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116A53 医師国家試験 ~グラム染色と肺炎の抗菌薬選択からの深堀り~

116A53 医師国家試験の解説・深掘り

グラム染色肺炎の抗菌薬選択・起炎菌の疫学

 

<目次>

 

 先日、今月実施された第116回 医師国家試験(以下、国試)の感染症の問題について友人と話をする機会がありました。そこから、自らの恥ずかしい部分をさらけ出しつつ、問題解説のような記事にしてみたいと思います。

 また、受験生の皆様はあの寒い日の国試、本当にお疲れ様でした。今回は、本番という緊張の中とは異なり、今後の学習(来年度以降の受験)対策お役に立てばということで、この問題を通して興味深く感じるところまで深掘りしました。今回は1問で凝縮しすぎて1万文字を超えていることを予めご了承ください。



1.問題文 116A53

 国試予備校のHPで問題を実際に解いてからブログ記事を見たい/グラム染色を見たい方はこちらをご覧ください(https://medu4.com/116A53)。

<116A53>

 76歳の男性. 喀痰の増悪を主訴に入所している介護施設の職員に伴われて来院した. 8年前に胃癌に対して胃全摘術を受けた. その後体重減少をきたし, 5年前から喀痰が出現した. 1週間前から喀痰量が増加し喀出困難となったため受診した. 身長157 cm, 体重41 kg. 体温37.5℃. 脈拍72/分, 整. 血圧134/84 mmHg. 呼吸数18/分. SpO2 96%(room air). 両側の胸部にcoarse cracklesを聴取する. 皮膚のツルゴールは低下している. 血液所見:赤血球 424万/μL, Hb 13.6g/dL, Ht 28%, 白血球 11,400/μL(好中球 81%, 単球 5%, リンパ球 14%), 血小板 35万/μL. 血液生化学所見:総蛋白 7.9 g/dL, 血清アルブミン 2.7 g/dL. 尿素窒素 37 mg/dL, クレアチニン0.8 mg/dL. CRP 13 mg/dL. 喀痰Gram染色標本を別に示す.

 補液を開始し、この微生物の同定および薬剤感受性試験の結果を待つ間に投与を開始すべき抗菌薬はどれか。

 a. セファゾリン

 b. ピペラシリン

 c. バンコマイシン

 d. クリンダマイシン

 e. ベンジルペニシリン



2.回答・解説

 まずは、自分なりに考えてみました。(早く回答や詳しい部分を知りたい人は2-2までお進みください)

 

2-1. 私も考えてみたところ…

 次のように考えました。

 

 問題文の病歴を読むと、胃癌の既往のある76歳男性で、5年ほど前から誤嚥はありそうな印象。そこに1週間前から細菌性肺炎になったと考えられる。バイタルサインをみて、フィジカルを見て、脱水はありそうなものの抗菌薬を絶対に外したらマズいというほどの状態とも言いにくそう。検査結果も、細菌感染で白血球優位に上がっていそうで、他にもアルブミンをはじめ状況を考えれば、それらしく納得である。

 おそらく、細菌性肺炎かなという辺りまでは問題なく読み進められる人が多いと思います。

 喀痰のGram染色は、グラム陰性桿菌で菌体の周りもベターっと粘液のようなものがみられ、緑膿菌Pseudomonas aeruginosa)かな、と見える(詳しくは3ー2で後述)。胃癌があったことからも疑ってかかることもできる。グラム陰性桿菌という部分から先は分からなかった人もいるかもしれない。一方で、グラム染色に自身のある人は緑膿菌と一発診断であったかもしれない。

 緑膿菌による肺炎〔状況として癌の既往や低栄養がある、医療・介護関連肺炎(NHCAP)〕として、緑膿菌カバー抗菌薬を選ぼうと思いつつ、スルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)ぐらいかなと思ったら、…「選択肢にない!」となったのであった。

 

 このように考えて、知識の復習や、選択肢もしっかり検討することになりました。

緑膿菌カバーの抗菌薬としてスルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)は適切ではありません。NHCAPの際の抗菌薬選択、緑膿菌カバーの抗菌薬をはじめ、勉強し直します。

