低ホスファターゼ症①|臨床症状(成人型含む) 意外な全身症状も!?
~臨床症状から検査値、ALP活性低下による病態生理まで~
<目次>
ALP低値から低ホスファターゼ症という症例の話がありました。低ホスファターゼ症と言えば、血清ALP低下・血清リン濃度低下(低リン血症)だけでなく、ALP活性低下による骨の脆弱性やそれに伴う障害を想起することになると思います。一方で、骨以外にも神経症状や腎障害なども引き起こします。
ガイドラインを確認しても、あくまでClinical Question(CQ)を除いて、一般的な疾患の特徴、臨床症状、検査所見に関しては簡単な教科書(ハリソン内科学)レベルの記載のため、深掘りしてみようと感じました。今回は、その低ホスファターゼ症による全身症状や臓器障害と検査結果までと、ALP活性低下における病態生理について3回に分けて深掘りしてみようと思います。
1.低ホスファターゼ症の概要
成人における低ホスファターゼ症(成人型)が今回のテーマのきっかけでしたが、低ホスファターゼ症(hypophosphatasia; HPP)全般について取り上げてみたいと思います。小児科でくる病をきっかけに学んだ人もいると思います。HPPは、小児だけでなく、周産期型から成人型まであるため、全体像からチェックします。
低ホスファターゼ症の症状や特徴となりうるものについて何があるのかを、ざっくり小児から成人まで調べてみます。
低ホスファターゼ症は、乳幼児ではくる病、成人では骨軟化症を呈し、血清中のALP値が逆説的に低くなる稀な遺伝性疾患である。カナダでは、メノナイトやヒュッターに多く、新生児期および小児期の重症型は10万人に1人の割合で発症する。本疾患の重症度は非常に様々であり、極端には骨の石灰化障害を伴う子宮内死亡から、成人で早期の歯牙喪失のみが認められる場合まである。重症例は常染色体劣性遺伝であるが、軽症例では遺伝様式はあまり明らかでない。この病気は、遺伝子のパターンによって引き起こされるが、軽症例ではあまり明確ではない。本疾患は、組織非特異的ALP(TNSALP)の欠損によって引き起こされ、このALPはどこにでも存在するものの、骨の異常のみをもたらす。他のALPアイソザイム(生殖細胞、腸管、胎盤)の蛋白質レベルや機能は正常である。ALPが欠損すると、ホスホエタノールアミン(PEA)、無機ピロリン酸(PPi)、ピリドキサール-5’-リン酸(PLP)が蓄積するようになる。
周産期低ホスファターゼ症は妊娠中に発症し、しばしば羊水過多や子宮内死亡を合併する。致死率は約50%である。
乳児型は生後6ヵ月までに臨床的に明らかになり、成長不良、頭蓋泉門の乖離、頭蓋早期癒合症、頭蓋内圧上昇、肺炎の誘因となるフレイルチェストを呈する。高カルシウム血症および高カルシウム尿症がよくみられる。
小児型低ホスファターゼ症は臨床症状が多彩である。乳歯の早期喪失(5歳以下)が特徴的である。くる病類似の、よちよち歩きを伴う歩行遅延、低身長、前額部の突出を伴うdolichocephalic skullを呈する。思春期には改善することが多いが、成人してから再発することもある。
成人型低ホスファターゼ症は、中年期に疼痛を伴う中足骨のストレス骨折や大腿骨偽骨折による大腿部痛を呈する。
(出典)Harrison’s Principles of Internal Medicine 19th edition, 426e-5
あくまでも特徴程度ですが、ハリソン内科学にも書かれていました。乳児型の成長不良や頭蓋縫合早期症、小児型の乳歯の早期喪失、よちよち歩き(歩行遅延)や低身長のイメージが強いかもしれません。
今回のきっかけとなった成人型にも注目してみたいと思います。まずは、骨の脆弱性として中足骨のストレス骨折や大腿骨偽骨折による大腿部痛という稀な疾患・病態の特徴的なものだけでもチェックできて嬉しく感じます。
骨の脆弱性に注目すれば、ステロイドといった医原性も含めた骨粗鬆症だけでなく、小児科疾患の成人例(小児期発症に比べて軽症例が多い)という気づきのきっかけのひとつにでもなればと思います。
2.低ホスファターゼ症の臨床症状
先ほどの全体像(特徴・症状)を掴みつつ、臨床症状を深掘りしていきたいと思います。
2-1. 全般 -HPPの臨床症状-
さきほどのハリソン内科学程度では特に驚いたり、病態生理を調べてみようと感じるほど、不思議に感じる症状や臓器障害がない人が多いと思います。そこで、低ホスファターゼ症(HPP)の症状や臓器障害にどのようなものがあるのか、網羅的に調べてみたいと思います。
低ホスファターゼ症の臨床症状
(出典)Clin Cases Miner Bone Metab. 2017 May-Aug;14(2):230-234. doi: 10.11138/ccmbm/2017.14.1.230.
