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尿路結石症に対するCTと超音波検査|診断特性(感度、特異度、尤度比)とアウトカム

尿路結石症に対するCT超音波検査

~診断特性(感度、特異度、尤度比)アウトカム比較~

 

<目次>

 

 

 病歴事前確率を考えたり、ヒントになったりするものの、それだけで診断がつくことはまずないと思いますし、病歴だけで診断をつけるのは限られた状況だと思います。

 前回の記事において、超音波検査における水腎症の原因において最も多かった尿路結石症の際の超音波検査CT診断特性(感度、特異度、尤度比)アウトカムについて深掘りします。これをもとに調べたり、興味を持ったりするきっかけにでもなればと思います。続編のChatGPTとの比較用に、水腎症の原因とは別枠にして詳しく追記することになりました。

 

 

1.診断特性 - CTを基準とした比較 -

 超音波検査の場合、的を絞ったPOCUS(point-of-care ultrasound)と、専門の超音波検査(radiology ultrasographyがあります。救急外来のような場面ではPOCUSになります。それぞれCTで見られた結石を基準に、結石の検出率で超音波検査と比較することで感度、特異度といった診断特性について比較する論文がありますのでチェックしていきたいと思います。

 

1-1. POCUS

 超音波検査といっても救急外来では、的を絞ったPOCUS(point-of-care ultrasound)になるでしょう。水腎症のテーマをしらべるきっかけにもなった状況に近いPOCUSから調べてみたいと思います。

 救急における尿路結石症に対する超音波検査の中でもPOCUSの感度特異度に関するメタ解析ならびにSystematic Reviewの論文を見つけたのでチェックしてみます。

 

尿路結石における超音波検査(POCUS)の感度と特異度はそれぞれ、70.2%(95%信頼区間[CI]=67.1%〜73.2%)と75.4%(95%CI=72.5%〜78.2%)であった。陽性尤度比ならびに陰性尤度比は、それぞれ2.85、ならびに0.39であった。2つの研究では、中等度以上の腎盂拡張を認めた場合の特異度は94.4%(95%CI=92.7%〜95.8%)であることが示された。4つの研究では、POCUSにおいて所見を認める場合、大きな結石の可能性が高いことが示された。

(出典)Acad Emerg Med. 2018 Jun;25(6):684-698. doi: 10.1111/acem.13388.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 CTを基準としたPOCUSとの比較ですが、POCUSでの尿路結石の感度70.2%と、思ったより微妙でした。特異度75.4%陽性尤度比2.85とあともう一歩といった印象です。とても有能なイメージの強いエコーですが、エコーで尿路結石の所見は特にないとしても否定しきれないわけです。水腎症Grade高くなったり、尿路結石の大きさ大きくならないと見落としてしまう可能性が高いということも考えられます。

 Free Articleなのでよろしければ、フォレストプロット予後等もチェックしてください。

 

 

1-2. Radiology Ultrasonography

 続いて、超音波検査でもPOCUSではなくradiology ultrasonography(radiology ultrasound, radiology-performed ultrasonography)の感度特異度について調べてみたいと思います。

 

腎結石に対する後ろ向き研究(CTを基準とした比較)

  • 非造影CTと超音波検査を同日に受けた患者428名
  • 856個(428名×2)の腎臓のうち、非造影CTにおいて361個の腎臓で474個の結石を検出したが、超音波検査では非造影CTで検出した474個の結石のうち332個を検出し、感度70.0%、特異度94.4%であった。
  • 超音波検査での左上部の結石検出率は他の部位より低く(P = 0.002)、検出率は結石の大きさとともに増加した。
  • 超音波検査で得られた結石の大きさはCTで得られた大きさと正の相関があり、非造影CTと超音波検査による結石のサイズ測定は332例中240例(72%)で一致した。

