"Med-Hobbyist" 医学の趣味人 アウトプット日記

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意識消失の鑑別|失神 vs. 痙攣 ~Historical Criteriaの深掘りと痙攣らしさ~

意識消失の鑑別

失神 vs. 痙攣 ~Historical Criteria 深掘り痙攣らしさ~

 

 

<目次>

 

 意識消失の患者さんと聞くと、「失神、痙攣、意識障害のどれ??」ってなることがあると思います。3つのうち、どれかによって鑑別疾患も異なれば検査も異なってきます。まずは、意識消失を分類してみたいと思います。

 

 意識障害一過性かどうかで大きく異なってくると思います。一過性でなければ、来院時も意識障害(診察中にも改善していかない意識障害)があるわけです。一方で、一過性意識消失であれば、来院時には意識障害がなく(もしくは診察中に意識障害がなくなっていく)と言えます。

 実際には失神であれば、来院時には意識障害はなく、痙攣であれば意識障害が徐々に良くなっていくようなイメージですかね。

 

 では、それぞれ意識障害と一過性意識障害についてまとめて行きたいと思います。



1.意識障害

 意識レベルが低下したままであれば意識障害と考えることが出来ます。意識障害の場合は、まずDo DON'T、次に疑わしい鑑別、最後にAIUEO-TIPSといったところでしょうか。

 Do DON’Tは知らない人もいるかと思いますので念のため紹介しておきます。DON'Tの頭文字から来ているネモニクスです。低血糖、低酸素、麻薬、ウェルニッケ脳症を念頭にしたものです。



2.一過性意識障害:失神、痙攣

 もし、意識消失を主訴にして来院したとしても来院時に意識障害がない場合は、失神(syncope)か痙攣(seizure)か分からなくなると思います。もちろん、失神か痙攣でその先の検査や鑑別疾患は異なってきます。

 例えば、失神か痙攣のいずれであるかを判断する際に、失神の方が意識消失時間が短いのですが、来院時に意識障害がなければ、どちらであるかははっきりしません。もはや、病歴(目撃情報が大切)、舌咬傷(側縁)の有無といった身体診察を元に考えていくしかないと思います。その際に、何となく失神っぽいとか痙攣っぽいとかだけでなく、どのような病歴や身体所見等があれば失神らしいのか、痙攣らしいのか調べてみました。

 

<失神と痙攣の鑑別>

 

失神

痙攣

顔色

青(顔面蒼白)

赤(怒責その後チアノーゼ)

冷汗

あり

なし

痙攣

意識消失後に数秒

いきなり数十秒以上

舌咬傷、泡

なし、あっても舌先端

あり、舌側縁

尿・便失禁

なし、時々尿失禁

あり

首、眼位

首は下がる、眼球上転

一方向に持続

誘因、状況

あり

なし(予兆はありうる)

直前の症状

動悸、嘔気、熱い感じなど

既視感、匂い・味など

意識消失時間

20秒以内、座位だと長い

長い、30秒以上

意識消失時のトーヌス

弛緩性、長時間では緊張

緊張、まれに弛緩性痙攣

回復

早い

ゆっくり、意識朦朧

回復後の症状

血管迷走神経失神では嘔気

意識障害、興奮

逆行性健忘

なし

あり

徐脈

迷走神経ではあり

なし、頻脈が多い

Todd麻痺

なし

ありうる

既往歴

なし、心血管系疾患

てんかん、アルコール、脳卒中

呼吸

保たれる

無呼吸その後頻呼吸、叫び声

怒責による点状出血

なし

ありうる

褥瘡

なし

ありうる

乳酸・アンモニア

正常

上昇

CK

正常

上昇

(出典)ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第2版

 

 上記が失神と痙攣の比較項目のようです。思ったより項目が多くてビックリしました。しかし、失神と痙攣を鑑別する際に、どのような症状や所見にどの程度の重みがあるのか(鑑別に重要か)について深掘りしてみたいと思います。

 

 

3.Historical Criteria(失神 vs. 痙攣)

 一過性意識消失(transient loss of consceiness)における失神と痙攣の見分け方にも臨床予測ツールがあり、Historical Criteriaというものがあることを知りました。Historical Criteriaについて深掘りしていきます。

 

Historical Criteria(失神 vs. 痙攣)

 

 上記のスコアの合計1点以上であれば、痙攣らしいとする臨床予測ルールです。

 (合計1点未満失神らしい)

 

 実際にどの程度の感度や特異度であるのか、各症状・所見等の尤度比も気になります。今回はこのHistorical Criteriaについて深掘りしてみます。

 

 “Historical criteria that distinguish syncope from seizures”というタイトルの通り、671名の一過性意識消失の患者(うち痙攣が102名、失神が437名)において118項目の病歴等に関する質問を元にしたです。

 まずは痙攣らしい項目(症状等)は下記の通りです。

f:id:mk-med:20210809175527j:plain

(出典)J Am Coll Cardiol. 2002 Jul 3;40(1):142-8. doi: 10.1016/s0735-1097(02)01940-x.

