低ALP血症|低ホスファターゼ症だけじゃない血清ALP低値の原因
~ALP上昇×アイソザイムに寄り道しながら~
<目次>
前回まで、成人型を含む低ホスファターゼ症の①臨床症状、②検査所見、鑑別疾患、③病態生理と3回に分けてブログにしてきました。その中でも②検査所見をチェックしていた際に血清ALP低値について触れる機会がありました。今回はその際の血清ALP低値を深掘りしていく記事になります。
1.血清ALPと言えば?
血清ALPというと、高値に着目することが多いといった印象です。具体的に検査値として血清ALPに着目してみたいと思います。まずは簡単にチェックします。
アルカリフォスファターゼ(ALP) alkaline phosphatase
- 基準値: 115-359 U/L(日本臨床化学会プロジェクト報告値)
- 高値: 急性・慢性肝疾患、胆道・膵疾患に伴う胆汁うっ滞、甲状腺機能亢進症、原発性骨疾患、転移性骨腫瘍、遺伝性高ALP血症など
- 低値: 遺伝性低ALP血症
(出典)エキスパートの臨床知による検査値ハンドブック 第2版, 中原一彦, 医学総合社
血清ALP高値となる原因は多く挙げられています。肝臓や胆道はもちろんのこと、骨疾患や骨代謝にも関わる疾患、腫瘍など多彩です。原因を絞り込むためにアイソザイムを考えたりする人もいると思います。
一方で、この本からは血清ALP低値を考える機会は相対的に少ないという解釈もできると考えています。血清ALP低値の原因に関してはあまり深く考えていないこともあると思います。しかし、血清ALP低値となる原因として、低ホスファターゼ症だけでなく、骨粗鬆症関連でステロイド、甲状腺機能低下症のような状態も容易に想像がつくわけです。
そこで、今回はこれを契機にALPのアイソザイムに寄り道しつつ、血清ALP低値について深掘りしてみたいと思います。
2.ALPのアイソザイム -寄り道-
血清ALP値の折にふれて、ALPのアイソザイムについて触れておきたいと思います。ALPのアイソザイムについて既にご存じの方も多いと思います。特に突拍子もないことに触れるわけでもございませんので、ご存じの方は次章へお進みください。ChatGPTのようなジェネラティブAIとの差別化のためにも、せっかくなので学びのきっかけ・キーワードに触れるためにもアイソザイムについてチェックしてみることにします。
ALPには5つのアイソザイムがあり、ALP1と2は胆管(肝臓)、ALP3は骨、ALP4は胎盤、ALP5は小腸で産生される。
- 血中半減期: 7日
アルカリホスファターゼ(ALP)上昇とメカニズム
(出典)検査値を読むトレーニング-ルーチン検査でここまでわかる
ALP1は胆管閉塞時に上昇し、ALP2は肝・胆道疾患時に上昇します。肝・胆道系に由来するALP上昇という、この辺りの原因は想起しやすい部分でしょう。
ALP3が骨芽細胞の活性化によりALPが上昇することは、今回のテーマとも結びつきの深い部分でしょう。成長期や骨折/癌の骨転移後の修復だけでなく、骨芽細胞の活性化を促す疾患として、副甲状腺機能亢進症やPaget病、骨軟化症も挙げられていました。ALP1やALP2と異なり、ALP3は骨に関連するものが原因であるという認識が鑑別に役立つと考えています。
ALP4は胎盤由来、ALP5は小腸由来ということも分かります。ALP4以降も知っておくと何か役立つ時もあるかもしれません。これを機会に意識の片隅にでも置いておいてもらえれば幸いです。
ALPのアイソザイムも鑑別の時に思い出してみてください。それでは、メインテーマの血清ALP低値(低下)について深掘りしていきたいと思います。
3.低ALP血症の原因
血清ALP低値として、低ALP血症(hypophosphatemia、低ホスファターゼ血症)の原因をチェックしてみたいと思います。低ALP血症=低ホスファターゼ症(Hypophosphatasia: HPP)とも限りません。遺伝性のHPPだけでなく、医原性などの様々な原因があります。
3-1. 血清ALP低値の原因
HPP以外のも多彩な原因のある低ALP血症(血清ALP低値)の原因を深掘りしていきます。
血清ALP低値の原因(鑑別疾患)
(出典)Osteoporos Int. 2014 Feb;25(2):519-23. doi: 10.1007/s00198-013-2447-x.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23912555/
列挙したものをざっーと目を通してみましょう。低ホスファターゼ症はもちろんのこと、鎖骨頭蓋形成不全症、Mseleni関節疾患のようなものもあります。
骨格系の疾患以外にも、多数あります。薬剤性クッシング症候群のような、ステロイドが原因になるようなもののように身近な原因もありますし、甲状腺機能低下症・クッシング症候群のような内分泌系の疾患・病態まであります。
甲状腺、ビタミンD中毒のような骨代謝に関係しそうな部分や、栄養素・微量元素問題のビタミンC欠乏症、亜鉛欠乏症、マグネシウム欠乏症、Wilson病のような納得できそうな部分もあります。セリアック病も消化吸収の面からつなげられそうです。
一方で、心臓バイパス手術、大量輸血のような医原性のもの、検査上のエラーというようなpitfallもありました。
3-2.【時間経過別】血清ALP低値の原因
さらに鑑別疾患から原因を絞り込むのに役立ちそうな時間経過による鑑別疾患の分類もありました。
低ALP血症の時間経過
(出典)Osteoporos Int. 2014 Feb;25(2):519-23. doi: 10.1007/s00198-013-2447-x.
あくまで持続的低下、一時的低下、急激な低下という分類から外れるものや、低ホスファターゼ症でも骨折が生じた際など、マスクされることもあるでしょう。
血清ALPの持続的低下は骨形成不全も生じるような骨の疾患が主であり、急激な低下は外因的なものが多くを占めています。
その中でも治療・対策可能なものは見逃さずに発見したいものです。そういう意味では、持続低下の中でも低ホスファターゼ症は治療(対策)可能であるという意味でも発見する意義も大きいでしょう。他にも栄養素・微量元素の欠乏や内分泌疾患に起因するもの、ステロイドのような薬剤性のものも、意識することで治療や対策が考えられるでしょう。
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いかがだったでしょうか。低ホスファターゼ症の臨床症状からはじまり、低ホスファターゼ症について①から③の3編で紹介させてただ来ました。そして、最後は低ALP血症へと話題を広げてみました。
血清ALPに関しても、これを機会にALPのアイソザイムについて知らない人で興味がある人は是非調べてみてください。鑑別にも役立つ知識であると思います。
本日もお読みくださいまして、ありがとうございました。
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