(成人)Urology. 2014 Aug;84(2):285-8. doi: 10.1016/j.urology.2014.04.010. Epub 2014 Jun 5.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 こちらも、CTを基準として非造影CTで見られる腎結石を元に超音波と比較するものです。日本で行われた後ろ向き研究というのがポイントでしょうか。エコーであれば、人種による尿路結石のような疫学的なものだけでなく、体格的な問題も反映されていそうです。

 感度70%であり、POCUSと似ている結果となりましたが、特異度94.4%高い値です。

 

 他の超音波検査もチェックしてみたいと思います。次の研究は腎結石尿管結石膀胱結石と部位ごとの結果があることが特徴であると思います。

 

150名の後ろ向き研究

  • <腎結石>超音波検査における腎結石発見の感度と特異度は、それぞれ53%と85%であった。超音波検査で確認された腎結石の平均サイズは6.8mm±3.8mm、超音波検査では確認されなかったがCTで確認された腎結石の平均サイズは3.5mm±2.7mmであった。
  • <尿管結石>超音波検査における尿管結石発見の感度と特異度はそれぞれ12%、97%であった。
  • <膀胱結石>超音波検査における膀胱結石発見の感度と特異度は、それぞれ20%と100%であった。

(出典)Sharad Kondekar, Iqbal Minne. Comparative study of ultrasound and computerized tomography for nephrolithiasis detection. International Journal of Contemporary Medicine Surgery and Radiology. 2020;5(2):B4-B7.

https://www.ijcmsr.com/uploads/1/0/2/7/102704056/ijcmsr_426.pdf

 

 PubMedで見つからず、Google Scholarのみでしかヒットしないあたりが何ともですが、部位ごとのヒントにもなると思い、一応紹介しました。やはりCTの方が小さい尿路結石まで見つけることができるという利点や腎臓以外の結石も見つけやすいという、エコーの際に意識する体表面からの位置関係(距離)も意識できるような結果とも考えられました。

 

 次に小児に焦点を当てた文献をチェックしてみます。

 

50名の小児の尿路結石症患者

  • 平均年齢: 13.1 歳 (範囲: 2-18)
  • CTと比較して超音波検査は感度76%、特異度は100%であった。CTで確認された結石が、超音波検査で確認されなかった患者が8名いた。超音波検査では確認されなかった結石の平均サイズは2.3mmであった。CTでは両側から結石が確認できたが、超音波検査では片側にしか結石が確認できなかった患者が7名いた。
  • 臨床的な影響を評価すると、CTと超音波検査の不一致によるマネジメントの差異は4例のみであり、マネジメントに有意差はなかった。

(出典)J Urol. 2009 Oct;182(4 Suppl):1829-34. doi: 10.1016/j.juro.2009.03.072. Epub 2009 Aug 19.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 最後の臨床的な影響として治療などのマネジメントの差異があったかを比べています。4名というのが全患者の8%であり、患者数がもともと50名と微妙な数なので有意差がなかったとも考えていいのか、とても難しく感じます。

 感度特異度も前述のものより若干高い結果となっています。超音波検査にあたり、検査の簡便さ被爆の有無体格面というような小児ということで成人と異なる面もあるでしょう。そうはいっても、妊娠可能性のある女性や妊婦さん、小児への被爆簡便さに焦点を当てていくとエコーのメリットもあります。

 そこで、マネジメントに有意差がなかったものの、やはりマネジメントと聞けば、その先のアウトカムが大切だと思うので、アウトカムについて調べてみたいと思います。




 

2.アウトカムの比較

 先ほどまでの論文は、CTで尿路結石を認めた場合に超音波検査でも尿路結石を認めるか、というCT基準にした診断特性の比較でした。診断だけでなく、CTの場合と、超音波検査の場合のアウトカムについても深掘りしてみたいと思います。

 無作為化対照試験(RCT)までしている研究を見つけました。さすが、New England Journal of Medicine(NEJM)です。

 

