好酸球増加症の原因(鑑別疾患)
<目次>
先日、好酸球が増加しており、そこから寄生虫感染症を疑う(寄生虫感染症の可能性を含めて絞り込む)という症例がありました。寄生虫感染症であれば、すべての病原体で好酸球が上がるわけではなく、上がるものもあると聞きました。今回は、好酸球増加症(好酸球増多症)について復習しながら、寄生虫感染症のうち好酸球が上がるものを具体的に深掘りして行こうと思います。
1.好酸球増加症と鑑別疾患
それでは、好酸球増加症(好酸球増多症)について簡単に復習したいと思います。まずは、二次文献から概要をつかみます。
1-1.好酸球増加症の定義
最初に、念のため好酸球増多症などの定義を確認します。
- 好酸球増加症(eosinophilia)とは、末梢血好酸球数(absolute eosinophil count; AEC*)≧500/μL.
- 過好酸球増加症(hypereosinophilia)とは、AEC≧1,500/μL.
- 好酸球増加症候群(hypereosinophilic syndrome; HES)とはAEC≧1,500/μL(1カ月以上離れた検査で2回)かつ、好酸球増多症による臓器障害を認める状態.
*AEC = 白血球数(/μL) × 好酸球の血球分画(%)
(出典)UpToDate > Approach to the patinet with unexplained eosinohilia, last updated: Aug 13, 2020
念のためでしたが、hypereosinophilia(好酸球数≧1,500/μL)や好酸球増加症候群(HES)の確認にもなって良かったです。好酸球増加症に関しては、好酸球増加症や好酸球増多症というより、eosinophiliaという方がなぜかしっくり来ます(笑)
好みはさておき、ハリソン内科学(第5版)では好酸球増加症、特発性好酸球増加症候群(idiopathic hypereosinophilic syndrome)、好酸球増加-筋痛症候群(eosinophilia-myalgia syndrome)が紹介されていました。今回は好酸球増加症の鑑別がメインなので割愛させていただきます。
今回のメインテーマの好酸球増加症は、やはり末梢血好酸球数≧500/μLでした。白血球分画をみて「好酸球の割合が上がっている」といって飛びつかずに、好酸球の絶対数をチェックしてみることが大切ですね。
1-2.好酸球増加症の原因(鑑別疾患)
好酸球増加症の鑑別は多岐に渡ります。寄生虫感染症について深掘りする前に、好酸球増加症の全体像を掴んでおきたいと思います。
<好酸球増加症の原因>
好酸球増加症はアレルギー疾患、感染症、炎症性疾患、悪性腫瘍をはじめとする様々な病態で生じる。
表.好酸球増加症の原因
アレルギー疾患
蠕虫(例:糞線虫症、旋毛虫症、フィラリア症、トキソカラ症、住血吸虫症、鉤虫)
原虫(例:isosporiasis、sarcocystis myositis)
真菌(例:coccidiomycosis、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、ヒストプラズマ症)
ウイルス(例:HIV)
腫瘍
リンパ腫(例: B細胞リンパ腫、BまたはTリンパ芽球性白血病/リンパ腫、成人T細胞白血病/リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫/セザリー症候群
固形がん(例: 腺癌、扁平上皮癌)
免疫系
免疫不全症(例: DOCK8欠損症、高IgE症候群、Omenn症候群)
自己免疫性・特発性(例: サルコイドーシス、炎症性腸疾患、IgG4疾患、その他の結合組織病)
好酸球性疾患
その他
(出典)UpToDate > Approach to the patinet with unexplained eosinohilia, last updated: Aug 13, 2020
さすがに鑑別疾患が多すぎに感じました。丸ごと覚えるには不向きと感じました。アレルギー疾患、感染症、腫瘍、免疫系、好酸球性疾患、その他と大項目を覚えて、そこからある程度は覚えつつ・想起できるようにしつつも、必要なときにアクセスできるようにしておきたいと感じました。好酸球増加症の原因は多岐に渡るので、high yieldとは言えなさそうです。一方で、感染症の今回深掘りしたい部分に関しては、「蠕虫(例: ....」というような形で分かりませんでした。そもそも検査なので、病歴や他の所見などに足し合わせるのがよい感じがします。
好酸球増加症のほどよい原因や頻度などもさらりとみてみたいので、教科書に戻ることにします。
一般的な好酸球増加症の原因は、薬物(ヨウ化物、aspirin、サルファ薬、nitromfurantoin、ペニシリン系薬、セファロスポリン系薬)に対するアレルギー反応である。
枯草熱、喘息、湿疹、血清病、アレルギー性血管炎、天疱瘡のようなアレルギー疾患は好酸球増加を伴う。好酸球増加症は、Job症候群、DOCK8欠損症や慢性肉芽腫症と同様に、膠原病(例えば、関節リウマチ、好酸球性筋膜炎、アレルギー性血管炎、結節性多発動脈炎)および悪性腫瘍(例えば、Hodgkinリンパ腫、菌状息肉症、慢性骨髄性白血病、肺・胃・膵臓・卵巣または子宮の癌)で認められる。また、好酸球増加症は蠕虫感染症では一般的に認められる。
(出典)ハリソン内科学 第5版
これぐらいの記述の方が、私のような頭の出来が良くはない人には、頭の中の引き出しをつくる(ある程度覚えておく)という視点で読みやすく感じました。確かにUpToDateの方がIgG4関連でも好酸球が上がるとか分かるよさがあるのですが、まずはじめは教科書の方が絞られているといった印象です。
また、好酸球増加症の原因として、一般的に薬剤性が多いということを再確認できました。
2.好酸球増加症をきたす寄生虫感染症
ここまで、好酸球増加症の原因全般を調べたりしながら、鑑別疾患が多いと感じました。全貌がつかめてきたところで、好酸球増加をきたす寄生虫感染症について調べてみます。
- 組織内蠕虫(Tissue-dwelling helminths)は、しばしば軽度から中等度の好酸球増加症を生じる寄生虫感染症である。
- 糞線虫症(Strongyloidiasis)は一般的な好酸球増加症の原因であるが、管腔内寄生虫(luminal parasite)であるジアルジア症は好酸球増加症を引き起こさない。
- 好酸球増加症の原因となる寄生虫については、Box 3を参照のこと。
(出典)Prim Care. 2016 Dec;43(4):607-617. doi: 10.1016/j.pop.2016.07.010. Epub 2016 Oct 14.
Review Articleであり、疫学などはアメリカを基本とした記載でした。アメリカでは糞線虫は一般的なんですね。
この文献の中で好酸球増加症を引き起こさないと直接的に記載されていたのは、ジアルジア症のみでした。他にもステロイドが入っているときのマスクもありうるとは思いますが、それはその度、寄生虫感染症以外でも考慮すべきだと思います。
Box3のリストは地域差はさておき、一般的に好酸球増加症を引き起こす(引き起こしやすい)ものと考えておきます。
このReviewはアレルギー疾患、自己免疫性疾患なども含め、しっかりと書かれていました。これを読めば、他をスキップできたかもしれません。気になる方はFree Articleなのでアクセスしてみてください。
ジアルジア症をはじめ、好酸球増加症がみられないものもあるということだけでも収穫でした。すでにご存じの方も多いと思いますが、少しでもお役に立てれば幸いです。
本日もお読みくださいましてありがとうございました。
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