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急性虫垂炎|「虫垂炎らしさ」からAlvarado Scoreまで

急性虫垂炎

虫垂炎らしさ」からAlvarado Scoreまで~

 

<目次>

 

 以前、虫垂炎ミミック(ミミッカー)にもなりうる虫垂腫瘍のお話を興味本位でさせていただきました。今回は、せっかくなので急性虫垂炎らしさについて、古典的な症状や臨床予測ルールであるAlvaradoスコアなどを深掘りしてみたいと思います。

 

 

 

1. 急性虫垂炎おさらい

 虫垂炎の症状は古典的な(典型的な)ものを含め様々ですが、古典的なものをチェックしておきたいと思います。

 

 急性虫垂炎の古典的な現病歴は、非特異的な症状からはじまる。排便習慣の変化や倦怠感、疲労感のほか、継続的な攣縮性の腹痛を心窩部や臍周囲に自覚する。炎症を起こしている虫垂は12~24時間で壁側腹膜を刺激するようになり、腹痛は右下腹部へ移動し局在が明瞭になる。壁側腹膜の刺激は、局所の筋性防御所見を引き起こしうる。虫垂炎患者では、悪心は認められるとしても腹痛より後に出現することが大半であり、このことは悪心が初発症状であることが多い急性胃腸炎などとの鑑別点になる。嘔吐がある場合も同様に腹痛より後に出現し、典型的には軽度かつ低頻度である。食欲不振も非常に多い症状なので、その訴えがなければ虫垂炎の診断を再考すべきである。

 単純性虫垂炎の患者では、頻脈や発熱はごく軽度であり、外観上も軽症に見えることが多い。患者の体温が38.3℃を超え筋硬直がみられるときは、虫垂炎以外の疾患や、選考、蜂巣炎、膿瘍などの合併症を考えるべきである。

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 古典的な現病歴はいかがでしょうか。妊婦さんのように虫垂が右下腹部にはない場合や、乳幼児、所見の分かりにくい高齢者などでは診断が難しくなることも容易に考えられます。とりあえず、このような古典的な症状が考えられるものの、虫垂炎(虫垂)が骨盤腔内であれば排尿時痛、頻尿、下痢、テネスムス(しぶり腹)などが生じやすくなりそうなど、症状に幅があるでしょう。

急性虫垂炎というcommon diseaseのuncommon symptomsまでを含めた様々なことを考える必要を感じました。

 

 さらに症状や所見の深掘りしておきたいと思います。出典によって様々ですが、定量化を試みる一つの例として捉えてもらえれば幸いです。

 

急性虫垂炎の症状や所見などの診断特性

急性虫垂炎における症状・身体所見の尤度比・感度・特異度

(出典)JAMA. 1996 Nov 20;276(19):1589-94.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 文献によっても異なってくるという当たり前のことは感じますが、腹痛→嘔吐という順番は感度が高そうです。腹痛→嘔吐の順番でない場合に虫垂炎の診断以外も再考すべきというハリソンの記述もうなづける数値でした。病歴を聞いた際に「腹痛と嘔吐があって」と聞いた際に、腹痛嘔吐順番を意識しても良いでしょう。

 また、腹痛の移動(典型的には心窩部または臍周囲から右下腹部への移動痛)も、症状の中では陽性尤度比が3.18と高い方であると感じました。

 所見においても、右下腹部の圧痛は尤度比が高い可能性がありそうです。筋強直もPsoas徴候もある程度高そうといったところでしょうか。

 それにしても、トータルで診断を決めていくしかないあたりに虫垂炎難しさを感じる結果でもありました。白血球数やCRP等の検査結果に関しても記載がありました。気になる方は出典をチェックしてみてください。

 

 

 

2. 虫垂炎鑑別疾患

 せっかくなので少し寄り道をしていこうと思います。急性虫垂炎を疑ったときの鑑別疾患についてです。今回であれば、急性虫垂炎を疑った症例においての結果が虫垂腫瘍でした。急性虫垂炎を疑った場合にはどのような疾患が考えられるのでしょうか。

 

虫垂切除術の既往がない限り、年齢に関係なく腹痛を訴えるすべての患者で虫垂炎を鑑別に挙げるべきである。

虫垂炎の鑑別疾患

(出典)ハリソン内科学 第5版

 

 虫垂炎の奥深さを感じる鑑別疾患でした。何でもありと言ってしまえばそれまでですが…。

 虫垂炎鑑別疾患として、Crohn病、胆嚢炎、他の胆嚢疾患、憩室炎、子宮外妊娠、子宮内膜症、胃腸炎腸炎、肝炎、腎結石などの腎疾患、肝膿瘍、Meckel憩室、排卵痛、腸間膜リンパ節炎、大網捻転、膵炎、肺下葉の肺炎、骨盤内炎症性疾患、卵巣嚢胞破裂、他の卵巣嚢胞性疾患、小腸型腸閉塞、尿路感染症に、前章の内容も踏まえて虫垂腫瘍を加えました。

