心電図 ST上昇の原因と鑑別
~心電図の本の選び方の参考にも~
<目次>
今回は「心電図のおすすめ本・選び方」の記事の補足でもあります。「心電図のおすすめ本・選び方」を書く際にST上昇の原因と鑑別について少し調べました。せっかく調べたのですが、これといって使う先もないスライドになってしまい、心電図の本の選び方についての補足として有効活用させて頂こうというような内容です。
1. ST上昇の原因と鑑別
心電図においてST上昇と聞くと、心筋梗塞を筆頭にドキッとする人も多いのではないでしょうか。そのようなST上昇の原因と鑑別です。
ST上昇の原因と鑑別
(出典)Cleve Clin J Med. 2015 Jun;82(6):373-84. doi: 10.3949/ccjm.82a.14026.
ST上昇の主な鑑別として、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、早期再分極、心膜炎、左室肥大、左脚ブロック、早期興奮(WPW症候群等)、高K血症があります。他にも、たこつぼ心筋症、心筋炎、心房粗動、巨大肺塞栓、Brugada症候群もST上昇の鑑別として挙げられています。
ST上昇の鑑別が案外多いと感じるのではないでしょうか。「ST上昇と言えば心筋梗塞!すぐに循環器コンサル!」というほど単純でもありません。STEMIのように緊急性のあるものもあれば、原因によっては緊急性のないものもあります。
もちろん、Wellens症候群のようなST上昇はなくても緊急性の高いものもありますが、ST上昇は心電図を学び始めたときの登竜門のように感じます。
案外、一覧表になっている心電図の本がないことに気がついたので、出典をもとに作ってみました。詳しくは出典をご覧ください。
【補足】胸痛+ST上昇の原因 @ER
先述のようなST上昇の原因(鑑別)をみると、どれも横並びに見えてしまうことがあると思います。そんなときのために事前確率を意識するという意味でも、救急外来における事前確率を考えるヒントになるようなものを紹介したいと思います。
胸痛患者におけるST上昇の原因
- 大学病院の救急外来における成人胸痛患者
- 12誘導心電図において四肢誘導で1mm以上の上昇、もしくは前胸部誘導で2mm以上の上昇が解剖学的に連続する2誘導で認めた場合にST上昇とした。
- 胸痛患者902名のうち202名(22.4%)でST上昇を認めた。
- ST上昇患者202名のうち心筋梗塞は31名(15%)であり、171名は心筋梗塞以外で会った。左室肥大が51名(25%)、左脚ブロックが31名(15%)、良性早期再分極が25名(12%)、右脚ブロックが10名(5%)、非特異的脚ブロックが10名(5%)、左心室瘤が5名(3%)、急性心膜炎が2名(1%)、心室ペーシング2名(1名)、非特異的ST上昇が35名(17%)であった。
(出典)Am J Emerg Med. 2001 Jan;19(1):25-8. doi: 10.1053/ajem.2001.18029.
いかがでしょうか。ST上昇を機械的に拾い上げるとすると、ST上昇のうち心筋梗塞である割合は15%という結果でした。大学病院の救急外来(emergency depertment)なので、プライマリな場面や健診では心筋梗塞の割合がもっと少ないことも考えられます。
他にも、ST上昇の主な鑑別でもある左脚ブロックや早期再分極なども機械的にはST上昇で引っかけられても、簡単なものはすぐに鑑別できるようになるでしょう。次章の心電図の本選びもよろしければ、参考にしてみてください。
2. 心電図の本選びの参考にも
先ほどのST上昇の鑑別の表を見て、何を感じたでしょうか。カンタン、難しいなど、各人のレベルによっても異なってくると思います。この鑑別の表を見て感じたことによって、各々が必要とするレベルの心電図の本を選ぶ一助にもなると思いました。
2-1. 疾患・病態ごとの心電図から分からない
ST上昇の鑑別の表の主な原因である、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、左脚ブロック、高K血症といった代表的な鑑別を見て、各病態・疾患ごとの心電図がまったく思い浮かばない、理解ができていないというような人は、病態・疾患ごとの心電図から学び始めるとよいと思います。
以前の記事でいうところの”A-1”(疾患・病態ごと>基本事項)から学ぶことが、個人的には良いと思います。
2-2. 鑑別・初期対応に自信がない
ST上昇の鑑別の表の主な原因である、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、左脚ブロック、高K血症といった代表的な鑑別を見て、鑑別に自信がない、初期対応に自信がないというような場合には、心電図を実践的に読めるようにしていく橋渡しとなるような本が良いと思います。
以前の記事でいうところの”B-1”(心電図を読みたい>基本事項→実践の橋渡し)の『心電図ハンター』から学ぶことが、個人的にはちょうどよいと思います。心電図を読みながら鑑別に大切な部分も意識しながら学べると思います。
ST上昇の鑑別の表を見て、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)、左脚ブロック、高K血症といった代表的な鑑別を見て鑑別はできるものの、代表的な原因の鑑別以外には自信はないというような場合には、網羅的に鑑別をしていくための本はいかがでしょうか。
優先順位的には『心電図ハンター』のレベルより後回しではあると思いますが、『12誘導心電図よみ方マスター 基礎編』はいかがでしょうか。
2-3. 細部が気になる
ST上昇の鑑別の表を見て、主な原因の鑑別には自信があるものの、ある心電図の細かい部分が気になって調べてみたいというような場合には、”A-2”(疾患・病態ごと>辞書的)の『心電図の読み方パーフェクトマニュアル』をおすすめします。
2-4. トレーニングしたい
他にも、代表的な原因の鑑別にはある程度の自信があって場数を増やしたい、精度を上げたいというような場合には”B-2”もしくは”B-3”でトレーニングをしてみるとよいと思います。
病歴から身体所見まで含めた実践的な症例ベースでトレーニングしたい場合には”B-2”、心電図のみを中心にトレーニングしたい場合には”B-3”をおすすめします。
■症例ベースで “B-2”
■心電図のみを中心に “B-3”
それぞれの本の特徴を含め、詳しくは前回の記事をご覧ください。
本日はST上昇の鑑別と過去の記事の「心電図のおすすめ本と選び方」の補足でした。お読みくださいましてありがとうございました。