まずは低ホスファターゼ症の臨床症状です。出典に忠実に作りましたが、高カルシウム尿症のあたりは症状ではないですが、そこから類推してくださいということでしょうか。高カルシウム血症もあるはずですが、高リン血症は記載があって、とりあえず全般的にでしょうか。
神経症状がなぜ生じるのかと一瞬つながらないような印象も受けましたが、発作(seizure)の補足部分に頭蓋縫合早期癒合症に関連する症状として、頭蓋内圧亢進を介して生じるという事で納得しやすく感じました。詳しくは病態生理編で調べたいと思います。
骨格系のくる病様は出典では「くる病」(rickets)と記載されており、くる病のような症状と捉えればよいでしょう。くる病や病的な骨折は石灰化障害によって生じることを想起することはしやすいでしょう。筋力低下も高カルシウム血症で説明がつきます。
関節(筋腱付着部症や軟骨石灰化)における異所性石灰化といっても、ピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶沈着症に関連するものと考えれば納得でしょう。偽痛風ももちろんCPPD結晶沈着によるものです。CPPD結晶沈着にも当てはまる無機ピロリン酸(PPi)による病態生理について詳しく調べたいと考えています。
腎臓の項目のこれらがclinical manifestationsなのかは微妙ですが、紹介状での検査異常のようなものまで含めれば、まあ良いでしょう(文献中ではclinical manifestationに入っています)。高リン血症(高P血症)は高カルシウム血症による副腎皮質ホルモン(PTH)の低下で繋げることができます。腎石灰化も高カルシウム尿症やCPPD結晶沈着による結石で説明できそうです。
歯科領域においても、乳歯の早期喪失や永久歯の早期喪失も骨と同じく想像しやすいでしょう。
2-2. 発症年齢別 -HPPの臨床症状-
さきほどの臨床症状では、年齢による区別がなく全般的な話であると感じました。同じ文献に発症年齢ごとの特徴もありましたので、チェックしてみたいと思います。
低ホスファターゼ症の発症年齢ごとの臨床症状
<成人>
- 成人型低ホスファターゼ症(HPP)の症状は多彩であり、典型的には中年以降に診断される。典型的には骨治癒の遅延や不完全な骨治癒を伴う骨粗鬆症によって繰り返すストレス骨折を原因とする疼痛が初発症状である。
- さらにHPPが進行すると、大腿骨の偽骨折が生じることもあり(might)、治癒に乏しく大腿部に激しい自発痛や圧痛を生じる。他にも骨折を伴わない骨痛、ミオパチーに関連する筋力や筋機能の低下、慢性の筋痛を訴えることもある(may)。
- 四肢の疼痛もHPPの徴候となりうる。
- ピロリン酸(PPi)カルシウム2水和物の沈着による軟骨石灰化症、靭帯の異所性石灰化や偽痛風発作が生じることもある。高リン血症や高カルシウム尿症も同様に生じうる(may)。
(出典)Clin Cases Miner Bone Metab. 2017 May-Aug;14(2):230-234. doi: 10.11138/ccmbm/2017.14.1.230.
