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低ホスファターゼ症②|検査所見、鑑別疾患 ~尿中PEAや血清ALPの感度・特異度まで深掘り~

低ホスファターゼ症②|検査所見、鑑別疾患

~尿中PEA血清ALP感度・特異度まで深掘り~

 

<目次>

【前編】低ホスファターゼ症①|臨床症状(成人型含む) ~意外な全身症状も!?~

 

 前回は低ホスファターゼ症(hypophosphatasia; HPP)の特徴や臨床症状についてのお話でした。意外にも感じられる特徴や臨床症状があるとも感じられた人もいたのではないでしょうか。

 続編として今回は、HPPの検査所見(検査値、検査異常)と鑑別疾患についてチェックしていきたいと思います。

 

 

3.低ホスファターゼ症の検査値

 低ホスファターゼ症(HPP)に気づくきっかけとなるような検査値もチェックしてみたいと思います。低ホスファターゼ症といえばALP活性低下が根底にあると想起する人もいると思いますが、血清ALP低値(低ALP血症)だけでなく、様々な検査値異常も見つかりました。

 まずは教科書レベル(ハリソン内科学)で確認してみます。

 

3-1. HPPの検査値(内科学書の概要)

 臨床的および放射線学的に、くる病様または骨軟化症が認められるにもかかわらず、臨床検査でALP値が低く、血清カルシウムおよびリンが正常値または高値となる。血清副甲状腺ホルモン(PTH)値、25-(OH)ビタミンD値、1,25-(OH)2ビタミンD値は正常である。

 PLPの上昇は本疾患に特異的であり、重症の患児の無症状の両親にも見られることがある。ビタミンB6はPLP値を上昇させるので、ビタミンB6のサプリメントは検査の1週間前に中止する必要がある。TNSALPをコードするALPL遺伝子内の機能喪失型変異を検出する臨床検査が可能である。

(出典)Harrison’s Principles of Internal Medicine 19th edition, 426e-5

 

 これまで、高カルシウム血症を前提に、PTH低値というようなこともつなげて考えていましたが、ハリソン内科学では少し異なった見解となっています。もちろん、血清カルシウム値が正常であれば、PTHはフィードバック的にも低値にはなりませんね。あくまで、臨床的もしくはX線写真の所見でくる病骨軟化症が疑われた経過の場合に血清カルシウム値が低値ではないと言いたいだけなのかもしれませんが、HPPにおける高カルシウム血症の頻度も気になるところです。

 ビタミンDはいずれも正常とのことです。一方で、PLPは特異的な検査ということで、先述のハリソン内科学での疾患の特徴や病態に関係する部分としても気になります。

 

 引き続き、検査値を深掘りしていきたいと思います。

 

 

3-2. 年齢別の臨床的特徴(検査値を含む)

 教科書より突っ込んで、Reviewも確認していきます。臨床症状もセットになっている表なので、前回の復習にもお使いください。

低ホスファターゼ症の臨床的特徴

  • TNSALP〔組織非特異的アルカリホスファターゼ(一般にアルカリホスファターゼまたはALP活性と呼ばれる)〕の酵素活性の低下は、HPPの重要なマーカーとなる。したがって、ALPの結果を年齢などの臨床的な文脈で解釈することが非常に重要である。
  • ALPは集中治療室や外傷・骨折の後などのストレス状態で上昇することがある。一方でALPの値が低いだけでは低ホスファターゼ症と診断することはできない。 

幼児期(late infancy)や小児期(childhood)

  • 高カルシウム血症、高リン血症、副甲状腺ホルモン(PTH)低値といった代謝異常は一般的だが、一過性のこともありうる。
  • 様々な症状から低リン酸血症であることが判明することがある。
  • X線写真では、骨塩量(骨密度)の低下、くる病と誤診される可能性のある骨幹部の膨隆、長管骨端、bowingを伴う骨やgracile骨の放射線透過領域を認める。

(出典)Curr Osteoporos Rep. 2016 Jun;14(3):95-105. doi: 10.1007/s11914-016-0309-0.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 ALP活性低下により、血清ALP低値となることが基本であるが、骨折を繰り返したりすることを考慮すれば、その際にはALPがその人・年齢のベースラインからは上昇することもあるということもピットフォールにあるかもしれませんね。ALP低値から気がつくことは比較的順当でも、ALPが低値でないときも臨床的な経過で総合的に判断して気がつく必要性が出てきますね。

 カルシウム血症、リン血症、カルシウム尿症、副甲状腺ホルモン(PTH)低値は先述の文献にも記載があり、目新しさはありません。一方で、ハリソン内科学とは少し異なる部分もあります。

