セフトリアキソンと石
~胆石や尿路結石など~
<目次>
セフトリアキソン(CTRX)といえば、身近な抗菌薬のひとつかと思います。セフトリアキソンを投与すると、胆石(偽胆石症)や尿路結石、関連結晶の原因・誘因となることがあります。
2024年8月号『総合診療』の特集(ストーン・ウォーズ)でセフトリアキソン偽胆石症については触れられていました。偽胆石症について詳しくはそちら等をご覧いただき、他にもセフトリアキソンによる”石”があるということを切り口に好奇心で書いてみたいと思います。
1. CTRXの薬物有害反応と「石」
セフトリアキソン(ceftriaxone, CTRX)といえば、肺炎、髄膜炎などで用いることのある身近な抗菌薬の1つであると思います。半減期が8時間と長く1日1回投与でも大丈夫なことが多いことも特徴でしょうか。
身近な抗菌薬の薬物有害反応についてチェックしてみます。
セフトリアキソンの有害事象(概要)
- セフトリアキソンの有害反応のうち、考慮すべき重大なものはセフトリアキソン・カルシウム沈殿物、クロストリジオイデス・ディフィシル感染症、溶血性貧血、過敏症反応、核黄疸である。
- セフトリアキソン-カルシウム沈殿物が生じ、未熟児および新生児において致死的な肺および腎障害を引き起こした。尿泥(高カルシウム尿症、)、腎結石、尿路結石、急性腎不全が報告されている。胆泥、胆石症、偽胆石症、それに続発する膵炎も発生している。ほとんどの症例は小児であるが、成人での報告もある。
(出典)UpToDate > Ceftriaxone: Drug Information, last update 13 Sep 2024
アナフィラキシーをはじめとする過敏症反応や、クロストリジオイデス・ディフィシル感染症(Clostridioides difficile 感染症, CDI)あたりは特に驚くこともない有害事象(副作用)であると思います。核黄疸に関しては新生児にみられるもの、溶血性貧血に関しては免疫関連ということのようです。
そのような中でも、セフトリアキソン・カルシウム沈殿物が今回の”石”になります。胆石の原因となったり、尿路結石の原因となったり、セフトリアキソン関連結晶にて急性腎障害となったりということがあります。
また、ほとんどは小児症例ということで小児症例でのセフトリアキソンの薬物有害反応について深掘りして定量化してみたいと思います。
他にも、セフトリアキソンと「石」と言えば、肺や腎臓に結晶を生じるというFDAからの警告をご存じの方もいるでしょう。
セフトリアキソン使用上の注意
カルシウム含有製剤と併用した際にセフトリアキソン関連結晶が肺や腎臓にできるというものです。尿路結石だけでなく、尿細管にセフトリアキソン関連結晶が生じることで腎障害になるものもあります。とにかく胆石・尿路結石・関連結晶といった「石」を作りやすいものとも考えられます。
日常診療でいえば、点滴とセフトリアキソンの併用というのか、投与タイミングというのか、相性も要チェックでしょう。ビーフリードとセフトリアキソンのような組合せは「石」を作りうるという視点からは少し考えさせられるかもしれません。
【補足】小児における薬物有害反応(定量化)
小児(18歳以下)におけるセフトリアキソンの安全性ということで、小児症例における有害事象を具体的に調べてみました。
前向き研究における検査等を必要とするセフトリアキソンの有害反応
- 最も一般的な検査における変化は血小板減少であった(31.2%)
- 偽胆石症は6つの研究で追跡され、89/430症例(20.7%)であった
- 胆石症は5つの研究で追跡され、62/329症例(18.8%)であった
後ろ向き研究における有害事象
- 前向き研究による結果とほとんど一致した
- 胆泥または胆石が最も一般的な有害事象であった(24.1%, 86/356例)
- 免疫性溶血性貧血は後ろ向き研究のみで報告されていた(30例)
(出典)Arch Dis Child. 2020 Oct;105(10):981-985. doi: 10.1136/archdischild-2019-317950. Epub 2020 Mar 6.
腎結石・尿路結石と比べて、胆石症のほうが多いことが印象的です。普段、成人ばかり診ているからか成人でも起こるイメージですが、案外で小児で多いことも感じました。
また、研究ごとの「偽胆石症」とするか「胆石症」とするかのような違いはあると思いますが、概ねセフトリアキソンによる石であるとすれば、セフトリアキソンの投与をやめれば消失する同じものを示している可能性もあるでしょう。
前向き研究でも症状等に焦点を当てた有害事象や後ろ向き研究の薬物有害反応の詳細など、気になる方は是非、出典をチェックしてみてください。
2. 結石・結晶のできる薬物有害反応
先ほど、セフトリアキソンは胆汁排泄と尿排泄(腎排泄)ということでした。そこで結晶や結石を作るという大きな視点で2つに分けて、セフトリアキソンによる薬物有害反応の胆道系の「石」や尿路系の「石」について、軽く触れておきたいと思います。
2-1. 胆泥・胆石症・偽胆石症
まずは胆道系の「石」からチェックしてみます。
- セフトリアキソンの排泄は尿(60%)と胆汁(40%)によって行われる
- 胆汁中のセフトリアキソンは血液中の20~150倍に達しうることから、セフトリアキソン・カルシウム塩の沈殿物が生じる可能性がある
- セフトリアキソンによる胆泥は良性の病態でたいていは無症状である。
- 胆石症の場合は65%で症状を呈するが、特発的に改善する。無症状の場合にはセフトリアキソン治療の中止や超音波検査によるフォローは不要とする意見もある。
- セフトリアキソン偽胆石症は画像診断に基づき、検査結果は正常であることが多い。可逆性であり治療も不要であることから、むしろ構えて待つ(wait and see)戦略が必要である。
(出典)Fundam Clin Pharmacol. 2021 Feb;35(1):40-52. doi: 10.1111/fcp.12577. Epub 2020 Jun 22.
