臓器の血管炎
  • 全身性疾患に続発する血管炎
  • 原因の推定される続発性血管炎

があります。

 

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血管炎の分類

 血管炎を考えた際に、これらも血管炎として考えるのをお忘れなくというところでしょうか。最近ですと、VEXAS syndromeなんかも血管炎のひとつということが解明されたように、様々な自己免疫性疾患が解明されつつもあります。新しい血管炎はおそらく「その他」に分類されるでしょう。

【VEXAS syndrome】https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33108101/

 

 新しいものはさておき、まずは血管炎(血管炎症候群)の分類をざっくりと把握しておくことが役立つと思います。CHCC2012に基づいた血管炎の分類を、血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版より詳しく紹介したいと思います。

 

<CHCC2012*の分類と疾患名>

Large vessel vasculitis,LVV 

  • Takayasu arteritis,TAK
  • Giant cell arteritis,GCA 

大型血管炎

  • 高安動脈炎(大動脈炎症候群)
  • 巨細胞性動脈炎

Medium vessel vasculitis,MVV

  • Polyarteritis nodosa,PAN
  • Kawasaki disease,KD 

中型血管炎

Small vessel vasculitis,SVV

>Antineutrophil cytoplasmic antibody(ANCA)-associated vasculitis,AAV

  • Microscopic polyangiitis,MPA
  • Granulomatosis with polyangiitis(Wegener’s),GPA
  • Eosinophilic granulomatosis with polyangiitis(Churg-Strauss),EGPA

>Immune complex SVV

Anti-glomerular basement membrane(anti-GBM)disease

  • Cryoglobulinemic vasculitis,CV
  • IgA vasculitis(Henoch-Schönlein),lgAV
  • Hypocomplementemic urticarial vasculitis,HUV(anti-C1q vasculitis)

小型血管炎

>抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎

  • 顕微鏡的多発血管炎
  • 多発血管炎性肉芽腫症(Wegener 肉芽腫症)
  • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Chung-Strauss 症候群)

>免疫複合体性小型血管炎

  • 抗糸球体基底膜抗体病(抗GBM 病)
  • クリオグロブリン血症性血管炎
  •  IgA 血管炎(Henoch-Schönlein 紫斑病)
  • 低補体血症性蕁麻疹様血管炎(抗C1q 血管炎)

Variable vessel vasculitis,VVV) 

  • Behçet’s disease,BD
  • Cogan’s syndrome,CS

多様な血管を侵す血管炎

  • Behçet 病
  • Cogan 症候群

Single-organ vasculitis,SOV

  • Cutaneous leukocytoclastic angiitisCutaneous arteritis
  • Primary central nervous system vasculitis 
  • Isolated aortitis
  • Others

単一臓器血管炎

  • 皮膚白血球破砕性血管炎
  • 皮膚動脈炎
  • 原発性中枢神経系血管炎
  • 限局性大動脈炎
  • その他

Vasculitis associated with systemic disease 

  • Lupus vasculitis
  • Rheumatoid vasculitis
  • Sarcoid vasculitis
  • Others

全身性疾患関連血管炎

  • ループス血管炎
  • リウマトイド血管炎
  • サルコイド血管炎
  • その他

Vasculitis associated with probable etiology 

  • Hepatitis C virus-associated cryoglobulinemic vasculitis
  • Hepatitis B virus-associated vasculitisSyphilis-associated aortitis
  • Drug-associated immune complex vasculitis
  • Drug-associated ANCA-associated vasculitisCancer-associated vasculitis
  • Others

推定病因を有する血管炎

  • C 型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎
  • B 型肝炎ウイルス関連血管炎
  • 梅毒関連大動脈炎
  • 薬剤関連免疫複合体性血管炎
  • 薬剤関連ANCA 関連血管炎
  • がん関連血管炎
  • その他

*Chapel Hill Consensus Conference 2012

 

(出典)血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版

 

 上記の表はCHCC2012(2012年~)による分類です。CHCC1994のときには、分類は大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎のみでした。それに4つの分類が加わったといえます。大学時代はもしかすると古いCHCC1994(1994年~)を大学の講義で学んだのかもしれないと感じました。

 血管炎を疑ったら、まずは血管炎として大・中・小血管炎以外にも

  • 種々の血管を侵す血管炎、
  • 単一臓器の血管炎、
  • 全身性疾患に続発する血管炎、
  • 原因の推定される続発性血管炎

鑑別疾患として想起できればと思います。そこから、既往歴やSick Contact、各疾患特有の症状などを探してみるのもひとつだと思います。



2.血管炎を疑った際の鑑別疾患

 Pivot and Clusterを作るにあたり、血管炎を疑った際の血管炎以外の鑑別疾患も忘れないようにしたいと思います。

 

  • 感染症(例:心内膜炎、HBVHCVHIV
  • アテローム動脈硬化
  • 血栓塞栓性疾患
  • 先天性の原因〔例:大動脈縮窄、腹部大動脈狭窄症(Mid aortic syndrome)〕
  • 遺伝性疾患(例:Marfan症候群、Ehlers-Danlos症候群)
  • 線維筋性異形成
  • 凝固亢進状態(例:APS、TTP)
  • 血管れん縮性障害(例:RCVS、薬物曝露)
  • その他の多系統性炎症性疾患(例:サルコイドーシス、Susac症候群)
  • 悪性腫瘍(例:リンパ腫、白血病
  • 医原性(例:放射線療法後)
  • IgG4関連疾患

(出典)UpToDate>Overview of and approach to the vasculitides in adults, last updated: Mar 30, 2021.

 

 他にも、感染症の例として結核を含む抗酸菌も何でもありな印象があります。

 少し、鑑別疾患も少ない(ありきたり?)と感じたので、ハリソン内科学も調べてみました。

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  • 血管炎が疑われる患者の診断は、血管炎に似た臨床症状を呈する他の疾患を除外することから始める。
  • 特に、よく似た臨床症状を呈する感染症を除外することは重要であり、患者の状態が急激に悪化し、免疫抑制療法による経験的治療を考慮すべき場合には非常に重要となる。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 抗GBM病のように分類上、CHCC2012と異なる部分もありますが感染症や薬物中毒における鑑別疾患において、役立ちそうです。

 

 以上から、「血管炎っぽいなー」と思った際には、スライド2枚を特に意識して

  • 種々の血管炎(※大・中・小血管炎以外も忘れず)
  • 血管炎以外の鑑別疾患

 の鑑別を考えたいと思います。

 

 DGPJ 2021に間に合えば、主な血管炎における血管炎ごとの特徴・鑑別も考えてみたいと思います。

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 

3.血管炎② 疾患ごとの特徴(次回)

 血管炎を疾患ごとにclinical manifestations等を可能な範囲でまとめました。よろしければ、下記をご覧ください。

血管炎② 疾患ごとの特徴と臨床症状 - 医学生からはじめる アウトプット日記

mk-med.hatenablog.com