 

 

2-2. 緑膿菌による肺炎の抗菌薬選択

 緑膿菌による肺炎(医療・介護関連 肺炎)の抗菌薬選択として、先ほどの最後の部分は悪くも「慣れ」であり、スルバクタム・アンピシリン(SBT/ABPC)でなくても、緑膿菌をカバーした他のペニシリン系でも第3世代セフェムでもいいと思います。ペニシリン系抗菌薬にも種類があります。選択肢を確認してみます。

 

a. セファゾリン=第1世代セフェム系抗菌薬

b. ピペラシリン=抗緑膿菌活性ペニシリン

c. バンコマイシン=グリコペプチド系抗菌薬(広域スペクトラム

d. クリンダマイシン=リンコサミド系抗菌薬(広域スペクトラム

e. ベンジルペニシリン=天然ペニシリン

 

 ここで抗菌薬についての深掘りとして、ペニシリン系などの抗菌薬の知識も必要になってくるといったところでしょうか。選択肢のベンジルペニシリンは、緑膿菌には効きません(緑膿菌活性なし)。選択肢セファゾリンも第1世代セフェムであり、緑膿菌には効きません。さらに、広域抗菌薬の使用を減らすという観点やそもそも抗緑膿菌活性がないという視点から、選択肢バンコマイシンや選択肢のクリンダマイシンも効きません。よって、選択肢bのピペラシリンが好ましいとなってきます。

 そもそも、「〇〇菌で抗菌薬は△△」というようにすべてを丸ごと覚えるのは大変だと思います。その背景(抗菌薬や菌の性状・病態生理、組織移行性)についての知識を持つことで大きく捉え、細かなところは調べることがよいと思います(詳しくは3へ)。

 

 この問題でグラム染色がなければ、緑膿菌カバーも考えつつ、他をどこまでカバーするかという話になっているでしょう。グラム染色によって広域スペクトラム抗菌薬の使用を抑えられるというメッセージもありそうです。このような効用のあるグラム染色(近年、保険点数も上昇)についても、深掘りしておくといいかもしれません。

 また、グラム染色グラム陰性桿菌(gram negative rod: GNR)であると分かったけど、緑膿菌だとまでは分からないという人もいると思います。肺炎×GNRということでインフルエンザ桿菌(Haemophilus influenza)と推定したのであれば、アモキシシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA)をはじめとする抗菌薬が可能(耐性なしのABPCから、BLNARではセフトリアキソン)ですが、選択肢も微妙になってしまうかもしれません。GNRから大腸菌を想像したとすると、大腸菌が起炎菌となるような状況は例えば「ウンチを食べていた」というような稀な状況だと思います。実際に抗菌薬の選択肢も見つつ、問題の状況的に緑膿菌カバーを考えると良いと思います。

 

 広域スペクトラムから狭域スペクトラムへという流れ(de-escalation)を少し誤解した人もいるかもしれません。例えば、始めはバンコマイシン、途中で感受性試験(培養結果)が出たら、de-escalationでピペラシリンというに考えてしまった人もいると思います。グラム染色をはじめとする起炎菌を絞り込むことができる根拠があれば、状況を見つつ、始めから絞ることができるといいと思います。

 

2-3. 正解選択肢

 正解 (ピペラシリン)



3.深掘りしてみよう

 今回の問題で、気になった部分を少し深掘りしつつ、こんな教科書を読むと参考になるというのを示すことができればと思います。

 今回の問題でのチェックポイントは大きく2つだと思います。

 

グラム染色

 緑膿菌の特徴

・抗菌薬(全般)

 >緑膿菌をカバーする抗菌薬

 >抗菌薬選択と疫学

 

 順に紹介していこうと思います。

 

 

3-1. グラム染色

 まずは、この国試問題の正答へのひとつのキーポイントとなったグラム染色についてです。コロナ禍で喀痰のグラム染色はここ2年ほど厳しいところもあると思いますが、尿のグラム染色や培養からのグラム染色などもあり、大切であるには変わりないと思います。グラム染色の基本事項の確認と、緑膿菌グラム染色について少し深堀りをしてみたいと思います。