2-1の低ホスファターゼ症(HPP)における臨床症状が発症年齢ごとになり、稀な疾患に気がつくヒントとなりやすくなりました。くる病様という部分は、出典では「くる病」(rickets)と記載されていましたが、先程と同じく、くる病のような症状と捉えればよいでしょう。また、重症度も早期(周産期)に発症するほうが高い傾向にあります。重症度が低いため、成人発症として小児科以外でも、特に青年や成人例では、筋・骨格系の問題として整形外科や、場合によっては脱力のような主訴で神経内科のようなところでもお目にかかるかもしれません。
スライドはあくまで発症年齢別の主な臨床症状ということでした。症状として出現しにくい腎臓関連(高カルシウム尿症、腎石灰化など)は見つかっていないだけであったり、健診や他の検査の際に高カルシウム血症・尿症といった検査値異常や腎石灰化・腎結石などの画像所見は見つかることもあると考えています。そして、早期発症ほど重症度が高いとも考えれば、発症年齢ごとでみられやすい臨床症状が異なってくることも理解できます。
2-3. 成人の場合の深掘り -HPPの臨床症状-
興味を持ったきっかけや成人症例での見逃しを防ぐことを含め、小児疾患の成人発症(成人型HPP)について深掘りしようと思います。成人の場合の症状等の定量的な数値からのヒントも見つかりました。
成人発症(成人型)HPPの臨床症状
- 対象: 診断時18歳以上の22名(女性68%)
- 診断時年齢: 中央値49歳
臨床症状等(診断時)
- 症候性患者: 68%
- 筋骨格系の疼痛: 41%
- 新規骨折(incident fracture): 18%
- 骨折の既往: 54%〔股関節/大腿骨頚部: 23%、足: 23%(女性のみ)、手首: 18%、脊椎: 9%(男性のみ)、多発骨折: 9%〕
(出典)Bone. 2013 May;54(1):21-7. doi: 10.1016/j.bone.2013.01.024.
成人発症の低ホスファターゼ症(成人型HPP)の場合の臨床症状になります。続編で、検査値(高カルシウム血症)について定量的な表現のある文献を探していた際に運よく見つけたものです。
1976~2008年にMayo ClinicでHPPと診断された症例のカルテ等の記録を調べたものになります。もともと稀な疾患でもあり、母数が少ないことが難点だとは思いますが、成人発症症例での参考になると思います。
症状を有する患者(症候性)は68%ということで、画像所見を含めた検査異常で見つかることもあるということを示唆しています。臨床症状としては、筋骨格系の疼痛や骨折でしょう。診断時の年齢の中央値が49歳であることを考えると、骨粗鬆症にしては相対的に若い年齢で骨折しているというのもヒントでしょう。
他にも、成人発症(成人型)ではなく成人患者の臨床症状もありました(先にこちらを見つけていたのでそのまま紹介します)。
低ホスファターゼ症の成人患者125名(45±14.3歳)の調査
- 小児期発症: 86%
臨床的特徴
- 疼痛: 患者の95%(骨: 82%、関節: 73%、筋: 53%)
- 筋力低下: 62%
- 歩行異常: 52%
過去の骨折回数
- 少なくとも1回以上: 患者の85%
- 6-10回: 22%
- 11回以上: 26%
その他
- 整形外科または歯科の外科的処置の既往: 74%
(出典)Metabolism. 2016 Oct;65(10):1522-30. doi: 10.1016/j.metabol.2016.07.006.
あくまで質問形式の調査であり、成人型(成人発症)ではなく、HPPの成人患者であるという点は、成人発症のHPPを考える際には注意が必要だと思います。それでも、疼痛(特に骨痛)や骨折の既往が多いと考えられます。また、先ほどの成人発症症例(成人HPP)と比べて、疼痛などの症状や骨折の既往などの割合が高いことを考えれば、成人よりも前に発症するほうが見つかりやすい、症状が出やすい・重症度が高いというようなことが考えられると思います。定量的な指標として想像しやすくするひとつとして取り上げさせてもらいました。
発症年齢別の臨床症状(2-2)をチェックすると、歩行異常であればまだしも、骨痛からの圧痛、筋力低下からのMMT程度では、身体診察で訴えを客観視はできても、特異性の乏しい面もありそうです。成人例の話ではスルーされがちなALP低値が案外キーワードでした。他にも気がつくきっかけや組合せとして検査値にも着目してみたいと思います。
3.低ホスファターゼ症の検査値
続編では、低ホスファターゼ症(HPP)の検査結果について取り上げていきたいと思います。続編、お待たせ致しました。よろしければ、下記リンクよりお進みください。
低ホスファターゼ症について調べ始めたところ、どんどんと書くことが増えて書き終えることができずに更新が滞ってしまいました。1回はおろか、途中で2回に分ける予定をしていた際の区切りである検査値までも触れる前に分割することになりました。申し訳ございませんが、気長に待っていただければ幸いです。
本日もお読みくださり、ありがとうございました。
ハリソン内科学にも疾患概念のゲシュタルトを簡単につくる程度の記載があったことに驚きました(e-chapter)。やはり、しっかりとした教科書は恐るべしだと感じました。