 症状では小児期までの難聴(deafness)脳出血(intracranial hemorrhage)が先述の文献と比べて追加されています。さらに、筋緊張低下(hypotonia)、成人で疲労が加わったというような点はありますが、高カルシウム血症、筋力低下・パフォーマンス低下の延長でも理解できそうです。一方で、血清PLP高値尿中PEA高値は前述の文献の際には取り上げていない検査値です。特にピリドキサール-5’-リン酸(PLP)は神経障害に、無機ピロリン酸PPi)は腎臓や筋骨格系の石灰化といった病態生理にも関わっていることが分かっている物質です。

 

 骨のX線写真歯の早期喪失臨床写真もあるので、気になる方は出典をご覧ください。また、HPPには発症時期や症状から分けられる6つの臨床病型や診断基準などもあります。臨床病型では周産期重症型、周産期良性型、乳児型、小児型、成人型、歯限局型に分けられ、今回の文献から引用した部分の発症年齢による分類にも通ずるものがあります。興味のある方は是非調べてみてください。

 やはり、個人的にはReviewだけでは物足りなく感じます高カルシウム血症に関するハリソン内科学とReviewの記述の相違点も気になります。高カルシウム血症の頻度など、定量なものも探してみたくなります。

 

 

3-3. 高Ca血症などの検査異常の頻度

 ハリソン内科学では、高カルシウム血症(高Ca血症)ではなく、正常という描き方をされていました。一方で、先ほどの文献では高Ca血症との記載があります。考えられることとして、低ホスファターゼ症(HPP)が成人となるほど(発症が遅いほど)、重症度が低いために正常値に近くなることが多いということでしょうか。検査異常の頻度について調べてみたいと思います。

 

成人発症(成人型)ホスファターゼ症

<血液所見>

  • 血清ALP: 血清ALPの中央値は正常下限の43%
  • 高カルシウム血症: 13%
  • 高リン酸血症: 18%
  • 血清PLP: 中央値 68 μg/L (正常値 5–50 μg/L)であり、全員(n=8)で上昇を認めた
  • 尿中PEA: 15/16名(94%)で上昇

 

X線所見>

  • 軟骨石灰化症: 27%(女性のみ)
  • 痛風(CPPD): 12%(女性のみ)

(出典)Bone. 2013 May;54(1):21-7. doi: 10.1016/j.bone.2013.01.024.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 稀な疾患での母数は少ないことに留意は必要ですが、成人発症(成人型)低ホスファターゼ症における高カルシウム血症はわずか13%、高リン血症も18%ということで、正常の場合の方が多い結果となりました。高Ca血症よりは原因を絞りやすいと考えられる血清ALP低下X線所見をきっかけに低ホスファターゼ症や、くる病などを想起して、血清PLPや尿PEAといった検査値も診断の後押しになりそうです。もちろん、先述のハリソン内科学に記載のように低ホスファターゼ症らしければ、「TNSALPをコードするALPL遺伝子内の機能喪失型変異」をチェックするという方向性にもなるでしょう。

 このように、検査値異常頻度定量的に把握できてくると、血清PLP上昇や尿中PEA上昇は特異度が高そうな検査という印象を受けます。そこで、さらに検査特性について深掘りしてみたいと思います。

 

 

3-4.【深掘り】検査の感度・特異度

 先ほどの続きとして、血清PLP上昇尿中PEA上昇のような検査結果が低ホスファターゼ症の診断にどの程度寄与するのかというような視点で検査特性として、感度特異度を深掘りしてみたいと思います。

 

成人型低ホスファターゼ症における検査特性

<Method>

  • 後ろ向き研究
  • 低ホスファターゼ症(HPP)疑いで紹介された18歳以上の患者

<Result>

尿中PEA、血清ALP、血清PLPの結果(Fig.1)

尿中PEA、血清ALP、血清PLPのROC曲線(Fig.2)

  • 尿中PEA、血清ALP、血清PLPの曲線下面積(AUC)は、それぞれ0.968、0.927、0.781であった。
  • 尿中PEAは53.50 nmol/mgクレアチニン以上で100%の特異度(95%CI, 83.2%~100.0%)、88.4%(95%CI, 75.5~94.9%) の感度でHPPと診断された。
  • 血清ALPは30.5 U/L未満で100%の特異度(95%CI 82.4%~100.0%)、77.2 %の感度(95%CI 64.8~86.2 %)でHPPと診断された。
  • 血清PLPは、436 nmol/L以上で特異度100 %(95 % CI 81.6 %~100.0 %)、感度26.9 %(95 % CI 16.8~40.3 %)でHPPと診断された。

(出典)Bone. 2022 Oct;163:116504. doi: 10.1016/j.bone.2022.116504.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 今回の低ホスファターゼ症疑いで紹介された患者さんの研究です。母数は少ないですが、事前確率が比較的高い研究です。HPPと診断された人(n=59)とHPPとは診断されなかった人(n=19)の患者特性もよければ、出典をチェックしてみてください。