 

3-1-1. グラム染色の基本事項

 グラム染色の基本事項から確認していきたいと思います。グラム染色陽性/陰性桿菌/球菌という2×2の分類を目にしたこともある人が多いと思います。

f:id:mk-med:20220226023327j:plain

グラム染色における細菌の分類

 この4種類のうち、グラム陽性球菌(gram-positive cocci: GPC)グラム陰性桿菌gram-negative rods: GNR)を見かける機会が多いと思います。

 GPCには、ブドウ球菌やレンサ球菌があります。さらにブドウ球菌でも、黄色ブドウ球菌や、表皮ブドウ球菌のようなコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(Coagulase negative Staphylococcus: CNS)があります。レンサ球菌も肺炎球菌や腸球菌、連鎖球菌というように種類があります。

 GNRの代表例は大腸菌(Escherichia coli)でしょうか。今回の問題のテーマとなった緑膿菌もGNRです。具体的に、GPC、GPR、GNC、GNRの4種類についてや、グラム染色の方法のあたりから学んでみようと思えば、基本的な書籍をみてみると分かりやすいと思います。例えば、『できる! 見える! 活かす! グラム染色からの感染症診断〜検体採取・染色・観察の基本とケースで身につく診断力(レジデントノート別冊)』〔田里 大輔 (著)、 藤田 次郎 (著)〕をはじめ、様々な書籍があると思います。

 

 

3-1-2. 緑膿菌グラム染色

 ここからは緑膿菌グラム染色について少し深掘りしていきます。国試の116A53のグラム染色緑膿菌でもムコイド型でした。緑膿菌にはバイオフィルムのイメージがあると思うのですが、菌体の周りにある粘液物質がピンク色に染まってるのが、確認できました。また、ムコイド型でさらには菌体に多形性を認めていました。

 

 グラム染色は、病理組織像のように奥深い楽しさがあります。それを知ってもらえるような一面を紹介できればと思います。緑膿菌には、スムース型(S型)ムコイド型(M型)があります。Free Articleからグラム染色画像を探してきました。画像のURL(画像表示)ならびに文献のURLを貼っておきますので、詳しくはリンク先をご覧ください。

 

緑膿菌スムース型(右下)

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/instance/4287475/bin/12879_2014_Article_4001_Fig1_HTML.jpg

(出典)BMC Infect Dis. 2014 Oct 18;14:534. doi: 10.1186/1471-2334-14-534.

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4287475/figure/Fig1/

 

緑膿菌ムコイド型

(医師国家試験116A53より。お気に入りの問題集等で検索してください。)

 

 

 では、緑膿菌グラム染色所見について詳しく調べてみます。スムース型(S型)グラム染色の標本では次のような所見が書かれています。

 

 写真上はスムース型(S型)の菌株はグラム染色で均一によく染色される。菌体は大腸菌よりも僅かに細く、グラム陰性に強く染色される桿菌である。

(出典)第2版 感染症診断に役立つグラム染色 実践永田邦昭のグラム染色カラーアトラス,永田邦明,シーニュ

 

 また、スムース型でも形態変化が見られた緑膿菌では次のような所見が書かれています。

 

抗菌薬の投与後で、菌体の一部が丸く膨らむバルジ形成が認められる。

(出典)第2版 感染症診断に役立つグラム染色 実践永田邦昭のグラム染色カラーアトラス,永田邦明,シーニュ

 

 次は、ムコイド型の所見です(必ずしも、細部まで国試と一致するわけではありません)。

 

 写真はムコイド型(M型)のPseudomonas aeruginosaが分離された喀痰のグラム染色像である。バイオフィルム感染症の代表的な菌種であり、周囲をピンク色の粘液物質の膜で覆われたグラム陰性桿菌が認められる。

(出典)第2版 感染症診断に役立つグラム染色 実践永田邦昭のグラム染色カラーアトラス,永田邦明,シーニュ

 