超音波検査 vs. CT

  • 18-76歳の救急外来を受診した尿路結石症疑いの患者2759名
  • POCUS, Radiology Ultrasonography (RUS), CTを無作為に1:1:1に割り付け

 

主要評価項目、副次評価項目

尿路結石症に対する超音波検査/CTのアウトカムの比較
  • 最初の30日間における高リスク合併症の発生率はPOCUS群で0.7%、RUS群で0.3%、CT群で0.2%と低く、画像診断方法による有意差はなかった。
  • 6ヶ月間の平均累積被曝量は、超音波検査(POCUS、RUS)群で有意に低かった(P<0.001)。
  • 重篤な有害事象は、POCUS群の12.4%、RUS群の10.8%、CT群の11.2%に生じた(P = 0.50)。関連する有害事象は頻度が全体で0.4%と低く、グループ間で有意差はなかった。
  • 7日後までの平均疼痛スコアは、各群とも2.0であった(P = 0.84)。
  • 救急外来受診率、入院率、診断精度は、各群で有意差はなかった。

(出典)N Engl J Med. 2014 Sep 18;371(12):1100-10. doi: 10.1056/NEJMoa1404446.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 いかがだったでしょうか。これまで(前章)での「超音波検査でも結石が見えるか」という視点だけでなく、実用的な視点での結果だと思います。

 主要評価項目で有意差のあった項目は被爆でした。他にも、高リスクの合併症のように有意差はないものの、POCUS群(0.7%)、Radiology Ultrasonography(RUS)群(0.3%)、CT群(0.2%)の順で多かったようなものは多少意識しておいてもいいかもしれません。

 副次評価項目で個人的に着目した点としては、救急外来滞在時間中間値です。POCUS群6.3時間RUS群7.0時間CT群6.4時間で有意差があります(P<0.001)。全体としての滞在時間が長さというよりも時間差に着目すると約40分異なります。その辺りも、断らない救急などでストレチャーなどの場所やリソースが逼迫しているところでは、POCUSかCTとなってくる面もあるのではないでしょうか。

 診断の正確性でも、感度においてPOCUS群が85%、RUS群が84%、CT群が86%で有意差がありませんでした。特異度においてもPOCUS群が50%、RUS群が53%、CT群が53%と有意差がありませんでした。もちろん、画像だけで診断をしている訳ではないこと、POCUS群では救急医(emergency physician)がしていることも影響があると思います。野戦病院のように救急外来を研修医やり繰りしているようなところでは、POCUS(超音波検査)の感度や特異度は低くなることも考えられます。また、尿路結石に対して泌尿器科なり、専門の先生が救急外来でエコーを当てられる環境(radiology ultrasonography)があるかというのも現実的な問題となってくると考えています。

 患者さんの視点では痛みや再受診のようなことはない方が良いと思いますが、痛みに関しても特に有意差はありませんでした。また、救急外来の再受診率でも有意差はありません。強いて言うならば、Radiology Ultrasonographyの場合だけ、受診に時間を要するという視点でしょうか(それによって鎮痛薬が効く時間があるので、救急外来を出たときに痛みがわずかに少ないのかとも考えたりもしました)。

 患者の特徴(年齢、性別、人種、既往歴など)、身体所見も含め、気になる方は論文をチェックしてみてください。

 

 

 それにしても、ChatGPTに尿路結石症に対する超音波検査や腹部CTの診断特性について質問し始めたことから、ChatGPTとの比較用に尿路結石症に対する超音波検査について改めて深掘りすることになりました。次回以降に、対話型AIとの比較もできればと考えています。

 

 本日もお読みくださいましてありがとうございました。

 

 

【関連記事】

 ChatGPTとの比較はこちらをご覧ください。ChatGPTの簡便さだけでなく、言葉の定義の曖昧さ(POCUSとRadiology Ultrasonographyの違い)のような部分も確認できるかと思います。

mk-med.hatenablog.com

 

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