 

 思ったよりたくさんあるといったところでしょうか。ここから、陽性尤度比高いもの(痙攣らしいもの)と陽性尤度比が低いもの(失神らしいもの)を組合せて臨床予測ルールにしています。

 この文献内では痙攣の回数(number of spells)が30回を超えるかの有無で2パターンの臨床予測ルールを作りましたが、痙攣の回数という項目はなくても大差がないというよりむしろ回数の項目がない方が良いということでした(笑)。そこで痙攣の回数という項目はない臨床予測ルールになったようです。

 経緯はさておき、陽性尤度比を意識することで臨床予測ルールのチェック項目以外の項目も、失神か痙攣かを意識する際に役立つでしょう。

 

 では、実際の臨床予測ツール(Historical Criteria)の各項目の詳細と感度、特異度は次のようになります。

<Historical Criteria>

f:id:mk-med:20210809175605j:plain

 

Historical Criteriaの痙攣に対する感度・特異度

f:id:mk-med:20210809175619j:plain

  • 1点以上を痙攣とし、全体での診断の正確性が96%、感度が94%、特異度が96%であった。

(出典)J Am Coll Cardiol. 2002 Jul 3;40(1):142-8. doi: 10.1016/s0735-1097(02)01940-x.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 Historcial Criteriaのチェック項目は、舌咬傷(2点)異常運動: 昏迷・異常体位・四肢の痙攣様運動(1点)情動的ストレスを伴う意識消失(1点)発作後昏迷(1点)意識消失中に頭部が片方に引っ張られる(1点)既視感や未視感といった前駆症状(1点)前失神(-2点)長時間の立位や座位での意識消失(-2点)発作前の発汗(-2点)です。中にも目撃者がいないとチェックしずらい項目もあります。発作後昏迷、意識消失中に頭部が片方に引っ張られるというような目撃者がいないと分からない項目もありますが、それが分からないにしても本人の意識回復後や舌咬傷のような身体所見だけからでも、痙攣らしさを引っかけるために意識して使うこともできるでしょう。

 スコア1点カットオフとしたとき痙攣の感度94%、特異度96.3%とても高いものになっています。2点以上であれば、100%痙攣(実際には100%とは言えなくてもかなりの確率で痙攣)といえます。-1点や0点は感度は100%あたりで特異度も70-80%程度あるので、痙攣か失神か悩むことになりそうです。また、痙攣を引っかけるという視点では、感度が100%に近い「Historcial Criteria 0点以上」も良い指標になりまそうです。

 

 

【補足】痙攣回数等を入れたら!?

 先述のHistorical Criteriaですが、先ほどから取り上げている論文を読んでいくと、意外なことが分かります。痙攣回数をチェック項目から外したりした方が、診断特性が良くなるという結果でした。痙攣回数も入れて考えていた際のものが下記となります。

 

  • 0点以上で痙攣とし、全体での診断の正確性は86.3%、痙攣に対する感度は96%、特異度は84%であった。

(出典)J Am Coll Cardiol. 2002 Jul 3;40(1):142-8. doi: 10.1016/s0735-1097(02)01940-x.

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 チェック項目は、ストレスに伴う意識消失意識消失中に頭が片方に引っ張られる、痙攣回数(>30回)意識消失中の反応の有無意識消失前の発汗前失神長時間の立位または座位に伴う意識消失になります。

 先ほどの、Historical Criteriaとして採用された項目と比較すると、尤度比が最も高かった舌咬傷が項目にないだけでなく、異常行動、発作後昏迷が項目にないことや、「意識消失中に頭部が片方に引っ張られる」が2点であったり、発作前の発汗が-1点、長時間の立位や座位での意識消失が-3点、痙攣らしいとするカットオフの合計点が0点以上というようにスコアリングも異なります。

 痙攣を引っかける視点での感度だけでなく、診断の正確さ、特異度も含めて、診断特性も先ほどのHistorical Criteriaとして知られているものよりも悪くなります。痙攣をひっかける視点だけでも少し微妙になりました。

 さすがに舌咬傷は視認できるような気もしますが、舌咬傷のような身体所見がチェック項目になく、目撃者や患者本人の問診だけで測れるというようなメリットがあるかもしれません。一方で、痙攣回数という手間や意識消失中の反応の有無といった目撃者の必要性といった部分で、Historical Criteriaよりもチェックしにくいかもしれない点はデメリットかもしれません。

 

 

4.最後に

 失神痙攣かで行う検査なども異なってくるため、どちらか迷ったときには臨床予測ルールを使って、スコアリングしてみることも有用だと感じました。もちろん想起のきっかけにはなりますが、100%白黒がつくものではないことや、チェック項目以外にもそれらしさがあるということも忘れないことが必要でしょう。

 失神であると分かれば、臨床予測ルール(CPR)としてはSan Francisico Syncope Rule"CHESS"をチェックする、OESIL Risk ScoreCanadican Syncope Risk Scoreをチェックするというようなことになると思います。これらのCPRの統計的な調査の対象等は気になるところ・掘り下げてみたいところがあります。

 そして、各自の環境での適応具合も気になるところです。

 

 本日もお読みくださりありがとうございました。

 

 

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【関連記事】

 失神の臨床予測ルールについてもブログ記事を書きました。よろしければ、こちらをご覧ください。

mk-med.hatenablog.com