 また、上記出典の中で、緑膿菌のスムース型と大腸菌の比較記述がありますが、さすがにそこまで区別できるようになるにはアトラス等を見たり、グラム染色像の深掘りした勉強が必要になってくると思います。国試のグラム染色像は、緑膿菌のムコイド型ということで大腸菌などとの区別も比較的簡単になっており、学生からすれば知る人ぞ知る感はありますが出題者の優しさかもしれません。

 

 さらに、さきほど偶然見つけた文献において、喀痰のグラム染色における緑膿菌診断の感度、特異度についても調べられていました。

 

  • 喀痰のグラム染色における緑膿菌の診断において、感度 22.2%、特異度 99.8%であった。
  • 市中肺炎(comunity-aquired pneumonia: CAP)328名における特異度は100%であった。
  • 医療ケア関連肺炎(healthcare-associatedpneumonia: HCAP)342名における特異度は99.6%であった。

(出典)BMC Infect Dis. 2014 Oct 18;14:534. doi: 10.1186/1471-2334-14-534.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 グラム染色による診断価値特異度)がとても高いと考えられそうです。もちろん、後ろ向き研究である点や、染色・検鏡する人による差もあると思います。また、感度は低く、グラム染色緑膿菌が見られなくても、起炎菌が緑膿菌であることを否定はできません。しかし、グラム染色緑膿菌らしいものが見られた時には特異度が高いので診断できる可能性がとても高いとも言えそうです。HCAPという米国での分類は2016年に消滅していますが、市中肺炎(CAP)でも医療ケア関連肺炎(HCAP)でも高い特異度というのは、参考になると思います。緑膿菌グラム染色における診断の特異度の高さも、出題者の先生の配慮かと思います。

 

 グラム染色像をはじめ、深掘りしてみたい人は少しマニアックな書籍を覗いてみるのもいいかもしれません。今回、引用にも用いた永田邦昭先生の『第2版 感染症診断に役立つグラム染色―実践永田邦昭のグラム染色カラーアトラス』では、病理組織アトラスのように実際のグラム染色や血液培養ボトル、さらには培地の画像と所見を同時に見ることができます。

 他にも、もっと一般的にグラム染色の見方に詳しくなってみたいという人は山本剛先生のグラム染色道場』を読んで(見て)みるというような選択肢も良いと思います。さらに進めば、実際の染色の際の色の抜けやすさ・抜けにくさ、染色度合いなども実際にやってみると楽しいと思います。



3-2. 抗菌薬

 抗菌薬についてどのように分類していくかをはじめ、全体像を話し始めたらキリがありませんので今回とりわけ関係のある部分についてお話をしていきたいと思います。抗菌薬の一般名も使いながら覚えていくあたりは、本当にどれだけ接したかのような感じで骨が折れます。

 抗菌薬の全体像とまでは言わなくても、ペニシリンの構造や薬理作用からお話したいのですが、岩田健太郎先生の『抗菌薬の考え方、使い方 ver.4 魔弾よ、ふたたび…』(2022年3月に第5版出版予定)に楽しく書いてあるので、機会があれば手に取ってみてください。

 

3-2-1. ペニシリンの分類

 ということで、まずは正解になったペニシリンのひとつであるピペラシリンについて、ペニシリンのひとつとして少し深掘りしてみます。教科書や二次文献、そして文献検索と順に深掘りしていきたいと思います。

ペニシリンの分類を試みる>

 さあ、ここでペニシリンをグループ分けしましょう。

 

1.普通のペニシリン

2.βラクタマーゼ阻害薬入りペニシリン

3.黄色ブドウ球菌(MSSA)に効く特殊なペニシリン

4.緑膿菌に効くペニシリン

 

 これは薬理学的な分類ではなく、あくまで臨床上の「使い方」からの分類です。

 もっとも、オーバーラップもありまして、例えばよく使われるピペラシリン・タゾバクタムは2のβラクタマーゼ阻害薬入りペニシリンでもあり、かつ4の緑膿菌に効くペニシリンでもあります。ヤヤコシイ。

