血球貪食症候群 ~掴みどころを探る②~
Secondary HLHと鑑別疾患
<目次>
前回(血球貪食症候群 HLH-2004 & HScore ~内科緊急症の掴みどころを探る①~)の続きになります。
前回は、掴みどころがぼんやりしていると感じられた血球貪食症候群(HLH, HS)の症状や所見、診断基準HLH-2004や臨床予測ルールHScoreを調べつつ、まだまだ血球貪食症候群を疑うヒントは少ないと感じました。そこで、今回は続発性の血球貪食症候群の原因からチェックしてみようと思います。
4.Secondary HLHの原因
血球貪食症候群の原因には、遺伝子検査で分かるprimary HLHと感染症や悪性腫瘍等によって生じるSecondary HLHがあります。とりわけ、Secondary HLHの原因を調べることで、例えばどのような感染症のときに多い・少ない、どのような悪性腫瘍のときに多い・少ないというようなことから、血球貪食症候群(特に成人の場合)を疑うヒントになればと思います。
(出典)Lancet. 2014 Apr 26;383(9927):1503-1516. doi: 10.1016/S0140-6736(13)61048-X.
Secondary HLHの原因として、大きな分類では感染症が50%、悪性腫瘍が47.7%と多かったですね。そして、原因として移植に関係するものや環境要因も盲点でした。
感染症ではウイルス性が多く (全体の34.6%)、その中でもEBVやHIVが多いです。これらの罹患率は人種や地域によって異なるもの、全身性のものやリンパ球が関係しそうなものに多そうです。EBVは日本では成人にて既感染の割合が高く、成人後にEBVに初感染した場合の方が炎症が激しくHLHになりやすいのか、慢性のものがなりやすいのか、調べてみたいとも感じました。
悪性腫瘍も悪性リンパ腫が圧倒的に多く、NK/T細胞性リンパ腫、B細胞性リンパ腫、Hodgikinリンパ腫、分類不能なリンパ腫を合計するとn=798、割合にして全体の36.3%と高く、こちらもとりわけリンパ球の関わるもので多い印象です。固形癌の少なさはむしろ予想以上に少なく、それなりにサイトカインストームというべきか、じわじわとした炎症ではなく、激しい炎症で生じると理解しやすかったです。
自己免疫疾患は予想していたほど多くはなく、全体の12.6%でした。その中では全身性エリテマトーデス(SLE)が全体の6.1%も占めることから、自己免疫疾患の約半数ほどを占めています。これも、症例報告等で耳にしたことがある人も多いと思います。そしで、自己免疫疾患の中での罹患率や全身性と関係がありそうで、さらには元々汎血球減少を生じる疾患としても想起しやすいように感じました。
最後は移植関連や環境要因が原因となる場合です。忘れがちになりますが、割合は8.4%と決して稀ではありませんでした。移植の中では、腎移植と造血幹細胞移植が多く、造血幹細胞移植は血液腫瘍の治療という解釈で腑に落ちそうですが、腎臓に関してはメカニズム的にあまり腑に落ちる感じがなく、血が多い臓器と考えても肝臓との差がいまひとつです。腎移植の件数が日本で多いということや世界的にも少なくないことを加味すると移植の中で母数が多かったという解釈ができそうです。また移植に際しては、いずれの臓器の場合もHScoreにあった免疫抑制状態であると考えられます。他にも環境要因として、薬剤だけならまだしも、ピットフォールになりがちな他のものも忘れないようにしたいと思います。
5.COVID-19と血球貪食症候群
先ほどのSecondary HLHの原因において、COVID-19が原因として挙げられていませんでした。これの明らかな理由は、引用元のReviewが2014年と新型コロナウイルス(COVID-19)が登場する前であったということは言うまでもありません。
しかし、COVID-19は全身性疾患のような病態、サイトカインストームにもなりうることから、それなりに血球貪食症候群の原因になると考えられます。実際に、血球貪食症候群が生じた症例がないかを調べてみます。
下記のような症例報告(Respir Med Case Rep. 2020 Jul 10;31:101162. doi: 10.1016/j.rmcr.2020.101162. eCollection 2020.)がすぐに見つかりました。
興味のある人は様々な症例報告からゲシュタルトを作ることもできそうです。COVID-19で血球貪食症候群を生じるということは容易に確認できたので、COVID-19のうちどの程度の人が血球貪食症候群になるのかという疫学的なことを深掘りしてみたいと思います。
重症COVID-19成人患者でHLHの基準を満たすのは5%未満であった。報告されたほとんどの症例が診断基準のいくつかの項目(主に病理組織学的基準、NK細胞活性およびsCD25の測定)に関する情報を欠いており、これらの不完全な症例では完全にHLHを否定することができないことを考えると、その率は過小評価される可能性がある。
(出典)Clin Rheumatol. 2021 Apr;40(4):1233-1244. doi: 10.1007/s10067-020-05569-4.
重症COVID-19の患者のうち5%未満と予想されるという程度でしょうか。COVID-19のときにステロイドが用いられることがHLH発症を抑えているかもしれません。まだまだはっきりはしないですが、Secondary HLHの原因の中でどれだけを占めるかというようなそれなりの規模の論文が出てくること含め、今後新たな論文が増えることを期待したいと思います。
6.血球貪食症候群の鑑別疾患
血球貪食症候群の掴みどころのヒントを探るという本題に戻りたいと思います。Secondary HLHの原因だけでなく、HLHの鑑別疾患を知ることで、それらの鑑別疾患を想起した際にHLHを想起するヒントになると思うので、調べてみたいと思います。
鑑別疾患
- マクロファージ活性化症候群(MAS)
- 感染症/敗血症
- 肝疾患/肝不全
- 多臓器不全(MOF)
- 脳炎
- 自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)
- 薬剤性過敏症症候群(DRESS)
- 児童虐待;中枢神経系による症状・所見が類似
- 川崎病
- 細胞貪食組織球性脂肪織炎(cytophagic histiocytic panniculitis)
- 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
- 溶血性尿毒症症候群(HUS)
- 薬剤性血栓性微小血管症(DITMA)
(出典)UpToDate>Clinical features and diagnosis of hemophagocytic lymphohistiocytosis, last updated: Sep 16, 2021.