 例えば、Meckel憩室、憩室炎は部位によっては鑑別に苦労することもありそうです。また、肺下葉の肺炎であれば呼吸器症状、尿路感染症であれば膀胱刺激症状のように、随伴症状全体像から鑑別していく重要性も感じました。

 

 また、前回の記事のくだりから虫垂腫瘍も加えました。虫垂腫瘍も虫垂炎と画像で鑑別できる面もありますが、他の鑑別疾患の方が所見、血液検査、画像検査等で鑑別しやすいものも多いでしょう。一方、虫垂の解剖学的位置が様々なので、虫垂腫瘍もこれらと似たような症状を呈する可能性もあると考えています。

 

 

 

3. 虫垂炎画像所見

 例えば、超音波検査や腹部CTで虫垂の壁肥厚、径の増大、虫垂周囲の脂肪織濃度上昇など、少しずつ積み上げていくような診断だなと感じます。それこそ、虫垂腫瘍との鑑別としても画像所見に注目してみたいと思います。

 

 まずは、超音波検査(US)とCTにおける虫垂炎診断の感度、特異度からです。

 

超音波検査ならびにCTにおける虫垂炎診断の感度、特異度

  • 57研究のメタ分析

<小児>

  • CTの感度は94%(95% CI, 92-97%)、特異度は95%(95% CI, 94-97%)
  • USの感度は88%(95% CI, 86-90%)、特異度は94%(95% CI, 92-95%)

<成人>

  • CTの感度は94%(95% CI, 92-95%)、特異度は94%(95% CI, 94-96%)
  • USの感度は83%(95% CI, 78-87%)、特異度は93%(95% CI, 90-96%)

(出典)Radiology. 2006 Oct;241(1):83-94. doi: 10.1148/radiol.2411050913.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 上記と似たような結果の他の研究もありますが、急性虫垂炎の診断において超音波検査よりCTの方が感度が優れており、特異度も同程度かやや優れているという結果のものがあります。

 超音波検査は簡便さや小児における被爆のリスクにおいてはメリットがありますが、超音波検査の技術や再現性の問題もあったり、日本でこそアクセスはいいもののアクセスの差もあったりします。

 日本で成人の場合、特に夜間の当直中等の人手も豊富でないときは、よほど超音波だけで完結する、先に急ぎで超音波で診たい鑑別があるというようなとき以外はCTでも良いのかなというような悪魔のささやきすら聞こえてしまいそうです。

 

 仕切り直して、診断における画像所見は以下の通りです。

急性虫垂炎のCT所見には、虫垂の拡張(7mm)、虫垂壁の肥厚、増強、またはその両方、および虫垂周囲脂肪組織の炎症性の毛羽立ちが含まれる。

複雑性急性虫垂炎のCT所見には、腸管外虫垂結石、膿瘍形成、虫垂壁欠損、腸管外ガス、イレウス、虫垂周囲液体貯留または遊離腹腔内液、重度の虫垂周囲炎、蜂窩織炎性などがある。

(出典)JAMA. 2021 Dec 14;326(22):2299-2311. doi: 10.1001/jama.2021.20502.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 特に単純性急性虫垂炎の所見である、虫垂の拡張(≧7mm)虫垂壁肥厚・濃染虫垂周囲の脂肪織濃度上昇(dirty fat signのあたりは虫垂炎のCT所見として定番でしょう。

 虫垂が穿孔してしまうと、虫垂の拡張は見られなくなりうることも注意が必要かもしれません。また、憩室炎などの他の所見があった際に憩室炎だけなのか/今回のメインは憩室炎で良いのか、虫垂炎もあるのか、と悩むこともありました。ひとつ見つけて満足というような事態も避けられればと思う次第です。

 

 虫垂炎の画像検査としてMRIもあります。妊婦さんや小児などの特定の一部の状況では役立ちそうな場合もあります。決して虫垂炎でメインとなりうる検査ではないと考えていますが、気になる方はチェックしてみてください。

 

 

 

4. Alvarado Score(MANTRELS Score)

 最後に、虫垂炎らしさの指標のひとつでもある臨床予測ルールであるAlvarado Score(MANTRELS Score)について深掘りしてみたいと思います。

 