(出典)抗菌薬の考え方、使い方 ver.4 魔弾よ、ふたたび…,岩田健太郎,中外医学社

 

 親しみやすい文章ペニシリン系抗菌薬が分類されています。今回の正解も4の緑膿菌に効くペニシリンでした。もちろん、ペニシリンの中で緑膿菌に効くものを知っていることも必要ですが、緑膿菌と抗菌薬に関しては次のようにも言及されています。

 

3-2-2. 緑膿菌と抗菌薬

 それでは、緑膿菌と抗菌薬、緑膿菌をカバーする抗菌薬について調べていきいます。

 

 院内のグラム陰性桿菌もまっぷたつです。これを「緑膿菌」と「それ以外」に分けます。

 理由は、簡単。「緑膿菌に効く抗菌薬」は特殊で、これは別に考えなくてはならないから。すなわち、院内感染症の抗菌薬チョイスは、つまるところ「緑膿菌をカバーしているか、していないか」という大きな分け方をするのです。

 

<ポイント>

  • 緑膿菌に効く抗菌薬は分けて考えるのが大事。

(出典)抗菌薬の考え方、使い方 ver.4 魔弾よ、ふたたび…,岩田健太郎,中外医学社

 

 まず何といっても、緑膿菌に効く抗菌薬ちゃんとチェックしておいた方がよさそうです。また、今回は医療関連ということで「院内」側と考えてもよさそうです。もちろん、この岩田先生の書籍で各種の抗菌薬について学んでいくと他の種類の抗菌薬についても全体像がつかめますが、ここでは具体的に緑膿菌を疑ったときの抗菌薬を調べてみます。

 

主に医療関連感染症を起こすグラム陰性桿菌

  • 病原性は弱いが、耐性傾向が強い。英語名の頭文字で「SPACE」とまとめて記憶する。加えて、ステノトロフォモナス・マルトフィリアも押さえたい。
  • 多くの市中感染症では通常、治療対象にならないが、経験的治療の際に使用可能な抗菌薬は、抗緑膿菌活性のあるものに限られる。
  • 緑膿菌活性のある抗菌薬は、SPACEをカバーする必要がないときには原則として使用しない。

(出典)感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022,岡秀昭,メディカル・サイエンス・インターナショナル

 

 今回はグラム染色から緑膿菌と分かっているものの、医療ケア肺炎(HCAP)として緑膿菌を含むSPACEをそれなりにカバーするように経験的治療をするとしたら、次のような抗菌薬になります。

  • ピペラシリン・タゾバクタム(PIPC/TAZ) 4.5gを6時間ごと、またはセフェピム(CFPM)2gを8時間ごと
  • 終末期や老衰状態、繰り返す誤嚥性肺炎などの場合、重症度が低い場合や90日内の抗菌薬投与がない場合、入院4日以内で基礎疾患がない場合は、アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)やセフトリアキソン(CTRX)単剤、あるいはレスピラトリーキノロンの内服で開始して効果なく、耐性菌が検出されれば、抗菌薬を追加変更するescalation戦略も妥当と考えられる。

(出典)感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022,岡秀昭,メディカル・サイエンス・インターナショナル

 

 ポケットに入って便利なプラチナマニュアルからでした。先述の自分自身の回答がずれていて恥ずかしく、ABPC/SBTに関しては条件付きで使えるというぐらいでした。その条件が、緑膿菌カバーを外しても大丈夫というようなときと解釈できます。(これでは、緑膿菌をしっかりカバーする・効く抗菌薬とズレます。あー、難しい。ちなみに3-3で起炎菌の疫学も調べましたが、緑膿菌の頻度はそこまで多くはありません。それも考慮した上で全身状況が良ければハズしてもよいという判断かと考えられます。)

 

 では、緑膿菌感染症の場合の抗菌薬を調べてみます。

 