鑑別疾患を眺めてみると、感染症や脳炎をはじめとする様々な原因を含むものや、血液疾患や全身疾患らしく掴みにくいものが多く感じました。それらのうちのひとつでも頭によぎったら、血球貪食症候群を少しでも意識できるようになりたいものです。そして、多臓器不全のように血球貪食症候群でも生じる病態もあることから、それぞれの病態の原因が何であるのかを考えることになりそうです。
血液疾患のTTPやHUS、TMAというあたりは理解可能な反面、いずれもゲシュタルトを掴みにくい側面がある疾患のように感じます。これらの疾患のReviewでも目を通してみたいものです。
児童虐待や川崎病は小児の際の鑑別としての側面が強いと思います。中枢神経系による特徴が類似しているというのが、虐待と血球貪食症候群の奥深さを感じます。前回から調べてきた際に、初期症状が脳炎のようにみえるという記載はありました。ここで、今回の部分を書いている際に見つけたReviewに神経症状についての記載もあったので、それを軸に頻度も調べたり、神経症状以外の症状もないのかを確認してみたいと思います。
7.HLHの多彩な症状
今回、新たに分かったHLH(HPS)の症状、身体所見についてさらに深掘りしていきます。前回記事のような「発熱疾患様」という以上に様々な臓器に関連する以下のような症状が見つかりました。
- 内臓障害は頻繁に起こり、しばしば進行性の多臓器不全を引き起こし、患者のほぼ半数で集中治療が必要となる。脾臓と肝臓が最も頻繁に障害される臓器であり、60%以上で肝機能検査異常を認める。血球貪食症候群として脳症、腹水、静脈閉塞性疾患、非外傷性の脾臓破裂を生じることがある。
- 肺が障害されることが多く(42%)、咳、呼吸困難、呼吸不全などがみられ、特に呼吸器系ウイルスが引き金となることが多い。
- 非特異的な消化器症状(18%)には、下痢、嘔気、嘔吐、腹痛などがあり、消化管出血、膵炎、潰瘍性腸炎に特異的な症状、所見を伴うことがある。
- 神経学的症状(25%)は様々で、昏睡、発作、さらには髄膜炎、脳脊髄炎、海綿静脈洞症候群または脳出血によるものが含まれる。一部の患者では、気分障害、せん妄、精神病による精神的変化を呈することがある。さらに、ギラン・バレー症候群や馬尾症候群のような他の神経症状の報告もある。
- 成人患者の4分の1では、紅斑性発疹、水腫、点状出血または紫斑などの非特異的な皮膚病変を有する。皮下の脂肪織炎様の結節は、基礎疾患であるT細胞性リンパ腫と密接に関連しているため、特に注意が必要である。
- 腎臓の障害に関する24例の報告では、腎不全(88%)やネフローゼ症候群(38%)が主である。腎生検では、主に糸球体腎症(38%)や血栓性微小血管症(23%)であり、半数で血液透析が必要であった。
(出典)Lancet. 2014 Apr 26;383(9927):1503-1516. doi: 10.1016/S0140-6736(13)61048-X.
詳しく様々な症状についての記載もあり、驚きました。発熱疾患様という表現より先の多彩な症状について意外なものまで知ることができました。もちろん、前回の記事で初期症状を調べた際の記載のような経過についての記載もありましたので、気になる方は出典をご覧ください。
それにしても、本当に多彩で肺病変、消化器症状、腎病変、神経学的症状まであり、全体像をつかむことは難しく感じました。そして、内臓障害まで生じた際の重症度が高く、やはり緊急症であるという確認にもなりました。
肺が障害される場合も42%と予想以上に多かったです。呼吸器系ウイルスが引き金の場合が多いという記載のあるように、Secondary HLHの原因が関係しているという視点から見ることが大切であると思います。
腎臓の障害は少ないにしても糸球体障害から間質の障害まで、そして腎不全が多く血液透析まで半数が至ることからも重症になりやすくて違いなさそうです。
神経学的症状は髄膜炎、脳炎というようなSecondary HLHの原因によるものといえるようなものと、血球貪食症候群になったことによる結果(易出血→脳出血)のような、結果と原因が混在していると感じました。それにしても、多彩で昏睡(coma)から精神症状まで、さらには脳出血の部位による巣症状も考えられるというような状況で、神経学的症状の多さには目を見張るものがあります。脳症も別項目で9%ほどみられるということで、何でもありというほどイメージを広げる想像力が欠如しており、調べてよかったと感じました。
末梢のリンパ節腫大に関しては、皮膚のT細胞性リンパ腫の可能性と同じく、悪性リンパ腫が関わっているというような状況があると思います。続発性の血球貪食症候群の原因とoverlapしているようなClinical manifestationsでした。
前回の診断基準(HLH-2004)や臨床予測ルール(HScore)に続き、Seconday HLHの原因、鑑別疾患と調べてまいりました。少しでも、そこから内科における緊急症である血球貪食症候群を想起するきっかけとなるようなヒントがあれば幸いです。
また、機会があれば全体像の掴みにくい他の血液疾患〔例:血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性微小血管症(TMA)〕についても調べてみたいと感じました。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。
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