 尿中PEA上昇に関して、カットオフ値を53.50 nmol/mgとしなくても40 nmol/mgあたりでも、特異度がそれなりに高く(約90%)であるにもかかわらず、感度がとても高く100%に近く、AUCの面積も0.968であり、1に近く感度・特異度ともに高く、優秀です。もちろん、検査の陽性的中率を上げるために事前確率も大切ですが、二次スクリーニングのように使いやすいことも汲み取れます。

 血清ALP低下に関して、尿中PEAほどではないにしてもAUCの面積も0.927であり、それなりに1に近く、意外に優秀でした。血清ALP低下に関しては、HPP以外にも様々な原因があります。そもそも、ALPは身近な検査なので、HPP疑いかどうかに関わらず検査値をチェックすれば、陽性的中率も低くなります。それこそHPP疑いとして事前確率高い集団で考える必要があります。

 血清PLP上昇は想像していたよりも、AUCが0.5に近く、いまひとつな印象をうける検査でした。もちろん、いずれも母数が少ない研究から導かれた感度・特異度であるため、95%信頼区間のような幅を持った解釈も必要でしょう。

 

 この研究結果でも登場した尿中PEA血清PLP血清ALP病態生理にも関わっている物質です。長くなることが予想されるため、病態生理についても続編で深掘りしてみたいと思います。

 今回は、ここまで臨床症状や検査異常について調べてきたため、これを読んだことでHPPを想起することが増えると考えています。そのバイアスへの対策のためも含めて、HPPの鑑別疾患もチェックしておきたいと思います。




4.低ホスファターゼ症の鑑別疾患

 これまで、臨床症状や検査異常について調べてきました。ここまでくると学習バイアスのようなものが働いて、低ホスファターゼ症(HPP)真っ先に想起する場面が出てくると思います。くる病をはじめ、似たような表現となる疾患もあります。そこで、HPPの鑑別疾患Pivot and cluster)をチェックしてみたいと思います。

 

低ホスファターゼ症の鑑別疾患(年齢別)

(出典)Curr Osteoporos Rep. 2016 Jun;14(3):95-105. doi: 10.1007/s11914-016-0309-0.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 この分野に馴染みもないもので訳が合っているのかすら、少し不安です。多くの鑑別疾患骨格系(骨・軟骨)に何らかの異常を来す疾患です。Reviewの表からですが、年齢や状況の区分も本当はグラデーションのようであると思います。くる病骨形成不全症軟骨石灰化症のような想起しやすいものから、屈曲肢異形成症、Caffey病、後弯曲肢異形成、タナトフォリック骨異形成症、Forestier病のような疾患名を想起しにくものもあります。疾患名はさておき、骨格系(骨・軟骨)の形成不全石灰化異形成をきたすというような疾患を鑑別に挙げるというような視点には立ちやすいと感じます。

 一方で、白血病慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)といった疾患が骨格系以外からの想起ということでpitfallにならないように意識したいと感じました。大腿部痛のような骨痛を起源とするような疼痛の場合にも忘れないようにしたいものです。他にも鑑別疾患が、変形性関節症(OA)+偽痛風というコモンなものの組合せや、骨減少症/骨粗鬆症といった視点も、HPPに気がつくきっかけにもなりうる側面と事前確率への配慮も必要そうです。

 

 ここでの鑑別でも、これまでの様々な症状や検査値が役立ってきます。

 

 


5.低ホスファターゼ症の診断

 臨床症状や検査所見について取り上げ、鑑別疾患も挙げたところで診断についても確認しておきたいと思います。

 HPP は、血清ALP活性値が年齢別の正常値と比較して低下していることに加え、臨床症状および骨X線所見から診断可能である。確定診断のためにはTNSALPをコードするALPL遺伝子の解析が有用である。

(出典)低ホスファターゼ症診療ガイドライン, 2019年1月11日版

minds.jcqhc.or.jp

 

 正直なところ、ガイドラインといってもメジャーな疾患のガイドラインを想像して開くと、レポートのようなものに感じるかもしれません。あくまでClinical Question(CQを除いて、上記の診断に関する記載はもちろんのこと、一般的な疾患の特徴、臨床症状、検査所見に関してもハリソン内科学レベルの記載でした。そのため、今回深掘りしたという経緯もあります。

 ALP酵素補充療法をはじめとする治療や管理、予後に関するような記載が、CQも含めて多くあります。気になる方はガイドラインをチェックしてみてください。

 

 

 

6.低ホスファターゼ症の病態生理

 続編としてALP活性低下から石灰化障害や神経障害等が生じる病態生理について、先程キーワードとして出てきたPEAやPLP、それ以外にもPPiといったものも含めて深掘りしていきたいと思います。私自身の都合で完成まで時間がかかってしまうこともあり、いったんここまでで分割とさせていただきます。

 お待たせいたしました。よろしけれな、下記よりご覧ください。

mk-med.hatenablog.com

 

 

 本日もお読みくださり、ありがとうございました。

 

 

 

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前編(低ホスファターゼ症の特徴、臨床症状)

mk-med.hatenablog.com