緑膿菌>選択すべき抗菌薬

注射薬

経口薬

多剤耐性の場合

  • コリマイシン(CL)
  • セフトロザン/タゾバクタム

(出典)感染症プラチナマニュアル Ver.7 2021-2022,岡秀昭,メディカル・サイエンス・インターナショナル

 

 すべては覚えきれませんね。しかも、耐性の問題や抗緑膿菌活性ペニシリンのピペラシリンが書いていない…。国試の問題は選択肢で消去法的に解けましたが…。難しいですね。

 

 せっかくなので、国試では緑膿菌と分かりましたが、緑膿菌っぽい場合(緑膿菌のリスク)についても調べてみました。

 

緑膿菌の可能性を疑う、または否定できない場合

  • 基本的には院内肺炎の緑膿菌によるものに準じる
  • リスクとしては最近の抗菌薬の使用、肺の基礎疾患、ステロイドの使用、低栄養、白血球減少などがあるが、最大のものは緑膿菌肺炎の既往である

(出典)レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版,青木眞,医学書

 

 他にも、耐性については環境にもよると思います。耐性についての詳しいことも『レジデントのための感染症マニュアル』にも記載されていました。辞書のように調べる際に参考になることが多く記載されています。

 また、それ以前の知識・理解として、抗菌薬の整理の仕方(そのひとつとして今回の緑膿菌に効く抗菌薬)や基本的なスペクトラムをちゃんと学んでおくともっとすっきりと理解できたと反省しました。

 

 

3-3. 疫学と抗菌薬選択

 経験的治療の場合は、抗菌薬選択に疫学も関わってきます。グラム染色や病歴などから起炎菌を絞ることができれば、経験的治療も絞られていく(もしくは考えられる菌をカバーする)ことになると思いますが、事前のまっさらな確率を調べてみたいと思います。

 

f:id:mk-med:20220226025254j:plain

(出典)日老医誌 2012;49:673―679

https://jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/review_geriatrics_49_673.pdf

 

 医療ケア関連肺炎(HCAP)における起炎菌の種類と割合です。国によって、割合が大きく異なっています。アメリカと日本の差も気になるところです。また、上記の表にある項目で「その他」以外は概ね5%以上である項目が多く、そこまで少ないと言えるものは基本的に「その他」に入っていそうです。

 

 もう一つ、先ほどから紹介している文献からです。本当にこの文献はタイトルからも読み進めたくなるようなタイトル(Validation of sputum Gram stain for treatment of community-acquired pneumonia and healthcare-associated pneumonia: a prospective observational study)であり、とても参考になります。

 

CAPならびにHCAPの起炎菌の菌種と割合

 

All patients

n=670

CAP

n=328

HCAP

n=342

Pathogen identified, n (%)

417 (62.2)

206 (62.8)

211 (61.7)

Streptococcus pneumoniae, n (%)

139 (20.7)

76 (23.2)

63 (18.4)

Haemophilus influenza, n (%)

122 (18.2)

61 (18.6)

61 (17.8)

Moraxella catarrhalis, n (%)

41 (6.1)

20 (6.1)

21 (6.1)

Klebsiella pneumonia, n (%)

43 (6.4)

11 (3.4)

32 (9.4)

Pseudomonas aeruginosa, n (%)

29 (4.3)

12 (3.7)

17 (5.0)

Staphylococcus aureus, n (%)

11 (1.6)

2 (0.6)

9 (2.6)

Mycoplasma pneumoniae, n (%)

10 (1.5)

9 (2.7)

1 (0.3)

Chlamydophila pneumoniae, n (%)

8 (1.2)

7 (1.0)

1 (0.3)

Legionella pneumophila, n (%)

2 (0.3)

0

2 (0.6)

(出典)BMC Infect Dis. 2014 Oct 18;14:534. doi: 10.1186/1471-2334-14-534.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 2010年8月から2012年7月までに肺炎で入院した患者670名の後ろ向き研究です。Reviewと違って、条件まで詳しく知ることができます。条件の違いもあってか、1つ目の文献と比べて起炎菌の割合が異なる部分もあります。今回の国試問題で話題の緑膿菌は、2つ目の文献では5.0%しかありません。5.0%でも疑った状況で見逃すと怖いというのはいうまでもありません。