後ろ向き研究

  • 腹痛患者で急性虫垂炎だと考えられ入院した305名(うち虫垂炎227名)
  • 症状、所見、検査結果を分析
  • 急性虫垂炎の診断スコア(ネモニックがMANTRELS)

Alvarado Score(急性虫垂炎の診断スコア)
  • 虫垂炎患者(227名)点数分布: 1-2点0名、3点3名、4点5名、5点8名、6点27名、7点55名、8点56名、9点43名、30点10名
  • 虫垂炎患者(78名)点数分応: 1点3名、2点0名、3点7名、4点9名、5点7名、6点11名、7点6名、8点4名、9点3名、10点0名

(出典)Ann Emerg Med. 1986 May;15(5):557-64. doi: 10.1016/s0196-0644(86)80993-3.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 急性虫垂炎の診断スコアとしてご存じの方も多いと思います。Alfredo Alvarado先生が提唱された臨床予測ルールなので、Alvarado Scoreと呼ばれたり、項目の頭文字がネモニクスとしてMANTRELSであることからMANTRELS Scoreと呼ばれたりしています。

 チェック項目は、痛みの移動、食欲不振、嘔気・嘔吐、右下腹部の圧痛、反跳痛、体温上昇(発熱)≧37.3℃、白血球増多(>10,000/µL)、左方移動(eg. Ne>75%)です。痛みの移動(移動痛)をはじめ、先ほどの虫垂炎らしい症状や所見と被ってくる部分があります。

 

 また、Alvaradoスコア6点以上で急性虫垂炎患者数が急激に増えています。3-5点以下であれば、虫垂炎らしくないと考えている際の除外のカットオフには使えるかもしれません。一方、クリアカットではないあたりは、以前記事にした壊死性筋膜炎の臨床予測ルール「LRINECスコア」と似ていると感じました。

 

 症状や所見、検査結果の項目に対して、感度特異度はもちろんのこと、陽性的中率・陰性的中率diagnostic weight等も計算されています。症状や所見が陰性と陽性の場合にdiagnostic weightがそこまできれいに反比例でもなく、それぞれである点など、興味深いというのか、個人的な予想と反している部分もあり参考になりました。

 臨床予測ルールとしてみれば、手軽な項目ということで、基本的には一般的な採血結果までで判断できます(厳密に左方移動を核の分葉数で判断するような場合は…)。この診断スコアに至るまでに、尿検査や直腸診(直腸診での圧痛)の話にも触れています。そちらも興味のある方は見てみてください。

 

 

【補足】Alvaradoスコアどう使う?

 Alvarado Scoreの点数ごとの患者数の分布をみて、「どのような時に使用できるのか」というのが、あまりはっきりしないと思いました。それに加え、validationの結果も気になります。

 虫垂炎らしさの項目を思い出す手がかりのひとつにはなりそうですが、もう少し深掘りして使えそうなシーンを考えてみます。

 

 小児、男性・女性といった場合に分けてのAlvarado Scoreに対するSystematic reviewを見つけました。

 

Alvarado Scoreに対する42研究のSystematic Review

  • 診断精度に関して、Alvarado Score 5点未満は虫垂炎による入院を除外するのに適していた(感度: 全体99%、男性96%、女性99%、小児99%)。
  • 虫垂炎への手術適応が推奨されるAlvarado Score は7点以上であったが、スコアは各サブグループにおいて低い結果であった(特異度: 全体81%、男性57%、女性73%、小児76%)。
  • Alvaradoスコアは、男性ではすべてのリスク層でよく適合している〔低リスク層(1-4点) RR 1.06、95%CI 0.87〜1.28; 中リスク層(5-6点)RR 1.09、0.86〜1.37; 高リスク層(7-10点)RR 1.02、0.97〜1.08)。ただし、中リスク群および高リスク群の小児と、すべてのリスク層の女性において、虫垂炎の確率を過剰に予測した。

(出典)BMC Med. 2011 Dec 28:9:139. doi: 10.1186/1741-7015-9-139.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Alvarado Scoreの最も参考になるそうなのは、虫垂炎らしくないとき5点未満での除外目的でしょうか。Alvarado Scoreが低いほど、使いやすそうです。

 手術が推奨されるかは、やはり勤め先の外科の先生次第だと思うので、ぼちぼち参考にというようにも考えられます。あとは、Alvarado Scoreが高い時は、再度虫垂炎の見逃しがないかもチェックしてみたいものです。

 

 こちらもよければ、出典を見てみてください。

 

 

 今回は虫垂腫瘍の記事からの延長のような感じで、虫垂炎についてでした。

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

 

【関連記事】

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 今回のAlvarado Scoreのような臨床予測ルールについて興味がある方はこちらのテーマのよろしければご覧ください。

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