ざっとこんな感じでしょうか。イメージを掴んでみたい人は症例報告や総合診療2024年8月号の特集(偽胆石症について1ページ分の記載あり)をご覧ください。Free Articleの症例報告へのリンクを参考までに貼っておきます。
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34484998/
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35127411/
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26157864/
2-2. 尿路結石・尿泥・急性腎障害
続きとして、セフトリアキソンによる尿路結石や急性腎障害についてチェックしてみたいと思います。
小児におけるセフトリアキソン関連腎後性急性腎不全31例
- セフトリアキソン投与期間は平均5.2日(範囲: 3-7日)であった
- セフトリアキソン投与後に無尿となるまでの期間は平均5.4日(範囲: 3-9日)であった
- 主な症状は側腹部痛を伴う無尿(3歳以上, 25/25例)、過度の泣き(excessive crying)(3歳未満, 6/6例)、悪心and/or嘔吐(19例)であった
- 超音波検査では軽度の水腎症を認める場合が多い(25例)
- 薬物療法後1~4日に改善した(9例)
- 逆行性尿管カテーテル治療(21例)を行い、うち1例のみカテーテル挿入ができずに血液透析となった
- 全症例とも完全回復した
(出典)Pediatrics. 2014 Apr;133(4):e917-22. doi: 10.1542/peds.2013-2103. Epub 2014 Mar 24.
だいたいのイメージはできたと思います。Excessive cryingはやはり何かのサインになるということに加え、無尿というサインは腎臓を疑う症状であると感じました。何より、尿路結石の側腹部痛も見逃せませんね。
さらには、尿路結石ではなく尿泥(尿中のセフトリアキソン-カルシウム沈殿物)を認めたという症例報告もありました。よろしければ、下記もご覧ください、
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22690306/ (Pediatr Rep. 2012 Jan 2;4(1):e14. doi: 10.4081/pr.2012.e14.)
【参考】薬剤性間質性腎障害
これまでの話を意識しすぎると腎障害+セフトリアキソンで短絡的になるリスクもあるかもしれないとふと思いました。結石によって腎後性腎障害になる可能性もありますが、セフトリアキソン関連で薬剤性間質性腎障害(drug-induced acute interstitial nephritis ; DI-AIN)になるパターンもチェックしておきたいと思います。
症例: 69歳男性
- 循環器疾患で集中治療中に肺炎を合併し、セフトリアキソンとアジスロマシンを投与した。
- 投与後9日目に血清Cre値が1.2 mg/dLから2.1 mg/dLに上昇等を認めた
- 腎生検を行ったところ光学顕微鏡にて、びまん性間質性障害があり、急性尿細管障害ならび30%程度の間質の線維化を認めた。
- セフトリアキソンによる薬剤誘発性急性間質性腎症の可能性が高いとされた。
(出典)Clin J Am Soc Nephrol. 2017 Dec 7;12(12):2046-2049. doi: 10.2215/CJN.07630717. Epub 2017 Sep 11.
症例報告程度ですが、セフトリアキソンを原因と絞った場合に限定的ではあるものの、尿路結石がない場合(腎後性とは考えにくい場合)にはこちらも考えても良いかもしれません。
セフトリアキソン関連急性腎障害として、結晶性腎症に着目した研究もあります。確かに結晶化しやすいために結石になると考えれば、セフトリアキソンの小さな結晶が腎症を起こすと考えるのは理屈的にはつながると感じました。
興味がある方はよろしければどうぞ。
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29402790/ (Nephron. 2018;139(1):70-82. doi: 10.1159/000486324. Epub 2018 Jan 16.)
興味本位で調べていくと、次々と散らかった内容となってしまいました。そろそろ、最後の締めくくりになりそうな内容にしていきたいと思います。
3. 様々な薬と尿路結石・結晶
前章でも興味本位で散らかってしましました。今回のテーマでもあるセフトリアキソンと石から発展させて、「様々な薬と石」ということでまとめて締めたいと思います。
薬剤性尿路結石症は大きく2種類
- 薬剤性尿路結石は、難溶性分子の結晶化とたいていの場合は高用量投与の結果とされる。プロテアーゼ阻害薬(主にインディビル、現在はアタザナビル)や抗菌薬等(主にスルフォアミドやセフトリアキソン)が結石の主な構成物である。
- 薬剤による代謝作用の結果として生じる代謝産物の結晶化によって生じることもある。カルシウムとビタミンDのサプリメントや炭酸脱水酵素が主な原因である。
(出典)Drugs. 2018 Feb;78(2):163-201. doi: 10.1007/s40265-017-0853-7.
薬剤性腎結石や結晶性腎症についての総説もあります。結石の原因・誘因となりうる薬剤は多岐に渡る一方、セフトリアキソンは結石を作りやすい薬剤のひとつであることも確認できます。
よろしければ、出典の総説もご覧ください。
今回はセフトリアキソンと胆石・尿路結石を中心に、クスリと石まで好奇心で放散していくような内容となってしまいました。少しでも興味の持てる内容があったなら幸いです。
お読みくださいましてありがとうございました。
ストーン・ウォーズということで、石(結石など)についての興味深い切り口が特集の『総合診療』2024年8月号です。よろしければ、こちらもどうぞ。
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