 

 グラム陰性菌では、緑膿菌、クレブシエラ、インフルエンザ菌あたりが多そうな印象です。グラム陽性菌では、肺炎球菌黄色ブドウ球菌が多そうです。とりわけ黄色ブドウ球菌に関しては米国ではMRSAが多く、その辺りは日本とは異なりそうです。また、文献の疫学の調査の年からそれなりの日付が経っているので、今の日本とは少し異なっている(例えば、耐性菌が増えている)かもしれません。

 2つの文献でも差異があり、病歴・所見などの手掛かりで起炎菌を絞れなければ、経験的治療はカバーしたいものを考えつつ、広域になりがちな側面も確認できました。

 

 まだ、ここから例えば緑膿菌による肺炎の臨床像など調べてみたいこともありますが、国試を解く際の要点として掘り下げた記事なのでここまでにさせていただきます。



4.国試に向けて

 今回は国試問題(116A53)をもとに、いろいろと調べ、どんどんと深掘りしてみました。いかがだったでしょうか。ちょっと、国試用としては深掘りしすぎの面もあると思います。それでも、予備校の講義では重点を置かないような、緑膿菌をカバーする抗菌薬グラム染色の初歩的な部分は学んでおいて損はしないと思います。緑膿菌グラム染色そのものや診断精度(特異度の高さ)についてはとても興味深かったので、興味を持ってもらえると幸いです。また、時間があればどっしりと腰を据えて抗菌薬について学ぶのも良いと思います。

 

 予備校の解説とは異なり少し深掘りしすぎてしまいました。予備校の講義もコンパクトにまとめられており、大枠を掴むことや国試にて合格最低点を手っ取り早く取るのに有用であると感じます。一方で、コンパクトゆえに丸暗記(語呂合わせ含む)になりやすかったり行間(病態生理などの原理・原則や背景)の理解が深まらない側面があるとも感じました。

 CBT前に1周したにも関らず、不安に駆られて、5-6年生の間も国試対策に1年以上かけ、予備校のテキストを何周も何周もするのであれば、この記事とまではいかないまでも少し深掘りした勉強を取り入れて理解度を上げるというのもいかがでしょうか。数名のグループでやったりすると楽しいかもしれません。また、すべての問題をこの問題ほど掘り下げる必要もないと思うので、もう少し楽に掘り下げられると思います。

 もちろん、国試では暗記をある程度要求され、試験中に調べることもできません。良いか悪いかはさておき、引き出し作って・検索キーワードを意識して調べる先だけ確保しておいて割り切ることもできず、暗記する部分と調べる部分の境界は少し悩みどころですが、国試は約9割が合格する資格試験であり、入学試験とは性格が異なります。だからこそ、暗記による点数至上主義である必要性もないように感じます(卒業後も救急のような場面を除き、そこまで細かいことの暗記は求められないように感じます)。

 

 最後の文献検索まではしないにしても、丸暗記を防ぐための背景となる知識臨床にもつながる素敵な書籍もあります。例えば、今回でいうところの岩田健太郎先生の『抗菌薬の考え方、使い方 ver.4 魔弾よ、ふたたび…』は、まさしくそのような一冊であると思います。マインドマップのような菌の分け方や、その先の抗菌薬の話まで参考になる本として、おススメです(2022年3月に第5版出版予定)。

 

 さらに疑問点があれば、興味を持てば、時間を持てば、2次文献やもっと分厚い教科書を調べ、さらには文献検索をしていくというぐらいのスタンスでもいいと思います。他にも、USMLE Step1のように基礎医学臨床医学をつなげてみるのも良いと思います。

 

 今回は、国試問題から少しずつ調べていくということで長くなってしまった記事ですが、参考になる部分があれば幸いです。また、皆様のリアクションをみながらこのような国試ネタからの記事を他にも書いてみるか検討しようと思います。

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

国試シリーズはこちら

mk-med.hatenablog.com